PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<バーティング・サインポスト>Trela / Elpida

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 何もかもが不快だ。

 『ソレ』がこの世に生を受けたのはいつだったか。さて、誰も分かりはしない事だが。
 いつの頃よりかソレの身体は狂いだした。
 それは絶望の青の影響――狂王種へと変じる事象の一つ。
 突然変異の発生。自らの遺伝子が狂い始め、肉体が瓦解し始めた。
 生きながらにして肉体が変じる。生きながらにして自らが『何か』へと。

 皮膚の内側が痒くなった。
 目に血が埋まり世界が紅く染まった。
 古い何かは崩れ落ちて、新たに生まれたは黒き強靭なる鎧の如き外殻。
 ああその果てに見た世界の光景は――

 不快だった。

 死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――周辺を泳ぐ稚魚共を喰らった。
 島に巣くっていた鳥共を薙ぎ払った。『この海』を渡らんとした船を沈めた。
 不快だ。不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快。
 空が青い事が不快だ。天が輝かしい事が不快だ。大海原へと掛け声放つ奴らが不快だ。

 通してはならぬ。殺さなくてはならない。
 死ね。死ね死ね死ね。悶えて死ね。苦しんで死ね。なんなら互いに殺して死ね。

 ――いつの頃か、自らの身を蝕む『病』に更にかかって。
 ソレの死は確実に近付いていた。
 廃絶病と称されるその病に罹患すれば、何者も死からは逃れられぬ。
 ごく一部の例外と解決策はあるが――掛る事自体に体の強靭さは関係なく。
 例えば狂王種ともされる異常個体であろうとやがては死ぬのだ。

 だが知らぬ。

 死ね。
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
 不快だから死ね。皆殺しにしてやる。お前ら全員この先には通さない。
 ソレは自らの死を理解していない。気付いていない。いや気付いても頓着しないだろう。
 なぜなら全てが不快だから。

 希望に塗れる貴様らがどこまでもどこまでも醜く見えるから。


「――前に『奴』はサフロスと言う港町を襲った。
 だがその時には奴は……廃絶病には罹患していなかった筈だ」
 そうでなければ俺は今頃生きてはいないと語るは――海洋王国の軍人が一人、ファクル・シャルラハだ。『奴』とは、これより接敵する筈の狂王種が一体、モンス・メグ。
 奴は、かつて二十二年前の大号令の折にサフロスという港町を襲撃した悪魔である。
 仔細は省くが、ファクルは二十二年前にモンス・メグと交戦し――そして重傷を負うも生還している人物である。モンス・メグが当時から廃絶病に罹患していたのならば……恐らくファクルの身体は高確率で同様に廃絶病に蝕まれていた筈だ。
「聞き及んでいるかもしれんが、廃絶病の治療法はない。厳密には冠位嫉妬と称されるアルバニアを倒せば治療に繋がるという話があるらしいが――さてそいつもどこに居る事やら、だな」
 冠位嫉妬アルバニア。
 その名は七罪が一角であり、同時に絶望の青の踏破を阻む存在であると――『ある魔種』からの情報により判明している。海洋王国の者としては魔種から齎されたという情報をどこまで信用していいか悩ましいものだが……しかし。
 大号令を阻む何がしかの存在がいる、というのに異論はなく。
 そしてそれが巨大な存在であるというのはまた納得できる話である。
「しかも、だ。今向かっている絶望の青に存在した比較的巨大な島……これを『アクエリア島』と呼称されたのだが、そこには魔種が大量にいたらしい」
「――絶望の青の、こんな場所に?」
「ああこんな場所に、だとも」
 アクエリア島とは海洋王国がイレギュラーズ達の助力も得て遂に発見した新しい島。
 船が接舷し、中継地点としての拠点築きに十分な広さを持つ正に踏破の為に必要な絶好の立地――なのだが。なぜかそこには既に到達せし『魔種』共がいたらしい。いや、更には魔種だけではなく、凶悪な狂王種の影も多数確認されており。

「冠位嫉妬の影ありというのも現実味を帯びる話であるな」

 いずれにせよ絶望の青の後半を超える為に、この島がどうしても海洋王国は欲しい。
 邪魔な者がいるなら魔種だろうが狂王種だろうが退く理由に成らず。
 ――アクエリア島攻略作戦が発動した訳である。
 海上に浮かぶ多くの船。目指すはアクエリア島そのもの、もしくは周辺の制圧だ。
「そして俺達に通達されたのは、存在が確認されたモンス・メグへの対処って所だ。奴は生半可な船なら即座に沈める大砲みたいな一撃を持っているからな……放置は出来ん訳だ」
「おいおい船をすぐ沈める事が出来るなら……どうやって戦うんだ?」
 周りは海だらけ。空を飛べたり泳ぐが得意な者であれば、まぁまだ何とかなるかもしれないが。
「それでも海に落とされれば不利な状況は否めないだろ?」
「勿論そうだ。故に――」
 用意したんだ、とファクルが言葉を紡いだ、瞬間。

