シナリオ詳細
女の敵を駆逐せよ
オープニング
●男の欲望
俺は結婚する。
相手は若くて金のある女で、性格も大人しい。御しやすい女だ。
ちょっと甘い言葉を囁けば、すぐに甘えてくるような容易い女。
色々な女と付き合ったが、他の女と同時に付き合っている事にも気付かない、鈍さが非常に気に入っている。
俺も容姿には自信があった。背は低いが、端整な顔立ちに美しい金色の髪、アイスブルーの瞳。
女受けするのは当然だ。
今回、結婚によって束縛されるのではないかと不安も多少はあったが、何のことはない。
――金が無くなれば別れれば良いだけだしな
女から貢がれた宝石を眺めながら、俺はほくそ笑んだ。
●女の嫉妬は恐ろしい
男、『蛍火』ソルト・ラブクラフト(p3n000022)は、目の前で繰り広げられている暴言の数々に辟易した様子でため息をついた。
「お父様、あの女が私から彼を奪ったのです!あの女をなんとか辱めてやらなければ私の気がすみませんわ!!」
着飾ったど派手なドレスに見合うだけの豪奢な宝石をつけた厚化粧の若い女が、壮年の男性に掴みかかる勢いでまくし立てている。
「しかし、なぁ……」
「お父様!!」
女の勢いに引き気味の父親は、助けを求めるようにソルトへと視線をやった。
この父親貴族は、矮小な貴族ではあるものの、かといって悪徳の限りを尽くしているかと言えば、そうではなかった。
善政を布いているとは言いがたいが、それでも目立ったトラブルは今の所起きていない。
それ以上に、この男にはそんな大きなトラブルを起こせるほどの気合いもなければ、勇気もないのだから。
(面倒な娘なのだよ)
老若男女、見目麗しい者からゴツい男まで、基本的に何でもいけるソルトではあるが、しかしながらそれはあくまで、内面にこそ好感を持つ、という前提の話であり、こういう苛烈な性格をした女は苦手である。
嫌うとまではいかないが、出来れば関わりたくないタイプと言えよう。
ただし、それは他者へ向けられている気持ちに限る話であり、自身に向けられている執着なのであれば、そんな苛烈な所も愛せるのだけれど。
ソルトの性嗜好は置いておいて。
娘の話を要約すると、付き合っていた男が、他の女に乗換えたあげく、その女と結婚するというのだ。
相手の女は名門の貴族であり、この目の前の女よりも少し若く、スタイルも良いらしい。
プライドの高そうなこの娘にとっては、自身よりも優れている所のある、その相手の女が相当に気に入らないらしかった。
男が、何故乗換えたのかは分かりかねるところだが、遺恨を残さず別れるべきだったのではないかと、ソルトも、そしてこの父親も思っていた。
男にも問題はあると思うのだが、恋する女というのは恐ろしく、怒りの矛先は相手の女にのみ向いているようだった。
ソルトとのこの貴族の男は召喚されてからの古い付き合いである。
お腹を空かして行倒れていたところを、助けて貰った恩が実はあり、その娘であるこの女にも同情するくらいの感情は持ち合わせていた。
自身では娘の説得ができないと踏んだ男は、こうしてソルトを呼び出した訳なのだが、結局二人ともただおろおろするばかりであった。
仕舞いには泣き出してしまった女を見下ろしながら、二人は肩を落とし深いため息をつく。
(あ、我だけじゃ無理。これもう他の奴に協力を頼もう)
一応は何か考えてみたものの、何の案も浮かばなかったソルトは、ローレット所属のイレギュラーズに頼ることにしたのだった。
●依頼内容
「と言うわけでだ」
ローレットに集められたメンバーはその話を呆れた様子で聞いていた。
「何故、そこで黙るのだよ。これも立派な依頼ぞ。少々、戦闘には関係の無い依頼だが、貴族の依頼だからな、そこそこの賃金が約束されているのだよ」
――いや、でも、ねぇ。
言葉には出さないが、そこに居るメンバーの意見は殆ど同じだった。
依頼内容は、幸せそうな結婚式を木っ端微塵にぶちこわす事、その一点だった。
結婚会場の地図と、結婚する新郎新婦の情報がみっちりと書かれた紙が、メンバーに配られる。
