PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Despair Blue>蒼き波濤

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●蒼の灘
 何が起きるかわからない、不足の事態も珍しくなく、謎の奇病も大号令の難敵だと、出航前に口を酸っぱくして言っていた──思い出したところで船員にとって今更の話だ。
 波飛沫を絶えなく浴びた肌から、すっかり体温は奪われている。つい先ほどまで凪いでいたはずの海面も、船を飲み込まんばかりの大荒れだ。嵐の襲来はあっという間の出来事だった。まるで嵐の方から近づいてきたかのように。
 激しく揺さぶられる船にしがみついているからか、島もないのに黒い岩肌が遠くに見えるような錯覚と、全身を叩く波音ばかりが響いている。
 船にしがみつくのは船員もイレギュラーズも同じだ。泳げるものは海へ落ちても生きられるが、この波と潮流ゆえまともに動けるかはわからない。
 ただでさえ『絶望の青』へ近づいて以降、胸が異様にざわつき、気分や体調がおかしかった。同じ症状が現れた仲間たちと「船酔いだろう」と笑い飛ばしていたのに、誰かの「そういえば」で始まった話を受け、皆途端に青褪めたように思う。
 あの変な臭いを嗅いでからだと、誰かが言った。
 凄く臭かった──それは船員もイレギュラーズも確かに覚えた臭いで、だからこそ皆「体調不良はあの臭いの所為では?」と思い至り、口数が減ったのだ。
 走馬灯のようにそこまで思い浮かべたところで、行く手の波の上に山を見た。陸が近いのだと目を見開いたところで、船員は絶望を知る。

 山などではない。

 いつの間にか現れたそれは、荒ぶる波間にも左右されず、旗艦目指して近寄ってきた。あるいは旗艦の方が、揺られて近づいたのかもしれない。とにかく一瞬のことだった。
 宙で揺らいだなまめかしい足が、随伴していた船を叩く。まるで海面をぺちりと軽く叩いたような仕種だが、その凄まじい力によって船を沈めてしまった。真っ二つに折れた随伴艦が沈みゆくのをただただ見守るしかなく、そして。
 殴打の余波である飛沫が届き、髪を、頬を、手足を撫でる。かの者の恐ろしさを、船上にある者たちへ報せるかのように。
 海の底から現れたそびえ立つ蒼──頂こそイカらしき形状だが、ぬらりとした表皮が青く透け、体内の胃腔などが見える様はクラゲだ。海上に突き出した五本の足を、優雅に踊らせている。
 船員はそこで力尽きて海へ放られた。もはや冷えきった手には、掴む力も残っていない。怒り狂う波に圧倒され、人類の栄える地より隔たった青に沈む。その最中、船員は蒼き化け物を見た。
 海より下に足はなく、暗い底までずんぐりとした身体が続いている。そして海上では見られなかった無数の触手が、分厚い上皮から漂っていた。まもなく彼は、その触手に掴まってしまう。
 頭が痺れていくのが先か、手足の感覚が抜けていくのが先か。彼にはもう、わからなかった。

GMコメント

 お世話になっております。棟方ろかです。

●目標
 狂王種(ブルータイラント)の『撃退』
 体力をある程度削るなど、何らかの手段で戦意を喪失させれば狂王種は退きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 オープニングの状況で開始。大嵐と荒波の中、船、海、あるいは狂王種の体が戦場に。
 この時点で随伴艦は既に大破。イレギュラーズの乗る旗艦はまだ無事ですが、船が何度か直接攻撃を受けると沈みます。
 旗艦にはまだ辛うじて、10名程の海洋王国船団の船員が残っています。ターン経過や状況により、海へ放り出されるかもしれませんが、彼らの助けを借りるのも良いでしょう。
 なお、オープニングにあった「酷い臭いによる体調のおかしさ」は、今回の戦闘に影響しません。

