PandoraPartyProject

シナリオ詳細

World Glitch:TYPE-DUSK

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 世界とは、高度なプログラムの下に生み出されたものである。
 そう考えたことはあるだろうか?
 メタ次元の話ではない――例えば、この世界が超人類によって作られたコンピュータ・ワールドであるとか、そんな話では決してない。
 例えば、花は咲き、枯れ、また花が咲く。
 例えば、水は流れ、溜まり、昇り、降り、また流れる。
 すべて周到に設計された、法則の賜物によるものだ。
 神の力を感じろと言っているわけではない。これを作り出したのが神であろうと偶然の産物であろうと、そんなことは関係ない。
 重要なのは、世界とは、このようなプログラムの制御下にあるという事だ。物理法則、魔術法則、そう言った高度なプログラムの下に作られているから、花は流れないし、水は咲かない。プログラムに反することは行われない、という事だ。そう、この世界は、幾重にも連なるプログラムの集合体で構成されている――と、仮定しよう。
 さて、本題。プログラムについて、多少の知識があるものなら分かるだろうだろうが、それが高度であれば高度であるにしたがい、切っても切れぬ関係にあるものがある。
 Glitch(バグ)だ。
 たとえばがん細胞――人間を殺す、やっかいな病気だ。あれは人間というプログラムに生じた、Glitchなのではないだろうか。正常に成長する細胞のプログラム、それに生じた切っても切れぬGlitchだと。
 何が言いたいのかといえば、つまり世の不条理や超常的な事は、Glitchなのではないか、という事だ。そして人間という一つのプログラムに、がんというGlitchが存在するのだから、人間という一個体にも、Glitchが存在するのだから、ならば世界にも――世界のどこかにも、Glitchが存在するのではないか――と言う仮定だ。
 そしておおむね、Glitchを排除することはなかなかに、難しい。
 それは……そのGlitchは、非周期的に、ありとあらゆる刃物の中から突如出現する。例えば前回はある兵士の剣であったし、前の前はバターナイフだったし、前の前の前は玩具のカタナだった。
 それはそう定義づけられた瞬間に、己を手にしたものを乗っ取る、寄生式のアーティファクトへと変貌する。乗っ取られたものは、その瞬間に絶命するが、肉体は自然経過で朽ちることなく動き続ける。肉体は高い身体能力と戦闘能力を持ち、ただひたすらに無差別の殺戮を行う。これは、Glitch――DUSKと命名されたアーティファクトが破壊されるまで続く。
 このGlitchがDUSKと名付けられたのには、きちんとした理由がある。DUSKの寄生が成った瞬間、DUSKは周囲生物の色覚に働きかけ、まるで『あたりが夕暮れであるかのような』光景に、世界を変貌させる。
 また、DUSKは非常に強力な魅了効果を持つ。相対した人物に、自分を斬ってもらいたいと思わせるような、強烈な魅了効果を。
 これがDUSK。TYPE-DUSK。世界のプログラムから生まれ落ちたGlitch、World Glitchだ。

 ――『World Glitch』著.ヴェルゼ・クェイク――より抜粋。


 幻想、ローレットの拠点である酒場――息を切らせた男がやってきたのは、ある穏やかな午後の事であった。
 男を落ち着かせて話を聞いた所、近隣の村から逃げてきたのだという。
「14、15歳の娘っ子だったんだ……隣の家の、農家の。それが突然、出刃包丁を振り回して、皆を……」
 殺して回ったのだと――。
 男は言った。
 鮮やかな手並みだった。まるで人体のそれを知り尽くしているかのように、次々と人を殺し、解体していったのだと。
「そして、変な事なんだが、辺りが夕暮れになるんだ。赤いんだよ。世界が。その娘の近くにいると。それに」
 斬られたくてたまらないんだ、と。
 男は言う。
 近くにいると、娘に、斬られたくて斬られたくて、切り殺されたくて斬り殺されたくてたまらないんだ、と――。
 些か興奮気味に、男は言うのだ。
「美しかったんだ。夕暮れに立つ娘っ子の姿が――赤い世界をさらに赤く彩る鮮血が――それを生み出した彼女が――美しくて美しくて、斬られたくて斬られたくて、たまらなかったんだよう」
 男は頭を抱えて、震えていた。
 恐怖と困惑。そして未だに心にこびりつく恍惚が、男の身体をがたがたと震えさせていた。
「とにかく――このまま放っておいたら、他の村や町に被害が出ちまう! たのむ、アンタら強いんだろ!? 何とかしてくれ!」
 その言葉に、イレギュラーズ達は、件の村へと向かう事にした――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲

