シナリオ詳細
<バーティング・サインポスト>私の大切な、一番素敵な宝物
オープニング
●天使の贈物
歌うクレイオの輪の中で、白く清らかな衣を纏う。
陽光のさすみなもの乱反射。
清らかな輪唱が包む世界に、彼女とあのひとはいた。
「あの子を逃がして良かったの? 連れてくることもできたんじゃない?」
あのひとは腕組みをして、そしてどこか優しげに言う。
輪唱に包まれて、彼女は――『流氷のマリア』マリー・クラークはうっとりと微笑んだ。
「大丈夫よ。あの子はきっとここに来る。だってあの子は■■■■■だもの……」
確信と信頼。そして『そうである』がゆえの妬ましさが、とろけるような瞳に浮かぶ。
「■■■■■……お友達になれればいいけど」
「きっとなれるわ。大丈夫。安心して。私がきっと連れて行くから。大好きな、大好きで大好きで大好きなみんなと一緒に、連れて行くから」
あのひとは首を振り、『素敵な家族でうらやましいわね』と皮肉げに言った。
目を瞑り、マリーは遠く遠くへ呼びかける。
「そうでしょう、デイジー?」
●アクエリアを目指して
冬の海に暖かな風が吹き始めた頃のこと。
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)の所有する豪華旅船『ビッグドリーム号』がゆらめく水面を切り裂いて進んでいた。
海中へ重く響くモーター音はもうひとつ。浮沈艦『白夜壱号』。
デイジーと同じく海洋王国においてその名をとどろかすマリナ(p3p003552)の船である。
この二隻を先頭に、およそ8隻以上からなる艦隊がある地点を目指し進行していた。
目的地はそう。
絶望の青攻略において最重要となる橋頭堡候補地。
――『アクエリア島』
しかしこの島には、無数の魔種と狂王種たちがひしめいていた。
海洋王国はここまでの外洋遠征においていくつもの地点に橋頭堡を築き着々とその勢力を伸ばしていった。
戦略において陣取りは重要であり、補給や即応部隊駐屯基地の確保はイコールで勢力地の拡大となる。
そんな中王国が探し求めていた極めて有効かつ重要な地点『アクエリア島』が発見され、ついにその攻略作戦が始まったのだった。
「それにしても、金のかかった艦隊ですね……」
マリナが振り返ると、デイジーに負けず劣らずの豪華な船が並んでいる。
『ゴールデンパール号』『スターライトジェミニ号』『ナイトオブテンタクル号』。それぞれクラーク家の兄弟たちが所有する改造戦艦である。
これにローレットから派遣された三隻ほどの船を加えたローレット&クラーク合同艦隊が編制されたのにはわけがある。
「身内のなかから魔種が出たのじゃ。これで兵を出さなかったら信用に関わる」
デイジーはといえば、船のデッキにビーチチェアを持ち込んでのんびりとくつろいでいる。
「だから妾もこうして来たのじゃ。船に強いお主も呼んでのぅ」
「そんなもんですか……」
●デイジー・クラーク暗殺計画
『流氷のマリア』。
クラーク一家次女マリー・クラークが魔種であったことが発覚したのはついこの前だ。
彼女がナワバリとしていた古代遺跡へ探索に出たデイジー及びローレットチームは、正体を隠して同行していたマリーの襲撃にあい壊滅。しかしマリーは倒したデイジーたちの命までもを取ることはなく、島に放置したまま姿を消した。
「追いついてこい、ということなのじゃろうな」
海洋王国およびローレットの戦力がアクアリアに集結しているように、アルバニア傘下にある魔種たちもまたアクアリアに集結しているという。
その中にマリーがいることは想像に難くなかった。
「見えてきやがりましたね……」
現に、アクアリアへ近づく海の一部には無数の流氷が生まれ、船の進行を強引に阻んでいる。
その中央には、巨大な『氷の船』に乗った魔種マリーの姿があった。
「マリー・クラーク発見! 各員戦闘態勢!」
『了解、各員戦闘態勢』
展開する艦隊。
中でも行動が早かったのが『ゴールデンパール号』『スターライトジェミニ号』『ナイトオブテンタクル号』。
それらの主砲が、すべて。
デイジーの船へと狙いを集中させた
「そうじゃろうのぅ」
ばさり、と扇子をひろげるデイジー。
と同時に彼女の船に防護フィールドが展開し、放たれた砲弾が空中で爆発していく。
「――!?」
フレンドリーファイア、にしては意図的すぎる。
身構えたマリナに対し、デイジーがごく冷静に言った。
「クラーク家の財産をまるごと相続する妾が邪魔なのは皆同じ。このタイミングで妾を消せば魔種のせいにでき英雄譚もねつ造できる。狙わぬはずがないのじゃ。故に――」
デイジーのつれていた残る三隻ほどのローレット船が、彼女を囲んで守るように展開。
「お主らも連れてきたのじゃ」
●マリアの呼び声
――マリー。彼女は兄弟姉妹が大好きでした
――家族は、みんな素敵で、優れていて、私の大切で、憧れでした
――だから彼女は、兄に姉に弟に妹に、貴方達はどれほど素晴らしく、優秀で、素敵かをいつも語りかけていました
――その声はほんの少しずつ、兄弟姉妹を蝕みました
――彼ら、彼女らは『優れた自分より認められた者がいていいわけはない』という嫉妬の狂気に飲まれました
――本来実行されるはずのなかった殺意を、こうして形にしてしまうほどに
「これで、みんな一緒よ。デイジー」
マリーは氷の船から大砲を生やし、無数の『クレイオ』を生み出して解き放った。
「みんなひとつに溶け合えば、きっと仲良くできるわ」
- <バーティング・サインポスト>私の大切な、一番素敵な宝物完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年03月20日 23時15分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●実行されるはずのなかった殺意
――家族が憎いと思ったことはない? こんなヤツ居なければって思ったことは?
