PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Gear Basilica>親の心これ如何に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●薄刃と化した歯車
 自律移動要塞型古代兵器『歯車大聖堂(ギアバジリカ)』。
 鉄帝首都に迫らんとしているそれは、物資や燃料を補給すべく道中の村々を襲撃していた。
 ギアバジリカが繰り出す無数のモンスターや兵隊は、村々で略奪の限りを尽くしている。
 老婆イルザの住む寒村も、ギアバジリカに蹂躙されんとしている村のひとつだった。

 イルザは一冊のアルバムをぎゅっと抱え、避難所を目指し小走りに駆けていた……が。
 ひゅんっと腕を掠めた歯車に彼女は思わず足を止める。
 気付くと、イルザの周囲には凧のような浮遊物が何体もいた。
 機械的な風体をしたそれは、どれも薄っぺらい歯車のようなものを幾つか高速で回転させており、そのうちの一つがまたもイルザに向けて飛ばされる。
「ひいぃっ!」
 咄嗟に身を屈めたイルザの白髪が僅かに刈られた。
 間髪を入れず別の機械凧が歯車の刃を飛ばそうとした時、どこからともなく大きな銃声が響き、イルザの前で機械凧が爆発する。
 『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)の知るカスター・ファスが偶然現場に居合わせ、機械凧を撃ち落としたのだ。
「羽虫もどきの一匹、撃ち落とす事なんざわけないさ」
 人知れず建物の陰に日を潜め、カスターは次の標的を探す。
 しかし、機械凧の数は多くとてもカスターひとりの手に負えるものではなかった。

●老婆を救え
 村人たちの避難を終えてようやく安堵の息を吐いた村長の元に、女性が血相を変えて駆け寄ってきた。
「村長、大変だよ! イルザ婆さんが見当たらないんだ!」
「……そりゃ本当かい? よく確認したのかい?」
 訝しむ村長に、別の青年も訴える。
「オレ、偶然会ったんだよ。みんなが避難してる時に家に引き返そうとしてるイルザ婆さんに。『危ないから帰っちゃダメだ』って声掛けたんだけど、『忘れ物を取りに戻るだけだから心配いらない、すぐに避難所に行く』って言って……。その時は大丈夫だろうって思って放っておいたんだけど……」
 それを聞いた村長は頭を抱えた。
「ああ、何てこった……」
 頼みの鉄帝軍は外洋遠征護衛や他国への防衛などに多くの人員を割いており、今すぐに迎撃部隊を準備出来ない状態なのだ。
 だが、鉄帝民の命が危険にさらされかねないこの危機とギアバジリカに、ローレットと鉄帝という国そのものが手を取り合って立ち向かおうとしている事は村長も既に耳にしている。
 村長はすぐにローレットに救いを求めた。

GMコメント

マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●成功条件
 機械凧の殲滅とイルザの救出
 ※機械凧は全て破壊して下さい。
 ※ただし、機械凧を全て破壊出来ても、イルザが死亡するまたは彼女が抱えているアルバムを機械凧に奪われるという事になったら失敗となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起こりません。

