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シナリオ詳細

<溺れる魚>深海心情クロスロード

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●削られた半身
「今回は俺の勝ち! ……って事で」
 勝ち逃げは許さねぇ。だって俺たち、高め合ったライバルだろ?
「先に行って、待ってるよ」
 行くにしたって、先に行きすぎだ馬鹿野郎。

--約束、破んなよ。

 箪笥から出された喪服は部屋の隅に投げっぱなし。
 葬儀の知らせも封も切らずに床に転がっている。
 書きかけのレシピはデスクの上で、俺はベッドの上に体育座りしながら壁にもたれてぼんやりしていた。
「あーん」
「お前、相変わらず変な鳴き声してるよな」
 寄ってきたのはアイツが飼ってたチョウチンアンコウのピカ吉だ。パティシエのコンクールに向かう前に、俺へ託してアイツはそのまま帰らぬ人となった。
 交通事故だったらしい。
 完全無欠で何でも器用にこなして、いつも一歩俺の先を歩みながら……それでも俺をライバルだと認めてくれた。
 あの男がそう簡単に死ぬなんて思えない。

--心が、現実に追いつかない。

「あーん?」
「何だよ、心配してくれてんのか?」

 ピカ吉を膝の上に抱きかかえて頭を撫でたその時、カーテンから溢れる朝日が塗りつぶされるように消えた。
 窓の外を見ると、天を悠々と泳ぐ巨体。
 アイツからピカ吉を預かった日も、空には鯨が泳いでいた。
 だから。

「……ッ!?」
 ふと視線を落とした先、タクシーに乗り込んだ人物の背中に心臓が跳ね上がった。見間違う筈もない。
 オーバーサイズのパーカーを緩く着こなした、あの背中は--。

●溺れる魚とアロマの微糖
 異世界に朝を買いに行った。
――ガタン。
 取り出し口から温かい缶コーヒーを取り出して、『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)は白い息を吐く。
 目覚めの一杯をわざわざ常夜の世界で買うというのも皮肉なものだが、24時間いつでも飲み物が買える場所を彼は他に知らない。

 人と魚が共存する《深海シティ》。水もないのに魚が悠々と空を泳ぎ、アクアリウムの中を歩いているような錯覚に陥る不思議な世界。
 その危機を特異運命座標が救ったのは記憶に新しい。こうして自販機の前で覚醒しきらない頭のままぼーっと出来るのも彼らのおかげという訳だ。
「……ん?」
 缶の中身を半ばまで飲み終わった頃、変化は起こった。
 突如まわりが暗くなり――見上げるとそこには、悠々と夜空を泳ぐ鯨の姿。
「あの鯨、前に特異運命座標が来た時も泳いでた奴だよなァ?」
 疑問符混じりなのは、あの時"十年に一度の奇跡"とまで言われていた存在をこうも簡単に二度見る事になったという事だ。
(特異運命座標がこの世界を救ってから、この本の世界はもう十年も経ったっていうのか? いやいや、まさか)
 明滅する信号に誘導され、ゆったりと何処かへ向かう様を見上げる赤斗。
 そんな彼の襟首をグイと強引に引いた男がいた。
 彼はぜぇぜぇと息を切らしながらも熱のこもった瞳のまま、力強く赤斗を睨む。
「おい、アンタ!! 今こっちにタクシーが来なかったか?!」
「言われてみればァ、確かに横切ったような気が――」
「はっきりしてくれよ、こっちは人命がかかってんだ!」
「あーん」
 男の頭上にのっかったチョウチンアンコウと赤斗が顔を見合わせる。

「そんな大切な話なら、頼れる奴らがいるぜェ。特異運命座標ってんだけどな?」

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯!ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 亡くなったはずのライバルを助けられるとしたら……その時、貴方はどうしますか?

