PandoraPartyProject

シナリオ詳細

302 Found

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――ついに!」
 これで『三塔』をも驚かすことができる研究が完成したのだと『無能』の清水湧汰はそう言った。
 肥大した自尊心に自身を天才と称する彼を遥かに凌ぐ――それこそ、雲の上と言える――技術力を所有した練達の研究者たちと彼の技術者の差を『無能』と称する者たちも多数いた。
 しかし、彼は研究を辞めず、故郷『東京』へ戻る為の現状打開の一歩を探し続けていたのだ。
 早速とフィールドワークも承るローレットに『望郷の空』なる装置の被験者を募集したは良いのだが被験者リストに記載された清水洸汰の名に湧汰は酷く心を乱されることとなる。
(いや、まさか……『双子の兄』は死んだはずだ……アイツが同郷とも限らない。
 そう、そうだ……きっと同名なだけ。気にするな……オレはそれを気にするほどに暇じゃない……)
 湧汰は天才が故に、他の天才に置いて行かれることをひどく嫌悪した。
 湧汰は優秀が故に、他を認めることができず、無能と揶揄され続けた。

 そんな彼は酷く混乱していた。湧汰の目の前には清水 洸汰 (p3p000845)が立っている。
「――……ンンッ、説明をする」
 見て見ぬふりを、他人だと言い聞かせながら湧汰は繰り返す。
「この『望郷の空』は被験者の記憶や願望を読み取り、『今一番会いたい人物』の姿形を、実体のあるホログラムとして再現する機会だ。
 実体があるため、触れることができる。そして、話すこともできる。しかも、理想の通りだ」
「それはどういう意味かな!?」
 様々な実験経験のあるロク (p3p005176)は湧汰の言葉に首を傾げる。
 理想通りという言葉に僅かな違和感を覚えたのはロクだけではない。
「説明の通り、記憶や願望を読み取る。
 記憶を再現するだけではなく願望も再現するために――」
「あア、成程ナ。『理想』のアイテになるってことカ」
 赤羽・大地 (p3p004151)の言葉に湧汰は頷いた。スィフィー=C=シェイル (p3p007015)は「それぞれがその機会に自分の理想を伝えるってことだね」と頷く。
「ああ。だから、願望が強ければ記憶を塗り替えることもできるだろうし、記憶が強く願望が少なければそのものが生れ落ちるだろう」
「それは――例えば、『相手の成長した姿』でもか?」
 日向 葵 (p3p000366)に湧汰は大きく頷いた。相手が成長した姿であろうともそれが理想ならばそうなるのが『プログラム』された彼の研究の成果だ。
「……まさに、人によっては夢の機械ということ……ですか」
 フェリシア=ベルトゥーロ (p3p000094)にヨタカ・アストラルノヴァ (p3p000155)は頷く。
「……亡くした者も……失った何かも……それらが蘇る……まるで戯曲の様に……」
「ふむ。非常に面白いが――同時に悪魔的だ。
 人の深層意識に踏み込むような、そのようなものではないか」
 リュグナー (p3p000614)がくつくつと笑えばヨタカはどこか苦し気な顔をした。
 まさにその通りなのである。
 理想と記憶で実体化したホログラムを作り上げ、幸福を再現する。
 しかし――しかし、それがどれほどまでに精巧なのかも試してみなければ分からない。
「それじゃ、被験者として頼む」
 記憶をとるのだと小指へと装着することとなった電子機器。
 まるで縁の糸をたどる様に、データは『望郷の空』へと蓄積されていく。

 そして、『誰かの声』がした――

GMコメント

 リクエストありがとうございます。

●成功条件
 『ホログラムXXXXX』の撃退

●望郷の空
 清水湧汰が作成したホログラム作成装置です。
 被験者の記憶と理想で『実体化したホログラムを作成』『ホログラムに意識』を持たせることができます。
 理想や記憶で『母』を作れば、それは母親として話し行動するでしょうし、『子』を作ればそれも然りです。

●ホログラムXXXXX
 ――ただし、エラーが起こります。不完全な機械ですから。
 そのホログラムは間違った形で出力されます。
 狂気的な姿(頭が花であったり、体が曲がっていたり)や、服を着たゲル状の生物であったり。(※ご指定いただけます)
 それらは『理想と記憶』の人物として話します。
 愛しい人の声で、待ち望んだ誰かの声で、あなたの言ってほしい言葉を吐き出し抱きしめてくれるのです。
 それは実在の人物でなくてもよいのです……ええ、理想ですから。
 ただし、彼らはエラー物質。そうして甘言を口にしながら次第にあなた達を蝕み、意識を奪い廃人とするでしょう。
 逃れるためには斃すしかありません。


