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シナリオ詳細

座ると死んでしまう椅子を立証せよ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「そんなたいして」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)はお茶をゆっくり飲み込むと恵比須顔を浮かべた。
「――難儀な話じゃないさ」
 指先で口元についた焼き菓子の粉を払い落とす。
「ただ、ちょっと、椅子に座り続けてくれればいいだけなんだ」

 度を越した快適さというのは、時として生涯を危うくする。
『快適すぎて人の健康を著しく害する椅子』というのが出来てしまった。
 あなたの楽な体勢にぴったりフィット。無理ない感じに常に微調整。どこまでも続く快適。皮膚への負担も少ないしっとり触感。
「そして、動かなくなり血行障害。血管内にでき、動いたとたんに重要臓器に吹っ飛んでいく卒中の素」
 一時間に一度は立ち上がって屈伸しましょう。
「精神的には、体内回帰衝動マックス。人としてポンコツに」
 だめじゃん――だが、ボツにしたいが、快適すぎて壊せない。

「どっちかっていうと常用危険・未必の故意的殺人椅子が出来上がっちゃったんだよね。昨年末の審査で研究打ち切りになったんだけど、しつこく継続願いが提出されるのに、依頼先の研究所としては引導を渡したいわけ」
 口で言ってわからなきゃ、データじゃね?
「――ありていに言えば座り続けると命に係わる健康障害が出たっていうデータをとりたい。大丈夫。これ以上はあかんラインは設定されてるから」
 無茶を言いよる。
「害した健康はチャチャっと治癒魔法かけるから。後、心のケアにカウンセリングやヒーリングマッサージと各種ご用意してるそうだから」
 無茶を言いよる。治せばいいってもんじゃないんだぞ。
「福利厚生的に自分のところで実験できないから、ローレットに話が来たんだよ」
 金で命を懸ける傭兵が健康被害にしりごむとか片腹痛し。そんなんじゃないもん。イレギュラーズは世界のために戦ってるんだもん。
「二人一組になって片方は被験者。片方は見守り役」
 なぜ見守り役がいるのか。
「危険領域に達した時、被験者を椅子から引っぺがすのが見守り役のお仕事。一般人ならともかく、イレギュラーズが、ゆめうつつで『やだー。起きないー』をすると、すごく危ない。武装解除してても危ない。でしょ。みんな自分の胸に手を当ててよく考えて」
 はっはっは。まさかそんな。むずがる赤子のような――状態になるのか。
「だから、組み合わせはみんなに任せる。取り押さえやすい相性ってあるでしょ。今回の実験は周囲への影響も考慮されるから。あ、『万全の策を講じてそれでも』でなきゃ意味ないから、『強者の見張りをなす術がない弱者がやる』みたいなマネしないでね」
 やらせ、いくない。
「もちろん、どうしようもなくなったら椅子の破壊もあり。絶妙のバランスで作ってるから、ちょっと穴開ければ快適さは失われるんだって!」
 神は細部に宿るのだ。だから、完全破壊はするなよ。絶対するなよ。
 そんな難しい話じゃないって。と、メクレオはにんまりした。
「快適すぎて死ぬ目に遭ってきてくんない?」

GMコメント

 田奈です。
 気持ちよくうとうとしてるところを無理やりたたき起こされて急速に吹き上がってくる現状維持衝動に身を任せたり、これ以上は血行障害でガチやばい仲間の命を救うためにあえて殴られる覚悟をしながら揺り起こす覚悟はOK!?
 うとうとかわいい寝顔を見せつけたり、意外な寝ぎたなさを暴露したり、かわいい寝顔に胸キュンしたり、ひでえ寝相に頬を染めたりすればいいと思います。
 また、合法的に友達とガチで一戦交えられます。素手ですが。パンクラチオンは行けます。オイルレスリングは椅子が汚れるので不可です。
 
場所・実験室
 だだっ広い何もない部屋に椅子が離れて四脚置かれています。
 隣の椅子までは、五メートルはあります。
 大暴れするのが前提になっていますので、壁が壊れるなどの心配はしなくて結構です。

 皆さんに相談していただくのは、誰が寝て、それを誰が起こすのか。
 組み合わせが被るとか、椅子に座る役が多いとか、逆に見守り役が多いとかの行き違いがあった場合は、田奈がその場の流れと面白いの神様に導かれるままに愉快にマスタリングします。確認を怠ることのありませんように。
 
