PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蛇の道は蛇

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●峠の怪物
 幻想と鉄帝の国境付近にある、とある山脈。鉄帝で起きている事件の様子を調査すべく、幻想から放たれた一人の密偵が、早馬を走らせ峠へ向かっている所であった。
(もし件の噂が本当ならば、我々もけして無関係ではいられん)
 ショッケン将軍が多くの人間を生贄に捧げ、強力な古代兵器を復活させようとしている、という噂。鉄帝で少年少女の誘拐事件が相次いでいることは間違いないにせよ、古代兵器がどうのこうのについては完全に飲み屋の酔っぱらいの方言だと考えていた。だが、ローレットが大々的に人員を駆り出したことで、にわかに様子が怪しくなった。国境付近を治めていた領主は気が気でなくなり、様子を見てこい、という話になったのである。
 今辿っている峠は山賊もほとんど出現せず、馬で駆け抜ければ一日二日程度で鉄帝へと辿り着ける道だった。運が悪くなければ、であったが。

 正に峠の十合目へと辿り着こうという時、しゅるしゅると何かを引きずるような地鳴りが響いた。馬は嘶き、思わず足を止める。
「おい、どうした」
 慌てて密偵は馬に拍車を当てようとするが、そこから梃でも動こうとしない。その間にシューシューという身の毛もよだつ様な唸り声が響き渡り、山間の影から巨大な蛇がぬっと姿を現した。その頭には冠のような赤い鶏冠が乗っている。その冠が大きく開いた瞬間、馬は悲鳴を上げて嘶き、やがてその場に静止した。密偵はころころと地面に転がり落ちる。その姿を見上げた彼は、思わず息を呑む。
「バジリスク……!」
 蛇の王とも懼れられる魔獣が、じっと彼を見下ろしている。その瞬間、心臓を握りつぶされるような痛みが襲い掛かった。
「ぐぁっ……ま、まだ、間に合うか……!」
 男は咄嗟に杖を取り出し、胸元にその先を突きつける。魔力を流し込んで蛇睨みの魔法を解くと、慌てて彼は身を翻して峠を駆け下りる。蛇はずるずるとその背後へ迫ってくる。男は咄嗟に背負っていた旅嚢を放り投げた。蛇は咄嗟に口を開いて袋に噛みつく。その一瞬の隙を突いて、男はいよいよ転げ落ちるように山を下っていくのだった。

●蛇を除け
「今回の任務は峠に出没した怪物、バジリスクの討伐なのです」
 新米情報屋のユリーカ・ユリカ(p3p000003)は、コルクボードに巨大な蛇の絵を貼り付ける。その頭には鶏冠がつき、まるで鶏のような羽毛に包まれている。
「バジリスクの特徴は何と言ってもその視線が危険なのです。その眼に睨まれると、ただの動物ならすぐ石のように固まって動かなくなってしまいますし、魔法を使える人間でも、せいぜい生き残るのが精一杯……もちろん、皆さんならもう少しマシになるので、ギルドにこうして依頼が来たのですが。でもせめて、直接目を合わせたり、長い間視線を浴びたりはしないように気を付けて欲しいのです。他にも、噛みついて毒を流し込んだり、毒液を飛ばして攻撃したりしてくるというのです。視線に比べて目立たないのですが、これも危険なので気を付けて欲しいのです」

「バジリスクの血を薄めると、破傷風にとても良く効く霊薬になるというのです。兵士達の間で重宝されるらしいので、余裕があれば採取してきてもいいかもしれないのです。では、よろしくお願いするのです」

GMコメント

●目標
 バジリスクの討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 幻想と鉄帝の国境付近にある峠の一つで戦闘を行います。大蛇は岩をくりぬいたような狭い道を塞ぐように立っており、空を飛ばない限り回り込むのは困難です。道幅そのものは人が四人ほど並んで戦える程度の広さはあります。

●敵
☆バジリスク
 強烈な魔眼と強烈な毒を持つ、古くから存在する怪物の一つ。鉄帝で起きている事件の影響か、はたまたエサが足りないのか、虫の居所がかなり悪い。

・特徴
→玉鱗
 宝石のような煌きを持つ鱗です。その硬さは厄介だが、貴重品の為高値で取引される。
→蛇血
 バジリスクの持つ毒液です。薄めれば強力な消毒液になります。
→慎重
 基本的に防御姿勢を取る事が多いです。