●基本的な状況
〈機械凧〉※一部PL情報です。
 ・大きさとしては、通常の人間の肩幅程度のドローンをイメージして下さい。
 ・機械凧の数は概ね15体前後で、どれも同じ形と性能です。
 ・数枚の歯車刃を所持しており、銃弾と同じくらいの速度で飛ばしてきます。連続して飛ばす事はありますが、複数を同時に飛ばす事は出来ません。もの凄い速さで飛んでくる手裏剣をイメージして頂けると分かりやすいかと思います。歯車刃は、平均的な人間の手の平大程度の大きさとお考え下さい。
 ・機械凧にはアームが1本付いています。このアームはギアバジリカの燃料源を略奪するためにだけ動き、ひたすらイルザのアルバムを狙います。なお、伸縮機能はございませんので、アルバムを奪おうとする際には必然的にイルザに接近します。
 ・動きは非常に素早いのですが、意外と脆いので攻撃が命中すれば壊れるでしょう。ただし、掠った程度では動き続けます。
 ・空中を飛行しますが、飛行機のようにとんでもない高さまで上昇する事はございませんし、着地もしません。
〈イルザ〉※一部PL情報です。
 ・村に住む老婆で、家族はいません。
 ・これといった持病もなく健康体ではありますが、かなり年老いているので腰は曲がり素早い移動は出来ません。せいぜい小走り程度です。
 ・性格は非常に温和で村人たちにも愛されていますが、どうしても譲れないと思った事は最後まで貫く頑固な一面もございます。
 ・軍人の一人息子がおりましたが既に命を落としており、アルバムはその息子の生まれた時から亡くなる直前までの写真を収めたものです。
〈カスター・ファス〉
 ・偶然居合わせ、老婆を救出すべく遠距離から機械凧を狙撃しています。
 ・彼の狙撃銃は一撃の威力はなかなかですが連射は出来ません。
 ・皆様を遠距離から狙撃で援護する予定です。
〈戦闘場所〉
 イルザの村が戦闘の舞台となります。
 民家が散在していますが、人口は少なく建物は密集していません。
 また、大型の建物も存在しません。
 足場はほぼ石畳なので、ぬかるんでいたり背の高い草が生い茂っていたりという悪条件はございません。比較的動きやすいと思われます。
 イルザ以外の村人は既に避難済みです。

●その他参考情報
 時間帯は昼間、無風です。
 気温は「高くも低くもない快適な温度」です。

それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • <Gear Basilica>親の心これ如何に完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月28日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
レッド(p3p000395)
赤々靴
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
円 ヒカゲ(p3p002515)
マッドガッサー
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
角灯(p3p008045)
ぐるぐるしてる

リプレイ

●序
 避難所で改めて状況を確認した『帰ってきた牙』新道 風牙(p3p005012)は声を荒げた。
「……バカかよ! 何やってんだ!」
 イルザが逃げ遅れた理由を知り、怒りさえ込み上げてくる。
「けど、普段は人に迷惑を掛けるような婆さんじゃないんだ。引き返したのは、たぶん少佐のアルバムを置いていけなかったからだと……」
「少佐?」
 訝しむ風牙に村の女性が説明した。
「イルザ婆さんには軍人の一人息子がいたんだけど、若い時に職務中に殉職して二階級特進で『少佐』さ。旦那さんも早くに亡くなったもんだから、婆さんにとって少佐はたった一人の家族で自慢の息子だったのよ。少佐の話になると決まってアルバムを見せてね……」
「…………」
 風牙は振り上げた拳の下ろし場所を見失ったかのように困惑する。
 イルザの行動が身勝手なものである事に変わりはないが、ここまで聞いて風牙の中ではそう簡単に割り切れない問題になってしまった。
「あーもう! あーーもう!!」
 風牙は弾かれたように走り出す。
「行くよ! 助けにいくよ! 絶っっっ対死なせないし、アルバムも一緒にここまで連れてくるから! ……まったくもー!」

 駆け出した風牙を慌てて追うのは、『特異運命座標』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)だ。
「非常時っすけど、それでもお婆さんにとっては手放す事の出来ない大事な大事なモノなんっすよね……ともかく助けに行くっす!」
 レッドが愛機に跨って全力疾走で向かうと、他のイレギュラーズたちも避難所を出る。
(各地で起こっている略奪は、大聖堂の原動力として「誰かの大切なもの」を得るためと聞いているが……)
「……祈りを捧げる場所を兵器にする事も含め、作った人間は趣味が悪い」
 『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)は嫌悪感を滲ませながら現場に向かう。
「ああ、全くだぜ」
 アクセルの隣で駆けるのは『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)。
「誰にだって大事な物がある。人によっちゃ命よりも……な。それを無理やり奪おうってのが気に入らねえ。しかも、寄ってたかって婆さん一人を襲うってんだ、許しがたい話だぜ」
 ジェイクは村長に振り向き、
「いいぜ、助けてやるよ。任せときな」
 と言い残し仲間たちと共に現場へと急いだ。

