PandoraPartyProject

シナリオ詳細

卒業式は潮風と共に

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『ソツギョウシキ』が、海を越えてやって来た

 ノイズまみれのラジオが歌う。今日も空は清々しいほどの快晴だ。
 なのに心はちっとも晴れやしない。

 防波堤で寝ころびながら、少年ロランは考え事にふけっていた。
 このムエット島はどんな海図で見ても、ポチ点で済まされるような小さな島だ。
 それでも自分をはじめとした、数十人の島人の生活が根付いている訳なのだが――この春、島人がひとり海の外へと渡る事になったのだ。

 彼女の名はジュリーといった。ロランよりも三歳ほど年上で、勤勉家の彼女は色々な事をロランに教えてくれた。今こうしてラジオを楽しめるのも、彼女の教えの賜物だ。
 家が隣同士だったという事もあり、姉弟のようにいつも一緒だった二人。
 だからこそ、その才が認められて別の島の学校へ通う事になったというのは誇らしくもあり、寂しくもあるのだ。

「ねーちゃんはたまに帰って来るって言うけど、そんな保障どこにも無いじゃんか」

 向こうの生活が楽しければ、こんなポチ点の島なんて忘れてしまうかもしれない。
 なにか印象に残るような送り出し方はないものか――太陽の下で考え込んでも、ロランに分かる事といえば漁師としての過ごし方と、ジュリーが教えてくれた小さな知識ばかりだ。

 クー、クー。
 あざ笑うかのようにカモメの群れがロランの上を飛び越えて大海原へと飛んでいく。
「くっそー、なんっにも思いつかねぇ!」
『――それでは、次のリクエスト曲です。卒業ソングといえば、この一曲!』
「……あ?」
 頭を掻きむしって悶絶しているロランだったが、ラジオの声に解決の糸口が見えた気がして動きを止める。
「卒業。そういえば、ねーちゃんが前に言ってた。馴染んだ場所から離れる時は『ソツギョウシキ』ってやつをやるんだって!」

 これだ!! と少年の顔がぱぁっと明るくなる。
「でも、『ソツギョウシキ』って具体的に何やりゃいいんだ?」

●心に残る『卒業式』
「という訳で、今回君達に依頼したいのはジュリーの卒業式なんだ」
 一通り経緯を説明し終えた『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)はフゥと小さく息をついた。爽やかなマリンブルーの装丁の本を広げ、集った特異運命座標に話を続ける。
「どんな卒業式にするかは君達次第。
 独りで卒業式に参加するのも可哀想だから、ジュリーの側に立って一緒に卒業式に出るのもいいし、先生として卒業式を盛り上げる側になってもいい。
 大切なのは送り出す気持ちさ」
 それじゃあ、頼んだよ。
 蒼矢からの依頼を聞いて、特異運命座標たちは頷きあうのだった。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 春は出会いと別れの季節。別れも楽しんでまいりましょう!

●目的
 ジュリーの卒業式を成功させる。

●世界『潮風ラジオ』
 島国に住むロラン・ビットー二の一生を描いた世界。
 自然に恵まれた小さな島《ムエット島》を中心に物語は紡がれてゆきます。
 "Mouette(ムエット)"とは、フランス語でカモメの事。その名の通りカモメが多く住み着いており、近郊の海では彼らの餌になる鱈(タラ)の漁が活発です。

 文化レベルは私達に近くはありますが、情報源がラジオだったりご近所さんとの噂だったり、ゴリゴリに近代的という訳でもなさそうです。
 西洋の小さな港町くらいに思って戴くとイメージがつきやすいかもしれません。

●登場人物
 ロラン
  ムエット島で暮らす元気な少年。12歳。ふわふわの金髪にグリーンの瞳のどんぐり眼が特徴です。漁師見習い。
 ジュリーを送る側として、卒業式を運営する方にまわりたいと思っています。