――けど本当に消してしまいたいなんて、本当に殺してしまおうなんて、フツウのひとは思わない。手をそめない。
――だけど、どうかしら。
――本当にしなければ、殺し合わなければ、わかり合えない家族だっているでしょう?
――いちばん近くて、違う人。
――自分の持っていないものを、もっている人。
――それが妬ましくて、手をあげてしまうから。
「ふうむ、奴ら……次男のみならずとうとう妾にも手を出したか。B338無名島で死ななかったのが相当ショックらしいのう」
フン、下らぬ。『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は玉座のうえで足を組み、両サイドから一生懸命大きなうちわであおぐメイドや執事たちをちらりと見てから、畳んだ扇子でマリーの船『デモニア・クリスタルディオネ号』を指さした。
「聞け皆の衆!
妾こそはデイジー・クラーク!
海洋王国にその名を轟かす、クラーク家が末子にしてその全てを受け継ぐことを約束された者じゃ。
この戦いの勝利の暁にはお主達に我がクラーク家の名誉と誉れを約束する。
存分にその力を見せるのじゃ!」
デイジーを心棒する執事(元コンビニ店員)、メイド(元OL)、チョコをあーんする係(元漫画家)たちが一斉に声を上げた。
「「イエス・マイ・デイジー!」」
賑やかな豪華旅船『ビッグドリーム号』。
「他が死せればそれを道とせよ。己は死せれど共に在ると刻め。
面倒だから、と言ってはおりましたが……わしを担げばどうなるか分かっているでしょうに」
『名乗りの』カンベエ(p3p007540)は腕組みのように差し込んでいた袖から手を抜くと、後ろに控えていた浪人風の部下達へ振り返った。
「なんだい、随分キモの小せえコトをいうじゃねえか」
「あんたについて行ったわけじゃあありませんよ。あんたの夢についていったんです」
「オイラぁ勉強はできねえが人を見る目はあるんだ。おめえさんは大物になるよぉ」
気性のあう者たちなのだろう、一言かわすだけでカンベエと同じようににっかりと笑った。
『そういうことならば』と前へ無k治る。
黒鞘におさめた刀をカチリと抜いて、カンベエは敵船中央へと突きつけた。
「征きやしょう。どこまでも。――名乗りのカンベエ! 開幕披露仕る!!」
「名誉大佐ぁ、こりゃあ随分分の悪い勝負になりましたねえ」
船を操縦する熊獣種の兵士が、『二代野心』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)へと振り返った。
「見て分かる。いや、誰でも解る」
エイヴァンは斧に氷の弾丸を込めながらぼやくように言った。
「デイジーたちが発見・遭遇した『流氷のマリア』討伐のために組まれた艦隊だというのに、そのうち三部隊もこちらに敵対行動をとりはじめたからな。戦力でいえばこちらと同等……いや、同等以上はあるとみていい」
「そんなにですかい」
「重要なのは、『流氷のマリア』とクラーク家の兄弟たちは協力関係にないということだ。実質的に三つ巴だな」
パンダ獣種の男がポンと手を叩いた。
「じゃあ『流氷のマリア』に例の兄弟たちを襲わせればいいじゃないですか!」
「ばかもん。『流氷のマリア』の狙いはどう考えてもデイジーだ。むしろそうなることを見越してこのタイミングで敵対行動に出てるんだぞ、連中は。そしておそらく政治的な仕込みもバッチリなんだろうし、な」
エイヴァンは長年のカンからクラーク兄弟たちの思惑を読み取っていた。
これまでお互いに水面下で嫌いあってきたということは業界の常識ですらあるが、だからといって直接的な攻撃行動に出ないのはそれが自分たちの立場を悪くすると知っているからだ。
ひるがえって、今回ここまで露骨な攻撃行動を、それも『せーの』で行ったことにはそれ相応の理由があるということだ。
「さては、『流氷のマリア』になにか絡んでいるな……?」
「ああ、ちょっと、分かる気がしますよ。以前の依頼の裏で動いていた計画があるらしいんですが……」
『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はチーム『TAIYAKI』の中からトータルファイターを集めた『TAIYAKI-DAISUKI分隊』を後ろに控えさせたまま、エイヴァンの会話に混ざった。
「『こどくひめプロトコル』というんですが……この状況からして、計画的かつ大規模な暗殺なのではないかと」
ベークはフウと息をついて首を振った。
「デイジーさんもそれをうっすら見越した上で計画にあえて乗ったところがアルみたいです。前回同様僕を巻き込んだのもそのためなんでしょうね!? ね!?」
振り返るベーク。
彼をガン見しながら鯛焼きをムッシャムッシャ食っていた部下達が『え、あ、はい!』と背筋を伸ばした。不安だな。
「エイヴァンさん。彼らの指揮は任せますね」
「俺がか?」
「僕はデイジーさんを庇うことに集中するので」
あとはよろしくたのみます。
ベークはそう言ってから鯛焼きにホイップクリーム絞りながらムシャムシャ喰ってる部下達をひとりずつべしべし叩き始めた。
グレイスフルイザベラ号。
言わずと知れた『大号令の体現者』こと秋宮・史之(p3p002233)の船である。
腕時計型の理力障壁発生装置を起動し、左手の薬指には指輪。
「家族仲が悪いのは同情しちゃうな」
