シナリオ詳細
死ニ花ノ薄化粧
オープニング
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いつか、自分の世界で死ぬのだと思っていた。
私は狩人。狩人の一族が一人――ユリス。
私の話を少しだけしましょう。私にとっての素敵な死神たちへ。
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夜の匂いがする。
微かな虫の囀り。草木をかき分ける風の歩み。
夜の匂いだ。私の好きな――私の『生きる』場所。
「さて、と」
少しだけ身の上話をしましょう。私はかつてこの世界に召喚された……所謂『旅人』だ。
この世界は私の生まれ故郷ではない。この世界は私にとって未知にして『外』
それでも召喚された事に悲観は無かった――こういう不思議な事もあろうと思ったものよ。いつか元の世界に戻りたいとは思ったけれど、知らぬ地に訪れるなど旅行と変わらない気分であった。
「でもね」
一つの年が超えて行った。
二つの年が超えてこの世界に馴染んできた。
三つの年が超えて多くの友が、多くの知り合いが気付けば出来ていた。
四つの年が超えてこの世界が私にとっての既知となって来た。
五つの年が超えて――六を、七を――
そして。
十を超えた時、自分の身を病が蝕んだ。
不治の病だった。やがて死に至る、少しずつ近付いて来る私の果て。
それ自体は、いい。そういう事もあろう。
所詮自分は不死ではなく所謂かな只の人間の一人であれば……でも。
「ふと過ったのよ」
私はもう生まれ故郷にはきっと戻れないのだろうと。
「初めて、怖くなったわ。今まで色んな荒事も乗り越えて来たけれど……」
途端に恐怖が襲ってきたのだ。
私はここで死ぬのか? 私はもうあの生まれ故郷に戻る事は出来ないのか?
何故、どうして?
――認めがたい。しかし、どうしようもない。
元の世界に帰還する方法など、少なくとも今現在は無いのだから。
この世界の事は嫌いではないけれど。
どこかで死ぬ時は、生まれ故郷の大地の匂いの上で死にたかった。
――鼻を鳴らす。感じた臭いは複数の人の気配。
ああ、来てくれたのねイレギュラーズ。来てくれたのね――私の死神達。
「依頼の受諾、ありがとうね。ターゲットは私。私の命よ」
木々の隙間。闇夜に紛れるどこかから声を出す。
足音を殺して移動して。無音に等しきままに渦中を駆ける。
彼らとの距離を常に保って。彼らに決して追いつかれぬ様にして。
「私は狩人。この世の外で『狩人』として生を受けた――ユリスよ」
手中に握るは幾つかの矢。私にとっての仕事道具にして友。
このまま病が進み続ければ、やがてこの友を握りしめる事すら叶わなくなろう。
ならば、その前に。
「狩人の一人として死なせてほしいの。愛しい死神達」
もはや死ねる場所は選べなくても。
死に方だけは選ばせてもらう。
私は狩人。獣を狩り、山々を駆け巡る誇り高き一族の一人。
病で死するは、柔らかき床の上で死するは決して私の矜持が、血が許さぬ。
だからお願いイレギュラーズ。
「さぁ――私と一緒に踊って」
矢を手に。弓を引き絞り打ち放つ。
虚空を切り裂き獲物を捉え、周囲の陰には獲物を捉える罠の数々。
この地は私の終わりの地。私の狩人としての総てを振り絞った最期の地。
私は故郷に戻れない。
それはいい。もういい。だけどごめんね。
戦いの中での死を望みながらも、やってきてくれた貴方達の前に姿をそう簡単に晒せない理由は――
「ごめんなさいね――今日はあんまりお化粧してないの」
狩人の性がどこまでも。戦いに身を置くならば、例え死出の時であろうと過度の装飾は不要だから。
さぁ、死愛ましょう。
- 死ニ花ノ薄化粧完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年05月31日 22時36分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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静寂。