 ジュリー
  ムエット島から離れる事を決めた15歳の少女。医者になるのが夢で、島で勉強をし続けていた結果、見事に医療系の学校へ進学する事が決まりました。趣味は貝殻集めと読書。勤勉家です。

『境界案内人』神郷 蒼矢(しんごう あおや)
 この依頼を特異運命座標に任せた人物。頼まれれば備品集めや進行の手伝いをしてくれるでしょう。特異運命座標全員が送り出される側(卒業生)にまわった場合は送り出す側として先生の代わりをしてくれるそうです。

●卒業式の内容について
 どんなイベントをやるかは特異運命座標に一任されています。
 ジュリーはちょうど中学三年生から高校一年生にあがるくらいの歳なので、学校の卒業式をなぞってもいいですし、
 美味しいごはんを食べたりしてホームパーティーのような卒業式にしても構いません。
 送り出す気持ちがあれば、彼女もロランも喜んでくれるでしょう。
 各々に「やりたい事」を出し合って、イベントの流れを把握しておくと様々な楽しみ方が出来るかもしれません。

 説明は以上となります。それでは、よい旅を!

  • 卒業式は潮風と共に完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月15日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シェルマ・ラインアーク(p3p007734)
金獅子
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙

リプレイ


「よしっ、これで最後ね」
 籠を背負って満足そうに『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)は帰路につく。収穫は上々。鼻歌交じりに歩いていると、途中で見知った顔に出くわした。
「ふふっ、ご機嫌だね」
「土壌が良くて沢山獲れたの! 雨月さんの方こそ、重たいくらい"収穫あり"なんじゃない?」
 イナリの視線の先には、両手に手提げ袋を持った『夜の涙』築柴 雨月(p3p008143) 。
 2人はそれぞれ、事前準備のために会場の外で必要な物を調達し終えた後だった。並んでゆっくり海辺を歩く。
「嬉しい重みだよ。島の人たちは仲間の旅立ちを祝福してるみたいだね」
「持つの手伝うわよ?」
「ううん。イナリさんだって、もう荷物を持ってるじゃないか。女の子に沢山は持たせられないよ」
 そんな話をしながら、到着したのは海の家だ。島民達の多目的施設だというその建物は、体育館ほど広くはないが、卒業する側の人数を考えれば妥当な広さかもしれない。

ーーというより、これ以上広いと装飾係が音を上げそうだ。

「だぁーっ! 終わんねぇ!」
 床に四肢を投げ出し、ロランがペーパーフラワーの海に埋もれる。
 隣でパイプ椅子に座っていた『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)は黙々としていた作業の手を止め、彼を上履きの先でつっついた。
「折角作った花飾りが潰れるぞ」
「卒業式って大変なんだな……」
「ここからは俺も手伝うよ。心に残るいい思い出になったらいいね。
 あ、でも準備中に怪我とかしないようにね! いい思い出にするために大切なことだから」
 荷物を降ろし終えた雨月が飾りつけ班の輪に加わると、すぐ隣で「いてっ」と声がした。手伝いの『境界案内人』神郷 蒼矢である。紙で指を切ったらしく、雨月が【メガ・ヒール】で手当てした。
 そんなやり取りを少し離れた所で眺め、『金獅子』シェルマ・ラインアーク(p3p007734)はソファの上で足を組みなおす。
「開いた本の向こう側は、いつ来ても面白い」
 医者という難関を目指すジュリー、残される側であるロラン。
 2人が目指す先に何があるか興味は尽きない。
 おまけに特異運命座標の普段見られないような一面を見る事が出来るのだから、退屈も紛れるというものだ。
「Mr.大地。貴君のそれは学生服か?」
「そうだよシェルマ"先生"」
 今回の式ではジュリーと共に大地も送り出される側を担い、シェルマが送る側ーー教師のような立場に立って執り行う。
 そんな訳で、今の大地は詰襟の学ラン姿である。久方振りに学生服へ袖を通したものの、それを現役で着ていた頃の記憶は複雑な物なもので。
「……あの頃は色々ありすぎて、高校の卒業式には、結局出られなかったからな」
ーー全く、『兎』のお陰でそれどころじゃなかったんだからな、こっちは。
 大地の胸中は計り知れずとも、雰囲気を察してシェルマが立ち上がる。
「ならば卒業式のリベンジといこう。じきに主役も来る筈だ」


