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シナリオ詳細

ジェラート・イン・カテドラル~あまくない異端審問~

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ジェラート屋の「再」難
 ユーリエ・シュトラール (p3p001160)の営む『Re:Artifact』の隣には、彼女の知人であるフロレンツィア・ツェーレ(以後フロル)がジェラート屋を営んでいる。『ティアーズ・ジェラート(涙が出るほど美味しいジェラート)』と銘打たれたその店は、なるほどその名に恥じぬ質の味と接客を提供しているのだから侮れない。
 以前、夏限定で海辺に店舗を構えて営業した際は(とある事情から)ユーリエに泣きつき、結果として彼女の味に心酔した若者(控えめな表現)達を新たな固定客として獲得し、彼女の店はますますの繁盛を続けていた。
 余談であるが、ユーリエの店もそこそこ繁盛している様子であるのがまたなんというか、相乗効果というか。
「いやぁ、相変わらず美味いっすね姐さん! 幾ら食っても飽きがこないなんて、本当に涙が出ちまうなぁ……!」
 夏の頃は個性的な剃りこみをいれていたであろう若者は、丁寧に切り揃えた髪を撫で付けながら感動に咽び泣く。……どうにもフロルが想定していた客層とは異なるのだが、そうはいっても売れているので満足しているといえば間違いない。
「この調子ならもうちょっとお店を広げてもいいかな?」
 彼女が思わぬ形の繁盛に、ちょっとだけ色気を出そうとしていた、まさにその時だった。
「頼もう! ここが幻想でも指折りのジェラート屋で間違いないな?」
「はい、そうですが。貴方は?」
 唐突に扉を開けて現れた男性は、どこか聖職者然とした服装に、手には分厚く使い込まれた羊皮紙の本、目元には鋭いエッジの眼鏡をかけていた。何処から見ても気難しい人間のそれだ。誰だろう、とフロルが首をかしげるなか、さきの(元)ヤンキーが小刻みに震えだす。
「ば、バカな……なんでアンタみたいな大物がこの店に……?!」
 驚愕に目を見開く客と物々しい雰囲気の男性を交互に見つつ、フロルはこれから起きる出来事が絶対に穏やかならざるものであることを確信したのだった。

 そんな状況が隣家でおきているとはいざしらず。
「フロルの店が繁盛しているようだな。夏に手伝いに行った時はどうなるかと心配していたが……」
「ポテトも、ユーリエも頑張っていたからな! フロルの誠実さが伝われば繁盛もするさ!」
 ポテト=アークライト (p3p000294)とリゲル=アークライト (p3p000442)の夫妻は、ユーリエの店で雑貨を物色しながら夏の出来事に思いを馳せていた。
「そのジェラートってマジで美味いんだろ? オレも気になるー!」
「アウローラちゃんにかかれば食レポで大繁盛間違いなしだよ!」
 清水 洸汰 (p3p000845)とアウローラ=エレットローネ (p3p007207)は口々にジェラートへの期待を口にする。そして、アウローラは電子のアイドル的なアレなので食レポが大なり小なり影響を及ぼす可能性も……なくはない。
「私も気になります! 繁盛しているなら忙しいでしょうし、お手伝いできればっ」
 シュラ・シルバー (p3p007302)はメイドとして活躍できそうな状況を敏感に嗅ぎ取り、なんなら手伝いにいきましょうとばかりに身構えている。気が早い。
「それじゃあ、フロルの顔を見に行くついでにジェラートを食べに行こう! すぐ隣だからね!」
「やったあ! どんなジェラートがあるか楽しみだね、サクラちゃん!」
「そうだね、大変な依頼も多かったから気分転換にはいいかもね」
 一同の空気に、ユーリエは店を一時閉めてフロルのジェラート屋に赴くことを提案する。スティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)とサクラ (p3p005004)はともに飛び跳ねんばかりに喜び、意気揚々とすぐ隣、の店舗へと向かう。
 だが――。

