シナリオ詳細
祝祭の村
オープニング
●終わることなき祝祭
「さあ、皆さん! 思う存分楽しんでいってください」
あははは……
うふふふ……
花の冠と白い装束をまとった男が言う。
ここは、魂を祝うというルッテル村。
極彩色の花が咲き誇り、春の陽気がいつまでも続くという。
美しい乙女たちが輪になって踊り、幸せを歌う。
いつまでも、いつまでもそれは永久とさえいえる時間が続いていく。
「ずっと終わらない永遠の楽園。それがここ、ルッテル村です。踊って歌って笑って、そして苦しいことを忘れて過ごしましょう」
「はい、村長様!」
「わかりました、村長様!」
娘たちは、村長と呼ぶ男に笑顔で従う。
教祖は、満足げに頷いた。
どこか狂気を思わせる笑みを浮かべて。
「さあ、この幸せに感謝して、皆さんの生命を捧げましょう。永遠に幸せが続くように」
村長が、娘たちを連れて巨大な石碑の前に現れる。
黒光りしており、材質は不明だがなにか呪文が刻まれていた。
生命を捧げるという不穏な言葉を聞いても、彼女たちは嫌がりもせず笑顔のままだ。
その身を、言われるままに石碑の前に投げ出した。
するとその石碑から機械的な音がして、細い腕のようなものが伸びる。
娘たちの腕、首筋に針のようなものを差し込むと血を啜るような音がした。
それに合わせて、花が咲いていく。
笑っていた――。
誰ひとりとして、苦痛を訴える者はいない。
こうして祝祭は続く、永遠に。
●祝祭の村に迎え
「お願いがあります!」
依頼人は小さな妖精であった。
背に薄い翅が生えた、妖精伝承に登場するような。
そんな妖精の依頼は、ルッテル村という村に向かった乙女たちの救出である。
そこは、苦しいことや悲しいことを永遠に忘れられるという祝祭の村。
しかし、その村に咲く花は人を多幸感に導くものの考える力を奪っていくという。
ルッテル村の村長は、この村に誘い込んだ娘たちを言いなりにさせているらしい。
もっとも、村長自身も花によって思考能力を奪われているのかもしれない。
「あそこに“幸せの花”が咲くようになったのは、あの石碑が置かれてからだと思うんですけど」
その石碑というのが元凶のようだ。
娘たちの血を養分に変換し、花を育てていると思われる。
黒い材質で、錬金術の仕掛けが施されている。
石碑を破壊すれば、娘たちを開放できるかもしれない。
「つらいこと、苦しいことはあるけれど、戻ってきてほしいんです……。みんな、友達だから」
妖精は、悲しそうに言う。
友達が友達でなくなるのも、つらく苦しいことだ。
苦痛を感じなくなれば、幸せなのだろうか?
- 祝祭の村完了
- GM名解谷アキラ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年03月20日 22時35分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●終わらぬ祝祭
その村は、深緑の奥地にあるという。
平穏に見える世界の中でも、さまざまな軋轢や悲劇がある。
悲しみ、苦しみ、そういったものから逃れ、忘れられるとしたら?
ルッテル村というその村では、極彩色の花々が咲き乱れ、幸せを祝う祝祭が続いているという。
「……とても奇妙な案件ですね」
「ろくでもないことは確かだと思うけど。黒幕を捕まえるまではいかなくても何か情報を得られるように頑張りたいな」
「中々キツい話ね……一種の寄生植物かしら」
このルッテル村に潜入して調査しようというのは、4人のイレギュラーズだ。
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)。
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。
『かつての隠者』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)。
そして『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350) (よみ:せいろん るふな)である。
「村長は外部から村に娘たちを誘い込んでるらしいし、それを装って紛れることになるね。……ん? 娘?」
「そう、娘たちなのよルフナくん」
「ま、待って!? ドラマさん! それどういう意味なの」
「娘になったほうが、ばれないという意味よ」
「ちゃんと用意してるんでしょ、ドラマさん」
アルメリアもスティアも、その意味をすばやく理解した。
「はい、ばれないようにね」
「う、うう……」
いまだ少年の面持ちと体格のルフナであれば、女装してもそう簡単にはばれない。
差し出されたメイドを服をまとえば、きっと似合う。
ともに潜入する3人の娘たちの期待の視線が刺さる。
これは依頼を果たすためだと言い聞かせて、ルフナは葛藤を克己して物陰の隅っこで着替えた。
「ほら、似合ってますよ。く、くく……」
「かわいい! これならばっちりどこからどう見ても娘だわ」
「潜入するためなんだから我慢してね」