 島の学び舎は片手で数えられるほどの生徒しかおらず、校則どころか制服すらも無い有様だった。
「だからずっと憧れていたんです、セーラー服!」
 眼鏡をかけた優しそうな少女ーージュリーはとても嬉しそうだ。卒業生入場のアナウンスに気づくと姿勢を正しなおす。
「行くぞ」
「はいっ!」
 大地とジュリーが並んで会場に足を踏み入れれば、温かい拍手が会場を包んだ。
 紅白のカーテンと色とりどりの紙飾りに包まれた会場は、本場の学校の卒業式顔負けだ。
 パイプ椅子に2人が着席すると、檀上にシェルマが立つ。
「卒業証書の授与を。赤羽・大地」
「はい!」
 先に大地を呼んだのはシェルマなりの配慮だ。やり方をジュリーが覚えられるよう、授与はゆっくりと行われる。それを観察する彼女の目も真剣だ。
 大地と入れ替わりで壇上に登った彼女へ、シェルマの穏やかな声が降る。
「ジュリー、卒業おめでとう。その門出と未来に光あらんことを」
 手渡された証書を見て、思わずジュリーは目を見開いた。
「うわ、綺麗……!」
「これでも公務で筆書きは慣れているんだ」
 手書きの証書で喜ぶ彼女へ、シェルマは更に手を伸ばす。
 紺色のセーラー服に華を添えるように、胸元へ赤い薔薇と白い薔薇を編んだコサージュが飾られた。驚くジュリーに微笑むシェルマ。
「主役への特別というやつだ」

「そろそろ出番よ。大丈夫?」
 緊張が解れたジュリーとは対照的に、今度は来賓席でロランがガチガチに固まっていた。大地の粋な提案で、送辞はロランが担当する事になったのだ。
「どんなメッセージでも、きっとジュリーは喜んでくれるよ」
 イナリと雨月に後押しされ、彼はロボットのようにカクカクしながら壇上に上がった。しかし送辞を贈りはじめると、緊張よりも別の感情がわき上がり、思わず言葉を詰まらせる。
「ねーちゃん。俺……本当はさ。寂しい。寂しいよぉ」
 今まで実感がわかなかった別れが、卒業式という区切りによって彼の心に浸透しはじめたのだ。
「でも、ねーちゃんの夢を応援するよ。だから約束。何があっても絶対負けんな!」
 改めて"別れ"に向き合う事になったのは、送られるジュリーも同じだ。答辞を贈る彼女の目頭にも、熱いものがこみ上げて――ぽろぽろ、頬を流れて伝う。
「ありがとうロラン。それに特異運命座標の皆さんも」
 溢れる涙は温かい。堪えていたロランもついには我慢できず、卒業歌の歌い始めもそっちのけで2人はわんわん大声で泣き出した。
「この島で生まれて本当によかった。この温かい気持ち……私、一生忘れない!」

 やがて式も終わりを迎える。
 そのフィナーレを飾ろうとイナリが戸口の方へ立ち、流れるように狐の姿へ変化した。
「送る人も、送られる人も! 皆の願いが実るように、祈りを込めて咲かせるわ……最高の花道を!」
 海辺の白い海岸を一匹の狐が駆け抜ける。
 すると"彼女"が通った後を辿るように緑が芽吹き、みるみるうちに育っていって、やがては立派な木へと変わり――。
「これは……」
 窓の外を覗いたシェルマが僅かに目を見開いた。彼の瞳に映るのは青い海と鮮やかなピンク。
 櫻桃樹の並木道が海岸に出現したのだ!

