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シナリオ詳細

<黒鉄のエクスギア>軍人たるもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 きゅらきゅらと。
 蒸気機関を搭載した、中型のトラックが、スラムの街を行く。
 それを先導するように歩くのは数名の軍人たちで、その表情には些か苦々しいものがあった。
 がたん、とトラックが動くたびに、荷台にのせられた子供たちが、びくりとその身を震わせる。
「我々は――」
 戦闘を歩む、二人の男の内。金髪の男が、言った。
 年若い男である。年齢は20を超えたところだろうか。
 苦汁をなめるような表情を、男はしていた。
「正しいのか? このような作戦が、本当に――」
「黙れ、エルドラウ」
 もう一人、黒髪の男が言った。これもまた、苦虫を嚙み潰したような表情であった。
「黙っていられるか、シュナウゼ! この子らは……殺されるのだぞ!?」
 そうだ。
 この子供たちは――古代兵器軌道のための、生贄に捧げられる。
 わかっている。止められる……今ならば。だが。
「黙れと言っている!」
 シュナウゼと呼ばれた黒髪の男が、叫んだ。エルドラウと呼ばれた金髪の男は、奥歯を食いしばる。
「間違っていたとして……我々に何ができる。我々は軍人だ。ショッケンに逆らう事は許されていない。それに」
 シュナウゼは言った。それは、自己に対する言い訳のような色を乗せていた。
「我々スラムの出の者が、大きく出世できるチャンスなんだ……!」
 その言葉に、部隊員たちが顔を伏せた。
 第703部隊――スラムから、己の身一つで成り上がってきた、成り上がり者たちが集められた部隊。
 そんなスラム出身者たちによって構成された部隊を此度の作戦に従事させたのは、スラムの事を知り尽くしているが故か、あるいは上官の悪趣味によるものか。
「同じスラムの同胞の生き血をすすっての出世に何の意味があるんだ……!」
 エルドラウが、吐き捨てるように言った。
 想いは同じく。
 しかしどうにもならない。
 もし彼らが己の正しさに証を立てるのだとしたら、この国――ゼシュテルにおいては、自らの力を誇示する必要があるだろう。
 だが、そこまでの力は、彼らにはなく。
 また、同時に彼らは、悲しいほどに軍人であった。
 ショッケンの作戦――スラムの古代兵器の奪取は、確かにショッケンの私利私欲に満ちた作戦ではあるが、同時にその古代兵器を運用できるのであれば、他国との闘いにおいて鉄帝国に巨大な有利をもたらせることに違いはない。
 国のため――その言葉がちらつき、しかしその心に穏やかさは訪れない。がんじがらめの中、軍人たちはゆっくりと、スラムの地を――崩壊しつつある故郷の地を踏みしめた。


「緊急事態ですね! ショッケンのおっさんが、何やら強硬策に出たようでして!」
 『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)はひらひらと飛びながら、イレギュラーズ達へと事件の概要を解説し始めた。
 先ごろから多発していた、鉄帝国のスラム街モリブデンを巡る騒動。
 その首魁たるショッケン・ハイドリヒは、度重なるイレギュラーズ達による妨害についにしびれを切らし、大軍勢を用いた強硬策に打って出たようなのである。
「奴らの目的は、古代兵器の奪取――そして、この古代兵器を起動するためには、子供たちの命を捧げる、生贄の儀式が必要なのです」
 その言葉に、思わず顔をしかめた者もいたかもしれない。
 生贄の儀式――しかも、子供たちの命。到底、許されるべきことではない。
「皆さんには、儀式場へと連れ去られている子供たちの救出をお願いしたいのです。目撃証言などにより、連中の移動ルートは割り出せています。先回りして、とっちめてやってください!」
 ファーリナはぱたぱたと飛び回りながら、
「子供たちの命がかかっています! 迅速にお願いいたしますよ! では、しっかり働いてきてくださいな!」
 そう言って、イレギュラーズ達を送り出したのである。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 ついに動き出したショッケン・ハイドリヒの軍勢。
 彼らが運搬する生贄の子供たちを助け出しましょう。

