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シナリオ詳細

<Despair Blue>海に住まう長虫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●メイルストロム
 海洋王国にとっての見果てぬ夢、絶望の青の突破と新天地への到達。それは同時に、海洋に住まう船乗り達にとっても大いなる野望であった。絶望の青は、何世代にも渡り彼らを拒んできたのである。それをいち早く乗り越えた者に限りない栄誉が与えられることは最早必定であった。だから、船乗り達は荒れ狂う海の中を進んだ。名誉を諦め離脱する船にも、夢破れて沈んでいく船にも目もくれず、彼らは一身に前へと進み続けた。その身に襲い掛かる不安感には目を瞑って、吹き荒れる嵐も推進力に変えて、黒い海を竜骨で切り裂いたのだ。
 しかし、絶望の青は決して彼らに微笑まない。ほんの一瞬、気の緩む瞬間を今か今かと待ち構えているのだ。荒れ狂う風に対して異様なほどに穏やかだった海が、急にうねり始める。渦潮だ。先行していた船は、バランスを崩して見る見るうちに傾き、あっという間に転覆した。海に投げ出された船乗り達は、悲鳴を上げる間もなく、渦潮の奥へ引きずり込まれていった。その姿は、蟻地獄に閉じ込められた虫の如くである。後に続く船は必死に逃れようとしたが、風を受けてたっぷり膨らんでいた帆は畳む事すらままならない。一気に渦潮の中に突っ込み、強烈な潮の捩れに耐え切れず、船は真っ二つに折れてしまった。バラバラになった船板に人々がしがみつくが、何かに引きずり込まれるように人々は海の底へと沈んでいく。
 悲鳴の大合唱となった海。君達の乗った船も当然渦潮の標的になった。君達はあらゆる力を尽くしながら、船乗りと共にどうにか渦潮をやり過ごす。今日もまた絶望の青の洗礼を浴びる事になったが、まだまだ死ぬわけにはいかない。大いなる旅に犠牲者はつきもの。ほどほどに死を悼みつつ、前へと進もうとした。

『我らが海を行くものは誰ぞ』

 その時、脳裏に直接おどろおどろしい声が響き渡った。咄嗟に周囲を見渡すと、再び新たな渦潮が巻き起こる。船乗りは必死に舵を切って躱したが、次の瞬間、どす黒いものが渦潮の中心から姿を現す。魚とも軟体動物ともつかない、巨大な異形。口から黒い瘴気を放ちながら、それはじっと君達を見下ろす。
 幾度となく海洋の夢を阻んできた狂王種であった。

●悍ましき海の蟲
「ワームだ!」
 異形を見上げた船乗りは真っ青になって叫ぶ。ワーム。崩壊した過去の挑戦からの生き残り達が、死の床で物語った絶望の青の逸話。その中に現れるのが瘴気を操り船乗り達を海へと沈める竜、ワーム。しかしその正体は、伝説以上に悍ましい。ワームはかっと口を開くと、全身から黒い瘴気を撒き散らし、船をあっという間に包み込んだ。吸い込んだ船乗り達は、バタバタと倒れていく。君達は混沌の力で抵抗したが、それでも全身を針の筵で包まれたような感覚に襲われる。
『再び、性懲りもなく現れたか』
 ウミウシのようにてらてらと光る表皮に、黒い結晶が浮かび上がる。その瞬間、海は再び荒れ、ワームへと船を引きずり込もうとする。君達は咄嗟に舵へしがみつき、船を何とかワームから引き離そうとする。
『何故お前達は諦めない。諦めれば、絶望を得る必要も無いというのに』
 君達は何かを応えたかもしれない。応えなかったかもしれない。いずれにせよ、ワームは君達の行く手を遮る。全身から鋭い爪の伸びた触腕を生やし、その爪先に魔力を集中させていく。
『我らが海の安息の為、汝らもまた疾く滅びよ』
 全ての光を飲み込む闇が吹雪となり、君達へと襲い掛かった。