 イレギュラーズ達の乗る船が凄まじい衝撃に船体を揺らした。

 大きい。あまりの衝撃に看板を転がる者もいる始末で、その衝撃の原因は。
「ッ……! 早速下から来やがったな!! 久しぶりであるな――化物野郎!」
 モンス・メグの襲撃。鯨が如き外見を持つ奴が、飛沫と共にその姿を現した。
 奴からの一撃を受けたが故の衝撃だったのだろう――しかし、妙だ。先の説明と異なり、揺れは大きく発生したものの船が沈む様子は無くて……
「ハッ、艦自体を特別製にしたのさ……速度よりも防御を固めてな!! 奴の攻撃だろうが一撃二撃で沈んだりはせん! そして――砲もちょっとばかし特別製でな!!」
 周囲を高速で泳ぐモンス・メグに対する艦砲射撃。
 奴の外殻は凄まじい強度を秘めており大砲だろうがそうそう通さぬ、のだが。
 着弾した砲弾が爆発――しない。
 炸裂と共に生じたのは『液体』だ。それが、モンス・メグの外殻を『焦がして』いて。
「あれは……酸か!?」
「そうだ! あまり数は揃えられなかったが……虎の子の一撃だ。
 外殻は硬くても中まで硬いとは限らないだろうさ……!!」
 実際、前回モンス・メグが襲撃してきた依頼において――決死の突撃を果たした者達の攻撃により『脆い』箇所があるのは分かっている。全てが強靭にして全てを跳ねのける事が出来る様な者ではないのだ、奴は!
「――と言っても船の強度も限界はある。流石に船が沈められたら撤退せざるを得ないからな……その前に奴とのケリを付ける! イレギュラーズ、お前達の力もアテにさせてもらうぞ!」
 ファクルの言に、任せておけと誰かが呟く。
 ここは海上にして、奴は海の生き物。動きの面では奴の方が有利――なれど。
 こちらの人員もまた、信念と命を懸けてここに集まった海人共。
 ――たかが海の化物如きに恐れは抱かぬ!

「総員戦闘準備! 射線――構えッ!!」

 ファクルの号令が軍艦に響き渡って、直後。
 戦いの火蓋が切って落とされた。

GMコメント

●勝利条件
 モンス・メグが海洋王国の軍艦二隻を沈める前に、モンス・メグを撃破・撃退する。

●敵戦力:モンス・メグ
 『狂王種』(ブルータイラント)の一種。
 ガイアキャンサーとも呼称される一体で、非常に強力な魔物。
 その全長は船一隻をも優に超える巨大生物。一見すると鯨の様に見える。

 非常に強度の高い外殻。長射程・高攻撃力の一撃、優れた範囲攻撃を持つ。
 反面、一個人を正確に狙う能力はない模様。ただし前回の依頼(<Despair Blue>レイン・クロインは此処にいない)において、至近距離に近寄ってきた者達を纏めて狙う光線能力が判明。中々に命中も高いため、近寄る場合は注意を。
 更に、巨体故にBSがどのように通じるのかが不明。(無効化する訳ではないと思われます)

 機動力も高く、水中に潜る事も当然可能。ただし水中からの攻撃は些か、自らの主砲の攻撃力が落ちる様で、それを嫌ってか常に潜り続ける訳ではないようだ。またモンス・メグは独自能力として『殺害した人間を急速に魔物へと変貌』させる能力を有している。

●『チルドレン』×??
 モンス・メグより射出される狂王種の一種。
 タコの様な姿で、親のモンス・メグと異なり陸上をも移動します。
 水中の方が動きや能力が良い模様。モンス・メグ程の攻撃力や防御力はないが数が脅威。

 最初はいない。時間が経つほどにやたら出てくるので注意。
 船にへばりついて昇って来る・射出された後降り立つなどして接近してくる事でしょう。

●味方戦力:ファクル・シャルラハ
 元・冒険者にして現在は海洋王国の軍人の一人。種族はスカイウェザー。
 海洋王国の精鋭部隊の一つ『レッドコート』の長。
 二十二年前、モンス・メグの襲撃により重傷を負った過去を持つ。その折の『御礼』がてら、戦意は非常に高い模様。能力としては回避が高く、接近戦型。
 モンス・メグと戦うと廃滅病に罹患する可能性がある事を知っている上で彼はモンス・メグと戦うでしょう。二十二年前の貸しを、返しに来てもいるのですから。

●海洋王国軍艦×2
 防御を重視した特別製の軍艦。モンス・メグの攻撃でもそうそうは沈まない。
 ……が、代わりに速度を犠牲にしているので攻撃の回避は絶望的。
 行動可能な船員は二隻分、全部含めて20名。

 虎の子の一撃として『酸の砲弾』を持ち込んでいる模様。
 これはモンス・メグに直撃時、一時的に『直撃した箇所』のモンス・メグの防御力を大幅に下げる事が出来る。ただしシナリオ中『二回×二隻分』の合計四回の射撃しか行う事が出来ない。

 指示を行う事で射撃タイミングの調節をする事が可能。
 指示がない場合、彼らの判断で『当たりそう』だと思ったタイミングで発射予定。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●重要な備考
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。

  • <バーティング・サインポスト>Trela / ElpidaLv:15以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月20日 23時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
シラス(p3p004421)
超える者
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

リプレイ


 誰が為に往くのか。
 誰が為に絶望の果てに挑まんとするのか。
 アクエリア付近海上――少なくとも『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は、この戦いの総てを。
「女王陛下の、御為に」
 敬愛せし彼女の為に捧ぐつもりであった。
 故にこそ死ねぬ。こんな所では決して。
 どれ程凶悪な意志と生物が待ち受けていようとも。