「『体現者』、おたくの家族も仲が悪いのかい」
リリスガーデンという島を出身としたディープシー女性が、史之の背中に問いかけた。
「さあ……どうかな。良かったようには、見えなかったけど」
誰もが悪いわけじゃないよ、と指輪を眺めてつぶやく。
その様子に、キャプテンオルカがたばこをくわえたまま笑った。
「あんたがクヨクヨするとは珍しいなブラザー。女王陛下への献身はどうした」
「もちろんあるさ。僕を誰だと思ってる」
振り返る史之。彼の部下は、彼が海洋王国でいくつもの依頼をこなした中で知り合った腕利きの者たちである。特に今回は敵の統率を乱すことに長けたメンバーを集めたつもりだ。
「行こう。この海を『希望の青』へ塗り替えるには君たちの力が欠かせないんだ。力を貸してくれるね?」
「モチのロンでさあ! こちとら旦那のおかげで第二の人生が楽しいんでね!」
愉快そうに笑う体現者分隊。
一方で『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)が率いる分隊はどこか静かに、しんみりとした空気に包まれていた。
(やれやれ、お家騒動ってやつは大変だねぇ。
体よく巻き込まれたような気がしねぇでもねぇが……文字通り『乗りかかった船』なら仕方ねぇ、やるとするか
ま、デイジーには前に力を貸して貰った恩もあるしな、ここらで返しておくのも悪くねぇだろうさ)
「あんた、少し変わったわに」
ワニ海種の女性が腕組みをして十夜の横顔を眺めていた。
「前は『人生ずっと暇つぶし』って顔してたのに」
「そうかい? おっさんはか弱いんでね。老い先も短いのさ」
「よくいうわよ。あんだけ要領よくこなしておいて」
海苔活殺の字が掘られた銛を手を抱えて苦笑する美女。
体現者とはまた別の意味で、十夜もまた海洋王国からの依頼を積極的に受け続けてきた。
スタンスはずっと変わらないつもりだったが……。
「お前さん方に命を預ける。後ろは任せたぜ」
さいきんどうも、ガラじゃない。
一方こちらは『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)でおなじみ白夜壱号。
すっかり艦隊指揮が板につき始めた『海の漢』ことマリナが、部下に船の操縦を任せてデッキで風を浴びていた。
「デイジーさん……こーなるのが解ってて私を呼んだんですね……まーいーんですけど」
『マリナをくくりつけておくと沈まない』というジンクス(?)に乗っ取って、マリナをかたどった船首像やストラップまで造られる昨今である。
軽く伝説になりはじめた彼女についてくるのも、その伝説を目の当たりにしてきたかつての艦隊戦経験者。ナマズ海種の漁師である。
「私には何度も危険な海から帰ってきた経験があります。
こんな所でくたばるようでは真の海の男とは言えません……」
「そうだなお嬢ちゃ――おっとお!」
アンカースロー。真剣白アンカー取り。
「不沈艦とは沈まぬだけの船ではありません……。
船に限らず全員沈まず帰ってこそです」
自分だけが生き残った船なんて、演技でもねーですからね。
マリナのそんなつぶやきに、『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)は片眉を動かした。
そして、今も尚意味の無い砲撃を続けてくるエドワードの『ナイトオブテンタクル号』へと振り返った。
「こいつらマジで馬鹿だな。
クラーク家の財産を相続するためだったら、ここでデイジーを潰しても内部抗争があろうに。
まぁ、俺たちに勝てる訳ねェんだがな。ぶっ潰す!」
『Code:Demon』を握り込み、屈強な部下達へと振り返った。
「いいかてめェらァ!? 俺たちは今、歴史の上にいる! この阿保共を片付けてアクエリアに直行だ!
遠慮は要らねぇ! 畏れず進め! 多く敵を殺した奴ァ金品たんまり用意してやる!」
男達はヒャッハーと叫んでトゲ突き棍棒やハンマーや鉄丸太を振りかざした。
今にもウチコワシでも始めそうな面々である。
同じ船に乗り込んでいた『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は、彼らのやりとりに苦笑した。同じことを考えていたからである。
「おイエ騒動なんてキゾク出身も大変だよね。
みんな! 死なないテイドにぶっ飛ばして行くよ!」
イグナートは拳をグッと掲げて部下達へと見せつけた。
鉄帝スラムから選び出されたゴロツキたち。金のためなら手段を選ばない裏傭兵や地下ファイター、ギャングの主戦力などバリエーションは豊かだが、皆共通して明確な『利益』で動いていた。
イグナートの用意した効果的な賄賂による前金増幅と、倒した後に収奪した金品による成功報酬の上乗せ。彼らのやる気は高まり、パンパンにはりつめていた。
士気を高めることで、集団のパフォーマンスは大きく変わるものだ。
「アニキ、ブラックハンズをぶちのめした時みたいに一番槍キメちゃってくださいよ」
「別にブチのめしたワケじゃないけどね」
けど、先陣切って飛び込んでみせるのはいいな。とイグナートは拳を鳴らした。
「この船は『ナイトオブテンタクル号』にアランたちの部隊を突入させた後、そばのゴールデンパール号に突入する。逃げ足は限られてるから、片道切符のつもりで行こうね」
望むところ! とスラムあがりのメンバーは笑って反した。