●風の如く
 歯車刃が無慈悲にイルザの足を刈り、機械凧がぶぅんと近付きアームを伸ばす。
「私が守ってやらんと……」
 イルザは死を覚悟しながらもアルバムを強く抱きしめた……が。
「邪魔だどけどけー!」
 どこからか威勢のいい声が響いたかと思いきや、イルザに人影が落ちる。
「おばあちゃん無事か!? 助けにきたからもう安心だぞ!」
 いの一番に駆けつけたのは風牙だった。
 風牙は機械凧の間合いに深く踏み込み、剣を抜き薙ぎ払う。
「もうすぐ味方が駆けつけるから、それまではオレが必ず守る!」
 機械凧は上空に退避し風牙との間合いを空け、今度は数機で歯車を飛ばしてきたが、風牙は大量の歯車が自身に迫るのをギリギリまで待ち再び一気に払った。
 幾つかは剣で弾き飛ばす事も出来たが、あっという間に風牙の足元には血溜まりが出来る。
 風雅の身が危ぶまれたところに、大きな銃声が響き歯車が砕けて地に刺さった。
 はっとして視線を左右に振ると、建物の陰から覗く銃口から硝煙がたなびいている。
「誰だか知らないけど助かった! ありがとな!」
 傷だらけになりながらも手を振って礼を言う風牙に、カスター・ファスは身を潜ませたまま微かな笑みを浮かべた。

 その間に仲間が駆けつける。
 『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は、血塗れの風牙を見るなり己の力を治癒の力として風牙に注いだ。
 続いてレッドが機械凧とイルザの間に割り込んで
「ローレットから来たっす。村長さんが待ってるっすよ。イルザさんの大事なモノも守るっすから安心するっす」
 と声を掛けながら盾を手に隙の無い不動の構えを見せると、
「あんまムリしないでよ、オバアサン」
 と『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)はイルザとレッドを背に庇うようにして立ち、銃を構える。
 その後間もなく到着したアクセルは、イルザの元に駆け寄ると彼女の足の傷を治療した。
 イルザはアルバムを強く抱きしめたままだ。
(危険を承知で取りに戻るくらい、イルザさんにとってそのアルバムは大事なものってことだよねえ……)
 そう感じながら津々流が見上げた空では、数多の機械凧が嫌な音を立てていた。
(あの機械凧たちの思惑通りにはさせないよ。僕らで守って敵を全部倒して、イルザさんを、そして村の人たちを安心させてあげないと)
 秘めたる決意と共に、津々流は不安げな表情を浮かべるイルザに微笑みを見せながら
「大丈夫、誰一人欠けさせやしないさ。“山の主”の名にかけて」
 と告げた後、仲間が傷を負った時にすぐに向かえるよう、そして機械凧からの集中攻撃を受けないよう、陣形のやや後方に移動して構える。

●林の如く
 風牙の傷が癒えると、ジェイクも銃を手に駆け寄ってきた。
 その間に、『マッドガッサー』円 ヒカゲ(p3p002515)は機械凧に的を絞らせないよう俊敏に戦場を移動する。
 時折視界の端に入るイルザと、彼女のアルバム。
(あれは、機械たちにとってはただの燃料かもしれない。けれど……)
 移動しながらヒカゲは思った。
(お婆さんにとっては、子供との思い出が詰まった大切なものだし、人は大切な記憶でもいずれは忘れてしまうもの……だから、形として残ってるものは絶対に必要だと思うんだ)
 ……と。
 そして、胸の中でぽつりと零す。
(忘れてしまう怖さとか辛さは俺にはよく分かる。だから、絶対に奪わせはしない……守ってみせる)
 ヒカゲは飛び抜けて良い視力でイルザや味方の位置を確認しながら移動を続けた。

 同じ頃、『ぐるぐるしてる』角灯(p3p008045)はネズミを召喚し民家の屋根に登らせていた。
(これくらい小さければ、機械凧にも見つかりにくいかな)
 ネズミは屋根から出る煙突の陰からそっと周囲を窺う。
 角灯はこのネズミを通じてありったけの状況を見て取ろうと視覚や聴覚、嗅覚までをも研ぎ澄ませた。
(大切にした物には魂が宿る……と聞いた事が。おばあさんにとって、思い出の詰まったあのアルバムは我が身に等しいようなものかも。奪われるのは、きっと我が身を引き裂かれるくらい苦痛だと思う……)
「だから、守らなきゃあ」
 自分に言い聞かせるように呟かれた一言には、イルザを助けたい、役に立ちたいという強い意志が秘められていた。