「このジェラートは王道から外れた異端だ!」
 そんな怒号が店内から響き渡れば緩い空気は一変する。
 一同は慌てて扉を開き、店内へと駆け込んだのだった。

●異端審問
「なっ……お前はグルメ異端審問官・トゥルーエ! なぜ幻想に?」
「知っているのか、リゲル?」
 リゲルが驚きと共にその男、グルメ異端審問官なる男を指差すと、トゥルーエと呼ばれた男はふうとため息をついて立ち上がる。
「誰かと思えば、アークライト卿の愛息ですか。そちらの方も……ふむ、こんな所で会うには分不相応な方々だ」
 彼はリゲルと、サクラをちらと見ると納得したように頷いた。サクラについて深く言及しなかったのは、恐らくその出自に確信が持てなかったからであろう。
「異端審問官? 偉い人なの、サクラちゃん?」
「『その筋』では偉いというか有名だと思うよ。異端扱いされたら客足が遠のくって噂の……」
「然り。このジェラートは王道ではない。異端だ。そして異端の店がのうのうと繁盛していることは私が許してもこの舌が許せぬ!」
「むむむ……? アウローラちゃんアイには、とっても冷たくて美味しそうに見えるよ?」
 アウローラちゃんアイ(温度視覚)にかかれば、それがよく冷えて練られた上質なジェラートであることがわかるだろう。シュラもまた、自身の料理の知識からそのジェラートの味を容易に想像でき、我知らず喉が鳴る。
「いきなり入ってきて一口食べただけで異端だ! とか王道じゃない! とか! 頑張っているフロルに失礼ですよ! 撤回してください!」
「頑張っていることは結果とは別問題ではないのかね、お嬢さん。君は必死に頑張ってかき氷を作っているのが筋骨隆々のマッチョで、彼らの汗が飛び散ったそれが『頑張っているから美味しい』と言えるのかね?」
 トゥルーエは抗議するユーリエにびしりと指を向け、問いかける。うっと口をつぐんだ彼女だが、多分知り合いの一人くらいは「それはそれで」って言いそうな輩がいるかもと思うと余計に声がでない。
「それはそれ、これはこれだぜ! ちょっとは姐さんの言い分を聞いてやってもいいんじゃねえか? 横暴だ横暴!」
 ヤンキー達がブーイングを漏らすと、店内はトゥルーエへのブーイングの大合唱となる。にわかに騒がしくなった店内に、トゥルーエは「粛に」と有無を言わせぬ語調で制す。
「フロレンツィア・ツェーレ。貴女のジェラートが異端ではないのであれば、天義の美食家達にそれを証明してみせよ!」
 あ、そこはチャンスもらえるんだ……そんな感想を持った一同をよそに、自体は坂を転がるように進んでいく。

 そして一週間後。
 天義の大聖堂を舞台に、『異端』のレッテルを撤回させるための戦いの火蓋が切って落とされる……!

GMコメント

 普段のシリアスなOPよりも、過去のどんなトンチキなOPよりも、決戦すらも超えるハイカロリーなOPになってる気がするんですけど。なんで?

●成功条件
 『グルメ異端審問官』トゥルーエ・ムーチョにフロルのジェラートが異端ではないとわからせる。
 具体的には、トゥルーエ含む4名の審問官+観客の5票を以て異端か否かを判定するジェラート三番勝負である。相手、いないけど。
 あと3品出すだけでテーマらしいテーマもないけど。ガッバガバである。

●勝負の舞台
 天義のそこそこ大きな聖堂。なぜか調理設備が整っているし、あると断言すればだいたい調理器具も素材も手に入る。持ち込みも可。

●審問官
・トゥルーエ・ムーチョ:OPにいた人。彼の手にしている本は各国の食の名店をリスト化した俗に言う「ギッド・ルージュ」である。彼自身の舌も優秀と評判であり、その評価に色眼鏡をかけることはない。
 スイーツに関しては素材の味を重視する派。注文したのが変わり種だったのがいけなかったか。なんでそんなもん頼んだというツッコミは脇に置く。