●成功条件
 子供たちの救出

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 古代兵器を起動させるためのキーである、生贄の儀式。
 その儀式の生贄とするため、スラム街モリブデンの子供たちが、さらわれてしまっています。
 皆さんには、子供たちを運搬する部隊を襲撃し、子供たちを救出してもらいます。
 目撃証言などから、部隊の移動ルートは割り出されているため、皆さんは問題なく部隊へと襲撃を仕掛けることができます。
 作戦決行時刻は昼。周囲は充分広く、ペナルティなどは発生しないものとします。

●エネミーデータ
 
 鉄帝軍人、シュナウゼ ×1
 特徴
  サーベルを装備した、部隊長です。
  少々心が揺れ動いているようですが、鉄帝国のためにしっかり戦います。
  主な攻撃は至近~近距離の物理攻撃。出血や、ブレイクを用いた攻撃も行います。

 鉄帝軍人、エルドラウ ×1
 特徴
  狙撃ライフルを手にした副隊長です。
  少々心が揺れ動いているようですが……。
  主な攻撃は中距離~遠距離をカバーする物理攻撃。足止めや麻痺を用いた攻撃も行います。

 鉄帝軍人一般兵士 ×8
 特徴
  一般兵士たちです。
  彼らを含め、この部隊の隊員たちは、全て元スラムの住民のようです。
  サーベル持ち(至近~近接攻撃)とライフル持ち(中~遠距離攻撃)が半々で存在します。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <黒鉄のエクスギア>軍人たるもの完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月30日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
すずな(p3p005307)
信ず刄
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)

リプレイ

●正しき者
 スラムの街を、ゆっくりと、軍人たちが行く。
 蒸気機関のトラック、その荷台に子供たちを乗せて。
 トラックの速度は遅く、周囲に展開する兵士たちの歩行速度と大して変わらない。
 これは、周囲を警戒する兵士たちに合わせての事だ――エルドラウは自嘲気味に笑った。
 何を警戒しているのか。周囲はほとんど、制圧の完了した地域だ。わざわざそこに襲撃を仕掛けてくるもの等、居はしないだろう。
 あるいは――襲撃を、してほしいのか。
 我々を一喝する何か。正しき、力ある人々――正義の味方。そんなものを、待っているのだろうか。
 それこそ――。
 エルドラウは笑った。
 馬鹿な話だ――。
 エルドラウもまた、スラムから己の力で成り上がってきた人間だったから、現実的に過ぎる思考を持っている。
 我々は、子供たちを――彼らの未来を犠牲にして。さらに成り上がる……強欲なるショッケンの下で。
 それしか……未来はない。現実はない。
 そう、エルドラウは思っている。
 だが――。
 そんな現実を破壊する不確定要素(イレギュラー)は、この世界に存在するのだ。
 ――その時。何かが、軍人たちの視界を横切った。それは、パリッとした服を着た、中性的な……少年か少女のように見えた。
「らぶあんどぴーす」
 それは言った。そのように聞こえた。それは瞬く間にトラックへと接近すると、手にしたナイフ――大型のものであった。さながら捕食獣の牙のような――で一閃。タイヤを斬りつける。
 ばしゅ、と音がしてタイヤの空気が一気に抜ける。ガン、と音がして、トラックが傾いた。子供たちが小さく悲鳴を上げた。
 それは――『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は再び跳躍すると、一同から距離をとる。
「ローレットの運命座標だ。ショッケンの非道を見過ごすわけにはいかぬゆえ。大人しく投降してほしい」
 愛無が声をあげた。わずかな間。
「敵襲――!」
 シュナウゼが叫んだ。エルドラウは些か呆然としながらも、しかし身体に叩き込まれたものが、対応の形をとった。
 だが、イレギュラーズ――『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の動きは、鍛えられた軍人たちのそれよりも、素早い。
 リゲルの放つ断罪の斬刃が、エルドラウの左腕を切り裂いた。鮮血がほとばしり、たまらず、腕を抑える。
「まさか……!」
 エルドラウが呻いた。
 本当に、来るなんて。
「貴方方は間違っている」
 リゲルが言う。その輝く刃をかざし。
 悪しきを断罪する言葉。
 エルドラウにとって、それは正しく、正義の者に見えた。