 です。
 では、今回の現象、『World Glitch:TYPE-DUSK』について、説明いたします。

●作戦成功条件
 『World Glitch:TYPE-DUSK』の完全破壊。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●作戦状況
 作戦の目的は、『World Glitch:TYPE-DUSK』の完全破壊となっています。
 『World Glitch:TYPE-DUSK』は寄生タイプのGlitchです。今回の寄生先は15歳の一般人女性でしたが、寄生された段階ですでに絶命していますので、心おきなく破壊してください。
 作戦区域は小さな村の一角です。どこで戦っても結構ですが、比較的広い中央広場が存在しますので、そこでの戦闘をお勧めします。
 作戦決行時刻は午後になりますが、Glitchの能力により、周囲は常に『夕暮れ』のように赤く明るく感じるようになっています。周囲実時間が夜であろうと朝であろうと、常に夕暮れのように赤く明るく感じます。
 その他、留意する点はないでしょう。

●作戦目標情報
『World Glitch:TYPE-DUSK』 ×1
 寄生タイプのGlitchです。今回は、出刃包丁から発生した様です。
 特徴は以下の通り。
  TYPE-DUSKは非常に高い反応と回避、EXAを持ちます。
  TYPE-DUSKの攻撃は全て物理属性です。
  TYPE-DUSKの攻撃範囲は至近~中距離をカバーします。全て単体攻撃です。
  TYPE-DUSKの攻撃には、必殺、流血、呪縛、のBSが付与される場合があります。
 重要
  万が一、未破壊のTYPE-DUSKが寄生者の手から離れた場合、決してそれに直接手で触れないでください。触れてしまった場合、その人物が新たな寄生者となりGlitch化します。

 以上。

 となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • World Glitch:TYPE-DUSKLv:15以上完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月04日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
レッド(p3p000395)
赤々靴
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に