 ――瞬間。放じられし光帯が空を穿つ。

 船体が激しく揺らされ、多くの者らの体勢が揺らぐ。史之は空を舞い、その揺れの影響から逃れて。
「ハッ、全く……大捕り物となったか。敵は巨大にして我らの踏破を阻まんとする者」
 己が力量図りとしては丁度良いと――紡ぐは『黒翼の裁定者』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)である。彼もまたその黒き翼を広げ、己が身を微かに空へ。あまり高くは飛べば体勢の維持が困難故に、あくまで揺らぎを逃れる程度の距離で。
 同時。口元を覆うは、古き様子のスカーフ。
 ほつれが見えてお世辞にも効果があるかは分からないが――それでも良いのだ。
 これは念の為の予防と、そして自らの意識の『切り替え』が主であれば。
「さて、ハイドロイドよ。大物取りに付き合ってもらうぞ」
 そして周囲に展開せし魔法陣。されば”起動せよ、起動せよ、八ツ頭の大蛇”と――ソレを呼び出す起動言をその口の端から漏らせば、彼が使役し多頭海蛇『ハイドロイド』の姿が顕現す。
 異形には異形を持って。
 ハイドロイドの八つからそれぞれの高水圧弾が放たれる。遠くにありし『奴』がいるであろう海中を抉るのだ。着水、炸裂。激しき水飛沫と光帯の応酬が始まれば、まるでこれは砲戦か。
「――俺がくたばる前にあの鯨野郎を殺る機会が来たのは僥倖だ。シグ、背中は任せた」
「ああ。さて、今度こそ共にヤツに一矢報いるとしよう――レイチェル」
 そして最中にも『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)と『艦斬り』シグ・ローデッド(p3p000483)も動き出した。二人は以前、モンス・メグとの交戦経験がある。
 その折は近付くもままならなかったが、今回は別だ。
 奴の命を抉り取る。
 特にレイチェルは――モンス・メグにではないが、大号令による依頼の中で廃滅病を患った身。もし冠位に手が届かねば、いずれ遠からぬ内に死が訪れる『破滅』を宿している身なれば。
 その前に再会出来たのは正しく『僥倖』
 彼女は死など恐れていないが、果たすべき事を果たせぬというのは話が違う。
 放たれしは歪みの力を宿す呪言。遠くだろうと届き、身を軋ませる言霊は彼女の殺意。
 共にあるシグも一拍の力を込めた後、剣の姿へと。『滅び』の意思を奴の身に刻まんとして。
「……また会えたわね。近い内に再戦の機会が来ると思っていたわ」
 そしてシグ達と同様。これがモンス・メグとの初接敵ではないのは『少女提督』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)も、だ。
 海中を自在に動く巨大な魔物。ああ、なんとも恐ろしい限りだ、が。
 仲間が廃滅病にかかっているのだ。この依頼だけでも『四人』もいる。
「――仕留めるわよ。今後の為にも」
 廃滅病を根本的に解決するには冠位の撃破が必要らしいが。
 それ以前に『撒き散らす者』共を駆逐する事にも意味はあろう。
 退かない。今、ここで退けばまた別の誰かに廃滅病が掛けられるかもしれないのだから。
 近未来観測――時間への干渉による予知の力を見に宿し、剣身に炎を纏わせて。
 その斬撃を届かせる。怒れ狂王種。怒れこの身に――と。

「総員動け! 船を常に動かすのだ! どうせ鈍重なる船だが――それでも止まれば一斉放火が来るぞ!」

 渦中。モンス・メグとの交戦が激しくなる中、船団の指揮官であるファクルの指示が飛ぶ。
 海の男たれば海の上でこそ機敏に動け――
 砲を構え、船を操り。皆を常に動かし戦況を停滞させぬ。
「ったく、親父の奴。もう『漁師』だなんていう気はないなありゃあ。
 ま、元から分かってた事だけどよ……!」
 その姿を見て『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、心の奥底から高揚感が湧き出て来るのを否めない。
 父と共に戦える――同じ戦場で――
 それに心躍らぬ訳が無かったのだ。父は些か無茶をしそうで、不安もあるにはあるが。
「あれがカイトさんの……そして、カイトさんのおとうさんのしゅくてき」
 と、父の姿を見据えるカイトの隣で。
 呟いたのは『あなたと一緒』リトル・リリー(p3p000955)だ。
「……ぜったいに、たおす。たおそうね……カイトさん」
「ああ! だけどリリー、無茶しすぎるなよ。最悪、追っ払えさえすればいいんだ」
 普段と異なるリリーの様子――些か言に、力が籠っている。
 それもそのはずだ。愛し人であるカイトと、その父親にとって因縁の相手。
 この戦いで共に在れる事にいつもと同じ心境など彼女にはあり得なかった。二人を害させる事など決してさせない。カイトを、ファクルを。二人を護る為ならば殺意すら抱いていて。
 往く。緋色の翼と小さき人が。モンス・メグより投じられし光帯は避けて、奴へと一矢を。
「やれやれ。ま、だが死力までは尽くすなよ。『奴』は……些か面倒な能力を持っているからな」
 そして。ファクルの指示で機敏に動いている船員達へ言うは『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)だ。
 彼もまたモンス・メグへと氷塊の砲弾を。己が膂力にて投じたその一閃は海を凪ぎ、さながら放火の吹雪が如しで。着弾すれば轟音を鳴り響かせる。
 全力を尽くす。ああ結構な事だ。海人であればこそ魅せる場があろう。
 だが奴は――モンス・メグは人を殺せば魔物化させるという。
 そんな場で玉砕覚悟の戦闘などされれば堪らない。仲間を手に掛ける戦場などあってたまるか。
「だから、俺から離れすぎるな」
 単独での対処こそ愚の骨頂。
 今はまだモンス・メグだけだがその内奴の『子』がせり上がってこよう。
 その折に誰も死なせぬ。俺がその命、引っ張り上げるからと。