GMコメント

●目標
 狂王種の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 荒れ狂う海と、そこに浮かぶ一隻のガレオン船の上で戦闘を行います。
 船は頑丈ですが、何も手を施さずにいるとあっという間に狂王種に沈められてしまいます。
 船には砲台が準備されていますが、大したダメージは期待できないでしょう。
 ワームの攻撃によって船は舵を失っています。厳しい状況ですが、いくらか操舵は必要でしょう。

●敵
☆ワーム
 魚とも軟体動物ともつかない外見の、悍ましい異形の狂王種。嘗ての海洋の挑戦を物語る逸話では竜のような姿として語られてきたが、実体はそれよりももっと恐ろしく醜い存在であった。

・特徴
→無眼
 眼は存在していませんが、何らかの形で人間や船の存在を細かく感知しているようです。
→触腕
 身体から無数の触腕が生えています。形状は自在に変化します。
→暗黒結晶(PL情報)
 あらゆる光を吸い込む黒い結晶が攻撃の度に身体のどこかへ浮かび上がります。

・攻撃方法
→カース
 一吸いするたびに命が削れていく猛毒の霧です。戦闘中は常に生命力が削れていきます。
→スライム
 装備に纏わりつく黒いスライムを大量に放ちます。触れると一定時間ステータスが減少します。
→ブリザード
 海をも凍らせる強烈な冷気を放ちます。強力な範囲攻撃です。
→エコー
 接近した者に対して魔力の塊を体中から放ちます。至近もしくは近距離の攻撃を受けた際に発動します。