 心情メインで大丈夫です
 ・どのような相手を想像したか
 ・(どのような姿かは指定がなくてもOKです)
 ・どのような言葉をかけてくるか
 ・それをどのように退けるか

 それぞれをプレイングにご記載ください。
 参加者の過半数が退けることに成功した場合『望郷の空』はエラーコードを返して停止します。
 ……余談ですが湧汰はこの機械を操作しているだけですが、彼自身もまた、何かに期待しているのかもしれませんね。

 よろしくお願いいたします。

  • 302 Found完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年03月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ロク(p3p005176)
クソ犬
スィフィー=C=シェイル(p3p007015)
君への子守唄

リプレイ


 清水湧汰の研究。それは『望郷の空』と呼ばれる実体を持ったホログラム生成装置であった。
 装置を使用する者の記憶や想像を読み取り理想通りの存在をリアルに顕現させる。ある意味で、死した者をこの世に再生させる禁忌にも似ていたのかもしれない。

「あの湧汰さんって人、洸汰さんになんとなーくなんとなーく似てる気がするんだよね! 似てないんだけどさ! なんかね!」
 尾を揺らして不思議そうにそう言ったのは『クソ犬』ロク(p3p005176)であった。今会いたい人に会える機会なのであると平坦に説明していた湧汰はロクの発言にどこか戸惑いを見せてから咳ばらいを一つ。
「……似てないだろう」
「うーん? うん! 気のせいかもね!」
 早速、起動させた『望郷の空』を使用してロクが期待したのは母の姿であった。心優しき雌オオカミに育てられた彼女にとっての母は育ての母と産みの母の二種類が存在している。
 ――そう、見たいのは産みの母だ。
「でも、わたしお母さん知らないからね! 知らないならどんな想像したっていいよね!
 わたしのイマジナリーお母さんはね――!」

 ロクの空想上の『お母さん』は『スーパーオオカミ』だ。強くて口から火を噴いて、素早くごつごつの足が8本も生えている。ぎらぎらした4つの目が周囲をしっかりと見ている優しくて素敵なお母さんなのだ。
 そこまで語ってから――目の前に存在したイマジナリーお母さんは『バグ』を内包していた。
「ロクちゃん今日は何してきたの? お母さんロクちゃんの縺雁、悶?隧ア閨槭″縺溘>縺ェ縺」
「え!? なんて!?」
 一先ずロクは『お母さん』にへんてこな友達やロバがたくさん生まれた話を続けた。ある意味で幸せそうな様子に湧汰は記録する。精神力でバグもバグではないのかもしれない、と。
「最後は穴掘りごっこしよう! わたし穴掘りの名人だよ!
 お母さんとどっちが深く穴を掘れるか競争! でも足が8本じゃあ負けそうだなァ……」


「理想通りの、実体を持つホログラムです、か……科学の力はすごいです、ね。
 なら、わたしが想像、するのは……母、でしょうか。どんな方なのか、正しい姿は記憶にありません、が……」
 ロクと同じく『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094) も母を『予想』した。想像したのは同じ銀の髪と空色の瞳の女性だ。母の面影を追う様に少し背の高い大人びた自分を想像する。
 会えてよかった、と微笑んで、そして、愛しい子と頬を撫でてくれる素敵な『お母さん』
「――――」
 システムエラーの表示と共に実体化したホログラムはぐずぐずになった体を持った決して人とは呼べぬ異形そのもの。
「わ、わたしが想像したのは、こんな人ではありません……! こんな……崩れた体の海種……いえ、ヒトと呼べないような異形なんて……!」
「※%sX※(s.la!」
 何と言っているかすら分からない。その悍ましさにフェリシアは背筋にぞっとした気配が走る感覚を覚えた。
「こ……来ないで、ください! 話すのも、ダメです! わたし、あなたのような方は知りません。母だと思いたくありません……!」
 その異形を母と認めてしまったら――自分は化け物の子になってしまう。唇が戦慄いた。嫌だと首を振る。
 ――母じゃない、母じゃない、母じゃない。お母さんは、私に攻撃なんてしない!
 フェリシアは勢いよく攻撃を放つ。そして、霧散して消えた母の『ホログラム』にひどく憔悴したように「お母さん」と呟くのだった。