女装も似合っている、服を通してわりとぴったり着られてしまうことが悔しく感じてしまう。
「うぅ……見ないで。見ないでったら!」
恥ずかしい。しかし、そういう仕草がより3人を喜ばせてしまう。
ともかく、これで4人の(とひとりの男の)娘となった。
妖精の案内で、ルッテル村までやってくる。
森を抜けると、楽しげな娘たちの笑い声が聞こえてきた。
あはははははは……
うふふふふふふ……
陽気な日差しに包まれた村の光景も見えてきた。
赤、青、黄、紫、橙。目に痛いほどの花々の色彩が飛び込む。
「おや、そちらの娘さんたちも幸せの祝祭に入りに来たのですか?」
真っ白な貫頭衣と花冠をした髭面の男が一団に気づいて話しかけてきた。
彼のそばには、同じような格好をした娘たちが侍る。
皆、何の苦痛も不幸のなさそうな、屈託のない笑顔のままだ。
客人たちを見ながら、くすくす笑い、何やら囁き合っている。
特に、ルフナに興味津々のようだ。
気になる、とても気になって気もそぞろなルフナであった。
「とても幸せなお祭りが行われているとの話を聞いて、ファルカウの方から来ました!」
「この村がそうなのですか」
ドラマとアルメリアが村長に害意のない娘を装って訊ねる。
すると、村長はそのとおりと心から肯定する表情で頷いた。
「そのとおりです! このルッテル村では、あらゆる苦痛と悲しみ、悩みから解き放たれて、人生と恵みに感謝する祭りを祝うのです!」
「は、はあ……」
村長の、屈託のなさ過ぎる笑顔にスティアも引き気味だ。
裏表すらなさそうなのが、返って反応に困る。
これは、この村のせいなのかスティアのギフトのせいなのかはまだ判断に迷うところ。
「ささ、どうぞどうぞ」
村長と娘たちの案内で、4人は村の中に引き入れられた。
周囲の娘たちは、手拍子を叩きながら陽気に歌う。
一緒に歌うよう、皆に雰囲気で促している。
この楽しい様子をぶち壊しにしないためには、一緒に歌うしかない。
幸せを求めてきたのだから、せめてそのふりをしなければとなんとなく歌った。
軽いステップまで踏んでやってきたのは、広場に置かれた長テーブルである。
その上には、数々の料理が並んでいる。
気になるのは、飾りつけにはカラフルな花が飾られていることだ。
「お客人たちには、ルッテル村の味を堪能していただきませんと。そうすれば、この村の一員です。ああ、その花びらはちゃんと食べられます」
村長と娘たちは、そう言って食べてみせる。
本当に美味しそうである。
さあ、次は客人の番だよと促すような表情だ。
「い、いただきます」
歓迎の証だろうが、食べて大丈夫かは大きな疑問であった。
ルフナもたじろいでいたが、自然会話によって多少気分は良くなるが正気と知性を失うほどではないことを理解し、仲間たちに伝える。
『僕たちを食べて食べて!』
植物疎通を持つアルメリアには、そんな花たちのイメージが伝わってきた。食べにくいが、これも依頼を果たすためだ。
一口頬張ると、ふんわりと美味しい。
もっと食べたい、幸せを噛み締めたいという気分になる。
しかし、ここは我慢しなければならない。
石碑の調査と偵察版に伝えるという手筈があるのだ。
「食事が終わりましたら、石碑の前で祝いの踊りを踊りましょう」
村長は、にこやかにそう告げた。
目的の石碑に近づくことになるのだ。
●一方の偵察班
「誰かが設置した石碑……血を使った錬金術……? 錬金術と言ったら……キメラ……?」
待機している間、『妖精郷の門の門番』サイズ(p3p000319)はそのような思考を巡らしていた。
考えると、さまざまな可能性を想像してしまう。
「キメラだったら魔種案件? だとしたら放置できないな。妖精の血をも吸い始めそうだし」
呟いて、妖精の大きさに変化する。
これがサイズのギフトであった。
「血を吸って多幸感を振り撒く石碑かぁ。気持ち悪いねぇ」
これに『QZ』クィニー・ザルファー(p3p001779)も頷く。
「やっぱ幸せってのは人との繋がりの中で生み出すもんだよ、うんうん」
もし、何らかの作用で苦痛や不幸を感じないのだとしたら、それは幸せなのだろうかという命題はある。
ルッテル村の様子を外部から探り、石碑を破壊する機会を待つ。
さいわい、QZには飛行の技能がある。上空から俯瞰すれば、村の様子がわかる。
さっそく、四人の潜入版が食事を終えて村の丘にある石碑に集まろうとしている。
祝祭が始まるようだ。
ルッテル村での儀式は、終わることなき祝祭であるという。
これが文字通りの意味だとしたら、一日中続くのかもしれない。
事前の取り決めでは、内部から2時間合図がなかったら、偵察班が突入する手筈だ。
まだ時間がある、配置を偵察班の四人に伝えねばならない。
「しかし、煎じて医薬にする類のものではないようですね」
『小夜啼鴴』ステラ・グランディネ(p3p007220)は花を手に取りながら分析する。
動植物が派手な色を獲得するには、二通りある。
みずからが危険であると示す警戒色。
もうひとつは見つけてもらうための誘導だ。
この花もそうなのだろうか?
