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シナリオ詳細

アブルザートの幻影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●不毛の土地の噂
 ラサの砂漠地帯の中にはいくつか人の踏み要らぬ土地がある。
 その中でも特に動植物が少なくなるのが、アブルザートと呼ばれる不毛の土地だ。
 過酷耐性のある生物すら寄りつかないその土地だが、今ラサではその土地に関する噂が流れていた。
 ある日盗賊に追われた商人が、命辛々逃げ出した先でアブルザートに迷い込んだらしい。
 商人はアブルザートで一夜を過ごすことになるのだが、その時あり得ない光景を目にしたと言う。
 生物の寄りつかないその土地で、微かに聞こえた笛のような音。
 気になって音のする方へ向かうと、まるで焚き火を囲むように蠢く影達を見た。
 盗賊達が根城にしているのか? 不審に思った商人が影を覗き込むように物陰から見ると――影達が一斉に商人へと向かって来たという。
 商人は恐怖に怯えて走り出した。振り返れば、足のない影達がどこまでも追いかけてきた。
 気づけば夜が明けて、商人はアブルザートから抜け出していた。影はいつの間にか消えて居た。

 ラサへと戻った商人はこの話を仲間に話した。
 多くの者は、幻覚でも見たのだろうとこの話を与太話と馬鹿にしたが、幾人かは興味をそそられアブルザートへと確かめに行った。
 だが、この行動がこの話を深刻な噂へと変貌させる。
 そう、確かめに行ったこの幾人かは、アブルザートへと向かったあと帰ってくることはなかったのだ。
 そうしてアブルザートには、何か良くないものが住み着いているという噂が流れ出す。
 商人が見た影がなんなのか。その正体を曝こうと、冒険者や傭兵がアブルザートへと向かうこともあったが、やはり帰ってくるものはいなかった。
 アブルザートの幻影と名付けられたこの影の正体を巡り、今、ラサでは懸賞金がかけられ冒険者や傭兵を募っている。
 これに目を付けた富豪の商人が、自らの手勢としてローレットへと依頼を出すのはすぐ後のことだった――


「今回はラサの商人からの依頼ね。不毛の大地の謎めいた噂の真相を確かめる、ってところかしら?」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)がまるで楽しむように言う。彼女にとって未知との遭遇は楽しいものなのだろうと、想像する。
「オーダーは影の正体を掴むこと。またもし敵対的な生物、あるいは存在ならこれを討伐することも含まれているわ」
 基本的に魔物討伐と大きな違いはないが、アブルザートという土地の探索も含まれていると思ってよいだろう。影を見つけ、影の正体を掴み、これを討伐する。不明点は多いが、やることは単純だろう。
「ポイントとしては、やっぱり商人が聞いたという笛のような音ね。これを辿ることが大事でしょう。それから焚き火のような光と煙のような靄、それを囲む影ね。
 なんだか、賑やかに焚き火を囲む風景を見せているような感じよね……まるで蟲を集めるための光源のようだわ。そればかりに注目してると、足下を掬われそうよね」
 想像するのを楽しむ様にリリィが目を細め妖艶に笑う。足下を掬われれば笑い事にはならないが、リリィの言葉は至言のようにも思える。人に害をなす存在が、”餌”を求めて罠を張る。ありえる話ではある。
「ラサから出発して、アブルザートにつく頃は夜になると思うわ。街灯なんてものは当然ないから、光源の用意はしっかりとね」
 そういって、リリィは依頼書をイレギュラーズに手渡した。
「がんばってね」と肩を叩かれたイレギュラーズは、さっそく準備を始めるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 砂漠地帯のある場所で、謎の影が現れました。
 噂の正体を掴みましょう。

●依頼達成条件
 アブルザートの幻影の正体を掴む。
 但し、敵意あるものだった場合、これを討伐する。

●情報確度
 このシナリオの情報精度はCです。
 判明している情報は少なく、不鮮明です。想定外の事態に注意しましょう。

●依頼について
 アブルザートと呼ばれる砂漠の中の不毛地帯を探索し、噂の根源たる影を見つけます。
 今現在判明していることは、真夜中にアブルザートに笛のような音が響くこと、そしてその先に焚き火のような光を囲む影が複数体いることです。
 噂の発端となった商人だけは助かっていますが、噂を確かめにいった冒険者や傭兵は帰らぬ者達となっています。
 またラサではこの影の正体に懸賞金が掛けられ、多くの冒険者や傭兵達を募っているようです。