●火の如く
 機械凧の数はイレギュラーズとカスターの頭数をゆうに超えている。
 遠距離から歯車をいいように飛ばされては勝ち目がない。
 ジェイクは颯爽と前に飛び出すと、
「悔しかったら掛かってこいよ!」
 と両手に持つ銃の引き金を引いた。
 射撃の腕には自信のあるジェイク、見事に銃弾を機械凧に掠らせる。
 ジェイクの挑発に乗るかのように、機械凧が二機迫ってきた。
 禍々しい歯車刃を射出する機械凧を引き寄せるなど一見無謀で危険に見えるが、彼の傍にはこれを待っていた仲間がいる。
「この木っ端ども! お前らには何ひとつ奪わせない!」
 仲間たち皆をその背に庇うようにして立ち回る風牙が、接近してきた機械凧二機を一気に薙ぎ払った。
 しかし、その間に別の機械凧が高速で飛行し、イルザの背後に回り込み歯車を射出する。
 すると、レッドがイルザを庇い盾で防御に徹した。
 金属音と衝撃がレッドの手にビリビリと伝わるが、レッドはぐっと歯を食いしばって耐える。
(機械凧が味方に撃ち落とされて数が減るのを待つっす……!)

 引き寄せた機械凧が風牙らに撃破されるのを見届けながら、ジェイクは遠距離からの狙撃体勢に入るべくレッドたちから離れ、付近の民家の陰に飛び込んだ。
 するとそこには偶然カスターがおり、上空を飛び交う機械凧を目で追いながら銃口を動かしている。
「あんたがカスターか。レッドから聞いてるぜ、凄腕の銃使いなんだってな」
「……ああ」
 ジェイクの問いに、カスターは機械凧に視線を釘付けたまま短く答えた。
 どうやら寡黙な性分らしいが、その眼光といい銃口の動きといい、かなりの手練れである事はジェイクにも見て取れる。
(同じ銃使いとしては、益々気になるぜ……カスターの腕前がな)

 ジェイクの中に微かな昂揚が生まれている一方で、ヒカゲも本格的に動き出した。
 ヒカゲは高い跳躍力で民家の屋根に飛び乗ると、優れた視力で戦場全体をざっと見渡し敵味方の位置を把握する。
 その間にジェックも狙撃の体勢を整えた。
 ジェイクやジェックら狙撃組、イルザを守るレッド、この三人との距離関係を上手く保つべくヒカゲは適した位置にある小屋の屋根を目指しアクロバティックに移動する。
 移動するヒカゲを機械凧が高速で追跡し連続で歯車を飛ばすが、紙一重で目標地点に到達したヒカゲは振り向きざまに気力十分の一撃で叩き落とした。
 歯車刃を飛ばしたばかりの機械凧はまだヒカゲとの距離を保ったままだ。
 ヒカゲは銃器の照準を機械凧に合わせ、緻密な指使いで引き金を引く。
 精密な射撃技術は、機械凧に回避の暇も与えない。

 ジェイクは数体の機会凧が密集している箇所に目を付けると、一掃を狙い鋼の驟雨を浴びせんが如く銃撃を始めた。
 彼の攻撃に合わせるようにしてジェックも引き金を引く。
 機械凧は機敏な動きを見せるものの、狙撃手たちの弾幕で次々と撃ち砕かれた。
 辛うじて攻撃を免れた個体も、飛ばした歯車が悉く粉砕される。
 そんな中、大破を免れた別の一機がユラユラと離脱しイルザに歯車を飛ばした。
 直後、ジェイクの耳元で凄まじい銃声が轟き、機械凧から飛び出した歯車はイルザに当たる前に空中で塵と化す。
 カスターが撃ち落としたのだ。
「いい腕をしているじゃねえか。ローレットに来いよ、お前なら大歓迎だ」
 ジェイクが賞賛する。
「お前の一撃もなかなかだった。ローレット云々は……考えておく」
 やはりカスターは寡黙だが、同じ銃使いの性だろうか、ジェイクの腕に興味を持ったようだ。