ともかく、呼吸を必要としないステラは花粉を吸わないよう息を止めている。
精神に作用することはないだろう。
「当たり前の感情を奪っておいて、その上で犠牲を強いて、何事も無く笑い続けて――それの何が幸せですか!」
『大いなりし乙女』ミィ・アンミニィ(p3p008009)はこの村のあり方に怒りを感じていた。
苦痛を和らげるのではなく、感じなくしているのだと直感する。
巨人の血を引く巨躯の乙女は、その偽りに憤った。
その元凶は、村にあるという石碑だろう。
ちょうど、QZからの報告でルッテル村の状況を伝え聞いた。
合図があればいつでも破壊できるよう、偵察班も行動を開始する。
妖精の大きさとなったサイズが、木々を飛び交いながら、後続の三人を先導する。
例の石碑を囲み、踊る花冠の娘たちの中には、潜入班の四人がいた。
「……まさか、四人も幸せになっちゃったとか?」
「いや、それはありません。彼女たちは正常です。疑われないようにしているのでしょう」
QZの心配に、ステラが答える。
医師であるステラのギフトMRIは、20秒も見続ければ対象の体調を把握できるのだ。
「ほんの少し、楽しくなっているだけです。行動に支障はないでしょう」
「なら、いいんだけど……」
ミィも心配になってきた。
3メートルもの大きな体を丸めるようにして隠れる。
村の精霊たちと意思疎通を図るが、道案内はしてくれたものの、彼らも花の影響なのか喜びの感情が伝わるばかりで要領を得ない反応が返ってくるのみである。
村の花の影響を、潜入組の仲間たちがどれほど受けているのだろうか? そう思うと不安がよぎる。
「まだ時間じゃないし、合図を待たないとね」
QZがミィの気持ちを和らげるように言った。
彼女たち(彼もいるが)なら、一日の間なら問題なく耐えるはずだ。
ドラマ、アルメリア、ルフナ、スティアは祝祭の輪の中に入って、かれこれ二時間ほど経過しようかというところ。
村人たちは、石碑から離れる様子はない。
終わらぬ祝祭とは、文字通りの意味であったのだ。
QZは判断した、合図の星夜ボンバーを打ち上げる。
祝祭の終わりを告げる轟音と星のきらめきであった。
●石碑を破壊せよ
「な、なんだ……!?」
鳴り響く轟音ときらめき。
突然のことに、村長も困惑している。
ドラマたちも合図とともに、手筈通りに動く。
村長と娘たちの無力化を図る。
「ごめんなさいね。少しの間だから」
アルメリアが魔法陣からマーシーポールを呼び出して、娘たちにぶつける。
衝撃は受けるが、命に関わるような大きな怪我はしない。
ドラマも、握撃によって首近くの部分を掴んで娘たちの気力を奪った。
「あんまり手荒な真似はしたくないけど……仕方ないよね」
スティラも、娘たちには気絶してもらうことにした。
「あ、あなたちは、私たちを騙したのですね? 私たちの幸せを壊すために」
笑っているような、それでいて泣いているような表情で村長はイレギュラーズたちをなじった。
しかし、その一方で石碑が正体を表した。
がしゃり、がしゃり、と金属の多数の腕が展開される。
その腕が、血を求めてうごめいた。
まるでひっくり返した甲虫の類のようである。
「正気になれば、妙な物体に血を取られて死ぬよりはマシだと思うでしょうね」
石碑破壊のためにやってきたステラが、その異様さを見ながら言った。
「はやく、どいてください!」
まだ踊ろうとする村娘たちを、ミィは手を払って場から追い払う。
アームは、素早く動いて先端部でイレギュラーズを攻撃する。
「キミがほしいのは、これだろう?」
大きさを戻したサイズが、大鎌を構えた。
これは正確ではない、構えた大鎌こそがサイズの本体である。
血をまとった大鎌の本体は、この石碑が吸血行動をするなら絶好の獲物のはず。
アームを受け払いながらしのぎ、石碑の脆い部分を分析する。
複数あるアームの付け根は自在に動かす関節構造ゆえに破壊は容易い。
根本に大鎌をこじ入れ、テコの原理で破壊した。
「この村のお花ごと、凍るといいわ」
スティラが終焉の花を咲かせる。
氷の花弁がきらめいて陽光の中に舞い、散っていく。
凍りつきながらも、スティアに数本のアームが向かった。
