シナリオ詳細
<Despair Blue>呪歌に舞う鋭刃
オープニング
●胸騒ぎ
二十二年ぶりに発せられた「海洋王国大号令」。
海洋王国は遂に「絶望の青」と呼ばれる海域に足を踏み入れようとしていた。
王国船団は、イレギュラーズたちが乗る旗艦に随伴艦を付け、この海域に挑む。
イレギュラーズたちの乗る旗艦が「絶望の青」に到達して間もなくの事だった。
どういうわけか、前方から海洋王国船団の船が一隻引き返してくる。
何があったのかは、船が近付いて初めて分かった。
船体のあちこちには無数の切り傷があり、ところどころに鋭いトゲのようなものが刺さっている。
トゲらしきものの大きさは、船乗りがよく腰に下げている「カットラス」という剣くらいはありそうだ。
つまり、規格外に大きい「トゲのようなもの」だ。
これだけの損傷を受けて旗艦と逆方向に進むという事は、この船は今まさに撤退しようとしているという事だ。
すれ違いさまに撤退船を覗くと、船員たちの顔は青ざめ、互いに血だらけになりながら手当てをしていた。
中には海に向かって嘔吐する者もいる。
明らかに只事ではない。
覚悟を決め旗艦を進めて程なく、イレギュラーズたちは「違和感」を覚えた。
この「絶望の青」と呼ばれる海域に足を踏み入れて以来、妙に胸がざわざわし、気分や体調が何だかおかしい気がするのだ。
気のせいだと思ってここまでやり過ごしていたが、撤退してきた船員が嘔吐する様を見た後ではどうにもこれ以上やり過ごせない。
確かに、海洋王国からも「『絶望の青』では何が起きるか分からない、奇病も大号令の難敵だ」と聞いてはいる。
今のところは戦闘や動作に支障が出る程ではないが、この先あの船員のようにならないという保証もない。
このまま気のせいであればいいのだが、果たして……。
●怪魚と……死霊の声?
「気のせいであればいい」という願いは、儚くも打ち砕かれた。
どこからともなく、女性のすすり泣くような声に似た音が聞こえ始め、次第に体が重くなる。
何となく、船酔いに近い気分の悪さも自覚出来る。
更に、突然
「ガッ!」
と何かが刺さるような音と共に旗艦が揺れた。
慌てて船の外を確認すると、海面を大きく波打ちながら翼の生えた巨大な魚が一匹、こちらを睨んでいる。
魚が翼をはためかせると、鋭いナイフのようなものが飛んできた。
その数、数本?
いや、片手で数えられるような生易しい数ではない。
怪魚をひと目見て思う……その姿は、巨大なトビウオだと。
そう、翼に見えたのもトビウオのヒレだ。
そして、船体に刺さったナイフのようなものを見てすぐに分かった。
先程撤退していったあの船は、こいつにやられたのだと。
このまま怪魚にされるがままでは国を挙げての大号令も航海作戦も滞る。
この怪魚を排除しなければ。
イレギュラーズたちは、巨大トビウオに立ち向かう。
- <Despair Blue>呪歌に舞う鋭刃完了
- GM名北織 翼
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月04日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●序
禍々しいトゲを無数に光らせ、巨大トビウオはイレギュラーズたちの乗る旗艦を睨視する。
ひとたびヒレがはためけば、その鋭刃は矢雨の如く襲い掛かるのだろう。
(元々山育ちで海とは全く縁がなかったのだけど……)
胸の奥に仄かな高鳴りを感じながら、『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は旗艦から「絶望の青」を眺める。
「なるほど、冒険心がときめくっていうのはこういう事かあ。初めて分かった気がするよ」
未知への不安に彩られ膨らんでいく期待と探究心を「冒険心」と言うのかもしれない。
「さて……もっと先へ進むためにも、この障害を何とかしなくてはね」
津々流はトビウオを真っ直ぐに見据え、淡々と呟いた。
(あ、あんなに巨大なトビウオがいるなんて……)
『 Cavaliere coraggioso』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は旗艦上で思わず息を呑む。
とはいえ、彼の顔に怯えや尻込みといった感情は浮かんでいない。
(ビックリするような生き物も現象も、混沌に来てから沢山見てきたんだから……!)