新郎の名前はアレン。27歳。貧乏貴族の出身だが、容姿端麗。唯一の悩みは背が低いこと。
新婦の名前はジェシカ。名門貴族の次女。19歳。容姿は綺麗でスレンダーな体型をしている。背は一応、アレンよりは低いが、ヒールを履いてしまうと逆転する。
式の日取りは今から一週間後。
「基本的にNG事項はないが、さすがに殺害は駄目なのだよ。あくまで結婚式をぶちこわして欲しいだけなのでな。当日の結婚式をぶちこわす為に、事前に色々と罠を仕掛けたりするなどやり方は任せるのだよ。ハニートラップも問題ないが、体は大事にした方が良いだろう。一応補足しておくと、この貴族の男はあんまり良い噂は聞かん。といっても、別に隠れて人身売買をしているとか、そんなビックな話は何もない。女癖が悪いとか、若い女に貢がせているとか、そんな感じなのだよ。相手の女も何でこんな男を選んだのか疑問なのだが、まぁ容姿だろうなぁ……」
正直な所、そんな男であれば、その女にのしつけてくれてやれば良いと思うメンバーだったが、依頼人の親子はもうそんな細かい事は気にしていないのだろう。
依頼はえり好みしない、と決めていても、何となく躊躇する内容ではあるが、受けた以上はやるしかない。
「ちなみに、依頼人の娘は自身で乗り込むこともやぶさかではないとのことだ。何か協力して欲しい事があれば言えば援助するとのことだった。まぁ、そう大げさに考えるな。ちょっとトラブルを起こしてやればいいのだよ。うん?お前に説得できなかったのかって?うん、無理だったな。何しろ泣くし叫ぶし暴れるし、手がつけられぬ。怒った女は父親も我も止められなかった。まぁ、我も微力ながら手伝うのだよ。と言う事でよろしく!」
今日も街は平和である。
- 女の敵を駆逐せよ完了
- GM名ましゅまろさん
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年04月01日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●怒りMAX
「複数の女性の心を弄び利用するだなんて、なんて見事なヒモっぷりでしょう。いえ、相手の了承を得ていない以上、ヒモ以下の人間の屑と断罪せずにはいられません」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が、美しい顔に似合わない毒を吐いた。
彼女が訪れているのは、宝石商の居る店だ。
依頼人に調査を希望する旨を伝えた所、男は快くこの宝石商を探し出してくれた。
どうやら、以前から件の屑男が贔屓にしている店らしい。
宝石商は、最初こそ個人情報だと言って、幻の言葉に色よい返事は返さなかったのだが、彼女の静かな怒りに気圧される形で、自身にトラブルが降りかからないのであれば、という限定条件付きで、屑男の情報を教えてくれた。
その後、風俗街に彼女が足を踏み入れる事となったが、そちらはあまり震わなかった。
どうもプロの風俗嬢たちは、男が口先だけであることはお見通しだったらしく、話を聞いて、ああやっぱりね、と苦笑いをするものの、男を本気で好きになっているわけではない様子だった。
幻は、同じ依頼を受けている仲間である、『贄の呼聲』西條 友重(p3p001835)、『桜火旋風』六車・焔珠(p3p002320)と合流した。
「そちらは何か分かりましたか?」
幻の言葉に友重が苦い顔で頷く。
「依頼主の協力で、男の交友関係を洗ってみました。埃が出すぎて、わたくしは少し引いています。かなりの数とどうやら関係を持っているのは確実ですが、どうもお金が第一優先のようで、普通の村娘などは歯牙にもかけないようですね。交際されていた方の名前などを入手しましたし、必要があれば彼女たちにすべて話してしまおうかと思っています」
依頼の相談の段階で、その話は何度か出ていた。
結婚式を挙げる相手の女性の事が少し心配ではあったもの、当事者たちの声の方がリアリティがあるのは事実だからだ。
