シナリオ詳細
<バーティング・サインポスト>狂萌海獣プリンセスタマゴン撃滅戦
オープニング
●その海獣、狂王種につき萌え狂いに注意
『絶望の青』攻略に向けた大航海は続いていた。
近海にて海賊連合を下し、ゼシュテル鉄帝国の干渉をローレットと共に撥ね除けた王国は遂に外海『絶望の青』へと漕ぎだした。
多くの勇者を殺し、船を沈めた恐るべき海洋の墓所。
進めば進むほどに、航海を難航させる局地嵐(サプライズ)に、陸上の魔物には見られぬ埒外の力を纏った狂王種(ブルータイラント)、幽霊船と海賊ドレイク、そして魔種。
それら絶望の名に相応しい困難を乗り越えながら、橋頭堡を築かんとする王国の意向を受けた冒険を繰り返すイレギュラーズ。
その中で、自身や仲間に奇妙な病状が現れるのに気づく。
元特異運命座標――魔種オクト・クラーケンよりもたらされた情報が、その病が絶望の青の支配者・冠位嫉妬アルバニアの権能、即ち廃滅病と呼ばれる呪いであると知らせた。
発症危険があるのは絶望の青に踏み込んだすべてのもの。そして治癒する方法はただ一つ、アルバニアを倒すことのみ。
ローレットと王国がなせることは必然、一つとなる。
コン・モスカの協力を受けながら廃滅病に対抗し、一刻も早くアルバニアを倒して、絶望の青を超えるしかないのだ。
動き出したローレットと王国に、新たな情報がもたらされる。
絶望の青――その後半の海に対する足がかりとなる、大きな島が発見された。
『アクエリア』と名付けられたこの島を押さえられれば、この先の希望に繋がるはずである。
直ちに、部隊の編成が行われ、この島への上陸、制圧作戦が開始された。
●
「あの島がアクエリアか……」
揺れる船から船首を見れば、先に見える島が見える。
情報では多数の魔種の影が確認出来ているという。
どのようなルートで向かおうと、激戦は避けられないだろうと思われた。
イレギュラーズが覚悟を決めたその時、並走していた船が爆砕し真っ二つに割れた。
「なんだ!? 何が起こった!?」
同乗する船員達が起こる事態に、混乱する。甲板から沈み往く友軍の船を観察する。すると、まるで場違いな見る者全てを魅了するような可愛くキュートでぷりちぃな鳴き声が響き渡った。
「この鳴き声……タマゴンか?」
船員の一人が呟いた。
海獣タマゴン。
海洋王国近海でも遭遇することのある、とってもキュートでぷりちぃで撫で回したくなるアザラシ型の魔物だ。その性格は、凶悪邪悪にして無慈悲。手にしたトライデントで船に穴を開け、積み荷を略奪する悪魔のような海獣である。
「いやしかし絶望の青攻略に向かう船はタマゴン如きの攻撃ではあんな沈み方はしないはず――」
ならば、なぜか。
疑問を呈するより先に、もう一度頭がクラクラしてしまうような骨抜きにされる鳴き声が響き渡る。
そして大きな波を海ながら、それが現れた。
「で、でかい! 普通のタマゴンじゃないぞ……! あれは――狂王種のプリンセスタマゴンだ!!」
進化の過程で狂王種へと至ったタマゴンは、絶望の青の中でより可愛く、よりキュートにぷりちぃに、見る者全てを萌え狂いさせてしまう魅力を持って成長した。
同時に、その凶悪さ、邪悪さをも肥大化させて、絶望の青を進まんとする数多の船を沈めてきたのだ。
――きゅー♪ きゅー♪
鳴き声を聞くだけで何故か分からないが、船を沈めたくらいつい許してしまいたくなる。
「まずいぞ! こっちに向かってくる! 海の上じゃ絶対的に不利だ、追いつかれる!」
ここでプリンセスタマゴンの好きにさせては――次に狙われるのはアクエリアを目指す仲間の船だ。
この船に乗り合わせたのが運命というものだ。アクエリア上陸より先に、やらなければならないことが出来たようだった。
武器を構えたイレギュラーズは、迫り来る狂萌海獣プリンセスタマゴンを撃滅する覚悟をするのだった!