リプレイ


 あたりは静寂に包まれていた。
 鳥の声もなく、虫の声もなく、人の声もなく、風の声もない。
 あまりにも静謐。あまりにも静寂。
 有り得ぬほどのその静けさは――かの書物の言葉を借りれば、『World Glitch』の出現ゆえであろうか。
 件の村へと急ぎ向う途上。イレギュラーズ達はそこにいた。
 村に近づけば近づくほどに、静寂は深くなり。
 村に近づけば近づくほどに、血の臭いは濃くなった。
「酷いな……」
 真っ先にそれに気づいたのは、『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)である。その眉間にしわを寄せ、鼻孔をくすぐる血の臭いに不快感を示して見せた。
「これではもう、生き残った者はいないだろう……」
 そう断言できるほどに立ち昇る、死の臭い――立ち昇るぞわぞわとした感覚を、カナタは抑え込んだ。
「くそっ」
 吐き捨てるように言ったのは、『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)だ。悔しげにうめくのは、そこに救うべき命がすでに亡くなってしまったことに対してだろうか。
「呪いだか虫だか知らねぇが……無茶苦茶だ」
「虫……バグ、だね。コンピュータ……機械の用語だよ」
 答えたのは、『パンドラの匣を開けし者』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)だ。
「研究者に敬意を表して、World Glitchとそのまま呼ぼうか。世界の故障、傷……そう言った意味さ」
「じゃあなんだ? これは世界が悪かった……運が悪かった、ってか」
 サンディはどうしても、口調が荒くなることを抑えきれなかった。ふつふつと湧き出る不条理への怒りは、今はぶつけ所を失って、言葉の端からにじみ出る。ラルフはそれを理解していたから、サンディが吐き出すままに任せている。
「そうだな……完全完璧はあり得ない……いや、あるいは全てを内包するが故に、瑕すらも内包する……それが無垢なる混沌という世界なのかもしれない」
 World Glitchという現象の提唱者は、あくまで一研究者に過ぎない。それが完全な実証であるとも、にわかには言い難いのだ。故に、本来の所、World Glitchがどういったものであるのか、まだ不明点は多い、という事だ。混沌は未だ、底知れぬ中身を我らに見せる――底知れぬ深淵。深い深い広大なる世界。
「なんにしても、だ」
 『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が声をあげた。
「こうなった以上、そのアーティファクトは破壊する。これ以上犠牲者を出さないためにもだ」
 仲間達は頷く。その意思統一はできいた。その根源は不明であっても、対処方法は分っている。打ち倒し、破壊する。其れだけだ。
 イレギュラーズ達は道を進む。やがて村の入り口にたどり着いた時、その現象は発生した。
「これは……急に、空が」
 『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)が、たじろぐように言った。
 紅い――世界が、紅く染まっていた。
 先ほどまで、太陽は頂点に輝いていた――いや、今も其れは、変わらない。オレンジ色の太陽は高く空に輝き――しかし世界は夕暮れの如き、赤に染まっている。
 紅い。それはおぞけを覚えるほどに美しき、夕暮れの世界。
「太陽は高く……時計の針も動いていません。間違いなく、世界は昼間……なのに、これは」
 鶫はたまらず、頭を振った。異常ともいえる現象――それが、World Glitch:TYPE-DUSKが巻き起こす、現象の一つだ。あまりにも荒唐無稽な光景に、めまいを覚える者もいたかもしれない。これこそが、世界の生み出した瑕疵の力なのか。
「ソワソワする……あまりに奇妙だ」
 カナタが、たまらずうめいた。
「噂とか、何かの本で読んだ通りっす……!」
 『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が、驚くようにそう言った。
「……となれば、この現象の中心には……!」
 レッドが警戒しながら進む――仲間達もそれに続いた。
 果たして、村の中は赤く染まっていた。それは、イメージの夕暮れの色だけではない。
 朱い、朱い、無数の血痕。老若男女問わず、斬り捨てられた人々の遺体。吐き気を催す、殺戮の現場。
「なんと……こんなこと、許せない……!」
 鶫は、その凄惨たる光景に、たまらず声をあげる。
「いた……っす……!」
 レッドが声をあげる。
 災禍の中心。そこには。
 一人の少女が、いた。
 手にしたものは、ありきたりな出刃包丁のように見える。
 その全身は血にまみれ、あまりにも美しく見えた。
 血に染まる、頬が美しかった。
 刃よりしたたり落ちる鮮血が美しかった。
 整っているとは言わぬ、平凡なる顔かたちが、美しかった。
 あまりにも場違いな、その笑顔が美しかった。
 夕暮れの紅い世界にたたずむ、その朱い姿が美しかった。
 紅い世界を朱く染める、その所業が美しかった。
 美しかった。
 美しかった。
 美しくて美しくて――その世界を構成する、美しいものに、自分もなりたいと――。
 そう思ってしまうほどに。
「皆……気をしっかり持って」
 歯を食いしばって、『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)が言った。その誘惑は、常なるものならば抗えるものではないだろう。だが、ここに居るのは百戦錬磨のイレギュラーズの勇士たち。その誘惑に抗えるだけの心の強さも、対処法も、持ち合わせ居るはずだ。
「なるほど……物語映えする光景ではありますね」
 『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は、些か飄々とした様子で答えて見せた。
「しかし――あれは生命ではない。物語を紡ぐべき存在では、ありません」
 四音はゆっくりと、その左手を掲げた。オーブが穏やかな光を放つ。それは、戦闘態勢に入ったことを意味する。
「討伐するわよ……あんなものを、一秒たりとも、この世に存在させてはいけない……っ!」
 アルテミアがかざす、蒼玉の如き青の刃。紅い世界においてその熱情を覚ますかのような青は、アルテミアの静かな決意を表し、その冷たさは精神を落ち着かせるかのようでもあった。
「呪いのアーティファクトにやって意味があるかは知らないが」
 サンディは呟くと、その手からカードを放った。それは、サンディの予告状だった。寸分たがわず、World Glitchの――DUSKに身体奪われた少女の足元へ。高らかに、突き刺さる。
「サンディ・カルタ、ここに参上! 真っ赤な世界、頂戴するぜ!」
 その言葉に。
 少女は笑った。
 美しく。
 朱く。
 その言葉を合図に。
 少女は――DUSKは、一気に走り出した。


