シナリオ詳細
<Despair Blue>プルシャン・ブルーへ赴く船
オープニング
●シズメ
サムイ。
クライ。
ヒトリボッチ ハ サミシイネ。
ヒトリボッチ ハ サミシイヨ。
サキ ニ イカナイデ。
ココ ニ ズットイテ。
ダッテ、
ボクハ、
ワタシハ、
オレハ、
モウ ソノサキ ニ イケナイ カラ。
●甲板にて
「……おっかしいなぁ……」
ガリガリと頭を掻く海洋の操舵士。前に進んでいるはずなのにと愚痴る彼は後ろを振り返った。視界に映るのはイレギュラーズたちと、その遥か先にある見慣れた海。視線を前へ戻せばひたすら続く薄霧が広がっている。
一同は『絶望の海』に入って早々、全く進んでいないような状態にあった。
「……なんだろう、この、モヤモヤするような……ええと、そう。嫌な感じ」
これが『絶望の海』か、と顔をしかめる『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。慣れぬ航海からか、それとも『絶望の海』という場所からか。やや気分が優れないようだ。
最もそれは皆同じ。数日前から胸騒ぎと心身の調子の乱れを感じるような──気がする。気のせいと言ってしまえばそれまでだが、船の上で何かの病気にでもかかったら大変だ。この狭い空間の中であっという間に病は広がってしまう。
皆も同じような調子であることに気づいたシャルルは深呼吸した。体調の乱れで視野が狭くなってしまうのはいけないと。
「ちゃんと休息をとって、いざという時に備えないとね」
アンタたちも休める時に休んでおきなよ、と釘が刺さる。そこへ操舵士の声が上がった。
「な、なんだあれは……! ウチの国のモンじゃないぞ!」
顔を上げれば、薄霧の中に船影。大きなそれは明らかに海洋の船ではない。逃げる間も無く迫ってきた船は、やがてその全貌をイレギュラーズの眼前へ晒す。
幽霊船だ、と誰かが言った。
大きな船はひどく損傷し、通常なら航海などできない──それどころかとっくに沈んでいるだろう。それでも海の上を走り続ける様は、まさに『幽霊船』だった。
「……うん?」
シャルルがふと眉を寄せる。彼女が指差したのは甲板だ。そこでチラチラと動いているのは──人ではないか?
「イレギュラーズさんたちよぉ! 船はうまく横付けする、こいつをなんとかしてくれ!」
操舵士が叫ぶ。おそらく進めない原因はこいつだ、と。彼は幽霊船の横に開いた穴を指した。
「あの辺りなら入れるはずだ! 悪いが侵入の仕方は任せた!」
ロープなら使え、と後方を顎で示す操舵士。イレギュラーズたちは近づいてくる穴と、甲板の方を見た。
霧によって、甲板の全貌は掴めない。飛行手段を持つ者は甲板まで飛び上がることもできようが、相手からの不意打ちが来る可能性は否めないだろう。安全を取るならば、やはりあの穴から侵入し、甲板へ上がる他あるまい。
「……休んだら、って言ったばかりなのにね」
仕方ないか、と肩を竦めるシャルル。休むにしても幽霊船をどうにかしてからだ。
- <Despair Blue>プルシャン・ブルーへ赴く船完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年02月09日 21時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
キィ、ギギ、キィィィ。
船に使われた木がまるで悲鳴のような音を立てる。どんどんと近づいてくるそれに『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は感嘆の声を上げた。
「幽霊船じゃん! さすが『絶望の青』、雰囲気出てるねー」
海洋国の近海でも全く見られないことはないだろうが、珍しいことに変わりはない。実際、見たことのないものばかりであろう。
「すごいな。僕、幽霊船は初めて見るよ」
「ああ。船乗りなら嘘か真か、遭遇話を聞くものだが」
本物は初めてだ──と『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)に頷く。その隣で『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)は「うへー……」と何とも言えない声を出した。
「ボロボロですね……此処から先はこんな船が大量に見つかったりするんでしょーか……」
マリナ自身の乗る船はギフトにより、船の形を保っている限り沈まない。けれどこの幽霊船はその限りに含まれないほどボロボロだった。具体的に言えば、前半分くらいしかない。どんな原理で浮かんでいるのか甚だ疑問である。
そしてそんな状態を見れば、自分の船もこうなるかもしれないと思うわけで──正直、ゾッとする。
(霧で幽霊船……糞親父の船かと思ったけど……違うみてぇだな)
『蛸髭 Jr.』プラック・クラケーン(p3p006804)は幽霊船を見上げながらどこか複雑な表情を浮かべた。父の船であったらという期待──には及ばないかもしれないが、心のどこかで霧の中の幽霊船に父の影を捜してしまう。そして違う事にほんの少し落胆が混じってしまうのは、あの背中を追い越したいという思いから。