- <バーティング・サインポスト>狂萌海獣プリンセスタマゴン撃滅戦完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年04月13日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
可憐な歌声が聞こえる。それでも『ソレ』に騙されてはいけないのだ。
その声の主は決して人に優しくない。
この先に進ませようとはせぬ意思の結晶。
「おのれ、プリンセスタマゴンとは……なんたる事!
斯様に美少女力の強い生き物がこんな所に生息しているとは思わなんだわ」
奥歯に力を。『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)が見据えるは、己の船を襲わんとしている狂王種――プリンセスタマゴン。白く、もふもふな愛らしいその生物……なんと美少女力の高い事か!
「しからば奴めの血肉を喰らい、吾の美少女力としてくれようぞ!
往こうベネディクト殿! 如何な力の持ち主とて、勝機は我らに在りぞ!!」
「あ、ああ……しかしああいった、ふわふわモコモコな動物がこの世界にはいるとは驚きだな」
戦意高らかに、プリンセスへと向かっていく百合子と共に前衛を担う一人は『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)だ。
彼はこの世の『外』より訪れし旅人であり――そしてかの地ではあのような生物を見た事は無かった。いや、もしかすれば自らの知識の範囲に無いだけでどこかには存在していたのかもしれないが。
「ところでマリナ、あれは一般的なこの海の生き物なのかな?」
「えーと。あれは一言でいうと――やべーヤツですね」
少なくともとても一般的とは言い難きと『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)が言葉を紡ぐ。
なんというべきか、そう海には不思議な生き物が多くいるものだ。人の到達出来ていない深海では新たな生物もまた多く見つかる事がある。ある、が。あのアザラシは一体何を食べたらあんなに大きくなるというのか。プランクトンではあるまい。
「はぁ、凶暴性さえなんとかなればいいマスコットになれそうなんですけど……狂王種だから仕方ねーですね……この先への道を塞ぐって言うなら力ずくでもどいてもらいます」
言うなり駆使するは操船の技術。奇怪なる生物なれどまずは奴に近寄らなければ話にならない。迅速かつ的確な舵取りがあればこそそれに必要な時間は短くなり――そして友軍の船には奴の退路を潰す形で布陣してもらおう。
奴を逃さぬ為、奴をここで仕留める為に。
――きゅー♪ きゅー♪
さればその動きを牽制するかのようにプリンセスの声が響き渡る。
思わず拍子抜けしてしまうような、柔らかく、甘いボイス――しかしそれは力を伴った一撃。
魅惑の声がまるで衝撃波の如く、船に乗る者全てを襲って。
「く、くぅうう!! な、なんだあのアザラシは……こんな強烈な歌声をプレゼントしてくれるたぁ……な、なんてす、ステキ……ハッ!?」
一瞬プリンセスの苛烈なボディと歌声に魂ごと魅了されかける『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)だったが、寸前で頭を振って意識を取り戻す。
危ない危ない! 全身が揺さぶられるかのような錯覚を得たが、彼女は敵だ。見とれてはならない。
「い、いけねぇ! あのかわいらしさと凶暴さは危険だぜ……くっ! だがオイラにも退けねぇ理由があるんだ! 心を鬼にしてやるしかねぇ!」
「やれやれ、どんな姿だろうとそれでも仕事はこなさねばならないネ……
全力で撃ち込んでいこうカ」
ワモンの決意と共に『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)も射撃体勢。一見にして如何様な姿をしていようと手心は加えぬ――なぜならばこれは依頼であり、己が請け負ったモノであれば。
