PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黒鉄のエクスギア>パンダ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ぱんだ
 イレギュラーズの活躍もあり、ショッケン一派の目論見は大きく阻害することに成功した。
 しかし、その陰謀を完全に打ち破ったわけではない。痺れを切らせたショッケンらは、持てる限りの兵力を注いで古代兵器の獲得に乗り出したのだ。
 無論、これにもまたローレットによる妨害が入るであろうことはショッケン一派も想定している。しかし、今回は可能なだけの兵力を用いているのだ。
 そう、可能なだけ、あらん限りの。
「ほ、ほんとうにこいつを配備するのか?」
「言うな。上の命令だ。この戦いで負けるわけにはいかないんだよ」
「だからって、こんな、こんな凶暴なモンスターを!!」
「言うなよ! 怖いのはお前だけじゃないんだ!!」
 運ばれてきたのは檻に入った巨大なモンスターである。大の男が見上げるほどの巨体。凶暴かつ強大な膂力。白と黒のカラーリング。
 戦力として数えられるならたしかに大きなものであるため、餌をやってはいるのだが、正直なところ、持て余しているというところが正しい。頭が悪いわけではないのだが、こちらの言うことをあまり聞かないのである。餌係が吠えられ、悲鳴を上げて逃げ去ったのは一度や二度ではない。
「おい、今日はやけに期限が悪くないか? ちゃんと餌は与えているんだよな?」
「あ、当たり前だろ! ちゃんとバケツ3杯分の肉をだな――」
「まて、お前、肉をやっているのか!?」
「な、なんだよ。勿体ないとか言うなよ? 機嫌を損ねて俺が食われちゃたまらないだろ」
「そうじゃない、いいか、こいつの好物は――」
 ぐしゃりと、何かがひしゃげるような音。
 ぎくりと身を強張らせて振り返ってみれば、檻の鉄柵が曲げられ、モンスターが出てくるところだった。
 異種族でもわかる、怒りの表情。
 口からは熱気を飛ばし、空腹を訴えていた。

●ぱんだ
「ちとやっかいニャことにニャっていてね」
 集められた面々を前に、プランクマン(p3n000041)は地図を取り出すと、ある一点を指差した。
 それはショッケン一派が狙っているという古代遺跡から少し離れた位置だった。遺跡側からは見えづらく、しかし適度に広い場所だ。なるほど、拠点にされると厄介な地点と言えるだろう。
「想像の通り、ここを拠点のひとつにするってえ動きがあったんだけどね。どうもやっこさんら、慣らしきれていないモンスターまで戦線に投入しようとしたらしくてさ。そいつが暴走したってんで、ここらの兵士はどいつもこいつも逃げちまったニャぜ」
 訓練された兵隊が逃げるほどの強さを持ったモンスター。それが視界の通らない地点に居座り、いつ気まぐれに遺跡へと踏み入ってくるかわからない状況。確かに、気がかりを残すのは少々厄介だ。
「そこで、ここのモンスターを排除してほしいのさ。処分しても、追っ払っても良い。雑食だが、肉を好んで食べたりはしニャアらしくてね。ある程度おとなしくさせりゃあ問題はニャアよ」
 兵隊の扱いが悪かったらしく、今は気が立っているものの、ある程度抑え込んでやれば大人しくもなるだろうとのことだ。
「こちらとしても、憂いを排除して戦線に復帰してほしいからね。こいつは即急に、頼んだよ」
 あ、そうだ。ところで、このモンスターの名前は?
「ニャんてったっけね。ああ、そうそう、パンダだよ。パンダ」
 じゃあよろしくニャぜ、と、彼女は手を振りながら去っていった。

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

ショッケン一派が狙っている古代遺跡の近くに、凶暴化したモンスターが居座りました。
これが予想のつかないタイミングで遺跡に入り込んでしまう可能性もあり、即急に排除せねばなりません。
ある程度戦って押さえ込めば大人しくもなるでしょう。そのため、あくまで成功条件は驚異の排除となっています。

【エネミーデータ】
■パンダ
・白と黒のカラーリングをしたモンスターです。大の男が見上げるほどの巨体を持っており、HPと物理攻撃力の高い生き物であると推測されます。
・雑食ですが、とある植物を好み、肉はあまり食べません。現在は気が立っており、その植物で気を引くことは出来てもおとなしくさせるまでは不可能です。あくまで戦闘を伴います。
・近距離スキルのパンダパンチやパンダクロー。遠距離攻撃のパンダ真空波を使うと文献にはあります。
・好物を食べると超時空パンダ光線も使えるはずですが、現在は好物がないので使えません。まさか、このシナリオで誰かが持ち込むということもないでしょう。
・倒すとおとなしくなります。好物を食べていれば本来人懐っこいモンスターです。