「一筋縄じゃいかなそうだけど、船団の方たちの為に……騎士として、必ず道を切り開いてみせるっ!」
だが、この辺りでは絶え間なく妙な音が響き、それが様々な不快感を覚えさせた。
(この海域に広がる違和感……他では臭いもあったか)
「……まるで、警告だな」
『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は眉間に深い皺を刻む。
「絶望の青」に足を踏み入れる相応の覚悟はあるかと、すすり泣く女の声は問い掛けているのだろうか。
それはそれで上等とジョージは短く息を吐くが、自身を含め船員や仲間たちの体調に影響が出るのは好ましい事態ではない。
この「音」に対し、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)はマントの端をちぎると、船体にぶつかり跳ね上がった飛沫で濡らし両耳に突っ込んだ。
これで多少は女の泣き声から逃れられるが、それでもくぐもった調子で聞こえるそれは彼の心身を蝕もうとする。
しかし、イグナートの頑健な鋼の肉体は過酷な環境に猛然と抗う。
「そういえば、これって船酔いに似てるよね。船酔い対策が効果的な可能性もあるんじゃないかな? 船員さん、船酔いの薬とかある?」
名案を思いつきイグナートは船員に確認を取った。
船員は思い出したように救急箱を探したが、あろう事か最初にトビウオの攻撃を受け船体が揺れた際に海中に放り出されてしまったようだ。
イグナートは屈強な肉体でどうにか持ちこたえられるだろうが、船員はそうはいかない。
「大変だろうけど、何とか個々人で出来るタイショをしておいてね」
イグナートは船員たちを気遣う。
●絶望に、飛び込め
トビウオは一頻り睨みを利かせたかと思いきや、ずんと海面を大きく揺らし姿を消した。
「……正直泳ぐのは疲れるから好きじゃねぇんだが、仕方ねぇ」
海中に潜ったトビウオを見て、『うそもまこともみなそこに』十夜 縁(p3p000099)は気乗りしない様子を見せながらも旗艦から海に飛び込んだ。
すると、
「あれだけデカいトビウオです! さぞ美味いでしょうねえ!」
と、『名乗りの』カンベエ(p3p007540)も嬉々として声を上げ、
「初・絶望の青! 気合入れて参ります!」
とランプ片手に豪快に海中に身を投じる。
ジョージもまた、コウテイペンギンの姿になり颯爽と海面にダイブした。
(「絶望の青」に泳いで挑む羽目になるなんて、笑えねぇ冗談だ……)
海面を潮風が撫でる度に、誰かが泣いているような湿っぽい音が縁の耳の奥こびり付く。
(……どうにも嫌な音だねぇ)
縁は女がすすり泣いているような耳障りな音から逃れようと海中に潜った。
このまま聞いていたら、かつて水底に沈めたはずの秘密を暴かれてしまうような、そんな錯覚に囚われてしまいそうで。
幸い、海中にはその不快な音は届かない。
ジョージやカンベエにもこの音は聞こえず、体調もそれ以上悪化する様子はない。
だが、安堵などしていられない。
彼らはこれから「トビウオを旗艦に接近させず、且つ仲間たちに迎撃させるため海上に誘き出す」という最も危険な任務に当たるのだから。
(半ばわしらの踏ん張り次第で戦況が変わるこの状況……血が滾る!)