何者も居らぬと思わせるかのような闇が周囲を覆っていた。
だがいるのだどこかに。いるのだ彼女は――
「戦いの中に生き、戦いの中で死にたいと願う……その気持ちはわからなくもないですね」
床の上よりも戦場の中で――その感情は『百錬成鋼之華』雪村 沙月(p3p007273)にも通ずる所があるのだ。同じく武を嗜む者として……理解の内にある。ならばこそ全力を尽くさねば、死力を尽くさねば礼を失しよう。闇夜すら見つめる目で森の果てに視線を向けながら。
「尤も、まずはユリスさんを見つけねばなりませんが」
「……戦わなければ私達が“獲物”として処理されるだけですからね」
沙月に続き暗黒を見据えるのは『慈愛の英雄』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)。
最早ここは彼女のテリトリー。油断があれば狩られよう。で、あるのならば――
「私達が全力で応えるだけです……!」
彼女も『成』ろう。夜の者へと。己が全力を顕現するのだ。
吸血鬼は暗黒こそが友である――彼女の気質が元来のモノへと。紅き甘味を口の中に含めば、夜の眼が周囲に溶け込み鮮明と成す。嗅覚もまた同様に。微粒なる素子すら捉える五感の内の一つが周囲の警戒を。
探す。沙月が前述したようにまずは狩人を見つけねば話にならない。
エリスは恐らく既にこちらを捉えている事だろう。先手を打たれることはともかく、一刻も早く――
瞬間。虚空を突き破り、死の一閃が彼方より。
それは弓矢。高速で振舞われる彼女よりの洗礼、であれば。
「――そこでしょうか」
交差際。散々・未散(p3p008200)のリボルバーの撃鉄が音を鳴らした。
頬を掠める矢。投じられた点へ放たれる鉛の弾。
――両者当たらず手応え非ず。躱したか移動したか闇へ闇へと。
臭う臭うぞ死の臭いが。今宵のぼくは死神だ。
「葬儀屋が此の手でお命を奪う等、前代未聞だけれど」
それでもお望みとあらば。
さあ、死愛ましょう。
嗚呼、死舞いましょう。命を懸けて、死出の旅路を。
矢を撃った直後に何処かしらに移動するなど予想の内。なればなればより死の匂いの濃い方へ。
最初は皆つかず離れずの距離を。散会せず『此処』に攻撃が来るように。
対処しやすきように突き進む。罠を調べ、ユリスを追い。
「ユリスと言ったか……その齢で死期を悟るというのも不憫だな。
出来れば美人の死に顔など見たくはないが――」
望みであるならば叶えよう。『天戒の楔』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)は死を与える事が慈悲に繋がるのなら、と意思を一点に。閉じた聖域の加護を自らへと施せば、あえてその矢を受けよう。
躱さぬ受け止めそして往く。至りし痛みの一閃に臆す事無く。
「その全てを、全力を受け止めよう」
前へと進むのだ。
「ああ……この空気の中でこそ、と言うのは解る話ね」
フレイと同様に『月下美人』久住・舞花(p3p005056)はユリスの気持ちを重んじる。
戦いの中でこそ生きている実感が得られる『人種』というモノ達がいるのだ。それは刃に関わらぬ者達には理解されがたい事でもあるが――同種であるならば誰よりも理解に深い。
生の実感すらない中で、ただ死に行くだけの時間を過ごす事は耐えられないのだから。
「――貴方のその望み、必ず叶えて差し上げましょう」
貴女の事が、分かるから。
目下。林の中に紛れされていた罠の差動装置――糸を排除し、至る攻撃を見据える。
この矢はユリスか? それとも時限式の罠が作動しただけか?
冷静に視なければならない。幸いにして夜を友とする目と良き耳があるのだ。
集中し、ユリスの気配を探る。彼女の位置は――どこだ?
