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シナリオ詳細

<Gear Basilica>戦場のスタア・ディスコ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


<「いますぐ降りて来い。おとなしく其れを我々に引き渡せば、命だけは助けてやる!」>
 拡声器から飛んでいたがなり声がぴたりと止む。直後、魔導機兵のフリル――左右に三枚、計六枚ある前面の装甲板にパラパラと弾丸が当たってははじけとんだ。
「ひっ」
 【漂流者】Rは頭を手で庇うと、細くしわんだ首をすくめた。万が一もないはずだが、億が一に弾が装甲板を貫通した場合に備え、フリルの後ろで体を小さく縮こまらせる。
(「いやん、こっわ~い……じゃない。ええい、しっかりしろR!」)
 もはや才能を出し惜しんでいる場合ではなかった。
 異界からやって来たこの魔法使いを信じ、勇気を持って立ちあがったモリブデンの民を逃がさねばならない、いますぐ!
 歯車兵団にぐるりと囲まれつつある中、Rは超上げ底の金靴で操縦シートを踏み、震えながら立ちあがった。
 フリルから顔の半分をだし、じりじりと距離を詰めてくる歯車兵たちを三メートルの高さから睥睨する。
 ものが燃えた後に漂うきな臭い匂いの風が、Rの長く白い髪を乱した。

 戦場には必ず風が吹く。
 たぶん、炎があるせいだろう。
 すべてを焼き尽くさんとする憎悪の炎が。

 ……oh、なんて詩的なボク。どんなときにも隠しきれずにあふれでてしまう自分の才能が恐ろしい。
<「投降せよ! それともそれに乗ったまま、歯車大聖堂(ギアバジリカ)に食われたいのか!」>
 よし、ボクが敵を魅了して引きつけてやる。その間にみんなに逃げてもらうのだ。
それができるのはボクだけ。

 なぜならボクは――。

 Rは指パッチンでフリルを開いた。次の指パッチンで、六枚のフリルを寝かせて広げ、ステージモードに変える。
「ヒアウィゴー!」
 実齢三千歳、見た目八十歳とは思えぬ素早い身のこなしで、操縦シートからステージへ飛び移った。
「待たせたネ、歯車兵団の諸君」
 白いスーツに胸元が大きく開いた赤紫のラメシャツ。首から下げた『Disco』の文字が戦場の風に揺れてキラリンと光る。
<「な、なななんだ貴様!」>
 Rは腰に重心を置いてクッと突きだすと、右手を天にスッと伸ばした。

「スターです」

 突然、戦場に鳴り響くディスコ・ミュージック。
 魔導機兵――三綺竜型の尻尾が持ちあがり、尾の先に仕込んであった三つのミラーボールが回ってキラキラをまき散らす。
 いきなりの超展開に度肝をぬかれた歯車兵たちは、そこが戦場であることを忘れ、ぽかっと口をあけて、三メートル上で腕をぐるぐる回しピポットターンを決める老人を見る。
 狂気が狂気を圧していた。


 突如として暴走しはじめた巨大古代兵器、歯車大聖堂(ギアバジリカ)。
 無数の村や周辺の古代遺跡などを『捕食』して取り込み、自らを巨大な聖堂へと作り替え大きく肥大し続けていた。そして、とうとう、怪物は首都スチールグラードに向かって進撃を開始する。
 最大級の国難に混乱を極めるゼシュテル鉄帝国は首都スチールグラードのはずれにて、『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)は声を張り上げていた。

