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シナリオ詳細

<Despair Blue>こどくひめのいたしま

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●滅びた伝説
 むかしむかしあるところに、こどくひめという恐ろしい存在がありました。
 こどくひめは島々を巡っては人々の心を支配して、彼らの全てを、命や尊厳でさえも捧げる奴隷にしてしまいました。
 そうやっていくつもの島をからっぽにしたこどくひめは、しかし、ある時からぽっかりと姿を消してしまいました。
 こどくひめはどこへ行ってしまったのでしょうか。

●こどくひめのいた島
「……その島が、伝説にある島だと言うのですか?」
 おっとりとした、それでいて紳士的な、まるで洗練されたバイオリンのような声で語る男。エドワード・クラーク。
 海洋王国に名高きクラーク一族の長男であり、各国への貿易をはじめ対海賊海洋浄化プログラムなど様々な功績を残す優秀な商人である。
 名門商家クラークの長兄ということもあり出生時からその将来を期待され、彼を支持する貴族や軍人も少なくない。
 そんなネットワークを通じて舞い込んだのが、『絶望の青』へむけた橋頭堡確保計画のひとつ。
 名は。

 ――『こどくひめプロトコル』。

●ごくふつうのなんのきけんもないあんぜんな遺跡探索依頼
「デイジー。あなたにB338無名島で発見した遺跡探索を命じます。
 拒否は認めないわよ。今回はクラーク家の兄弟が皆あらゆる手を尽くして大号令に応じているのだから。勲章をもらったあなたが最前線に参加しない道理はないわよね」
 ややトゲのある言い方をしながら資料をテーブルに滑らせてくる美女。
 彼女はパール・クラーク。クラーク家長女でありエドワードの翌年に産まれた女である。
 たぐいまれなる商才をもち莫大な富を築くが一方で浪費家であるため経済を一人でかき混ぜることで有名な、海洋の名物商人でもある。
「………………」
 一方で。
 ボールをふーふーして浮かせるパイプを加えてふーふー遊びをして天井のしみをかぞえているデイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)。彼女はクラーク家の末娘である。
「いやじゃといったら?」
「…………」
 圧力をくわえこそしたが、クラーク家の兄弟はこう見えて互いを強く牽制し合っているというのは業界の裏常識である。
 強制力を働かせることはできない。というより、できるような隙をお互い作っていないのだ。
 だが、そんな中で例外的な人物がいた。
「もう、そんな言い方したら姉さんがかわいそうよ」
 ほわほわとした綿飴のような雰囲気をまとった美女、マリー・クラーク。パールとは年の離れた次女である。
 彼女が現れるとなぜだか雰囲気がほんわかとしてしまい、普段辛辣なパールでさえ『も、もう』なんて言いながら頬を染めてそっぽをむくほどである。
「デイジーちゃん。私も一緒に行くから、お仕事しましょ?」
「む……」
 マリーは人外魔境跳梁跋扈のクラーク家において唯一さしたる力をもたず、誰の脅威にもならない代わりに誰もを愛するという天使のような性格をしていた。
 さしものデイジーとて、これをつっぱねるのは難しい。
 返答に困っている間に、マリーはぱちんと手を合わせてニッコリと割った。
「はい、きまりっ。うふふ。楽しみだわぁ。一緒に旅行なんて久しぶりよね、デイジー」
 そういって、デイジーをぎゅっと抱きしめた。

 依頼内容はこうである。
 絶望の青攻略に向けて確保する橋頭堡のひとつとして、ある島(仮称B338無名島)に上陸し危険がないかを確認。
 確認が済んだら王国が中継基地を作りやすいように下準備を整えること。とある。
 まあ下準備といっても、テントをいっぱい置くのに適した場所を見つけておいたり船をとめるための場所をきめておいたりと、簡単にできる作業ばかりなのだが。
「ねえ、デイジー。姉さんたちはああ言っていたけど、私こんなものを見つけちゃったの」
 島へ向かう途中、マリーはそっとある資料を差し出してきた。
 『こどくひめプロトコル』という資料である。
 いわく。
 この島には古代の街があったであろう石灰岩でできた遺跡があり、その中には奇怪なモンスターがうようよと生息しているらしい。
「ふん。『危険がないことを確認』などと言いおって、結局危険な場所に送りつけたいだけじゃの。
 ま、安心するがよい! 妾にかかれば怪物だろうが豚だろうがちょちょいのちょいじゃ!」