「だーるまさん、だーるまさん。かーくれんぼしーましょ。見ーつかったら負ーけよ……って。
はは、これじゃどっちが鬼だか分からないな」
そして『レッド・ドラマー』眞田(p3p008414)もまた。
彼はフレイとは進み方が異なる。木々を遮蔽物に、ユリスのおおよその位置から飛んでくるであろう矢に対処すべく進む形だ。油断は出来ないし、それにイレギュラーズになり立ての彼は、今の自分の力がユリスに通じるか不安故もあり。
「――でも、やっぱ負けたくないよなぁ」
狩人を狩れる死神になれるのか。本物の鬼に成れるのか――分からないけど。
それでも期待されていて、その内の一人として此処にいるのなら。
その足には確かな力が籠る。闇夜への恐れよりも勝利への渇望を。
良き目と夜に通じる眼を持って――罠を見透かす。
「全く。撃ってきてるのに一向に足音も何も掴めないわね」
樹に矢が着弾。それを視て言うは『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)である。潜む為の技能を持つ故かユリスの位置は掴みづらい。彼女を直接探知する――例えば感情の探査など捉えようとする能力は使っても無駄なのだろう。
「まぁいいわ。要は探知じゃなくてそれ以外ならいいんでしょ?」
しかしそれならそれでやりようはあるものだ。例えば――動物など。
体温を感じとる蛇に超音波の反射で対象との位置を測る蝙蝠。彼らが持つ生物元来のモノを使うとしよう。それは探知ではなく、神秘による位置捉えでもなく原始的なモノ。
故に通ずる。体温も物体も消し得る技能を彼女は持っている訳では無いから。
闇夜を見据える。暗き暗き――闇の果てを。
●
一発二発。三に四。
ユリスは動いていた。撃ちながら常に――撃てばその時点で位置は掴まれよう。
足音を極力殺し、枝葉を踏まず。
「随分、豪快ね」
しかし躱しもせずに受け止めながら進むフレイの在り様には驚くものだ。
俺はここにいるぞ――とばかりに走る稲妻。油断すれば、ああその熱き猛りに呑まれよう。
されどそうはいかない。獲物の熱に感化されるなどあってはならぬから。
「――!」
その時ユリスは殺気を感じた。
左。木々の間。姿勢を低く、目を閉じ動かず気配を断ち。
「獲物を狙って集中している瞬間が一番無防備……だったかしら?」
狩人が近くに至るまで待っていた――『真昼の月』白薊 小夜(p3p006668)の斬撃であった。
「闇夜は私にとっても友であれば、その姿見えましょう」
研ぎ澄まされた感覚は眼を開かずとも『真』を捉える。
椿の花を落とす様に。神速の一閃、研ぎ澄まされた殺意の刃が空を薙いで首を狙う。されど、されどそう簡単にやられてなるものか。身体を捻り急速転換。剣の閃光を辛うじて致命に届かぬ範囲の傷に留めれば。
「見つけました。そこですね――」
舞花が一気に跳躍する。
匂う。匂うものだ、濃密なる死の気配、ユリスを蝕む大病の匂いが。
小夜の斬撃も合わさって位置が特定できた。逃さない。
刀身に込めた気を一閃し、木々の隙間であろうと彼女を狙い。
「ッ……流石ね、でもまだよ!」
一喝。熟練の弓の使い手が崩れた体勢からでも反撃を成す。
三つの矢を同時に放ち風を見極め舞花へと到達させん――しかし。
暗視の眼は矢を捉え、退魔の刃を振るってそれらが矢を下から斬り飛ばす。
稼いだ時間はほんの少しか。それでも一瞬あれば十分と、ユリスは距離を取ろうとして。
「させないわよ……! 折角見つけたんだから、隠れさせてなるもんですか!」
そこへメリーの一撃が放たれる。それは慈術。対象に心地よい脱力感を与える不殺の術――
重要なのはその範囲。長距離にすら届き、そして広大な地域を纏めて範囲に入れる事がかの術は、あてずっぽうだったとして偶然当たる可能性があるのだ。そしておおよその位置さえ分かっていればその可能性はなお上がる。