●敵
 狂王種×1体
 海底から伸びる蒼い巨躯。海面から出ている部分だけでも、優に30メートル以上の長身。
 分厚い表皮は滑りますが意外と硬く、何か鋭利なものを引っ掛けて、それを頼りに上ることもできます。(振り落とされる可能性あり)
 巨大な5本の足から繰り出される範囲攻撃は凄まじい破壊力ですが、状態異常の類はなし。
 この足は、対象へ巻き付いて海へ放り投げたりもします。
 海中に沈んだ体からは、クラゲのものに似た触手が無数に漂い、触れると全身が痺れます。
 状態異常の類はやや効きにくく、力も体力も桁外れ。また、PCの言葉を理解しません。

 それでは、ご武運を。

  • <Despair Blue>蒼き波濤完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
雨宮 利香(p3p001254)
ゲーミング
マルク・シリング(p3p001309)
秋宮・史之(p3p002233)
女王忠節
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ラース=フィレンツ(p3p007285)
新天地の傭兵
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者

リプレイ

●邂逅
 やっぱり湖とは違うと、『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)は痛感していた。
 この嵐では拝めない蒼海の水平線。そこにかかる虹の彩りを宿して、卵丸は強大な青に挑む。
「嵐の中でも輝け、虹の煌めき……」
 息に合わせて、不安定な船上もものともせず強襲する。
「必殺、蒼・海・斬!」
 卵丸が鋭く振るうだけで弧を描いた斬撃は波を割り、透けた肌を七色に焼く。しかし狂王種は悠然と佇むままで、不気味さに卵丸は僅かながら眉根を寄せる。
「おいおい、でかすぎるだろ!?」
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)の第一声も波風に揉まれた。
 そして挨拶代わりに撃ち出したのはプラチナムインベルタ──鋼の雨に打たれても狼狽こそしないが、着実に傷をもたらす。
 同じく『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)も肯って。
「ほんっとサメといいタコといいこのイカといい……」
 顎を撫でつつ、史之はサイズと雰囲気を認めた。
 三十メートルを優に越す、言葉通りの巨体。意思の疎通も叶わぬ異形がいる現実から、目は逸らせない。けれど。
「……負けてらんないや」
 背負い込むほどではなくとも気概はある。だから史之は阻む壁にも怯まず、眼鏡を押し上げた。
「これだけでかいと、殴り甲斐がありそうじゃないか」
 不敵さを眼差しに乗せて飛ぶ。遥かな頂へ全力で上昇していく。その一方で。
「うははっはははっ! デカいデカすぎる!」
 朗笑を響かせたのは『名乗りの』カンベエ(p3p007540)だ。彼此二十秒ほどやめられずにいた。
 進化の過程を想像するだけでも愉快だ。なるほど連綿と受け継ぎ適応していったなら、大に勝るもの無しとカンベエは口角を上げて。
「ともあれコイツも所詮魚!」
 魚、と断言しきった彼に仲間たちが思わず瞬く。
「鱗剥いて刺身にした後は、コレクションに加えてやります!」
 勇ましい宣言を強敵へ捧げた。
 海上も大荒れなら、海中も荒れていた。それでも潮の流れは辿れる。暗い海でも敵と船の区別はつく。見えてしまった桁外れの存在感に『濁りの蒼海』十夜 縁(p3p000099)は目を瞠る。
(いい加減、見慣れてきちゃぁいるが)
 表情に苦みが混ざった。ここ最近、巨大生物との戦いが多い。巡り合わせの奇妙さを痛感しながら、縁は聖域の力を解放する。
 ふと前方を見やれば、飛び込んできたのは漂う無数の触手。気味が悪ぃな、と唇を引き結び、縁は連撃で触手を切り落としていく。
 その頃、首が痛くなりそうだと捻りながら 『特異運命座標』ラース=フィレンツ(p3p007285)は仰ぎ見るのをやめた。
「これだけデカいと対処も大変だね」
 外した視線の先にロープや空樽が転がっている。危急の際にも迅速な救助が叶うようにと、マストや縁を支えとする船員たちへ準備を依頼した。
「敵はこちらで引き付ける。だから安心して」
 そう伝えたラースは、応じる船員たちの震え声を背に受けて駆ける。生んだ影を残像として映してからの、迫撃。
 ラースの視線が、樹木のごとき太さを誇る足を射抜く。青から返る言葉など無いが、それでも巨体の震動ををラースは肌身で感じ取った。
 一方、海のお城だと思い込んでいた『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が目許を擦る。擦って気づいた。
「って透けてる!? これクラゲ!? 何なんですかこの海!」
 ぎょっとした直後、利香はふるふると頭を振り、現実と対峙する。
 聳えるのは狂王種──青く透ける体内の蠢きを目の当たりにして、利香は寒気を催す。
「と、とりあえずいってきます!」
 敬礼と共に気を取り直して、船を蹴る。吹きすさぶ風の真っ只中、雷光まばゆい翼を広げて低く飛んだ。狂濤が行く手を阻むものの、彼女は諦めない。見定めた箇所へ鉤爪を刺し、足へ飛びつく。
 途端に、狂王種が彼女を振り落とそうと試みる。
「させません!」
 矢継ぎ早に利香が足へ押し付けたのは、眠る奥義の片鱗。迅雷轟くがまま、疾風のごとく斬りあげる。
 ふ、とマルク・シリング(p3p001309)の吐息が風の咆哮に溶けた。
(なんて、大きい)
 自分たちを飲み込もうとする海よりも、巨身の存在感がマルクの肌身を凍てつかせる。
 けれど彼には帆柱に繋げた命綱もある。船さえ沈まなければ戦える。拳を握りしめて、マルクは船員へと声を張った。
「戦いは任せて。船の方を頼みます!」
 マルクの言を受けて、船員たちは震えながらも命綱を繋げていく。
 そして伝説がつくりあげた英雄の力を船上の仲間へ招こうと、マルクは距離を確かめた。
「ひゃあっ!」
 甲高い悲鳴が響き、利香が足にはたかれた。その余波が宙空に響くが、近くに仲間はいない。そのため利香と、そして反射で苦痛を感じた狂王種だけが震える。
 彼女だけではない。足や胴に纏わりつこうとする者へ、五本の足が襲いかかる。
 マルクはすかさず自身から溢れる調和で仲間を癒していく。
(どうにか届きさえすれば……)
 歌うのも奏でるのも、彼の得意とするところだ。