 そして――そんな懸念を抱いていれば。

「来やがったな。チルドレン共」
 『ラド・バウD級闘士』シラス(p3p004421)が見た。海中を拘束で進んでくる黒い何かがいるのを。
 ああ間違いない。あれは前回同様陸地にすら進軍してくる――モンス・メグの子ら。
 『チルドレン』だ。
 上げさせる訳にはいかない。紡ぐ熱砂の精が現れて、舞いと共に砂嵐。
 巻き上げる。奴らはモンス・メグ程の防御力は無ければ、とにかく無数を巻き込み攻を重視。
 しかしそれでも尚間に合わぬ程の『影』が見える。
 『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)の目に――多くの敵と、多くの殺意が映っている。
「絶望の青……私達を阻む意思。来るなら殺すという事」
 思わず冷や汗が出る。あれは、アレらは危険だと直感で分かる程だから。
 あの光の帯に巻き込まれれば無事ではいられまい。あの鯨の巨大なる歯で切断されれば死もあろう。
 脳裏に一瞬浮かび、そして流れた未来。
 最悪という二文字の絶望。
 それでも。
 仲間の命が掛かっていて、逃げる訳にはいかない状況であれば。
 ああ、それはなんて――

「――『いつも通り』、だね」

 気付いて笑った。口の端が上を向いている。
 命懸け。命と命の獲り合い場。それでも成すべき何かある故の応酬は、ああいつも通りなのだ。
 ならば特別に臆す必要がどこにあろうか。
 ただ己が全力をここでも晒せばよいのだと気付いたならば。
 はた迷惑な戦闘狂い――ある御仁の姿を思い浮かべて。
 往く。あの御仁の放つ殺意の世界に身を投じるよりは。
 きっとこの歩は進めやすいからと。
 鯨のその身へ。放った剣撃が光の柱となり――直撃させた。


 死――ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 モンス・メグは廃滅病に罹患している。その痛みが怒りとなりて激しき攻勢へと繋がっているのだ。
 誰も通さないお前達など。殺してやる。必ず殺してやると。
 光の帯を放ちチルドレンを放ち。
 全身全霊を持ってイレギュラーズ達へ、海洋王国へと襲い掛かるのだ。
 モンス・メグの一撃は脅威。長射程から高威力の範囲攻撃たる光帯は本来船など瞬く間に海の藻屑にしてしまう。しかしファクルの用意した防御重視の船は――今少しばかりはその強度を保たせそうだ。無論、それは時間稼ぎが出来ているだけでいずれは穴を開けるだろう、が。
「その前に貴方を仕留めれば何もかも解決するわね」
 アンナだ。低空飛行から自在に海の上を往く彼女は再びその剣に炎を宿し。
「潜らせないわよ。私達を殺したければ出てきなさい……!」
 放つ。モンス・メグの身へ。こちらを向け、とばかりに。
 狙うは酸の砲弾により溶けている場所だ。未だ傷が塞がっていなければ効果もあろう。
 そこが狙えねば発射口や脳――があると思われる付近か。とにもかくにも試し続ける。
 奴を殺せる手を。奴を殺せる一手がどこか見極める為に。
「硬く、強く、海中は縦横無尽に動き回る……敵ながら賞賛に値する能力だよ。
 絶望の青に住まう狂王種でなければ死なせるのが惜しいくらいだ」
 直後に史之もまた位置を取りモンス・メグへ。彼が狙うのは尻尾だ。
 鯨の造形であるならば動き起点も恐らく同一。機動力の削ぎになればと。
「だけど女王陛下の願いを妨げる存在ならば仕方ない。鍋にして献上してしまおう」
 いや、かようなモノはこちらで処理した方がいいかな? と軽口を。
 同時に放つは魔の糸だ。正確に穿たんとする一撃が尻尾へと――着弾。