 軍人たちが応戦態勢を整える前に、イレギュラーズ達は彼らの前へと立ちはだかる。
 事前に軍人たちの行動ルートを把握し、戦いやすく、同時に奇襲のために身を隠すことのできる場所を探したのは、『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)だった。
「奇襲には成功……あとは一気に制圧しよう」
 メートヒェンが言う。
「なぁに、『皆』救ってやればいいんだ。簡単だよ」
「そうだな……そうだとも!」
 リゲルは頷いて、一気に敵陣へと突っ込んだ。目指すは副隊長である、エルドラウという軍人だ。まずは指揮系統を潰す。リゲルはエルドラウに接敵し、その抑えを行う。
「古代遺跡とその兵器。興味はあるが――」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はくすりと笑いつつ、すぅ、と息を吸い込んだ。
「さて、まずは歌でも聞いて落ち着いてくれたまえよ」
 絶望の海を歌う、呪歌。遠い絶望の海を眼前に浮かび上がらせんばかりのその歌が、耳朶を震わせ内側より聴くものを蝕む。シュナウゼと、彼に率いられたサーベル兵たちが注ぎ込まれる呪の歌に身を震わせた。
「怯むな……! 数の上ではこちらが有利だ! 攻撃を集中しろ!」
 檄を飛ばすシュナウゼ。ゼフィラは、
「へぇ。なるほど、決して無能という訳ではなさそうだ」
 興味深げな笑みを浮かべながら、敵の動きを観察する。
「迷いがあるなら諦めたまえよ。なに、鉄帝にとっても悪いようにはしないさ」
 ゼフィラの言葉に、
「迷いなど……ないっ!」
 シュナウゼは否定する。だが、そうではないことを、ゼフィラは理解していた。
「どうして……こんなひどい事に手を貸すの?」
 月の虹――温かな光へと、己が魔力を変換。その光で以って仲間達を癒す。『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は仲間たちの様子を確認しながら、兵士たちに向かって声をあげた。
「軍人だからって、なんにでも従わないといけないの? 自分たちの守るべき民……それも、未来を担う子供たちの命を奪う必要が、本当にあるの……!?」
 スティアその眼をしっかりと、兵士たち――シュナウゼにエルドラウへと向けて、問いただした。
「だとしても……そうだ、我々は、軍人なんだよ、お嬢さん!」
 サーベル兵が、スティアへ向かって刃を振るう。その一撃は、兵士たちの悲鳴にも似ていたことに、スティアは気づいた。
 どうしようもない怒りを、やるせなさを、今現れた自分たちへとぶつけている。
 だからスティアは魔導器を利用して障壁を展開して、真正面からその刃を受け止めた。そしてその瞳を反らすことなく、兵士たちへと向け続ける。
「子供たちだって、とってもつらいんだから……大人達の勝手な事情に子供達を巻き込まないでー!」
 自身の想いを、思い切りぶつける……目を、心をそらさずに。サーベル兵たちがたじろいだ。今ここに居るものが、自分たちよりも強大な存在であると感じたかのように。
「くっ……怯むんじゃない! エルドラウ、何をやっている! 銃兵に援護をさせろ!」
「……分かった……っ!」
 エルドラウの指揮の下、銃兵たちの一斉射撃が、イレギュラーズ達を襲う。正確な銃撃の中を、『妹弟子 』すずな(p3p005307)は舞うように飛び交い、その射線をずらし、攻撃を回避してみせる。
「貴方達は軍人なのでしょう? 守るべき国民を害するなど、言語道断です!」
 跳躍しつつ、一気に部隊長、シュナウゼへと突撃する。大上段から振り下ろした妖刀……いや、霊刀が、その大きさながら驚くほどの軽やかさで、シュナウゼへと襲い掛かった。
「くそっ、剣士か……やるっ!」
 シュナウゼはサーベルでその斬撃を受けるが、しかし放たれる二の太刀がシュナウゼの腕を浅く斬りつける。
「軍人たるもの、刃を向ける相手を間違えてはなりません……ッ!」
「軍人たるもの、命令に従ってこそなんだよッ、剣士!」
「それでは軍人ですらない……ただの歩く屍も同然でしょうッ!」
「言わせておけば……っ!」
 苦痛の悲鳴にも似たその叫びに、すずなは後方へと跳躍。入れ替わりに突撃してきたのは、メートヒェンである。メートヒェンの振るう拳が、シュナウゼへと降り注ぐ。拳の一撃を、シュナウゼが己が右手で受け止めたのを確認して、メートヒェンは口を開いた。
「さて、君たちもスラムの出身なのだろう? 軍人である以上、命じられれば従わなければいけないのはわかっている。……だけど1つだけ確認させて欲しい、こんなことが本当に正しいと思っているのかい?」
「何を……言いたいっ!」
 シュナウゼは苦し紛れに刃を振り下ろす。メートヒェンは、それを拳で鮮やかに受け流して見せた。
「君たちが、此処に至るまでの努力……それは理解しているよ。私もそうだったからね。だから尋ねている。そして、君たちがそこまでして成り上がったのは、何のためだったのか。今ここで思い出してほしいのさ」
 言葉と共に繰り出される蹴りの一撃が、シュナウゼの首元へと迫る。しっ、鋭い音を立てて、直撃の寸前で、メートヒェンは攻撃を留めた。
「きっと、君たちが軍人になったのは、彼らを守るためだった。そのはずだろう?」
 にこり、と。メートヒェンは笑った。
「ぐっ……!」
 シュナウゼは言葉をつづけられない。理由の一つは、メートヒェンの攻撃から目を背けることができなかったからで、もう一つは、図星であったからだった。