※Attention※
 こちらは『<溺れる魚>溺れる魚と深海交差点』に登場した異世界です。読まなくても参加に支障はありませんが、読んでおくと楽しめるかもしれません。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2520

●目的
 交通事故を阻止してパティシエ達の運命を変える。 

●場所<深海シティ>
 夜空に大きな満月がたゆたう、常夜の世界です。
 文明レベルは練達に近く、街並みは私達の過ごす現代に近いです。

 特徴といえば、水もないのに魚たちが街中に生息し、悠々と泳いでいる事。

 十年に一度、鯨が奇跡を運んで回遊しに来る――という噂があるそうです。

●登場人物
 タカヤ
  赤斗に掴みかかっていた新人パティシエ。海色の瞳を持つ青年。
  実力はそれなりにあるのですが、熱血な性格ゆえに、突っ走って空回りしている事もあるようです。
  ライバルのノリキを亡くした喪失感から調理場に立つ事をやめていましたが、亡くしたはずの彼を見かけて助けようと必死です。

 ピカ吉
  ノリキが飼っている飼いアンコウ。「あーん」や「あー」などのゆるーい鳴き声で鳴きます。
  ノリキが事故に合う当日、タカヤに預けられていました。

 ノリキ
  タカヤのライバル。成績優秀で誰に対しても優しい誠実なパティシエで、コンクールに入賞した事をきっかけに海外で修行をする予定でした。
  飛行場へ向かう最中にタクシーで交通事故にあい、帰らぬ人となったはずでしたが……?

『境界案内人』神郷 赤斗(しんごう あかと)
 ひとつの身体を別の境界案内人と共有している謎多き境界案内人です。
 特異運命座標とはビジネスライクに接しながらも、タカヤに薦めた通り、仕事仲間として信頼しているようです。
 基本的に呼ばれなければ活躍しませんが、頼まれればサポートくらいはしてくれるかもしれません。

●ノリキの事故について
 深海シティの住宅街から飛行場を繋ぐどこかのルートをタクシーで通行中、
 目の前を運行していたトラックの積み荷が崩れて建築用の木材が落下。足をとられたタクシーが身動きを取れなくなっている間に、後続車の追突で亡くなったそうです。

●その他
 事故を阻止するには以下の点が重要です。
・住宅街から飛行場へのどのルートを通行しているのか探す
・事故をどうやって阻止するか

 また、依頼人のタカヤは突っ走りやすい性格です。無茶をしないように何かしら考えておくといいかもしれません。

 それでは、よき深海の旅を!

  • <溺れる魚>深海心情クロスロード完了
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年02月16日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ

●ゴースト・チェイサー
「なるほど、時間との勝負というわけでござるな! かしこまったでござる!」
『跳躍する星』糸巻 パティリア(p3p007389) は夜の街を駆け抜けながら、錠剤を口の中に含んだ。肩の上で速度に耐えようと必死にしがみついている『聖剣使い』ハロルド(p3p004465) のファミリア―を片手で支えてやり、もう片方の手を空へと伸ばす。
「然らばお先に!」
 混沌による恩寵、ギフト。『海星綱』の名を冠した力で、彼女はヒトデの管足を手から射出し、鉤縄を屋上の手すりに引っかけた。立体軌道の動きをもってビルの間を自由に飛び回るその姿は、噛みしめた強化薬の力も得て、まさに疾風の如くといった様子だ。
「快速でカッ跳んでいくでござるよ! ……っ、と!?」
 あまりの勢いに想定していたコースからとび出しかけるものの、そこは背中の水蜘蛛ガジェット『ナミハ』が引っ張り戻してくれた。最短ルートを探しながら、目的地へとひた走る。