「来るぞ……構えろ!」
 アランが叫び、イレギュラーズ達が一斉に動き出す。DUSKの動きは速い――その時、その場にいた誰よりも。
「ぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!」
 声にならぬ声をあげて、少女――DUSKが目を見開き、笑った。手にした出刃包丁は、この時竜狩りの刃のごとき輝きを見せた。続いて、一気に地を蹴り、走り出す――目標は、サンディだ!
「いいぜ、来いよ……! そのレディ、返してもらうぜ!」
 サンディは手にした刃――出刃包丁と対照的なようにさび付いたそれを――構え、迎え撃つ!
 ぎい、と笑い、DUSKが接敵! その刃を大上段から振り下ろした! サンディは手にした刃で、その斬撃を受け止め、いなす――重い一撃が、その手に衝撃を与えた。歴戦の勇士の手を痺れさせるほどの威力! それは、目の前の少女の膂力から発せられるものとは信じられぬほどに。
 幼気な少女を、突如バケモノへと変貌させるという理不尽。それについては、間違いなくシステムのバグとしか言えぬ物体であった。
「サンディさん!」
 四音の放つ賦活の術式が、サンディの腕の痛みを取り除いた。サンディが刃を振り払うと、DUSKは後方にバク転しながら回避。そのまま高く跳躍する。
「フリーにしてはいけない!」
 ラルフが叫んだ。リボルバーより撃ち放つ、赤い鎖の銃弾! たなびく鎖が一発、二発と撃ち放たれ、DUSKへと迫る!
「如何に機動力が高かろうと、空中では動けまいよ!」
 ラルフの言葉は、しかし即座に否定されることになる。DUSKは己の身体を力強く殴りつけ、空中でその体勢を微妙に動かして見せたのだ。精密にポイントされた銃撃であったが、精密であるが故にわずかな誤差をも許さないという弱点も持つ――いや、これは己の身体の骨を砕くほどの威力で自身を殴るなどと言う、身体が死んでいるから故になせる回避術の業である。
「いぃぃぃひひひ」
 その代償に、有り得ぬ体勢でDUSKが落着する。ぐちゃり、とどこかの骨が折れた音がしたが、しかしDUSKはすぐさま飛び上がり、再び駆け出す。
「――はは! 流石は混沌世界のバグだよ、そう来なくてはな!」
 しかしラルフは、悔しがる様子もなく、その動きを称賛してみせた。
「レッドさん! 抑え込むわよ!」
「了解っす!」
 アルテミア、そしてレッドが一気に駆けだした。方や刃を、方や装甲を掲げ、同時にDUSKへと襲い掛かる! アルテミアは右、レッドは左。同時に繰り出された刃と装甲を、DUSKは出刃包丁と、己の左手で受け止めて見せた!
 ぎりり、ごりり、と刃と装甲、そしてDUSKの骨が鳴る。ぎょろり、とDUSKの両の眼が、正反対に動いて、アルテミアとレッドを見た。
「くっ……押し切れない……っ!」
 アルテミアが呻く……相手が普通の少女であれば、アルテミアの斬撃を片手で受け止めることなど不可能である。だが、相手は世界のバグだ。
「滅茶苦茶……っすよ!」
 レッドも呻く。全身全霊をかけた装甲による圧迫も、片手によって防がれている。
「そのまま抑え込んでくれ! 連撃を仕掛ける!」
 叫ぶカナタが、背後から迫った! 放たれた爪の一撃が、DUSKの腹部を捕らえ、出血させる――それは美しい光景で――だがカナタには、そんなものは通用しない!
「腕を斬り落とせば……!」
 振るう爪の一撃は、DUSKの右腕へ――だが、DUSKはそれを察した。アルテミアとレッド、二人に込めた力を頂点に、己の身体を浮き上がらせると、そのまま鋭く後方へ蹴りを加える! 上昇するかかとが、カナタの腹部狙って蹴り上げた!
「なっ……!?」
 とっさに受け止めたカナタが、そのままの勢いで後方へと吹き飛ばされる!
「あぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃい!」
 DUSKはそのまま、身体をひねると、アルテミアとレッドの態勢を崩させた。その勢いで自身も体を回転させ、鋭い回転蹴りをアルテミアとレッドへ加える!
 二人はその攻撃を受けながら、後方へ跳躍!
「しまった……!」
「また逃げられるっす!」
「逃がさねぇぞ!」
 サンディが突撃する! 相手が動く前に、再びその動きを縫い付ける! サンディの振る錆びたナイフが、DUSKの頬に傷をつけた。内部より爆発する力が、DUSKの頬を殴りつける――DUSKの頬に、涙が浮かんだ。
「助けて……」
「!?」
 サンディは思わず目を見開いた。意識があるのか……!?
「サンディさん! 騙されてはいけないよ。その子はもう死んでいる!」
 四音の叫びに、サンディはその表情を苛烈なものへと変えた!
「ムシがぁ! 馬鹿にしてんじゃねぇぞ!」
 サンディの叫び――DUSKは跳躍した。
「ぃぃぃはぁぁぁぁはははは!」
 哄笑するDUSK、狂笑するDUSK――。
「死者を冒涜するかッ!」
 鶫の構える、巨大な霊子砲――召喚式高圧縮霊子砲『天之瓊矛』が撃ち放たれる。一瞬の静寂――そして放たれる光条が、跳躍するDUSKを飲み込んだ――。


