PandoraPartyProject

シナリオ詳細

白より出づるは

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ぴよ!
「皆さん、依頼が来ましたよ!」
 くるりと丸められた依頼書の結わえた紐を咥えるブラウ(p3n000090)は──まあいつも通りながら、こけた。
 ぺしゃりと顔面から床にぶつかるブラウへノースポール (p3p004381)が目を丸くする。駆け寄ってしゃがみこむと、ころんとブラウが起き上がった。
「大丈夫ですか?」
「だい、大丈……痛いです」
 ぴぃ、と悲しげに鳴くブラウ。そこへこけー! と現れたのはにわとり……それもただのにわとりではない。トリーネ=セイントバード (p3p000957)だ。
 こけこっこー! とトリーネが鳴くとどこからともなく大量のひよこ──勿論普通のサイズだ──が集まってブラウを取り囲む。こけこけぴよぴよと大合唱を聴くと顔面の痛みが和らぎ、ブラウは目を瞬かせた。
「痛くなくなりました……!? にわとりさんすごいですね!」
 そうでしょうそうでしょう、とトリーネ。その間にひよこたちはどこかへ退場していく。ローレットの扉を開いたアニー・メルヴィル (p3p002602)がそれを見て目をまん丸にした。
「零くん、ひよこさんが行進してる!」
 その瞳は『可愛い!』とキラキラ輝いていて。けれど振り返った先の上谷・零 (p3p000277)はローレット内を覗き込み、首を傾げた。
「アニー、いないぞ?」
「えっ?」
 パッと振りむくと確かに影も形もなく。そこにいるのはノースポールと、ブラウと、トリーネと──へべれけ。
 昼からカウンター席で酒を飲んでいたアーリア・スピリッツ (p3p004400)は、ブラウがこけた際に少しよれてしまった依頼書を拾った。
「なになに……あら、」
 天義の依頼じゃない、とアーリアが目を瞬かせる。別所で依頼を探していたリゲル=アークライト (p3p000442)が「お、」と反応した。
「天義の依頼なら、詳しく聞かせてもらえないかな」
「それなら私も聞こう」
 彼の妻、ポテト=アークライト (p3p000294)もその隣に寄り添う。アーリアに抱き上げられ、カウンターへ乗せてもらったブラウはちょこちょことやってくるワモン・C・デルモンテ (p3p007195)を見つけて小さく跳ねた。
「あっワモンさん! こんにちはー!」
「お、ブラウじゃねーか! なんだなんだ、依頼か?」
 俺も混ぜてくれ、とワモンがそばに寄ってくる。奇しくも8人揃い、ブラウは皆を見回して口を開いた。


●雪!
「……うう、寒いわぁ。酔いが覚めちゃいそう」
 はぁ、と息を吐くアーリア、白くなった息が風に舞い上がる。腕の中のあざらしたんぽことワモンがぬくい。
「でもだいぶ雪が増えてきた。広い場所なら子供たちも遊べそうだ」
「ああ。もう少し先まで行ってみよう!」
 ポテトの言葉に頷くリゲル。後を追う零はアニーの手を取って、ノースポールは頭の上にブラウを、腕の中にトリーネを確保して。
 いかんせんここ一帯は豪雪で、ブラウたちは沈んで埋もれるのである。
 そもそもブラウは情報屋なので、同行する必要もなかったが──そこまで難しい依頼でもないし、と誘われたのでお邪魔したのであった。
「あっ! あの辺りはどうでしょうか!」
 ノースポールの頭上でブラウがぴょこんと跳ね、うっかり足を滑らせる。ころころとひよこはモッフモフなトリーネの元へ落っこちた。
 そんな彼の示した場所は子供たちが遊ぶに御誂え向きだ。天義首都の復興により遊ぶ機会が減った子供たちも、ここなら大喜びで遊ぶことだろう。
「ねぇ、なんだか沢山の雪だるまが見える気がするわぁ?」
 酔ってるからかしらぁとふわふわなアーリアは、手元のワモンへそう語りかける。彼女の示した場所には大量の──うん。本当に大量の雪だるまだな。
「誰かが先に作ったのかもしれないな」
「こんなに沢山?」
 零の言葉にアニーが不思議そうな声を上げる。