「緊急案件だ! 誰か来てくれ、助けがいる!」
 
 戦場から帰って来たばかりの者、これから戦いに向かおうとしていた者が、逼迫が目に見えるような声に気を引かれて足を止める。
 この上なにごとか――。
 クルールの前にイレギュラーズたちが駆け寄ってきた。
「大至急、助けに向かって欲しい。『R』という不良イレギュラーズが避難所の民間人を引き連れて、歯車大聖堂に向かっていったんだが、歯車兵団の逆襲にあった。一緒に出撃した民間人はRの機転で逃げ出すことができたが、Rと彼が作った兵器は歯車兵に完全包囲されてしまった。早く助けに行かないと、大変なことになる」
 Rの命を助けなくてはならないのはもちろんのこと、Rが作った兵器も歯車兵団に渡すわけにはいかない。
 謎の力で動くRの兵器を歯車大聖堂が取り込めば、ますます破壊力が増すだろう。ただでさえ強大だというのに。
「そのRというやつが作った兵器の詳細も気になるが、『不良』イレギュラーズっていうのはなんだ?」
「ああ、それはな……」
 異界から混沌へ。
 ざんげに召還されたものは空中庭園を出たあと、例外なくローレットを訪れる。ほかに頼れるところがないからだ。
 多くはローレットで生活資金を前借し、住む場所を紹介され、斡旋された依頼をこなしながらこの世界になじんでいく。
 だが、中には例外がいるのだ。
「ボクはこれまでもいろんな世界を渡り歩いてきたからネ。助けてもらわなくても一人でやっていけるヨ」
 などと言って、一度顔を出したきりローレットに寄りつかない者が。
「オレはそういうヤツを『不良』と呼んでいる。Rがまさにそうだ。オレはたまたま、ローレットで彼を見かけたんだが……いろんな意味ですごい爺さんだった」
 どうすごいのか。
 興味があるが、年寄りが一人で敵に囲まれているとなれば、すぐにでも助けにいかねばなるまい。
「よろしく頼むぜ。Rは自作の兵器――三綺竜型・魔導機兵の頭部で踊って敵の気を引いている。気を引き続けていられる限り、歯車兵たちはRを撃たないだろう。だが、Rは年寄りだ。さっきも言ったが間違いなく年寄りだ。体力も踊りのレパートリーもそろそろ尽きる……」
 それと、とクルールは言葉を継いだ。
「三綺竜型・魔導機兵の破壊も頼む。持ち帰る時間はない。歯車大聖堂に食わせるぐらいなら、その場で粉々にしてくれ」

GMコメント

●依頼条件
・歯車兵団一個小隊を撃退し、Rを保護すること。
・30分以内に三綺竜型・魔導機兵を完全破壊、撤収すること。

●戦場
避難所の近く。
昼。
見通しのいい平原です。
遠くに歯車大聖堂(ギアバジリカ)が見えています。
30分以内にことを終えないと、おいしそうな餌(三綺竜型・魔導機兵)に気づいた歯車大聖堂がやってきます。
歯車大聖堂はついでに近くの避難所も食べようとするでしょう。

●歯車兵団、一個小隊(3分隊、22人)
歯車大聖堂(ギアバジリカ)に取り込まれ、魔種アナスタシアの思想に洗脳された黒衣の兵団です。
彼らは魔種の影響を受けて狂気に染まっており、略奪や虐殺に対して全く抵抗がありません。
全員、鉄騎種。
・小隊長1人。
 魔導機兵の正面にいる分隊の後ろに控えています。
 シュバリエ職です。槍と盾で武装しています。
 拡声器所持。機関銃を乗せたジープに乗っています。
・分隊長3人
 全員ナイト職です。剣と盾で武装しています。
・兵士18人(各分隊6人)
 特にこれと言ったスキルをもっていません。ハンマーと短銃で武装しています。

※Rが正面にいる兵士たちを三綺竜型・魔導機兵で減らしてくれます。


●【漂流者】R
クルール曰く、『不良』イレギュラーズ。
自称、偉大なる魔法使いにして(マッド)サイエンティスト。
外見年齢80代のおじいちゃん。実年齢は3000歳以上。
能力詳細不明。
ファッションセンスがスゴイ。
召還後は『カルマ』消化の為に混沌諸国を漫遊、善行(本人談)を積んでいた。

※イレギュラーズが駆けつけると、Rは三綺竜型・魔導機兵を動かして歯車兵を攻撃します。
 しかし……。
 イレギュラーズが三綺竜型・魔導機兵を壊そうとすると全力で邪魔をしてきます。