 本当は、五体満足で、埋葬してあげたかった。
 そう、鶫は思う。
 だが、今は――その私情は捨てよう。それほどに……全力を以って消滅させなばらないほどに、DUSKは……これは邪悪過ぎる。
 故に。己の持つ全力を、鶫はその砲に込めて撃ち込んだ。
「ぎぃぃぃぃぃ!」
 高圧の霊子光が、DUSKの身体を焼く――じゅわり、と出刃包丁がその熱量に溶けると、DUSKはひときわ大きな悲鳴を上げた。
 DUSKは再び己の身体を殴りつけると、物理法則を無視したかのような動きで落着。バッタのように飛び跳ねると、再びイレギュラーズ達へと相対した。
 ここまで、わずかに数回の打ち合いにして、お互いの傷は深い。イレギュラーズ達も、相当の深手を負っていた。
 だが、此処で退くわけにはいかない。この悍ましき世界の瑕疵を、此処で完全に粉砕せねばならないのだ。
「皆さん……やれますか?」
 四音が尋ねるのへ、サンディは頷いた。
「当たり前だ!」
「ふぅ……私はこういう、根性的な展開は専門外なんだがね」
 肩をすくめつつ、ラルフはリボルバーを構える。
「あんな滅茶苦茶な奴、ほっとけないっすよ!」
 レッドが声をあげ、
「同感よ。あのような悍ましいものを、世に存在させてはいけない」
 鶫が霊子砲を掲げ、頷く。
「ここで仕留めるぞ。絶対にな」
 カナタがその爪を構え。
 アランは頷く。
「なら、行くわよ……皆」
 アルテミアの言葉に、イレギュラーズは一斉に駆け出した! DUSKがその身体を引きずるように――その、今までイレギュラーズ達が蓄積させたダメージが、DUSKの動きを、僅かに――僅かに、遅らせた。
 なら、その僅かで。
 イレギュラーズ達には充分だ。
「さぁ、大盤振る舞いですよ!」
 四音が放つ、賦活のエネルギーが、イレギュラーズ達へと降り注ぐ! その背を押す、力を受けて、イレギュラーズ達は最後の力を振り絞った!
「今度は、撃ち貫かせてもらう」
 ラルフの放つ、再びの赤い鎖が、今度こそDUSKの左腕をぶち抜いた! 繋がれた鎖を、ラルフはその手に握りしめ、力強くDUSKを引き寄せる!
「いぃぃぃぃぃ!」
 DUSKはラルフに、その刃を振るった! 胸元から迸る鮮血――ぐらり、と揺れるラルフは、しかし倒れない!
「うちたまえ、弓削君!」
 ラルフはその鎖を振り回し、DUSKを高く放り投げた――そこへ着弾する、霊子の光!
「融け墜ちなさいッ!」
 鶫の放つ天之瓊矛が、再びDUSKを焼いた。
「いぃっぃ……!!」
 悲鳴が、光条の中で、刃が、ラルフの鎖が溶け落ちる――落着したDUSKは、しかしまだその形を保っていた。
 DUSKはよろよろと立ち上がる――そこにカナタがその身体ごとの体当りを見せた。
「動きを……!」
 吹き飛ばされたDUSK――その先にいたのは、レッドだ。
「止めるっす!!」
 カナタの攻撃の勢いごと、レッドは装甲で受け止める。ごり、という音がして、DUSKがその装甲に叩きつけられた。
 その身体に多大な損傷を受けたDUSK――白目をむいて、ぐらり、と倒れる――が、その足がぎしり、と地を踏みしめた。
「い、い、い」
 DUSKがゆっくりと、次の足を踏み出す――前に。
「ここまでよ、悪しき瑕疵」
 アルテミアの、清冽なる青の刃が、DUSKの――少女の右腕を斬り飛ばした。
 右腕が、DUSKが、宙を舞う。
 やがてその右腕から力が抜け落ち、DUSKが――半ば融け掛けた出刃包丁が、宙に舞う。
「終わりだ、クソ野郎」
 サンディの刃が、それを捕らえた。
 さび付いた刃が、融け掛けたDUSKを弾き飛ばす――その身体に込められた呪いが、DUSKの中心で爆発し――その刃は、中心から真っ二つに折れて、地に落着した。