【シチュエーションデータ】
■開けた場所
・遺跡にほど近い開けた場所。行動を阻害するものはありません。

  • <黒鉄のエクスギア>パンダ完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月30日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
氷瀬・S・颯太(p3p006973)
影雷白狐
陰陽丸(p3p007356)
じゃいあんとねこ
伊達 千尋(p3p007569)
Go To HeLL!
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

リプレイ

●ぱんだ
 基本的に温厚な種族だと思われているし、自分でもそんなキレ易いタイプではないと自負しているのだが、どうやらここの人達はそういう目で自分のことを見てはくれないらしい。種族名や実名で呼ばれることはまず無く、代わりに『凶暴な魔獣』とか『最強の怪物』とか呼ばれている。多分誰かと勘違いしている。それ同族でももっと茶色いやつですよ。

 遺跡からは見えない位置にあるものの、足を向けてやれば思いの外開けた場所があり、そこまでいけば視界は通りやすくなっている。その中に、ひとつの生物が鎮座していた。
 白と黒のカラーリングで、如何にも強靭そうな肉体を持っている大きな獣。主食は肉でないと聞いているものの、それだけでは油断できない。世の中、食うよりももっと残酷な行いをするモンスターなどごまんといる。
 息を潜め、観察をし、しかし迅速に、この魔獣を対処せねばならない。
「なるほどパンダ。私が知っているものとは少し違う気もしますが」
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は首を傾げたが、気の所為かもしれないし、そうじゃないかもしれない。なにせ、パンダを知っていても、その姿を日常的に見ていたわけではないのだし。飼育されている種類とは、また異なる点もあるかもしれない。
「見た目については一緒でしょうか? 大変愛らしい……いえ、てめえぶっころすぞって目してますね。大変怖いですね」
「巨大な獣。此の時点で『強敵』だと思考可能だ。されど抑え込めば『鎮まる』現状。物語は終を得ないと思考すべきか。Nyahahaha――ならば。殺されない程度に壁と化す」
 パンダを前にしてこんなこと言ってる『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)を想像してみてください。思いの外かわいい。
 しかし相手は凶暴な魔獣であることに変わりはないのだ。此度も暴力をひた止める絶壁は重宝されることだろう。
「パンダさんを狂暴化させるなんてとんでもないわ!」
『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)はどうやらパンダを知っているらしい。
「これがニワトリだったら大変よ! 好物がなくてめ朝ってだけでビームを撃っちゃうかも!」
 恐ろしい。パンダはゴリラと同じ様に好物を食べれば強化されるが、ニワトリは時間帯だけでテンション上がってビームが撃てるようだ。
「何はともあれ、パンダさんが大変な事をする前に止めましょうっ」
『ふんわりラプンツェル』桜坂 結乃(p3p004256)はその姿をみて絶句していた。
「狂暴化したもんすたーさんがいるってことだけれど。普段は可愛いぱんださんをこんなところに連れてくるなんて、かわいそうだなって思うの……」
 確かにパンダはくまの仲間である。くまだと言われればそれは確かに恐ろしいものなのではないかと結乃も思う。しかしだからこそ、なにかしてしまう前に止めてあげなくては。
「ごめんね。あとでたくさんご飯とかあげるから、大人しくしてね」
『影雷白狐』氷瀬・S・颯太(p3p006973)はパンダの一挙手一投足をつぶさに観察していた。何やら、とある懸念を抱えている様子だ。
 魔獣はあぐらのような姿勢で地べたに座り、時々やってくる小鳥が鼻の上に止まると、むずがゆいのかすんすんと揺らしてそれを追い払っている。
「……パンダというと白黒巨体に「クンフー」って言うある古風の国の武術使う生き物だが、こいつもそうだろうか?」
 オイやめろ、それ追求すると怒られるやつだろ。
『じゃいあんとねこ』陰陽丸(p3p007356)は驚いていた。確かに敵はパンダだと聞いてはいたが、ギルドでもらった事前情報と自分の中で思い浮かぶ姿があまりに違ったため、自分が見知ったそれと同じであるのか若干の不安があったのだ。
 それがどうだ。それがどうだ、あれはまさしくパンダではないか。確かに気が立っているように見えるが、あれは確かに『どうぶつえん』なるもので人気だったパンダである。
「みゃー、ふみゃん、にゃっにゃ!」
「あれってマジでパンダだよな……」
『Punch Rapper』伊達 千尋(p3p007569)はちょっと困っていた。確かにくまだと言われれば凶暴な生物のイメージが強い。森で出会ったら逃げるべきだし、よほどの達人でなければあれと戦おうなんて思わない。でもパンダである。別の意味で、今までパンダと戦おうと思ったことはなかった。
「動物園とかテレビで見る分には可愛いと思ってたけどよ。まあ、熊だしな……」
「パンダ……なるほど、聞いたことがあるよ」
『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)はパンダを聞いたことがあるらしい。しかし、パンダについて伝聞のみで知識を得ているのはなかなか稀ではなかろうか。
「パンダの別名を『熊猫』とも呼ぶとおり、『熊の体躯を持ちながら猫のようにしなやかな身のこなし』を備えた非常に強い生物なのさ」
 よし、眉唾臭くなってきた、
「そんなパンダの好物って……ゴマ、だっけ?」
 ゴマらしい。持ってこなくてよかったなゴマ。
 相手は会話の通じない魔獣である。凶暴なモンスターなのである。迅速な対処を求められてはいるが、無謀と勇気を履き違えてはいけない。
 もうすこしだけ、様子を見てみよう。