 イレギュラーズは、この噂を聞きつけた商人の依頼でアブルザートへと向かいます。
 アブルザートまでの道程は保障されているので、特に準備等は必要ありません。
 アブルザートは砂漠の一地帯といっても広大ですので、八人で隈無く全てを探索することは困難でしょう。
 周囲に生物や植物は見られません。砂と、隆起した岩山が存在するのみです。

●戦闘地域
 ラサの砂漠地帯その中のアブルザートと呼ばれる土地になります。
 大きな岩山を障害物として使えます。視界は良好。自由に立ち回れます。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • アブルザートの幻影完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月23日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ

●商人との会話
 ラサの砂漠地帯に存在する不毛の土地アブルザート。その土地を巡る噂の真相を確かめに、イレギュラーズはラサへと向かった。
 まずするべきは、アブルザートに関わる情報収集だ。一体どのような場所で、そして噂の出所となった商人はどのようにしてアブルザートに迷い込んだのか、詳しく話を聞いてみる必要があると判断した。
 『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は自身のもつコネクションとアルパレストの紹介状を持って、件の商人へと話を聞くアポイントメントを取り付けた。
「それじゃ聞かせて貰おうか。アブルザートに迷い込んだ時の状況を――」
 ラダが尋ねると件の商人はその時のことを思い出しながら口を開いた。
「あれは取引を終えてラサへと戻る道すがらだった……」
 そう話始めた商人は事前にイレギュラーズが聞いた噂とほぼ相違ない話をした。盗賊に襲われ砂漠を迷ったあげく、アブルザートへ迷い込んだというのだ。
「その時のルートは覚えているのか?」
「ああ……なんとなくではあるが、大体の方向は記憶しているよ」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)の確認に商人は頷いた。商人達がよく使う交易ルートから北東へとはずれた場所のようだった。
「命辛々砂漠を逃げ延びている最中に気づいたんだ。だんだんと砂漠の砂がひび割れた大地に変わっていったことに……そして理解したんだ、ここがアブルザートだと、ね」
 雨が降らず水分の消失した乾いた砂の大地。目に見える生物の姿はなく、ただ荒廃した大地と隆起した岩山がある場所だと言う。
「そこで、聞いたって話だよね。笛の音」
  『ひだまりうさぎ』コゼット(p3p002755)が耳を立てて何かを聞き立てている仕草を見せると、商人はこくりと頷いた。
「そう、笛のような音だ……夜、ピィィィと甲高い音がどこからともなく聞こえてきて――私は耳を疑ったよ。この不毛の大地に人などいるわけないと思っていたからね」
 そして、商人は恐る恐る音のする方へ近づいていったと言う。隆起した岩山に隠れながら、徐々に音のする方へと。
「岩陰から覗いたとき、まず目に飛び込んできたのは赤い……オレンジのような光だ。そうまるで焚き火の光だ。そしてその光から沸き立つ煙のような靄……ああ、そうだ、そしてその周囲にはまるで焚き火を囲うかのように”影”が蠢いていたんだ――」
 怯えたように言う商人に、『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が目を細めて口を挟む。
「そこだ。影の細部は覚えていないのだな? 足のない影に追われたと言うが、それを今もしっかりと思い出せているか?」
「ああ……いや、確かにしっかりと確認はしたわけじゃなかったんだ。影達がまるでこっちを見るように振り向いたかと思えば、恐ろしい速度で近づいてきたんだよ……私は驚いて逃げ出すことしかできなかった」
 商人の心底怯えている様子に嘘はないように思える。だが、それは同時に、商人が当時極限の心理状態にあったことを裏付けている。ラルフの睨んだように、この証言については誇張された比喩表現である可能性も十分にありえるのだ。
「だ、だが命の危険を感じたのは本当なんだ! あの影からはなんというか……こう、殺気のようなものを感じたんだ。捕まったら殺される、そう感じる程の恐怖を……」
「敵対的な存在ということですか……話し合いの余地があれば良いと思っていたのですが」
 仮に意思疎通の図れる相手であれば、穏便にことを済ますこともできるのではないかと考える『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)の言葉に、商人は首を横に振り「難しいんじゃないか」と否定した。
「話し合いなんてできるものじゃないと思うよ……よく見たわけでもないし、恐ろしくてすぐに逃げてしまったけどね、あれは恐ろしい物の怪の類いだよ」
 恐ろしい恐ろしいと、商人は繰り返す。
 疑問に思うのは、そうした商人だけが逃げ延びることができて、噂を聞きつけた者達が皆帰らなかったことだ。
「貴方さまだけが帰ってこれたことは少し疑問ですね? 噂を流す種……それとも砂漠の何某と組んでる可能性も――」
 『聖少女』メルトリリス(p3p007295)がいくつかの可能性を示唆すると、商人は困ったように汗を拭いた。
「今日に至るまでホラ吹きだの、お前が黒幕だの疑われることも多かったよ……けどね、信じて欲しいとは言わないが、事実私は見てきたものを伝えただけなんだ……、あの土地で何が起こっているのか、私にはもうわからないよ」
 商人の疲れ切った顔を見るに、真実嘘はないようにも見える。これで商人が黒幕で賊と手を組んで噂を聞きつけた人達を襲っていたのだとしたら、混沌一の演者と言えるだろう。
「――となると何らかの生物の可能性が高そうだが……他の生物がいない不毛の土地と言うのが疑わしい。なんらかの生物が存在して、人を襲っているんじゃなかろうか?」
「不毛の土地とは噂に聞いたことはあるけれど……ラサに不毛の土地などあってほしくないものですもの。その線で調べて見たいところね」
 『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)の意見に『熱砂への憧憬』Erstine・Winstein(p3p007325)が頷く。イレギュラーズ達が意見の一致を見ると、商人は懇願するようにイレギュラーズ達へと言葉をかけた。
「アンタ達は帰ってきてくれよ……、私の噂が発端でこれ以上帰らぬ人がでるのはいやなんだ」
 どこまでも人の良さそうな商人に、「心配するな」と声を掛け、イレギュラーズはアブルザートへと向かいラサを出立した。