「私、早速言ってみようと思っているの」
焔珠がそっと手を上げる。
(落とし前はつけなければね)
同じ女として、男に対して嫌悪感を持つのは当然の心理だった。
「もし、彼女たちが結婚する事を知らないのであれば、きっと怒ると思うけれど、知らないままよりは絶対良いはずよ」
「わたくしも協力します」
焔珠の言葉に友重が進み出る。
「あと、私は夜は一応酒場でアレンの結婚の噂をばらまくつもりよ」
「良いアイディアだと思います」
「わたくしもそう思います」
3人の意志は固く、全力で男を潰す気だった。
女を敵に回したことを、あの男の絶対後悔させてやるのだ。
●情報収集
『応報の翼』ミニュイ・ラ・シュエット(p3p002537)は、既に行動に移していた。
屑男が立ち入りそうな場所、男が関係があるような女性が居る場所に訪れ、男が結婚する噂を流す。
男の相手は、金のある上流貴族は多かった物の、商人の娘や、かなりの売れっ子である歌姫なども少数居る事が、事前の調査で判明している。
「ふざけないで!!」
少し高級な酒場で、派手な身なりの女性が金切り声をあげた。
ミニュイが結婚の話をすると、最初は笑って聞いていた女の顔が、険しいものに変わり、ついには爆発した。
飲んでいたワイングラスを壁に叩き付けると、派手な音と共にグラスが木っ端微塵になった。
「文句の一つ二つぐらい言える場は用意するよ」
しばらく怒りで暴れた女だったが、ミニュイがそう言うと、強気な眼差しで力強く頷いた。
『ジェリクル』シャルロッタ・ブレンドレル(p3p002596)は、ソルトと共に直接関係者に取材に来ていた。
男の普段の行いを調査すると、まぁ出るわ出るわ、埃ばかりだ。
恋愛関係じゃなくても、男に恨みがある相手もかなりの数が居た。
弄ばれた女も居れば、恋人を男に取られた男も居て、取材時は大混乱を極めた。
集めた男の悪口を文字に書き起こすシャルロッタの横で、彼女の希望でソルトがギフトを使って挿絵を描く。
(楽しくない、絵、だ)
ソルトの眉間には深い皺が刻まれている。
「おじさん、よろしくなのだ」
シャルロッタの言葉に、その皺は更に深くなった。
『石柱の魔女』オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)もまた、自身で得ていた情報から参列者を特定し、彼女たちに聞き込みを行っていた。
見も知らないオーガストに最初は訝しげな視線を送る被害者たちだったが、言葉巧みなオーガストに対する警戒は、案外あっけなく溶けた。
現状の屑男の話と、知りうる限りの被害者の話をすると、相手の顔は最初は戸惑いと衝撃、泣きそうな顔になったり、実際泣いてしまった気弱な女性も居たが、半数以上は怒りで綺麗な顔を引きつらせていた。
その中でも、男のかなりの額を貢いでいたある一人の女性の怒りは激しかった。
「貢いで愛した男が貴方を捨て、他の女性と結婚。更にはその女性さえ餌としか見なしていない」
悔しくないか、悲しくないかと続けるオーガストの言葉に、女は怒りで身体を震わせていた。
「結婚式を引っかき回してやりましょう。是非とも貴方に協力していただきたいです。」
演技がかった少し大げさな熱弁ではあったが、女も屑男の行動に思うところがあったのだろう、思い出したかのように、悔しそうに力強くテーブルを叩いた。
「わたくしだけだと言っていたのは、嘘だったという事ね。わたくしにあれだけ貢がせておいて……!」
(私からすれば他人事ですし、人の生き方なんて自由ですから本来ならばどうこう言える立場ではありませんけれど、ね)
あくまでオーガストは仕事としてこの依頼を見ている。無論、屑男に好意も抱いてはいないが、比較的参加メンバーの中では冷静な方である。
「わたくし、協力するわ!」
オーガストは、その言葉に内心でため息をつきつつも、にっこりと頷いた。
『星目指し墜ちる鳥』ヨダカ=アドリ(p3p004604)は、依頼主の娘と対峙していた。
