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シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2020>空を飛ぼうと君が言った

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「仲直りが、必要、ですか?」
 鉄帝国、とある将校の部屋。執務机の前で直立不動の兵士は言った。
「その……お言葉ではありますが……仲直り、と言うには、些か事情があるかと。海洋との事には一応の決着がついております。故に、下手をすれば掘り返しとなりませんか?」
 先日起きた戦闘は、鉄帝と海洋、それからギルドの三者の納得を得て終結したばかりだ。
「だからこそだろうなぁ」
 椅子に座った白髪の老人は、手にしていた書類から眼を離さずに苦笑する。まあたしかに、そうだろうなと思い、しかしそうであるからこそ、きっかけは必要だろうと。
「悪感情なんてのは、すぐ消えたりしない。それが大きな組織であればあるほど、一枚岩から程遠くなる。それなら、微かずつであれ、良い印象を与えておく事に支障がでるかい?」
 それに。
「それに、だ。何も、国や政府からの誘い、と言うわけでも無い。グラオ・クローネのイベントは世界の常識だから、うちの国でする催しに誘うってだけだ。悪くないだろ?」
 兵士は、乾いた笑いを返すしか無かった。
 そう上手く行くかなぁと思うし、案外ギルドの連中なら喜び勇んで楽しみそうな気もする。
「というか、どうやって報せるつもりです? 普通に書面でも?」
「そこは心配要らんよ。ちょっと伝があって、な」
「はぁ……いや、でも……」
 ただ、しかし、不安が一つ。
「鉄帝……というか、私達の領地の催し、奇祭って呼ばれてるんですよねぇ」


「空を飛んで見ない?」
 ギルドの一角で『情報屋見習い』シズク(p3n000101)はそう言葉を作った。
 ポカン、とするイレギュラーズ達に彼女は小首を傾げ、あぁ、と吐息を漏らして。
「間違えた、空から落ちてみない?」
「え、イヤなんだけど」
「あれ……?」
 何か間違えたかな。悩むシズクの反応を待つこと数分。
「あ、鉄帝でグラオ・クローネのお祭りをするから、空にダイブしよう、ってことだよ」
「……え、どういうこと?」
 ざわ、ざわ、と不安が伝播する。説明が要領を得ないのは不慣れ故の弊害か。
 そんな様子に小さな溜め息を吐いた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ (p3n000003)はひょこっと横合いから助けるつもりでインターセプト。
「あ、ユリーカ先輩」
「こほん、いいですか?」
 それから咳払いを一つ。
「皆さん、グラオ・クローネの御伽噺は知ってますよね。
 孤独と不自由の呪いを一身に受けた少女の為、大樹は一生懸命の祈りを捧げ、しかし、呪いは微かに削がれただけ。それでも少女は幸せを貰い、そして愛を届けたのです」
 発端は深緑にある大樹、ファルカウだ。しかし今回の舞台は鉄帝で、国民性というか、特色が強く振り込まれた結果、それはただのお話で片付けなくなった。
「だからダイブだよ」
「シズクさんちょっとお口チャックなのです」
 過程が吹っ飛び過ぎてると、ユリーカは思う。
 ……ええ、ここは先輩として、ボクがフォローなのです。先輩として!
「いいです?」
 区切りとして一言挟み、ユリーカが言う。
「鉄帝の──いえ、これは鉄帝国の、とある地域のみで行われる事なのです。
 一人の男が言いました、呪いを背負っているのなら、その呪いを吹っ飛ばせばいいじゃないか、と。
 だからダイブなのです!」
「いや結局わかんねーよ!」
「あれぇ!?」
 情報屋二人は顔を見合わせ小首を傾げ、それから向き直って頷く。
 ごほんこほんと訂正代わりの咳払いをまた入れて、一息。
「その男は考えたんだ。どうすれば、肩に乗っかる様な呪いを飛ばせるだろうか。そして導きだした答えは、高い所から一気に飛び降りて、その速度を使ってやろう、ということだった」
「勿論そんなことをしたらトマトがパーンなのです。だから、しっかりと固定した紐を脚に付けて、パーンってならないようにしたわけなのですね」
 とはいえ、普通の紐では普通に体がバッラバラになるので、素材としてはゴムを使用している。
「あ、勿論、お祭りですから周りにはあまーいお菓子の出店が沢山あるですよ。空から飛ぶのも、ただの遊びですから!」
「参加する必要は無いから、買い食いを楽しむのもいいし、飛んでいる人達を見物しに行くのもいいと思うんだ。まあ、鉄帝の愉快な一面を知る、という意味でも、良いんじゃないかなと、私はそう思うよ」