一方、イグナートと部隊を連結させて小隊化していた『暁天の唄』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)。
「家族円満、とはいかないものなんだね」
ゴールデンパール号で待ち構える精鋭たちに顔をしかめた。
「遺産のために、殺す? ……そっか。なら死ね、って言いたいところだけどそうもいかないからね。寝ているといい」
ロッドを地に突くように立てると、部下達へと呼びかける。
「パールの部下は雇い主であるパールを守ろうとするはず。できるかぎりその妨害をはかって。かばいにはいる人数が減れば減るほど有利だ」
そこまで言ってから、アランやイグナートのやり方をふと思い出した。
あのやり方はいいな。よし。
リウィルディアはもういちど声を張り上げた。
「短期決戦だ。体を張れ、イグナートさんに近づけさせるな! 護り切った奴には色を付けてやる!」
「ほう、そりゃあやる気が出ますな」
髭をたくわえた海兵が左右非対称に笑う。リウィルディアは敵船へと振り返り、ロッドを突き出し行軍歌をうたいはじめた。
いざ衝突。決戦のとき。
●エンゲージ、ブレイク
視界を覆わんばかりの青白い光線が、結界をなでるようにぶつかってくる。
エイヴァンの船がまるで小舟に見えるほどの砲撃を、しかし、彼らは気合いで突破した。
「船がぶつかるぞ! 衝撃に備えろ!」
エイヴァンはイオニアスデイブレイクを展開すると、敵船めがけて走――ろうとして突き飛ばされた。
全長2m近いクリオネ型狂王種『グレイトクレイオ』がエイヴァンに体当たりを仕掛けてきたのだ。
衝撃をにがし、かつ斧でブレーキをかけるエイヴァン。
「タダでは通さないというわけか」
エイヴァンの部下達が大砲や剣を構え突撃していく。
「人に恵まれているのね。歴史にも土地にも人にも愛されて、ちょっぴり妬ましい」
優しくささやくような、こちらの気持ちを強制的に解きほぐしてしまいそうな声がした。
と同時に、膨大な威力の光線がエイヴァンの船甲板部をなめた。
空間が凍結、爆発。
エイヴァンを呼ぶ部下の声が遠のくのが聞こえた。
盾を構えて防御していたエイヴァンは、敵戦力の大きさに歯がみした。
「こっちの部下は40。これだけあればクレイオ兵団を押さえ込みマリーへ直通できると思ったが……」
『流氷のマリア』ことマリーは確かにデイジーに執着しているようだったが、デイジーだけを攻撃してくれる(=デイジーを交替で庇っていればダメージコントロールが極めて容易)というわけではないらしかった。逆に言えば、そこまで愚かかつ視野の狭い敵ではないらしいという事実でもある。
「部下を先に潰されるとマズイ。囲まれるぞ!」
「今更ですよ」
デイジーを庇って防御を固めていたベークは、甲板をなでていく激しい砲撃に晒され、甲板を転がされていた。
それでも大きく吹き飛ばされずに済んでいるのは、彼の頑丈さのたまものである。
実際、以前の光線時にも一度攻撃を受けきっていた。
「デイジーちゃんのお友達なのね。なんどもこうして付き合って」
「巻き込まれただけですけどね!」
「うらやましくて、妬ましいわ」
おっとりと微笑み、マリーはベークに手を伸ばした。
ベークを中心とした空間がまるごと凍結し、乱れたガスによって爆発を起こす。
「ぼ、防御が……!」
「ベークさん!」
カンベエは刀に『ミリアドハーモニクス』の力を込めて振り込み、ベークの回復を図った。
少々強い程度の敵であれば、ベークから1000近いHPを奪うことは難しい。仮にそれができたとしても、1ターンでそれを治癒できるなら防壁が崩れることはないだろう。鉄壁である。
が、相手がそれを大幅に上回る破壊力を有していた場合、ひとりずつの回復と防御だけではすぐに底が抜けてしまう。率直に述べるなら『回復が常に足りない』状態である。それだけ圧倒的な戦力差を前に、いくつもの取捨選択をせねばならない場面なのだ。
「くっ……!」
カンベエの脳裏に嫌な想像がよぎる。
だがそれを振り払い、ミリアドハーモニクスを連続で打ち続けた。
「――死しても前へ! 人を、意思を抱えて走れ! 目指すは青の果て唯一つ!
繋ぐ為、生きる為、最期まで戦おうぞ!
青の果てを見るまで、くたばるわけにはいかぬ!」
カンベエの呼びかけで、追従していた部下たちが動き出す。
集中攻撃をしかけて回避の余地を消そうとするクレイオ兵団を減らすため、エイヴァンとベークそしてカンベエの部下達が挑みかかっていく。
「それにしても……」
ベークやエイヴァンたちに守られつつ、デイジーは両手に月の力を込め始めた。
「尻尾を出さぬと思っておったら出したのは翼じゃったとはの。
マリー、お主が何を思い魔種に堕ちたかは知らぬが、妾と妾の仲間に手をかけた事後悔して貰うぞ!」
「ふふっ……こうして一緒に遊べるなんて、いついらいかしらね」
マリーはおっとりと微笑み、デイジーの凶悪なまでの『月の呪い』を髪についた雪つぶでも取るように振り払ってしまった。
問題ない。圧倒できるなどとははなから思っていないのだ。
「して、マリーお主何が目的じゃ? よもや魔種に堕ちてまで妾を消しクラーク家の財産を狙おうとか阿呆な事はぬかすまい?」
「あら。おしゃべりをしてくれるの? デイジー」
「もう一つ聞いておく。あの我が間抜けな兄姉どもの様子はお主の仕業か?」