 その時だった。

「──ポテト!」
 飛んできた何かにポテトが身を低くして躱す。しかし何かはそれだけにとどまらず、イレギュラーズたちへいくつも飛来した。
「あぶなっ」
「アニー、こっちだ!」
「こけー!」
「ぴよー!」
「これは……雪玉?」
 飛来して雪原へ落ちたそれに、ノースポールは目を瞬かせる。投げてきているのは大量に鎮座している雪だるま。
「危険ってほどでもないけど、これが子供たちに当たったらやっぱり危険だよな」
 ついた雪をパンパンと払いながら零は眉を寄せる。これはそう、大人が全力で雪遊びをしているくらいの威力だ。少なくとも子供は遊べまい。
 じゃあ場所を変えるかというと、散々首都とその周辺を回ってきたイレギュラーズは『ここ以外に遊び場たる場所がない』ということを知っている。
 つまり?

 雪合戦で、あの雪だるまたちを倒さねばならないのだ!

GMコメント

●全力で! 遊べ!!
 動く雪だるまたち(×たくさん)と雪合戦をします。
 雪だるまは大人の肩ほどまである、比較的大きな姿です。目は小石で、手は枝でできています。足がないので動きません。
 どうやって雪玉にして投げているのかはかなり謎ですが、どこからどう見ていてもいつの間にか枝に雪玉が乗っており、気づけば発射されているのです……。
 雪玉の届く範囲へ入ると容赦なく雪玉を投げてきます。投げてくるそれは大人が投げたのと同じくらい威力がありますが、雪だるま自身の耐久性は低いです。
 雪だるまが壊れると雪の壁になります。あのほら、雪合戦とかで身を隠すのに使えるやつ。そんな感じで描かれるのも戦法の1つとなるでしょう。

●ルール
 特に指定しません。
 折角なので皆さんで装備はどうするか(盾を使うとか)など相談してみてください。あえて普段着で正々堂々勝負! でも構いません。その場合はプレイングに明記して頂ければ装備を外す必要もありません。
 なお、ここでのルールは『イレギュラーズに課される』ものとなります。雪だるまたちはどうあっても一定範囲内に近づいたら雪玉を投げるので、3対3とかやろうとしても難しいです。

●NPC
・ブラウ(p3n000090)
 30cmほどのひよこです。初期位置ではノースポールさんの腕の中にお邪魔しています。
 いかんせんひよこなので戦力にはなりませんが、皆さんを応援しますよ! 頑張れ! ぴよー!
 その他、楽しい絡みプレイングは大歓迎です。

●ご挨拶
 リクエストありがとうございます。愁です。
 ほのぼのとしたシナリオをご希望されていましたので、難易度はEasy相当を想定しています。あまり戦闘と気を張らず、楽しく全力で雪合戦していただければ幸いです。すごく遊んだぞ! っていうあたりで雪だるまは全滅するでしょう。これも全ては子供たちのため。正義はこちらにあり。
 それではプレイングを楽しみにしています。よろしくお願い致します。

  • 白より出づるは完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
アニー・K・メルヴィル(p3p002602)
零のお嫁さん
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き

