PandoraPartyProject

シナリオ詳細

夜の道

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その暗き道行きは
 黄昏はあちらへの入口、人ならざるモノが棲まう世界の境界線。
 昼の住人である人間は、黄昏より先には行こうとしない。
 何故ならば、夜の住人である異形は人間を喰らうから。喰われずとも、夜の世界に迷い込んだまま朝を迎えてしまうと、人間は夜に囚われて夜の住人になってしまうから。
 ただ、間違えて迷い込んでしまう者も稀にいるーー

「おうち、どこ……?」
 幼い少女が泣きながら木造家屋の建ち並ぶ道を歩く。
 街灯が等間隔に立ち道をほんの少し照らしているが、遠くを見通すことが難しいほどに薄暗い。
 カタカタカタカタと屋根の上から何かが嗤う。見上げてみれば子供の大きさの生き物が細い首を震わせて出歯を剥いている。目は中央に一つで、少女を見下ろす。
 その下の家と家の隙間にはムカデのような生き物。長い人間の胴体に、虫の脚と人の脚が滅茶苦茶な順序で生えている。顔は能面のような無表情であり、ぎょろっとした目が少女を見つめる。
 後ろを振り向けば、黒い霧のような生き物。その霧の体には無数の大小様々な目玉が浮かんでいて、少女を見つめる。
「ヒッ」
 それら異形の視線に少女はか細い悲鳴をあげる。
 夜の住人である異形は全てが少女を見ている。ケタケタ嗤う異形は涎を垂らしている。少女を食べる気満々なのが見て取れる。
『美味しそう……』
 霧の異形からした呻き声のような声が、その意図を明確に伝えてくる。
「い、イヤ……!」
 少女は走り出す。
 どこに行けば良いかはわからないけれど、この場から離れなければいけない。
 少女が走り出したと同時に異形達も少女を追いかけ始める。嗤いながら屋根の上を、ジグザグにうねるように家の隙間を、ゆらゆらと浮かびながら少女の後ろを。
 果たして少女は助かるのか。それとも異形に喰われてしまうのか、夜の住人となってしまうのか。

●夜の世界からの救出
「昼と夜、人間と異形が分けられた世界で、間違って夜の世界に迷い込んだ小さな女の子を助けて欲しいんだ」
 集まったイレギュラーズに境界案内人であるカストルが言った。
「異形は人間を食べるし、逃げ切れたとしても夜の世界に囚われたままだと女の子も異形に変わり果ててしまう」
 救う方法は一つだけ。
「女の子を家まで送り届けるだけだよ」
 家は人が帰る場所、夜から人を守るもの。そこに辿り着けば夜が明けるまで待っていれば良い。夜は家まで侵すことはできない。
「ただし、女の子の家以外は入れないみたいだから気を付けてね?」
 それじゃよろしく、とカストルはイレギュラーズ達を送り出した。

NMコメント

 皆様、お久しぶりもしくは初めまして。灯火(とうか)と申します。よろしくお願いします。
 今回は異形が棲む世界に迷い込んでしまった女の子を助けるシナリオとなっています。夏にはまだ早いですがホラーテイストです。お目に留めていただけると幸いです。

●シチュエーション
 昼と夜で分けられた世界、木造住宅が建ち並ぶノスタルジックな雰囲気と恐ろしさを感じさせる夜の道。
 明かりは約十メートルほどの等間隔で並べられた街灯のみ。街灯が照らせる範囲は約三メートル程度。

●しなければいけないこと
 イレギュラーズの皆様は少女を家まで無事に送り届けてください。家は少女が教えてくれます。少女の家までは、普通に歩けば十五分ほどで到着します。少女の家以外は絶対に入ることはできません。
 異形はそれぞれ独立して動きます。連携してくることはありませんが、追いかけてきたり、行く手を阻んできたりします。上手くかわして逃げてください。
 異形は生き物でありますから、何かしらの攻撃などは当たるかもしれませんし、目を逸らすことも可能ですが、戦って勝てる相手ではありませんので、極力逃げる方が効果的です。