●TIPS
☆時間をかけるほど乗組員が命を落としていく。
☆討伐も可能だが必須要件ではない。


 お世話になっております。影絵です。今回が私にとって初めてのHARD戦となります。どうかお手柔らかに……

  • <Despair Blue>海に住まう長虫Lv:15以上完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年02月17日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
戦気昂揚
セララ(p3p000273)
魔法騎士
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
医術士
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
神話殺しの御伽噺
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
業壊掌
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
恋屍・愛無(p3p007296)
らぶあんどぴーす
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●凍れる嵐
 胸元から光を飲み込む水晶を突き出し、ワームはその身を擡げる。ムカデのような腕をうねらせながら、それは渦潮と共にガレオン船へと近づいてくる。
『我らが海を渡る事は許さぬ』
 それは海に不快な音を響かせると、牙だらけの口をかっと開き、凍れる風を一気に吐き出した。船に纏わりついた海水が霜となり、船体を為す材木を軋ませていく。漂う毒霧に脅かされた船員はその軋みを聞いて震え上がった。そんな戦場にあっても、ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は余裕綽々の笑みを浮かべる。
「これが狂王種か……! この強大さ、正しく大海の暴君。おまけに高い知能もあるか、素晴らしい!」
 彼はぱらぱらと手を叩く。長虫はその音を聞きつけ、そのウツボにも似た顔を僅かに向けた。ラルフは飛竜薬を一口で飲み干すと、その身に魔力を満たして空へと舞い上がった。
「その力は興味深い! この私にもっと見せてくれたまえ!」
 ガレオン船の船尾へとついたラルフは、義手に込められた魔力を解き放つ。右掌を切って血を溢れさせると、拳銃を抜いて引き金を引く。放たれた弾丸は、鎖のように編まれた光を曳きながら、ワームの顎の先に突き刺さった。タールのような体液をぽたりと滴らせながら、それはぐるりとラルフへ振り向く。
『あくまで我らが海を侵すつもりか』
「私は私の審美眼に似合う存在を追い求めているだけの事。お前にもそれだけの価値があるか、見せてもらおう」
『ならば我が魔力の前に朽ち果てるがよい』
 ワームは大量のスライムを吐き散らす。饐えた磯の臭いが辺りを満たし、イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は顔を顰める。
「ウウン、あの図体だけはデカい海産物は食えそうにもないね。テイチョウにお帰り頂こうか」
 彼は親指と人差し指で四角い枠を作ると、その中にワームの姿を捉える。美女のスリーサイズを測れる目だ。ワームの図体を測るなど造作もない。
「外に出ているのがハンブンだとすると……その長さはざっとガレオン船四つ分くらいの大きさはあるね」
 ワームの身体の表面に浮かんだ黒い水晶は、身体の彼方此方をずるずると動き回っている。それを目に捉えつつ、イグナートは素早くジェットパックを背負った。
「アレも気になるけど……まずはイチゲキ入れてみようか!」
 ラルフがワームの触腕をコートで受け止めた隙に、イグナートは一気に飛び上がる。荒れる潮風を捉えて一気に加速すると、その足に風を纏わせ、その横っ面目掛けて鋭いあびせ蹴りを叩き込む。表面のぶよぶよな皮が裂け、スライム状の体液がどろりと溢れる。飲み込まれかけた彼は、慌ててガレオンの甲板へと飛び戻った。
「うわぁ、ベトベト。カンタンにはいかないな……」
『小人に我が力を打ち破る事など出来ぬ』
 ワームの胸元から突き出た結晶、その周囲が歪んだかと思うと、空気は身を切るような寒さとなり、海の表面が徐々に凍り付いていく。セララ(p3p000273)はその場でぶるりと震えたが。めげずに懐から小さな紙の包みを取り出した。
「こんな時でもおやつタイム! もぐもぐ……」
 ばっちりアイシングされたドーナツを一気に頬張り、セララは愛剣を天へと掲げる。剣先から放たれた光が、船の全体をぴったりと包み込む。結界で強度を増した船体は、霜の侵食にも何とか耐えるようになった。少女はそれを確かめると、左舷へ回り込んできたワームと向かい合う。
「この船の船員さん達は皆良い人だったよ。ボクは彼らを守りたい。一緒に絶望の海を越える大切な仲間を!」