「いかにもな感じの幽霊船じゃの」
『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)は媒体飛行でゆっくりと浮かびながら幽霊船の横っ面に空いた大穴へ向かう。磯の香りの中へ降り立ったデイジーは、脆くなっている中でも唯一まだ無事そうな柱へロープを見つけるとジョージが投げたロープを受け取った。括りつけて声をかけると史之がロープを引っ張り、安全を確認する。
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442) はロープを頼りに幽霊船へ乗り込むと外を見やった。ずっと進んできたからか、それとも──ともあれ、外は一面に薄い霧が漂っている。それがただの霧でないだろうことは薄々感じていたが、きっとこれは。
(……寂しさ、悲しみ……この漂う感情は、亡くなられた方たちのものなのか)
かすかに、けれど重く訴えかけるような霧(感情)に、リゲルは小さく目を伏せる。海は広い。どこまでも続く大海原は未知への期待と共に、絶えることのない孤独感を与え続けていた。いや、亡霊になった今も与えているのだろう。それはリゲルに計り知れないものだ。
「リゲル」
「ん、……ああ、すまない」
呼ばれて振り返ると、同じくロープで渡ってきた『Blue Rose』シャルル(p3n000032)がこちらを見ていた。その瞳は霧の淡さを写し取ったような色をしており、普段の水色より淡く見えた。
「……具合、悪い?」
「いや、ここで亡くなられた方たちのことを考えていたんだ」
同じように視線を向けるシャルル。けれど彼女にはよくわからないのか、小さく首を傾げる。穴の外には徐々にこちらへ向かってくる仲間たちと、噴水に乗ることで移動をサポートするプラックの姿が見えた。
「……うーん。何とも言えないけど……空気が重いっていうのかな。そういうのから何か思うんだ?」
「そうだな。俺も直接聞いたわけではないから絶対とは言えないけれど、何となく感じた……というのかな」
へぇ、とシャルルが興味深げに聞いている間に最後の1人、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が部屋の中へ辿り着く。その磯臭さに思わず口と鼻を覆った仲間を見て、リゲルはこんなこともあろうかと用意しておいたマスクを配った。どれだけ効果があるかわからないが、ないよりは良い。
松明を持ち込んだマリナ、この事態を想定して灯りを用意した史之、ギフトで光源を作り出したリゲルと焔によって船内は随分と明るく見渡すことができた。誰か──少なくとも個室を与えられるほどの地位だろう──の部屋だったらしい。ひどく損傷している机とハンモックの跡が辛うじて『そうだったのだろう』と判断させる。ハンモック自体はイレギュラーズが侵入してきた穴からどこかへ流されてしまったのかもしれない。
「この机は……あ、備え付けだったんだね」
机に手をかけた焔が気づく。壁へ強固につけられた机が動かない。引き出しのあった場所は劣化して底が抜けており、中身もないようだ。
ウィリアムは仲間の光源を頼りに腐りかけの木箱を覗く。マスクをしていても中々の刺激臭だが、ウィリアムは木箱の中で流されず残っていた手記を──拾おうとした。
途端、ぼろりと崩れる紙の束。濡れたところで幽霊船が海上へ移動して乾き、ボロボロになってしまったのだろう。
他の遺品もこうであるのなら、持ち帰れるものは少なそうだ。
「さて、そろそろ探検に出発するかの」
簡単に船室を捜索し終えた仲間たちへデイジーが声をかけ、ファミリアーのトカゲを放つ。ちょろちょろと動き回るトカゲはデイジーの命令を受け、廊下へと出ていった。
「それじゃあ、先頭は身軽なボクがっ!」
はい! と焔が手を上げて先頭へ行く。一同は光源を使いながら、慎重に進んでいった。
デイジーがファミリアーを先行させて怪しかった場所を伝え、焔もまたカグツチで床の感触を確かめながら進む。トカゲより重いものに耐え切れなかった床が焔の足元で崩れることもあったが、軽い身のこなしでそこを切り抜けた焔はギフト≪神炎≫で廊下を明るくした。
「危なかったね……あ、こっちは大丈夫そうだよ!」
入り込んだ海水が揺れる様を眺めた焔は、廊下の端──唯一落ちなかった部分を指す。最も、ここまで落ちたら下に満たされた海水へドボン、だろうが──その時は水中に親和性のある仲間が活躍してくれることだろう。
幸いなことに誰も落下せず廊下を渡り切り、一同は階段を上がる。その先は霧が広がっているようだった。
『……甲板だね』
『鬼が出るか蛇が出るか……って骨だよね、わかってるよ』
ひそひそ声で喋りながら史之が片手を上げる。孤立しないようにとリゲルに告げられたシャルルは小さく頷いた。
防御技術に特化した者からという史之の言葉に名乗り出たのはプラックだ。元々骨たちを大量に引き付ける気満々だったので丁度良い。
『それじゃあ行くぜ』
仲間たちが頷いたのを確認し、プラックは高位魔術を発動させる。自らの才では十分な力を出し切れないことは十二分にわかっている。なればこそ──全力で叩き込み、ジャックまでの道を作るまで!