・攻撃方法
→邪眼
 目にしたものを石へと変える強烈な視線です。連続して長時間その視線にさらされれば、守りに長けた者も命の危機にさらされるでしょう。
→毒霧
 毒霧を吐き出して攻撃します。吸い込むと胸が痺れて息が苦しくなるでしょう。
→毒牙
 噛みついて攻撃します。毒が装備も肉も骨も溶かしてしまいます。

●TIPS
☆とにかく敵の視線を連続して集めない事が大切です。



影絵企鵝です。怪物といえば、では上位に入るであろう存在を登場させてみました。地形の関係上足を止めながらの戦いになりそうですが、その辺りをうまくこなせるかが勝利のカギになるかもしれませんね。

ではよろしくお願いします。

  • 蛇の道は蛇完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年02月04日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
澱の森の仔
シラス(p3p004421)
竜剣
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳

リプレイ

●古の邪眼
 頂上を霞が覆い隠す峻厳な山脈。その狭間を繰り抜いて作られた峠に、巨大な蛇が鎮座していた。バイオリンを構えたアクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は、勇壮のマーチを高らかに奏でながら山間を進む。蛇は首をもたげ、舌を鳴らしながらイレギュラーズへその眼を向ける。アクセルは翼を広げて飛び上がり、頭上を取りながら大蛇の全体を眺めた。
「でっかいね……最近でっかいあれこれと良く関わってる気がするなぁ……」
 彼を眼で追うバジリスク。見据えられているうちに、だんだんと肺の辺りが苦しくなってきた。
「あうぅ……なんか、ちょっと変かも……息が、うまく……」
 上手く息が出来ない。ふらふらと地上へ舞い降りたところへ、錫蘭 ルフナ(p3p004350)が素早く駆け寄る。魔法陣を展開すると、アクセルの胸元に光を当てた。
「大丈夫?」
「う、うん。何とか……」
 アクセルが何とか立ち上がった瞬間、バジリスクは身動ぎして尻尾を振り上げ、ルフナに目掛けて振り下ろしてきた。ルフナは咄嗟に身構え、その一撃を受け止める。思わずふらついたが、何とか踏み止まった。
「蛇、蛇ね。森にいた頃に普通の蛇なら狩った事があるけど、こんなにでっかい魔獣の蛇は初めてかも」
 とぐろを巻いたその姿は、ちょっとした築山のようになっている。鱗は宝石のようにぎらつき、独特の威圧感を放っている。ルフナは溜め息を吐いた。
「……これは、血抜きしても食べられそうにないよね」
「食べる……?」
 ヒィロ=エヒト(p3p002503)が首を傾げた瞬間、ルフナは思わず顔を赤くして叫んだ。
「な、なんなのその顔。食い意地なんて貼ってないんだからね!」
 いきなり吐きかけられる毒液。咄嗟に飛んで躱したが、紫色の霧となって舞い上がり、イレギュラーズの身体を毒に浸す。ルフナは頭上に魔法陣を広げると、そこから天使の歌声を響かせた。
「ほら、みんな頑張って!」
 急にむくれてしまった少年の横顔を見遣り、ヒィロはさらに反対側へ首を傾げた。
「ボクと同じ事考えてるかもーって思っただけなんだけど……」
 しかし、無駄な話をしている暇はない。エメラルドの清浄な魔力に守られているが、それでも蛇の毒は皮膚からじわじわと侵食してくる。すぐ片付けるに越したことはない。ヒィロは早速前線へと飛び出した。
「王様でも怪物でも蛇は蛇、捕食者な狐との食物連鎖の格の違い、見せてあげるよ!」
 バジリスクの血や鱗が高く売れると聞いてから、既にヒィロは算盤を弾き始めていた。この蛇は美味しそうに見えないが、この蛇の血や鱗を売れば美味しいものが食べられる。
「大人しくボクの生活の糧になっちゃえー!」
 ヒィロは朗々と叫び、蛇の眼を自らへと引き付けた。蛇は一瞬動きを止め、出方を窺って舌をちろちろさせる。その隙を突いて、最後列に立ったルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)がアメジストの魔法石を掲げる。
「さぁ、張り切ってサポートさせてもらうよ。『ミスト・ウィオラケウム』」