「すごい! あっという間に米粒みたいになりましたね」
『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371) は、馬上からパティリアを見上げてぽつりと呟いた。彼女が空から探すなら、こちらは地上だ。
「さあ、Step on it!! 行くよ、ラニオン!」
 鞭をしならせ愛馬に合図を送り、ウィズィも追跡を開始する。周りを泳いでいた魚達が逃げるように道をあけていった。
「すみません、通りまーす!」
 少し前、彼女はこの街を訪れた事がある。静かな夜の街中を魚達が泳ぐ深海シティ。景観が以前と変わらぬ故に、前回のそこそこほのぼのした依頼から穏やかではない内容へと変わったのは、何とも複雑な気持ちである。
 見上げた空には星が瞬き、銀の月が浮かんでいる。噂の"鯨"の気配はない。
 疑惑の種は気になるが、影で暗くならないおかげで、ラニオンも遠慮なく走れるようだ。
(ノリキさん周辺の時間だけが巻き戻ってるのか、タカヤさんの記憶以外の全世界の時間が巻き戻ってる状況なのか? 後者だったら事故が“起こった”場所の手がかりを持っているのはタカヤさんだけになりますね)
 愛馬の頭の上に座る鳥のファミリアへ、ウィズィは思考しながら声をかける。
『事故の状況がトラックの積荷が落ちた、停車していたら後ろから追突された……という点から、事故現場は見通しの悪いカーブか何かかなと推理します。そういった地形がないかご確認を!』
「――だそうだ。頼めるか?」
「あーん」
「ピカ吉さん、ありがとうございます」
「探すの俺なんスけど」
 2人を捜索隊として先に向かわせ、『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は車を運転しながら情報を取りまとめていた。後部座席には『言祝ぎの祭具』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)とタカヤ。
 タカヤはムッとしながら端末で調べ物を手伝っているが、今の所は従順だ。

(出だしが上手くいかなければ、この状況もどうなっていたか分からんな)

「ノリキに電話をかける?」
「繋がれば大きな手掛かりになるだろう」
 死者に連絡を取れという提案に、タカヤは怪訝な顔をした。ハロルドに言われるまま試してみると、3回ほどのコールの後に繋がる通話。
「もしもし。どうしたの? もしかしてピカ吉が迷惑かけちゃった?」
「ピカ吉さんは私の腕の中でお利巧にしてますよ」
 話題に乗って睦月 が言葉を返すと、電話越しのノリキの声が驚きを帯びる。
「この間交差点で会ったお兄さんかな?」
「僕は冬宮の者です。タカヤさんと意気投合して、貴方を空港へ見送りに行きたいという事になりました」
 ウィズィと睦月の視線が絡む。事故で死んだ筈の人物は、以前この世界で会った事のある青年だ。
「何だか気恥ずかしいな。俺が向かってるのは海の――」
 そこでノリキの言葉にゴウッと強風のような音が被さり、通話が途切れる。
「ノリキ、おい!」
「落ち着け、恐らく事故とは別の要因だ。このあたりの地図はあるか?」
 端末に映し出された地理を元にハロルドは話を続ける。目的地となる空港は候補が幾つもある上に、街を巡る道は多い。ノリキの自宅の場所を確認し、これだと彼は指示した。
「通話が終わる直前の音。あれは恐らくトンネルに入る瞬間の物だ」
 ノリキ宅からトンネルを通って向かえる空港は2つある。どちらか一つに先回りして様子が見えれば、更にルートを絞れるかもしれない。
「なるほど、時間との勝負というわけでござるな!」
 そうして冒頭のような状況になったのである。

 落ち着かないタカヤを睦月と共に説得し、車に乗り込んだハロルドだったが、まるで納得出来ない未来をやり直すような此度の事件に何も思わぬ訳ではない。

(もしリーゼロットが生きていればと何度も思った。俺にもっと力があればと後悔を重ねた。
 だがそれも過去の話。今の俺にあるのは、己の信念に従って生きるという決意のみ)
 ハンドルを握る手に力が籠る。――と、何処からかハロルドに"声"が届く。
『本当にそれだけ?』
 ミラー越しに後部座席を見ても、タカヤと睦月は話し込んでおり、こちらに声をかけた形跡はない。念話の類か、とハロルドは目を細める。
(俺は二度と彼女に会えない。俺の世界とこの世界は違う。それだけの話だ。故に何も思うことはないし、何も言うことはない)
 黙って依頼を遂行するだけだ。
 固い意志を告げると、”声"の気配は遠のいた。