 魔種の襲来は全てを灰燼と化した。『空の天蓋』スィフィー=C=シェイル(p3p007015)にとっての恩人であり初恋の人。
 シャルロッテ。その名前を口にして、スィフィーは首を振った。町はずれの教会で孤児院を営んでいた穏やかな彼女は純粋で、少し抜けていて愛らしい笑みを見せてくれた。
「一緒に帰ろう」と、そう手を差し伸べてくれる――こんな所では、風邪をひいてしまうと穏やかに微笑んでいる、筈だった。
(……もう顔も思い出せないのに、やっぱりバチが当たったのかな)
 背格好はシャルロッテそのもので、ああ、けれど『思い出せない顔』が欠落した異形は微笑みの気配だけを残している。
「ここは、どこなのでしょうか?」
 不思議そうに周囲を見回したシャルロッテは『生前と同じように穏やかに』スィフィーへと問いかける。
 そうだ。記憶の中の彼女と同じようにシステム的に動くホログラムは「いたずらで着てしまったんでしょうか……?」と首を傾げるだけだ。それでも、その顔は欠落し、虚空の闇が揺れている。
「君を、こんな……こんな、見苦しい姿にさせてしまってごめん。
 ……君は拙い私の唄をいつも嬉しそうに聞いてくれたね、シャル。今、僕は君とは一緒に帰れないんだ。もう歌も歌えない。……だから」
 唇が震えた。嗚呼、胡散臭い装置だと思いながらも縋る気持ちで装置を起動させてしまったのだ。
「どうしたのですか?」
 彼女の声も、霞んで消えたような気さえする。彼女の声音は、こんな『音色』だっただろうか。
 バグであるというならば『消さなくては』ならない。ホログラムは暴走したシステムそのものだ。スィフィーを掴もうと伸ばしたその手を振り払う。
「君に僕が出来ること――最期の子守唄を」
 もう、シャルロッテは居ないのだと、言い聞かせるように響く音色に酔いしれて。
 忘却の彼方へ霞む彼女の声音が「やっぱり、素敵な歌ですね」と微笑んだ。


 練達。異世界の頭脳で画期的な『技術』を使用して成り立った都市国家。その技術で作成された機械の被験者となることを求められたとなれば――
『皆の翼』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)は『会いたい人』がいた。失くした人と会えるというならば――!
「あの人に会いたい……早く、会いたい……」

 希うた願いは何処までも皮肉な結果を返す。優しい微笑を浮かべ手を広げた『母』。その上半身はヨタカが想像した母であっても下半身は悍ましくも融け床をぐしゃりと濡らしている。
「ヨタカ……愛しい私のヨタカ……会いたかったわ……」
 ――そうしてから顔の半分がべしゃりと音を立てた。それを見てヨタカはエラーであると悟るが、元は母であることが戦うことを渋らせる。
「ヨタカ……」
 名を呼ばれる。エラーはあくまでエラー。ホログラムによる強襲がヨタカを切り裂き襲い続ける。
 切り裂かれた腕より赤い血が垂れ、その時にヨタカの脳裏に過ったのは大切な仲間――そして、傍に入れくれる大切な番の姿。
「お前のような……母上の偽物に……俺の歌(いのち)を奪われて……たまるか……!!!」
 愚かしくも、母はそれでも尚、名を呼んだ。愛しい子、と囁くその声音を振り払うようにヨタカは渾身の力を籠める。
 戯曲はもう終わりなのだ。チープな幕間は引き上げよう。ヨタカは息を飲む――この溢れる感情は、この涙は何であろうか。
「大丈夫……母上は……いつも……俺の心に居るのだから……何も悲しむ必要なんてない……ヨタカ……」
 抱きしめてくれる優しい母は居なくとも。そっと、自分を抱きしめて、目を伏せる。