 もちろん全年齢なので、田奈のいかがわしいのは恥ずかしいセンサーに引っかかった場合は容赦ないマスタリングを致します。

 気を付けること。
 *武装解除―。装備品は一切オフです。ありのままでご参加ください。
 下着が装備品という場合もありますので、ジャストサイズが支給されます。着るのはお揃いのパジャマ的な患者服、すっぽんぽんや下半身ポロリとかの心配は普通に着れば絶対ないですよ。ご安心くださいね。
 
 <重要>
 プレイングが薄い場合、田奈が穴が開くほどキャラクターシートを眺めて新たな一面を開発してしまうかもしれません。脳裏に浮かんでも外には意地でも出さないNG、リプレイ内で触れないでほしいNGをきちんと書いていただけると田奈も安心してコメディに走れます。よろしくお願いいたします。
 プレイングは根性で拾いますので、安心して死ぬ目に遭ってください。後遺症が残ることはありません。
 徹底的に吹っ切れたい場合、「覚悟完了」と書いていただけると、田奈が神妙な顔をして頷きます。よろしくお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 座ると死んでしまう椅子を立証せよ!完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2020年01月30日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ミミ・ザ・キャッスルガード(p3p000867)
子守りコウモリ
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)
軍医
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

リプレイ


「エコノミー症候群を引き起こす椅子か。世の中には厄介な物もあるもんだな」
             ――『軍医』ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)

「なんというか、これまたおかしな依頼だな。座ると死んでしまう椅子か……座らぬ椅子に祟りなし、こういうのはおとなしく触れないでおくのがベストだ」
            ――『凡才の付与術師』回言 世界(p3p007315)


 そろいの患者服。誰が被験者で誰が見張りかさっぱりわからない。
「今回は見守る役でいかせてもらおう。誰を見守るかは……まあ素のステータスならそこまですごい差も無いだろうし誰でも問題ないだろう」
 方針を決めてしまうと、世界の動きは早かった。
「見守るならば、やはり映像機器を借りてその様子を撮影しておかないとな。」
 椅子に座っている人間を調度写せる位置にカメラが設置される。
「これは実験のモニタリングとして必要なことであって、決してその様子を後で本人やほかの人に見せたりして揶揄うためとかそんなんじゃないぞ、うん」
 インフォームドコンセントは大事だ。このご時世は特に。
 ウィリアムは、椅子の表面を撫でて、最終判断している。
 ふかっ。ちょっと体重をかける。ふかふかっ。促音の「っ」がポイントである。独特のエアリー感をお楽しみください(商品カタログより抜粋)
「……よし、俺は止めておこう。座ったが最後、立ち上がれなくなりそうだしな」
 君子危うきに近寄らず。ミイラ取りがミイラに。ファム・ファタールな座り心地にきっとご満足いただけます(商品カタログより抜粋)
「依頼の内容は危険性を示す事……卒中……止マル事……死ぬ事……ダメになるかはさておいて、如何や竦みのあるものか」
小柄な『子守りコウモリ』ミミ・ザ・キャッスルガード(p3p000867)は椅子に埋もれてしまいそうだ。特殊な素材でお体全体を包み込むようにできております。(商品カタログより抜粋)
「動きたくなくなるくらい快適な椅子なんて、そんなもの、信じませんの」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は、ツンと唇を尖らせた。おおらかでマイペースな彼女をして断定表現だ。
「というのも、ずっと、海を漂って生きてきたわたしから見れば……椅子なんて、重力に抗いきれない人たちが、疲れて、仕方なく座るものだからですの」
 研究者諸君。新鮮な観点だぞー。
「海は当然、空や、ものの中だって少しは泳げるわたしにとっては、普段の環境のほうが、よっぽど気持ちいいに決まってますの。それを、証明してみせますの」
「快適すぎて死ぬ……経験はありますが」
『言祝ぎの祭具』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)の物言いに、 『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)の形相が変わる。
「えっそうなのって顔で見ないで、しーちゃん」
 早口でまくしたてられるしーちゃんこと史之としてはなんとなく解せない。しかし、深く追求してはいけない。世の中にはうやむやにしていいことって割とある。自分のこと当事者だと思ってない当事者とか。
『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は、ちょっと緊張の面持ちで椅子に腰を掛けた。
 おじさまの目が驚愕で見開かれた。
「お、おおっ……」
 ちょっと最初の「お」の声が大きかったので、みんな振り返った。
(まるで大きくてふわもこな羊さんのモッフモフな羊毛に全身を埋もれさせているかのようなこの感覚……)
 スイーツの食リポができる語彙力の高さを埋もれさせるのは惜しい。
「――絶えず全身にフィットするこの設計は見事としか言いようがないな」
 肌に吸い付き離さないほどの補正力を誇ります。(商品カタログより抜粋)
 出揃った四人の被験者をじっくりねっとり観察して、心身に危険が見受けられた時には強制的にお椅子から離脱させる四人。
「カンちゃん気分どう? 問題なし、平常だね。脈拍、はいはいOK」
「………でもちょっと怖いからちゃんと起こしてね、しーちゃん」
 カンちゃんとしーちゃんを引き離すなんて呼吸する価値ないんじゃないかな。
「私も座りたかった……まぁ運が無かったと諦めましょ、うん」
『分の悪い賭けは嫌いじゃない』リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はじゃんけん的ななにかに負けたのだ。
(………普通に立ち上がらせて血管不順で死なせてパンドラ消費による強制復活させた方が楽なのでは?)
 一瞬勝ち誇るリアナル。パンドラの無謀なご使用は避けてください。ここぞというとこで使ってこーぜ!
(いや、普通に立ち上がってくれないんだった。残念)
 まぁ誰でもいいか。という訳で、ミミの担当。
「では、ノリアさんの担当は俺で」
 やましいことは何もない。取り押さえなくてはならないので、レベルはそろえておいた方がいいというだけだ。
「では、俺の担当はウィリアムだな。よろしく頼む」