リプレイ

●いざ勝負!
 雪合戦をし始める雪だるま、というなんとも不思議な生き物(?)に遭遇した一同は、雪玉攻撃の届かない場所まで一時避難していた。その隅で『出張パン屋さん』上谷・零(p3p000277)は小さく蹲っている。
「雪だるまが動くの聞いてない、聞いてないぞ俺……」
 子供たちの遊び場を探していただけのはずだ。はずだったよな??
「零くん、大丈夫?」
 心配げな『お花屋さん』アニー・メルヴィル(p3p002602)に声をかけられ、バッと立ち上がる零。「もちろん!」と返した声は思ったより大きい。それなら良いんだけれど、と零の様子を伺ったアニーは視線を雪だるまたちの方へ向けた。
「子供たちが楽しく、かつ安全に楽しめるようにしないとね」
「だな。まぁ、ちょっと慌てたけど……精々大人が全力で雪遊びするぐらいみたいだし」
 そうは言うものの、しかしやっぱり痛いのは嫌だなぁ、と零は先ほどの雪玉を思い出す。とても、とても痛そうな速度の雪玉だった。
(でも危ないのは確かだし頑張るか……)
 これも依頼の一環だし、と思うことにした零。その眼前へ不意に差し出されたのは──唐揚げ。
「皆も食べるぅ?」
 片手につまみ、片手に酒瓶。『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はその誘いを断られると「そぅ……」と残念そうに唐揚げをむしゃむしゃむしゃ。ザンギもむしゃむしゃむしゃ。どんどんかさを減らしていく酒の瓶には決して低くないアルコール度数が記載されている。
 だって、ほら。寒いじゃん。体を温めるには強い酒だよね。
 ということであっという間に出来上がったへべれけアーリア。目の前は割とぐるんぐるんであるが、当初の目的通り体はぽかぽかである。
「ちょうどいい場所を見つけたと思ったのですが、これでは困りますね……!」
 立ちはだかる雪だるまたちを見ながら『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)はブラウ(p3n000090)をもふもふ。温かいしもふもふするたびに「ぴっ、ぴっ」と鳴き声を上げるので可愛らしい。
「雪合戦で勝つわよ! 子供と遊ぶ前のぜんしょー戦!」
 こけ! とやる気満々に翼を広げる『飛んだにわとり』トリーネ=セイントバード(p3p000957)は雪原の上。ブラウが先ほど落っこちてきた時にスポーン、とノースポールの手元から落ちてしまったのである。真っ白ふわもこな姿は雪に擬態できそうだ。
「ん、……リゲル」
 しっかりと着込んだ『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は身軽な服装の夫へ手招き。不思議そうな顔をしてやってくる『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)へふわりとマフラーを巻いた。
「動きやすさも大事だけど、風邪をひかないようにな?」
「ああ、ありがとうポテト」
 マフラーに触れて微笑むリゲル。ポテトは彼へ微笑み返し、最後にマフラーの端同士を結んで「これで大丈夫だ」と告げた。
「ノースポールさん、僕は皆さんを応援していますね!」
「はい! それでは……」
 ずっと抱えているわけにはいかないから、とノースポールはひよこサイズのかまくらを作る。ブラウが入っても良い感じの大きさだ。
「わぁぁ……!」
「危なくなったら隠れてくださいね? 応援、よろしくお願いします!」
 かまくらに入ってはしゃぐブラウはノースポールの言葉に元気の良い返事を1つ。そこへポテトがやってきて予備のマフラーを取り出した。
「ブラウ、雪玉当たらないようにな? あと寒いから、あったかくしておくんだぞ?」
「はい、もちろんです……んぴょ」
 もふもふとマフラーを巻き付けられ、ブラウはひょっこりと嘴をマフラーから出す。暖かいですねと顔を上げると、ちょうどノースポールが自分と同じサイズのシマエナガへ変化したところだった。
「戦場は雪景色。シマエナガの私にはピッタリの場と言えましょう!」
 撹乱はお任せを、と羽ばたくシマエナガ。ひよこのブラウ、にわとりのトリーネ。海豹のワモン。皆合わせてアニマルカルテットである。
「おっきなぴよちゃん、応援よろしくねー!」
「ぴよ! お任せください!」
 トリーネの言葉に翼を大きく広がるブラウ。その周りへこけぴよソングで現れた小さなぴよちゃんたちがトコトコとやってくる。
 さあ行かん──雪合戦!


●対決! VS雪だるま!
「うふふふふやるわよぉー! 雪合戦!
 子供達のためぇ! あーりあすぴりっつ、一肌脱ぎまぁす!」
 本気で脱ぎかねないほどにべろんべろんなアーリア、ぬくぬくの『海のヒーロー』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)を雪の上へ降ろすとすぐにその居場所を見失う。
「あら、ふわもこアニマルカルテットはどこへ?」
 そこまで遠くにはいないはずなのに、何やら視界が回ってよくわからない。まあイレギュラーズであればうっかり投げられたりしないだろうし、不幸体質なブラウだって黄色いのだから流石に気付くだろう。