●怒涛
 ジェイクは足の有り余る力で海へ叩きつけられるも、ロープを頼りに浮上した。
「命綱って言葉の意味を痛感するぜ」
 激しく揺れる船へ戻り、細く吐いた息はどこか安堵感を含んでいて。
「さすが、絶望の青と言われるだけのことはあるじゃねえか!」
 巨大な蒼へ言葉でやり返す。
 耳を澄ませた卵丸が、周囲の音を聞く。荒れる濤声、丸呑みにしようとする海原のうねり、そして悲鳴をあげる旗艦。あらゆる音が卵丸の元へ押しかけ、並の精神であれば気が狂ってもおかしくないとかぶりを振った。
 反響を頼りに卵丸は激浪へ飛び込む。無数の触手が異様な光景を生んでいるが、そこを気にする暇はない。様子を探り、潮の流れを逆手に取り近寄る。触手が卵丸へ群がろうとすれば、別のところに隙が生まれて。
(あそこだ……!)
 追い縋る触手を、足で掻いた潮の勢いで遠ざけた。そのまま突き進んだ卵丸は、透ける躯へ取り付く。蠢く触手と体内の様子がより間近に映った。
(どんなに固い体だって……貫け!)
 禍々しく敵を破るキルデスバンカーを撃ち込み、杭を楔にして卵丸はよじ登る。
 足が徒波を新たに生む。
 その水面下、切って裂いてと群がる触手を減らすべく奮闘していた縁は、キリがねぇ、と塩味を噛んだ。
(こいつ……触手を切られた程度じゃ痛くも痒くもねぇって?)
 縁は判断は見誤らない。追い縋る触手を聖域の加護で蹴散らし、海面を仰いだ。培ってきた経験と勘が、彼の身体を深い蒼からすぐに浮上させる。
 波間へ顔を出せば、今にも転覆しそうな旗艦があった。急ぎ縁は船へ退避する。
 そしてまだ必死に船上で残る船員の腰から、持て余していたフックを「借りるぜ」と頂戴し──狂王種に突き刺す。分厚い表皮ゆえか呻きもしない敵に構わず、巨体を登っていく。
 登りながら戦場を見渡せば、青に挑むのは頼もしき仲間ばかり。
(適当にサボってても……って、この間までの俺なら、そう考えていたかもしれん)
 皮肉なモンだ、と苦々しく吐き捨てる。
 じきに死ぬのなら、しがらみなぞかなぐり捨てて、無茶のひとつやふたつ張ってやろうと、そう思えてしまう。
(もう一度。もう一度、あいつに会って向き合うためだ)
 死に場所はここではないと、芯から訴える鼓動を無視できない。
「悪いが、無理矢理にでも通してもらうぜ」
 足を滑らすまいとフックで固定した縁が、天下御免の一撃を叩きつける。誰よりも真っ直ぐ、敵を捩じ伏せるために。
「さーて、根競べといくかい?」
 縁のまなこが捉えたのは、透けた青で蠢く胃腔。まるで縁に応じるように、動きが変化して。
「言っておくが、おっさんは気が長いタイプだぜ?」
 宣言と同時、巨躯が大きく揺れた。肌に付着したイレギュラーズたちを払うために。
 突いたフックにしがみつき耐えた縁は、そこで違和感を覚える。
(動きが変わった……いや、鈍ったか?)
 同じ頃、海の暗さが顕著になっていく空へ上昇していたのは史之だ。彼は標的の頭上への途次、容赦なく足に阻まれた。狂王種は確実に彼を捉え、狙っている。
「こんなところで倒れるわけにはいかないね」
 しかし史之は吐息だけで笑い、押し寄せる猛攻の波をなんとか耐え、更に天高く飛び上がる。
 漸く頂へ到った史之は、眼力で察してから理力の障壁で剣を模る。そして間髪入れず、厚く硬い上皮へ一撃見舞う。ずん、と重たい衝撃が狂王種の頭から真っ直ぐに体内を下っていく。