 彼女は羽根の生えた左腕を悠然と振るい、バジリスクの頭目掛けて濃紺の霧を発生させる。急所を直接狙った攻撃に、思わず大蛇は怯んで仰け反る。しかし蛇も、辺り一面へ毒の霧を撒き散らした。峠道一杯に広がった毒霧は、彼女のところまで押し寄せる。ルーキスは口元を押さえながら数歩後退りした。
「うーん。やっぱり面倒な奴だなぁ。これが人里に出られたらどうなってたか……」
 ローブの袖の下から、彼女はこっそり小鳥を呼び出す。蛇の眼を逸らそうとこっそり顔の近くへ近づけたが、蛇が一瞬目を小鳥へやった瞬間、小鳥は全身を石のように引きつらせて墜落した。とても囮の役には立たない。
「あらら、流石に視線やっただけで石に変えちゃうのは反則だねえ……」
 大蛇は眼を見開くと、再び首を高く掲げてヒィロを見つめる。爛々と輝く金色の瞳に当てられているうち、ヒィロもまた息苦しくなり始めた。肺が上手く広がらない。心臓の脈拍も不規則になってくる。思わずヒィロはその場に膝をついた。
「う……ちょっと、これは……キツ……」
 その隙にヒィロへ狙いを定める大蛇。シラス(p3p004421)は素早く飛び出すと、魔術の幻覚を放って大蛇の喉元へと一撃を叩き込む。大蛇は怯み、その視線が僅かにヒィロから逸れた。
「バジリスクの魔眼は肺や心臓にまず効いてくるのか……無茶は出来ないね」
 シラスはそのまま構え直すと、大蛇の身体を素早く乗り越え、頭頂の鶏冠目掛けて鋭い蹴りを叩き込んだ。そこは竜の逆鱗にも等しいポイント。怒りを剥き出しにした大蛇は、その眼でシラスを捉えながら、いきなり大口開いて噛みついてきた。シラスは身を逸らし、何とかその牙を躱す。
「よし、狙い通り……バジリスクの特徴は来る前にしっかり調べておいたんだ」
 得意げな笑みを浮かべ、シラスはさらに鶏冠への攻撃を続行する。そのおかげで視線は逸れたが、ヒィロは未だにふらついていた。
「これ、思った、以上に……」
 そこへエト・ケトラ(p3p000814)が歩み寄った。白いベールを頭から被り、その眼元はすっかり覆い隠されている。彼女はタクトを振るとヒィロの胸元にその先端をそっと当てた。流れ込んだ魔力が、傷つき硬直したヒィロの心肺を癒していく。
「しっかりなさい。貴方の命は、今散らさなくてはならないような軽いものではないでしょう?」
「……ふぅ。やっと息が吸える。ありがとう、エトさん」
「ええ、また厳しくなったらすぐに言うのよ」
 エトはヒィロの肩を叩き、蛇をじっと見つめる。今はシラスに引き付けられているが、蛇の吐き出す毒霧は、それでも着実にエト達をも脅かしていた。
「バジリスク、異形なる蛇の王……」
 物語では散々目にした怪物。しかし実物の威容は想像以上だ。
「けれど……『それがどうした』のよ」
 しかしエトは怯まない。ユーリエ・シュトラール(p3p001160)もまた、己の吸血鬼の血を目覚めさせて鎖を握る。蛇は尻尾を振り回し、イレギュラーズを纏めて薙ぎ払いにかかった。跳んで躱したユーリエは、魔力を流し込んだ鎖を蛇の頭目掛けて擲つ。
「バジリスク、なんて危険な生物なのでしょうか。宝石のような鱗。確実に仕留めようとしてくる毒。そしてその邪眼……」
 放たれた鎖の先についた刃が、蛇の口蓋に突き刺さった。鎖が青白く輝き、するすると蛇のように下顎へ巻き付く。吐いた毒液は上手く霧にならず、原液のまま岩肌に張り付いた。
「これでしばらく毒霧の脅威はないはずです! この間に皆さん、攻撃に集中してください!」
 右手首から赤黒い鎖を引きずり出し、再び蛇へ向かって擲つ。鎖は蛇の首筋へ巻き付き、じりじりと締め上げながら、鱗を一枚一枚砕いて剥がしていく。蛇は下顎に巻き付く鎖へ何度も噛みつき、無理矢理噛み千切ろうとする。そこに生まれた隙を突き、美咲・マクスウェル(p3p005192)は紫色に輝く視線を浴びせて大蛇からエネルギーを吸収していく。
「……混沌ならいるかもとは思ってたけど、こうして張り合う日が来るなんて」
 眼で殺す魔獣、バジリスク。『眼力』で張り合うのはこちらの世界でも初めての事だ。魔眼の制御に四苦八苦していたかつてに比べれば、まさに隔世の感である。
「まあ、同じく強力な魔眼でも、一色と虹色じゃ格が違うっての?」
 獣に負けるつもりなどない。己の口の中で強気に呟くと、張り合うようにその視線を蛇から離さぬのであった。