カンベエは気合十分に海中にトビウオのシルエットを求める。
●小型船、出港
縁らが海中に飛び込んだ後、『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)はすぐさま小型船を旗艦の脇に浮かべた。
旗艦や随伴艦を守るべく、ヴォルペはイレギュラーズたちを乗せ小型船で移動しトビウオを退治しようというのだ。
「これでも船の扱いには自信があるんだよ、ここはひとつおにーさんに任せといて!」
頷く猛者たちを小型船に乗せ、ヴォルペは巧みな操縦で旗艦から距離を取る。
とはいえ、彼は既に周囲の音に当てられ船酔い状態に陥っているらしい。
気遣わしげな視線を送る仲間たちに、ヴォルペは親指を立てて微笑んだ。
「心配はいらないよ、船酔いはいつものことだから! 元々乗り物酔いが激しい体質でね……ぶふぉっ!」
ヴォルペは慌てて船外に顔を突き出し、海面に向けて口を開く。
「ふぅ……何だか最初から吐きそうだなって気はしてたけど、ほんとに吐いたよ。なんて事はさておき、おにーさん、この不気味な音とかは気になるけどよく分からないものが出てこない限り大丈夫だから、安心して!」
確かに、ヴォルペは船の操縦に関しては全く支障を見せない。
彼は特殊な状況下に対する抵抗力が相当に高いようだ。
(なかなかやるね、おにーさんの高抵抗)
トビウオ退治に意気込み己の能力を高めているシャルティエも、頭がぐらりとしてしまいそうな嫌な音に両手で耳を塞ぎながら、仲間が対策を取ってくれるのを待つ。
●女の涙を拭うは……
不快感を覚えながらも、自然に関する知識に自信のある津々流は冷静に音の正体を分析する。
(この風の流れはリズムも強弱も不規則、通常の自然現象ではあまりないものだね。なるほど、この変な風が辺りの物とぶつかって共鳴しているのかなあ)
己の推測を確かめるべく周囲に精霊がいないか探すと、津々流は偶然にもこの辺りを漂う精霊に巡り会えた。
精霊に問い、返された答えはやはり「風」だ。
津々流は笛を取り出すと風の音階を正確に捉え、それとは逆位相の音の波形になるよう奏で始める。
舞い立ち昇る龍の鳴き声を彷彿とさせるその音色が、女の涙を拭うように辺りを静寂に誘った。
船員たちの苦悶に歪んでいた顔が穏やかになるのを見て、津々流は安堵の息を吐く。
「なるほどなるほどっ? これはいわゆる一つの共振現象というですかねっ?」
自然現象に詳しい津々流に対し、小型船に乗る『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は音楽的見地から不快な音の解明と対策に出た。
「分かっちゃえば対処は簡単っ!」
津々流と同様の答えに至ったヨハナはストラディバリウスを弾く。
その腕前は確かなもので、陽気な曲調は絶妙に旗艦から響いてくる津々流の笛と重なり「無音の調べ」を編み出した。
「人生に必要なことは少年漫画が、スケベなことは同人誌が教えてくれますっ! それに倣うならば、『音波攻撃は逆位相の音波を発することでそれを無効化できる』っ! ふふっ、即ちメタルは世界を救うんですっ! 癌にも効くんだもの鬱にも効くさっ! ……って、この音楽全然メタルじゃないんですけどねっ!」
静寂の中、ヨハナの底抜けに明るい声が響く。
ふと、彼女の目に旗艦の甲板で互いを気遣い合う船員二人の姿が映った。
(おおっと!?)