デッドボーンたちの中から突如として大津波が起こる。ばきばきと折れる骨もいる中、窪んだ眼窩にともされた光がプラックを捜し──見つけた。
「そこを通してもらうぜ!!」
もう1度、と大津波を起こすプラックに合わせ、イレギュラーズたちは次々と飛び出していった。
●
デイジーの放った呪いがデッドボーンたちを潰していく。その隙にとジャックを目指すイレギュラーズたちは出来上がった道を走り抜けた。それを追おうとする沢山のデッドボーンに立ちはだかる史之。
「俺は秋宮史之。この海を『希望の青』へ塗り替える者! さあおいで、俺が行くべきところへ送ってやるよ!」
仲間たちに向かおうとする敵も巻き込んでの名乗り口上に、いくつもの光が史之へ突き刺さる。
──コノ ウミ ニ キボウ ナンテ ナイ
声帯を震わせることのできない骨たちは、それでも目となる光で訴える。そんなことできやしないと。けれどそれを史之は真っ向から見返した。敵の死角をも見抜く瞳は、この海に出ても未だ希望を捨てていない。
大波のようにデッドボーンたちが史之へ群がっていく。ウィリアムはその脇を駆け抜け、無限の紋章で呼び起こされる力のままにディスペアー・ブルーを歌った。
「……さぞ無念だっただろうね。でもだからといって、僕たちの足まで掴んで引こうとするのは困るな」
絶望の青を歌う声はジャックを、そして取り巻きのデッドボーンたちを苛む。どれもこの海域に挑み、敗れた先人たちなのだろう。けれど邪魔をするなら力で押し通るまでだ。
ジャックの周りから一時的にデッドボーンが消滅する。そこへ真っ先に踏み込んだのはリゲルだ。透視で甲板が比較的丈夫であることに気づいた彼は、ならばとジャックへ近づきながら円陣を浮かばせる。
「申し訳ありませんが、貴方たちと共に逝く事はできない」
火の球が円陣を、その上にいるジャックを目標にして嵐のように降ってくる。自らをも巻き込むそれは、確かにジャックの気を引いた。ぎょろりと片目しかない眼球がリゲルを向き、マスクでも防げないほどの腐臭が肌を刺す。『死』が間近に存在している。
(だが、まだこの世界でやるべきことが沢山あるんだ)
それは絶望の青を越えていくことも勿論だが──父の遺した言葉があるから。
「そう、ボクたちは君たちの代わりにこの先のことを見てくるんだ!」
肉薄し、高められた闘気を炎のように揺らめかせて焔が猛撃する。腐りかけの肉体だというのに見合わぬ機敏さを見せるジャックは、確かに名の知れた海賊だったのだろう。
「志同じくした者同士ですが……下手に情けなんてかけず、安らかに沈めてあげたほうがよさそうですね……」
凍てつく弾丸がマリナの魔導銃から放たれる。シャルルの援護攻撃が続いた。そこへ更にジョージが海洋式格闘術でジャックへ挑む。
(絶望の青へ進む。その航路に立ち塞がるなら、打ち砕くまでだ)
機械の片腕。その話をジョージはボスから聞いていたような気がした。消えた海賊の1人だと。
その海賊の末路が──いや、このような姿で海賊だなどと。
「絶望の青に魂まで囚われたか。……自由であれ。それが俺たち(海賊)だろう」
ジョージの言葉を聞いても──いや、聞いているのかすらわからない。聞いて、認識しているのかすら定かではない。
それでも、叫ぶ。
「身体と一緒に海賊のプライドまで腐ったか? 来い、片腕。ここから解放してやる!」