●その眼を潰せ
 とぐろを巻いて舌をちらつかせ、威嚇を続けるバジリスク。口を開くと、毒液を霧状にして撒き散らす。紫色の霧が、再び峠を包み込んだ。ユーリエは眉根を寄せ、息苦しさに堪えながら再び鎖を手にする。熱を視覚で察知しながら、何とか蛇に向かって鎖を擲つ。その眼に狙いを定めたが、蛇は首を振るって鎖を弾き返した。
「……中々相手も堅牢ですね」
 アクセルは霧の中から飛び上がると、再びバイオリンを弾き奏で、蛇の頭に狙いを定めて閃光を放つ。瞼のない蛇は光に怯み、僅かにとぐろを緩める。そこへ更にアクセルは羽根を弾丸へ変えて放つが、蛇は反撃とばかりに毒液を弾丸に変えてアクセルへ放った。顔を撃ち抜かれたアクセルは、一気に息が詰まって意識が遠くなる。首から下げた竹笛を撫で、混沌の力を借りて何とか意識を保った。
「ううっ……最悪の気分だ……」
 よろよろと地面に降り立ち、アクセルは呻く。ユーリエは素早く駆け寄り、鎖を伸ばしてアクセルの腕と絡めた。注ぎ込んだ治癒魔法が、アクセルの呼吸を整えた。
「大丈夫ですか?」
「何とか。ありがとう」
 二人は武器を構え、大蛇の喉元を睨みつけた。鱗が剥がれ、体液が僅かに沁みだしている。蛇はじりじりとシラスへ眼を向けると、牙を剥いて素早く襲い掛かった。シラスは背後へ飛び退こうとしたが、息が詰まった状態では踏ん張りが利かず、牙が腕を僅かに掠ってしまう。傷口が焼けるように傷み、シラスは唸る。
「くそっ、やったな」
 ルフナは彼の下へ素早く駆け寄ると、魔法陣を展開し、恐怖を打ち払う清浄な光を放った。シラスを脅かす毒を払い、その傷も癒していく。
「大丈夫かい? さっきから中々油断できないね」
「ああ。結構キツいけど……まだ俺の出番だ。もう少し踏ん張らないとな」
 シラスは飛び上がると、目にも止まらぬ神速の蹴り技でバジリスクの鶏冠を再び蹴り飛ばした。羽毛と血が同時に舞う。
「どうだ、結構応えるだろ」
 蛇は頭を振るってシラスを突き飛ばすが、すかさずルフナがシラスの傷を癒していく。彼の回復術のお陰で、シラスは強烈な魔眼に晒されても、何とか倒れる事無く耐え忍んでいた。素早く伏せて構えると、彼は四肢に魔力を浸す。
「こいつも喰らえ!」
 彼は緩急を付けながら飛び掛かった。魔力の幻影を周囲に浮かべると、影と共に叩きつけた。蛇はシラスを見失い、きょろきょろ周囲を見渡す。
 前衛が頑強に抵抗を続ける一方、後衛にも着実に負担は積み重なっていた。何度も霧を吐きかけられているうちに、ルーキスは遂に限界を迎えてその場に膝をつく。彼女は懐から煙管を抜き放って火を灯し、花の薫香を頼りに何とか意識を繋ぎとめる。