・ミーツ:高齢の女性。どちらかというと技術面や芸術面を高く評価する傾向にある。自分が美味と思うものに遭遇すると柏手を鳴らす癖がある。

・ヒトシ・シルベ(識部均):練達から天義に渡った人物。なんやかんやで審問官をしている。味覚としては日本人のそれに近く、美味しければだいたいなんでもアリという大雑把な人物。腕組無言勢。

・大司教:審問官達の纏め役で、名前を呼ばれることは少ない。総合的な味のバランスを判断する。普段は太い眉で目が見えない。

・『ティアーズ・ジェラート』の客たち(と、一般観衆):「5人目の審問官」扱いである。客達はヤンキー率が高いが、みな好意的。その他の客も味に素直だが権威に弱いところがある。

●今までの経緯
 『ジェラート・バイ・シー~海ヤンキー格付けチェック~』に詳しいです。多分ユーリエさんに聞いたほうが早いんじゃないかな。

 それでは、皆さんの奮闘をお待ちしております。
 構文? ちょっとよくわからないな。

  • ジェラート・イン・カテドラル~あまくない異端審問~完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月16日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊
シュラ・シルバー(p3p007302)
魔眼破り

リプレイ

●大聖堂の使い方が贅沢すぎる件(談:サクラ)
 天義の大聖堂は、今や緊張と興奮のあわいを漂う枯れ葉の如く。審査員席に座る5人はいずれ劣らぬ威圧感を放出し、イレギュラーズとフロルの挙動を見逃すまいと視線を巡らせる。
 曰く、『5人目の審査員』である観客達も、なんとも言えない表情と空気で彼らを見つめている。その視線の圧は当然、無視できるものではない。
「フロル、季節ごとに大変な目にあってんのなー……」
「美味しいものを美味しいと認めて貰えないのは、作った側としてはとても残念な事なのです」
 洸汰は夏の一件についてユーリエから説明を受け、どこか遠い目をしながらしみじみと呟く。シュラはシュラで、異端扱いを受けたフロルにいたく同情的だ。坂道を転がるようにこの事態に追い込まれたフロルにとっては堪った話ではなく、一週間たっても足元が覚束ない様子だ。
「フロルのジェラートは、異端じゃない! 私たちがそれを証明してみせるよ!」
「ユーリエ……ありがとう。みんなも付き合ってくれてありがとう……!」
 ユーリエの堂々たる言葉に、フロルは心から救われた気持ちになる。ここまでの一週間、一同はフロルのジェラートの何が異端であるのか、また、次善に聞かされていた審査方式と審査員の調査で何が有効なのかをじっくりと考えていた。
 こと、天義の騎士の妻としての道を往くポテトと、天義出身者であるサクラとが『正道のジェラートとはんぞや』を考えていたのは大きいか。
「スティアスペシャルなら審査員さんもお客さんも満足するよ! ね、サクラちゃん!」
「う、うん、満足、するといいね……」
(審査員さんにあんなの出したら却下されること間違いなし……! 見張らなきゃ……私がスティアちゃんを見張らなきゃ……)
 自信満々に『スティアスペシャル』を出そうと画策するスティアに、サクラは正道とかそれ以前にできる限り彼女がやりすぎないように見張るしかできなかった。
 勿論、彼女達と一緒に提供する側である洸汰も、なのだが。
「お菓子作りは得意だけどジェラートを作るのは初めてかな!」
「いつも通りフロルと美味しいジェラートを作って出せば大丈夫だ。頑張ろうな、リゲル、アウローラ」
 アウローラはポテトが用意した材料を眺め、どう作るかを思案する。ポテトは「天義といえば白かな」、と提案。白といえど、食に関しては色々あるが……。
 ……無論、この一週間で彼女らはある程度メニューを考案していたのだが。
「ジェラートはみんなに任せた。俺は俺にできることでアピールして、トゥルーエ達をフロルのジェラートのファンにするんだ!」
 リゲルはといえば、この通り。最初から無理に料理に手を出そうとせず、高い技量(テクニック)を駆使して器作りに手を出そうとしていた。……え、器?
「シュラさん、ティアーズ・ジェラートの味をアレンジしてもらってもいいですか? 私は……ジェラートを好きになってもらう工夫をするので!」
「あ、はい、任せてください! 失礼致しますね。……うん、うん……あ、ちょっとまってくだひゃい」
 ユーリエはシュラにジェラートを差し出し、シュラも味を再現するためにぱくりと一口。するとたちまち、彼女の声は綻び目元には涙がつたう。涙が出るほど、という謳い文句は伊達ではない。
「基本のジェラートを作って飾りつけましょう! 大丈夫、なんとかなりますよ!」
「はい、ありがとうございます……」
 シュラの語気に押され、フロルは思わず首を縦に振る。ここまで自信を込めて告げられると、本当になんとかなりそうな気がしてくるのだから不思議だ。
「諸君らがフロレンツィアの手伝いをすることは認めよう。……極端に彼女の味から離れればそれはそれで『異端』であろうがね」
 威圧的な視線を伴い、トゥルーエ。
「私はァ、幻想で評判のジェラートというものがどれだけのものかを確認したいのでぇ……天義に相応しくない出来栄えでしたら、わかっておりますね?」
 ちょっとふっくらした外見通りの柔和な笑みを浮かべたミーツ氏は、しかしその視線の奥に想像できぬ重さと鋭さを湛えている。
「……君も旅人だな。なら、私の言いたいことはわかるだろう」
「えっ俺?! そんな事言われても……!」
「『とにかく頑張れ』だ。わかるな」
 ヒトシは洸汰に短く告げると、再びふんぞり返って鼻を鳴らした。悪い人ではないのだろうが、暗色基調の和服が実にミスマッチだ。
「私は君達の誠意が見たい。異端であるや否やに囚われず、自由に振る舞ってほしい」
「「大司教?!」」
 太い眉の奥の視線は見えない。今回の一件の本旨を無視するような言葉に、トゥルーエとサクラは異口同音に動揺の声を漏らす。
「さりとて、味の是非は別である。この国に供するに相応しいものを願おう」
 だが、有無を言わせぬ言葉が続けば、両者ともに引き下がるしかない。言っていることに誤りはないのだ。
「トゥルーエ様、そして皆様。貴方様達は大切なお客様です」
 深く一礼をしたリゲルは、仲間たちに向き直ると目を光らせた。ここからが本領だとでも言うように。
 似た役割を担う洸汰とユーリエにも緊張が走る。頑張らなければ、ならないのだ。