 こうして。
 いわくつきの島への上陸と遺跡探索が始まった。
 彼らの未来や、いかに。

GMコメント

■概要
 島におりたち、遺跡の探索を行います。
 遺跡は地下に広がる古代の街のようなところで、どうやら明かりもちゃんとあるようです。
 島まではデイジーの親戚であるマリーがついてきてくれますが、身体がよわいので船でお留守番をするようです。

※注意!
 このシナリオでは以下のトラブルが起きます。
 メタ寄りになりますが、相談とプレイングで対策しましょう。


●トラブル1:モンスターとの遭遇
 島の遺跡には狂王種(ブルータイラント)が住み着いており、遺跡に侵入してきた者を見つけ出して抹殺します。
 これらに個体名はありませんが、仮に『クレイオ』とします。
 クレイオは遺跡の住民であるかのように内部を巡回したり立ち止まったりしています。
 意思疎通能力はないと思われていますが、謎の電波めいたもので仲間を呼び寄せることが可能であるという報告がありました。

・クレイオ
 真っ黒なクリオネめいた形状をしており、羽根部分をぱたぱたとしながらわずかに浮遊している。
 個体数は多く、体長は1~2m程度でばらつきがある。
 頭から伸びた二本のつのめいた部位を伸ばしてムチのように叩きつけたり締め付けて拘束したり、吹き出した溶解液で攻撃したりといった手段をとる。
 個体ごとの戦闘力はさほど高くないが大量に集まるときわめてマズイ状況になるので、遺跡の中をこっそり進みながら見つけ次第倒すのがベスト。

●トラブル2:遺跡探索
 事前に用意された地図はでたらめなものでした。
 ですので遺跡を隅々まで探索し直して、マップを完成させなければなりません。
 チーム全員で一塊になって動くと(安全だけど)ものすごく時間がかかりますので、3~4人くらいのチームに分かれてあたるのがいいでしょう。
 遺跡は地下に存在し、街のような形状をしています。迷路のようにはりめぐらされた壁と無数の家々。その他店や集会場など色々なスペースが混在しています。
 ぱっとみ菱形をしているので『東西南北』でチームを分けるのがベターかもしれません。
 遺跡内の壁は石灰岩や珊瑚のようなものでできているらしいのですが、透視や物質透過がビミョーに通りづらく、探索系のスキルやファミリアーの接続もあんまり遠くまで届かないようです。理由は謎です。

●トラブル3:???????????
 未知のトラブルが発生します。
 どういうトラブルが発生するのか予測してメタ的に対応してもいいですし、『大体こんなパターンだろう』と大雑把に対応してもいいでしょう。
 なお。
 答えはもう出てるようなもんだったりします。
 関連しそうな資料を見つけ出したり、推理を巡らせたり……ちょっとした謎解きをお楽しみください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <Despair Blue>こどくひめのいたしま完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ

●こどくひめのいたしま
「こどくひめ……か。なんだか悲しいお話だね。元々はただ寂しかっただけなのかなって」
 『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は船の手すりから身を乗り出して、近づく島を眺めていた。
 額に手をかざして日よけにしてみると、白い菱形の建造物が見えてくる。
 あれが噂に聞く古代遺跡というやつだろう。大部分は地下に広がっているらしいので、あれはほんの一部ということになるが……。
「でも、もういなくなっちゃったなら今回は関係なさそうかな」
 どう思う? と振り返る焔。
 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は船の操縦をしながら鼻歌をうたっていた。
「そう、今回はただの遺跡探索! 楽しみだな!
 いかにも冒険って感じだ。たとえソレが罠に満ちていようとも、奥には何かがあるもの。宝探しだな」
「仕事としては、遺跡の探索と拠点になりそうな所の確保。
 危険はないとは言えませんが、まだマシな方という所でしょうか」
 『嫣然の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)は依頼書とは別に用意された『こどくひめプロトコル』という資料をぱらぱらとめくっていた。
 この仕事自体がデイジーを陥れるための罠なのかもしれないが、記載されている情報を見る限り困難というほどではない。
 ゼファー(p3p007625)が髪をかき上げ、横から資料をのぞき込む。
「遺跡だなんだ、って言ってもとっくの昔に滅んじゃった奴なんでしょ?
 だったらもう大して危険なんて無さそうですし……楽な仕事になりそうで助かっちゃうな?」
「そうとも、言えますね」
 資料を閉じ、まぶたも閉じる弥恵。
 ゼファーはうんうんと頷いてから、しかし胸のざわつきを感じて手を当てた。
 とても、嫌な予感がする。
 何か重大なことを見落としているような。もしくは、予期したのに手を打たなかったかの、ような。言葉にならぬ不安である。