GMコメント

 ユズキです、色物があってもいいよね、というお気持ちです、はい。

 なんか普通にバレンタインするだけじゃあれかなーって思ったんですけどこれ、ただのバンジーです。

●行動
 全三種類のジャンルから、それぞれ選んで下さい。
 両方ー! ってすると逆に描写があっさりしてしまう可能性がありますので、お気を付けください。
 時間は朝から夜までやってますので、拘りがあればそれも明記しておいてください。

【A】飛ぶ
 地上50m位からいきます。
 飛ぶまでの心構えとか、飛んだ後のお気持ちとか、そういう感じのプレイングとかかと思います。
 なんか想いを叫ぶのもいいでしょう。イレギュラーズの主張ですね。
 一人でも二人でも団体でもいいし飛び立つ彼の姿を最後に星になってしまっても良いでしょう。良いのかな。

【B】普通に出店を散策する
 ケーキとかクッキーとかチョコとか甘いお菓子や飲み物がメインの通り。
 バンジーとは一切関係無いのでここら辺のテンションはまったり目です。いえはしゃいでも許されます。
 座る為のベンチはあちこちに設置されてたりしますので休憩にもどうぞ。

【C】イルミネーション広場
 その名の通り、飾り付けされた広場です。
 いっそのことここでチョコ等の贈り物を作ってしまおう! という土壇場の方の為の設備がありますのでそんな人におすすめ。
 また、用意していたものを渡しやすいムード作りがされてますので、大事な人と、といのも良いかと思います。

●プレイングについて
 文字数節約の為、【A、夜】みたいな感じでも大丈夫です。

●NPC
 シズクが食べ歩きもとい巡回していますが、特にお声掛け無ければ登場しません。
 一人じゃあれかなーって時くらいにどうぞ。

 それではどうぞ、よろしくお願いいたします。

  • <グラオ・クローネ2020>空を飛ぼうと君が言った完了
  • GM名ユズキ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年03月04日 22時15分
  • 参加人数20/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
レッド(p3p000395)
赤々靴
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
タルト・ティラミー(p3p002298)
あま~いおもてなし
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
宮里・聖奈(p3p006739)
パンツハンターの血を継ぐ者
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女
ヘルツ・ハイマート(p3p007571)
ティ=ノーヴェ=クルコヴォ(p3p007648)
旅人とダンスを
太井 数子(p3p007907)
不撓の刃
ドゥー・ウーヤー(p3p007913)
海を越えて
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
竈屋 シズヱ(p3p008015)
竈屋の看板ババア
ソロア・ズヌシェカ(p3p008060)
豊穣の空
シルヴェストル=ロラン(p3p008123)
デイウォーカー

リプレイ

「え、嘘、マジで?」
 今年は珍しく国外からの参加者が居るなと思ったスタッフは後に言う。
「いやこんなモン企画する方もそうだけど、参加するとかマジやばくね?」
 と。