ヨハナの妄想が爆走を始める。
(この見渡す限りの海で、ヨハナ以外はイレギュラーズも船員さんもみーんな男というシチュエーションッ! 何も起きない筈はないと思っていたのですっ! いいですよいいですよっ、皆さん相当グロッキーですし、ああして介護めいた接触から進展なんて事も……さあ、どうぞどうぞっ、その先に進んで下さいっ……って)
「その先」を垣間見たヨハナの手が思わず止まった。
二人の船員のうち、一人が相手に向けて盛大に吐き戻したのだ。
つられるように相手もゲェゲェと吐き下し、まさに地獄絵図……介護めいた接触も進展もあったものではない。
それを見ていたらもうヨハナまでうっぷと変なゲップが出る始末。
「想像以上にグロッキーっ!?」
そう叫んだ勢いで、ヨハナもまさかのマーライオン。
四つん這いになってまじまじと吐瀉物を見つめて慟哭する。
「ナンジャコリャァーーーッ!!」
だが、殉職なんかしていられない。
口を必死で閉じながら、ヨハナは小型船で音を奏で続けた。
●絶望を、釣り上げろ
縁は海中で目を凝らし、トビウオの巨大なシルエットを捉える。
(……ったく、何を食って育ったらそんだけでかくなっちまうのかね)
すると、トビウオも縁の気配に気付き、ぎゅんっと急旋回しながら彼を尾びれで叩いた。
あまりの剛力に彼の筋骨は軋む。
ジョージも別方向からトビウオに回り込むが、返す刀ならぬヒレでトビウオは彼を海底の岩に叩き付けた。
追撃に出ようとするトビウオに、今度はカンベエが挑む。
カンベエはなるべくトビウオの頭部が海面を向くような位置取りを意識しながら、
「ワシがカンベエで御座います!!」
と威圧的な視線をぶつけて立ちはだかった。
トビウオは怒濤の神速で彼との距離を詰めると体当たりを食らわせる。
カンベエは不動の構えでどっとそれを受け止めるが、膂力の差だろうかとてつもない衝撃が彼の全身を巡った。
それでもカンベエは歯を食いしばりトビウオの前進を妨げる。
何が何でも止めて海上に誘き出そうと、カンベエは必死だ。
カンベエが引き付けている間、痛みに耐えつつ縁はやれやれと溜め息を吐いた。
(トビウオの海種なら知り合いにも何人かいるが、陽気な連中ばっかりでこんなに凶暴な奴は知らねぇなぁ……こりゃ、手っ取り早くお帰り願おうや)
縁は気怠げに
「……それにしても、ここいらにはお前さんみたいなおっかねぇのがぞろぞろいるのかい? ちょっくら帰って、どこかで会っても俺たちのことは見逃すよう仲間内に広めておいてくれると助かるんだがねぇ」
と言葉を投げる。
トビウオが縁の言葉を理解しているようには見えないが、気怠げな様子の彼を侮っているのは何となく分かった。
「こいつらなら食える」とでも思ったのか、トビウオは大口を開け手始めに直近のカンベエに噛みつく。
想像以上に太く鋭い牙がカンベエに食い込み彼の肩を持っていったが、カンベエは退かない。
(海上の被害は最小限に抑えたいんでね、とことん気張ると致します!!)
「そちらがその気なら、こちらも食ってやるつもりで参りますよ! そうですなあ、旬かどうかはともかく……せっかくなんで刺身で頂いてやりますよ!」
そう言い放ち、カンベエはちらりと縁を見やった。
(気分を上げるためにも、わしはわしで勝手に競わせて頂きましょう――どちらが攻撃を多く受けきれるか! 共に絶望の青に身を投じる者同士! 篤と死合いましょうや!)
一方、ジョージは体勢を立て直した後トビウオの頭上に移動し、ひらひらと手足を動かす。
縁への反応を見た限り、このトビウオには言語を理解するだけの知能は恐らくない。
(身振り手振りで挑発するのも一手だろう……多少、釣り餌になった気分もするが)
カンベエに執心していたトビウオは、頭上をちらつくジョージに気付き辺りの海水ごと押し上げるかのように猛然と迫った。
ジョージは全速力で海面に浮上する。
(これ以上怪我人を増やされて俺が余分に駆り出されるのも御免だしな……さっさと終わりにするか)
縁も海面に浮上し、それに続くようにカンベエも手負いの体を押して海上に浮上した。
三人が海面に顔を出した直後、あっという間にトビウオの黒い影が彼らの足下に迫る。
カンベエは小型船に向けて大音声を発した。
「お披露目に御座いますよ!」
●絶望を、叩け
トビウオが海面を大きく揺らしながら巨体を露わにする。