●アブルザート調査
 商人に聞いた交易ルートを辿り、数日。盗賊に襲われたという大凡の地点に辿り着いたイレギュラーズは、そこから北東へと向かい砂漠を進む。
 周囲を見渡すと、風景のほぼ全てを覆っていた砂丘が少なくなり、やがて乾いた大地と小さく隆起した岩山が見えてくる。
 ひび割れ、湿気を含まない地面は、なるほど草木も生えず生物の居場所もないように思えた。
「……ふむ。やはり不自然だな」
 ラルフが隆起した岩山を調べながら呟く。傍にいたErstineが疑問を返した。
「何かおかしな点でも?」
「周囲を見渡して貰えばわかるように、岩石砂漠に見られる岩山が存在しているが、そのほとんどが科学的な風化作用による自然の芸術と言えるだろう。だが、その中に明らかに”風化によらない”――そうまるで蝋を溶かして積み上げたかのような不自然な存在が見られる……注意して観察しなければ見落としてしまっていただろう」
「不自然な岩山、ね……」
 それが何を意味するのか、ラルフもErstineも今はまだわからなかったが、しかしこの土地がただの不毛な大地というわけではない、そんな気配を感じ取った。
「……微細な音もない、か」
 ひび割れた地面に耳をつけ、ハイセンスを用いて僅かな音も聞き漏らさないようにしていたカナタが頭をあげた。
「そっちは、どうだった?」
 ウサな耳をぴょこりとあげてコゼットがカナタに尋ねる。
「やはり活動的な生物はいなさそうだな。微細なバクテリアのような生物は存在しているのかもしれないが、少なくとも人を襲うような生物はこの土地にはいなさそうだろう」
「そう、だよね。動物らしい姿も、見えないし。ふもーの土地というのは本当みたい」
「この分じゃ、夜行性の生物も現れそうにないかな……となると――」
 ラダの思うところはイレギュラーズ皆が思うところだろう。
 噂通り動植物のいない土地。しかしながら行方不明者は事実存在している。
 混沌世界においては、たとえ生命を持たずとも実体を持ち悪意をバラ撒く存在がいることはイレギュラーズならば誰もが知るところだ。
 そういった存在が、ここアブルザートにおける幻影の正体である可能性は、非常に高くなると考えられるだろう。
「そろそろ日が落ちるな……」
 アランの呟きに、一行は頷く。
 ラサの砂漠の一地帯とはいえ、アブルザートは広大だ。全てを調査しきることは難しい。
 イレギュラーズは、商人が笛の音を聞いたと言う大凡の地点へと向かい、そこで夜を待った。
 焼き付けるような熱さを伴っていた陽光が落ちると、周囲の空気が一気に冷え込んでくる。柔らかな月明かりでさえも、この渇き生命の息吹を感じさせない土地においては、ただ寒々しいもののように思えた。
 簡易的な食事を終えて、風の音に耳を澄ませる。暖を取るために点けた焚き火がパチパチと爆ぜた。
 ふいに、コゼットとカナタが耳を立てた。二人は顔を見合わせる。
「いまの――」
「そっちも聞こえたか?」
 確認し合う二人についで、メルトリリスも顔を上げる。他の面々も確かに聞き取ったと言うように視線を巡らせた。
「たたたた、たしかに聞こえええました、おどろおどろしい笛の音!」
 ブルブルと身震いするように身体を抱くメルトリリス。
「怖がってる場合か! チッ、幻聴か何か……つーわけでもなさそうだな」
「向こうの方から聞こえてきますね。……向かいますか?」
 アリシスの確認にラダが頷く。
「その為に来たのだからね。行こう」
 イレギュラーズは乾いた大地を踏みしめて、音を追い走った。