放たれるガトリングの銃撃。放たれる大弓からの一矢。
空を切り裂き波を超えてプリンセスの身に届かせるのだ。きゅー! というこれまた可愛らしい悲鳴が轟けば、些かなりし『罪悪感』の様なモノが湧いて出てくるが。
「これも――なんというか、あのタマゴンの力の一つなんだろうなぁ」
頭を掻く様に『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)が推察する。
あの見た目とこの声で気性が荒いとは勿体ない。こちらを油断させ、魅了させる力のある『声』とはなんともに残念な事だ。素材が希少なのも分かるが、ああいう姿であるならば折角なんだしこう――
「……いや、とにもかくにも先に討伐だな」
分かってるよと呟いて。ラダは大口径ライフルの銃口を彼方に。
声は彼女にも届くが、勇猛なりし才知が魅惑な声の影響を阻むのだ。
効きはしない。戸惑いはしない。己が身体を船にロープで固定して――射撃。
そして気を付けるのは立ち位置だ。いくら可愛いとはいえあのサイズ……
「直撃すればひとたまりもないだろうな……!」
動くだけでも影響があろう。戦線を崩壊させぬ為にも、己と敵の距離は常に注意を払う。
重ねられる複数の攻撃がプリンセスを襲う。船をマリナが操作して、やがて辿り着かんとすれば。
「タマゴン……堪忍ね。また会えて嬉しいけど……男のロマンちゅうのは時たま不合理なんや」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が吐息一つ。
頬ずりしたい気持ちが湧き出て来るのだが……それは我慢して。
流すは血。呪いへ変じたその一滴をタマゴンに浴びせ――往く。
「プリンセス……タマゴン……? なんでドレス着てるんだろ……」
そして逆にあの姿を間近に見ても今一つ可愛さが分からぬと思うのは『黒紫夢想』アイゼルネ(p3p007580)だ。もふもふ体毛の上にドレスまで来ているとは……いや海に生息しているのに何故服を着ているのだタマゴン、と思考するぐらいで。
「まぁいいや――とりあえず倒せばいいんだよね……」
言うなり往く。指先に掴む小型のナイフを投じて――タマゴンへ一直線。
残像の様な影を伴いながら、己が動きを惑わして敵を攪乱し。
「ん、かわいい! 妙にかわいい! ということは……なるほど! リナリナ分かった!!」
同時。進むのは『天然蝕』リナリナ(p3p006258)である。
可愛いのは分かった。タマゴン、外見と不思議パワーで反撃する意思すら萎えさせる愛くるしい魔物。そして全てを削いだ上で――暴行を一方的に加えてくる者よ。
つまりは『外傷に無防備なやわらかい肉質』で。
『日常ストレスによる劣化も無い最高水準』な――
「肉の生物!! しかもアレ狂王種!! まさに海の巨大宝石肉!!」
――涎が垂れていた。嘘でしょ?
いやいやリナリナは本気である。彼女の目にはタマゴンは既に肉にしか見えなくて。
ジェットパックで飛び掛かる。トツゲキの果てに、未知なる味を舌で転がす為に!
●
各々が各々の想いを抱いてプリンセスへと向かっていた。
愛しさを胸に抱く者。知らぬとばかりに誘惑の力を打ち払う者。そして――『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は。
「――わあ! 可愛いね! むちむちしてて肌触りが良さそう!
抱きついて堪能したいなぁ。いいよねちょっとぐらい? いいよね? いいよねっ!!」
プリンセスのもち肌もふもふに向かって吶喊していた。その歌声に確かな魅力を感じて。
――しかし危険な存在である事も聞き及んでいる。
「え、危ないの? こんなに可愛いのに?」
そう思いはするが、魔物であり狂王種なる更に危険な存在であればやむなし。
見て! プリンセスタマゴンが歌ってるよ!
かわいいね。
みんなが攻撃してばかりいるのでプリンセスタマゴンは歌うのをやめてしまいました。
お前のせいです。
あ〜あ。
「――なんてことにならないようにね!」
彼が行うは抱きつき。彼女の総てを堪能する『はぐはぐ』とした抱擁――
もきゅ――!?