調査で分かった内容を依頼主の娘に伝えた所、その表情は話が進むにつれどんどん険しくなっていった。
「祝を送る詩人として、貴女を?」
娘の言葉にヨダカが頷く。
式を内側から壊すための策略だ。
「式を壊しましょう。聡明で心優しい貴女ならお客様まで壊すなんてなさらないでしょう?」
彼女の怒りを煽りつつも、参列者に被害が行かないよう、ヨダカは言葉を重ねた。
それに、嫉妬で狂う女には思うところはあるものの、元を正せば悪いのは屑男であり、この娘を責める気にもなれなかった。それは酷だ。
「貴女が憎む花嫁。結婚周りを下調べして見ようと思います……如何です?」
王子様っぽく跪いて娘の手を取ると、娘は戸惑いながらも悪い気はしなかったのだろう、少し悩んだ後静かに頷いた。
「ただ真実は幾つも可能性が御座います事、御了承下さいね」
娘が傷つかぬよう、ヨダカ配慮すれば、娘は少しだけ頬を染めた。
『冥灯』モルテ・カロン・アンフェール(p3p004870)は、目の前でさめざめと泣く女にほとほと困り果てていた。
最近没落した貴族の家を依頼主に調べて貰った所、莫大な財産は持っていなかったものの、それでも平民よりは裕福だった貴族の家が、少し前に傾いたらしい。
娘は早くに両親を亡くしており、経済的に裕福とは言えなかったので、家政婦を二人だけ雇っていたのだが、男に出会い、なけなしの財産を貢いでしまったらしく、現在は自身の屋敷も売り払い、街の小さなアパートメントに住んでいた。
質素な衣装に身を包んだ女は、貴族には見えなかった者の、その仕草はどこか上流階級の名残があった。
男が結婚しようとしていること、そして、自分と仲間がその結婚式を邪魔しようとしていることを伝える、と女はその場で泣きだしてしまった。
花嫁にヘイトがいかぬよう、男の悪行を説明したが、女は性格的に大人しいのだろう、ただ泣いているだけだった。
だが、男を当日一緒に殴りに行かないか、と一生懸命に彼女を慰めた(?)モルテに、女は少しだけ心を開き、最後には小さく頷いたのだった。
●決行前夜
「ヨダカ様と、ソルト様は?」
「街で二人で噂話をしていたのを見た」
集めた情報を、酒場で纏めているメンバーの中に、ヨダカとソルトが居なかったのを疑問に思った幻の言葉に、モルテが短く答えた。
出来る限り話を大きくするために、目立つ二人で一緒に行動しているらしい。
「まだ集合時間まで時間がありますしね。……あ、当日ですが、わたくしは隠れて花嫁の護衛兼花婿の監視・逃亡阻止役をやろうと思うのですが。花嫁はあくまでも被害者ですから、騒ぎになる後半にその矛先がいかぬようにしませんと……」
「私も護衛するわ。移動し易い位置の中で花嫁さんに出来るだけ近い席に座ろうと思うのだけれど」
「良いと思います」
友重の言葉に焔珠も立候補する。
「刃傷沙汰に発展しないかどうかが懸案事項かも。式場にはナイフとかフォークとか有りそうだし。痴情のもつれから、「あなたを殺して私も死ぬ」とか「この泥棒猫」とかいうのはよく聞くよ。……フィクションで、だけど」
「うちもそれは読んだ事ある」
ミニュイの言葉に、シャルロッタがとニャハッハと笑う。
だが、今回の依頼については、もしかするとその言葉が現実に聞ける可能性があった。
いよいよ、式は明日である。
●バッドウエディング
式当日。
参列客に混じり、9人は式場の中に居た。
警備はザルであり、どうも特に招待状も必須ではないらしい。
貴族の結婚式は派手で、誰かに感心を持って貰えれば良いのだろう。
参列客を見渡すと、名のある貴族が多数居た。
その中にはメンバーがこの日のために集めた女たちも居たが、彼女たちも馬鹿ではないのだろう、出来る限り目立たない場所で参列をしていた。
70人ほど居るのだから紛れるのは容易い。
シャルロッタは式のご馳走に期待していた様だが、あくまで式のため、料理はなかった。
それに少しだけシャルロッタは残念そうにした。
(ま、結婚式をぶっ壊すだけなら楽なもんなのだ。細かい事は気にせず盛大にやるのだよニャッハッハ!)