「それにしても、ピカ吉のヤツすげー懐いてますね。睦月さんに」
「タカヤさんには、こうして寄って来ないのですか?」
 他愛のない話をして、タカヤは心を落ち着かせようと努めていた。それを察して睦月もまた、穏やかに返事をかえす。ふと視線を落とすと、抱えているチョウチンアンコウが、構ってとばかりに提灯を揺らした。
「ピカ吉さん、以前もお目にかかりましたね。お元気でなによりです」
 微笑む睦月に、ピカ吉は一層ご機嫌な様子で「あーん!」とひと鳴き。
「冬宮。少し聞きたい事が――」
『こちらパティリア! 任された空港の見える場所まで移動したでござる!』
 不審な声について意見を求めようとしたハロルドだったが、ファミリア越しに耳に入った声を無視はできない。早かったなと彼女を労い、状況を確かめる。
『空港付近に建築現場があるのでござるが、どうやら暫く工事が中止になっている様子!』
 事故の発端になったトラックは、木材を荷台に積んでいた。付近で目立った工事もないような場所に向かう筈がない。とすれば――。
「ラァム、聞こえていたか?」
『つまり私の向かってる方が"アタリ"って事ですよね。ラニオンごめん、もうちょっとだけスピード上げて!』
 馬の嘶きをファミリア越しに聞き、ハロルドもアクセルを踏み込む。

●惨劇を止めに
 潮風吹きすさぶ海辺の建物の上、パティリアはオペラグラスを片手にハロルド達への報告を終える。幸いな事にウィズィ達が向かっている方の空港は、ここからそう遠くない。
 常人であれば、彼女の姿がフッと唐突に消えたように見えるだろう――それほどまでの機動力をもって、忍は月明かりの下を飛んだ。やがて田舎道に通るハイウェイを走る、駿馬と美少女の姿が視界に入る。
「ウィズィ殿!」
「はやっ!?」
 驚くウィズィだったが、すぐに何かを伝えるように指先を前へと向ける。
 今しがた彼女が見つけたタクシー。その手前には木材を乗せた大型トラックが走っていて――。
「Stop! 止まってくださーい!」
 ノリキの死因が追突事故であると思い出したウィズィは、後続車の前に割り込み入り込み、少しずつ減速して車間距離を開けはじめた。視界の悪い夜の高速道路ではあったが、目を引く馬と美少女の組み合わせが功を奏したようだ。しかし、成功しても彼女の顔は曇るまま。
(私達が介入して未来を変える事で、別の影響が出るかもしれません……)
 その予感は悪い方向で的中する事となる。
「ノリキ!!」
「タカヤさん、今は抑えてください!」
 追いついたハロルドの車の中で、タカヤが見たものは――トラックの積荷が崩れ、今まさにタクシーへ降りかからんとする状況だった。
 無策に飛び出そうとするタカヤの手を握り、睦月が抑える。
「僕たちを信じてください。必ずうまく行きます。僕たちには運命を書き換える力があるのですから」

 絶体絶命の状況。それでも諦める者はいない。他の特異運命座標に遅れを取ると分かっていても、パティリアもまた諦めず、現場へ齧りつこうと追って来たのだ。

 まだ事件は終わっていない。まだ自分に出来る事があるかもしれない!

「止・ま・る・で・ござるよぉぉおおおッ!」
 トラックの荷台に降り立ち、無数の『海星綱』が放たれ――タクシーにぶつかりそうな荷物を、自分の方へと引っ張り寄せる!

 キキィイイッ!!

 生み出された一瞬のチャンスに、けたたましく響く急ブレーキの音。
 タクシーは何度かスピンした後に、ガードレールにぶつかって停止した。

「なんとか……間に合ったでござるな」
「お疲れ様です、パティリアさん」
 通路に落ちた積荷から管足を離す彼女に、睦月は労いの声をかけた。状況はと聞かれれば、現場近くに停まったハロルドの車を視線で示す。タクシーから出て来たノリキを、タカヤが泣きながら抱きしめている所だった。

「お疲れ様、特異運命座標。いい手際だったね!」
 迎えの境界案内人が神出鬼没に現れると、ウィズィは違和感を感じて首を傾げた。彼らが突然迎えに来るのはよくある話ではあるが――。
「どうした、ラァム」
「ハロルドさんは何も感じませんか?」
 問われれば真っ先に謎の"声"が脳裏をよぎったが、強い意志を見せて以降、声の主が干渉して来る様子もない。
「気になる事はあるが、いずれ明かされるだろう。こうして未来が変わったんだからな」
 辺りが唐突に暗くなる。見上げた空を、巨大な鯨が泳いでいた。

成否

成功

状態異常

なし

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