 それでもモンス・メグの動きは鈍らない。やかましいぞと返しの射撃を行う程で。

 史之やアンナの狙いが悪い訳ではない。モンス・メグが巨大であるが故にこそ一撃や二撃では通じ辛いのだろう。酸の砲弾で弱い箇所をある程度生み出せると言っても――そこ以外の強靭たる外殻は健在。
「それに――随分と早いね。これは流石に海の魔物って言う所かな」
 言うはサクラだ。先手が取れるのであれば待機を用いて攻撃のタイミングの調整をするつもりだった、が。モンス・メグの性能は予想以上だ。あれだけの巨大でありながら速度も出している。
 剣を瞬かせ、再び放つ光の柱。奴が近付いて来れば別の斬撃を放つ機会もあるだろう、が。
「奴が速いなら慎重にいかないとね。迂闊に近付く訳にはいかない」
「ああ。拡散する光のヤツは結構やばい――なにせ身をもって味わったからな」
 襲い掛かってきたチルドレンを蹴り飛ばし、シラスが思い浮かべるは以前の戦い。
 近付いた面子に対して放たれた近距離用の、拡散する光はその数も相まって躱し辛い事この上なかった。身に走った痛みは今もなお覚えている――が。
 あれはチャンスでもある。
「あの光は、外骨格を開かないと撃てないみたいだからな」
 瞬間。モンス・メグの充填の流れを乱すべく、行使するは魔力の操作。
 対象の魔力を外部から操作する魔力術である。内の流れを乱してやり、そして力は己へと。
 そうしながら思考を馳せるのは奴の外殻の一軒……
 モンス・メグへの攻撃を阻んでいる外骨格。あれの一部が解放される事象がある。
 さすれば直にダメージを与える事の出来る好機ともなるのだ。無論、言う程簡単ではなくリスクもあろう。もしかしたらもう一度この身に穴をあける事になるかもしれない。
 それでも、脅威に対してチップを詰めるのであればリスクばかり恐れてもいられない。
 なにせ酸の砲弾があるとはいえそれは四発で。

「今だ! 撃てェ――!!」

 そして今その一発が放たれた所である。
 エイヴァンの号令と共に放たれる酸の砲弾――浮上した際を狙った一撃が、モンス・メグに着弾して。
 その身が溶ける。ほんの一部ではあるが、奴に明確に弱い所が発生したのだ。
「さぁ行くぞ鯨野郎」
 故にと。直後に動けたのはレイチェルで。
「お前にとってのレイン・クロインは此処にいる」
 紡ぐのは怒り。憤怒ノ焔。
 レイチェルより零れた血液が魔術の域へと昇華を。術者たるレイチェルの命を燃やして。それでも相手をなお強き紅蓮の焔で包まんとする。その勢いたるやモンス・メグ殺意の怒りすら押し返す程で。
「今回はちまちまとした小細工は不要だな。正面から行くとしよう」
 次いでシグが再度剣の姿へと。苛烈なる一撃が防御を撃ち抜かんとすれば。

「ジリ貧に――なる前にな」

 続けて破壊の力を身に纏い、薙ぐのはモンス・メグ――ではなくチルドレン。
 船体に取りつく子らが増え続けている。船員による反撃も始まっているが、そのペースは排除するよりも増加の方が上。このままではいずれモンス・メグを排除する前に船が落とされるかもしれない。
「ならば数減らしは必要だ。モンス・メグへの攻勢を……なるべく落とさない範囲でな」
「難しい状況だが、やらない訳にもいかないか」
 シグの言にレイヴンも同調し。見据えるは空より投じられてきているチルドレン。
「よく狙えよハイドロイド――貴重な餌だ」
 喰らえ、と呟けば再び魔法陣より異形の頭が。
 水圧の砲弾がチルドレンを塵へと変えて。それでも突破してきた一部をハイドロイドが一飲み。
 空中でなんとしても撃ち落とす。船に異形が蔓延るなど御免であれば。
「うわ、来ちゃった。総員、白兵戦用意、各個撃破。酸大砲の砲兵をかばって戦って」
「必ず複数人で事に当たれ! 単独で倒そうとするな、捕まれば一気に包まれるぞ!」
 そして戦場では史之とエイヴァンの言と一撃が飛ぶ。
 特に防衛の将帥たるエイヴァンの指示は、周囲の味方の動きを滑らかに。
 死なせぬ崩れぬ――防の構え。
「俺達はここに死にに来た訳じゃない。
 絶望の海の先へ行く為にあの怪物を倒しに来たんだってことだけは忘れるな!」
 全ては生きていればこそ。
 この海で戦うのならば。
「生き残る為に戦え……!」
 周囲に奮起させる。彼の在り様は、彼の鼓舞は。
 チルドレンの波に対しても決して彼は退かない。むしろ掛かってこいとばかりに意気高揚。
「ふ……成程中々の戦いぶりであるな。流石イレギュラーズか……!」
「親父! 来るぞ、モンス・メグの一撃だ――!」
 そんなエイヴァンを見据えながら、天を舞うファクルへとカイトが声を。
 直後に光帯が海を薙いだ。直撃せしは、ファクルの艦。
 今までよりも直撃の度合いが酷かったか――かなり一層の衝撃が艦を襲って。
「くぅ――!! 隊長、駄目です!! この艦はもうすぐ……!!」
「慌てるな! こんな事態は予測の範囲内……沈む前に酸の砲弾は使い切れ! 無駄弾は残すな!」
 今更もう一つの船に移すのは間に合うまい。ならばモンス・メグに放つのみ。
 戦況はまだどちらに傾くとも言えぬ状況であった。イレギュラーズ達の攻撃はモンス・メグへと届きその身へ確かな傷を刻んでいる。しかしチルドレン達は順次船に取りつき、船員へと攻撃を。
 モンス・メグ自体の攻撃も周囲のイレギュラーズ達だけでなく船にも加えられており――果たしてモンス・メグを倒すのが速いか。それとも船が沈むのが先か。
「――奴を倒すのが先、だな」
 ならばとカイトが呟く。
「なんせ親父もいるしな、負ける訳がないぜ! それになんたって俺は――『鳥種勇者』だしな!」
 からからと、笑う彼。
 三叉の槍。三叉蒼槍を天へ。味方がいて、親父がいて、そして海洋の海という立地。
 ああこれだけの要素があって――なぜ化物程度に負ける事があろうか!
「行くぜリリー……あいつを、倒す!」
「うん――いっしょに、いこう!!」
 モンス・メグへとまっすぐ視線を向けて、リリーと共に決意を固める。
 護る。護る――必ず護る。
 お互いを。仲間を、この海を!
「ぜったい、たおすんだ……! じゃま、だからどいて……!」
 故に。リリーが展開するは輝く闇の月光。月の魔力が敵を、チルドレン達だけを包んで照らす。
 弾く、弾く、弾く――誰にも私達の邪魔なんてさせないから。