●アブルザートの幻影
 笛の音はまるで自らの存在を示すかのように、生者の鼓膜を叩く。
 誘われるように荒地を進むイレギュラーズ。次第に隆起した岩山――それはラルフが違和感を覚えた積み上げられたかのような岩山だ――が増えていった。
「――待て」
 先行していたカナタが仲間達を止める。岩山に身を隠して先を覗き見れば、そこには商人の話にあった焚き火のような光が見えた。
「噂どおりの光……それにたしかに靄のようなものも見える」
「まわりを見てください、あれは――」
 ラルフの確認、そしてアリシスが指さした光の周囲には――噂通り揺蕩う”影”の存在。
「あれは精霊種……? いえ、それよりももっと朧気な気配のような――」
 Erstineが周囲に視線を向ける。行方不明者は……いない。
 もしも、行方不明者の存在を見つけることが出来たのならば――影が敵対的でないのであれば――和解という手段もあるかと考えていたErstineだが、この時点でその判断を下すことはできそうになかった。
「ひぃぃ……!」
 不意にメルトリリスが小さく悲鳴を上げる。仲間達も悲鳴を上げた理由をすぐに察する。
 様子を伺っていたイレギュラーズの方を、確かに影が振り向き”見た”のだ。そしてそれはメルトリリスのエネミーサーチの効果が発揮されたのと同時だ。
「す、すごい敵意なのですが! 完全に殺しに掛かってきてる気配なのですがっ!!」
 声を上げるメルトリリス。そんなことはわかっている、と仲間達が一斉に武器を構えて展開した。影が、一斉にイレギュラーズに向けて加速した。
「周囲に影以外の存在はいない……! しかし、話し合いの余地もないのか――ッ!」
 影が実体を持ち無数のニードルを生み出し射出する。物陰へと飛び退ってラダがそれをやり過ごす。
「すごい、ノイズ……! 良心なんて、カケラもないっ、明確な、殺意の、塊だよ!」
 向けられる悪意を雑音として捉えることの出来るコゼットが、その長い耳を両手で塞ぎ閉じながら仲間に警戒を促す。
「生物的な形跡は見当たらず……悪霊や呪霊の類いか。ならば遠慮無く殲滅するまでだ」
 ラルフの言葉にErstineも頷く。
「向こう敵対するなら、致し方ないわね……やるわ」
 影の生み出すニードルを手にした氷刃で弾きながらErstineが覚悟を決めた。
「――ッ! 気をつけてください、敵の攻撃、これは呪詛か何かの類いでしょう、触れた物を溶かして変質させるようです!」
 アリシスが声を上げる。ニードルを受けた傷口が焼けただれ溶け落ちるような感覚、そしてそれが蝋のように固まっていく気配を覚える。生命力が無くなれば、その結末はきっと――
「数が多い。とにかく減らさなくてはな――ッ!!」
 カナタの咆哮が影を威嚇し強化効果を消滅させる。そこへコゼットが飛び込んで月夜に高く舞った。
「ほらほら、こっちだよ……!」
 如何に意思持たない悪意の影だとしても、その小兎の動きは注視せざるを得ない。一度釘付けにしてしまえば、そこからはコゼットの本領発揮だ。小さい身体を活かし、飛び跳ねて影の無尽蔵の攻撃を躱してみせる。
「物理的な攻撃も効くようだな……助かる」
 狙撃体制に入ったラダが一射必中で影を撃ち貫いていく。衝撃に消し飛ばされるように靄となって消える影に手応えを感じてはいるが……次第に違和感を覚えていく。それは同じように攻め手に回っていた、Erstine、ラルフ、アランも同様だ。
「キリがないわね……!」
「無尽蔵……などとは考えたくはないが、個体数に変動がない。一体倒せば一体増える。多く同時に倒せば、すぐに同じ数だけ現れる、か」
「どうする? このままじゃジリ貧じゃねーか」
 如何にコゼットが回避力に優れていようとも回避し続けるのも、敵視を引きつけ続けるのも限界はある。アランの言うようにこのままでいずれ決壊するのは想像に難くない。
 撤退も考慮にいれるべきか。全員が僅かにそう考え始めたとき、アリシスの霊視眼が”それ”を捉えた。
「――! あの中心の光……あそこにあるモノを壊して下さい!」
 それは影達が囲んでいた焚き火のような光。その光の中に、何かがあるとアリシスが言った。
「オーケー、アリシスさん、あなたの魔眼信じるわ!」
「フォローするよ!」
 Erstineが手にした氷刃に魔力を纏わせ走る。メルトリリスが影の攻撃の嵐の中を進むErstineをフォローするように祈りを捧げ傷を癒やしていく。
 光を守るように影が立ちはだかる。それらをラルフとラダの攻撃が撃ち貫いて道を作り出した。
 光へと接近するErstineは光の中に靄を生み出す禍々しい古壺の影を見た。
「壺から悪霊なんて古典的じゃない……! ラサにそういう邪魔なモノはいらないのよ!」
 振り下ろした氷刃が壺を叩き割る。同時、噴き出すように靄が溢れ天高く昇っていく――その靄はそのままラサの方へと飛んでいき……見えなくなると地面に溢れていた光が消えていった。
「……影が消えて行く」
 光が消えると、影も同じように居場所を無くしたように消えて行った。
 そうして月明かりのみの闇夜が訪れると、 笛の音は、いつの間にか消えて居た。不毛の大地に相応しい静寂が戻ったのだ。