アームの鋭い先端部は、容赦なくスティアの肌を斬り裂いた。痛みは薄い。思考力に影響はないが、苦痛を感じなくなりつつある。
「すぐに回復しませんと。痛覚が鈍っていますから、自分の負傷に気づけない危険があります」
ステラが、すぐに前衛の治療にあたる。
ルフナも天使の歌を歌い、負傷者の治癒してやった。
QZも歩み出て、アームの攻撃を剣で受け流し、魔法の衝撃波を石碑にぶつけた。
ガンッ! と鈍い音が響いて、ぴしりと亀裂が入る。
その亀裂の入った部分に、ミィが巨拳を叩き込んだ。
「一体何者が、何の目的で立てたモノかは分かりませんが……破壊させて頂きます!」
ドラマは石碑に向かい、全力の蒼月剣で一閃した。
広がった亀裂に沿って、今度は斬撃を加えたのである。
さらにアルメイアのアースハンマーが叩く。
「壊します、絶対に!」
強い決意とともに、ミィがレジストクラッシュによってさらにぶっ叩いた。
耐えられなかったのか、石碑は崩れ落ちた。
アームももがくように動いていたが、もう止まった。
●祭りの終わり
「ああ、石碑が……」
それまで留められていた悲しみと苦しみ――。
一気に解放されたのか、村長を深い絶望が襲う。
「正常な心の働きは、悲しみと苦しみを吐露することで保たれます。それを感じずに得られた幸福感は、いずれ大きな歪みを生みますから」
ステラは村長たちに説明する。
花の影響からも、そのうち回復するはずだ。
「できるなら、ある程度刈っておきたいです」
「そうですね。日を使うと風下に影響が出そうですから」
ミィとステラの判断で、花は刈り取られた。
それも手間がかかる作業である。
「村長、あの石碑は一体なんなんよ?」
「わからない、この地に来た時には置いてあった。花の中に石碑があって、やがれ血を捧げることが喜びに変わって、それで……」
奇妙な話である。QZも首を傾げた。
この石碑は分析する必要があろう。
手分けして回収し、イレギュラーズたちは悲しみを思い出した娘と村長たちとルッテル村を引き上げる。
もう祝祭は終わったのだ。
ごとり――。
石碑の欠片が、動いた気がした。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ルッテル村のいつまでも続く祭りは終わりました。
祭りの後には寂しい、でもよかったのかもしれません。
幸せって難しいな、なんてことを思いながら執筆したわけです。
お疲れさまでした、またよろしくお願いします。
石碑の正体は、いずれ明らかになるかも?
GMコメント
■このシナリオについて
皆様こんちは、解谷アキラです。
深緑にある祝祭続くルッテル村に向かい、娘たちを救出するために謎の石碑を破壊するというシナリオとなります。
・妖精
今回の依頼人です。ルッテル村まで案内してくれます。おかげで迷うことはありません。
敵対的なことはしません。妖精郷からやってきて友達がたくさんできたそうです。
30センチくらいで翅があり、飛んでます。
戦闘には巻き込まれません。
・ルッテル村
幸せの花に魅入られた村長と娘たち十数人が暮らしてます。
みんな笑顔で、つらいこと悲しいこと苦しいことは忘れ去っていますが思考力は失っています。
説得は難しいですが、怪我させずに無力化するのは難しいことではありません。
・幸せの花
村一面に咲き誇っている花々です。
特殊な花粉で人々を幸せな気持ちにさせます。
1日くらいなら、正気を保っていられますが長引くとイレギュラーズも村人同じになります。
何らかの対処があると耐えられるかもしれません。
・石碑
錬金術でできているものと思われます。
生贄の血液を養分に変換し、幸せの花を栽培しています。
誰が何の目的で置いたものかは判明しませんが、この石碑の破壊がシナリオでの目的です。
ただし、金属製のアームがあり、これで応戦してきます。
射程は不明です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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