ニヤリ、とシャルロッタは笑う。
式が始まり、花嫁と花婿が神父の前に歩み出る。
花嫁は美しく、新郎である男も、さすがに容姿だけは一級品であった。
端から見ると美男美女であり、お似合いと言えるだろう。
ミニュイは周囲の状態をささっと確認しながら、ほっとした様子で息を吐く。
(刃物類は無さそうだ)
参列客が興味深そうに見守る中、式は始まった。
進行自体は恙なく行われていった。
式場に潜むかつての女どもにも、男は気付いた様子はなく、誓いの言葉を言う段階になり、すっとヨダカが前に歩み出た。
依頼主の娘は、後ろの方の席で、じっと新郎新婦を睨んでいた。
話が通されていたため、神父はヨダカを受け入れ、詩人としてヨダカが挨拶をし、詩を朗読する。
「ほぉ」
屑男がヨダカの言葉に満足そうに微笑んだ。
ヨダカの思惑など、男には想像など付かなかったのだろう。
さしあたって問題のないヨダカの祝辞を聞きながら、傍らの新婦を抱き寄せる。
そして、終盤にさしかかった頃、ヨダカの声音が変化した。
「さて……私よりお預かりしました言葉達を贈らせて頂きます」
ヨダカが合図すると、隅に居たソルトが頷く。
語られたのは、男の悪行の数々だ。
男が今まで貢がせた宝石や援助の金、どんな女に手を出し、周囲の知人に彼女たちのことをなんと言っていたのか。
「と言うわけなのだよ……っ」
淡々と説明したソルトは、そのままそそくさと逃げるように隅へ逃げた。
逃げた理由は、その周囲の雰囲気だった。
しんと静まり返った後、それまで大人しく隠れるようにしていた、屑男が遊んで捨てた女共が、一斉に男へと群がった。
友重が慌てて新婦を引っ張り、男から引きはがす。
焔珠が庇うように前に出ながら、男へと冷たく視線を送った。
「ふざけないで! あれだけ貢がせておきながら、そんな女と結婚!? 馬鹿にしてんじゃないわよ!!」
「貴女なんてまだマシよ! わたくしなんて、恋人と別れてまでこの男に尽くしたのに!!」
屑男に掴みかかる勢いで、女たちはドレスを翻す。
「や、やめないか、君たち! ってなんで此処にいるんだ!」
居るはずのない遊び相手だった女たちの登場に、男はその勢いに後ずさり、助けを求めるように周囲を見るが、参列客はこの光景に唖然とした様子で誰も助ける気配はない。
「その子達、みんな好きなの?」
焔珠は、そんな女たちを煽るように続けた。
「この子はどんな所が好き?あの子は?」
「そ、それは!」
「貴方、私を可愛いと言ったじゃない!」
「何言ってるの、わたくしにも綺麗だって言ってくださったわ!」
ぎゃあぎゃあ、と女たちはわめき立てる。
容姿を褒められた、性格を褒められた、センスが良いと褒められた、など、互いに褒められた事を語る。
「貢ぎ物ガ無くナッタ時点でぽい。こいつは、ソウイウやつダ。」
そんな流れを断ち切るように、事前に被害女性に書いて貰った恨み言を、モルテが音読すると、静まりかえっていた会場が蠢いた。
ひそひそと囁き声が聞こえる。
「証拠もないのに、こんな事をしてタダで済むと思っているのか!」
女どもを何とかかき分けながら、男が吠える。
だが、それを遮るように幻が、自身のギフトで具現化した絵をばらまいた。
そこには男がしでかした内容が鮮明に描かれている。
「貴女方の心のこもった贈り物は売られてしまっていたのです!」
それを拾い上げた参列客の女性が、顔を不快そうに顰めた。
貴族とはいえ、暗黙のルールはあり、男はそれに不適合だったのだろう。
騒いでいる女たちも、自身たちが貢いだ事を思いだしたのだろう、その言葉に表情を硬くさせ、次の瞬間頭を沸騰させたように怒鳴る。
「貴方の目的はお金だったの!?」
「ち、違う……!」
男の言い訳も、女たちは聞こうとはしない。
「見てください。こんなにもお嬢様と同じ境遇の方が。これがいかにアレンさんが極悪人かの、何よりの証拠です。きっとお金も沢山もっているのでしょうね」
オーガストの言葉に、様子を見て依頼主の娘が眦を吊り上げて、屑男の前に躍り出た。
近くにいる新婦へもギロリと睨み付ける事は忘れないが、怒りの矛先は新婦から屑男へと移ったらしい。
「さてお嬢様、如何なさいましょう」
ヨダカがにっこりと、依頼主の娘へと微笑んだのを切っ掛けにして。
今までそれでも品性ある女性として、精一杯の理性で抑えていたその怒りを女たちは男へとぶつけた。
男の髪を掴み地面へと引き倒し、ヒールで踏みつける。
「や、やめ、ぐぅ……!」
顔には爪で引っかかれた傷が痛々しく生まれ、男の悲鳴が教会に響き渡る。
男を殴る中には、モルテが説得した大人しい女性も居た。
大人しそうに見えても、やっぱり女性は強かった。
依頼主の娘の怒りは特に激しく、端から見ていて、もうボッコボコにしていた。
どこにそんな力があったのかは不明だが、その迫力はとんでもなく。
護衛にあたっていたオーガストは、苦く引きつった笑いを浮かべた。
(護衛なくても、良かったかも……?)