さすればプリンセスより洩れる一つの声。苦しみの感情が込められたソレが発せられる。
この時の為のとっておき。見境なく栗だ冴える愛の抱擁は時として精神に壊滅的なダメージを――あるいは喜びのあまりの尊死を経験するだろう。プリンセスによる『愛しさ』の影響を逆手に取った攻撃は確かなダメージをタマゴンに与えて。
「う、うぉおお! ダメだ!! やっぱりオイラに彼女を見て攻撃はできねぇ……!」
だからと、続いてワモンは見ずに攻撃を仕掛けんとする。
目を閉じて耳栓をして。彼女がいるであろう方向にガトリングを乱射。
「すまねぇタマゴ――ン!! うわああああ、うわあああああ!!」
「やれ、全く。見るだけでも影響が出てくるのは厄介な所だな」
ワモンの絶叫。に、次ぐのはラダの一撃だ。
プリンセスの身を抉らんとする一撃を放ち彼女の身から出血をさせんとする。プリンセスの厄介な所は、攻撃自体は近くの者にしか届かない様だが――しかし魅了の影響は戦場全域、というよりも見えている者にすら及ぶ点。
故に出血させる事を試みる。この海の中で目立つ『臭い』を作る事で、視力以外の目印を。
「可愛いのは分かる。分かる、が――私は、動物は人みたいな服は着てない方が好きなんだ!」
というか本当になんでドレスを着ているのだ! ここは海だぞ!?
アイゼルネも似たような事を思っていたがその服意味があるのか!
「それも一つの美少女力! いつ、如何なる時にさえ優雅であり可憐を失わぬ意思!
タマゴンよ、吾はその資質を理解するぞ――ッ!!」
一方で高らかに叫ぶのは百合子である。服を着る事の意味?
そんなモノ美少女であるが故にこそ決まっているではないか――!!
百合の花を顕現し、瞬時にしてその姿をタマゴンに対抗すべく、更なる美へと昇華させれば。
「それでも……勝つのは吾だ! 吾は! 勝負も、可愛さも勝利してみせようぞ!!」
タマゴンの歌声に対抗するかのように百合子が行うのは、歌だ。
彼女の口から音色が紡がれる。刻む百合の足運びでステップも刻みながら。
――ぶつかるは互いの信念と意地。己こそが真の『美少女』であるのだという魂のぶつかり合い。
きゅ、きゅ――♪
さればタマゴンも受けて立つつもりか、その巨体を揺らしてダンスが如く。
ついでの余波で自らの至近範囲に衝撃波が満ちれば。
「くっ! 巨体さ故に動くだけでも攻撃になるとは……!」
タマゴンのブロックをせんとしてたベネディクトに傷が発生する。
なんたる大きさか。なんたる敵か――これだけ大きな敵との戦闘は彼にとって初めてで。
「脅威だな、しかしそれが戦えない理由にはならないか……!」
それでも退く選択肢は彼にはない。
躱せし辛き攻撃であろうと身を捻り、衝撃の到達に少しでも抗って。
見つけた隙があればそこへ格闘の一手を。痛む心を、奥歯を噛み締め踏み耐えて。
「それ、おじいちゃんにする事は少なそうだネ――でもまぁ」
そこへジュルナットの弓矢が放たれる。
タマゴンの巨体の衝撃に巻き込まれぬ様に遠距離に布陣しながら。
「見てダメ聞いてダメでもやりようはあるものだヨ」
ラダの撃ち込んだ銃撃から発せられる出血の臭い――風の調べ――
目を隠し耳を塞いでも戦い方はあるものだ。抉る矢を、勘の良き一撃をタマゴンへ。
知らぬ海の風なれど、放ち続けた矢の経験が確かな軌道を描いて彼女へ刺さる。
――だてに百年と少し同じような獲物を使い続けてきたわけではないのだ。