●スペースの使い方これで大丈夫なのかな(フロル談)
 【騎士チーム】【スティアスペシャルチーム】【フロルチーム】の3チームは、それぞれに調理に関してそこそこ腕の立つ者が揃っていたことがまず、強い。
 強いのだが、全員クセが強……個性て……ユニークな面々であることもまた特徴的だ。
 そして、大聖堂でご覧の皆様はすでに勘付いている頃だが、『ジェラートをその場で作ってお出ししろ』だなんて練達の技術を借りても短時間では難しい。
 つまるところが、ジェラートについて試行錯誤した分はすべて、審査までの一週間で試作まで終わっているのである。……シュラが食べたのはなんだって? あれはアレンジと調整なんで。
「フロルさんと協力して作った基本のジェラートにユーリエさんのクッキーを添えて、トゥルーエさんの分にはさらにこちらを添えましょう」
「わ、私のクッキー添えて大丈夫かな……?」
「ジェラートは多分、上手にできたから大丈夫……だよね? シュラさん、『それ』大丈夫かな……?」
 ユーリエは自作のクッキーに、フロルはジェラートの出来とシュラの添え物に少々不安がある様子。シュラはそんな2人をよそに、自信満々だ。
「なるほど、ベーシックな味で勝負するというわけか……頂こう」
 大司教は供されたアイスを手にすると、一同に口にするよう促した。厳かな雰囲気で手を付けた瞬間、突如として一同の周囲に天使が現れる。
 それらは大聖堂の中を舞い踊り、審査員と客達へと触れるや否やの距離に近づき、やがてジェラートの溶け消えるタイミングと同期して姿を消していく。
「今のは……?」
「ふふふ、驚きましたか……? あなた達はもっと、ジェラートを食べたくなる。あまーくて、涙が落ちちゃうくらい、とろけるような……素敵なジェラートだと思いませんか? これを異端という方が異端ですよね……?」
 驚いたふうの観客の言葉に応じたのはユーリエだ。幻影を生み出して味に視覚を紐付け、誘惑混じりの声で人々の心を釘付けにする。なるほど、一般人相手にはなかなか効果的だ。乾いた柏手(かしわで)が響いたが、これはミーツのものだろうか?
「……それとこれとは話が違う」
 だが、それに異を唱えたのはまさかのヒトシだ。むっつりと腕を組んだ状態で。
「ま! こんな楽しい催しを前にしてなにをおっしゃいますの? 美味しいし楽しい、よいではありませんか!」
 これにはミーツも異論を唱える。今しがた反射的に柏手を打った彼女にとって、演出が否定されるのは我慢ならぬのか。ジェラートを完食したミーツとは対象的に、トゥルーエは半ばほどで手を止めている。そしてシュラに問う。
「……トゥルーエ氏に供したあれは蜜柑だね? その理由とともに、あれを私にもいただけないか」
「はい。冬に蜜柑は外せないものですし、これは蜜柑を凍らせただけ。素材の味はイジっておりません。しかし、ジェラートやアイスには相性が良いものなのです」
 神妙な顔をして蜜柑とジェラートを完食したトゥルーエを横目に、シュラはヒトシに蜜柑のアイスを供する。彼は即座に、それを完食した。
「……これが回答だ」
 カチャン、と空の器を示す。認めた、ということか。
「ふむ……ふむ。皆の衆と審問官各位は満足しているようだの。結構結構」
 大司教は審査員一同の反応を見ると、ひとまず満足げに呟く。なら、と期待したイレギュラーズに、眉の奥からじっと見つめ。
「では次を頂こう。フロレンツィア嬢の腕は確かだが……異端の謂れを跳ね除けるならまだ頑張ってもらわねば」