作り上げた噴水を推進力に、強烈な一撃を叩き込んだプラック。精神力の消耗を感じながらも自らを殴って気合を入れる。
「ってぇ……だが、これでまだいける!」
再び起こる大津波。デッドボーンたちを押し流しても、ずっとどこかで感じているような気がする不快感は残り続けていた。磯の臭いに慣れているプラックとしては『何か違う臭い』のような気もする。
そんなプラックの呟きを聞いたデイジーもまた何だったかと首を傾げ、近いような気がする臭いのものを挙げる。どうしてそんな臭いがするのかわからないが、同じような類の気がするのだ。
などと言葉を交わしながらも、お互い攻撃の手は緩めない。デイジーは冷たく輝く小さな月を現出させる。兎に角弱らせて、その隙に攻撃を叩き込まねば。
「俺の名乗りの範囲内からあまり出ないよう、気を付けて」
「わかった。……大丈夫?」
後衛からジャックへ攻撃していたシャルルがちらりと史之を見る。仲間たちへ向かう敵の手を防ぐ史之は──プラックも勿論だが──傷だらけだ。けれど彼は力強く頷いて見せる。
「これぐらいできなきゃ、イザベラ女王陛下には目を向けてもらえないよ」
実際のところはわからないが、少なくとも『ただの兵』では見てもらえない。海洋王国事業貢献点もまた然りというやつだっただろう。
骨の波に飲み込まれた史之は、しかし次の瞬間デッドボーンたちを吹き飛ばす。自らの持つ可能性──運命力で再起した史之は天使の歌を響かせた。すかさずウィリアムがハイ・ヒールで体力の底上げをする。まだまだデッドボーンたちは生まれてくるが、だからと言って降参するわけにはいかない。
(僕たちは道半ばで倒れていった人たちの分まで、この先へ進まなければ)
偉大なる先人たちに続くために、さらにその先へ進むのだ。
「もう充分じゃろ、絶望の海は妾達に任せて大人しくおねんねするのじゃ!」
デイジーが渾身の力で悠久のアナセマを向ける。腐肉を垂らしながらも立っているのは流石と言うべきか。剣を交えるリゲルはその瞳に生者の光がないながらも、剣の腕はジャックのそれなのだろうと感じていた。
(やはり海で腕を失くしたのだろうか)
機械の腕は錆びていても彼が戦うための力を与えている。生前もこうして、絶望の海を目指していたのだろう。
そんなリゲルに回復を送るマリナはちらりと戦場をみやり、いなくなっている──落ちたりしている──仲間がいないことを確認する。
「もう休んでいいんだよ」
そう口にしたのは焔だった。炎のように闘気を揺らめかせながら、その瞳には決して屈しない光が宿っている。
この先が気になるのなら、伝えに来よう。どんな場所があったと。どんな生き物がいたと。だからここで彷徨い続けなくて良いのだ。
史之が大部分を引き受けたデッドボーンが、ジャックを守ろうとすり抜けてやってくる。暴風域で粉砕したジョージは鋭くジャックを見据えた。
「絶望の青の先を望むなら、俺たちが先を見せてやる」
ここで沈み──されど、共に行こう。
ジョージの言葉は死した者に届かないはずなのに、どうしてかジャックの瞳に一瞬光が宿ったような気がして。
「今は──安らかにお眠り下さい!」
煌めく銀閃。ガシャンとサーベルが堕ちる。
必殺の剣技は、心臓の動かない体をようやく止めたのだった。
●
肉が、骨が。溶けて崩れて、甲板へと広がる。
(ジャックを倒せばさすがに退きますよね……実は敵の本体が船でした……なんてことはないですよね……?)