 メリーの足には分厚い綿を詰め込んだ皮が巻き付いている。
「……嬢ちゃん、ほんとにいいのか?」
 スタッフの声に、朗らかな笑みを浮かべた少女は「うん」と頷く。
 しかし、うーん、と疑問の唸りを上げて首を傾げ、見下ろす視界をじぃっと見た。
 両手は箒の柄を握っている。それは股に置いて尻を乗せた飛行のスタイルだ。だがその下、足に巻き付いた皮に繋がるこの、
「ねぇ、この紐なに──」
 紐の答えを知るより早く、彼女はまっ逆さまに行った。

「なるほど、凄い祭りなんだな」
 背を押されて墜ちていく姿を見たドゥーは理解の言葉を作った。それから、眼下の光景を眺める。
 深い。
 いざ飛ぼうと定位置に置かれると、いや死ぬほど怖いなと思う。ヤバくない?
 だが空を飛ぶ事には憧れがあって、自身の小さな羽根では成し得ない行為の為にやろうと決めたのは自分だし、だから。
「……!」
 飛んだ。落ちた。風圧に吹き飛びそうな前髪は押さえつつ、瞬く間に流れる景色は割りと楽しめて。
「…………あ」
 気付いた時には、スタッフに出口へと案内されたあとだ。胸の鼓動はまだ煩く、怖さはあったが、でも、また飛んでみたいという感情を抱いて、ドゥーは落ちてきた場所を見上げて目を細めた。

「──ぁあああ!」
 後悔先に立たず。頭から行くソロアの悔いは勢いに吹き飛ばされた。
 いやぁなんでこうなったかなぁ、元の世界じゃこんな機会に恵まれないし色々やりたいなとは思ってたんだけどなぁ。いやほら、情報屋さんは二人共飛んで当たり前位の説明だったしやる気もあったんだけどホントに、ホント。
「なんで私は飛ぼうなんて思ったんだぁあー!」
 ビヨーンと伸びて、空へ跳ね上げられながら、ソロアの絶叫は響いた。

 絶叫だ。目の前の順番が今落ちた。目で追うと、足のゴム紐に弄ばれた人が五回くらい跳ね回って今、救出されている。
「ははは面白いね」
 呪いを解く為、から、じゃあ落ちよう、という発想をする鉄帝の思考回路だ。シルヴェストルは一度体験してみるのもいいかと思ってここに来た。
 うん。来たけど。
「この紐本当に大丈夫? いや念の為の確認でね、本当。目の当たりにして不安になったとか事故起きたら不味いなとか今更心配になってきたとかそういう事で──」
「はい一命様ご案内ー!」
「待って今ニュアンスおかし待て押さないでちょ、ぁ」
 絶叫二人目が入った。

 新田寛治という男をシズクは知っている。というか噂になっているのを良く聞いていた。
 なんか重傷になったとか、暗殺令嬢に手を出したとか、そういう話だ。
 ヤバい奴だよ。と、そう思うけど、そのヤバイ奴が今、自分の手を引いて飛ぶ位置までズンズン歩いてるのは何なのだろうとも思う。
「さて、シズクさん。このような奇祭に我々を巻き込んだってことは、貴女自身も飛ぶ覚悟がある……と、そう見做してよろしいですね?」
「私は紹介しただけなのだけれど」
 飛ぶのも自由参加であるし、その言い分だとユリーカもここに居ないとおかしくないだろうか。
 そんな言葉、寛治に通じるだろうか。いや通じないのだろう。だってヤバイ奴だもの。
「なあに、一人で、とは言いませんよ」
 お互いの足にガチリと嵌まったゴム紐に連なる皮。バラバラに飛んでぶつからないようにと、彼は彼女を正面から抱きすくめる。
「おや、これは中々の抱き心地」
「親父臭いね貴方」
「安全の為です。役得だとも思っていますけれどね」
 ハハハと声を発する寛治のテンションは高い。多分頭のネジがぶっ飛んでしまったのだろうとシズクは思い、それから。
「3! 2! 1!」
「うぉ──!」
「ジャンプ!」
 連れ立って落ちた先で、妙にスッキリした男の顔を恨めしげに見たのだった。