「それじゃ、13:30、実験開始。椅子に座って」
 録画開始。被験者四人はそれぞれ椅子に腰を下ろす。ところで角度調整とかそういうのなかったけど。ほんとにいいの? ただ座るだけなの?
「元々、めったに変化しないわたしは、足があるというだけでもどこか、落ち着けませんの」
 ディープシーのノリアは普段は生まれたままの姿(比喩ではなく純然たる事実)でいる。カオスシードの視点で行くと足が魚になるようなものだろうか。
「そんなわたしを、リラックスさせることができるわけが、ありませんの……」
 論より証拠。たふんっ!
「あ……」
 諸君。驚きと悦楽と恥じらいが入り混じった「あ」はいいものだ。記録として録画しております。
「この椅子に座ると……まるで、海の中にいるかのようですの! 地上の椅子でありながら、重力を感じさせない座り心地――」
 世界はノリアの感想を書き留めている。若干興奮状態だけど椅子の効果とは無関係。
「これはむしろ、海よりも心地よい可能性すらありますの……自信をなくしますの……まさしく、大海の中のノリア、椅子を知らず……でしたの!!」
「あくまで個人の感想です」と注釈をつけねばならない案件。座った誰かさんが快適さのあまり死ななければ。
 ミミは、長く息を吐いた。眠りに至らないまどろみの淵はどこらでも黒い青い穴の淵にのめり込むようだ。
 ミミにしかわからないのに存在を重く主張するアンビリカルチェイン。
(揺蕩い降る夢の水底――子供を繋ぐはずの鎖の先が見えないけれど)
 深く座る。深く深く。
(胎内回帰……ではここは? 命綱は臍の緒ではなかったのか 居心地のいい泥濘に委ねて?)
『寝てるのかな?』 のぞき込むリアナルの声は鼓膜を振動させても耳の認識外にある。程よい遮音効果でパーソナルな空間を維持します(商品カタログより抜粋)
(水底いつしか唐紅に染まる景色、見上げるほどの偶像に臍の緒は繋がっていました)
 意識は沈みながら見上げ上昇しながら見下ろし全ては同一平面上にあることが確信できるほどの感覚。理解まであと少し。

「カンちゃんの寝顔はどうかな、うん、気持ちよさそう」
 史之は、にっこりと笑顔を浮かべた。
 スヤァ……と安らかな寝息を立てる睦月の頬にはまだあどけなさが残っている。
「元居た世界ではよくうなされてたもんな。たまにはこんな時間があってもいいよね」