「意外にさっくり刺さるんだね」
 関心を寄せる振りをしながら、確保した足場を頼りに周囲を見回す。やはり高いと実感して史之は目を細めた。
「早く去ってくれないかな」
 その時を待つ声音は、心なしかこの嵐に似て猛っている。
 ジェイクは鋼の驟雨で、傷ついていた足二本を切り落とすも、残る足がゆらりと戦意を煽る。
「俺には時間がねえんだよ!」
 足ひとつ削ぐのに時間を要している。そうジェイクは感じて焦れる。刻一刻と寄る死の兆しは、獣めいた眼光を強く走らせるた。
 指差しながらラースは再度、残像を世に浮かべる。揺らぐ影の隙間から肉迫し、拳をめりこませる。瞬時に放った衝撃波が足を砕き、無残な欠片と化して海へ沈めていく。
 直後、動きが鈍った別の足を目撃し、ラースは叫んだ。
「あの足を!」
 集中的に狙うのが良いと声をあげれば、仲間たちの意識も自然と的を射る。
「わかりました!」
 利香は真っ先に応え、一層の気合いを込めて得物を握りしめる。
 そして、高々と振りあげられた足をひたすら追い詰めていく。
「ぶった斬ってやりますよ!」
 息を継ぐ暇も無い猛攻を織り成し、足を一本、妖艶なる剣舞で切り落とす。
 ──クオォ……ン……。
 漸く狂王種が鳴いた。からだ全体から震動となって音が伝った、そのとき。
 足が二本、縁を絡みとる。投げ落とされるぐらいなら、抜け出せばと考えるも、痛みを知った狂王種はそう容易く逃してくれない。ぐりぐりとフックをより深く押し込み、緩む瞬間を狙うも海へ叩きつけられる方が早かった。
「お願いします!」
 いち早くマルクが呼びかけ、船員に引き揚げを任せる。
 立ち位置は後方。けれど最前線で戦う仲間たちへ、確実に届くように。そうしてマルクは目測を見誤らず、居場所を確保し続けた。
 何せ癒し手と呼べる存在はマルクのみ。だからこそ念頭に置くのは、敵の注目を浴びないこと。帆柱の影へ隠れ、めくれあがった船の床を支えにマルクは何としても船に留まった。
(一撃が重い……早めに回していかないと)
 天使の福音で仲間たちを支える。苦痛を少しでも多く拭っていく。
 押しつ押されつの攻防を繰り広げるイレギュラーズたちに、船員たちの顔も青褪めてきた。時間が長引くほど、助からないのではと酷い想像が過ぎってしまう。
 そこへ、パンパンと乾いた音が響いた。
「さあさ船員は舵取りと補助!」
 カンベエが手を叩きながら、船にしがみつく船員に発破をかける。
「若輩に命令されるのが嫌なら、仕事見つけて動きなされよ!」
 情け容赦のないカンベエの激励は、強大な青の壁を前に頽れかけた船員たちへ、情熱を点す。
 元より海洋王国船団の一員として、絶望の青への航海へ漕ぎ出した面々だ。未知の生物に恐れをなしても、自ずと立ち上がる──ゆえにカンベエは大音量で機を拵えた。
「海の男が魚に臆して腰を抜かした、などと帰ってから言われたいか!」
「「ノーサー!」」
「なればこそ、ゆけ!」
「「イエッサー!!」」
 破天荒とも取れるカンベエの言は、船上の空気を一変させた。口巧者な彼だからこそ、否、剛勇を背に描き魅せたからこそ、海の男たちも意気盛んに動き出す。
 用件を言うだけ言った当人は、眦を和らげたのち船から離れた。