『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)にとって、一番に会いたいと考えた時、真っ先に想像できたのは吸血鬼の少女であった。仮契約の元、赤目に緑の髪を揺らしたセーラー服の少女は自身の傍に居た彼女。
「……何だかんだそばにいると、安心すんだよな」
 だからこそ、会いたいと。彼女が傍に居ることを願った――筈だった。
 ホログラム生成で出たエラーは止まることなくそのまま『彼女』を作り上げる。グラフィックに重篤なバグを起こしたのか色調も造形もめちゃくちゃになってはいるが、『彼女』の声だけは記憶の儘だ。
「逢いたかった」
 その声音は愛しさと、依存が入り混じっている。
 葵はそれを見て愕然とした。あまりにもその外見は『違いすぎている』。あまりにもエラーが重たすぎて、対処に困ると葵は崩れたグラフィックを見つめ続ける。
「ずっとずっと、そばにいてね?」
 その声も、仕草も、目を瞑れば『彼女』が傍に居るみたいに感じられる。悪くはないと奇妙な心地よさを『思い出した』葵はほっと胸を撫で下ろす。
(思えば、ちょっとした人助けから流れで契約しちまって、一緒にいる内にそれが当たり前になったんだったな……)
 記憶でも何でもいい。それが日常で、それが当たり前なのだ。その当り前が微温湯のように心地よくて葵は目を閉じたまま「一緒に遊んで、傍にこれからもずっと」と微笑んだ『彼女』に頷いた。
「……分かってるっつの、一人にはさせねぇしずっと側にいてやるよ」
 その言葉を口にしたとき、『ホログラム』は葵へ触れた。それは彼の想像した記憶上の彼女が葵を正気に戻すためであったのかもしれない。
 実体を持っていても温度はない。それがシステムでできた存在であることを嫌でも感じさせた。
「…………ちがう、違うッ! 思い出せバカ野郎が! これはシュミレーションだろ、何入り浸ってやがる!」
 この儘、ずっと――そう思ったとしても、イレギュラーズとしての役目がある。微温湯の夢に別れを告げなければならないと、背を向ければバグは歪んだ。
「ずっと――」
「――ずっとは無理なんだ」
 ああ、こんな。唇を噛み締めて葵は辛くないわけがないと呻いた。


 練達の技術は、何時だって興味深い。『ホンノムシ』赤羽・大地(p3p004151)にとって練達の技術は何時だって見ている分には楽しいものだ。
「けど、今回が初稼働、なんだよな。さテ、無事に実験ガ、終わればいいんだがなァ」
 そうぼやいたのはこうしたテスト稼働にはエラーがつきものであることを知っているからだ。
 大地が思い浮かべたのは『普通の高校生』であった頃のクラスメイトだ。
 学ラン、セーラー服、親し気に自分を呼ぶ声。それを思い浮かべて投影していく。よりリアリティを伴い、より具体的になるように――
「三船」
「みっひー? 何読んでるの」
「三船はまた本を読んでるのか」
 心地いい。心地の良い声音が目を閉じた大地の耳朶を滑り日常を謳歌させる。
 響いたそれに溺れないようにと大地はゆっくりと目を開いた。ああ、どこにもその姿はない。笑い声や話し声、自身へと語りかけるその声音は聞こえるというのに。
「……違う……! こいつら全員、顔が、頭が……首が、ないじゃないか!」
 そうした時に、自身の中にあった穏やかな気持ちが霧散した。違う。まるで違うのだ。
 唇を噛む。『赤羽』の声に耳を傾け、じいとクラスメイトを眺める。
「待ちナ、大地。お前ハ、ごく普通の人間社会に居た筈だロ。……だったら、お前に馴れ馴れしくしてくるあの化け物ハ、何だって言うんダ」
 あれは『バグ』だ。システムのエラーが生み出したなりそこないでしかない。
「落ち着ケ、あの研究者も言ってル。これハ、あくまでもホログラム。ぶっ飛ばした所で誰も傷つかねェ。むしろ黙ってたラ、お前が持っていかれるゼ?」
 それでも、その声は『クラスメイト』だ。ゆっくりと近づけば、「三船?」と不思議そうな声が返る。
「ッ――首を失って尚動くのは……人としての道を踏み外すのは、俺だけで充分だ」
 切り裂けばそこに響いたのは叫声であった。それが『紛い物』であると知りながらも、声を聴くだけで大地の心は揺らぐ。
 違う。首がない。首がない儘に怪物へと足を踏み入れ人でない道を歩む者など自分だけでいいではないか。


 記憶、理想、願望の再現。『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)にとって、欠けた記憶にある『人間の母親』が現れ、目の前で消えていくことこそが混沌世界での仕事での『経験則』であった。
 ならば、今回だって母が現れる事だろうと認識していた。否、想定していた。
「……成程、これは――予想外だ」