●異形
【一つ目鬼】
 子供のような姿をした一つ目の異形。
 屋根の上を四つん這いで走ってきます。道には降りられず、屋根を跳び移りながら移動します。
 舌が十メートルほど伸びるため、それを巻き付けて少女を奪い去ろうとします。

【百足能面】
 能面のような無表情な顔、幾つもの男女の胴体が繋がった節状の体と虫と人間の脚が無数に秩序なくバラバラに生えているムカデのような異形。
 長さは五メートルくらいで、家々の隙間を移動し、飛び出てきて少女を奪い去ろうとします。
 灯りの下には出られません。

【黒霧】
 黒い霧の中に大小様々な目玉が無数にある異形。
 一定のスピードで追いかけてきます。道以外には現れませんが、道幅一杯に広がって迫ってきます。
 霧に触れるとそこからまとわり付き、全身を覆うと食べられます。

●皆様へ
 お目を通していただきありがとうございます。
 ドキドキできるスリルを皆様に提供できるように頑張りますので、よろしくお願いします。

  • 夜の道完了
  • NM名灯火
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月29日 22時10分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴

リプレイ

●その声は暖かく
「イヤっ」
 逃げ出す少女を異形が追う。
 黒霧の速度は速くはないが、屋根を伝って走る一つ目鬼は少女よりも速い。百足能面も家々の隙間を行き来しながらジグザグに少女についてくる。
 全速力で少女が長く走れるはずもなく、すぐに足を縺れさせて転倒してしまう。
 それを見た一つ目鬼は隙ありとばかりに舌を伸ばす。舌は真っ直ぐに少女に伸ばされーー
「そんなにお腹が減ってるんやったら、毒でもくらい?」
 ふと艶やかな声が降ってきて、一つ目鬼が悲鳴を上げて舌を戻す。その舌には、小さな毒蛇が噛みついていた。
 一つ目鬼の悲鳴を聞いたであろう他の二体の異形が動きを止める。
 少女が声に顔を上げれば、そこにいるのは異形とは違う人の姿。一人はまるで異形のような姿であったが。
「わたしは、見た目こそ、幽霊に似ているかもしれませんけれど……もう大丈夫ですの」
 異形に似た少女、ノリアが安心させるように不思議な貝殻を少女に渡し、お守りですのと微笑んだ。
「安心してくれ。俺達はこういう化物の対処をする専門家だ」
 ノリアの隣にいたのは青年。ハロルドがそう言って、異形を牽制するように剣を構える。聖剣リーゼロットの効果で、自分と少女、仲間を覆うくらいの結界を張っており、音と匂いが結界から漏れることはない。
「絶対に、あなたを家まで送り届けます。だから、お家の場所まで案内して?」
 その隣の優しげな少女、ユースティアが少女を落ち着かせるように言って、優しく立ち上がらせた。
 そして最初に蛇を出して少女を助けてくれた艶やかな声の持ち主、蜻蛉が少女の目線に合わせるように腰を落とし。
「お嬢ちゃんは、こっち側の世界には来たらあかんから、ちゃんとおうちに帰ろね。うちらが帰り道、守るよって安心してね?」
 ぽんぽんと少女の頭を撫でるようにして笑んで、詩を歌った。魔力を帯びた、力強い詩を。
 急に降ってきた希望に、少女は安堵の涙と嗚咽を漏らした。