●三綺竜型・魔導機兵
Rが混沌で作った兵器。謎の力で動いている鋼鉄のトリケラトプス。
全長9メートル、推定重量15~18トン。
操縦席は地上から3メートルの高さにある。
前方に短長3本の魔道砲を備え、その後ろに操縦者を守るためのフリル(装甲板)が6枚つけられている。フリルは変形可能。
4つの脚で動く。最大速度は時速4キロ。1分間で約70メートル進む。
早い話が人の歩くスピードと変わらないうえ、小回りが効かない。
後部には長い尾があり、大中小3つのミラーボールがつけられている。
上下に稼働させることができるが、なぜか左右には振れず、尾は武器として使えない。

※歯車兵団の分隊に、正面と両側面を囲まれて動けなくなっています。

  • <Gear Basilica>戦場のスタア・ディスコLv:15以上完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年03月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ


 くねくねと変態的に揺れているのは、わかめに擬態した瀕死のエイリアン?

 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はヤバイものを見てしまった。
 熱いビートを刻む音に乗り、70年代の空気を感じさせるレトロな踊りで、時空そのものを歪ませているジジィ……。
「うわー。なんだ、アレ。あの人完全に浮いてますよ。ダサい、ダサいなー。明らかにあそこだけ空気が違いますねー」
 歯車兵団の兵士たちは、踊るジジィの、キンキン、ギラギラとした熱気と狂気に魅せられて熱狂……していなかった。
 いや、確かに、わけのわからないテンションで、やんや、やんやの声援と野次を、三メートル上のステージに立つ老人へ飛ばしてはいるが、イレギュラーズがめちゃんこ遠くから観察した限りでは、思っていたよりも冷静だ。
 歯車たちは、もっと(別の意味で)狂っているのか、と思っていた。
「なんだよ。あの連中はなんで、きちんと列を作って三角座りでジジイの踊りを見学してンだ? 戦闘中だろ。呼び声の狂気はどうした!」
 『緑色の隙間風』キドー(p3p000244)は、このふざけた状況に、憤りを通り越して呆れていた。うっかりポロリと出しそうになった、「横に置いた武器を取って、とっととジジィを殺(や)ちまえ!」という言葉を飲み込む。
 今回の救出対象者、【漂流者】Rは、キドーの右腕を切り落とした因縁の相手だ。
 怨みこそあれ、なぜそんな男を助けに来たか。
 別にイレギュラーズ同士の絆とか、そんなキドーにとって屁にもならないことのためにではなく、でっかい恩をRに売りつけて、今後なにかと利用してやろうと思ったからである。
 横を低く飛んでいる桐神 きり(p3p007718)が、鞘からナイフを抜いた。
「いじり……じゃないですかね、弱者に対する。いつでもやれるという余裕が、彼らにあんな態度を取らせているんだと思います」
 きりは顔を横むけると、キドーに微笑みかけた。
「それにしても、人々を守るためとはいえ、一人と自作兵器だけで兵団に戦いを挑むとはイカしたおじいちゃんですね」
 緑色した頬の横で、ぐっと親指をたててみせる。
 キドーに噛みつかれそうになって、慌てて腕を引き戻した。
「Rを褒められたところで、嬉しくともなんともねえ。身内じゃねーよ、あのクソジジィは」
 というか、人々を守るため――って。
 彼の世界において、Rが思う『人』とは『エルフ』のことであり、その他の種族は総じて『害獣』だった。
 ヤツが、とあるエルフ貴族に仕えて作った魔導兵器に、エルフ以外の種族はさんざんな目にあったのだ。その中でもとくに被害にあったのが、キドーを含むゴブリン族である。
(「本人はマジで『いいことをしていたつもり』なんだろうが……やっぱ、助けねえで、どさくさにまぎれにやっちまうか。腕のこともあるし」)
 などと物騒なことを考えていると、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、「そうだね。なかなかイカしてる」と笑いながらきりに同意した。
「殺しても死ななさそうだけれど、老人をミゴロシにするわけにはいかないね!」
「そうそう。スタアの危機に駆けつける新しいスタア達! まさに王道だネ」
 『放課後のヴェルフェゴール』岩倉・鈴音(p3p006119)がふんす、と鼻をならす。
 素材が放つ鈍い光がカッコいい小山――もとい鋼鉄のトリケラトプスがすぐ目の前に迫る。
「アタシとキドー君は、尾っぽから登っていくヨー! カモン、バアル・ペオル!」
 鈴音の頭上に円盤生命が出現し、七色のカクテル光線を放った。鉄の尾を駆けあがりながら、本気モードで歌いだす。
 新たなスターの登場に、歯車兵たちが一斉にどよめいた。
きりは、驚いて振り返ったRに手を振った。
「私参上! 己の信じる善のため、共に目の前の敵を打ち破りましょう!」
 ステージに乱入してきたのが敵だと分るころにはもう、イレギュラーズは3手に分かれ、それぞれの持ち場に散っていた。