 一方こちらは『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)たちの船。
「……聞いてた話とずいぶん違うね。
 とりあえず変なクリオネを遺跡から排斥して、地図を全部埋まっぷる状態にすればいいんだね。
 あと金目のものあればもらっちゃおうか」
「あら、悪いコね」
 横で海風にあたっていたマリー・クラークがくすくすと笑った。
 不思議なもので、声をかけられるだけでぽっと心が温かくなる。
 セリアは苦笑して返した。
「もらっちゃうのは冗談だけど……イレギュラーズは百戦錬磨のギルドだからね。任せておけば大丈夫だよ」
「あらあら。頼もしいわ。さすがデイジーのお友達ね」
 楽しそうにデッキで会話する彼女たちを遠巻きに眺めながら、『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はげんなりとしていた。
「デイジーさんなんで僕のこと拉致したんです? いやマジで」
「お主も妾と同じく『特勲持ち』じゃろうに」
「それならいいですけど……わざわざ引っ張ってくるような仕事ですかね?」
「…………」
 『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はフーフーパイプを加えてボールをふーふーしはじめた。
「え、大丈夫ですよね? クラーク家の陰謀に巻き込まれてないですよねこれ?」
「ふーふー」
「なんか言ってくださいよ!! フーフーしてないで!」
 腕をぶんぶんするベーク(今日は人間形態)。
 デイジーは茶化した風をよそおっているが、しかし内心では胸をひどくざわつかせていた。
 パールたちの要求を蹴らなかったのはマリーの存在あってのこと……という所までは真である。しかし全員が全員を蹴落とそうと狙ってるクラーク家において唯一その臭いをさせない彼女を、デイジーは密かに怪しんでいた。今回の仕事でその尻尾をつかめるかもしれない、と。
「それに妾が行かなかったらお主らだけが問題に放り込まれることになるし、の」
「なんです?」
「いや」
 なんでもない、と手を振るデイジー。
 ベークはそうですかーと暢気にこたえながら、鼻をスンと鳴らした。
 なぜだろう。海に出てからずっと、嫌な臭いがする。
 たとえるならベークが『廃滅病』の呪いをスタンプされたあの時に感じた臭いに、よく似ていた。とはいえ魔種が現れるという様子もない。絶望の青という非常識な海域がこんな臭いをさせているのだとして、ベークはそれを主張しなかった。
 この段階で述べておいたら何か変わったのだろうか。わからないが……少なくとも、『それを知っている』ベークがメンバーにいなかったなら、最悪の事態に陥っていたかもしれない。
 いかに最悪であるかは、後に示すことにしよう。
「はぁ、もう。どうせ安全ではないんでしょうけど、せめて無事で終わってくれればいいんですけどね……」