 だが、ジェイクの存在を掴んだ機械凧が複数で歯車攻撃を仕掛けてきた。
 更に、別の機械凧はレッドの鉄壁の防御を突き崩そうと攻撃の手を緩めない。
 優れた視力でそれらに気付いたヒカゲは、迎撃の構えを取るジェイクの動きを意識しながらもレッドに向かう機械凧に的を絞る。
 直後、ヒカゲの正確無比な一発がレッドの眼前で機械凧を射抜いた。
 機械凧はバチバチと電光を迸らせながら落下して停止する。
 一方、ジェイクは
「俺の視界に入るなんざ、撃ってくれと言わんばかりだぜ」
 と、照準器越しに不敵な笑みを浮かべ、
(俺の命中力は伊達じゃあないぜ?)
 と引き金を引き、攻撃を仕掛ける機械凧にあらぬ方向からの一撃を食らわせた。
 機械凧は錐揉みながら墜落するが、別の機械凧が歯車を連続で飛ばす。
 機械凧たちは弾幕を警戒しているのか、狙撃手たち相手に不用意に距離を詰めてはこない。
 このままでは少々効率が悪いと考えたジェックは漆黒の魔弾を撃った。
 魔弾が機械凧のアームを掠めると、その機械凧は動きを変えてジェックに迫る。
(こうなれバ風牙やレッドも戦いやすいデショ?)
 ジェックが引き付けた機械凧を風牙は剣で豪快に薙ぎ払い、風牙を援護すべくジェックは降下してきた機械凧にこれでもかと弾丸を浴びせる。

●波の如く
 イレギュラーズたちの奮闘で、数多いた筈の機械凧はすっかり数を減らしていた。
「イルザさん、そのアルバムしっかり落とさないように持つっすよ」
 レッドは声を掛けてイルザを安心させると、彼女を背負い機械凧から四方を囲まれないよう民家の壁に身を寄せる。
 そして、民家の壁を背にしながら避難所を目指して走り出した。
 すると、一機の機械凧がイルザを狙い忍び寄る。
 ネズミ越しにこれに気付いた角灯は、レッドを見つめながら
『レッドさん、右斜め後方の建物の陰から機械凧が来るよ。一旦迎撃を』
 と念話で警告した。
「分かったっす、ありがとうっす!」
 レッドはイルザを背負ったままくるっとターンして防御に入る。
 しかし、機械凧は攻撃を弾かれながらもイルザのアルバムを狙いレッドに迫り、歯車刃がレッドの足を抉った。
「……っ、イルザさんもアルバムも守るって決めたっす、ここで倒れるわけにはいかないっす」
 レッドは呻き声を上げながらもイルザを背負ったまま再び不動の構えを見せると、自力で傷を塞ぎ気合いを入れ直す。
 そして、迫る歯車刃を槍で叩き落とし、前に進む。

 なおも機械凧は執拗にイルザを追うが、ジェイクがまたも挑発して降下させ、その動きを目視していたアクセルが引き付けて痛烈な一刺しを入れた。
 更に、別方向から迫る機械凧には、
「さあ、今こそ君の力を発揮する時だ」
 と津々流が妖精を向かわせる。
 敵を穿つ牙の如く敢然と機械凧に突撃した妖精は歯車刃の迎撃を受け消滅したものの、その間動きを止めた機械凧に
「撃ち抜けないマトはナイ──ってネ」
 と、ジェックの零距離射程の魔射が入った。
 機械凧は最期の足掻きとばかりに歯車刃を飛ばした後爆発する。
 高速で飛ばされた歯車はジェックの体を裂いたが、そこにすかさずアクセルが駆け寄り傷を手当てした。
「大丈夫か?」
 問われたジェックは感謝の代わりに手を軽く挙げると、残存している機械凧を警戒しながら立ち上がる。
「背中をアズけラレるナカマがいるカラ、あんま心配セズに多少のムリも出来るっテね」