「わぁ……これは予想外」
 エトはルーキスへタクトを向け、彼女の毒に脅かされた身体に再び活力を与える。
「悪いわね。前衛の人の損耗も激しいから、中々手が回らないのよ」
「分かってるよ。……でも、流石にちょっと遊んでる余裕は無さそうだね」
 ルーキスは魔導書を開き、銃を引き抜き蛇の頭に狙いを定める。浮かび上がった魔導書を深紅の銃弾で撃ち抜くと、現れた妖精が巨大な狼の幻影に変身し、猛然と蛇の頭へと襲い掛かった。蛇は大口開いて迎え撃とうとしたが、幻影の狼には通用しない。牙は蛇の上あごに噛みつき、その肉を引き裂いた。毒液と血がぼたぼたと滴る。蛇は苦しみ頭を振った。
「敵もかなり苦しんでるわよ。あと一息、命を散らさない程度に奮闘しなさい」
 エトは杖を振るい、邪眼の魔力に耐え続けているヒィロを治癒し続ける。蛇は血を吐きながらも、舌を暴れさせながら大量の霧を吐き出した。道一帯を包み込む。イレギュラーズは遠ざかろうとするが、逃げ場は存在しなかった。しこたま吸い込んでしまった美咲は、思わず息を詰まらせその場に崩れ落ちる。
「毒に対する備えはしてきたけど……それでも流石にキツイわね、これ……!」
 混沌の力を開放し、彼女は何とか体勢を立て直す。ヒィロは前線から慌てて駆け寄ってきた。
「美咲さん! そんな、ボクがついていながら……!」
「いや、流石に形の無いものから私を庇うってのは無理でしょ。ヒィロこそ大丈夫?」
「問題なし! 美咲さんを傷つけたヤツは、絶対に許さない!」
 ヒィロはきっと蛇を睨む。大好きな人が傷つけられて、怒り心頭だ。戦意は十分すぎる程である。それを見た美咲は、静かに目の前で印を組み、呼吸を整えていく。
「それなら、一気に決めちゃうわよ」
「うん!」
 尻尾を揺らしながら、ヒィロは一気に飛び出す。蛇の目の前で鋭く拳を突き出し、朗々と叫んだ。
「こっちだ! 死にたくないならボクから眼を離すなよ! 眼を離さなくても死ぬけどね!」
 彼女が蛇の眼を引いた隙に、美咲は印を組んで構えた。彼女の技は魔眼に依るものだけでは決してない。
「『八卦呼法:坤』――腹に黒雷、右脚に伏雷、囲・縛・喰……怨」
 瞳を黒く染めると、素早く正面へ一歩踏み込み、拳を鋭く突き出した。その眼の先に放たれた魔力は、空間を捩れさせ、傷ついた蛇の首を捩じ切る。美咲とヒィロは並び立ち、蛇を見据える。
「ボク達の前に敵は無し!」
 どさりと落ちる蛇の首。見開かれた目は暫くぎょろついていたが、やがてぴくりとも動かなくなった。