●クレイオ遺跡:Wサイド
「見ろ、あのモンスターども、いっちょまえに家に住んでおる」
 物陰からのぞき込むデイジーたち。
 クレイオは道中にちょこちょこ存在し、それを奇襲からの集中攻撃で念入りに殺していった。
 そうした探索を続けていくと、沢山の小部屋が並ぶエリアを発見するに至った。
「どうする。一人ずつ誘い出して殺すか?」
 『俺はそういうの得意だが』と翼を広げてみせるカイト。
 対してゼファーが首をかしげた。
「誘い出した時点で仲間にバレちゃうわよね。ここで息を潜めて一人ずつどっかに行くのを待つって手もあるけど……」
「いや、大丈夫じゃないですかね。ゼファーさんやカイトさんも防御役として大分優秀ですからね、何かあったらスイッチすることにしましょう」
 ベークはそう言うと、魔術帯をぐるぐると拳に巻いて固めていった。
「決まりじゃな。ではいちにのさんで――」
 デイジーは身構え、ゼファーにアイコンタクトを送った。
 パチンとウィンクし、突撃の姿勢をとるゼファー。
 道ばたに立ち止まって触手を互いにうにょうにょさせあっていた3体ほどのクレイオめがけてデイジーが『蝕む赤き月』を砲撃。
 と同時に飛び出したゼファーがクレイオのボディを槍で貫き、重心をうつしてから鉄棒の要領で周囲のクレイオたちを蹴り飛ばしていった。
「こうやって前に出れば……」
 触手をビリビリと震わせ、周囲からクレイオたちが飛び出してくる。
 あちこちの小部屋でくつろいでいたとおぼしきクレイオまでも飛び出し、ゼファーへと群がっていく。
 が、それを防御するのはベークの仕事だった。
 一拍遅れて飛び出したベークがゼファーをかばって割り込み、素早く身を転じてクレイオの顔面を殴り飛ばした。
「新技、イイ感じですね」
「ああっ、立ち位置もな!」
 ボッという空気を穿つ音がして、カイトの『炎狩』が通り過ぎていく。
 カイトのおこした炎の渦がクレイオたちを複数まとめて焼き焦がしていく。
「ベークよ。お主を連れてきた真の理由を教えてやろう」
 デイジーは『誘う青き月』の魔術を構えると、『ベークめがけて』ぶちまけた。
「おぬしは頑丈な上にBSがほぼ効かぬ。妾の囮として相性抜群なのじゃ!」
「うわあやっぱりそういうデコイ的なアレだったんじゃないですかー!」
 言いつつ、味方との連携ということもあってうまいこと魔術をいなし、降りかかる異常状態をも振り切って周囲のクレイオだけに災厄を振りまいていく。
 もちろん無事なのはベークだけでなく、彼にかばわれたゼファーも含まれる。
 『優秀な囮』は一軍を滅殺しうる高い戦術的価値をもつのだ。
 敵を引きつける役、防御する役、まとめて焼く係。彼らは全部揃った抜群のチームワークを見せつけた。ない物といえばせいぜいチームの回復手段くらいなものである。

●クレイオ遺跡:Eサイド
 一方こちらはマルベート。
「近づいてくる。足音じゃあ、ないよね」
「もちろん」
 セリアは小声で語りながら、マルベートにアドバイスを加えていた。
「浮遊する物体にだって移動音はあるものだよ。音を殺して移動するには、特別な技術(スキル)が必要になるでしょ」
「いかに静粛な技術であってもその法則からは逃れられない。混沌証明さまさまだね」
 マルベートはちらりと弥恵のほうを見た。
 弥恵も弥恵でエコーロケーションを駆使して周囲の地形を把握。マッピングしながら仲間に移動すべき方向を指示していた。
「こちらから大きな音を出せればもっと活用できたんですが……それは戦闘時にとっておきましょうね」
「そうそう。わざわざ敵に居場所を教える必要もないもんね」
 焔はそう言って壁をなぞるように手で触れた。
「そちらはどうですか、焔さん」
「うーん……精霊がね、いないんだよね」
「『いない』……とは?」
「そのまんまの意味、かな」
 焔は表情を険しくして話を続けた。
「どこにだって下位くらいはいるものだよ。そういうのと会話したり作業を頼んだりするのは、タンポポに道案内を頼むくらいムリがあるから、相当高位の精霊がいないとそういうマネはできないんだけど」
 話の途中で、マルベートが『ほう』とつぶやいた。
「下位精霊すら、いないと?」
「うん。こんなの、もしかしたら初めてかも。自然な山や川辺に、雑草やコケの一本もはえてない状態って言ったらいいのかな」
「まるで意図的に『滅菌』されたみたいだね」
 セリアがかなりピンとくることを言ったので、焔は手を叩くかわりにビッと指を立てた。
「ここのクレイオがその役割を果たしてるのかな? とにかく、そういうのは遺跡のマップを埋めてからだよね」
 彼女たちは広場をうろつくクレイオを見つけ、小声でせーのとタイミングを合わせた。
 攻撃は一斉。
 セリアのファントムチェイサーがたたき込まれると同時に飛び込んだ焔とマルベートの槍突撃。
 二方向から同時に貫かれたクレイオめがけ、アクロバティックな舞を踊るように急接近した弥恵の蹴りがたたき込まれる。
 ここまでの連係プレイをうけて生きていられるほど、クレイオは頑丈ではないらしい。
 パンッと水風船のようにはじけて海水めいたものを散らした。