●ぱんだ?
 彼らはもしかして、カラーリングでひとのこと、いや、くまのことを判断してはいないだろうか。この白い毛と黒い毛が合わさったボディを見て、闇と光の力が備わって最強に見えていたりしないだろうか。なんかそんな気がする。暗黒と神聖の力を見せつけよ、とか言われたことあるし。言われ続けていると、なんだかできるような気がしてくるのでやめて欲しい。

 あぐらをかいたような姿勢のまま、パンダは動かない。時々、手を動かしてはいるものの、それが何を示す動作なのかは不明だ。
 恐ろしい。あれは瞑想であり、イメージトレーニングである。
 いつでも獲物が来たら戦えるよう自分を常に戦場においているのだ。
 ごくりと、思わず生唾を飲み込んだ。
 その時だ。パンダが前転の用量でぐるりと回転したのである。
 なんという身のこなし。
 これでわかった。やはり放置していい魔獣ではない。
 イレギュラーズ達は武器を手に立ち上がる。
 凶暴な魔獣パンダと、歴戦の戦士たちの戦いの幕が上がろうとしていた。

●ぱんだ
 肉食だと思われている。いや、食べられないことは無いんだけど、自分、もうちょっとサラダ系が良いんだよね。有り体に言えば笹。でもお肉ばっかり食べている。こういうのじゃないんだけどなあ。生肉山積みにされてもなあ。食事の心配をしなくても良いとは言え、その内容がこれでは辟易する。胸焼けしそう。

「我等『物語』は常の如く邪教の在り方を貫くのみ。整理する必要は無く此度は『壁』を覗かず、早々に仕事に取り掛かるべきか。夕餉は何れもベヱコンに違いない。好き嫌いせずに食んでも、好き嫌いで拒んでも、個性故の色彩だろう。さあ。物語を始めよう」
 体を太く変容させたオラボナが、強烈なパンダクローで切り裂かれた。
 それは血であるような、そうではないような、何らかの液体の飛沫を持って攻撃を受けたことを理解させるが、ダメージを負うところまで、オラボナの想定通りである。
 パンダの爪は鋭い。戦わせるために磨かれていたのだろう。理性を失った獣の動きを完全に取り押さえることなど不可能だ。ならば誰かがその凶暴を受け止めねばならず、防ぐのではなく、弾くのでもなく、存在の大きさを持ってオラボナはパンダのあれやこれやを受け止めていた。
 つまりタイヤの役目である。パンダがじゃれるオラボナタイヤ。
「貴様の『存在』は我等『物語』を悦ばせる文字列だ。蹂躙するならば此処からだ。貴様の力を魅せるが好い。我等『物語』は未だ【起立】して在る」