 おのれ虫けら共がなぜ死なぬ――

 モンス・メグは憤怒していた。ちょこまかと煩い虫共がなぜか死なない。
 あああああイラつかせてくれる。何度払っても、何度打ちのめそうとしても奴らは何故か――

「ぉぉおおおお!! 当たらねぇぞそんな程度――ッ!!」

 飛ぶカイトが吠える。緋色の翼をはためかせ、モンス・メグの光帯を回避し続け。
 ファクルと共に往く。ファクルは剣を、カイトはその手に術を形成し。
「お袋の技だ……浄化の水を受けてみな!」
 白く輝く水流を放つのだ。それはカイトの母親――ジェンナが紡ぐ魔術の一種。
 裏・占星術、水天溺星。相手の意識を歪める精神への干渉も含んだ占星術である。占星術……特に裏とは一体……だがそんな些細な事はともあれ、その術は確かにモンス・メグにも有効。
 遥か遠方にすら届く白き水流はモンス・メグへと直撃し。
「うみのなかにも……にがさないよ……! ここで、たおすんだ……!!」
 直後に共にありしリリーの魔弾が酸で弱った箇所へと直撃。
 己が強き精神力を弾丸に。そして決して一撃だけで終わらせることはしない――
 狙える限り狙い続ける。そして魔力が摩耗すれば、吸収の弾丸を放ちて回復。
 モンス・メグは速度はあるが巨体故に小回りは効かない。攻撃は当てやすく、故に。
「貴重な一発だ! あんなデカブツ相手に、外すなよ!」
 酸の砲弾も比較的直撃させやすい。
 大砲は固定物であり、射線が明確に区切られる故どのタイミングでも当てやすいとは言わないが……ファクルやエイヴァンのタイミングが良い指示があれば『当てる』事自体にさほどの問題はない。轟音轟かせ、またもモンス・メグへとぶち当てれば。
「流石ファクルさんの船――頼もしい事この上ないわね」
 微かに笑みを浮かべるはアンナ。絶好のタイミング、素晴らしきと。
「例のアレは持ってきていないの。だから、今日は最後まで付き合ってあげるわ」
 機動力を引き上げる前回の――は、此処になく。故に後退の二文字は無い。
 退かぬ。最後まで、奴の最期まで付き合ってあげましょうと――黒き薔薇の舞を。
 可憐にして不吉の象徴。モンス・メグの外殻を刻まんとする一撃を繰り出して。

『――』

 瞬間。モンス・メグは見た。己が眼前を飛び回るアンナが――
 気楽に、ピースサインを見せて来るのを。

 憤怒――憤怒憤怒憤怒憤怒。
 煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い。
 消えろ消えろ速やかに。速やかに速やかに速やかに速やかに速やかに速やかに。

 なんだそれは余裕だとでも言うつもりか? 羽虫の分際で何様のつもりか。
 あまりの怒り。一際巨大な光の帯が戦場を横薙ぐ。
 直後、薙いだ地点で爆発が生じた。巨大な水柱が発生しうる程の衝撃。
 幾人かのイレギュラーズも巻き込まれたか。比例して、威力も巨大だった――