頼むから退いてくれ、と願うマリナに呼応したかは不明だが──ジャックが崩れた瞬間、デッドボーンたちの動きもぴたりと止まった。静かになった戦場で、突如大きな揺れが起こる。
「船が動いているのじゃ!」
「振り落とされそうだね……っ」
慌ててヘリに捕まったウィリアムは自分たちが乗ってきた船を視界に入れた。その上で操舵士が必死に叫んでいる。
う み へ と び こ め 。
「皆!」
ウィリアムの声にイレギュラーズたちの視線が集中する。そして彼の口から伝えられた内容に、イレギュラーズたちは走り出した。
「溺れそうになったら俺を呼んでくれよ!」
助けに行くぜ! とプラックが1番乗りでヘリを蹴り、海の中へ。大きめの水柱が上がる。
「いやボク海水無理……っ」
シャルルが引きつった表情で走り、ヘリに足をかける。塩水に浸かったらあっという間に薔薇がしおれそうなのだが、だからと言ってここに留まっていてもどうしようもない。幽霊船は動き始めているのだから。
覚悟を決めて船縁を蹴った──次の瞬間、シャルルは宙に浮いていた。
「……え、」
「シャルルさん、大丈夫?」
上から史之の声がする。戦闘で傷だらけになりながらも、飛べる彼がシャルルの腕を掴んで抱えたのだ。ここで攻撃でも来ようものなら2人仲良く海の藻屑となるところだが、史之は無事シャルルを支えたまま船へ戻ることができた。
他の仲間たちも自らの力や仲間たちの助け合いで船へ上がり、幽霊船の行く末を見る。
(何か……何でもいい、遺品を持ってこられたら良かったんだけど)
認識票があれば最も良かったのだが、乗り込んだ時に軽く探した程度では見つからなかった。あの時の調査を思い出す限り、あったとしても劣化は激しかっただろう。
それでも──遺族にも、悲しむ権利位あるはずだから。
「……どーせなら幽霊船はちゃんと沈めて処理してあげたかったのですが……その必要はないようでごぜーますね」
そう呟くマリナの声は、どこか安堵のようなものが入り混じっている。
幽霊船──亡霊のように彷徨う沈没船。撤退し、再び眠りにつくならその先は海の中。
大波が起こる、と船を離脱させ始める操舵士。その間にも幽霊船は進路を海中へと向ける。ばらばらと甲板にいたデッドボーンたちが海へ沈み、追うように幽霊船も海へとその身を沈めていた。
その光景にリゲルが十字を切り、黙祷を捧げる。あの場では祈りを捧げられなかったウィリアムもリゲルに続いた。
彼らの悲しみや寂しさが完全に癒えることはないかもしれない。けれどせめて安らかなる旅路へ向かえるように。その旅路の途中で、いつか──それらが少しでも癒えるように。
「……む、それはどうしたのじゃ?」
デイジーに声をかけられたジョージは手元へ視線を落として遺品だ、と呟いた。錆びたそれへ顔を近づけたデイジーは「臭うのじゃ」と顔を小さく顰める。
この海で沈み、命を落とした海賊──『片腕』ジャック。船を動かすほどの執念があった男。
(海で産まれたものは海へ還すが、ついでだ)
貴様の絶望の海の先に連れて行ってやる。
ジョージが言葉を落としたそれは、ジャックの機械となった指の1本だった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした、イレギュラーズ。霧は晴れ、先への航海が可能となりました。
さあ、進みましょう。
女王に一途な貴方へ。仲間に攻撃が向かないようデッドボーンを引きつけた貴方へ、今回のMVPを贈ります。
黒きカモメの貴方へ。どうか、彼を連れて行ってあげてください。称号をお贈りします。
またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
GMコメント
●成功条件
幽霊船を撤退させる
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●敵軍
・『片腕』ジャック
昔、『片腕』と呼ばれた海賊です。絶望の海へ挑戦して行方知れずとなっていました。
今は動く死体となりながらも、生前と近い強さを誇っています。船が機能しているのは彼の力に依るようです。
死体なので腐ってます。とても臭いです。片腕と称された腕は生前と同じように機械の腕をつけていますが、ひどく錆びています。辛うじて盾くらいにしかならないでしょう。
サーベルを持ち切り掛かってきます。命中回避に長けた分、防御技術は低めです。腐肉がでろんってします。
・デッドボーン×たくさん
動く人骨です。何もない眼窩に光を灯し、やってきた者を排除にかかります。いなくなってもまたどこからか湧きます。
耐久性が非常に低く、人骨自体が脆くなっているため反動ダメージで体が砕けていきます。亡霊のため、自分の体が崩れることに対しての恐怖はありません。
ひたすら数で押してくるタイプです。
●友軍
・『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
元精霊の旅人。そこそこ戦えます。
指示がなければ中〜遠の神秘攻撃でイレギュラーズを援護します。
●フィールド
幽霊船です。周囲は霧に包まれており、船より外側から向かう、攻撃するなどの行為は総じてデメリットが生じます。
侵入する穴は海洋船よりほど近く、ロープがあればさらに安全に侵入できるものです。中は個室だったらしく、しかしその面影をなんとか見出せる程度にボロボロです。
甲板までは何事もなくたどり着けますが、あちこちが脆くなっています。慎重にいかないと足元が抜ける……かもしれません。
全体的に磯臭いです。
●ご挨拶
愁と申します。
絶望の海は危険がいっぱいです。体調管理も気をつけて、手始めに幽霊船をどうにかしましょう!
ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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