 ──これを一般に『フラグ』と言う。

(父上、どうかお守りください)
 父、シリウスの名を冠した盾へ祈りを捧げてリゲルは前へ出る。雪だるまたちが我先にと投げてくる雪玉は掲げられた盾によって阻まれた。
「俺は騎士として! 盾になる!」
 来るな来るなと言わんばかりにボコスコ投げられる雪玉。前線でリゲルが耐える中、後方でアニーが「さぁ雪だるまさん達! 私達が相手ですよぉ~!」と楽しげに宣戦布告し──しゃがむ。
 わしゃわしゃと雪をかき集め、掬ってぎゅっぎゅと雪を固める。雪玉が1つできたら次へ。できたら次へ。できたものは仲間たちがぽいぽいと投げていく。
「うっしゃー! 雪合戦だー! オイラのガトリングが雪玉をばらまけってうずいてやがるぜー!」
 ワモンもガトリングで雪玉をばら撒くため、アニーの隣でせっせと雪玉作り。ブラウも手伝ってくれと言われてかまくらからぴょこんと出てくる。
「ワモンさんこんな感じですか!」
「オッケーだぜブラウ! その調子でどんどん作ってくれ! 戦いは数だ!」
 3人──正確には1人と2匹──が猛スピードで雪玉を生産していく。だがしかし、需要イコール供給ではいけないのだ。のちにワモンのガトリングへ収めることも考えれば、余るくらいに作っておかなければならない。
「今こそ見せてやるです村娘のバイタリティ!」
 気合を込めるアニー。しかしおにぎりを作る要領で大量に生産していたためか、最初は丸かったはずの雪玉はいつしかおにぎりのような三角型になっていた。
(これ、ワモンさまのガトリングにも入るかな……?)
 ちらりと彼のガトリングを見る。うん、きっと大丈夫。多分。
 そんな彼女が作った雪玉を拾い、零は盾をかざす。
(雪だるま達には悪いが、素手じゃ負けそうだし盾を使わせてもらう……!)
痛いのも冷たいのも避けたいところ。正面からくる雪玉は盾で体を庇い、斜めからやってくる雪玉はアニーから貰ったコートが零を守ってくれていた、
(動きも問題なさそうだ、ありがとなアニー!)
 後ほどちゃんと零を言おうと思いつつ、いつも戦闘でフランスパンを投げる要領で雪玉を投げる。小さな石の込められた雪玉は雪だるまを崩すが、同時に投げられた雪玉は盾を抜けて零の顔面へ命中した。
「つめてっ」
 顔を振り、すぐさま次の雪玉を握る零。ゴーグルのお陰で雪が当たっても視界はそこそこ良好である。
「ふふっ、私に当てられますかね?」
 ノースポールがシマエナガの姿で雪だるまたちの間や上空をひらり、ひらり。雪玉が飛んではくるが、予測不可能なその動きにはついていけていないようだ。
「悪いが、ここは開けてもらうぞ!!」
 そこへポテトが雪玉を振りかぶり──ぺしゃ。
「がーんばれ! ポーテトさん!」
 ブラウの応援に背中を押されもう1度──ぺしゃ。
 まるで当たらない雪玉に、ポテトはそっと視線を逸らした。命中率が悪いことなどわかっていたのだ。こうして囮の役目を果たし、他の仲間が当ててくれれば問題ない。ないのだ。
 雪だるまが崩れて雪壁ができるとリゲルがそこを拠点として。逆にポテトは離れて雪だるまを引きつける。前へ進まねば雪だるまと距離が開いてしまうのだ。
(こっちも沢山当てられるだろうけど、みんなが移動する間の我慢だ)
 仲間たちは雪壁へ隠れたかと視線を滑らせたポテトは、夫の思わぬ姿に「リゲル!?」と声を上げる。
「さあ来い! 的はここだぞ!」
 ウィングシューズの力で軽く浮き、目立つように両手を広げたリゲル。すぐさま雪玉が飛び、あっという間に落ちて雪だるまのようになる。
 こうして文字通り身を盾にするのも楽しそうだったし──何より攻撃を受けるということは仲間たちが攻撃を受けなくて済むということだ。
(熱い戦いでは頭を冷やすことも重要だし……)
 と思うのも束の間。『いや、やっぱり寒いな』と雪の中でリゲルは思い直した。