「さぁあっちの方向よ……上手く見つける事ができたら報酬をあげるからね……!」
そしてメリーの手助けをしているのが先述した蝙蝠と蛇だ。
蝙蝠達は技能の類ではなくあくまで一個体としての動物……で、あるが。動物と疎通する術があれば彼らと意志を交わし、説得によって協力を得るのも不可能ではない。獲物を獲るのを手伝うのを条件に、彼らの習性を利用させてもらっているのだ。
空飛ぶ蝙蝠はともかく腕に巻き付けている蛇の感覚はちょっと気持ち悪いが――まぁそれは我慢するとして。
「……流石に攻撃が重ねられれば、ユリスさんと言えど音にまで気は配れませんか」
「死の匂いからは逃れられない。『殺意』を纏った獲物は、常の借りとは違いますからね」
メリーらの攻撃が続けば沙月は気付く。先程まで闇夜に紛れ続け、一寸の音すら勘付かせなかったエリスが……いや、エリスの動きそのものの気配を多少なり感じるようになっている、と。
理由は未散が分かっている。数の理と、そしてこちらに『殺意』がある故だ。
動物が狩られる気配を感じればまず逃げる。姿が見えない所から攻撃を受けているとなれば尚更に。しかし今宵は違う。今宵の『獲物』たる己らは――狩人を明確に、倒しにきたのだから。
余裕ある狩りではない。故にエリスは防御に転じれば一気に不利になるのだと。
「――しかし油断は禁物のようですね」
刹那。沙月が見たのは天より至りし無数莫大なる矢の奔流。
エリスが天へと打ち上げた矢群か。夜の眼がなければ気付けぬ所であった――が、跳躍。 先程までいた場所に、蜂の巣を作るかの如き矢が撃ち込まれた。危うき危うき。寸前であった。
それでも追う。影を捉えたなれば再び余裕を作らせる訳にはいかぬから。
包囲するように追い詰める様に。先回りして逃げ道を潰さん。
「最期の灯火でございますか」
スポット・ライトが無くとも美しい貴女の在り様。
共感も同情も未散は持たぬ。抱くは敗北も同然と考え、代わりに詰めるはポケットの残弾。
一つ一つ丁寧に。死を送る為に丁寧に詰め――闇夜を見定め引き金を引く。
当初からであるが数の上でイレギュラーズ達は有利であった。
されど今一つ攻めきれぬ。その理由は――無数にある罠故に。
足止めの落とし穴やらなにやら作動しそうな『糸』があるのだ。もしかしたら罠に見えるだけのフェイクも混じっているかもしれないが、それを一つ一つ精査する暇などない。
「――だが必ず到達してみせる」
それでもフレイは変わらない。矢を受け邁進、瞳には意思を。黒き電を放ちながら。
あえて受ける形であれば流石の彼といえど負傷は免れぬ筈だが――それを補佐しているのがユーリエだ。彼女の形成せし特殊魔術がフレイへと。されば体力の十全と茨の如き反射の力を得て、むしろユリスが攻撃するほどにダメージを与えている。
自ら特製の甘味も口に含めば技を振るう消耗も随分と軽減されて――しかし。
「ですがどれだけ一体罠があるというのか……! こうなったら……!」
とはいえやはりユーリエも感じていた。罠はキリがない、と。
無限ではないだろう。超長期戦を覚悟すれば圧し潰せるが、そうすれば被害も馬鹿にならず。
故に決断する。これを機にユリスへ一気に攻める事を。
もう一度闇夜に逃せば――次はいつかもわからない。
「闇を切り裂け……ガーンデーヴァ!」
されば彼女が形成せしは魔力による疑似弓矢。それは彼方すら穿つ秘儀。
放つ。罠の先にいる彼女へと逃さぬ様に。
されば応酬。ユリスの矢もまたユーリエへ。矢が交差し、穿ち、また放たれ。
夜に支配される森の中で静かな、しかし高速の殺意が幾重にも。
追いつかれぬ様にするユリス。
追いつかんとする死神達。
闇夜はいずれなる者の味方でもなく、ただ其処にあるだけならば。
「……ユリスさん、みーつけた」
より深く闇夜に潜れた方が――勝利者となるのだろう。
眞田の声がした。ユリスの、近くで。