 セララは剣を上段に構えると、その刃に魔力を纏わせる。
「輝く魔法とみんなの笑顔! 魔法騎士セララ、参上!」
 高らかに名乗りを上げながら、セララは鋭く袈裟に剣を振り抜いた。放たれた衝撃波が、ワームの胸元へと襲い掛かる。胸元の皮膚が裂け、再びタールのような体液が飛び散った。
『この海域において我らに逆らうか』
「もちろん! かかってこい!」
 次々と振り下ろされた鎌のような触腕を、セララは正面から盾で受け止める。彼女が耐えている隙に、エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は甲板で悶え苦しむ船員を数人引っ掴み、纏めて船室へと引っ張り込む。
「一旦この中で休め。こっちにも霧は染み込んでくるだろうが、外に立ってるよりはマシだ。それから濡れた布で口元を覆い、これ以上は少しでも霧を吸わないようにしろ。軽く持ち直してきたら、他の奴らの救出に当たれ」
「サー」
 波は荒れ、船は大きく揺れる。エイヴァンは舵輪を大きく回して舵を取ろうとするが、中々思うように波を捉えられない。彼は顔を顰めた。
「ちっ……こいつは楽じゃねえな。何にしても早めにアレを追い払わねえとダメか」
 ワームの放ったスライムが、甲板の上に撒き散らされる。両手を掲げてその身を庇いつつ、ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はその手を掲げてセララに掛かるダメージを取り除いていく。
「我らが海? そうね、わたし達みんなの海よ。領有権を主張するなら、壁とかドアとか立てておけば?」
『何だと?』
 長虫は触腕をうねらせ威嚇する。ココロは眉根を寄せ、両手の人形を操り船員達の毒を取り除いていく。
「海に確たる意志なんか無い。勝手な理屈で皆さんの命を奪わせはしないから。救える命がある。だから、手を伸ばす。わたしがそれを望むから」
『笑止。貴様達は我が物顔で海を取った取らぬと言って争いを繰り広げているではないか。我らはそれを認めぬ。この海を下らぬ争いに巻き込ませはせぬ。疾く去れ。或いは朽ちよ!』
 ワームは一声叫ぶと、頭から海中へと突っ込んだ。それは全身を波打たせたかと思うと、船の周囲が次々に白く凍り付いていく。次々に生まれた分厚い流氷が、船の行く手を遮り始めた。
「この程度の脅しで、わたしは折れたりしないから」
 長虫は再び海の中から上半身を現す。恋屍・愛無(p3p007296)はココロと長虫のやり取りをしばらく眺めていたが、やがて動き出した。
「ふむ……君にはかなり高い知能や知性があるわけか。そして大陸近海の情勢にもいくらか長じている。興味深いな。少しこの僕と話をしないか」
『何だと? 我らと話を?』
「そうだ。らぶあんどぴーすへの第一歩は相互理解ゆえに。教えてくれたまえ。この海に存在する奇病の正体と治療法を。恐らく魔種がらみなのだろう。自然発生するような物とは思えん」
 話を切り出しながら、愛無は己の知識と勘を総動員して長虫を観察する。それが魔力を行使する度に、表面に浮かぶ結晶の周囲が歪む。何かの力を発揮しているのは明らかだ。
『お前達に教える謂れは無いな』
「ならば仕方ない。これでも喰らえ」
 威嚇するように長虫が触腕を振り上げた瞬間、愛無は素早くナイフを振り抜いた。放たれた鎌鼬が、長虫の表面に浮かび上がる結晶へと吸い込まれていった。光が弾け、僅かに長虫は仰け反る。
『ぬ……』
 その瞬間、エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)も飛び出した。船から飛び降りて流氷へ飛び移り、金の髪を炎のように波打たせる。その青い瞳が輝いた瞬間、結晶の表面が僅かに剥がれた。長虫は咄嗟に触腕を一本振り上げるが、その動きは鈍い。エクスマリアは咄嗟に飛び退き、その一撃を躱してみせた。彼女は宙を駆け、そのまま甲板へと飛び戻る。長虫は唸り、口から再び気炎を吐く。
『あくまで我らに楯突くか。お前達の同輩と同様、海の藻屑としてくれるぞ』
 しかし、今更そんな脅しに屈するイレギュラーズではない。カンベエ(p3p007540)はつかつかと長虫の前に踏み出し、抜いた刀を躍らせながらその顔を見上げる。
「のう長虫よ! わしの顔を見たことはあるか!」
『なに……?』
「なければ良い! このわしと、ここにいる仲間の顔を憶えて帰れ!」
 どんと言い放つと、カンベエは長虫の口から放たれたスライムを盾で受け止めた。
「確かにここへ人の手が入れば、おぬしの仲間が多く死ぬ事になるでしょう。しかしそれはこちらも同じ。今しがた殺された仲間の命をツケにして帰る事など何故できましょうや!」
 毒霧も気にせず深く息を吸い込み、彼は船全体に響き渡るほどの大音声で叫んだ。
「さあ、反撃の時間だ! 動ける者は引き続き倒れた者を船内へ! 手が空けば砲撃を準備しろ! 死にたくなければ死ぬ気で働け!」