●噂の終わり……
「と、言うわけでアブルザートの幻影の正体は、悪魔の壺より生み出された悪霊だったのでした。そしてそれらは私達イレギュラーズが倒したのです。
 まあこれでアブルザートで行方不明者は出なくなるかもしれないけど、近くに盗賊達がいるかも知れないから、依然として近寄らないでね」
 信仰蒐集もつメルトリリスの言葉はよく通り、ラサに広がっていたアブルザートの幻影の噂は、すぐに終息しそうな勢いだった。
「……そんなアブルザートも人の訪れる地にしたいけれど……まだまだ課題は山積みかしらね。少しずつ……出来ることはあるはずですもの。頑張らなきゃ、ね」
 ラサを愛するErstineは人知れずそう呟いて、自身の目標を今一度明確にした。彼女のような存在が居る限り、きっといつかアブルザートのような土地にも緑と生命が育まれるに違いなかった。
「しかし、あの壺は一体なんだったんだ? まさかあの壺の仕業で動植物が全滅したなんて壮大な話ではあるまい?」
 カナタの言葉にラダが苦笑する。
「さすがにそんな大事ではないと思うけど。ただ、普通に考えれば”あの場所に壺をおいた者”がいたはずだ」
 ラダはアブルザートで拾ってきた行方不明者の遺品を見る。千切れたバッグとその肩紐。噂を聞いて向かった冒険者のものだろうか。バッグの中には冒険の必需品が入っているだけだった。
「悪意ある何者かがあそこに呪われた壺をおいて、噂を流した……ということでしょうか?」
「そうなると、最初の、生存者の、商人さんが怪しいよね」
 アリシスとコゼットの言葉を聞いて、アランが頷く。
「そいつを今調べに行ってるってよ……って、帰ってきたか」
 目配せすると、イレギュラーズの元へ調査にでていたラルフが帰ってくる。
「……悪い予感というのは当たるものだな。
 昨夜を最後に商人の行方がわからなくなっている。アブルザートの噂に関わる最初の証人であり、最後の行方不明者となったわけだ」
「そうなると、商人が怪しいわね……しかし噂を作り上げて何をしたかったのかしら?」
 疑問は尽きないが、これ以上は現状調べることは難しいだろう。ひとまずはローレットへ戻り報告をしたいところだったが……。
「……」
 帰路につく中、イレギュラーズはラサの路地裏に出現した蝋を固めたような妙な岩の噂を聞いた。
 まるで何かを溶かしたようなそれは、今朝になって急に一つ現れたという。
 イレギュラーズは思う。
 影の攻撃によって溶け落ちて蝋のように固まったことを。そして、噂の出所の周囲にはいくつもの蝋を溶かして積み上げたような岩山があったことを。

 ――ならば、路地裏に現れたその岩の正体は――

成否

成功

MVP

アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン

状態異常

なし

あとがき

体調不良により、大変お待たせしてしまいました。本当に申し訳ありません。

依頼お疲れ様でした。
ミステリというよりはホラーなシナリオとなりました。

MVPはアリシスさんに送ります。おめでとうございます。

このたびはご参加頂きありがとうございました。不慮の事態で大変遅くなったことを重ねてお詫び致します。
懲りずにまた参加して頂ければ嬉しいです。その時はよろしくお願い致します。

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