「オレのジモトだとトビウオのことはアゴって呼んでるんだけれど。ウマいよね、アゴ」
イグナートはそう呟きながらバックパックを噴射させてトビウオの直上まで移動すると、その脳天目がけて雷撃の肘鉄を振り下ろした。
トビウオの目がギョロリとイグナートに向くが、彼はすぐに小型船まで後退する。
すると、トビウオは大波でひっくり返りそうになる小型船に狙いを定め、ヒレを広げた。
ヴォルペは周辺への被害を抑えるべく結界を張り、シャルティエは影を展開させながら小型船の上を動き回りトビウオを惑わす。
大量のトゲが小型船に放たれたが、僅かに軌道が逸れトゲの大半が海面に刺さって海底に沈んだ。
数本のトゲは小型船上のシャルティエの盾を粉砕したが、彼の盾が犠牲となったおかげでイレギュラーズたちに怪我はない。
「光をもたらす騎士・シャルティエ・F・クラリウス、ここにあり!」
叫ばれた口上にトビウオは海面すれすれまで身を沈めて怒濤のスピードで小型船に迫る。
シャルティエは得物を構え、トビウオのパワーを上手く利用し自身の膂力をぶつけた。
強烈なカウンターを受けトビウオは海中に潜ったかと思いきや、猛烈な勢いで再び海上に飛び出し今度は旗艦に突進する。
「おにーさんが居る限り船は沈めさせないぜ?」
ヴォルペがそう口上を述べてトビウオを挑発し小型船を回り込ませると、
「船団には絶対に近付けさせませんよっ!」
とヨハナはストラディバリウスを凄絶にかき鳴らした。
「高らかにやってやりましょー!」
トビウオがターンして小型船との距離を縮める。
ヨハナは
「謎の声諸共ぶっ飛ばしてやりますよっ!」
と衝撃波を叩き付けた。
更に、
「それ以上船には近づけさせん!」
とジョージが全力でトビウオを止めようとする。
(あの音が上手く相殺されている……ヨハナ嬢の音楽はよく効くな。幽霊の正体見たり枯れ尾花、という訳か。ヨハナ嬢の演奏を止めないためにも、ここは踏ん張らなくてはな)
トビウオは規格外の巨躯とパワーでジョージを押すが、その間に「おにーさんの高抵抗」が破壊力となってぶつかった。
動きが僅かに鈍ると、トビウオは後退しヒレを広げる。
ヴォルペは再度トビウオに朗々と声を発した。
直後、大量のトゲが彼を直撃する。
確実に余力は削がれていたが、ヴォルペのテンションはむしろ上昇傾向。
「楽しくなってきた!」
満身創痍で挑発するヴォルペに、トビウオはトゲを飛ばした。
鋭刃にめった突きにされ彼の意識は一時完全に途切れる……が。
「おにーさん、こう見えてお仕事はきっちりやるんだよ」
ヴォルペはパンドラの力で踏みとどまる。
(あのトビウオの動きをもっと鈍らせる事が出来ればなあ……)
津々流は錬り出したオーラの縄を投げつける。
縄の端が鋭いトゲの先に絡まると、トビウオはトゲを飛ばすにも四苦八苦となった。
その隙に津々流は仲間を順に癒し、ジョージは海面に潜る。
(魚も動物も、臓物のある腹を狙われるのは嫌がる筈だ)
ジョージはトビウオの腹の下に入り込み痛烈な一打を叩き込んだ。
「怪魚だろうと怪物だろうと、行く手を阻むなら容赦はせん! 力ずくでここから排除する!」
体をへの字に曲げたトビウオに追撃が入る。
「僕の妖精はなかなか勇敢でね……試してみるかい?」
津々流が妖精を向かわせたのだ。
一直線にトビウオに襲い掛かるその様は、獲物に噛みつく猟犬の牙を彷彿とさせた。
トビウオの注意が津々流の妖精に向いている隙に、イグナートもまた再び距離を詰め雷撃の一打。
バチバチッと鱗が反り返り、のたうつトビウオはトゲを飛ばした。
イグナートは全身に傷を負うが
「……どっちが食糧なのか、思い知らせてやろうじゃないか!」
と乱撃に出る。
これにはトビウオも反応出来ず、ヒレの付け根に裂け目が生じた。
どくどくと流れ出すトビウオの血……好機だ。
イグナートはトビウオの脳天にひたすら雷撃を叩き込む。
いよいよふらつき出したトビウオに、縁は内に高まる闘気を火焔に変えてぶち込んだ。
鱗を焼かれたトビウオは怒り狂い至近距離からトゲを飛ばすが、縁は眼前のトゲを躱すとヒレの先端を掴んで投げに出る。
一陣の風の如く鮮やかな投げを見せ、縁はトビウオを上空まで跳ね上げた。
とうとう片方のヒレがトビウオの体から裂け落ち、海底に沈んでいく。
跳ね上げられたトビウオは海面に体を激しく打ち付けた。