●
ユリスを発見してからの攻勢による注意の散漫。それは眞田の気配を、忍び足も合わされば消すモノである。罠を見つけ、潰し。時としては躱し、そうして着実に近付いていた彼の一撃が遂に彼女の下へと届き。
完全奇襲。対象を瞬時にしに誘わんと、剣を振るう――
「ぉ、とッ!」
さればユリスの矢。至近であったが故にこそ攻撃は躱せず、されどそれだけでは終わらない。超即の反応が眞田の肩を穿つのだ。流石は長きに渡ってのイレギュラーズの先達。そう簡単にはいかないかと眞田は姿を暗まして――
「……いや嘘! 本当はちょっと、いややっぱ大分怖い!」
無理無理無理! やっぱり狙われる側は嫌だよと。
駆け抜け、後ろから放たれる矢をなんとか振り切らんとする。
だがこれだけでは終わらない。今宵は……獲物の。
「あんたを狩る鬼の……意地だ!」
更なる一撃を彼は目指す。狩人の命に一閃を。
「さて、隙は出来ましたね。見逃す由はありません」
瞬間。逆方向から至るは沙月だ。
移動し罠を避け、耐え忍んだ。チャンス一瞬、この距離はもう逃さぬ。
「これが貴女にとって最期の晴れ舞台であるのならば手加減などは致しません。御覚悟」
「元よりそういう依頼……恨みはしないわ!」
「ではその御命」
殺意の権化。殺意の極意。
ほんの一瞬の瞬きの後に沙月が抱くは武の礼儀。顔面へ放たれる矢は前へと進みながら躱して。
その胸に、手を抱く。
「――頂戴致します」
瞬間。体重移動の要から発勁の如く。
ユリスの全身に衝撃を与え――更に流れる様に。繰り出される技は、闇夜でも煌めき。
「病の苦しみ、無念の想い。最期は戦って死ぬ……その願い!」
「しかと戴きます。貴女に生を、死の瞬きの中で意味を見出せる隣人よ」
そしてユーリエと舞花が往く。加護の効果を切らさぬユーリエは多くの技を使いながらも、未だその余力を残しガーンデーヴァの一撃を再び。遂に近くにユリスを捉えた舞花はまた別の意味で全力を振るえて。
「貴女の旅路に祝福を」
放たれた矢。その軌道を完全に見切り――後の先の一撃を。
斬る剣は心の速かなること水月鏡像の如し。もはや狩人これより逃さぬ。
「ッ……御見事……!」
「葬儀屋が此の手でお命を奪う等、前代未聞……だけれども。お望みとあらば」
今宵は確かに死神として参りましたと、未散が言い。
リボルバーの引き金を再び。彼女の足を穿ち、その機動力を奪わん。
「もーう、あっちこっちに罠ばっかり張り巡らせてるんだから……! 時間が掛かっちゃったわ!」
さればメリーも至る。低空を飛行し、落とし穴の類は回避したが。それでも尚これでもかと言う程張り巡らされていた糸は苦戦した様だ。尤も、蝙蝠などの助けを得ていた彼女はユリスを常に追えていたのだが。
「でももう逃がさないわ! ここで、往生しなさい!」
「ああそうだな――ここまでだ、ユリス」
同意するのはフレイだ。ここまでに得られた傷は、恐らく彼が一番深い。
それでもその傷は彼女を真正面から全て受け止めた勲章であれば。
彼に後悔は一切ない。彼は高らかと此処にいるのだ。
「生粋の狩人よ。床に臥せるのを拒否する者よ……今こそその望みを叶えよう」
「ふふ――まだよ。まだ終わらないわ……!」
黒き焔の礼装からの一閃。フレイの振るう魔を喰らう一撃がユリスへと届く、が。
同時に放たれるのは矢の雨だ。
ユリスの周囲全てを埋め尽くす矢の奔流。狩人最後の抵抗にして最大の一撃。
「量を持って敵を制す……私は狩人であれば!」
最後まで戦おう。最期まで矢を使おう。
ああ――ありがとうイレギュラーズ。
私の我儘に付き合ってくれて。
「なんの。貴女の想いは、分かります故」
故に、往くは小夜。
矢の雨を恐れず、ただ狙うはただ一点。
「しからば、その想い。その命……未練事断ち切って差し上げましょう」
御身の命、頂戴仕る。
跳躍、届く刃はその本領。
