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シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>島亀討伐戦本隊(但し一旦食べられる)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あの亀は今
「おー、あれが例の『島亀』か」
「中央の火山の正体はフジツボだって?」
 先達ての『絶望の青』調査の折り、イレギュラーズ達の活躍で島に擬態した"超巨大海亀型狂王種"が発見された。
 島に擬態した甲羅上だけでも、南北約1.5km・東西約1kmという規格外の大きさの狂王種だ。ただその習性は、『島に擬態し待ち伏せ、上陸する者があれば海へ潜り溺れさせようとする』だけで、肝心の潜水速度は物凄くゆっくりという残念なもので。
 報告を受けたローレットと海洋王国は、差し当たり上陸さえしなければ脅威たり得ないことから、船乗り達へ周知し警戒を促すに留めていた。
『絶望の青』後半の海の足がかりになりうる島『アクエリア』への物資輸送船団が、件の島亀のそばを通りがかった。船員たちが物珍しく眺めていると、航海士が首を捻る。
「報告の場所から随分離れた所にいるわね」
「島じゃなくて亀だもんよ。たまには動くんじゃねぇの?」
「それはそうだけど、気にならない? 元の居場所よりずっとアクエリアに近い場所にいるのよ?」
「偶然だろ」
 船団は島亀を大きく迂回し、改めてアクエリアへ向け舵をきる。しかし、
「……おい。島亀、ついて来てねぇか?」
 物資を満載した船団の航行速度はお世辞にも速いとは言えない。それでも前進はしているのに、思うように島亀が遠ざからないのだ。
「やっぱり島亀はアクエリアを目指して移動しているんだわ! ……それともまさか、この船団を追ってきているの?」
 航海士が青ざめたその時だ。
 島中央の火山がにわかに振動したかと思うと、盛大に噴火した! ――否、正確には島亀の背にある巨大フジツボが、火口めく上部の穴から数十本もの蔓脚を一斉に伸ばしたのだ!
 巨大フジツボの長大な蔓脚は、ざわざわと自らの殻を降り、麓の密林の木をなぎ倒しながら船団のいる方角へ伸びてくる。
「全船全速前進、重い荷から海へ放れ! あんなモン叩きつけられたら一発で沈むぞ!」
 船団長の号令で船団は島亀を引き離しにかかる。
 幸い島亀自体の速度が遅く、フジツボの蔓脚も島の外縁部より少しはみ出る程度の長さであったため、船団は難を逃れた。しかし、アクエリアへ運ぶはずだった物資の大半が波間に消えてしまったのだった。

●奇策
 輸送船団の報告を受け、ローレットに依頼が舞い込んだ。
 ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はことのあらましを語り終えると、神妙な顔でイレギュラーズ達を見回す。
「ざんねんな狂王種だった島亀が、どうして船を襲うようになったのか……アクエリア近海にあらわれる狂王種には、魔種の影響を強く受けたり、魔種に従う個体もいるそうです。もしかしたら島亀も魔種の影響で凶暴化したのかもしれません。
 あいかわらず動きが遅かったりとざんねんさは健在ですが、船を襲うなら倒さなければならないのです」
 とは言え相手は規格外の巨大亀。島を背負っている背面は勿論、海中から仕掛けても厚い甲羅に阻まれ、ダメージを与えるのは困難だろう。イレギュラーズ達が顔を見合わせていると、ユリーカはまがおで言った。