 『楽しく殴り合い』ヒィロ=エヒト(p3p002503)と『見敵必殺』美咲・マクスウェル(p3p005192)は、トリケラの左側に回り込んだ。
 ヒィロが流れている音楽に負けないよう声をあげる。
「おじーちゃん、力を合わせて街とみんなを守ろ!」
 Rが鉄板の端からひょいと顔をのぞかせた。踊りつかれて真っ赤になった顔から、しょっぱそうな汗がポタリ、ポタリ、と垂れ落ちる。
「ハーイ! ボクのファンかなお嬢ちゃんたち。サインは後でねー」
「なに勘違いしているんだか」
 美咲は口の端を引きつらせた。
「この手合い、言葉は通じても会話できないことあるのがね……」
 超がつくポジティブさ。
 Rは、ヒィロが汗の直撃を避けるべく飛び下がったことも、スターに会えた感激と捉えているようだ。
「ま、無茶するじーさまだけど、外道ではなさそうだし。請けて来た以上は、嫌でも助かっていただきましょ!」
 美咲は『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)がヒィロのガードについていることを確認してから、ハンマーを振りかぶった兵士を、わざと交わし、トリケラの前に送る。
 かあん〜と鉄を打つ音がした。
 それを皮切りに、かあん〜、かあん〜、とトリケラの前後左右から、脳天にひびく鉄打音が上がり始めた。
 ヤメロォ、ヤメテクレー、とステージで喚き散らすRの声よりも大きく、両手で頬を挟んだ一悟が「うわあああっ」と叫ぶ。
「オレ、恐竜の中じゃ、トリケラトプスが一番好きなんだ。こんなにカッコイイのに、ボコボコにするなんて信じられねぇ!」
 また一人、ハンマーを手にした兵士が美咲の横をすり抜け、魔導兵器の横腹を叩いた。
「く~。だけど、こいつをアレに食わせるわけにはいかねぇから――」
「しー!」
 美咲は人差し指を口にあてて、一悟に注意を促した。
 最終的には自分たちの手で、この鋼鉄のトリケラトプスを壊すことになるのだが、それをいまRに聞かれると面倒なことになる。
「先にハンマーを持っていない奴から相手にするヒィロはどんどんやつらを引きつけて。私と一悟君で適当に倒して数を減らすから」
 しぶしぶ、ハンマーを振るう歯車兵たちから離れ、一悟は前方の敵に向かってトンファーを構えた。
「オレは二人の連携技から零れたやつを仕留める、だろ? ヒィロ、美咲、頼むぜ」
 ヒィロは美咲とアイコンタクトをとると、全身で気を発した。かかって来い、とアピールする。
「ここは一歩も通さない! ボクが相手だよ!」
 ヒィロを狙って立て続けに撃ち込まれた銃弾を、一悟が盾になって受ける。
 美咲は歯車兵たちへ両腕を突きだした。黒い瞳が赤みを帯びる。
「お前たちの不快さが、私を悩ませる。『怨み』『憎しみ』……罪の茨に埋もれて傷つくがいい!」
 棺を思わせる黒いガントレットから、トゲのついた細い枝が伸び、広がる。
 凶悪の魔眼が咲かせたるは死の黒薔薇。ベルベットの黒みを帯びた花弁に赤い瞳の光があたり、死陰を作りだす。
 茨に捕らわれた歯車兵たちは、引き金を引くことすらできずに、次々と倒れていった。
 トリケラを叩いていた歯車兵が振り返り、ヒィロにハンマーを振るう。
「おっと、叩く相手が違うだろ」
 一悟がすばやく横から割り込んで、炎を纏ったトンファーを無防備にさらされた脇に叩き込んだ。続けて、もう一人の腹にもトンファーを食らわせる。
「美咲さん、危ない!」
 とっさに前に出たヒィロが、茨を切り裂いて突撃してきた分隊長に掌底を打ち込む。
 衝撃で吹っ飛んでいったところへ、美咲が魔砲でトドメを刺した。