変幻邪剣。魔性の切っ先――否、その一刀で終わりはせぬ。
縫い付ける刃は邪三光。戦の中で死する思いを頂戴し、故に薙ぐのだその命。
花は咲き誇るのが誉れであり、腐り落ちるは本意でなければ。
椿の如く。
余分な傷を残さぬ一閃にて、小夜は刃を走らせた。
落ちる華の旅路を願う。ただその願いを――乗せながら。
●
狩人よ。死ぬ時まで狩人足らんとした貴女さまよ。
ぼくも、貴女さまの様に此の世を愛せるでしょうか。
散り際は、貴女さまの様に鮮やかに咲けるでしょうか。
「……さて、ね。それは、人次第よ」
さいで。所で、死んだ後先に。
身体へ幾らかの施しは必要ですか。
何分『葬儀屋』ですからそんな事ばかりが気になってしまって。
「ふふ、ありがとうね――でもいいわ。あとはただ、朽ちるのみ」
結構。
墓無くとも宜しいのであれば此の書類へ『血判』を
――さようなら。
「ええさようなら――優しい死神さん」
…………
……終わったぞ。満足したか?
「――、――ええ、そう――ね」
全力で戦い、倒れたんだ。強かったよ、ユリスは。
最期だ、相手が俺で悪いが男の腕に抱かれて眠れ。
願わくば、花のように笑ってくれ。
これで良いのだと、満足だと笑って眠れ。
「――――」
弔いに、ユリスの好きな花を添えてやろう。
誰かに伝えるべき言葉があるなら聞こう。
だから、聞かせてくれ。
元の世界やこちらで良き伴侶はいたか?
好きな花はあったか?
ユリスは――幸せだったか?
椿の花は今落ちた。
答えるべき口は開かず、ああそれでも。
その口端は穏やかだった。
闇の中でも美しく。
闇の中で最期の時を。
十分に――生きれたのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
死ねる場所は選べずとも。
死ぬ時はきっと満足すべき結末を。
ご参加どうもありがとうございました。
GMコメント
■依頼達成条件
依頼主『ユリス・ハイデルン』の殺害。
■戦場
幻想内のとある森の中。
時刻は夜。うっすらと月明かりがありますが、頼りになるモノではありません。
かなり薄暗いです。また、この森にはユリスの仕掛けた罠が張り巡らされています。
落とし穴、捕獲の為の網、木の杭を発射する装置……エトセトラエトセトラ。
いずれも一発で致命傷を受ける程の威力はありませんが、それらの罠は動きを阻害し、数が重なれば体力も削られていくことでしょう。あるいは防御力やHPに自信があれば踏み砕いていくのも一つの策ではありますが。
木々を抜け、空を飛べば罠は無い……と思いますが、ユリスが空を飛ぶ獲物を想定していないとは思えないのが注意点です。
■ユリス・ハイデルン
旅人。大規模召喚以前に召喚されていた比較的若い女性。
ローレットには属さず、各地を転々として己が思うままに生きて来た。
近年、死を悟り。床の上で死ぬよりは戦いの中でこその死を、とローレットに依頼を。
彼女の戦闘スタイルは弓矢による遠距離攻撃群。
命中やEXA、手数が特徴ですが反面、一発一発の攻撃力自体は低いようです。
また病の影響からかHPは決して高くありません。その姿を捉える事さえ出来れば……
また常に一定の距離を保ち、姿を隠しながら獲物を仕留めるスタンスの様です。
ステルス・ブロッキングなど隠蔽の技能を所持しており、身を隠す事に優れます。
その他個人的な特性として自身の臭いを自然に紛れさせる事や足音を極力殺す事にも優れている様です。狩人の経験と、この戦場自体が彼女の『庭』である事を考えると、彼女は生半可には捜索の手に引っ掛からないでしょう。それなりに工夫する必要がありそうです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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