 お昼まで時間がある。祭が始まって暫く、屋台の並びに居ても遠くの叫びが木霊するのが聞こえた。
 その中を、聖奈は駆けた。
 倒れ込んだ様な前傾で、巧みに人並みを縫い疾走。
 両手指に程好い力を入れ、低空跳躍で一息。
「やあやあシズクさん今日のおパンツくださいなぁ──いったあーい!」
 見かけた友人のズボンに手を掛けようとして思い切り蹴られた。いやでも叫ぶほど痛くはない。手加減されている。
「……ふっ、今日も良いツッコミです、流石シズたん」
「変なアダ名はやめて欲しいな」
 ふぅ、と息を吐いたシズクに言われ、聖奈は有耶無耶にすべく笑みを浮かべて即座に言葉を作る。
 今日はこの後予定があるのだ。グズグズと時間を浪費するのはまた今度で良いだろうと、そういう考えで。
「では一緒にチョコを見て回りましょう! 友チョコと本命を買わねばなりませんので!」
「……え、本命? うそ、どこのパンツに恋を……?」
「普段クールな表情が、そんな驚き方で歪むのは聖奈ちゃんどうかと思います。いや大体が日頃の行いのせいでした!」
 そんな強引な流れで引き、回るのはチョコの店だ。催しで忘れ去られてしまったが、商品の質は十分に高い。
「では、シズクさん、友チョコをどうぞ!」
「うん、ありがとう」
 ラッピングされたそれを手渡し、一歩を後ろに下がった聖奈は笑顔を開いた。
「貴方に幸運を。灰色の王冠を」
「そちらもね。本命パンツ、頑張って」
 だからパンツじゃないです。


「あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"」
 本日はお日柄も良く、中略、僕は今、タルト・ティラミーの手によっ、
「あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"」
 ゴムの引き上げる反動に、脳内モノローグが叫びで吹っ飛んだベークは、見下ろすクリーム色の女性を見た。
 楽しそうである。
 そもそもの始まりは、彼女がデートをしようと持ち掛けた事だ。グラオ・クローネだからチョコを食べよう、と。
「ええ、もちろんデートよ? 一緒におでかけして、一緒にアトラクションを楽しんでから、チョコをあげる……そして最期は美味しくいただくの!」
「やっぱり僕のこと玩具兼食材としか認識してない……!」
 落ちる。ギリギリと伸びて、一気に引き戻される。
「ほらほらそんな顔してないで、空飛ぶたい焼きなんて明日の一面を飾るわよ!」
 そんな紙面を誰が喜ぶのだろう、ああでもチョコ、いやどうせタルトの事だ、きっと碌なことにならないだろう。
「お楽しみは最後の最後に、定石でしょ」
 思考が目まぐるしいベークの脳内で、散弾の如くチョコをぶつけられる自分を夢想しながら、彼は再度の跳ねを得た。