「私のお弁当……」
 トリーネはお腹が空いていた。
 理由はパンダの好物がよくわからなかったからである。
 パンダは好物を食べることで超時空パンダ光線を出すという。その威力はきっと恐ろしいものに違いないので、パンダに好物を渡すわけにはいかないのである。
 しかしパンダの好物がわからない。じゃあお弁当持ってってそれとられてたまたま好物だったらすごい大変なことになる! ニワトリが戦犯になる。戦犯ニワトリ。
 だからお弁当を持ってこれなかった。空腹である。空腹ニワトリなのである。
 空腹ニワトリはオトモのヒヨコを召喚してパンダを攻撃しようと試みるものの、ヒヨコも召喚主に合わせたのか若干空腹を感じられる動きで千鳥足だ。ふらふらふらふらしている。ふらふらふらふらしているがお仕事はこなさないといけないので力を合わせて頑張ってパンダの周りで踊り始めた。踊るヒヨコ。困惑のパンダ。激励のニワトリ。
「頑張れ頑張れぴよちゃん! 私は今お腹が空いてるから早く終わらせたいの! 気合いで当ててー!」

 結乃は攻撃もさることながら、周囲へと意識を配っていた。有り体に言えばきょろきょろしていた。
 ここはパンダを連れてきた敵の元拠点だと聞いている。そうである以上、パンダ用の備蓄まできっとどこかに用意されているだろう。
 散乱しているお肉を見る限り、どうやらパンダの餌やり当番はパンダの好物をあまり理解できていなかったようだが、備蓄を用意し担当者までがそうであるとは限らない。
「……超時空パンダ光線てなんだろう」
 それはとっても気になるネイミングだ。結乃の記憶が正しければ、パンダは光線を出せるなんて聞いたことがない。ていうかどんな生物も光線を出せるとか聞いたことがない。
 気になって仕方がないものの、多分名前からしてすっごい強い攻撃だ。だから興味本位で覗いてはいけないやつだ。深淵を覗く時、またパンダもこちらを覗いているのだ。
 だからパンダの好物が落ちていたりしないか探している。パンダがアレを口にして、怒りで金色になったゴリラの如く強化されてはたまらないのだ。
「万が一それっぽいものがあったら、隠しておかなきゃだね」

 しかしやはり魔獣というだけあって、パンダの攻撃は鋭いものだった。パンダパンチは内臓が飛び出るのではないかと錯覚するほどの衝撃を体に与えるし、パンダ真空波は真空波だけあってすごく避けづらかった。
 我を失ったモンスターとの戦いは熾烈を極める。だから、治療役を買って出た四音も戦場を右へ左と忙しい。
 爪痕を見つけては癒やし、真空波の痕を見つけては癒やし、傷ついた仲間の怪我を治していく。パンダから目をつけられても安心なよう、距離は多めに確保している。
 なにせ相手は真空波を飛ばすことができるのだ。手足が届かない距離で一息つける相手ではない。あのような大きな獣、この体で襲われれば無事である自身などなかった。
「傷ついた人は居ませんか? 居たら挙手をお願いします」
 戦闘のさなかに片手をフリーにするというのはなかなか危険な行為だが、意思疎通を明確にするというのも必要なことだ。なんというか、治療中の笑っていない歯医者の発言と似たようなものを感じるが。
「皆さん全力で戦えるよう、綺麗に怪我を治してサポート致しますね。ふふふふ」

 ようやっと。
 横薙ぎに振るわれるパンダの剛爪。首や重要器官を通り過ぎれば間違いなく致命傷になると想定できるそれはしかし、ようやっと、それは颯太の身を裂くことなく空を切った。
 それが気に食わなかったのか、パンダの腕が二度三度とがむしゃらに振るわれるが、一歩距離を開けた颯太にそれが触れることはない。
 無名の檻とでも言うべきか。パンダの視界は今や颯太によって振るわれた靄のようなものに閉ざされていた。
 パンダの目線がこちらにはもう向いていないことを確認してから、颯太は大きく長く息を吐く。内側に溜め込んだ痛みを噴き出すように、肺の中身を絞り出した。
 腕からだくだくと流れる血液。痛みは遠慮無く脳へと針を突き刺し、ぐじぐじと意識を手放すよう促してくるが、ここで攻撃の手を休めるなどありえない。
 温厚とされる生き物が、ここまで凶暴化し、生命を奪うだけの暴力を振るう。それを止めてやれるのなら、一刻でも早くそうしてやりたかった。
 背後に周り、刃を八相へ。息は細く、心臓は煩く、しかし心は凪のごとく。踏み出す、一挙。