「まったく、軍人てのはよくわからないですけど、不器用なんですかね!?」
 振るわれるサーベルの一撃を、『孤高装兵』ヨハン=レーム(p3p001117)は巨大な大盾で受け止めて見せた。殺到するサーベル兵の斬撃。その数にも関わらず、ヨハンは決してその体勢を崩さない。
「心にやましい事があるなら、踏みとどまれ! 自分の頭で考えて答えを出せ!」
 サーベル兵たちを、ヨハンはその身体ではじき返す。
「そう出来たら……出来るのならやっている!」
 サーベル兵が声をあげた。やはりそれは、悲鳴のようだった。
「めんどくさいですね! 初心に戻って考えてみろ! 軍人とは弱き人々を守るためにいるのでしょう! それを無視して……血の犠牲の下に成り上がった先に、何が待っているというんです!! その全部を受け止める覚悟が、あなた達にあるんですかッ!」
「軍人でもないお前に、何がっ!」
 サーベル兵たちの言葉は、泣きじゃくる子供のようでもあった。もうどうしようもない所へ来てしまったのを……それでも、己の意志で引き返せるはずを、認められないように。
「そうですよ! 僕は軍人じゃない……ゼシュテル鉄帝国剣士にしてイレギュラーズ、ヨハン=レームだ! だから……お前たちの今を、否定してみせるっ! 僕たちには、それができるッ!」
「らぶあんどぴーす」
 と、愛無。ふむん、と頷いてから、言葉をつづけた。
「軍人とは弱きを守る……など綺麗事は言わぬ。だが僕の団長は言った。『たとえ誰に恥じようとも。己に恥じぬ生き方をせよ』と」
 その言葉には、どこか重みのようなものが、確かにあった。愛無はそれを理解していて、自身の言葉の重みを何倍にもする方法も、心得ていた。
「……其処の子供達は、君達の『過去』であり、君達が『国のため』と作る『未来』だ。彼らは戦う術もたず。ただ奪われ。死んで逝く。そこで尋ねるが」
 すぅ。愛無は息を吸った。あえてしっかりと間を置いた。考えさせるために。次の言葉を浸透させるために。
「『今』の君達は『己』に。恥ずべきは無いと言えるかね?」
「ぐっ……ぐっ……!」
 兵士たちは、その言葉に応えるすべはない。
 もとより――迷っていたのだ。間違っていると思っていたのだ。
「俺たちは、あんた達を殺したり……するつもりはない」
 『天戒の楔』フレイ・イング・ラーセン(p3p007598)は静かに、そう言った。
「ただ、あんた達がこれ以上間違った道を進むなら……全力で止めさせてもらう。其れだけだ」
 フレイの言葉、戦場に響く。
 間違った道。
 それが今、軍人たちが歩んでいる道。
「惑わされるなッ!」
 シュナウゼが叫んだ。
「忘れたのか……俺たちが、俺達が……何のため……何のため……ッ!」
 二の句が継げられない。それを言葉にすれば――イレギュラーズ達の言葉を、認めたに等しいからだ。
 だが哀しいかな、彼らは骨の髄まで軍人であり、そして鉄帝人であった。
 それ故に、言葉だけでは、彼らを止めることは出来ない。
 が――。
「シュナウゼ……」
 エルドラウが、声をあげた。
「もう、やめよう……」
 泣きそうな声であった。