「はい。なので皆さんには一度、島亀に食べられていただくのです。
 外から仕掛けてだめなら、お腹の中から仕掛ける作戦なのです!」

●いざ胃の中へ
 島亀討伐本隊を乗せた船団と、火山めくフジツボ陽動部隊を乗せた船団は、島亀を発見するとその南北へ分かれた。南の砂浜付近につけた陽動船団の砲が一斉に火を吹くと、それに釣られたフジツボが一斉に蔓脚を南へ伸ばした。
 その間に頭部である北側へ接近した本隊旗艦から、人がくぐれる程の巨大な鋼鉄筒と餌を用いた仕掛けが海中へ投下された。するとすぐに大きな引きがあった。
「全船、一斉に引けーッ!」
 号令と共に本隊4隻が総出で綱を引くと、括っていた鋼鉄筒を咥え深々と飲み込んだ島亀の巨大な頭部が、海上へ姿を現した!
「今ですよ、イレギュラーさん方! 離脱の援助は任せてください、お気をつけて!」
 お気をつけてって言われても。イレギュラーズ達は亀が咥えた鋼鉄筒を恐る恐るくぐり抜け、一人ずつ順番に亀の体内へ。長い筒を潜り抜けると、ローレットから支給された特別製ランタンを灯す。
 そこには異様な半月状の空間が広がっていた。
 暗い。臭い。足許は胃液がうっすらと溜まり、そこらじゅうに島亀が飲み込んだらしい海獣の遺骸や木片などが散乱していた。周囲を囲む赤黒い粘膜を見て、イレギュラーズ達は頷きあう。
「これなら攻撃は通りそうだね」
 しかし、頭上からぽたりと落ちてきた胃液が皮膚に付着すると、灼けるような痛みが走った。
「……消化されるのが早いか、倒し切るのが早いか……時間との勝負よ」
 イレギュラーズ達は覚悟を決め、それぞれの得物を握り直した。

GMコメント

鮎川と申します。食べられて倒す一寸法師スタイルでの戦闘です。
ノーマル依頼ですが離脱のタイミングを誤ると大惨事に繋がります。
倒し切ることも大事ですが、全員で亀の胃内から生還することが第一です。
いのちをだいじに。ご縁がありましたらよろしくお願いいたします。

●目的
島亀の胃の中に潜入し、島亀を討伐してください
同日公開のシナリオ『<バーティング・サインポスト>島亀討伐戦フジツボ陽動部隊(同GM)』と
同時進行で行われる作戦です。同時参加はご遠慮ください

●ロケーション
島亀の食道~胃の内です
・胃は概ね半月状の空間で、行動可能な広さは長辺約100m、天井(誤)までの高さは約15m程
 深く踏み入りすぎると離脱のタイミングが読みづらくなり危険です
・胃の入口~食道~口までは、潜ってきた鋼鉄製の筒がぶっすり通っています
・暗いですが、ローレットより1人1つ特別なコーティングをしたランタンが支給されます
 胃液がかかっても消えることはなく、半径10m程度を不足なく照らしてくれます
・海獣の遺骸や、船の残骸と思しき木片など様々なものが点在。足場にすることも可能

【!本シナリオ特別ルール!】
攻撃を受けることはありませんが、消化液によるダメージがあります
『全員が行動し終える毎に、固定ダメージ【250】が課されます』
回避無効、防御値による減算はなく一律固定ダメージです
行動不能に陥ると離脱できなくなりますので、
全員『必ず』プレイング冒頭に、体内から離脱するタイミングをご記入ください
例)【離】パンドラ回復後、残体力が600を切ったら
  【離】パンドラ回復後、行動不能に陥るまで戦う 等
行動不能まで戦いたい場合は、連れ帰ってもらえるよう必ず仲間の協力を取り付けてください
(離脱の際は鋼鉄筒を潜って戻れば、船員が船へ引き揚げてくれます)

●同行船団
海種で構成された4隻の島亀討伐本隊船団
イレギュラーズ達が体内にいる間、亀の口が海中に沈まないよう全力で引っ張っています
離脱の際には可能な限り助力しますが、上記の状態のため砲撃などによる援護はできません

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <バーティング・サインポスト>島亀討伐戦本隊(但し一旦食べられる)完了
  • GM名鮎川 渓
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月22日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)
光の槍
レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)
希うアザラシ
寒櫻院・史之(p3p002233)
若木
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
アイゼルネ(p3p007580)
黒紫夢想

リプレイ


 食料とする獲物を解体する際に、"傷つけてはいけない"とされている臓器がいくつかある。
 それら臓器の内容物が肉に付着すると、臭くて食えなくなってしまうためだ。膀胱は言うに及ばず、苦い胆汁の詰まった胆嚢、そして腸や胃袋などが挙げられる。