 が。

 モンス・メグの動きが鈍る。続いての光帯を出そうと思って……出せない。
 ガス欠だ。以前の戦いでも、奴の連射機能には限界があった。
 先の強烈なる一撃は威力も高かったが比例して消耗も激しかったようで。
「……愚かな。病に侵された身で無茶な行動をすればどうなるかぐらい、頭を回せば分かるだろうに」
「いや。奴は所詮化物だからな――回す頭もはたしてあるのかどうか」
 されば。この瞬間を待ち望んでいたシグとレイチェルが素早く動いた。
 特にレイチェルは『病』をその目に捉えることが出来る。
 症状の悪化。身を蝕むその病の脈動を冠した時。奴の動きが緩んだタイミングで――往く。
 己が周囲に怨霊を顕現し。
 この機を逃すまいとモンス・メグを見据え。
「言っただろ? お前にとってのレイン・クロイン、死神は俺だってなァ」
 歯を軋ませる。お前の所為で幾人死んだのか。サフロスの街も、前回の王国の軍人も……!
「殺された奴の無念、此処で晴らす……! 殺した分だけ――苦しみを知れ!」
 レイチェルの一閃。疲弊した『奴』へと全開の一撃を叩き込んだ。
 逃すまい逃すまい。教えてやる。死の恐怖を、無念の叫びを。殺し続けたお前へと。
 そんな彼女をシグは支援。先の砲撃で傷ついた身を、治癒の術が包んで。
「ここで倒れるのは致命的なのでな……我らが倒れぬ事こそが、奴にとっての苦ともなろう?」
 急速に傷を癒していく。
 そして攻勢の掛け所だと、察したのはレイチェルとシグだけではない。
 皆が、だ。先の砲撃――傷つけどももはや立てぬ程のダメージを受けた者はいない。
 立ち上がる力はあり、そして今なお奴を打ち倒さんとする意思に燃えて。
「こっちは任せろ……誰も死なせねぇぞ。俺の目が届く範囲では――なッ!!」
 エイヴァンの雷撃が如き一撃がチルドレンへと振るわれた。
 船は一隻沈み、残り一隻へ。しかしそれは幸か不幸か――船員の戦力が一点集中。
 さればエイヴァンの将帥の力もまた多くの者を対象とするものだ。こちらへと向かってくるチルドレンの数も集中に、膨大な敵を相手取る必要は出てくる、が。
「戦い方は変わらねぇ! とにかく死人を出させるな!
 敵の勢いに呑まれず戦え――敵の親玉は必ずいつか倒れる!!」
 戦力が分散しているよりも戦いやすいだろうと判断し、常に味方の鼓舞を続ける。
 己が身に傷が増えようともそれがどうしたというのか。
 海の男の生きる意思を舐めるなと。そして味方を鼓舞せしそれは。
「怯むな! 何のためにここへ立っている!! この海を「希望の青へ」塗り替えるためだろう!?」
 史之も同様に、だ。背に生み出した光の翼から放たれる光刃がチルドレンだけを穿ち。
「俺は大号令の体現者、秋宮史之――最後まであなたたちを見捨てやしない」
 女王陛下より信託を賜った身として、決して女王の子らを捨てるものか。
 前線に立つ勇ましき姿は誰の士気をも上げるものだ。
 船での戦いは物量戦になりつつあるが、エイヴァンや史之の奮闘ありまだ沈みはしない。
 やはり今だ。この瞬間こそが最後の攻勢のタイミングだと――誰もが思った――
 その時。

「ガ、ゴ、ガ――」

 呻くような響きが発せられと同時。
 モンス・メグの外殻に動きがあった。
 これはあの光を拡散させる一撃の予兆。前回のイレギュラーズを薙がんとした攻撃――
「ああ、ああ知ってるぜ。前回は、よくもやってくれたよな」
 呼吸一つ。空を蹴って。
 シラスが跳んだ。
 モンス・メグの身が輝いている。拡散せし光の収束による前兆か。
「やってみろよ。だけどな、それがお前の終わりになるんだ」
 ただでさえ酸の砲弾により弱っている箇所が出来ている事態。
 そんな状態の外殻を開けば――どれだけ弱みを晒す事になるか分かっているのか?
 生じる放電が如き光の脈動。されどシラスに恐怖は無く。
 炸裂した光線の中に突っ込んだ。
 掠める光。一撃でも当たれば再び殺意の中に埋もれよう。それでもあの日とは違う。あの日、その技は見て。今日この日、己が身のこなしはあの時と異なり。
 ――更に昇華されているのだから。
「悪いんだけど、俺はアルバニアの所に着くまで死ねないんでな」
 そもそも冠位――アルバニアまで辿り着けねばいずれにしろ『死』が訪れるのだ。
 一歩だって退けはしない。臆した一歩が、死に捕まれる一歩になるのだから。
 己が腕の中に生み出す光。それは、モンス・メグの光よりも輝かしく――
 外殻を抜けた肉へと、直撃した。
「――――■■■■■■■■■■■■!!?」
 もはや言語ですらない響きが奴より発せられ。
「外殻の下が弱点ではあるだろうけれど――『此処』もきっとそうだよね」
 瞬間。開いた口へと滑り込む様にサクラが往く。
 拡散する光が届かず、そして外殻で埋められていない口の中へと。
 閉じられる前に、速力を武器として踏み込む。構えた剣を音速の殺術と共に。
「逃さないよ。ここで終わりだ……! サクラ・ロウライト――推して参るッ!」
 無数の斬撃。光線の発射口を、もはや打てぬ様にと切り刻む。
 溢れ出る血。噴出する汚濁の如き血流がサクラの身に降りかかるが――頓着しない。
 ここが、この時を逃して攻め時などもはや存在しないのだから。
「今更あなたや廃滅病が怖くてこの場に居る訳がないでしょう!
 付き合ってあげるわ『死ぬ』までね!」
「カイトさんのおとうさんのしゅくてきは……リリーのてきでもあるんだよ……!」
 次いでアンナとリリーの一撃も重ねられる。モンス・メグの開いた肉の部位に。
 絶叫。絶叫、絶叫――全ての痛みにモンス・メグが叫んで。
「……これ程の存在であっても死病からは逃れられぬか」
 そして複数の痛みに。内より蝕む死病に苦しむモンス・メグの様子を見て、呟くレイヴン。
 これ程巨大にして強く。強靭にして倒し難き存在であっても――死ぬ。
 それは間に合わなかったのならば、一部のイレギュラーズの未来の姿でもあって……
「救われぬ魂ならば慈悲を与えよう」
 言うなり、彼は大鎌を構えて。

「速やかに逝け、それが葬送だ」

 一閃した。
 それは歴史より消えた『無銘の執行者』を己が身に下ろした一撃。必殺の断罪。執行の一瞬。
 拡散光帯により晒された肉に深く突き刺さって。
「――!!」
 幾度目のモンス・メグの『吠え』か――内からも外からも走る痛みに――奴は――