●灘
 眺めていれば見えてくる、それが全体の状況だ。
 マルクは呼気を整え、損傷した箇所を目視する。目を細めずとも、船体の歪みも崩れかけた床も、よく見えた──狂王種の一打がいかに重く、広く及んだのかが解る。
 追い撃ちをかけられ、船員が荒波に浚われる事態もマルクとしては避けたかった。
「戦場を左舷の側へ! 傾きが酷くなりそうです」
 だから船上の仲間へそう叫ぶ。調和の安らぎで、癒しを差し伸べながら。
 声を辿った足に煽られ、尻を強か打ったマルクが仰ぎ見たのは、船に覆いかぶさるほどの巨躯。
(あんなのがいる海に落ちたら、無事じゃ済まない)
 そう解っていたのに、船の揺れは微塵も遠慮してくれやしない。マルクの身体が滑り落ち──しかし命綱を支えに自力で立ち上がる。
 不意に巨体がぐらつき、足をかざす。表皮を伝うイレギュラーズたちを弾くために。
 史之は展開していた障壁を解除し、逃れようと敵の頭から飛び立つ。
 だが狙っていたかのように敵は叩き落としにかかり、高所から凄まじい力で払われた。史之は一度意識を失うも、くるりと回転してバランスを取り復帰する。
「お目覚めになられませ祭神よ」
 彼はすぐに船へ降下し、天使の歌を紡いだ。
「ご加護を賜りませ。平に平に伏して願い奉る」
 その間、海へ落とされた卵丸も、船員の投げた物をクッションに戦線へ舞い戻る。そして卵丸が次に仕掛けたのは──死角からの奇襲。
(刺し貫く!)
 猛撃なれど素早く、鋭く踊り出て一手浴びせれば、足に深い傷が刻まれた。
 一礼するマルクを見届けたジェイクが、ふと片眉をあげる。
「……なんだ?」
 思わず声に出た。
 暴虐の限りを尽くす荒波の下で、巨体がおかしな挙動をしている──縁の切り裂いた触手は、主に体躯の前側。たかが触手、されど敵の躯の一部。海中で為した縁の狙いは、実を結んでいたのだ。
 しかも仲間たちが足を切断し、猛攻を連ねたことで生じた不利な体勢が尾を引いている。
「バランス崩しかけてんだ。こいつにとっては些事かもしれねえが」
 この寸胴のどこに崩れる気配があったのかと、ジェイクは思わずマルクやラースと視線を重ねて、頷き合う。
 それならばとラースが、暗雲よりも深き黒を湛えた双眸で、敵を見据え──強烈な拳を打ち込んだ。
 そして仕返しとばかりに船体を崩そうとした足を、彼は強靭な鎧で受け止める。
「っ、すごい化け物もいたもんだ」
 食いしばると全身に熱が巡り、その威力に膝を折った。
 勢い絶やさず続くのは利香だ。残りの足が卵丸を叩くのを目撃して、揚々と披露したのはなんともチャーミングなウインク。
「そっちがその気なら……こっちだって!」
 夢魔の十八番は、反応が極端に薄いかの者を──虜にした。
 卵丸はちらりと船体の様子を窺う。限界が近そうだが、まだ耐えられるはず。そう信じて卵丸はよろめきながらも立った。マルクからの治癒を受け取って放つ、音速の一撃。
「この海の先を見る為にも……負けられないんだからなっ!」
 嵐をも凌ぐ声を轟かせて、足が海へ沈むのを見届けた。
 抗体を持つのか、淡泊さが取り柄なのか、狂王種は我に返るのも予想より早い。
 だから下がっていた最後の足へ、カンベエが乗る。
「なんとおぞましい舷梯でしょう」
 極太の足へ移乗し、構える。その体勢は堅牢なる城塞のごとく。
「狂王種よ、わしがカンベエだ! その眼にこの姿、刻んでやろう!」
 追い撃ちをかける名乗りに、かの者が見下ろす。感情なぞ読めやしないが、カンベエへ意識を注いでいるのには違いない。
 なびいた足が彼を蹴散らそうとする。だが。
「出し惜しみはしねえぞ」
 奈落の呼び声に力を委ねたジェイクが、照準を定めていた。
「ぶち込んでやるぜ」
 守りをも貫く銃技で降らせたのは、この悪天候をも凌ぐ驟雨。
 狂王種の足が朽ちる。けれど狂王種は未だ聳え立つままで、ジェイクはぎりりと急く心持ちを噛む。
 ──クゥ……ォン……。
 巨躯が鳴いた。五つの足を失い、しずしずと帰り始める。まるで嵐へ溶け込むようにして、巨大な後背が離れていく。
 すると猛威を揮っていた嵐までもが、忽然と姿を消した。