 そう――つまり生物の胃の中というのは、概ね臭いものなのである。

「っああ~、堪んないっすねこの臭い!」
 『薬の魔女の後継者』ジル・チタニイット(p3p000943)はぺたんこのお腹をさすさす。あんまりな臭いに、先程飲んだ紅き翼を授けるドリンクが逆流してしまいそうだ。『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)も口許を手で押さえボヤく。
「わざわざ島亀の体内に入って倒そうなんて考えたの誰だよ、海洋軍? サイコーな頭してるじゃん……うぇぷ」
 船酔いに悪臭酔いが追加され気分は最悪。今度はそんなルフナの背をさすさすしながら、
「この臭い、ブレイクフィアーで取れないもんっすかねー」
 ジルはダメ元でアンチョコに魔力を込めてみるも、こればっかりはどうにもならないらしい。すこぶる気力を削ぐ悪臭だが、集中力や正気を損なうほどではないので(だからこそ余計にキツいわけだが)耐えるか慣れるしかないようだ。
 もしかしたらこの亀さん食べられるかな、とわくわくしていた『暗躍する義賊さん』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)も、あんまりな臭いにとても食べる気になれずへちょっと狐耳を垂れた。けれど胃の中という非日常空間にいることを思い出し、元気よく尾をふりふり。
「亀さんには悪いですけれど、内側から巨大生物をぼこぼこにするってちょっとした冒険で楽しそうですっ!」
「島亀の体内に入るなんて、滅多にない機会だし……。お仕事とかじゃなければもっと良かったのだけど」
 『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)も前向きに捉えていたが、『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)がけろりと言った。
「わーい、亀に飲まれるの二回目ー。生体ダンジョンってなんかいいよね」
「?」
「あとじつは大蛇体内へ特攻したこともある」
「??」
「それもこれもすべてはイザベラ女王陛下のため!」
 陛下への恋心で瞳をきらっきらさせつつトンデモ体験を告白する史之の横で、『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)は柔和な面差しを曇らせて言う。
「私も巨大亀の中に入るのは、これで二度目ですが。……やはり、気分が悪いものですね」
(……滅多にないこともない、のかな……)
 まさか経験者がふたりもいるとは。表情を変えぬまま小さく驚くアイゼルネだったが、実は経験者は他にもいたりして。無事に生還していて本当に何よりだが、この亀からうまく脱出できるかどうかはこの後の行動にかかっている。
 暗視持ちのルフナは、ランタンを鉄鋼筒外側の返し針に引っ掛けた。万が一の際の目印になることを期待して。
「うぷ……じゃー行こっか」
 そうして、悪臭と闇と湿気と他様々な不快感渦巻く胃内の探索が始まった。



 辺りは"散らかりよう"だ。赤黒い粘膜に覆われただだっ広い空間の中、流木や鯨の死骸、海藻の塊などがてんでに散らばっていて、まっすぐ進むことすらままならない。
 それらに指先の炎を近づけ、観察しながら進んでいた『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は、溜息混じりに帆船の残骸を見上げた。状態からして沈没船だったようだが、ほぼ丸呑みにされている。
「この生物を本格的に戦闘用に改造したら如何程の物になるのか……考えただけで楽しそうだが、この巨体の維持コストだけで実用は難しそうかね……。勿体ないが、倒すよりなさそうだ」
 服従させ利用することができるなら、『絶望の青』攻略に大いに役立ちそうではある。けれどいかんせんざんねんな狂王種なのだった。
 アシカかアザラシのような海獣の亡骸を見つけ、レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)はわずかに眉を顰めた。次いで胃の上部を仰ぐ。
(今頃上で保護者さんも頑張ってるっきゅ、僕も全力で頑張るっきゅよ! 保護者さんが廃滅病にかからないようなるべく早く終わらせたいし……負けられない戦いっきゅ!)
「レーさん島亀を討伐するまで脱出しないっきゅ。一旦脱出することになったって、島亀を倒すまでは再突入して頑張るっきゅ!」
 レーゲンの不退転の覚悟に呼応したかのように、レーゲンを抱え飛ぶグリュックの腕に僅かに力が篭った。
 一行は柔い粘膜相手だからとやたらに攻撃を開始せず、ハイセンス持ちの鶫やレーゲンが先導する形で奥へ進んでいく。撤退時のことを考えればあまり奥へ進むのは得策でないように思うが、一行は早期討伐を目指し作戦を立て、それを可能にし得るだけの備えをしてきていた。
 鶫は研ぎ澄ませた五感に加え暗視・温度視覚を駆使し、島亀の弱点を探り当てるべく慎重に進む。
「普通の亀と同じ構造ならば、肺は直上、心臓は真下付近にある筈ですが……」
 足許から伝わるかすかな振動と温度から確信を得る。
「どうやら島亀も同じようです」
「あ、ここ尖った木片あるから気をつけて」
 史之はポケットから白いハンカチを取り出しては残留物に結びつけ、ジルは傷をつけながら進む。どちらも離脱時の目印にするためだ。
「こんなにあれこれ食って、胃もたれ起こさないんすかね……」
「胃も相当強靭なんでしょうね」
 頷くルルイエは、暗視にエコーロケーションを併用して器用に木片の上を伝い歩き、足元の胃液を避けて歩く。それでも頭上から垂れてくる雫がじわじわとダメージを与えてくるが、飛行するルフナが対抗して天使の歌を降らせて癒やす。