●絶望の帳を駆け抜けて
 異形達は突如現れた四人を観察するように動きを止めていたが、黒霧が動き出したのを見て、他の二体もじりじりと迫って来た。
「夜の異形……妖怪変化の類か。ならば俺の出番だな。人に仇なす“魔”の存在は皆殺しだ! おら、吹き飛べ!」
 拳に光を収束させたハロルドが、ゆっくりと進む黒霧に対して赫灼を放つ。黒霧に叩きつけられた拳から閃光が解き放たれる。
 ハロルドを狙っていた百足能面がギャッと悲鳴を上げて隙間に逃げ込んだが、黒霧は意に介した様子もなく霧をハロルドの拳に纏わりつかせる。
「……駄目か」
 舌打ちをし、霧を払って仲間の元へ戻る。
「どうやらあの黒霧には俺の攻撃は効かないみたいだな」
 仲間にその情報を伝え共有する。
「当初の予定通り、異形から逃げながら女の子を家に送り届けましょう。退路は無いものと考え、先に進むのを優先しましょう」
「そうやね。そうと決れば長居は無用や」
 ユースティアに蜻蛉が頷き、二人は少女を挟むように動き出す。
 片手はユースティアが繋ぎ、もう片手は家路を指し示せるように。少女の後ろにはノリアが透明な尾で少女を隠し、ハロルドが前方の少し離れた位置で行く手の安全を確認しながら一行が進もうと前に出た瞬間ーー
「上だ!」
「ヒッ!?」
 唐突にハロルドが叫び、飛んできて少女の頭上で剣を振るう。
 いつの間にか舌で出して少女を巻き取ろうとしていた一つ目鬼。その長く伸びた舌を一閃して弾く。
「走りましょう!」
「わたしが、囮になります」
 駆け出そうとする一行から少し後方にノリアが移動した瞬間だった。
 真横から百足能面がノリア目掛けて飛び掛かって来た。
「お姉ちゃん!」
「きゃっ」
 少女がノリアを呼び、吃驚した彼女が動きを止め、その前を百足能面が通り過ぎて行った。
 百足能面の虫の脚が僅かにノリアの腕を引っ掻いて行き血が滲んだが、痛みをじっと堪えた。本当は叫び出したいほどに怖かったが、その恐怖が少女に伝播しないよう、安心させるように大丈夫ですのと笑んでみせた。
「ノリアさん、すぐ離れて!」
 蜻蛉がノリアの傷を癒し、ユースティアが背後の黒霧の接近を知らせる。
 蜻蛉がノリアを庇うように出て、焔で出来た大扇を生み出した。
「熱いんはお好きやろか?」
 紅の大扇を薙ぎ、災厄の焔を黒霧に叩きつける。
 黒霧は紅蓮に煽られ、焔が消えてもそこにいた。
 しかし、無数にあった目玉が一部焼け爛れ、地面に白いシミを作り出していた。
 焔は効いたと笑みが浮かんだ蜻蛉の耳に、背筋を冷やすようなおぞましい声が届いた。
『おなかすいた、ごはん』
『かえりたい、おうちどこ?』
『おかあさん、さむいよ……』
 決して耳触りが良いとは言えない声に蜻蛉の耳がピンと立つ。気持ち悪い。それなのに、どこか戸惑うような悲嘆の色を孕んだ声に無視できない何かを感じ取った。
「止まるな! 走れ!」
 ハロルドの声に止まりかけた思考が動き出す。踵を返してノリアと共に走る。
「お嬢ちゃん、おうちはどこや?」
「あっ、あっち!」
 少女が指で道を指し示し、ユースティアが手を引いて。四人がそれぞれ少女を守れる位置で走る。それを異形達が追う。
 皆、黒霧から聞こえた声に、境界案内人からの言葉を思い出していた。
 曰く、夜に囚われたままだと女の子も異形に変わり果ててしまう、と。
 それは他の者にも言えることではないのか。他に夜に迷い込んだ者がいて、異形から逃げても帰り着くことができずに異形化してしまった人間がいるということ。
 その可能性を、ユースティアだけは考えていた。
 夜の住人を、ただの悪夢と断じなかったが故に。昼から迷い込んだ者を喰らうのは、かつて自分がいた場所に馳せる想いがあるからなのかもしれない、と。
 走りながら、少女に大丈夫だよと笑いながらも、夜の住人に同情をする。
(そう、だとしても。それでも、今はこれ以上の悲しみを増やさないためにーー)
 進んでいる道を阻むように横切ろうとする百足能面へ、一瞬だけ少女の手を離して氷雪の双剣を振る。剣魔双撃の一撃は百足能面の顔を捉え、額の部分にヒビが入った。
 そこへハロルドの赫灼も加わり、光に弱い百足能面は家々の隙間に逃げ込んだ。
「今だ!」
 掛け声と共にまた走り出す五人。それを追う異形の姿は、初め見た時よりも印象が違って見えた。
 もしかしたら、想像以上に悲しい存在なのかもしれない。
 それでも、今は少女を家に送り届けなければいけない。そう改めて誓って。