 時間の経過。
「13:40、状況に変化無し」
 観察役四人がそれぞれコールする。
 監察開始、50分を超えたあたりから、事態は一気に急転した。
 被験者はみじろき一つしない。
 それどころか、徐々に呼吸回数が減少。しかも弱くなってきている。
「そろそろ危険域だな」
 ここまでは情報提供されていた。ここから未知の領域だ。イレギュラーズの生命力ギリギリまで我慢する。
「14:00、実験終了、被験者を起床させる、と」


「女子だったら顔面はダメだな……お腹か。いやひとまずはお声掛けからの意識確認……と」
                     ――リアナル・マギサ・メーヴィン(


「ん~」
 睦月はうめいた。
「ん~~ん、 やー! やーなの! やあー!」
 一瞬前まで安らかな様子が嘘のよう。狂乱。
「しーちゃんもこっち! こっち来て! 添い寝! そーいーねー!」
 覚醒による脳内物質の急激な現象でのバッドトリップ。
「しーちゃんがいなくなってさみしかったんだからああああああ!」
 欲望が色々だだ洩れになっている。
「はいはいカンちゃん添い寝はねー無理だからー無理だからねー。痛い! 髪引っ張らないで! 服破れる! これ借物だから!」
 史之の悲鳴。開いては一切のリミッターなしでつかみかかってくる。この快適な状況を脅かす奴はすべて敵。椅子に座ってるだけで(起こしに来た)人が死ぬ。
「みんな起きて! これ以上は洒落にならない! パンドラ復活しても足りない!」
 ここから先は無傷じゃすまない。

 椅子は、ミミの意識を別の領域に誘っていた。
 報告されていた事象。胎内回帰。適性の関係かミミに現れた。
 肉体と精神の距離がどんどん開く。つなぎとめるアンビリカルチェーン。言葉に魂が宿り、火持つ運搬のための不可視の鎖がミミの命を繋ぎとめる。
(生と 死の 巡り合わせも 全て、わかりました)
「えーっと、それじゃおこしまーす。時間だよー。起きてー起きて―」
 リアナルは耳をそっと揺すった。
「ミミは  理解しました あれはママではありません ここはママの中でも  ミミでした見上げると遠い遠い水面と隔てた空星のひとつがママと感じました見下ろせばミミが繋ぐ子ども達が」
 いきなり訳の分からないことを息継ぎなしでしゃべり出したミミに、リアナルはごくりと息を飲んだ。
「バイタル低下、心拍数と呼吸に異常! メディック、メディーーク!!! なんてこった。たかが椅子と侮っていたが、まさかここまで影響が出るとは……」
 ウィリアムが、ゲオルグの心臓を拳で叩き出した。というか、衛生兵より偉い軍医様は君だ。
「むぅ……ふわもこ羊さんから引き剥がされそうになっている気がする」
 はきはきと寝言を言うゲオルグ。本人は寝ているつもりはないのかもしれない。
「ええぃ、やめろ! 私はもっともふもふするのだ。このふわもこな羊毛に包まれ幸せを感じながら眠るのだ」
 ちょっぴりシャイなイケオジが羊さんもふもふと言いながら椅子から動こうとしない。
「オイ寝るな、寝るんじゃない! 寝たら死んじまうぞお前!! この気付け薬を飲め! そして立ち上がれ! いい加減にそろそろヤバいぞ!!!」
 ウィリアムは口から唾を飛ばしながら、気付け薬をゲオルグの口に押し当てたが、口の端からだらだらこぼれるばかり。
「あー……畜生、もう手遅れか! 殴っちまうが恨みに思うなよ! ドクターストップだ!」
 ぶんっ!
 筋骨隆々のゲオルグの素敵に血管が浮いた腕が一切の遠慮なくウィリアムの顔面にジャストミート。予想外にきれいに入った。吹き出る鼻血。
「あっ、コラ、反撃するんじゃねえよ! 俺が痛いだろうが!」
 暴れる軍人を組み伏せてなんぼの魔導軍医の反撃。
 ごす、べき、ばき。ぼこっ。地味に痛そうな音。