 やがてレーゲンと鶫は揃って歩みを止めた。
「血の流れる音が大きくなってきたっきゅ!」
「温度視覚でも、この辺り一帯の足許が今までよりも赤く見えます。恐らく心臓はこの辺りの下に、肺は頭上に」
 アナザーアナライズを使用したラルフは思わず苦笑を漏らす。
「文字通り"この辺り"の下というわけだね、心臓自体もやはり巨大だ。お陰で狙い易くはあるが」
 ジルは携帯式双眼鏡『閃緑の目』を覗き、頭上の透視を試みる。
「んー。胃が分厚くて肺までは見透せないっすけど、手前に太い血管がいくつも走ってるみたいっす。肺狙いで攻撃するとなると、血の雨どころか滝を浴びながら戦うことになりそうっすね」
「それならやっぱり狙うは心臓っきゅ」
 レーゲンは胃液の水面へ近寄せてもらうと、鼓動が一際大きく聞こえる場所を探し耳を澄ます。臭いが一層強く感じられたが、そんなことには構っていられないと懸命に。
「……この下で間違いないっきゅ!」


 目を凝らしていたレーゲンは何かに納得したように頷くと、ヒレの先に魔力の刃を現した。刃はさながらチェンソーのように回転し始め、荒々しい風切り音とともに肉の壁を抉り斬る! 一見派手な攻撃だが出血は少ない。これが後に影響してくることとなる。
 ラルフはリボルバー『アウトレイジΩ』を用い錬金術を構築していく。錬金術師の彼が銃口より放つのは、鉛玉ではなく一条の光線。反物質粒子の光線は粘膜を突き破り、分厚い胃壁を深く抉った。
 ところが次の瞬間、胃の中全体が揺さぶられるような大きな揺れに見舞われた。巨大で愚鈍な亀もようやく体内の異変や痛みに気付いたらしい。内側からはわからないが、身を捩るか何かし始めたようだ。
 この衝撃で乗っていた板が砕け、ルルリエは慌てて別の板に飛び移る。
「こ、これはなかなか激しいですねっ。でもルルにお任せですよ! ルルのスキルはとてもお役に立てるのではと思います!」
 頼もしい笑みを閃かせ、かつていた世界の迷宮より発掘した魔銃を構えた。彼女の小さな手の中で漆黒の銃身が煌めく。
「踊れ踊れ……風に惑え――!」
 暴風の名を持つ銃より放たれた魔弾は、逆巻く風を纏い傷跡へ。するとたちどころに暴れていた亀が落ち着いてきた。魔弾が纏う風は被弾したものを夢現の狭間に誘い、その動きを鈍らせるのだ。
「これは……助かる。狙いがブレずに済みそう。……こんな巨体でも、麻痺や呪縛が通じるのなら――」
 アイゼルネは素早くナイフを取り出し投擲した。暗がりの中、ナイフは銀の弧を描き血の滲み始めた傷口へ刺さる。こんな巨体に小さなナイフで、と侮るなかれ。ナイフには独自に調合した劇薬が塗り込められているのだ。ナイフが突き立った箇所を中心に、周辺の粘膜がじわりと闇色へ変色していく。
 その様子を見たアイゼルネ、小さくほっと息をつく。
「あんまり大物狙うような事なかったから、ちょっと力不足だけど……毒が効くようで良かった」
 そんな謙遜を口にしたが、これがとんでもないことだった。ジルと史之は思わずにんまり。
「そういうことなら僕も得意っすよ。ルフナさん、一旦回復お任せしていいっすか?」
「はいよー任された、まだ余裕あるし。僕の役目は皆を無事に外に連れ出すものだからね」
 何に余裕があるかと言えば、ルフナの魔力の残量だ。並ならぬ充填量を誇る彼女の魔力は、ここに至るまで数度回復術を使ったにも関わらず殆ど減っていないのだ。
 ジルは掌を上に向け意識を集中させる。一瞬の後に出現したのは、ひとひらの羽根に似た美しい結晶。アイゼルネの劇薬の効果が切れそうなタイミングを見計らい傷口に投げ落としてやると、胃壁が苦しげに蠢動する。ジルが生じさせた結晶は、優美な見かけとは裏腹に猛毒を含んでいるのだ。
「毒で胃潰瘍を悪化させるっす!」
「この亀相当体力ありそうだから、その分1%のスリップダメージは大きいはずだよ。じゃんじゃん行こう」
 史之も、生成した猛毒入りの薬瓶を手の上で転がしにっこり。
 その読みは正しかった。身体の大きさ相応に桁外れの体力を持つ亀だけに、体力の1%を刮ぐ猛毒の効果は絶大で、時に狙いが甘くなった攻撃によるダメージを凌ぐ。命中精度と運がなければ猛毒状態を維持させることは困難だが、ジル・史之・アイゼルネの三者で協力して仕掛けられるからこそ、安定してダメージを与え続けることが可能となる。
 召喚術で喚び出した高圧縮霊子砲『天之瓊矛』を腰だめに構えた鶫も続く。連続して放たれた霊子ビームは、穿たれた傷を一層深いものにした。