イレギュラーズらは追撃を警戒するが……トビウオはそれきり海中に沈み、二度と浮上してはこなかった。
●船は進む
あのトビウオはどうなったのだろうか。
刺身にしようと思っていたカンベエも、アゴダシ料理を秘かに楽しみにしていたイグナートも、終ぞ捕らえられなかった事だけは心残りだろう。
だが、船は前へと進み出した。
この先に何が待ち受けているかは分からないが、きっと巨大トビウオ以上に心昂ぶる存在にも巡り会えよう。
後日、巨大なトビウオの死骸がこの海域を漂う事になるが……前を見据えるイレギュラーズたちがそれを目の当たりにする事は恐らくない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
皆様、この度はシナリオ「呪歌に舞う鋭刃」にご参加下さり、ありがとうございました。
そして、大変お疲れ様でした。
巨大トビウオは皆様の前では満身創痍で撤退しましたが、あれだけの傷を負わせられていましたので結局は死んだようです。
即死というわけにはいきませんでしたが、皆様のお働きはとても素晴らしいものだったと思います。
時折笑いを挟みつつの真剣なプレイングに、北織も精一杯のリプレイをお返しさせて頂きます。
このリプレイが少しでも皆様の冒険を彩り、思い出の一端を紡ぐ一助となれば幸いです。
なお、今回のシナリオでは、海中での動きと冷静な分析、そしてここぞの一打に秀でていたあなたをMVPに選ばせて頂きました。
そして、高抵抗を武器に懸命に小型船を操り旗艦を守ろうとしたあなたに称号をプレゼントさせて頂きます。
ちなみに、重傷者の方ですが……あなたのガチな頑張りは素晴らしかったです。これは名誉の負傷です。
シナリオを成功に導いて下さった皆様に、心より御礼申し上げます。
ご縁がございましたら、またのシナリオでお会い出来ます事を心よりお祈り申し上げます。
GMコメント
ご無沙汰しております、マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。
●成功条件
巨大トビウオの排除
※トビウオの生死は問いません。
※たとえ殺せなかったとしても、船団の針路から排除するつまり敗走させる事が出来れば十分成功です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は起こりません。
●基本的な状況
〈巨大トビウオ〉※一部PL情報です。
・とにかく大きいです。
・暴れられると大波が立ちますし、まともに体当たりされたら船も沈没させられてしまうでしょう。
・海面に身を出して翼のようなヒレを広げたら要注意です。ナイフのような大量の巨大トゲが豪速で飛来します。
・トゲには毒などはございませんが、威力が半端ないので食らったらかなり酷い怪我を負う事になるかと思います。
・知能は決して高くありません。当然ながらコミュニケーションは取れませんし、皆様の事は「食糧」と認識する程度です。
・ただし、通常の魚が持つ程度の知能はありますので、「攻撃が来たら避ける」など最低限の回避行動は取りますし、「このままでは命がいくつあっても足りない」と本能的に悟れば撤退します。
・動きは海中ではかなり速いですが、海面に姿を現している状態では確実に鈍ります。
〈謎の音〉※ほぼPL情報です。
・「女性のすすり泣くような声に似た音」が辺りに聞こえるようですが、こちらは死霊の声などでもなく単に「風」です。ただ、不思議なリズムと速度で吹くので、周囲のあらゆる物と共鳴して「不気味な音」を奏でています。
・根源が「風」という自然現象なので、皆様の力で簡単に取り除いたり止めたりする事は出来ません。
・「聞いた者に酷い不快感を与える」周波数の音で、聞き続けていると吐き気や頭痛など乗り物酔いに似た症状が出ます。
・自然現象の産物ではありますが、状態異常への対策を適切に取る事が出来ていればかなり影響を抑える事が出来ます。
●その他参考情報
時間帯は昼間、微風です。
気温・室温共に「高くも低くもない快適な温度」です。
それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。
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