 そんな中、人や障害物のそばをコロコロと通り抜ける雪玉……違った。にわとりだ。
(これぞ人や自然とも共存するにわとりの知恵よ)
 雪だるまたちにも雪だと思われているのか、雪玉を投げられる気配はない。したり顔で近づいたトリーネは近距離から思い切り雪玉を投げた。思いもしなかった方向からの攻撃(雪玉)に雪だるまの1体が崩れる。
「頭の良さで雪だるまに負けるわけにはいかなぶへぇ!」
 ふふんと胸を張った直後に飛来する雪玉。ふるふると体を振って雪を落としたトリーネは、雪だるまの手元にしゅぽんと現れた雪玉を見て「コケッ!?」と飛び上がった。
「どこから出してるのその雪玉! ずるいわずるいわ!
 ジャッジのおっきなぴよちゃん! ああいうのはイエローカードよね!」
「カード出しても直るわけじゃないけどそうですね! ずるいぞずるいぞ!」
 ぴっぴー! ぴよぴっぴー! と猛抗議するブラウとトリーネ。だがしかし、そんなことで雪だるまたちは止まらない。
 ひゅんひゅんと飛び交う雪玉を転がって避けるトリーネは擬態しなければと一旦退き、荒ぶった心を鎮めた。
(静かに。私は雪。そう、白くてふわふわの雪になりきるのよ)
 私は雪、私は雪……そう念じる傍らで、アーリアもそっと移動する。
(おねーさん、当てることは得意でも避けるのは苦手なのよねぇ)
 ならば当てられない死角から投げれば良い、と彼女は雪だるまたちの背後へ。流石の雪だるまも前を向いたまま後ろへ投げるなんて芸当、できるわけがない。
 これを人は『フラg(以下略)。
 そっと近づき、近づき──そして投げる!
 見事命中した姿にポテトがおぉ、と歓声をあげる。アーリアはどうよ! と言わんばかりに笑みを浮かべた。
「ふふん、命中100オーバーの雪玉を受けてみなさぺひゃあ!!」
 顔面が冷たい痛い。手で払いのけるとすぐさま次の雪玉が飛んできて、思わずアーリアは雪の上にひっくり返る。
「大丈夫ですか!? 私が囮になりますので、今のうちに!」
 すぐさまノースポールが飛んできて雪だるまたちを撹乱し、それ以上の被害はなかったが。
「う、後ろにも飛ばせるなんて反則よぉ!」
 悔しげな声が冬の空に響き渡った。

「ワモンさま! どんどこ撃っちゃいましょー!」
「おう、任せとけ! オイラのガトリングにふかのーはねー!」
 雪玉をたんまり詰め、一斉放射したワモン。威力を上げようとアザラシパワーを雪玉へ込める。
「行くぜ! 海豹牙斗燐具武放猛怒!!」
 『アザラシガトリングぶっ放すモード』で雪だるまを次々と壊していくワモン。それを見て零はあんぐりと口を開けた。
「……やばそうだなって思ってたけどやばいな」
「雪合戦の鬼だな……」
 零の言葉にポテトが頷く。アニーの補給があるとはいえ、ああも連続放射されてはひとたまりもないだろう。実際、どんどん雪だるまが壊されている気がする。
「ワモンさん、ナイスです〜!」
 ノースポールはワモンの雪玉へ巻き込まれないように旋回して別の場所へ。誰もいないことに気づいた彼女は物陰で人型に戻ると雪玉を作って戻ってきた。声で気合いを入れながら、雪だるまへと投げつけるが──。
「……うーん、1発で仕留めるのは難しいですね」
 どうしてだろう、と首をひねるノースポール。これはまだまだ筋トレが足りないということだろうか。
「でも負けられませんよ! てやぁっ!」

 ワモンの補給をしながら自らも投げて投げて投げまくり、遠くまで雪玉を飛ばしていたアニーは手元にもふりとした感触を受けた。
「もふ……? ってブラウさま!?」
「ぴぃ、投げないでくださぁい……」
 何とも情けない声を出すブラウを慌てて離す。危ない危ない、あわやあの雪だるまたちへ放り投げてしまうところだった。
(腕を振り回す遠心力以外で、もっと簡単に遠くへ飛ばす方法……)
 雪玉投擲を再開しながら考えていたアニーは、落ちていた木の棒を見て「あ!」と声を上げる。パチンコにすればもっと楽に飛ばせるはずだ。
「これで……よし!
 さぁくらいなさーい! 私の雪玉乱れ撃ちー!」
 ひゅんひゅんと飛ぶ雪玉たち。その下をトリーネが勢いよく転がっていく。このまま突進すれば雪玉判定されるのではないか。そんな疑問を解消すべく、いざ。
「こけー!」
 雪だるまは見事崩れ去り……トリーネはその下に埋もれる。
(……冷たいし目が回る。これは禁じ手ね)
 禁じられた鶏ってかっこいい。でもさむい。誰か早く出して!
 何やかんや騒ぎつつも、イレギュラーズたちは雪だるまを着実に倒していた。
(これは……負ける要素が無いな……)
 頼もしい仲間たちにリゲルが思わず気を抜き──戦場ではそれが命取りとなる。
 雪玉集中砲火をくらい雪像と化すリゲル。そう、彼はその身を張って『油断大敵』を仲間たちへと伝えたのだった。
 さて、背面からの強襲は一方通行でなかったため、アーリアは正面へと戻ってきたのだが。
(寒いしふわふわするしでもうだめかもしれないわぁ……)
 体の芯は温まっていても末端は冷えてくるし、動いたから酔いがすっかり回るし。どこからか聞こえてくる応援の声に思わずアーリアの足は動き、ふらふらと寄せられていく。
「がーんばれ! アーリアさ、むきゅっ!」
 白い雪の中に黄色い雪玉がある、と手を伸ばしたアーリア。変な音がしたがその正体を考えられるほど彼女の頭は正気を保っていなかった。
(珍しい黄色い雪玉……きっとすごい強い雪玉ね! よぉしいくわよぉ)
 何やら雪玉がぴぃぴぃ叫んでいる気がするが気のせいだろう。さあ雪玉振りかぶって──。
「そぉい!!!」
 酔いと勢いに任せてぶん投げられた黄色の雪玉。気づいたノースポールが「アーリアさん!?」と目を丸くする。