手の指先が記憶している。頭の頂点から足の先まで染みついた全てが、ここに。
イレギュラーズ達は実に役割の分担が出来ていた。
前衛を担う者はタマゴンの攻撃に巻き込まれる範囲を少しでも減らすべく、扇状の範囲に重ならないように。後衛の者はその範囲外から射撃を――そして魅了に掛からぬ様に対策も出来ていたと言えるだろう。
それはかの誘惑に耐える為の技能であったり、守護の力を宿した装飾品であったり。
「んっ……なんとか弾けてるみたいで、良かった……」
アイゼルネは白梟の誇りを抱きながら、タマゴンに確かに対抗出来ている事を確信する。
攻撃した際にどうしても抱かせる『罪悪感』の様な痛みだけは、どうやら別の様だが。
「……でも、それは心の持ちよう……」
耐えようと思えば耐えられる範囲ではある。強制的な魅了よりも遥かにマシ。
そもお洒落の類への共感は如何とも『し辛い』のが彼女故か、やはり今一つ。タマゴンへの攻撃が鈍くなる影響が薄い様だ。遠方に位置しながらタマゴンへと更なる攻撃を重ねて。
と、そうしていれば友軍からの援護射撃もタマゴンに届き始める。
タイミングを合わせて前衛の者達がほんの少し離れれば、同時に着弾。
きゅう~~という悲痛なる声が響き渡るが、くそうやはりこの声も気にすべきではない。
「プリンセスタマゴンちゃんより、俺たちにとっては――
絶望の青の向こう側の方がずうっと魅力的、っちゅう話や!」
ブーケが心のしこりを解き放つかのように、高らかな声を挙げる。イレギュラーズにとっても、かの友軍――海洋王国の軍人達にとっても『魅力』的なモノは、タマゴンよりもこの先にあるのだ。
知る美よりも知らぬ未知を求めて。
だからこんな所で立ち止まる訳にはいかぬのだと、顕現せし毒蛇をけしかけて。
「そうですね、それに私……猫派なんで、アザラシの魅了なんてきかねーですよ」
更に操船を担当していたマリナもタマゴンへと。遠方に位置し、紡ぐは銃撃。
故郷への想いを凍てつく魔力に。或いは敵の動きを阻害する魔法弾を交互に撃ち込むのだ。猫派の彼女にとって海の生き物の声など眼中に非ず。猫の声と姿でも持ってこいと言うものである。いや先に言ったように狂暴性さえなければマスコットになれるのでは? という程度は思うが。
「全部終わったら――毛皮を剥ぎ取ってやるですからね」
それはそれこれはこれ。討伐対象であるのなら、討伐してみせよう。
「るら~! 肉、動くなっ! 動くな!! 待てェ~!!」
そして友軍の援護射撃も終わったと確認すれば再度リナリナが動く。
「アレ、ウマイ! 絶対にウマイ!! 皆、教える! 絶対にクウ!!」
彼女の行動原理は変わらず食欲。魅了されているような、対抗しているような――
ちょっとよく分からないが! しかし彼女は思うのだ。攻撃する度抱く、この罪悪感一杯の胸の気持ち――
これがあったから、毛皮を奪おうと『食べる』事は誰もしなかったのではないか?
つまり――味は誰も知らないのではないか?
「るらぁ~~ッ!!」
絶対にウマイ。それを確信して闘志を燃やし。
巨体を揺らして抵抗の意志を示すタマゴンにも恐れず向かっていく。全てはこの食欲の為に!
●
きゅ、きゅ――!
プリンセスタマゴンには一つの感情が湧き出て来ていた。これは――焦り――?
依然として甘美なる声は健在なれど、敵の動きが鈍らないのだ。
なぜだ。今までは誰しもが酔ってきた。この声の虜にならぬ者など……!
きゅきゅきゅ――!