 残る機械凧はもう僅かだ。
「角灯、チャンスだ! たたみ掛けるぞ!」
 機械凧に引導をくれてやろうとジェイクが角灯に声を張る。
「分かった」
 角灯は狙撃銃を構え、角灯を援護しようと津々流がオーラの縄を放った。
 津々流の光縄はひゅんっと機械凧のアームに絡みつく。
 角灯が仲間と共に目指すは狙撃による敵の殲滅……津々流の縄によって俊敏な動きを封じられた機械凧は角灯の視線に捕まった。
 角灯によって放たれた、貫通力に秀でた一射……機械凧は津々流の縄に抗いギリギリのところでこの魔弾を躱し歯車刃射出の構えを見せるが、角灯の銃口はその動きを懸命に追う。
「今度は君の力を見せてやるんだ」
 津々流は生き物を創鍛して機械凧にけしかけた。
 機械凧は歯車刃を次々と角灯に差し向けたが、津々流が生み出した生き物に邪魔をされたせいか明後日の方向に歯車刃を飛ばす。
(……今だ)
 角灯が撃ったのは氷結弾。
 そして、それは今度こそ機械凧にヒットした。
 光縄に続き氷結弾まで食らい殆ど動けなくなった機械凧に、角灯は毒を帯びた弾丸を撃ち込む。
 ここまでやれば機械凧はもはやただの「的」でしかない。
「見たか、これが『連係』ってもんだ。お前ら機械にゃ理解出来ねえだろうがな。これで終いだぜ!」
 「的」はジェイクによって木っ端微塵に散らされた。

●終
 凶悪な機械凧は全て地に墜ちた。
 レッドは急いでイルザを避難所へ連れていこうとするが、よくよく見ると皆あちこちに小さな傷を負っており、イルザも顔色が優れない。
「時間は取らせない。軽く応急処置をしてから行くといい」
 アクセルは今の今まで戦場だったこの場を清潔にして皆に簡単な治療を施した。

 避難所に到着すると、村人たちに無事を喜ばれイルザは申し訳なさそうに詫びて回る。
(おばあちゃん、か。オレが生まれたときには、どっちのばあちゃんも死んでしまってたんだよな……)
 自分の「おばあちゃん」も、かつてはこうして人々に愛され幸せに生きていたのだろうか? ……そうであってほしい、いや、きっとそうだったに違いないと、風牙は人知れず小さく頷く。
 村人たちに囲まれるイルザに、たまらずジェイクが問い掛けた。
「誰にだって踏み込んじゃいけねえ領域がある。だが、そのアルバムは命より大事な物だったのかい?」
 そこまで言って、ジェイクはその続きをぐっと呑み込む。
「……否、今のは忘れてくれ」
 ジェイクが僅かに空けた「間」にイルザは何を感じ取ったのか……彼女は微かな笑みを浮かべた。
「お前さんなら、訊かずとも分かっているんじゃないのかい? ……とにかく、本当にありがとう。本当に……」
 イルザはアルバムを愛おしそうに抱きしめながらイレギュラーズたちに頭を下げる。

「カスターさん、助かったっす。ありがとうっす」
 ひと仕事を終えて銃を肩に背負うカスターに駆け寄り、レッドは礼を言う。
「礼には及ばん」
「それにしても、カスターさんの射撃の腕はやっぱり凄いっす」
「今回みたいな敵相手には、連射が出来なくても高威力のコイツは役に立つ。銃の性能に拘り過ぎてる奴はまだまだ未熟だ。装飾に拘る奴はもっと残念だ、装飾には何のタクティカルアドバンテージもないんだからな……」
 普段寡黙なカスターだが、銃の事になるとひどく饒舌だ。
(それにしても……)
 レッドは首を傾げた。
(お婆さんよりアルバム……軍人の息子が狙われたのは、機械の意思が反転した聖女由来だからなのかな……っす?)
 その答えはこの戦いでは出なかったものの、命懸けでイルザを守った事にはきっとこのアルバムの中の息子も感謝しているに違いない。

成否

成功

MVP

レッド(p3p000395)
赤々靴

状態異常

なし

あとがき

皆様、この度はシナリオ「親の心これ如何に」にご参加下さり、ありがとうございました。
そして、大変お疲れ様でした。
今回のシナリオでは、イルザを守り抜いたあなたをMVPに選ばせて頂きました。
シナリオを成功に導いて下さった皆様に、心より御礼申し上げます。
ご縁がございましたら、またのシナリオでお会い出来ます事を心よりお祈り申し上げます。

PAGETOPPAGEBOTTOM