もはや、ここまで来たら結末を眺めるだけだ。
会場のボルテージはマックスであり、この珍事に参列客は失笑の後、大爆笑していた。
「……ちゃんと落とし前をつけないとね!」
焔珠は満面の笑みでこの光景を見て言う。
(う、わ)
ミニュイも戸惑った様子でその光景を見ていた。
刀傷沙汰になりそうであれば、当然阻むつもりであったのだが、戦った事など無いような女性たちの渾身のパンチやキックは、痛そうではあったものの、生死に関わるようなものでは無さそうだった。
「絵に描いたような愛憎劇だね。読み物として触れる分にはともかく、現実に関わるとなると気疲れする……」
恋愛感情にピンと来ないミニュイにとっては、目の前のこの惨劇はちょっと対応に苦慮する。
自身より年上の女性たちのこの言動に戸惑いもあり、遠い目をしながら、苦笑いをするけれど、止めなくても良いか、と思いその光景を静観する事に決めた。
そして、その光景に呆然とする新婦に、友重がそっと新婦の手を取り微笑んだ。
「わたくしがこのような事を申し上げるのは心苦しいですが、どうか今度は、良い殿方を見つけられます様に」
その言葉に新婦は顔を引きつらせつつ、少し沈黙した後、その場所でぱたりと倒れた。
どうやら気を失ったらしい。
「お、おい」
慌てた様子でモルテが新婦を支える。
頬を優しくぺちぺちと叩いてみるが、新婦は目を覚まさなかった。
「ドウスル……?」
困惑気なモルテに、シャルロッタがニャハハと笑った。
「100年の恋も冷めたのだろうな!」
その言葉に、全員がボコられている男へと視線をやった。
誰もそれを止めようとはしないのは、男の普段の行いからもあるだろうが、今の会場の心はきっと一つだ。
――女は恐ろしい
と。
当然の話だが、男の結婚は破談になった。
そして、密かにシャルロッタの手によって書き上げられていた叙事詩とソルトの絵は、何の因果か国中に広まっており、ある意味では男の指名手配の様な状態になってしまっており、しばらくその件で貴族界隈が賑わったらしい。
勿論、不名誉な理由だ。
「だって、折角書いたし」とはシャルロッタの言であるが、貴族社会で生きたい男には大打撃となっただろう。
男のその後は誰も知らないが、噂では女はもうこりごりだと言って、どこかへ逃げ出したらしい。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした(`・ω・´)b
無事に男はふるぼっこにされ、女性はすっきりしました!
次はいい男に巡り会えると良いな!
ありがとうございました。
GMコメント
●目的
結婚式をぶちこわす事
手段は問いませんが、物理的にフェードアウトさせる事、つまり殺害は駄目です。
結婚式会場は誰でも入れる普通の会場です。
参列客が70人ほど居ます。
一週間の準備期間(?)があります。
事前にターゲットにコンタクトを取るのもありですし、混乱に乗じて当日引っかき回しても自由です。
貴族はコネクションを持っている為、調べることが具体的であれば、有益な情報となる可能性があります。
●男について
非の打ち所の無いクズです。
叩けば埃がぽこぽこ出ます。
●新婦について
大人しい性格の女性です。
美しい顔に騙されているだけで、彼女は普通の女性です。
●NPC
ソルト・ラブクラフトが同行しますが、おまけです。
よろしくお願いします。
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