 凍りつく海。しかし、イレギュラーズ達の心までも凍らせることは決してなかった。

●水晶を砕け
 どす黒い毒の霧が漂い、吐く息が白く凍てつく中で、イレギュラーズ達は巨大な長虫と奮戦する。しかし長虫も退かない。消耗の回復が追い付かず、彼らは甲板で徐々に膝をつき始める。ワームは首を大きく擡げると、再び冷気の渦を巻き起こした。
『さあ、今だに退かぬというつもりか』
「こいつはマズいか……」
 エイヴァンは牙を剥くと、壁にもたれていた船員を手招きする。
「とりあえずこの舵を持っていろ」
「は……? しかし、俺は……」
「動かないように押さえているだけでいい。任せたぞ」
 その背中を叩くと、彼は船室の外へ飛び出す。剣を支えに何とか立っているセララの前に立ちはだかり、彼は盾で長虫の触腕を受け止めた。
「そう簡単に俺達がくたばると思ったら大間違いだ。俺達には巻く尻尾も無いんだからな」
 彼は両足で踏ん張ると、ワームの一撃を力任せに跳ねのける。そのまま彼は斧を取ると、その穂先に取り付けられた砲身をワームの結晶へ向けた。
「こいつは効くぞ」
 放たれた氷の砲弾が、結晶に直撃した。長虫は呻いて仰け反る。僅かな隙に、彼は叫んだ。
「『はくよう』を出せ!」
 彼が並走させていた小型の砕氷船が蒸気を上げて動き出す。氷を噛み砕き、ガレオン船の先に立って道を作り始めた。
『小賢しい。通してなるものか』
 ワームは再びスライムを吐きだそうとする。セララは何とか立ち上がると、パンドラの力で再びその身に魔力を行き渡らせていく。
「負けられない……! ボクは皆を! この船を! 守るんだからっ!」
 セララは再び剣を振り抜き、魔法の斬撃でワームの脇腹を切りつける。ワームはギリギリと歯ぎしりさせ、再び彼女に振り返った。甲板のすぐそばに、暗黒結晶が突き出す。
「ここだぁ! 全力全壊! ギガセララブレイクッ!」
 冬の雷を刃に宿し、宙へ跳んだセララは渾身の一撃をワームの結晶に叩き込む。光が弾け、大きな一欠けらが海へと零れ落ちた。それを見たラルフは、先の戦いの傷を押さえながら立ち上がる。
「おっと。……こんなところで倒れてはいられないな。敵が退く前に、一部のサンプル程度は持ち帰らねば」
 ワームがセララに注目している隙に、ラルフは全身のバネを撓め、黒い闘気を纏わせる。
「虎穴に入らずば虎児を得ずとは、尤もな話だ!」
 ラルフは欄干を飛び越え、一気にワームの懐へと襲い掛かる。渾身の貫手は名槍にも勝る威力となり、暗黒結晶を強引に削り取った。
『ぐぬ……』
 立て続けの攻撃に、ワームは怯んだ。触腕を伸ばして結晶を守ろうとするが、そこへ更にイグナートがジェットパックですっ飛んでくる。
『貴様……! このままタダでは済まさぬぞ』
 ワームは唸り、全身から魔力の塊を放出する。接近戦を挑んでいたセララとラルフと共に、イグナートも魔力の直撃を受けた。しかし彼は怯まない。パンドラの力を開放して傷を無に帰し、そのまま大きく腕を引いた。
「船員達の死亡フラグをオレがぶっ壊すのさ! まとめてぶん殴る!」
 イグナートはその身を翻すと、拳に脚を次々に振るい、結晶を守る触腕も、結晶そのものも次々に打ち据えた。徐々に結晶の罅が広がっていく。
 長虫は苦悶の態度を見せるが、彼が放つ冷気や魔弾もますます激しさを増していく。ココロはその中を駆け回り、治癒の魔法でセララやエイヴァンを回復させていく。しかし彼女も苦しい。思わずその場に膝をついてしまった。
「さあわしがカンベエで御座います! 狙うならば女子よりも先にわしを狙われよ!」
 そこへすかさずカンベエが飛び込み、放たれたスライムを受け止めた。その場に踏み止まろうとしたカンベエだったが、先の戦いの傷に加えて、損傷の蓄積も無視できないほどになっていた。彼はその場に崩れ落ちる。慌ててココロはカンベエの傷を癒していく。
「あなたもきついでしょ? 無理はしないで」
「ああいや、なんてことはありません。この程度は怪我の内には入りませんよ。その為のパンドラの力でございましょう」
 再び立ち上がったカンベエは刀を構えて長虫を見据えた。それは歯を剥きだし、忌々しげに吼えた。
『強情な者どもだ。それほど傷ついてもなお押し通るのを止めぬというのか』
「もう命を賭け金にしてしまったからな。そうそう引く事など出来ないさ」
 愛無はさらりと応えると、左手を先に突き出した。少女の腕が歪に崩れ、巨大な杭を形作る。その身を翻した彼女は、鋭く結晶へと擲った。その黒い粘膜が黒い結晶を一瞬にして包み込み、罅に食い込み押し広げていく。硝子を擦り合わせたような音が、嵐の海に響き渡った。愛無はくるりと振り返る。
「さあ、誰か続いてくれたまえ」
「ああ」
 エクスマリアは小柄な身を躍らせ、素早く構えた。全身の魔力を右手のひらへ集める。髪の毛が捩れ、獅子の顔を形作った。金の牙を剥きだし、獅子は長虫を威嚇する。
「絶望の青。狂える王共の、支配する海、か。……だが。お前達の安息はもう、終わる。先の言葉を、返す、ぞ。我らの、海の踏破の為。疾く、消えろ」
 反響定位、心眼で物を見る生き物に小細工は要らない。彼女は拳を握りしめ、力任せに長虫へ向けて突き出した。放たれた魔力が蒼い光となり、長虫の結晶に直撃した。刹那、結晶には深々と罅が入り、粉々に砕けた。長虫は甲高い叫びをあげて仰け反る。
『ぐうう……』
 結晶を失った長虫。ずるずると表面のタールが海へ流れ出始める。エクスマリアはさらに拳を構えて出方を窺う。ワームは息も絶え絶え、触腕をうねらせ徐々に背後へ引いていく。
『いいだろう。通るがいい。だがしかし、我らの主がお前達をこのまま見過ごすとは思わぬことだ』
 ワームは荒々しく言い放つと、その身を大きくうねらせ大海の底へと潜っていった。