「も、もう限界だ。の、喉がカラカラ……ウォーター、プリーズ」
 キドーにいわれるがまま踊り続けていたRだが、さすがに限界がきたようで、ステージにへたり込むと、水を求めて操縦席に腕を伸ばしてきた。
「あ? しょうがねえな。おい、鈴音。なんか飲ませるものねーか? 俺はいま手が離さねぇ……って、おいR! どうやって砲を下に向けるんだ。ビームが連中の上ばっかり飛んでいって、ちっとも当たらねーじゃねぇか!」
「ん~。いま、爺さん、喉カラカラで喋れないと思うヨー。ちょっと待って」
 鈴音は下で戦う仲間への回復支援を一時中断し、Rに飲ませるものを探して、操縦席の後ろにあったハッチを開いた。
 難しそうな本の間に挟まれたエロ本(ボインなおネェちゃんたちが、ベッドの上でくんずほぐれつしているやつ)その他、雑多なものがハッチの下に詰め込まれていた。Rの私物だろうか。
 ごそごそと漁っていると、液体の入った大きなボトルを見つけた。
「なにコレ?」
 分厚いガラスの内に何か、深緑色の棒のようなものが液体につけられて浮いている。棒の先は5本に枝分かれしているようだが、正体がよくわからない。
 ボトルの形状からして液体は酒のようだが……。
「おい、あったのか? 早く渡してやれ。うっとおしくてしかたがねぇ」
 ま、いいか。
 鈴音はボトルをキドーの頭越しにRへ手渡す。すると――。
「お? 何だ、酒か? なら、先に俺に飲ませろ」
「あ、それは――! ダメだ、よせ!!」
 キドーはニヤリと笑うと、鈴音の手からボトルをふんだくって、栓をとって液体を飲んだ。
 とたん吹きだして、下から鈴音の顔に飲んだものをぶっかける。
「グェェ、不味い。マスターの料理に匹敵するほど不味い! なんだよ、この酒――って、ここここ、これは。中に入っているのはまさか……」
「そ、ユーの腕だよ。純粋に科学的好奇心から、切り落としたモノを漬けてみましたウフ(はーと)」
「ウフ、じゃねえ! てめぇ……って、鈴音? え、なに怖い顔して鼻を押さえて……あ、まって。そのボトルで何を――ア゛―ッ!!」 