 死――ね。
 死――ぬ。
 死ぬ。

 あああ馬鹿な死ぬ? 死ぬ? 死ぬ? なぜ、馬鹿なこんな虫けら共になぜ。
 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ね死ぬ死ぬ死ね死ね死ね死ね死ね死ぬぬぬぬぬぬアアアアア。
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。
「むっ、奴め――潜るつもりか!」
「させるかよッ!!」
 モンス・メグが海中深く潜らんとする様子をその目に捉えるレイヴン。
 されば奴を仕留めるに意識を見せるレイチェルが、奴の未だ柔らかき部分を狙って一撃。
 逃がさない。そのような行動に出たという事は正にあと一歩と言う事でもあり。
「海の中に引き返させたりなんかしない……貴方を海の底には帰さない。ここで必ず――倒すッ!」
 サクラの剣が、深くモンス・メグへと突きこまれた。
 水中であろうともはや諦めるものか。このまま斬り倒す! 逃がさないッ!
 己が周囲を海水が満たす――息が出来ない――
 潜航と共にサクラの身もまた引っ張られ、急速に上昇する『圧』に尋常ならざる頭痛が発生。
 それでもこの剣は離さないと、強靭なる意思がある。
 深く、更に深く。深く、深く深く――限界まで刃を突き進ませた、と同時。

「――――」

 肺に水が入り込み。
 意識が、途絶えた。


 次に目を覚ました時、そこに在ったのは青き晴天だった。
「――ご、ほっ」
 喉を水がせり上がって、思わず吐いた。
 ここはどこか――サクラが見渡せば、海の上。力なく浮いていれば、見えた視界の端に船があって。
「いたぞ、サクラだ!」
「近付いて回収しよう。幸いにして……他の魔物の姿はないみたいだ」
 聞こえた言はエイヴァンにレイヴンか。
 海洋王国の船も一隻は無事の様で……これで、当初の目的は達成しえた訳だ。
 ――と。ふと反対側に視線を寄こせば、少し離れた先に妙な影があった。
 何かの塊だ。よく見えず、暫く目を凝らして見えた――

 そこにあったのは……モンス・メグの死骸。

 生きていない。生命の鼓動を感じない。廃滅病特有の『臭い』はあるが――
「……これでサフロスで死んだ連中も浮かばれるもんだ」
 奴が死んだのは間違いない。
 サクラの、海中に至っても尚も仕留める強き意思が奴の逃亡を間に合わせず命に届かせたか。
 ファクルが瞼を閉じて思い浮かべるは、二十二年前。サフロスの大惨事による犠牲者たち。
 このモンス・メグによって――多くの者が犠牲になった。
 それもついに報われるだろうと……過去に想いを馳せて。
「チルドレン達はモンス・メグが死ぬと怯えた様にどこかへ……僕達を襲ってくるような気配は無かったし流石に海中奥深くまでは追撃出来ないので大部分は追いませんでしたが」
「まぁ……チルドレン達は数こそ多かったけれど、質はモンス・メグには遠く及ばないわ。
 改めて掃討作戦でも掛ければ、遠からず全滅させる事も出来るでしょうね」
 史之の言に次いでアンナも言葉を重ねる。
 親が死んで命令系統が消滅した故か、奴らは逃亡した。元より船員達も疲弊の極みにあったので、あのまま熾烈な壊滅戦を続けるよりは良かったと考えるべきか。
「ふ、む――」
 そしてシグが顎に手を当てて思考を。
 シグはチルドレン達が逃亡する直前……奴らに対してブレイクフィアーを撒いた。
 特に負の要素がないチルドレンに対して。その結果――『特に効果は無かった』のだが。
「或いは……あれがモンス・メグの癌なのかもしれんな?」
「……ああ。あのチルドレン共にも何か『影』が見えた。奴らも多分、何かの病気だ」
 それが廃滅病か、あるいはモンス・メグから遺伝的に受け継いだ何かは知らないがとレイチェルは紡ぐ。モンス・メグにはガイアキャンサーという別称があった。直訳すると『大地の癌』……恐らくアルバニアや廃滅病とは違う、奴独自の病気か何かがもう一つあったのでは、と……
「ま、とにかくこれでここは俺達の勝ちって所だな!」
「うん! リリーたちの、だいしょうりだよ!」
 だがその点はともあれ確実なのはイレギュラーズ達が勝利したという事。
 カイトとリリーが高らかに。サクラも船に回収し、これにて全員無事の帰還。
 アクエリア本島を巡る戦いは――ひとまずまだ他の戦況次第なのだろうが――

「借りは返したぜ――化物野郎」

 モンス・メグの死骸を船の穂先からシラスは眺めて。
 前回負った傷跡を抑えながら勝利の宣言を呟いた。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)[重傷]
波濤の盾
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)[重傷]
祝呪反魂
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
サクラ(p3p005004)[重傷]
聖奠聖騎士

あとがき

依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。

依頼は成功となります。おめでとうございます!!
これにてアクエリアを巡る戦いの一つに勝利の星が重ねられた事となります。
本島を巡る戦いは他の戦況も含めてとなりますが、これは大きな一歩となるでしょう。

MVPは貴女へ。
モンス・メグを仕留める事が出来たとして、その際には『海中に潜るならそれをどう追撃するのか』という点でした。モンス・メグは陸上には上がれませんが海中での動きは特化してるので、潜られると逃げられる可能性が高かったのですが……
見事な執念でした。おめでとうございます!

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