●制圧戦
 エルドラウが声をあげる、少し前。
 リゲルはエルドラウと対峙し、その刃と銃火を交わしていた。
「貴方は迷っている……そうなんでしょう?」
 リゲルが接敵する。エルドラウは手にしたライフルを構えて、リゲルの斬撃を受け止めた。
「だとしても……どうだっていうんだ!」
「弱き子供たちは、大人が護り、はぐくむ者です……スラムに生きるものだからこそ、そこに住む者を守らなくちゃいけないって、わかっているはずでしょう!?」
 凍てつく刃が、エルドラウへと迫る。エルドラウはライフルの銃身でそれを受け止めるが、次第にその力は萎えていく。
「私は……!」
 弱々しく。
 声をあげる。
 リゲルの、そしてイレギュラーズ達の言葉は、確実に、エルドラウの心へと浸透していた。
「今ならまだやり直せます……もし、俺達の言葉を信じられないなら、その正しさを、俺達は力で以って証明します……この国の流儀に則って!」
 エルドラウは。
 エルドラウは。
「できるのか……?」
 泣きそうになりながら。
「我々を……止めてくれるのか?」
 リゲルは微笑んだ。
「任せてください」
 その微笑は間違いなく正しき者であり。
 力ではなく、言葉によってエルドラウの心を倒した。
 優しき者たちの姿だった。
「シュナウゼ……もうやめよう」
 静かに。
 エルドラウはそう言って、その場にへたり込んだ。


「エルドラウ……!」
 シュナウゼは叫んだ。
「私はもう戦えない……私はもう負けたんだ……彼らに……彼らの正しさに……」
「馬鹿な……ッ!」
 シュナウゼが叫び……肩を落とした。
 正しきは、何方にある。
 彼らにない事は、分かっていた。
 だが、最後に残った、軍人としての……鉄帝人としてのプライドが、彼らに投降させることを許さなかった。
「イレギュラーズ……」
 シュナウゼが、静かに言った。
「お前たちは正しいのか」
「ふむん。難しい……哲学的な問いだね」
 茶化すように、ゼフィラが肩をすくめた。
「もう、教授。こういう時は堂々と言えばいいんですよ」
 ヨハンの言葉に、ゼフィラが微笑む。
「保障しよう。少なくともこの場において、君たちは間違っているよ」
「ならば……ならば!」
 シュナウゼが顔をあげた。
 迷いを吹っ切ったような、顔だった。
「鉄帝人として要求する! お前たちが正しいのなら、力を以てその身の証を立てよ!」
「つまり……どういうこと?」
 スティアが小首をかしげるのへ、メートヒェンが応えた。
「まぁ、折り合いをつけるって事だよ」
「面倒だなぁ、軍人ってのは」
 フレイが肩をすくめるのへ、
「素直に『自分たちが間違っていた、一発殴ってくれ』……とはいかないのですね」
 ふぅ、とすずなもため息をつく。
「なに。今までの彼らよりは、好意に値する」
 愛無が言う。
「さぁ、作戦の締めだ。ここで負けたらみっともないぞ」
 リゲルが刃を構えて、そう言った。イレギュラーズ達も合わせて、再度武器を構えなおす。
 そして、正しさを証明するための戦いが、此処に幕を開けた。