 舞い散る桜の花びらの雨の中を、未来へ思いをはせて歩くジュリー。
 泣き腫らした彼女の顔は、嵐が過ぎ去った後の晴れ間のように爽やかだ。
 つられるように大地の頬も綻ぶ。

「それにしても、夢を追うために島から旅立つのか、ジュリーは。
 俺達も、この式が終わればここを出ていくけれど、遠いところにいても、ジュリーの夢が叶うことを、ロランも何か信じる道を見つけられることを祈っている」
「ありがとう。貴方の夢も叶いますように!」

「俺の夢カ? ……この場じゃちょっト、言えねぇなァ」
「正直、俺もまだ考えてるところなんだ。元の世界に帰ったら、何を目標に生きようか、とか、色々。」

"赤羽"と"大地"。目指す夢は違えども、今日踏み出すこの一歩も、きっと未来に続いている――。


「さぁ、卒業式が終わった後は無礼講だよ。いっぱい食べて楽しんで!」
 特異運命座標は卒業式だけでなく、なんと送別会まで用意していた。満開の桜の下に寄せられたテーブルには、雨月が島民の人々から分けてもらった食事が並ぶ。
「こっちの櫻桃デザートはイナリさんが採ってきてくれた物を使ったんだ」
 紹介されるとイナリは狐の姿のまま、誇らしげに尻尾を振った。
「櫻桃樹を咲かせるために、実らせて種をくり抜いたの。私のギフトは瞬間的に実らせる力があるのよ。……今日は頑張って使いすぎちゃったから、当分この姿のままだけど」

「すっげぇ美味そう! こいつは食べ甲斐があるぜ!」
「はしゃぐのは構わないが、あまり羽目を外しすぎるなよ」
 袖まくりをするロランの後ろからシェルマが声をかける。
 彼は賑わいの輪から少し離れた所でギフトを使い、リクライニングソファに腰かけて、のんびりと寛いでいた。
「シェルマさんも、すっかり先生役が板についてきたね」
 おひとつどうぞ、と雨月が差し出したアラカルトをひとつつまみ、シェルマは表情を動かさぬままひとつ摘まむ。
「そうでもないさ。俺が面倒を見なくても、大地とジュリーは優秀だった。生徒より教師の方が手がかかるというのは計算外だ」
 傍でテーブルを拭いていた蒼矢に言葉の矢が刺さる。依頼の事前説明では卒業式をサポートすると言っていたのに、いざ式が始まるとボロ泣きして全く使い物にならなかったのだ。
「だってぇ、皆があまりにも立派だったから……」
「あレ、神郷センセーは食わねぇのカ?」
「食べるよぉ赤羽!」
 しどろもどろに言い訳をはじめた蒼矢にとって、赤羽の一言が天の助けとなった。
 そんなやり取りを眺め、イナリが何かを思い出したかのように視線を逸らす。
「そうね。蒼矢さんには体力をつけておいて貰わないと。後片付けが大変でしょうから」
「式場の撤収くらい、皆でやればあっという間なんじゃないかな?」
「違うのよ雨月さん」
 雨月の意見はもっともだ。どちらの会場も手分けすれば、すぐに元通りになるだろう。
 イナリが問題視しているのは、その間に用意したものだった。
「調子に乗って満開の桜の花(+桃)を咲かせたけど……この桜の木、どう処理しようかしら……」

 彼女のギフトは植物を成長させる事が出来るものの、成長させた物を無くす事は出来ない。
 つまり生やしたものは生えっぱなのである。
「この桜の木ぜんぶ、神郷センセーが元通りになるように掘り返すのカ」
「嘘でしょぉ!?」
「……とりあえず、この島の観光名所とか、そんな感じで島民達が役立てるでしょ、うん、たぶん大丈夫よ!」
「他力本願だな」
 シェルマの真顔のツッコミにイナリがてへっと舌を出して、その日の送別会はお開きとなった。

 事後処理係の蒼矢が島を"卒業"するには、ここから暫く時間がかかるのだが、それはまた別の話――。

成否

成功

状態異常

なし

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