 なにやら上が騒がしい。
 なにやってんだろ、と思いつつ、イグナートはトリケラの後ろへ回り込もうとしている歯車兵に名乗をあげた。
「オレの名はゼシュテルのイグナート! ちょっとでも鉄帝人の誇りが残っているならかかって来い!」
 Uターンして戻ってきた敵を連れて、トリケラの正面に移動する。
 きりは敵の後ろに回り込むと、黒銀魔剣の銃口を向けた。イグナートを巻き込まないように、されどできる限り多くの敵を貫くように、素早く見定めて引き金を絞る。
 稲妻の閃光が輝いて、轟音とともに黒い口から走り出た。歯車兵の背中を次々と貫いていく。
「オリーブさん、お願い!」
「はい。任せてください」
 オリーブは長剣を振るった。手になじむそれは、シンプルが故に美しく力強い。オリーブの闘気をしっかりと受け止めてくれる。
 炎を纏う大剣。放射される熱波――。
「うぉぉっ!!」
 風を切り裂いて振られた火焔の刃は、機械部分を難なく切り裂き、敵を真っ二つにした。
「おっと、どこへ?」
 イグナートは、トリケラの正面にいる味方の元へ走るでもなく、明後日の方向へ逃げようとした分隊長の前に立ちはだかった。
「敵に背を向けて逃げるつもりかな。なさけない……鉄帝人として風上にも置けない奴だ」
 やけくそで振り下された剣を、怒りで固めた左拳でうけて砕き、右の手で胸を打つ。
「がはっ!」
 送り込まれた気を孕み、肥大化した心臓が破裂した。
 分隊長が大量の血を吐いて倒れる。
「こっちはあらかた片付きましたね」
 トリケラをハンマーで叩いていた歯車兵士は、オリーブが切り伏せていた。
 鋼鉄の脚の裏に隠れて短銃を撃っていた敵は、きりが倒している。
「では、正面の敵を倒しに行きますか」
 きりに頷いて、イグナートはトリケラの背を見上げた。
「ところで、あのファンキーな爺さんはナニを考えてこんなもの作っちゃったのかな?」
 オリーブときりはまったく同じしぐさで、さあ、と首を傾けた。


「魔道砲で敵がぶっとぶところ、見てみたいな」
 鈴音がRをおだてて魔道砲の動かし方を聞きだし、キドーはようやく正面に陣取っていた歯車兵たちを吹き飛ばすことに成功した。
 といっても一人だけ。大勢の敵を相手にしたなら威力はすごいだろうが、単体を相手にするとめちゃくちゃ効率が悪い。
「しかもジープを乗り回しているボスに当たらねぇ!」
 動かす。狙いをつける。撃つ。各動作にひどく時間がかかるため、素早く動くものには攻撃が当たらないのだ。
「クソが。ガラクタ同然じゃねえか。鈴音、もういいからぶっ壊しちまおうぜ」
 これを聞きつけたRが、キドーを操縦席から猛然と排除しようとする。
 鈴音はRを後ろから羽交い絞めにした。
「歯車大聖堂……ストーカーみたいなヤツが喰おうと狙ってんだよネ。トリケラに固執してしまうと敵が強力になり、あたりを蹂躙するから結果的に爺のカルマを増やしてしまうヨ」
「なに? 爺とはなんだ。ボクはスターだぞ」
「え、そこ。……あ~、スター。トリケラを棄てれば、今なら善行ポイントが五倍、十倍つくと思うヨ~♪ お得だよ」
 Rが体から力を抜き、損得勘定に入った。
 その機を逃さず、鈴音はRを抱え上げ、すたこらとトリケラの尾を駆け下る。
「キドー君、あとは頼んだヨー」
 おう、と返事はしたものの、大地に穴をあけるばかりで、肝心の的に当たらない。
「ちょこまか、ちょこまか……きりーっ、お前こんなの得意だろ。ここにきて代われ」
「そっちにいくより、直接殴った方がはやいですって。キドーさんも降りてきてー」
「そりゃそうだな」
 キドーは、ひょい、と跳躍してトリケラから降りた。
 左右の敵を排した仲間たちが合流し、輪を作って最後に残った小隊長を囲い込みにかかった。
 機関銃を乱射しながら輪を突破しようとするジープを、イレギュラーズが攻撃してハンドルを切らせ、徐々に移動範囲を狭めていく。
 半径10メートルまで輪を縮めたところで、イグナートがジープの正面で拳を振るいエンジンを潰した。
 槍を手に飛び降りた分隊長に、キドーが封印を施す。
 Rを適当なところで降ろし、鈴音が戻ってきた。歌声でみんなの傷を癒す。
「爺が戻ってこないうちに、トリケラを壊すよ。こんなオッサン、さっさと片づけちゃって」
「黙れ、小娘。誰がオッサンだ!」
「え、アンタもかい」
 小隊長は電光石火の早業で槍を繰り出した。
 きりがサバイバルナイフの身で、槍を華麗にさばいて流し落とす。
 一悟が顔面を殴ってよろめかせ、オリーブが足を払って転ばせた。
「ざまあないね。お前なんて、弱っち過ぎてボクの敵じゃないよ」とヒィロ。
 怒り狂って起き上がった小隊長を、見敵必殺の昏き瞳が捉える。
「そのまま死んで」
 死に神は優しく微笑んだ。