 これで何度目か。
 膝はついたが、くずおれず。肘はついたが、尽き果てず。セレマは何度目かのパンダ真空波を受けてなお立ち上がった。
「まっとうに受けていたら、死んだかも知れないね……!」
 はやる心臓を押さえつけ、体を起こして姿勢を整える。
 いかな魔獣とは言え、傷つかない生き物はいない。戦いは激化し、それに伴ってパンダも疲弊と傷を見せ始めていた。
 それはこちらも、同じことでは有るのだが。
 見事な白い毛並みが、血と土で汚れ、黒毛と合わさって斑の模様になっていく。この攻撃性がなければ愛らしいとも言えるその外見が崩れていくのは、なんとも目を背けたくなるものだった。
 もうすこし、もうすこし。それは振り切れるのを待つ天秤のようなものだ。お互いを削り取り、最後にどちらの重みが残るのか。判決が降る瞬間まで、互いに生命を賭し合うのである。
 パンダが両手を上下に交差させ、何かを形成していく。あの動きはもう覚えている。遠くにいるこちらを認識し、攻撃を繰り出そうというのだろう。
 最後まで、全力で食いしばる。頬を張り、次の一撃へと身構えた。

 本気のくまが殺意を持って目の前にいたら、まずビビる。
 体格が違う。膂力が違う。命のやり取りへの姿勢が違う。どれだけ死線を潜っていても、どれだけ力をつけたとしても、本気のくまが目の前にいたら大なり小なりの緊張は免れない。
 千尋は戦いながら、傷をつけながら、血を流しながら、叫ぼうとする心をとあるもので抑え込んでいた。
 持ってきてそのへんに置いといた、アレ。タイヤとでかいゴムボールである。
 これを使ってパンダと遊びたい。触れ合いたい。毛並みを堪能したい。
「よ~~~~~~しよしよしよしよし! かわいいねぇ~~~~~~~~!」
 ってしたい!!
「気分はビーストテイマー……ダテゴロウさんとは俺の事よ」
 それ凄い噛まれそうと口にできる余裕のある味方は居なかったようだ。
 とにもかくにも恐怖心などアニマル触れ合いたい欲で押さえつけ、とりあえず勝たないと触れ合いできないから勝つために千尋は頑張るのだった。
(よぉ~し、お前の名前はファイファイだ!)
 名前まで。

 最近、月イチくらいで猫とアニマルのもふもふ大決闘を書いている気がする。
 それはそれで幸せなことなので脇に置いておいて、陰陽丸は息の上がってきたパンダの抑え込みにかかっていた。
 マウントを取り、体重を使って極めにかかっているとは言え、やはりパンダもくまの仲間。逃れようとする力は凄まじい。
「なぁん、みゃぅ!」
「がおー」
 大きなにゃんことくまが組技で戦うこの光景。ゼロ距離での戦闘を行っているため、さらにはなんかわからんけどとっても愛らしいという理由で、誰も加勢を行うことが出来ず、固唾を飲んで、動画撮ってSNSに流したい気持ちを押さえつけて、この戦いを見守っていた。
 ところでパンダの鳴き声ってがおーでいいんだろうか。
「んなーぉ、にゃーん!」
「がおー」
 暴れるパンダの爪が陰陽丸に食い込み、赤いものを流させる。表情は苦痛。それは傷の痛みによるものか、それともここまで殺意を振るうまでに至ったパンダに同情してのことか。
「みゃっみゃっ!」
 ついにその時は来る。振り絞られた力は尽き、意識は失われ、そうして立ち上がったのは――

●ぱんだ
 最近ちょっとしんどい。多分お肉ばっかり食べているせいだ。ていうかもう味も油もしんどくて喉を通らないし。お腹すいたなあ。ちょっといらいらしてきたぞ。笹食べたい。笹。さーさー。

 意識を取り戻したパンダの気性は、温厚なものに戻っていた。
 この世界のパンダが賢いのか、それともこの個体がそうであるのか、パンダは自分が我を失った所を止めてもらったのだと理解しているようだった。
 傷をなめ、体を擦り寄せてくるパンダ。毛の生えている方向に向けて撫でてやると、とても喜んでいた。
 時間があまりあるわけでないが、傷を残したまま次の戦場に向かうこともないだろう。
 ぐきゅるるるるる。
 パンダのお腹が鳴った。
 なにか食べられるものを探してやろう。
 そういえば、笹って美味しいんだろうか。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

新しい友達。

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