 次々に浴びせる攻撃により、傷は広く深くなり、次第に穴になっていく。こぽこぽと血が湧き出し穴を満たした。穴から溢れ出ない程度で留まっているのは、初手でレーゲンが大きな血管がない箇所を見極めて傷つけ、それが集中砲火の目印になったからだ。
 それでも血液は中々厄介だった。赤黒い血液は傷底の視認を妨げ、攻撃を加える度に派手に飛び散って、視覚聴覚を乱される。亀自体が暴れることはルルイエが懸命に妨害しているものの、痛打を与える度に反射的に吐き出そうと胃壁が蠢動するため、足許や周囲の残留物の動きにも注意を払わなければならなかった。
 難航している間にも胃液が一行を蝕む。
 しかし、敢えて喰われる討伐本隊に参加した面々だ。胃液によるダメージなどは先刻承知。とんでもない体力自慢や回復手達がハンパない備えをした上で勢揃いしていた。「消化できるもんならしてみやがれ」と言わんばかりのタフネスがすぎるチーム構成だったのである。
「いたちごっこ、上等じゃんか」
「えんやこーらで気張って下さいっす!」
 ルフナとジルの手厚い回復術が、仲間達の傷を何度でも何度でも癒やす。攻撃手達は攻撃に手数を割けるようになり、持てる技を次々に叩き込んでいく。
 消化活動の一環としてダメージを与えてくる亀に対し、術を揮うため魔力を消費しなければならないイレギュラーズ。削り削られの長丁場は本来不利なものだが、今回の自らの役目を「皆を無事に外に連れ出すもの」とするルフナはそのカバーも万全だった。
「ちょっと息切れしてきちゃったー? でも……まだまだやれるよね?」
 ツンデレ気味のアジテートで魔力回復にも努めた。
「回復は足りてそうっきゅ? ならレーさんザクザク攻撃していくっきゅ」
 レーゲンは周辺の胃壁へ次々に傷をつけていく。事前に読んだブルーノートディスペアーによれば、通常の生物と姿形が似通った狂王種の中には、それらの生物と同様の性質を持つ個体もいるとかなんとか。通常の亀同様の内部構造をもつ島亀だ、胃壁に傷をつければ自身の胃液で苦しませることができるのではと考えたのである。じわじわと確実にダメージを蓄積させていきながら出血も抑えるという策士ぶりだった。
「それにしてもどんだけ分厚いんだろう、この胃……」
 史之も光翼乱破で足許を削りつつ回復をフォロー。光翼乱破で溜まった血が飛び散った隙に、アイゼルネは少しでも傷の奥へと毒のナイフを投擲した。
「でも、毒のかかりが良くなった気がするから……だいぶ弱っては来ていると思う」
 どう? と史之は鶫を見た。
「ええ、ダメージは与えられているはずですが……」
 鶫は心臓へ到達しそうかどうか五感をフル活用して探るものの、傷穴に溜まる血で底は見えず、ヒューヒューいいだした亀の呼吸音や胃壁の蠢動などが邪魔をする。
「そろそろ胃壁を貫通してもいい頃だとは思うんだがね」
 ラルフは『分解』で魔力を回復しつつ恍惚を付与し、次手のルルイエに繋いだ。
「――悪しきを滅ぼせ、聖浄の槍!!」
 ルルイエが頭上に向け発砲すると、宙に巨大な魔法陣が浮かび上がり、光の槍が降り注ぐ! 今日一番の痛烈なダメージに、亀の身体が大きく跳ねた。同時に血が傷穴から溢れ広がりだすのを見、鶫は声を張る。
「出血量が増えました、そろそろ危険ですね。撤退の準備を!」
 そうして最後に肺に穴を開けるべく、霊子砲を真上に向けようとした――ところが。
「今、何か音が……」
 刹那、張り詰めた膜が張り裂ける音がし、傷穴から間欠泉の如く大量の血液が噴き上がった!