再び放つ衝撃波。自身の前方を薙ぐように巨体を振るわせて。
「この毛を貫けるか? いや……必ずやってみせる!」
それでもベネディクトは恐れない。魂を魅了されない。
タマゴンの歌声を防げど、かの巨体は充分な恐れとして目に映る――筈だが。いや故にこそ、止まらぬ彼の進みは純然たる精神の賜物。成すべき事を成さんとする一個の人間としての確かな在り様。
握り締める槍に力が籠る。振るう一閃に淀みなく。
「果たすべき事があるんだ。悪いが――押し通らせてもらう!」
ここでの目標はタマゴンの撃破なれど、全体としての目的はアクエリアへの到着。
それを阻むなら容赦すまじと、ベネディクトは刃をタマゴンへ。
「幸いにしてタマゴンはあんまり動けてないようだネ。
これなら海の中に落ちる――という事もなさそうかナ」
「せやねぇ。海洋の人らの威嚇射撃も機能しとるみたいやし、俺が逆に誘惑しなくてもよやそうや」
そして依然として攻撃を続けるジュルナットとブーケ。タマゴンの攻撃が船へと届き、もしも転覆――もしくは破砕されてしまった時は友軍の船にまで泳いでいく必要があるか、とジュルナットは思考していたが。
どうやら今の調子で進むならその必要は無さそうだ。如何に優れた弓の使い手と言えど海の中からの射撃の経験まで豊富とは言えぬ。ブーケはいざいざなれば魅了には誘惑の心得にて対抗を……とも考えていて。
「……いや気持ちだけの話よ? あくまで本気じゃなくてやね?」
誤解してもらっては困る。獣種だからってズーフィリアではないのである。
いやホントだよ? ホントだって……信じろ! 目を見ろ!!
ともあれ二人の言う様にタマゴンの抵抗は続いているものの戦況自体は悪くなく。
「臆すな! タマゴンなぞ何するものぞ! ――吾の方が美少女であろうがっ!」
そして万一にも魅せられ様とした者がいれば百合子の活が飛ぶのである。
こちらを視ろと。可憐なる姿は決してタマゴンには劣らぬものだと。
「おのれ吾から視線を外させ、目移りさせるほどの美少女力とは……
クッ! 倒したら貴様の血でサイン色紙を書いてやるのである!! 刮目するがいいわ!」
こわいよ百合子さん! 歌って踊り、繰り出すは白百合清楚殺戮拳――
敵対者へと流し込む美少女力が内から相手を破壊するのだ。タマゴンの美少女力と、百合子の美少女力がカオスへ至り、光と闇が如くせめぎ合う。美少女の力の奔流が生み出すは創生美少女力ではなく――破裂する破壊美少女力。
タマゴンの身体が大きく揺れた。攻撃の前兆ではなく、深いダメージを受けた証で。
きゅ――ッ!
一際大きな鳴き声が周囲に響き渡る。同時、再度友軍の援護射撃も加えられれば。
「無駄、無駄、無駄、無駄、ムダァ~!! 肉、クウ! ここ、シトメ時!!」
リナリナの攻勢が一気に。野生の勘か、敵が弱ったタイミングを逃さないのがリナリナだ。巨獣と言えど怖がっていては肉にありつける筈も無く! 吠える様に噛みつかんとすれば。
「ウマ――!! 焼いたら、きっと、もっとウマ――!!」
本命前の味見である。さぁ楽しみな時間は近付いてきている、と。
「んっ……ドレスも破けてきてる、ね……きっと、もうちょっとかな……?」
「んん~~もちもちスベスベ……え? やっぱどうしても攻撃しなきゃだめ?」
タマゴンの損傷が深くなってきているとアイゼルネは推察し、そんなぁ。と残念そうに呟くのはムスティスラーフだ。攻め時はここなのだと。タマゴンがもしかしたら逃げる行動をするかもしれない前に――体力を削り取らねばならないから。
アイゼルネはタマゴンの匂いを嗅覚で捉えつつ、相対し続ける。
攻撃を加え、今少し。あと少し――と。
「しょうがないなぁ。なら……うん、そうだねこの技かな!」
抱きしめたかっただけで傷ついてほしくはなかった――今では反芻している。
名残惜しそうな事を呟きながらムスティスラーフが繰り出すのは、目を閉じて放つ一閃だ。無明一空――心に導かれし敵を討つ、心眼の奥義。敵、という大きな枠組みを狙う技ではあるがこの海域に潜むはタマゴンのみ。
心を鎮めればそこに残るのはただの暴虐の化身である。
感じる。可憐な見た目の奥底に隠された――殺意の全てが。
「――見えた!!」
瞬時、一閃。目を閉じてしか見えない真実を捉えて。
タマゴンを穿つのだ。大きな一撃が、その巨体に響き渡れば。
「……! 奴め、逃げるつもりか!?」
その時だ。射撃を繰り返すラダの目に映ったのは――タマゴンの動き。
今までと些か異なる動きを捉えたのだ。今までならば抵抗の為の反撃を見せていたのだが……前衛のブロックを突破して、包囲を逃れようとしている動きを見せている。あるいは潜水でもするつもりか――? そうさせる訳にはいかない。