 彼女たちのマッピングはつつがなく進んだ。
 時には敵に気づかれることもあったが、小さいクレイオやどこかしおれた様子のクレイオは戦闘を放棄して撤退することもあり、途中から戦闘頻度がぐっと低減した。
 特に役立ったのは弥恵のエコーロケーションで、マップを隅々まで目視確認しなくても端っこや行き止まりのチェックを埋めることができ、探索効率はかなりのものだった。
 五感の鋭いマルベートや暗視のきくセリアの助けもあって、彼女たちのマッピングはおおむね完了。
 その中でマルベートは、自分たちが入ってきた進入口とは異なる『別の出口』を発見。
「どうにも陰謀くさいし、もしもの時の逃げ道としてこの場所を覚えておこう」
 マルベートのアドバイス通りセリアは手元のマップに経路込みで印をつけておいた。
 この『もしものため』が、後にあのように影響する、など……。

●『流氷のマリア』
 クラーク家の家族は、みんな素敵で、優れていて、私の大切で、憧れの象徴
 それは、兄も姉も弟も妹もみんなみんな素敵で、とても憧れていて、ちょっぴり羨ましいと思っていました
 だから、彼女は、兄に姉に弟に妹に接するとき、貴方達はどれほど素晴らしく、優秀で、素敵かをいつも語りかけていました
 その声は、狂気となって、兄弟姉妹を蝕みました
 彼ら、彼女らは『優れた自分より認められた者がいていいわけはない』という嫉妬の狂気に飲まれました
 時に家族を疎ましく思ったとしても、『殺したいほど』思ってはいなかった彼ら彼女らを『殺してしまう』ほどの狂気に駆り立てました

 ああ、私の大好きな愛する家族
 素敵な、素敵な、素敵な、貴方達が、私はちょっぴり、羨ましい
 ねえ、そう思わない?
 私の大切な、一番素敵な宝物

「デイジー」

●最大のトラブル
「まるで『来い』と『行くな』を同時に囁かれるような、胸のざわめきが止まらぬのじゃ」
 そう語ったのは、遺跡探索を終えて合流地点へもどってきたデイジーだった。
 マルベートたちと合流し、互いの地図をそれぞれ埋めたことを報告しあい、書き写すのは船でいいだろうとそれぞれの持っていることにした。
「抽象的ですね。けど陰謀くささは僕も感じてます。何かあったら身を挺してでも守りますよ、デイジーさん!」
 頼もしくもそう語るベーク。
 彼らは遺跡内部の探索を終え、今度は島外周の探索を始めるところだった。
「まずは一度船に戻りませんか。僕たちもだいぶ消耗したし」