 世界の広さを知る。それは日々、色んな場面に遭遇する事で判明し、そう言った見聞にワクワクする感情があるというのを、ティは感じていた。
「うわぁー! 高い!」
 不思議だと思う隣に、ワクワクを同じくするハルアの感嘆があって。
「正気の沙汰ですか、これは……!」
 逆隣には不安に押し潰されそうなヘルツがいる。
「ひえっ。大したこと無いなんて思ってたけど、いざ覗くと怖いねぇ」
 それから、三人が知り合うきっかけとなった店主。シズヱの、「腰が引けるというか腰をやるねこれ」という実害ありそうな呟きが、そこには並んでいた。
「安全装置……ゴムの強度……いえ大丈夫だとは思いますしわかっていますよしかしですね! いいですか、しかしです! 事故とは万が一に起きるもので世の中その万が一が自分の番で起こらないと誰が保証するのでしょう誰もできませんね!」
 ヘルツの引き具合が凄い。今すぐ逃げ帰りそうな勢いがある。
「……そういえばヘルツさん。なにかとても大切なものを思い出せない、と、そう言っていたわね」
「え、あぁ……」
「墜ちるショックで思い出せるかも知れないわ。感情の高ぶりが海馬を刺激してポンって感じで」
「ティの言う通りさ! ババァも一緒に飛んでやるからさぁ!」
「そそ、ここの風は優しくて甘い香りがしてるもん。悪い事なんて起きっこないよ!」
 畳み掛けられる言葉の説得に、ヘルツは喉を唸らせる。
 いやそれ荒治療というのではないだろうか、風の吹く音はむしろ悪戯っ子の笑い声の様で。
「だいじょうぶ!」
 ハルアは小さな貝殻を擦り合わせておまじないをしてみせる。それからクルリと振り返り、落ちる方へ背を向けて、
「みんなもおいでー!」
 後ろ向きのまま楽しそうに落ちていった。
「ババァも一緒に飛んでやるからさぁ、行くよ! 女は度胸、ぉぉぉぉ!」
 シズヱもそれを追って行く。心なしか声の質が悲鳴のようだが気のせいだろう。
「行きましょう、ヘルツさん」
「……ああ、皆さんお優しい。お言葉に甘えます」
 差し出された手に手を重ねる。
 ぎゅ、と握ったティとヘルツは、同時に空へ。
「あ、ボクも次は手を繋ぐー!」
 跳ね返って上がるハルアとすれ違い。
「うっ……揺れる……まわる……ババァは二回目無理……」
 だらりと垂れたシズヱが青い顔で酔っていて。
「なにか思い出せた?」
「……いや……それどころでは……ぐぅ」
 ヘルツの疲れた声音に、ティはただ軽く笑うしかなかった。


「鉄帝らしいグラオクローネっすね」
「この前の豆まきといい、鉄帝、いろいろ凄いですね」
 レッドの言葉にアルヴァは頷く。冷えた風が二人の間を通り抜け、陽の落ちた景色に溶けていった。
 夜だ。
「アルヴァさん、ビビってたりしてないっすか? 無理強いしてしまったならチョコ食べます?」
「べべべべつに? 全然ビビってなんて無いですよ? 依頼だってこなすしスカイダイビングもしましたし! まあ関係ないけどチョコは頂きますけれども、美味しいからですけど」
 甘い。口内の温度で溶けたチョコは広がって、後味を多く残して消えていく。
「……緊張は抜けた様っす。じゃあ、新記録だせたらさっきのチョコ、も一つサービスするっすよ」
 何を、言って、いるのだろう。レッドの言葉に振り向いたアルヴァは、足が結ばれているのに気付いた。二人三脚するような結び方だ。
 アルヴァは足を開いて腰を落とし、肩を前にして構えていて。
「あのレッドさんその構えは一体何をまさかいやそんなわけないですよねもうびっくりしちゃうな嘘ですよね、ね? レッドさん? レッドさん! ぁぁぁレッドさあああん!?」
 ドムッ。
 鈍い音がしたと思ったとき、彼らは揃って星になった。
 主に落ちる感じの。