「……終わった」
 その姿を見届けたココロは、ほっと安堵の溜め息を洩らしたのであった。

●凪が来る
 ワームが深海へ逃れ去り、流氷は大洋へと融けていく。渦潮となって荒れ狂っていた波も収まり、どうにかイレギュラーズ達とその船はワームの海域を潜り抜ける事が出来たのだった。
 しかし犠牲者は少なくない。船員の殆ど三分の一が、戦いの最中に、あるいは手当てが間に合わずに命を落としてしまった。カンベエはそんな遺体を抱え上げると、空いた火薬樽や水樽の中へと収めた。棺代わりである。遺体を船には置いておけない。ここが絶望の海でも、水葬にする他なかった。
「ここでお別れです。……皆さんの夢は、わしらが果たしてみせましょう」
 棺を海へ流し、最後に酒と金を詰めた樽に後を追わせる。イグナートも隣で胸元に手を当て、彼らの冥福を一通り祈った。
「三分の一か……もう少し助けられたら良かったんだけど……」
 彼は溜め息を吐く。ココロはその隣に立ち、そっとイグナートの肩を叩いた。
「三分の一助けられなかったと考えるよりも、三分の二助けられたと考えることにしましょう? ここまで来てしまったら、もう取って返すことは出来ないわ」
「ああ、そうだよね。まだ船は動かせるうちは……彼らの夢も、まだ叶えられる」

 一方、甲板ではラルフと愛無がタールのようにべったりと纏わりついたワームの残滓を削ぎ落しにかかっていた。鏝を使って固まったスライムを削り落とし、ラルフは金属のケースに落としていく。
「ふむ……確保できた結晶のサンプルと合わせ、何らかの形で有効利用をしたいところだな」
 愛無は隣でスライムを直接手のひらに載せる。見た目や質感は彼女の正体とよく似ているが、決して相容れる事は無い。融け合うことなく互いに弾き合っていた。
「妙な物質だ。やはりただ自然に生まれた生物とは思えないな。この海で蔓延したという奇病といい、厄介なものがこの海域に蔓延っているようだ」
 モップと桶を担いだエクスマリアもそこへやってくる。愛無の様子を見つめ、彼女の髪はくるくると捻じれた。疑問のサインである。愛無は肩を竦めた。
「要するに、まだまだ先は長そうだということだな」

 エイヴァンは甲板の真ん中に立ち、翻る帆をじっと見つめていた。何とか持ち直した船員達は、死んだ者達の分も含めてせわしなく働いていた。船長も現場へ復帰し、エイヴァンに早口で報告する。
「役割分担を変更しました。人員が少なくなった分各々の負担は増大しましたが、航海は続行可能です」
「そうか。だが決して無理はするなよ。他の艦隊と合流出来たら、人員の調整や合流も検討した方がいい」
「了解です」
 セララは側に座り込み、彼らのやり取りに聞き耳を立てていた。ミラクルコミックに出力された自らの航海譚を一通り眺めた彼女は、立ち上がって気合を入れ直す。
「頑張らないと。次の戦いはもっとたくさんの人を守らなきゃ」
 魔法騎士は船乗り達の為に奮い立つのであった。



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
結晶が弱点というのはわかりやすかったでしょうか。ワーム本体は生きているので、また反撃の機会を虎視眈々と狙っていたりいなかったりするかもしれません。

船旅はまだまだ続く事でしょう。またよろしくお願いします。

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