 戦いは、終始イレギュラーズ達の優勢で進んだ。奇襲からここに至るまでの戦いで、イレギュラーズ達は優勢を保っていたし、その後戦闘を再開したとて、その優位は揺るがない、という事だ。
「なんだか……気分がすっきりしたよ」
 シュナウゼは、どこか吹っ切った様子で笑った。
「でしょうね。さっきより、刃が軽やかです」
 すずなが切り結ぶ。一度、二度、振るわれたすずなの刃は、やがてシュナウゼの身体を捕らえた。もちろん、みねうちである。
「見事だ、剣士……ありがとう」
「此方こそ。今一度、軍人としての在り方を見つめ直して下さいね」
 微笑むすずなの顔を焼き付け、シュナウゼは意識を失った。
 指揮官を失ってからの、軍人たちの瓦解は早かった。エルドラウはすでに戦意を失って戦線を離脱しており、指揮系統を失った軍人たちは三々五々、バラバラな攻撃を繰り返していく。
 となれば、それらを仕留めていくのは、容易な事である。
 やがて最後の一人が、フレイの放つ斬撃の前に倒れた。
「これで最後……どいつもこいつも、すっきりした表情しやがって」
 フレイが肩をすくめる。倒れ伏した軍人たちは、意識を失ってなお、どこか満ち足りた表情をしていた。
「すまない……おかげで、過ちを犯さずに済んだ……」
 エルドラウが声をかけるのへ、フレイが頭を振った。
「いや、あんたらの気持ちもわかる……だが、大丈夫なのか? このまま軍に戻って」
 懲罰などはないのだろうか、とフレイは心配していたが、エルドラウは頷いた。
「今回の件を土産に、別の派閥への庇護を求めるよ……一からやり直しにはなるだろうが」
「ま、そこはしょうがないですね」
 ヨハンが笑って言うのへ、エルドラウも頷く。
「……ところで、君たち、遺跡とやらについては何か聞いていないのかな?」
 と、自身の知的欲求を満たさんとするゼフィラ教授であったが、
「すまない、遺跡そのものについては何も聞いてはいないんだ……」
 と、エルドラウが応えるので、「おや、残念」と肩をすくめてみせた。
「さ、もう大丈夫だよ」
 一方で、トラックから子供たちを抱き上げるメートヒェン。
「ケガはない? 皆、大丈夫?」
 その子供たちに、スティアが尋ねる。子供たちは、緊張から泣き出してしまったものもいたが、ケガの類はないようだ。
「ん……其処の所は、軍人さん達も最後の一線を守った……かな」
 スティアが頷く。
「これから、この子たちを送り届けないといけないな」
 リゲルが言うのへ、メートヒェンは頷いた。
「最後の一仕事、だね」
 安堵の表情を浮かべる子供たち。そんな彼らを見ながら、
「うん。らぶあんどぴーす」
 と、愛無は満足げに頷くのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
子供たちは皆さんの手で、無事元の家族の下へと送り届けられました。
また、エルドラウとシュナウゼ達の部隊ですが、この後、別派閥への合流が認められ、そこで改めて軍人として働いているそうですよ。

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