視覚、嗅覚、聴覚……優れた五感の範囲をもって奴の姿を捉え続ければ。
「頼みにしてるぞ……ブルーノート……!」
狂王種への知識が詰まった秘伝書。その知識と、正確に狙い穿つ狙撃によって。
放つは前足の付け根部分――怒りを誘う一撃をタマゴンへと直撃させれば。
「浮上してきたですね……狂王種と言えど、生物であれば怒りには抗えねーですか」
マリナの一撃もまた放たれる。傷ついたタマゴンの全身。
これ以上傷つけば毛皮の価値が薄れる――そうなる前に止めを刺してやろうとする。
友軍の射撃が、前衛の攻撃が、遠距離からの一撃が波の様に。
力を失っていくタマゴンの鳴き声。もはやその声に魅惑される者もいなくなってくるが。
「うおおおおん! タマゴーン! 今度生まれ変わったらいいアザラシになるんだぞ――!」
それでも一度その姿に感動した故か――男泣きするワモン。
しかし逃がせない、逃させないのだ! アクエリア奪取の為。勝利の為。
見据えたタマゴンの背を瞼に焼き付け――ワモンは、最後の引き金を引いた。
きゅうううう……ッ!
着弾する。一際大きな炸裂音が響き渡って。
同時。目を閉じながら撃ったワモンの目には映っていないが――何かが倒れる音がする。
水飛沫の挙がる音。静寂が一瞬支配した後、見開いたその世界には。
「ああ……」
もはやプリンセスタマゴンの――息はなかった。
●
「ぐすん……やるしかなかったとはいえ、アザラシなやつを倒すのはやっぱつれぇぜ……
こんな日にはイカを食べまくるしかねーな! 動いて腹も減ったし飯にするぞー!」
戦い終わった海の上――涙を拭くワモンは気持ちをすっかり切り替えて、飯の事を考えてた。いや悲しかったのは事実である。でもそれはそれとして何を想っても仕方ないのだから、せめて自分は明日を向こうとそうポジティブな訳で!
「はぁ。なんとも恐ろしい相手やったねぇ。魅了の対策が出来てなかったらと思うと」
「んー、まぁそう簡単にはいかなかっただろうネ。でも勝ちさえすればいいものだヨ」
海上に浮かぶタマゴンの死骸を眺めながらブーケとジュルナットは言葉を紡ぐ。
ここは海の上。狂王種にとっては庭の様なモノであり――策なくば敵の方が有利だったろう。勝利はイレギュラーズ達の作戦が実に機能したからであり、こうしてタマゴンを仕留めるに繋がったのだ。
「うーむ、大分傷ついてしまっているが、なんとか素材を得られないだろうか……」
「せっかくだし、何か持って帰りたい……無事な所が、ないかな……?」
なんとか剥ごうと試みるラダにアイゼルネ。しかし戦闘の影響か、損傷が激しい。
友軍の射撃などを抑えれば、とも思うが。かといって加減していれば倒すのは至難だっただろう。最後の一撃が逃げる前に間に合っているのも追い詰めていたが故。どこか剥げないかと思案しつつ。
「タマゴン革で作ったぬいぐるみやらって売れるのかな。肉が厚かったからか、結構なダメージをいれちゃうしかなかったけど……端材とかあれば作ってみて欲しいよね」
ムスティスラーフだ。海洋王国本土に運ばれ、解体されたら何か商品として流通しないだろうか……友軍の船へと掛け合い、なんとか本土に材料として運搬の計画を練って。
「ふむ、武器などにするには牙などが俺は気になるが……
いやしかし気になるのはこのドレスなんだが、これは毛皮の一種なのか?」
一方で視点を変えるのはベネディクトだ。毛皮や牙の類に興味が引かれるが……そもそもからして着用していたこのドレスは一体なんなのだろうか。まさか人工物ではなかろうが、かといって自然物とも思えず……ううむ謎だ。
「まぁ剥ぎ取れるだけ剥ぎ取ってみましょうか――この毛皮から人形を作って、タマゴンの恐ろしさを世に広めていきましょう……」
新たな犠牲者が出ないように、とマリナが思考するは未来の事だ。
こんなタマゴンもいるのだと。こんなプリンセル形態(?)もいるのだと。
その見た目に惑わされぬ様に……勝利の毛皮が必要なのだから。
「取ったぞ――!! これが、これがプリンセスタマゴンの美少女力の根源!!」
そんでもって百合子が掲げたのは――タマゴンの心臓だ。
巨体の中から取り出した故か血みどろになっている百合子。まるで獰猛な野生獣が獲物を仕留めた時の様な……ちょっと待ってください百合子さん。その掲げた心臓をどこに運ぼうとしてるんです? なんで口に、あ、駄目! ダメダメダメ! そんなモノ食べたって美少女力が上昇したりとかは……え、美少女に不可能は無い? いやそんな事が、ああ――ッ!!