時間稼ぎのためにと問いかけ続けるデイジーに対し……マリーは、部下たちを連鎖爆破で吹き飛ばしながら、木陰で本を読むような微笑みと共に語りかけた。
「嬉しいわ。デイジー。ちゃんとおしゃべりしましょう。ぜんぶ教えてあげる。
ねえ、いいかしら、デイジー……」
マリーの囁きが、デイジーの精神にしみこんでいく。
デイジーやエイヴァンたちがマリーの船へ突撃をしかけたのとほぼ同時。
後ろから撃たれたかたちになったマリナたちは急速に船を転回させ、ナイトオブテンタクル号やゴールデンパール号めがけて突撃をしかけていた。
「ひーふーみー……敵の数はそこそこですね。
なかなかハードな状況。圧倒できるとは思わねーですが、道を開く役目は任せてくだせー」
マリナはくるくるとフリントロック銃を指で回すと、帽子のつばを親指であげて射撃角度を目算。突き出した銃で激しい射撃を開始した。
敵船ナイトオブテンタク号の甲板で爆発する魔術弾。
爆発の中から激しい射撃が帰ってくるが、ナマズたちがフルガードしたことでマリナへは一発たりとも弾は届かなかった。
「いい調子ですね。この調子で移動砲台になりましょー」
「オーケーお嬢ちゃ――ンンッ!?」
チョップをかわすナマズ。
一方、砲撃によって開いたわずかな隙をこじ開けるべくアランの部隊が突撃を開始。
「てめェみてーな奴がこんな卑怯な手を使うとはな……腐った貴族が。泣かす!」
「傷つくなあ。これは王国のための正しい計画なのに」
剣を抜いたエドワード。
優しい顔立ちからは想像もつかないほど冴えた剣が、アランの超高速連続斬撃を打ち払っていく。
「さすがアラン・アークライト。聖都に伝説を作っただけのことはある。『腐った貴族』に褒められても嬉しくないかい?」
「チッ……!」
アランたちの計画は『デイジー含む四部隊がマリーを抑えている間にエドワード、パール、レジレナの三部隊を完全に撃滅する』というものであった。
本作戦の趣旨からすれば、このクラーク兄弟の『横やり』は最悪無視しても成立するだろう。マリーさえ倒す(ないしは撤退させる)ことができれば、そのまま逃走してしまっても何ら問題はない。
つまるところイレギュラーズは、オプション要素の達成に尽力すべく、戦力の大半をさいたのだ。
ちらりとみれば、アランの部下たちはエドワードの部下と互角に渡り合っている。
「雑魚どもかと思ったが……」
「ますます傷つくなあ。誇り高きエドワード・クラークの騎士団が『雑魚』だなんて。君ほどの手練れからしたら、そうなのかな」
そうはいうが、実力はさほど離れていないようにも見える。
油断したら即座に負ける。それほどの敵であった。
一方、船に横付けしてきたゴールデンパール号からパールの部隊が突入を仕掛けてきた。
「イグナートさん、リウィルディアさん、そっちをおねげーします」
マリナが背を取られないように協力を要請。
リウィルディアは大きく歌をとなえ、『ディスペアー・ブルー』の魔術を形成した。
「邪魔だよ。君たち程度に構ってられないんだ」
パールファイナンスのシークレットサービスたちはパールを守る形でガード。
と同時に特別な魔術を込められた拳銃を連射してきた。
防御をかため、リウィルディアをまもる部下達。
「あら、やるわね。名前を聞いていいかしら」
「こんな連中に名乗る名なんてないよ」
リウィルディアは不敵に笑い、さらなる砲撃をしかけた。
そこへ突撃をかけるイグナート。
「ありがとう、あとはエンゴ射撃を頼むね!」
イグナートは拳に激しいエネルギーを込めて殴りつけ、パールの守りについていたSSを下がらせた。
イグナートを引き剥がそうとSSたちが両サイドから組み付こうとするが、イグナートは旋風脚によってSSたちを弾き飛ばした。
彼とぴったりと息の合った動きで滑り込んだ部下たちが、SSにタックルをしかけて動きをひとりずつ封じていく。
「この動き……金の臭いがするわ」
「よくわかったね。キミの船もそのホウシュウの一部だよ」
ハイキックを繰り出すイグナート。
パールはキセルをかざすことで生み出した魔術障壁でそれを防御した……が、防ぎきれない風の刃が彼女の頬を切った。
「義勇兵というわけね。うまい兵の使い方だわ。特に私を相手取るにはぴったり」
「お褒めにあずかりコウエイだね」
「あなたが私の部下じゃなかったのを悔やむばかりだわ」
ハアとため息をついて、パールは使い捨ての魔術封入カードをパキパキと折り始めた。
一方こちらはグレイスフルイザベラ号。
左右対称のデザインをしたスターライトジェミニ号めがけ、まっすぐに突入していった。
「いくよ。敵は連携の弱い傭兵部隊。同士討ちができれば楽だ」
「そう美味くいくかねぇ」
十夜はそんなふうに言うが、しかし表情はさっぱりとしていた。史之に対して言外の信頼をおいているのだ。
十夜と史之。あまりに多く戦闘を共にしすぎた仲。互いのプロフィールをまるで気にかけないが、しかし性格や動きは手に取るように理解しあっている。
いわば彼らは『同族』であった。
「来たね、レナード」
「迎え撃とう、レジーナ」
レナード&レジーナはシンメトリーな動きで身構えると、ほぼ同時に、そして先陣を切って史之たちの船へと乗り込んできた。
防衛はお手の物。史之はすぐさま理力障壁を広げツインフライングキックを仕掛けてきたレジレナの攻撃を受け止めた。
「海洋特別貢献を管理してた子達だよね。君たちどうしちゃったの?