「あちゃー、心臓限界ギリだった!?」
「見誤りましたか……っ」
 鶫は唇を噛む。ラルフは万能金属を傘状に広げ飛翔し、仲間達へ降りかかる胃液や血飛沫防ぎながら言う。
「長くは持たんよ。早々に逃げるとしよう」
「離脱に必要なだけの回復は済んだっす、あとはスタコラサッサっすよ!」
 全員全力で出口へ急ごうとするものの、亀が暴れた際に残留物が移動したり崩れたりしていて、道々つけてきたルートや目印が使えなくなってしまっていた。史之はあちゃーと額に手を当てる。
「こうなったらまとめて飛び越えた方が早いね、手を貸すよ」
「走ってるひとはレーくんたちに掴まるっきゅ!」
「皆さーん、こっちですー!」
 目印はなくなってしまったが、船の残骸の上でルルイエが大きく手を振る。長い射程を持つ彼女は、離脱時に備え可能な限り出口付近に陣取っていたのだ。けれど誘導するルルイエの表情は若干引きつっている。
「振り返っちゃだめですよー、急いで逃……急いでこっちへ!」
 微妙な言い回しが気になり、ルフナは思わず振り向いた。盛大に噴き出した血液が大波と化し、残留物を押しやりながら迫ってくる!
「亀の胃の中で波に追っかけられるとか、何のジョーダンだよ」
 ぼやきつつ飛び上がりルルイエを抱えると、先の方に小さな灯りを見つけた。鉄鋼筒に下げてきたランタンだ。
「あと少し、このまま逃げ切るよ!」
 そうして障害物を飛び越え最初の場所に辿り着くと、
「イレギュラーズさん達が戻ってきたぞ!」
 鋼鉄筒の反対側から船員達の声が響く。筒に投げ込まれた縄を伝って戻りながら、鶫は船員へ呼びかける。
「船とこの筒を繋ぐロープを切る準備をお願いします!」
「え?」
「詳しい説明は後で……ああもう俺達で切っちゃおう!」
 全員が甲板に戻ると同時、船団から筒へと伸びるロープを断ち切った。力尽きた亀の頭が海面へ沈み込むが早いか、口から大量の血液が勢いよく吐き出され、見る間に海が赤黒く染まっていく。その勢いたるや、血液の奔流に押され船団が後退させられるほどだった。
「この勢いを借りて離れてしまうとしよう」
 あまりのことに驚いていた船員たちはラルフの言葉で我に返ると、陽動部隊へ離脱を促す信号弾を上げ、急ぎ亀から離れるべく帆を張った。これだけの巨体が沈むのだ、傍にいては巻き込まれてしまう。
 本隊船団は吐き出される血の流れに乗り、飛ぶように亀から遠ざかる。

 史之とラルフは手摺にもたれ、探索した日と同じようにゆっくりと沈みゆく亀島を眺めた。
「あの甲羅、浮島にしたら楽しそうなんだけどな」
「私は改造してみたかったが……ああ、勿体ないことだ」
「クジラの死体はそれだけでひとつの生態系ができるほどエネルギーがあるんだってさ」
「ホエールフォールというやつかね」
「鯨の何百倍もあるあの亀が沈んだら……、」
 餌の乏しい海底に暮らす生き物達にとっては、素晴らしい恵みとなることだろう。海底生物達の楽園へ想い馳せ、史之は赤い目を細める。
 一方レーゲンは、
「陽動部隊も、無事に離脱してくれてるといいっきゅね……」
 ぐんぐん小さくなる島(亀)影を祈るように見つめ続けるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

だれひとり消化されることなく、島亀を討伐することに成功しました。
非戦スキルを使った工夫が素敵でした。お疲れ様でした。

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