「その必要は、ないわ」

 声と同時に、空気がパキパキと凍り付くような音がした。
 と同時に、ベークにあの臭いがもどってくる。
 まずい。と本能が……いや、もしかしたら彼に刻まれた呪いの跡が、痛いほど警鐘を鳴らす。
 もう気のせいなんかじゃ片付けられない。今この瞬間、伝えねばならない。
「皆さん構えて! 魔種です!!」
 叫んだと同時に空間を青白い光が飲み込んでいった。
 目を見開き、手を伸ばすデイジー。
 彼女の手から、西南側のマップが離れ、空中でジッと音を立てて塵に変わるのを見た。
 塵になったのがデイジーそのものでなかったのは、ベークが彼女を咄嗟に突き飛ばしたからだ。
「あああああ!?」
 ベークの身体の一部が崩壊し、血すら出ない異常な欠落をみせる。
「あぁ、もう。厄介ごとだ……デイジーさん、後ろに」
「て、ちょっとまって。どうするつもりなの。これ!」
 焔は槍を構え、仲間たちへと振り返った。
 同じく槍を構えるが、しかしちょっぴり逃げの姿勢をとるゼファー。
「魔種、って言ったわよね。戦って勝てる相手かしら?」
 ぷるぷると首を振ってから仲間の意見をこうセリア。
「事前情報がないけど……頑張ったらなんとかならない?」
 マルベートとカイトは互いの顔を見て、そして頷き合った。
「半数以上が死亡した上でギリギリ勝利できるか否か、って所じゃないか」
「相手の情報が分かっていれば対策できるから、そこまで被害は出ないモノなんだけどね」
 つまるところ、『逃走』一択だ。
 そして定めるべきは、いかにして逃げるかである。
 マルベートが地図をかざした。
「私の持ってる地図に出口までの経路を示してある。遺跡内部を伝って逃げるならこれが使えるはずだよ」
 一方でカイトが手をかざす。
「あの魔種を突破して船まで戻るのは、アドリブじゃあ無理がある。島の裏に俺の船をとめてあるから、そいつを使って逃げよう」
 重要な選択肢が、生まれた。
 逃走において『遺跡内部を通る』『外部を通る』『いっそ空を飛ぶ』。
 事前に決めていなかったそれらの選択肢に迷っているうち、さらなる砲撃が彼らを襲った。

 咄嗟のことである。チームは分断され、マルベートの先導で遺跡内部を通るセリア、ゼファーのチームが即席で作られた。
 彼女たちと強制的に分断されたカイト、ベーク、デイジー、焔、弥恵はそれぞれ攻撃してくるマリーへ牽制を行いながら足止めを実行。
「舞姫が舞台の上で誰かに踊らされるなんてあってはなりませんしね。
 皆が生きて帰れるように、皆を活かせるように踊らせていただくつもりです!」
 スタミナには自信ありの弥恵である。
 得意の舞うような戦法でもってマリーへと襲いかかる。
「素敵だわ。美しくって、強くって……それも、ちょっぴり妬ましい」
 攻撃をさばきながら反撃をしかけるマリー。
 そこへ焔の火炎弾が浴びせられる。
「皆、船に急いで!」
「勇ましくって、熱くって……それも、妬ましいわ」
 笑顔でおっとりと語るマリー。焔の炎を素手でかき消すと、彼女を掴んで空間ごと凍結、爆発させた。

 途中砲撃を受けてぐったりとしたデイジーを抱えて走るカイト。
「まずい。まずいまずいまずいぞ! 船を『同じ場所に停泊しなかった』のは不幸中の幸いか」
「カイトさん、後ろ!」
 ベークが叫ぶが早いか、青白い光がカイトへと迫る。
「なんの――!!!!」
 見てから。否、触れてから回避ができる。
 カイトは非常識なマニューバで砲撃を回避する。
「ええい、抱えられてなぞいられるか!」
 デイジーはぴょんと飛び降り、背後へ魔術砲撃をしかけながら走った。
「デイジー」
 声が、しみこむ。
 どうしようもないほどに。
「立ち止まるな! 走れ!」
 カイトとベークはそんなデイジーの手を引いて、自分たちの船へと急ぎ……そして、青白い光が彼らを包んでいく。





 この後、マルベートたちの乗った小型船『紅鷹丸』が海上で発見された。
 彼女たちの報告により島へ突入した海洋海軍は衰弱状態にあるカイト、ベーク、デイジー、焔、弥恵の五名を発見。保護。
 B338無名島には、魔種発生につき立ち入り禁止命令がなされた。

成否

失敗

MVP

マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔

状態異常

炎堂 焔(p3p004727)[重傷]
炎の御子
津久見・弥恵(p3p005208)[重傷]
薔薇の舞踏

あとがき

 遺跡探索の結果を半分までしか持ち帰れなかったため、依頼は失敗扱いとなりました。
 この島で『遭遇』した魔種はその後発見されておらず、絶望の青のどこかへ消えたものと思われます。

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