なんでこんなことしちゃったのさ」
「僕たちこそ聞きたい。なぜお前ほどの男が海洋王国を裏切った?」
「……なんだと?」
レナードの言葉に、史之は露骨に顔をしかめた。
言葉で追うレジーナ。
「私たちが秘密裏に追っていた『流氷のマリア』に内通し、この島への襲撃を準備させたでしょう?」
「僕が? 女王陛下にあだなすことをだって? ふざけるな!」
障壁に反発力を加えてレジレナをはじきとばす史之。
二人は宙返りをかけて着地すると、さらなる連続攻撃を仕掛けてきた。
「とぼけるな。『流氷のマリア』があれだけの戦力を有していながらお前達を生かして無名島に残した理由はなんだ」
「デイジー・『リトルリトル』・クラークと組んでなにをしてるの。白状しなさい」
「おっと、いいがかりはよしてもらおうか」
二人の襟首を掴み、投げ落とす十夜。
その周囲では、彼らの部下達がレジレナの部下である傭兵団とバチバチにぶつかっていた。
同時にそしてシンメトリーに回転して立ち上がるレジレナ。
立ち上がり時にナイフのごとく繰り出された手刀を飛び退いてよけ、十夜は肩をすくめてみせた。
「おいおい、かよわいおっさんになんてモンを向けてんだ」
「お前がかよわいわけがあるか」
「『ワダツミ』の戦法が私たちに通じると思わないで」
「……へえ」
ただ者では、どうやらないらしい。
十夜は警戒を120%に高め、そしてやや真面目に身構えた。
その上で話しかけ、隙をうかがう。
「裏切りだなんだと言ってるが、ハラの底じゃあ遺産を独り占めできるあの子がうらやましいんだろう?
他人様の家の事に口出すのは野暮なんだろうが……自分の『底』を決めるのは、あくまで自分自身だ。
這い上がるのをやめて、上にいるやつらを引き摺り下ろした所で、何も変わりゃぁしねぇぞ。それでいいのかい、お前さん方」
「今更だな、競争社会で上を引きずり下ろすことを躊躇したなら、飢えて死ぬだけだぞ、■■■」
「……それ以上はよしてもらおうか?」
踏み込みすぎだ。
十夜は小さくささやいて、レジレナへと挑みかかる。
●アクアリア東南エリア撤退戦
立て続けにおこる爆発に晒されながら、エイヴァンは左腕だけで必至に船の操縦をしていた。
流れる血で片目を瞑り、歯を食いしばって唸る。
カンベエは血まみれの身体で船の手すりに寄りかかり、荒い息をしていた。
「エイヴァンさん……ワシら、生きて帰れるんでしょうかね」
「弱音か?」
「まさ、か」
ヘヘッと顔だけで笑うカンベエ。
「『青の果てを見るまで、くたばるわけにはいかぬ!』で御座い」
『流氷のマリア』へ挑んだエイヴァン、ベーク、カンベエ、デイジーの部隊は、圧倒的な戦力を前に撤退を余儀なくされた。
部下たちは倒され、指揮官であるエイヴァンやカンベエもまた倒された今、残るはデイジーとベークのみ。そのベークも、マリーの度重なる爆撃から瀕死の部下を庇うので精一杯だ。いや、もうじきそれもできなくなるだろう。
「マジの乗り掛かった船ですし、お付き合いしますが……これは流石にしんどいですね、デイジーさん」
ヒューマンフォームになったベークが片膝を突き、ぜえぜえと息を荒げる。
その横で、デイジーはじっとマリーの顔を見ていた。
「……デイジーさん?」
どっと押し寄せるクレイオ兵団。
このまま船に乗り込まれれば部下の命を失いかねない。
が、そこへ打ち込まれたのがマリナの砲撃であった。
「デイジーさん。絶望の青を越える為にもこの方が必要なんです。貴方なんかに渡しませんよ」
クレイオの一部を吹き飛ばし、白夜壱号をかっとばしてマリーの船の横っ腹に体当たりをしかける。
「合流して倒すって雰囲気ではねーですね。ここは任せて逃げてくだせー」
「チッ、貴族野郎に手子摺っちまったか? 殺さねえように仕留めたつもりだったんだが……そうも言ってられねえ状況だな」
エドワードたちを『殺さずに倒す』ことが、今回彼らの目指したオプション条件であった。
もちろんその条件を安全に満たすためには、邪魔になる部下の徹底的な排除と、うっかり殺してしまわないための徹底した不殺攻撃を要する。
それだけ時間的リスクの生じる作戦であった。
アランはマリーの船に乗り込み、猛烈な勢いで斬りかかる。
「お前は一生デイジーに追いつけねぇよ! 融けて水底へ沈め!」
更に、マリナたちの船に乗り込んでいたイグナートとリウィルディアの部隊が到着。
傷ついた身体をかばいながら指事を出すリウィルディアによって、部下たちが周囲のクレイオ兵団へと銃撃をしかけた。
「イグナートさん、例のやつはまだ使えますか」
「イッパツだけね」
とっておいたよ、とイグナートは『バスタースマイトV』をマリーめがけてたたき込む。
庇うように割り込んだクレイオ兵が、その上半身を消滅させた。
その、一方。
●閑話休題『天使の贈物』
デイジーちゃん。
デイジーちゃん。
私の一番の宝物、デイジーちゃん。
私はずっと、あなたみたいになりたかったわ。
覚えてる? あなたが初めて家族になった日のことを。
お父様が妾の子だって言って連れてきたあなたを、兄さんも姉さんも、レジーナちゃんもレナードちゃんも、みんな暖かく迎えたわね。
パール姉さんはお金の大切さと世界をまわる仕組みを
エドワードお兄様は家族の誇りとそれによって支えられる人々を
レジーナちゃんとレナードちゃんは施すことの尊さと美しさを
みんな優しく、あなたに教えた。
その全部を吸収して誰よりも優秀に育つあなたを、兄弟みんなが祝福したわね。
あのとき私たちは、本当の家族になれたわね。
ねえ、けれど、わかるかしらデイジー
私はあなたに何もあげられなかった
私は家族になにもあげられなかったの
それがとてもとても悔しくて、うらやましくて、憧れて
だから私、みんなのいいところを探して教えることにしたの
みんなのいいところをいっぱいいっぱい教えれば、きっと家族を素敵に思えるでしょう?