●かなしき夜の道行きは
「あ、あそこ!」
 少女が指を指した方に赤い屋根の一軒家があった。まだ窓に光が灯っており、住人は起きているようだった。
 少女の帰りを祈りながら待っているのかもしれない。夜に囚われればそう簡単には帰って来れないのは知っているだろうに。
 それを追う一つ目鬼は少しだけ速くなっている気がした。
 ケタケタケタケタと歯をけたたましく鳴らしながら嗤い、屋根と屋根を飛び移りながらその合間に舌を伸ばす。
「食べるなら、わたしを食べてみれば、いいですの」
 伸びる舌の前に、少女を庇うように前に進み出たノリア。舌が彼女の腕を巻き取り、引こうとした瞬間ーー
「させねぇよ!」
 ハロルドがその舌を掴み取り、逆に引っ張った。力はハロルドが勝っていた。 
 一つ目鬼は力に負けて踏ん張りきれず、屋根から落ちてきた。
 子供の見た目以上に軽かったらしい。一つ目鬼はぽてっと乾いた音を立てて道に落ち、動かなくなった。顔に大きく開いた目は少女を恨めしそうに凝視して。
「地面に落ちたら、動かなくなったですの?」
「決まった行動範囲があるのかもしれへんな」
 腕に絡まった舌をほどきながらノリアが首を傾げ、蜻蛉が推測を口にする。
 これで一つの脅威は去ったが、まだ予断は許さない状況だ。
 黒霧は依然として変わらぬ速度で追ってくるが、走れば追い付かれまい。
 問題は百足能面であるが、ハロルドが超聴力を駆使して気配を探って近くにはいないとわかると笑って首を振った。
 皆がひとまず安堵し、見える少女の家まで一息に走ろうとした時だった。
 落ちて動かなくなった一つ目鬼のところへ黒霧が到達した。黒霧は一つ目鬼を霧の中で捕らえーー
「ヒッ!?」
 咄嗟に蜻蛉が少女の目を覆う。
 霧の中で一つ目鬼の皮が溶け、肉が削げ落ち、一人の子供が現れ、声もなく、しかし何かしら泣き叫びながらもがき、四肢が千切れ、跡形もなく融けていった。
 背筋に悪寒が走る。これ以上ここに長居してはいけないと心のどこかで警笛がなっている。
 四人は少女を慌てて家へ向かわせる。ユースティアが玄関前まで同行しつつ、それぞれが少女に言葉を投げる。
「家に帰れば平穏な日常に戻れる」
「ふしぎな貝殻を、大事にしてください、ですの」
「もうあっちには行ったらあかんよ? その時はうちが食べてしまうかも……気ぃつけて?」
 蜻蛉は冗談めかして。
「あなたは、あなたを待っていてくれる人のところへ」
 玄関前で、少女をそっと中にユースティアが押し込んで。
 さよならと言う四人の声が届き、扉が閉まった。

●そして夜は
 少女がお礼を言おうと玄関を開けた瞬間、黒い霧と目玉が視界いっぱいに現れた。
『美味しそう……』
 口はないのに、笑顔のような視線が少女に刺さる。
「……ッ」
 悲鳴も上げられないまま、少女はそこで気を失った。
 黒霧は、夜が明けるまで美味しそう美味しそうと呟きながら、玄関からは入らずに少女をただただ眺めていたーー

成否

成功

状態異常

なし

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