●嵐の後
 救助できた者も含めた船員の体調を窺っていたマルクが、感謝を告げられふっと目を細める。
「僕は……命を諦めたくないから」
 救われたことがあるから。自分にもまた救えると信じて彼は囁く。
 同じく海へ落ちた船員を救い、史之も処置を施していた。けれど早く先へ進みたいと、彼は言う。
「俺はこの海を『希望の青』へ塗り替えに来たんだから」
 青を遠目に、縁も肩を竦めて。
「絶望の青ってのは何だって、こう……でけぇやつらが多いのかね」
 彼の言葉に、唸りながらカンベエが首を捻る。
「元々デカい生き物なのでしょうかね」
 考察を挟む仲間たちの前方で、ジェイクは遥か彼方を望んでいた。
「……こんな所は、俺にとって通過点だ」
 己を急かすのが運命の予兆だとしたら早く、より早く先が見たい。
 しかし後方では利香は溜め息を落としていた。自らの甘い芳香で臭いはどうにかなる。なるのだがやはり気は滅入ってしまう。
「早く帰りたいです! 臭くてやってられないです!」
 水を吸った服を絞りつつ、悲痛な訴えをあげた。
 撃退の事実を噛み締めながら伸びをするのは卵丸だ。
「無事に帰れるんだぞ! この旗艦と共に、なっ」
 すでに沈没寸前だが、辛うじて動くだろう。残るのは陸までの耐久戦だ。
 静穏を取り戻した蒼海に、波の花が咲くのが見えた。終わったのだと、そう労うように。

成否

成功

MVP

ラース=フィレンツ(p3p007285)
新天地の傭兵

状態異常

なし

あとがき

 ご参加いただき、ありがとうございます。激闘、お疲れ様でした!
 またご縁が繋がりましたら、よろしくお願いいたします。

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