「……しっぽが」
 ノリアがはらはらはらと涙をこぼす。
「しっぽがなくて、泳げませんの! もう満足しましたのに。泳いでゆこうと思ったら……!」
 足を変化させているのを失念している。ひどく寝ぼけている。というか、まだ夢を見ている。
「普通に力づくで強制退場してもらおう」
 世界は即決した。こういう時は思い切りが肝心だ。何しろ、全員バイタルがおやばい。
「誰かに、食べられてしまったのでしょうか……せめて、上半身だけは、守りきりますの」
 ノリアから何やらぶっぱなしそうな気配がする。
「誰が犯人だかはわかりませんから、誰も、近付けさせませんの!!」
 ちゅんっ! 無慈悲な貫通水流が世界を貫く。
ちなみに、そっちからなにかが飛んでくるとは全く思っていなかったウィリアムにも当たっているが、それはまた別の話だ。

 しぴっと心が削れた。目の前でずっと呟き続けているミミがリアナルの心から何かを持って行ってしまった。
 リアナルは実力行使に踏み切ることにした。。
「死の危険? 元よりあるから誤差よ誤差。私は火力低いし大丈夫。それでも反抗する場合は仕方あるまい。英雄叙事詩でHPを底上げして……」
 覗き込んだミミから強烈な『母』のイメージ投射。人によれば大いなる安堵に呑まれ無力化したかもしれない。しかし、リアナルの母は狩人。やられっぱなしでは終わらない。
「式符・毒蛇で殴って……戦闘不能にしてしまっても……? まぁ返り討ちに遭う可能性高いんだけどネ!」

 四方からとばっちりが飛んでくる。遠距離攻撃はやめてほしい。
「ええいクソ、もうこれ以上は駄目だ!椅子壊しちまうぞ、良いよな?」
 ウィリアム、攻防で鼻血が止まらない。
「うわ! この椅子触っただけで桃源郷見えたぞ!?――あー、しかたない!」
 史之は覚悟を決めた。
 睦月が繰り出すマジックロープも魔弾も駄々こねパンチも史之は全部受け切った。
 史之と素敵空間を共有したいと暴れるのを何とかしないと睦月が死んでしまう。
「P――」
 世界崩壊の危機の際、存在をかけて奇跡を導く離れ業。睦月の死は史之にとっては世界の瓦解だ。睦月のためなら――!
「だめー」
 べしべしべしべし。
「しーちゃん、なんかしようとした。僕のことまた置いていこうとした。そういうことするなら起きる」
 しれっと睦月は立ち上がった。本家って理不尽。
 
「こんなこともあろうかと」
 世界はつぶやいた。拳に訴えるには、なんていうか、巻き添えが多すぎる。
「穴を開けるだけでいいみたいだし、針とかで十分か」
 ぷち。『絶妙のバランス』のバランスが崩れた。椅子がわずかに形を変える。
「あら?」
 ノリアがぱちぱちと瞬きをした。
「……あっ」
 諸君。繰り返すが驚きと恥じらいを内包した「あ」はよいものだ。
「変化していたのを、忘れていましたの。足で立てばよかっただけでしたの……」

 効果を確かめた世界は速やかに残り三つの椅子に針を使った。


 これからみんなで精密検査。観察役もぼこぼこだ。
「なんだか……すごく恥ずかしい姿を見せてしまった気がする」
 名誉の負傷のウィリアムにゲオルグが平謝りしている。
 リアナルは未練たっぷりで椅子をつついている。もう、天国の座り心地ではない只の椅子なのだ。なんか心がけずれてる。
「オハヨ!! すごいのわかっちゃってた気がしたのにナー」
 ミミがやけに元気なのが救いと言えば救い。
「あー、やっぱりあの椅子よりしーちゃんの傍のほうが落ち着く。快適過ぎて死ぬ……」
 睦月はまた眠り込んでいる。
「ふ、ふふ、こんなことで死線を潜るとは思わなかった……疲れた……」
 今頃になって震えが来ている。史之は睦月を背負った。それなりに重かったけど、ほんのり暖かかった。


実験結果 病的な依存性及び被験者の凶暴化を確認
結論 研究の即時凍結を提言

 凄惨な記録映像がきっと功を奏するだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。みなさんの尽力の結果、きっと研究は凍結されるでしょう。
ゆっくり休んで、次のお仕事頑張ってくださいね。

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