●あの柏手とか眉毛の動きとか、どっかで見た気がするんだよな(洸汰談)
 大司教の言葉を受け、リゲルはエプロンを脱ぎ捨てる。不思議な光の後、現れたのは執事服姿の彼だ。ポテトがネクタイを整えると、彼は審査員の前にジェラートを供す。
「うぅ、美味しそうなんだよー。審査終わるまでは我慢我慢……」
 シュラは自分で作ったものが会心の出来であるのか、理性との戦いを続けていた。
「我々生命は、大地の恵みにより命を紡いでいます。フロルのジェラート屋は、その恵みに感謝を示し、旬の素材の味を活かし甘味としています」
「まあ……まあ、まあ、まあ! これは!」
 ミーツは食べるよりも早く、思わず柏手を打っていた……何故か? それはリゲルの盛り付けの精度と器にこそある。
 盾にみたてた台座に整然と盛り付けられたジェラートは、全て白を基調としているが、「バニラ×ココナッツ×白桃」の淡い味わいと「ホワイトチョコ×林檎×マスカット」による甘みと酸味の強烈なコントラストが香りだけで伝わってくる。それらを厭味なくまとめているのが散らしたミントの清涼な香りと、リゲルの添えたクッキー。ルビーチョコレートの色合いがまた、目立つ。
「味だけではなく、この美しい真っ白な色合いと口溶けは大切な方々への贈り物としても最適です。人々を幸せを届ける、フロルのジェラートはゆくゆくは国を支える原動力ともなることでしょう……お茶もご用意しました。暖かな大聖堂ではありますが、ジェラートだけでは体も冷えましょう」
 リゲルは立て板に水の様相でつらつらと説明を続けていく。その間にも、ミーツは目で味わい舌で味わい、ヒトシとトゥルーエは無言でスプーンを進めていく。多分、文句を言わないあたり満足している。
「成程……これは……!」
 そして、そんな中でひときわ動きが大きかったのは誰あろう大司教である。眉が勢いよく跳ね上がり、その下に隠れていた目がぎらりと光ったのだ。
「我が国に供するに至適な色合いと器のデザインもさることながら、バニラにのみ拘らず様々な味を互いの持ち味を殺さぬように組み合わせている。この国を知り、しかし染まることのみを由とせぬ反骨心を匂わせる強かさは評価に値する!」
「む……よもや大司教の眉が動くとは。あれは余程の美食でなければ上がらぬと聞いていたが……」
「ご存知なのですかトゥルーエ様?!」
 なんか色々胸焼けしそうな話に混じって訳知り顔なトゥルーエに、サクラも動揺を隠せない。今や遅しと待ち構えながら飾り付けに興じているスティアを脇目に、これからの展開に戦々恐々とするしか無いのが彼女であった。
 つくづく、不遇なコである。