ねえ、けれど、なぜかしらデイジー
みんなあなたの素敵なところを知るたびに、少しずつおかしくなってしまったわ
あなたが誰より優れることが、本当なら喜ぶはずのことが、お兄様たちは許せなくなってしまったの
だからこんな、悲しい戦いが起きてしまったのね
ねえ、けれど、どうかしらデイジー
あなたはこの戦いを終わらせることができるんじゃない?
みんなを従わせて、信じさせて、崇拝させて、持ってる全部を献上させて……
また、家族をひとつにできるんじゃない?
そうでしょう
だってあなたは、あなたこそが、『こどくひめ』なんだもの
だから、ねえ、おねがいデイジー
私の一番大切な宝物
みんなの『こどくひめ』になって
●返答保留
「デイジーさん……?」
不安げに振り返るベーク。
デイジーは、すう……と息を吸い込んでから、ため息にして吐き出した。
「お主阿呆じゃろ?」
「……デイジー?」
目を細めるマリー。
「世界が嫉妬する妾の優秀さを妬んだ、馬鹿どもの自業自得。
そして、お主はいらぬ世話に勝手に心を痛めた阿呆。
つまるところ、それだけじゃろ」
安堵するベークたち。
だがデイジーはそこまで言って、そしてイタズラをする小悪魔のように……いや、悪魔そのもののように尊大に笑った。
「マリー、いや流氷のマリアよ。取引じゃ」
「……デイジーさん!?」
不穏な空気に身を乗り出しかける仲間達に手をかざし、デイジーは続けた。
「お主が今すぐアルバニアを妾たちの前に引きずり出せるなら考えてやってもよいぞ。その『なんとかひめ』になってやってもよい」
「あら、あら……いけないこね、デイジー」
マリーは困ったように頬に手を当て、けれど優しく笑った。
「今の私に取引をもちかけようだなんて。それも、びっくりするくらいに一方的な」
「妾らしいじゃろ?」
いつでも余裕でいつでも尊大。
デイジーは胸を張って述べた。
マリーは首を振って、しかし楽しそうに笑った。
「けど、だめね。そんな条件は飲めないわ。だからこの取引(やくそく)は結べない……魔種(おともだち)には、してあげられそうにないわね」
「ほう……なんじゃ、つまらぬ」
顔をしかめるデイジーに、マリーは楽しそうに笑い続けた。
「デイジーさん! そいつから離れて!」
レジレナとの戦いを終えたらしい史之と十夜の部隊が合流し、船を横付けしてくる。
味方は少数。
敵の大群は残ったまま。魔種はこの通りぴんぴんしている。
マリーと十夜、そして史之はしばし敵対的な視線をかわしあったが……十夜は肩をすくめて首を振った。
「これ以上残業はごめんでね。逃がしてくれるってぇなら、お言葉に甘えるまでさ。だろう?」
「……無理に抵抗して、逃げ切れる自信はないですしね」
レジレナたちを鎮圧できたとはいえ、こちらもだいぶ部下を損耗していた。
この状態でマリーの部隊を退けられるとは思えなかった。
仮にできたとしても、何十人もの死者を出してやっとといったところだろう。
それは、史之たちとて望むところではない。
「いいわ。今日はとても『楽しいこと』を聞いたから、逃がしてあげるわ。
そのかわり、お兄様たちは貰っていくわね。だって一人は寂しいもの」
ここで抗うのは無理というものだろう。自分たちの、そして部下たちの命をつなぐのが優先だ。
仲間達に頷いて、デイジーはマリーへと手を振った。
「『さようなら』じゃマリー」
「『さようなら』ねデイジー。
あなたの強くて、尊大で、みんなに愛(ねた)まれるところ、とってもとっても……」
マリーは船から吹き上がる無数の水蒸気に紛れながら、歪むように笑った。
「妬ましかったわ」
戦果報告。
ローレット&クラーク艦隊は魔種『流氷のマリア』撃退のためにアクアリア東南エリアへ出撃。
その結果、魔種との関与及び王国への裏切りを理由に攻撃を仕掛けたパールファイナンス、エドワード騎士団、スターライトジェミニの三部隊との交戦がおこり戦場は混乱。
『流氷のマリア』撃退には及ばず、ローレットの10部隊は撤退した。
ローレットの率いたエイヴァン、十夜、ベーク、アラン、デイジー、史之、イグナート、マリナ、リウィルディア、カンベエの10部隊に欠損及び死亡者はなく、60人が無事に中継基地へと帰還。
一方で――。
ゴールデンパール号及びパールとその部下パールファイナンスシークレットサービス。
ナイトオブテンタクル号及びエドワードとその部下エドワード騎士団。
スターライトジェミニ号及びレナード&レジーナと彼らの雇った傭兵団。
以上三つの部隊が行方不明となった。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
――状況終了。まだ見ぬ未来へと、続く。
※エドワード・クラーク、パール・クラーク、レナード・クラーク、レジーナ・クラークが【不明】及び【死兆】扱いとなりました。
※以下運営より補足します。
本シナリオでは『原罪の呼び声』判定が発生しています。
公平性を期す為、デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)さんに送付された特殊判定を下記に記載します。
お客様の参加中のシナリオ『<バーティング・サインポスト>私の大切な、一番素敵な宝物』において特殊判定が発生しました。
お客様のキャラクターは『原罪の呼び声』を受けています。
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中略(●閑話休題『天使の贈物』と同文となります)
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この呼び声の属性は『嫉妬』です。
原罪の呼び声は魂を揺さぶり、その者の在り方自体を改変する危険な誘惑です。
お客様はこの声に『応える』か『拒否する』かを任意に選ぶ事が可能です。
3/14一杯までにこのアドレスに答えをご返信下さい。(一緒に台詞等を書いてくださってもOKです)
返信がない場合『拒否した』とみなして進行されますのでご注意下さい。
尚、原罪の呼び声に応えた場合、キャラクターは魔種となりキャラクターの管理権がお客様から離れます。不明及び死亡判定に準ずる『反転状態』にステータスが変化しますので予めご了承の上、ご返答下さいますようお願いいたします。
※まず間違いなく簡単に戻れるような状態にはなりません。
GMコメント
●重要な備考&Danger!