「ぴいいぃぃぃぃよぉぉぉぉおおおお!!!」

 ブレなく真っ直ぐに飛ばされた黄色い雪玉、もといブラウは悲鳴をあげながら雪だるまの群れへ突撃したのだった。
 ──まあ、何はともあれ。雪だるまは凄い勢いで崩れていったのである。


●最後は子どもと一緒に
「こうして私達は新たな正義の1ページを刻むのであった。こけ!」
 一件落着! というようにトリーネが片翼をばさりとあげる。そしてふるり、と体を震わせると羽毛についていた雪がはらはらはらと落ちていった。
 その後ろではアーリアが肩越しにブラウへ謝っていた。
「あの、その……ごめんなさいねぇブラウくん、帰ったら好きなご飯奢るわぁ!!」
「居酒屋は嫌ですよぉぉぉ」
 投げられないようにか、彼女の背中へひしっとしがみついたブラウ。ひよこの言葉に勿論よと頷きながらアーリアは居酒屋ではない店を頭の中でリストアップ。ぱっと思い浮かぶのが居酒屋ばかりなのは致し方ない。
 ポテトが怪我人はいないかと問うが、幸いにして怪我をしたという言葉は出ない。代わりに──。
「いっぱい動いたら温かくなりましたね♪」
 ノースポールはお疲れ様でした、と言いながら手で仰いで風を送る。空気は冷たく澄んでいるのに、体は暑いと言っても良いくらいに温かい。思っているよりたくさん動いたらしい。
 雪原をみわたせば、そこにあるのは雪ばかり。たまにこんもり盛り上がっているのは雪だるまの残骸であるが、それらは特に動きだす様子もない。
「これで子供達も楽しく遊べるわねぇ、うんうん」
 すっかり雪だるまのいなくなった雪原を見てアーリアが満足そうに頷く。その背中で「これで依頼達成ですね!」とブラウが言うと、トリーネがぴしりとその体を固まらせた。
「……え? 遊ぶまでが依頼じゃなかったの? 違う?」
「トリーネさま、依頼じゃなくても一緒に遊べば良いんですよ。ね、ぽーちゃん?」
「ええ! 次は子供達と遊びましょう!」
 ね? とアニーとノースポールが微笑む。雪をはたき落したリゲルがそれなら、と一同へ休憩を提案した。
「子どもたちと遊ぶ前に暖かい紅茶とおやつで休憩しようか」
「そうだな。少し一休みして、それから子どもたちを呼びに行こう」
 ポテトの言葉にタイミングよく、誰かのお腹がくぅと鳴る。これだけ激しく動けば、腹が減るのも当然で。
「よし、ブラウ! 早く食べて子どもたちを迎えに行くぜ!」
「ワモンさん、ちゃんと休むのも大事ですよ?」
 行こう行こう、と賑やかになる一同。街へと戻っていく後ろ姿を、ポテトが作った小さな雪だるまが見送っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣

あとがき

 リクエストありがとうございました。とても楽しかったです。皆様にもお楽しみ頂けたら幸いです。
 またのご縁をお待ちしています!

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