 そこに存在したのは禍々しき黒き魔物であった。便宜上彼を父と称すれば、システムのエラーでかその姿には自分自身が重なって見える。
 それを認識した時背筋に走った悍ましい気配を振り払うことができない儘にリュグナーは無意識化で唇を噛んだ。
 圧倒的な力量、そして耐えねばならぬという教育の記憶がリュグナーの胸中を支配した。それと同時に、眼前の存在が『想像よりもちっぽけである事』が厭という程に分かる。
「成程……この機械が我の理想を反映するのだというのならば、我の勝利は約束されたも同然
 我は、己の力でこの者に勝つ――そこまでを理想としているのだから」
 だからこそ、その幻影を振り払うのは容易であった。攻撃を重ね、情けも容赦もなく『その怪物を殺す』為にリュグナーは踏み込んだ。
「流石だ、ワレの最高傑作。その力を見せてみよ」
 びくり、と体が止まる。リュグナーはまじまじと父を見下ろした。
「立派に育ったな……自慢の子よ」
 唇が震える。そんな言葉、一度も言われたことのないものではないか。恐怖の記憶の中に一度たりとも認める事のなかった父の姿が『ブレ』て見える。
「だが……なんだ、その腑抜けた力は、姿は、言葉は!」
 苛立ちがあふれる。父を軽視されたことに怒るわけもなく情もない。
 己の理想も目標も達成するには実に中途半端であったことを悔やんだ以上に――彼に時折重なった自分自身の姿を見た時に胸に怒りが沸き立ち、最後に心を支配したのは――言葉にしない嘘であった。


『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)には理想があった「にーちゃん」と呼んで甘えてくれる理想の弟。
 そうやって口にした洸汰から視線を逸らした湧汰は「起動するぞ」と小さく告げるだけだ。
「オレさ、勿論近所の子達と遊ぶのも好きだけど、兄弟でキャッチボールするの、夢だったんだよなー!
 それに……とーちゃんとかーちゃんがいつか言ってた『ユーちゃん』って、どんな子なのか……オレもちょっと、見てみたいし」
 ぴくり、と湧汰の肩が揺れた。にんまりと微笑む洸汰はそれには気づかず「いいだろー」と満面の笑みを浮かべている。
 そして、存在したのは『にーちゃん』と呼び甘える少年であった。見た目はやはり『狂っている』。グラフィックのパースがおかしいが洸汰は気にすることなく「遊ぼ!」と駆け寄ってくる『弟』にへらりと笑みを浮かべる。
「ハハハッ、可愛いヤツめー。よーし、兄ちゃんと今日はいっぱい遊ぼうな!」
 そう、普通に遊んでいたのはその弟の事を気にしなかったからだろう。
 しかし、徐々に『弟』の行動は猟奇的な域まで達する。投げるボールは洸汰を傷つけ、コミュニケーションすら取れなくなっていく。
「も少し優しく、って言ってもアイツ、全然オレの話聞かねーでやんの!
 ……もー! マジであったま来た! ホログラムだろうと駄目なもんはダメなんだぞ!」
 悪いことは悪いこととして叱るのだと洸汰はしっぺを弟へと繰り出した。勿論、それはホログラムだ。外的なそうした刺激には霧散していえてしまう。
「そんなに強くやってたら、遊び相手が怪我しちゃうって! 手加減しなきゃダメだろー?」
 洸汰にとって『システムだから』という認識が強いが、次はごめんなさいが言えるようにしないといけないな、と彼は大きく頷いた。
 どこかぎこちない表情の湧汰は洸汰のその行動をぼんやりと眺めているだけだ。

「ん? あ、ほら、失敗は成功の母? って偉い人も言ってたじゃん? 気にするなって!
 またスッゴいの作ったら、またオレ達に知らせてくれよ。何度だって付き合うからさ!」
 洸汰の言葉に湧汰は首をふるりと振った。気が向いたら、と告げ、此度のエラーに対しての謝罪を『どこか苦し気』に漏らす。
「そういえば、これを作った彼はなんで故郷に帰るのに転移装置ではなく、夢を見る装置を作ったんだろうね? 僕にはそれが不思議でならないや」
 そう呟いてからスィフィーは湧汰の様子を見た。混沌世界においての不在証明で転移装置は作成することは出来ないのだろうが――彼も会いたい人がいるのだろうか。
 それに返す言葉はない儘に湧汰は「協力をどうも」とだけ頭を下げ、研究室を後にしたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はリクエストありがとうございました。
 見たいものを見る。ただ、それだけなのに、どうしてもうまくいかないものでございましょう。

 幸福な夢が見られるように湧汰君は研究するのでしょうか。
 ぎこちない態度彼のこれからもとっても気になりますね。
 またお会いできましたら!

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