「Rさん、高速で移動する為の機能は無いのか」
 オリーブが声をかける。
「ない! 実装予定はある」
 やっぱりないか。
「聞くだけ無駄。あったらこんなことになってねぇ」
 切り落とされた右腕の仇、とばかりにキドーは鋼鉄のトリケラトプスの右前脚を切った。
 聖なる大樹の樹液を固めて創った刃が、鉄の体を軽々と切り裂さいていく。
「チッ、やたら腕の傷が疼きやがる」
「右腕、あるように見えるけど」
 イグナートは切られた右前脚を豪快に蹴りとばした。
 トリケラの体が斜め前に少し傾いた。戻ってくるなり操縦席に収まって、トリケラを逃がそうと頑張っていたRが悲鳴をあげる。
「これはギフトで補ってんだ。なるべく思い出したくねえのによぉ、クソッタレ」
「そうだったんですか。ところでみなさん、時間はあるようでありませんから、どんどん壊していきましょう!」
 きりは、黒銀魔剣を超凶化すると、残る力のすべてを詰め込んでトリケラの腹を撃った。
「うわぁぁぁ、なんてことを! これはボクが科学者の分析力で素材を操り、アーティストの感性で作り上げた魔導兵器だぞ! キミたちにはこれの価値が分からんのか!?」
「もったいないけど、また練達とかで改良型造れるサ」
「天才が作ったものだぞ! 簡単にコピーされてたまるか!」
 鈴音の呪いを帯びた冷酷な歌声はRのプライドを刺激し、トリケラ内部の電気回路を破壊した。
「この子が歯車大聖堂に取り込まれたら、皆無事じゃ済まなくなっちゃうかもしれないの。
 避難所の人達だって……! だからお願い、おじーちゃん!」
 ヒィロは星を宿す剣を振るって、トリケラの尾を切り落とす。
「い・や・だー。お願いされても、壊されるのはイヤー!」
「我慢できない? こいつが歯車大聖堂に喰われたら、貴方が逃がした人たち、また襲われるけど。一旦希望を見せてから絶望させたいわけじゃないよね」
 美咲が怒りながらトリケラの背を拳で叩く。
「う、それは……」
 トリケラの体ががくん、と沈んだ。
 一悟が左前脚を爆破したのだ。
「おーい、上の人。気をつけろ、足が壊れて前につんのめるぞ!」
 きりが飛んでRを助けに行く。
 イグナートとオリーブが、じたばたと暴れまわるRを受け取って抑え込んだ。
「やめてくれ、お願いだ。いいものをやるからやめてくれ!」
「いいもの? なんだ」とキドーが興味を示す。
 Rはイグナートとオリーブの下から抜け出ると、ヒィロと美咲に手伝ってもらい、トリケラの腹の下を開けた。
 中から出てきたもの見て、鈴音と一悟が顔を見合わせる。
「「これって、もしかして――」」
「ボクの最新作だ。作っておいてよかったよ。夜のお供にしたまえ」
「いるか!!」
 キドーは鉄のゴブリン♀を蹴り倒した。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

奥州 一悟(p3p000194)[重傷]
彷徨う駿馬
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
美咲・マクスウェル(p3p005192)[重傷]
玻璃の瞳

あとがき

このあとわあーわあーいいながら、全員でトリケラを解体。
鉄くずの山に変えたのち、泣きわめくRを引きずって、撤収しました。
鉄のゴブリンガール?
鉄くずの山に埋もれているんじゃないかと……。

ご参加ありがとうございました。

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