<バーティング・サインポスト>ではイレギュラーズが『廃滅病』に罹患する場合があります。
『廃滅病』を発症した場合、キャラクターが『死兆』状態となる場合がありますのでご注意下さい。
また当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
■■■成功条件■■■
・成功条件:戦闘の勝利(マリーが戦場から撤退または消滅すること)
・オプションA:パールの捕縛とゴールデンパール号の拿捕
・オプションB:エドワードの捕縛とナイトオブテンタクル号の拿捕
・オプションC:レナード&レジーナの捕縛とスターライトジェミニ号の拿捕
本件は情報の整理と相談。着地点の決定とそのために必要な要素の確保や取捨選択、役割分担など様々な要素がからむ高難度な依頼となっております。
■■■シチュエーション■■■
『アクエリア』攻略のために集められたローレットイレギュラーズたち。
しかしそれはクラーク一族の仕掛けた罠でした。
魔種マリー・クラークの討伐という重要な任務を前に、エドワード、パール、レナード&レジーナそれぞれの率いる船が一斉に裏切り、デイジーへの攻撃を開始しました。
それがどうやら魔種マリーによるたくらみであるようで……。
こうして、『クラーク兄弟VSローレット』の艦隊戦闘が幕を開けたのでした。
●艦隊戦闘ルール
皆さんには海洋王国から派遣ないしは自らのコネで集めた5名前後の部下がついており、同じ船に乗っています。
この部下を率いて現状を打開してください。
・部下の運用
部下たちの能力や特徴はある程度自由に決めてOKです。フレーバー込み込みで大体同じくらいの戦力という扱いになります。
部下はPCの統率力と士気によって最終戦闘力が決定します。
プレイングにて統率や士気の向上を図ってください。
逆に効果的に率いることができなかった場合、同等以上の戦力をもつ各クラーク兄弟の精鋭達に倒されてしまうでしょう。
■■■エネミーデータ■■■
●マリー(デモニア・クリスタルディオネ号)
魔種『流氷のマリア』。空中に氷を生み出す魔法や冷気の光線などで攻撃を行う。
戦闘力が恐ろしく高いため1~2人で挑むのは自殺行為。
ただしデイジーに強く執着しているため、とにかく防衛に徹し続ければ多少の時間を稼ぐことは可能かもしれない。
・クレイオ兵団
マリーの支配する狂王種モンスター。クリオネめいた形状をしておりホバリング能力をもつ。
攻撃射程は主に至~中距離で触手をムチのように使って相手を拘束したり打撃を与えたりといった戦闘方法をとる。
●パール(ゴールデンパール号)
派手好きで浪費家だが一方で莫大な利益をあげる商才をもつ。
名家に生まれた者はその身に纏うもの、食べるもの、行動、全てにそれらしい振る舞いをしなければならないと考え、それ故に個人戦闘力もそれなりに高く部下もまた強力。
戦闘方法は主に銃撃。真珠式マジックガンによる攻撃が強力。
・パールファイナンスシークレットサービス(PFSS)
要人警護のプロでありパールが専属で雇った精鋭たち。
金と所属にきわめて忠実であり、パールの命令には絶対服従。
黒い高級スーツにパールファイナンスのバッジをつけ、拳銃や格闘といった方法で戦う。
●エドワード
クラーク家長男として巨大な期待をかけられて育ったため極めて紳士的で穏やか。
政界に深いコネクションをもち海洋貴族として自分の騎士団を率いている。
戦闘面では剣を主体にしたトータルファイターさをみせる。
・エドワード騎士団
タコ印の紋章をつけた大鎧の騎士たち。
剣と盾による堅実な戦いが得意で防御やHPに優れる。
●レナード&レジーナ
うみうし系ディープシーの双子。
フードやレジャーなどの分野で活躍し『スターライトジェミニ』グループは一般に広く知られている。
双子は全く同じ能力をもち、『どちらか片方が倒されると凶暴化する』という特徴をもつ。
戦闘方法は徒手空拳による格闘。
・SJ社おかかえ傭兵団
双子が危険な仕事に出る際に雇用している傭兵達。
戦闘能力はバラバラで連携が弱いが個々人はやや強め。
※捕縛について
パール、エドワード、レナード&レジーナを捕縛するには『殺さずに』倒さねばなりません。
そのためには不殺攻撃で戦闘不能にするか意図的に『手を抜く』必要があります。尚、戦闘中に彼らの残存HPを数値的に算出できないものとします。(『トドメのみ不殺攻撃』とだけプレイングに書いた場合無効扱いとなります)
※船の武装について
クラーク兄弟その他の船には武装が積まれており、大砲などで攻撃可能ですが、これらの武装を防御するためのフィールドもまた搭載されています。
よって船舶の破壊はきわめて困難になるでしょう。
敵船に乗り込み、兵士やリーダーを倒す形で制圧を行ってください。
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