啜り喰らうすさまじい音が一角にて生じる中、別の方ではリナリナが肉を捌いていた。
血抜きをし、解体をして。そして待望の――肉を焼いて。
こんがりと焼き目が付けば。
「あぁ、ウマ~い!!」
これは絶品だと、リナリナの表情は蕩ける様に。
さすればその匂いに釣られ、こちらへとやって来る海洋王国の者がいる。
「クウ? タクサン、あるから自由! クエ!」
ならば分け合おう。肉は一杯。来る者拒まず――
勝利の味は美酒と共に。
プリンセスタマゴンとの戦いは――ここに制したのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
代筆を担当しました茶零四です。この度はお待たせしました。
タマゴンとの戦いは制しました……! その可愛らしい見た目に騙されないように、というか能力やアクセサリーなどでの対策、万全だったかと思います! ううむタマゴン……!
この度はご参加まことにありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
希望へ繋ぐための上陸戦の前に、出会っちまった海獣(ヤツ)がいます。
可愛すぎる狂王種プリンセスタマゴンを撃滅しましょう。
●依頼達成条件
プリンセスタマゴンの撃滅
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
情報は全て信用できますが、情報にない出来事や不測の事態も起きる可能性があります。
●狂萌海獣プリンセスタマゴンについて
白くてなぜかふわふわででもアザラシ風な狂王種。なぜかドレスを着ています。
とっても可愛いです。見てるだけで魅了されます。声を聞くだけでも魅了されます。抗えません。
しかし性格は凶暴凶悪獰猛邪悪で、目に映るもの全てを破壊する破壊神です。
通常のタマゴンは、コートの材料になったり、その牙が素材として重宝されてるようですが、狂王種はレアすぎるのでさらに稀少な素材になりそうです。
とにかく可愛いく、傷つけるだけで罪悪感が心を支配します。抗えません。
全ての攻撃が巨大さ故に至近レンジの扇状攻撃となり、また必殺付きです。
プリンセスタマゴンを見る者全て、及び鳴き声を聞く者全て(全レンジ)に毎ターンBS魅了を与え、同時に防御技術と回避を低下させます。
注意すべくは魅了効果で、この魅了にどう対応するかが勝負となるでしょう。
目を閉じる場合、命中回避に補正が入る他、当然ながらマーク・ブロックの効果は無くなります。
但し、プレイングやギフト次第では、目を閉じていても戦える『かも』しれません。
船への攻撃を許し続けると、船が大破し沈没する可能性もあります。
また、状況次第では海の中での戦闘も十分にあり得るでしょう。
●友軍について
友軍の船が二隻残っており、毎ターン援護攻撃を行ってくれます。
狙われることもあるでしょうが、その場合助けても助けなくてもシナリオの成否には影響を与えません。
●想定戦闘地域
絶望の青を往く船の上での戦闘になります。
ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
また、水中行動系のスキルがあれば、海中戦闘も可能です。
そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。
●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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