●今日も上手くできたね。そう思うでしょ、サクラちゃん!(スティア談)
「これがスティアスペシャル!! スペシャルの名を冠すにふさわしい、カラフルかつ贅沢な逸品だー!
 見た目も楽しい色とりどりのジェラート! 器までおいしいワッフルボール!
 定番のイチゴソース、程よく甘みを添えてくれるブルーベリーソース、大人な酸っぱさのラズベリーソース……どれをかけても美味そうだぜ……」
 洸汰の身振り手振りの大きさでその味を表現し、もって周囲の興味を惹こうという考えだ。無論、彼自身の人心を理解した所作とどこか信頼できる空気が周囲にそう感じさせていることは間違いない。
「……え、あれ……?」
「私も自重を覚えたんだよ、サクラちゃん!」
 審査員達に供されたジェラート――三種のベリーのジェラートセットを見たサクラは、ドヤ顔で胸を反らすスティアとを見比べて目を丸くする。
 確かに横についている林檎の飾り切りは自身の作ったもので。砂糖をまぶしたのも覚えてはいる。
 覚えているが。そこそこの大きさのアイス3コ、それより小ぶりなものを希望者に、それぞれ用意された心遣いは彼女の知るところのスティアの盛り付けではない。
「なかなか個性的な色合いですけれど、味や調和に冒険心が無いのは良いですわね! 基本を守った作りだと思いますわよ!」
 ミーツは柏手を打ちつつ、三種を少しずつ口にして喜びを示す。怪訝な顔でジェラートを見ていたトゥルーエは、しかし他の審問官と大司教が口にしているのを見ておずおずと手を付け始める。
「む……!」
「……ふむ」
 目を丸くしたトゥルーエをよそに、大司教とヒトシは黙々と口に運んでいる。
「……控えめにした心遣いか」
「お好みでソースも追加できますよ!」
 なるほど、と呟いたヒトシに、ずずいとソースを渡そうとするスティア。洸汰はスティアスペシャル(小)を口にしながら、他の面々が用意したジェラートも物欲しそうに眺めている。
「どうだ、審問官のおっちゃん? これでもまだ、フロルのジェラートにケチつけるつもりかー?」
「ここに……フロルのジェラートが食べられる引換券があります。たくさんおもてなししますよ……!」
 洸汰とユーリエはどこか悪い顔でじりじりと審問官達に詰め寄っている。押し売り感がすごいが、恐らくそれも含めて演出なのだろう。
「ぐ……む……!」
「もう良いであろう、トゥルーエ。彼女らは求められた条件をこなした。喜ぶべきは何かを理解のうえ提供した。それで十分と私は思う」
 どこか歯切れの悪い返しをしたトゥルーエに、大司教は厳かに問いかける。観念したように息を吐き出したトゥルーエは、小さく『この出来ではもう異端とは呼べぬ』、と小さく告げたのであった。
 なお。
「……それで、私はこれなの……?」
「いっぱい食べてね、サクラちゃん!」
 自重を覚えたスティアだったが、サクラに対してはその限りではなかったことを書き添えたいと思う。おもに、量的な意味で……。

成否

成功

MVP

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 リクエストシナリオらしくプレイングがどれも読み応えがあり、面白いものであったと思います。
 調理過程は若干の前後をさせていただきましたが、結果としてはいい感じになったと思います。
 ちゃんと料理以外の役割を提案してきたのは素晴らしい誤算でした。

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