「ここが貴方の故郷なのね……ねぇヨハン君この人だかりって何かしら。流されるままに上っているけれど」
「うーんなんでしょうね、さっぱりわかりませんけれどまあなんでしょう、故郷ながらほんとアホしかいない国なんでしょうねここ」
 二人が歩く先にあるのは飛び込み台だ。数──ミーティアはまだ気付いて居ないようだが、ヨハンは既に察していて、絶対に自分は飛ばないぞ、という決意と覚悟を完了させていた。
 ハードな地域である。
「…………ねえこれバンジージャンプじゃない? ねえこれ参加する流れじゃないの!?」
 まずい、気取られたか。
 思ったヨハンの動きは淀み無く進む。
「あはは、あ、ミーちゃん、荷物と貸してたコート持っておきますね、飛ぶとき邪魔になりますから、ええ、せっかくですし命綱も僕が結んであげますよ、それなら安心でしょう?」
「え、あ、うん……ありがとう……安心す──ヨハンくんおいてかないで!?」
 懇願する声を遮る様にガシャンと柵が降りる。飛び込み台は飛ばない人の侵入を許さないのだ。安全上の理由で。
「ああ僕は飛びませんよ! 怖いですから! ミーちゃんの勇姿をここから見守っておきます! ね!」
「待ってー! イヤー! せめて、せめて側に……カウントダウンやめて、やめてぇー! ちょ、まっ、うぎゃ」
 震える手を、合掌の形にしたヨハンは祈る。耳を震わせる「うらぎりものぉー!」という断末魔は遠く、しかしこびりつく様に響いていた。

「鉄帝って、うおー戦だー! みたいな国だと思ったけど、こんな面白い所もあるんだねー」
「禊……みたいなものかな。発想の方向が面白いとおもうけど、まあ、難しく考えたらダメなんだろうね」
 なんて、焔と地上で話したのがつい先程。フランは今、二人で飛び込み台の上にいた。
「折角だから飛んでみようのフランちゃん!」
 という明るい声に導かれたからだ。
「と、ととととと飛ぶの? 傘? 傘持つ?」
「うん、メリポ神様の事は忘れよう?」
 というか葉っぱは傘ではないので落ちて当たり前なんてツッコミはそこにない。
 加えて、今回は眼下に明かりが見えているし、ゴムの紐で安全とスリルを保っている状態だ。
「思いっきり飛んでも大丈夫だよね!」
「……よーしじゃあ思いっきり──やっぱ怖いから手繋いで一緒に飛ぼ、先輩!」
「じゃあ、手を繋いで」
「せーの」
 ……。
「よ、よかった、いきてる、生きてたー!」
「よしよし、大丈夫だよ」
 フランは五体無事の感極まりに焔へ飛び付く。ゴム紐から解放された動きに阻害はもう無く、力強い抱擁に焔はフランの頭を安心させる様に撫でた。
 また飛んでもいいかもしれない。そんな想いを共に抱きながら。

 一日の終わり間近、飛び込み台には一組だけがいる。スタッフも撤収作業に入っていて、安全要員を除けば二人だけのバンジージャンプだ。
「リズは高いところ平気?」
 淡い灯りに桃色の髪を照らされたカイトが、並ぶリースリットを見る。問いに彼女は下を覗き、顎に手を添えた。
「50m、でしたっけ。この高さは来た事が無いので、自信は無いですね」
 とは言え、飛行するだけならば可能だった。風を得意とする母からの遺伝かもしれないと、彼女は内心で思う。
 まあ、高く飛んだことが無かったので、不安は大きいのだが。
「僕は平気なんだ、じゃないと翼人名乗れないしなっ」
 おどけて言うカイトにリースリットが微笑む。広がった三対六枚の白翼が夜に敷かれ、徐に手が差し出された。
「さあ、おいでリズ。夜空の散歩と洒落込もうじゃないか」
「……はい。お願いしますね、カイトさん」
 手を取り、翼に包まれる様にして彼の中へ身体を預ける。それから歩き出す気軽さで宙へ身体を踊らせ、緩やかな降下に翼を打って行く。
「ちょっと怖い、ですね」
「それなら、空だけを見上げるといい」
 空を二人、離れず行く。
「もっと高く、もっと遠くへ行こう。誰にも見つからない場所まで、な!」
 ただ前を見つめて、笑みを濃くするカイトを見上げて、リースリットは思った。
 この、支えられた気持ちがあるのなら。
 今度は自分で、彼の隣、一緒に飛んでみたいと。
 どこまでも、遠くへ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

さんかありがとうございました。
まさかバンジーに人が集まるとか思いませんでした、ほんとうです。
だからほんとう、ありがとうございました!

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