●宝の山
 戦いが終わり、後に残ったのは巨大な死体。イレギュラーズは息を合わせて死体を引きずり、どうにか往来の邪魔にはならない位置まで運んだ。そこからは解体タイムである。早速ルフナは死体の首筋にとりついた。
「さてと。普通の蛇なら首を回るようにくるっと切れ込みを入れて引っ張れば、ずるっと剥けるんだけど……」
 ユーリエの鎖攻撃で首の鱗は砕け、肉が剥き出しになっている。のは良いが、道を塞ぐほどの大蛇を持ち上げるのはあまりに難しい。諦めた彼は、小刀の切っ先を鱗に食い込ませ、一枚、二枚と剥ぎ取っていく。ふと見ると、傷口から滴る血が地面に沁み込み、草木を徐々に蝕んでいた。
「おおっと……」
「ふうん。流石は伝説にもなった毒蛇だ。鱗はともかく、血は取り扱いに注意した方がいいかな」
 ルーキスは更地に変わっていく血溜まりに眼をやりつつ、かっと見開かれたままの蛇の眼を見つめる。死んで濁り始めたその眼は、既に強力な呪いの力を失っていた。しかし、だからといってルーキスの興味までも失われたわけではない。刃物を眼下に差し込みつつ、彼女は呟く。
「やれやれ。これだけ貴重な生物だ。魔眼の解析をしたり、捨てる場所は本来無いんだけどなぁ……」
 しかしこのサイズの生き物を、しかも劇薬を体の中に溜め込んでいるような生き物を峠の天辺からふもとの町まで運ぶというのも難儀な話だ。鱗を数枚得るに留めておこうとした時、シラスが陶製の壺を手に側へとやってくる。
「持って帰りたいなら俺の馬車に積んでいこうか。蛇の眼の一つや二つならいくらでも荷台に納まるからな」
 シラスは傷口にナイフを突き立て、大量の血を滴らせる。壺を押し付け、流れる血をその中に収める。壺一杯の血はそのまま壺一杯の銀貨に化ける。一滴も無駄にしたくなかった。手際のよい彼の所作を見て笑みを浮かべ、ルーキスは早速蛇の眼をくりぬき始める。両手で抱え上げるのがやっとの大きさだ。
「じゃあこの片目だけでも桶にでも入れて貰おうかな。眼の構造を確かめるだけでも何かしらわかる事は有りそうだからね」
「わかった。ヒィロが樽を持ってきてるから、そこに入れてもらってくれよ――」
 その時、シラスの言葉を遮りヒィロの悲鳴が響き渡った。見れば、血を受けた樽の底が溶け、すっぽりと抜けてしまっていた。
「そ、そんな馬鹿なぁ~……」
 ヒィロはその場でがっくりと膝をつく。
「この血でたっぷり稼いで、美味しいものお腹いっぱい食べるつもりだったのに……」
「仕方ないわね……ほら、樽には鱗を詰めることにして、血はこれに入れたら?」
 美咲は肩を竦めると、ヒィロの鞄から瓶を取り出す。彼女自身は蛇の顔面に陣取り、その眼をじっと見つめる。
「ふむ……死んだらもう魔眼の効力はなくなるのか。首だけでも機能してたゴルゴンとは違うのね……」
「美咲さんの視線も危険なんだよ。ボクの心臓をドキドキさせて、破裂させようとしちゃうんだもん!」
 ヒィロは尻尾を振りながら美咲に甘え始める。しかし美咲は首を傾げてすっとぼけた。
「え? 私の視線? ……別に制御してるつもりなんだけど」
「もう! そういうことじゃないんだよ! こうしてやる!」
 ヒィロは口を尖らせると、美咲の胸元目掛けて突撃した。二人は折り重なるように倒れた。
「うわっ!」
 美咲の胸元に顔をうずめてじゃれつくヒィロ。無邪気な彼女の様子を眺めて、エトは肩を竦めた。
「元気ね。結構やられてたと思うんだけど」
「ご無事そうで何よりです。よかった……」
 ユーリエは笑みを浮かべる。ナイフで鱗を一枚剥がし、柄尻で鱗の表面を軽く突っついた。まるで鉄琴のように透き通った音が響き渡った。エトは背後から彼女の手元を覗き込む。
「こうしてみると、確かに宝石みたいに綺麗だわ。綺麗な花には棘がある、なんて言ったものね。血は破傷風の薬になるって聞いたけど、鱗は何に使われるのかしら」
「とても硬いし綺麗ですし……鎧に貼れば装飾と実用を兼ねた装備になりそうですね」
「ユーリエさぁん」
 アクセルは風呂敷を広げ、大量の鱗を掬ってやってくる。ユーリエの前に差し出し、その目をぱちくりさせた。
「とりあえず傷が無くて売り物になりそうな鱗を拾ってきたよ。どうかな?」
「良さそうです。これだけあれば、報酬にちょっとした色がつけばいいですが……」



 かくして、峠を塞ぐバジリスクはイレギュラーズによって迅速に始末された。またしばらくは誰もが安全にこの道を使うことが出来るだろう。

 おわり


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵企鵝です。この度はご参加ありがとうございました。バジリスクといえば有名なのは某魔法学校と思いますが、未だと忍法帖の方だったりするでしょうか。

注視を咎めるし範囲攻撃も撒き散らすしとめんどくさい奴だったと思いますが、次回もまた参加して頂けると幸いです。

ではでは。

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