 赤い。赤い。赤い。
 赤い焔が、すべてを飲み込む――。
「で、何かわかったのか?」
 村の鍜治場にある溶鉱炉。その中の炎を見つめながら、サンディはラルフへと問いかけた。
 半分に折られたDUSK――イレギュラーズ達は、それを慎重に回収すると、ラルフの持つ万能金属で包み込むと、そのまま溶鉱炉の中へと放り投げた。
「いくつかは。例えばこれは、『刃物』という形態を保てなくなった瞬間に現象として消滅する。こんな風にね」
 溶鉱炉が煙をあげる――その空が徐々に、青さを取り戻し……やがて、真っ青な午後の空を、イレギュラーズ達に見せてくれた。
「ようやく違和感がぬぐえたよ。眩暈がしそうだった」
 カナタが苦笑する。その感覚から、より目の前の現象と事実の乖離を認識しやすかったカナタに、これはつらかっただろう。
「……このDUSKは、また発生するのかしら……」
 アルテミアが声をあげるのへ、ラルフは答えた。
「解らないね。これは調べた限りの話だが、この現象は刃物のなかの原子が有り得ぬ確率で、これまたあり得ない状態に魔力を受けて固着した時に……」
 そこまで言って、ラルフは肩をすくめた。
「まぁ、要するに、神のみぞ知る、って事さ」
「なんにしても、事件が解決したのは良かったっす」
 レッドが言う。
「酷い……現場っすからね。これから街の人たちも呼んで、埋葬を手伝ってもらわなきゃならないっす」
 青空を取り戻した空の下だが、だがその朱さは未だ消え去ることは無い。
 この傷跡が消え去るには、しばしの時間がかかるのだろう。
「そうね……」
 鶫は静かに――祈るように、そうとだけ言った。
「かくして物語は閉じる――青空の下に」
 四音はそう呟いた。
 平常を取り戻した世界の声が、風の音が、鳥の声が――。
 世界が、感謝するように、鳴り響いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アラン・アークライト(p3p000365)[重傷]
太陽の勇者
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)[重傷]
我が為に

あとがき

 ご参加ありがとう

 。
 お疲れさまでした、勇敢なデバッカーの皆様。
 此度の現象、TYPE-DUSKは除かれました。
 その発生確率は、人知の及ぶ外のこと。
 皆様が、またDUSKと遭遇することは――確率的に、無いでしょう。

 それでは、別種World Glitchの発生に備え、待機をお願いいたします。

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