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シナリオ詳細

<黒鉄のエクスギア>揺れる赤より助けしモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「おい、これでガキは最後か?」
「はっ。この辺りでは全員かと」
 馬車の中を見る男に部下が敬礼する。彼らは──声を上げていない取り巻きも──軍人の出で立ちだが、馬車内から男を見返す視線はひどく怯えていた。
 その視線に男はふん、と鼻を鳴らすと扉を閉める。外からしっかり施錠すると馬車に背を向けた。
「さっさと行くぞ。ここはもう用済みだ」
 必要なのは子どもだ。スラムにしか行き場のない弱い残りモノなど、そこらでのたれ死んでしまえば良い。

「燃やせ。全て灰にしてしまえば良い」



「緊急なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がイレギュラーズを呼び集める。彼女は険しい表情でイレギュラーズを見渡した。
「鉄帝軍が動き出して、スラム街が大変なことになっているのです」
 鉄帝で──より正確に言うならかの国のスラム街で──子供が拐われる、殺されるなどの非道な事件が相次いでいた。しかしローレットの活躍によりあと1歩のところで阻止できた事件も少なくない。
 そのことに痺れを切らした犯人、鉄帝将校ショッケン・ハイドリヒ率いる鉄帝軍が動き出した。その狙いはやはりスラム街に他ならなかった。
「軍の目的はスラムの地下にある、大きな古代兵器らしいのです。そこへ向かう部隊と、子供を拐っていく部隊に分かれているみたいなのですが……」
 皆さんにお願いするのはこちらです、と地図を指差したユリーカ。その場所はまさに古代兵器の眠っているであろうスラム街だ。
「あ、地下に行って欲しいということではないのです。地上……スラムの皆さんを助けて欲しいのですよ」
 イレギュラーズは1枚の羊皮紙をユリーカから受け取る。どう見てもユリーカではない誰かが書いたと思しきそれは地図であった。
 地図は大きく分けて3箇所に区切られており、それぞれ東西と中央というように名称がつけられている。
「助けに行って欲しいのはこの場所です。ここは今──燃えています」
 強き者が輝く国。彼らを光とするならばスラム街の住人は影だ。光あれば影があることは必然だが、軍人たちにとってその影は不要なものらしい。
 つけられた火は舐めるように脆い家屋を呑み込み、今もなお広がっているとのことだった。



「……?」
 少女がふと振り返る。なんだか焦げ臭い臭いがしたような気がしたから。
 まだ見えはしなかったけれど、遠くの方で騒いでいるような声がした。いつもの喧嘩かもしれない。強盗も殺人も、決して稀なことではないから。
 少女は顔を戻し、風で揺れる白い花へ視線を落とす。可憐なその花は少女の母が好きな花だった。
「おかあさん、またくるね」
 ばいばい、と少女は手を振る。土の下で眠る母から反応が返ってくることはないけれど、そこにいるのだと分かっているからそれで良い。
 踵を返した少女は墓地から出て、スラム街の方へと戻っていく。その身が程なくして──赤に包まれるなどとは思いもせずに。

GMコメント

●成功条件
 スラム住人の避難

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 完全な情報ではありません。

●スラム街
 天候は薄曇り。西から東へ吹いています。
 スラムには全体的に火が付いています。ただし中央広場はまだ延焼しておらず、うまく炎を食い止めることができれば避難場所として使用可能です。
 中央広場も燃えてしまった場合、スラムの住民は散り散りに逃げるしかなくなるでしょう。なお、後者でも依頼目標は達成できます。

・東
 スラム外側から火をつけられた状態ですが、風向きもあってまだあまり延焼していません。
 ただし住人たちの混乱により家屋が衝撃を受け、倒壊するなどの事故が発生しています。

・西
 スラム外側から火をつけられた状態であり、広く延焼しています。最も危険な地域です。
 OPでスラム街に戻った少女の遺体はここで見つかることでしょう。(見つけなくても構いません)

・中央
 スラム街の外へ面している広場があります。そのこともあってか広場は比較的綺麗です。
 広場を半円状に半倒壊した家屋が囲んでいます。それより奥にも同じような家屋が立ち並んでいます。火は奥側から迫ってきています。

●スラム住民
 皆一様に混乱しています。一目散に逃げようとする者、いつの間にかいなくなった子を探す者、大切なものを取りに帰ろうとする者、等々。
 子供は軍に連れ去られた者が多いですが、全員ではないようです。
 西では逃げ遅れた住民がいるかもしれませんし、東では家屋倒壊に巻き込まれた住民もいるでしょう。中央には逃げようと広場へ向かう住民たちで溢れかえっています。中には怪我人も存在します。

●ご挨拶
 寒いので燃やしたくなりました。冗談です。愁です。
 戦闘は起こりませんが、難易度Normalです。失敗の可能性も十分にありますので、どうぞお気をつけ下さい。
 『<黒鉄のエクスギア>迫る銀から救いしモノ』と多少の関連はありますが、排他処理はないので同時参加も可能です。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <黒鉄のエクスギア>揺れる赤より助けしモノ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月30日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ステラ(p3p005106)
未来へ
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー
リコシェット(p3p007871)
跳兎

リプレイ

●揺れる馬車の中
 遠くから漂ってくるのは煙の香り。焦げ臭いそれに皆、顔をしかめる。
「良くねぇな! こういうのは良くねぇな! とても良くねぇな!!」
 騒ぎ立てるクイックシルバー……いや、ただのクイックシルバーではない。『爆音クイックシルバー』ハッピー・クラッカー(p3p006706)がそれはそれは大きな声を上げる。その視線は馬車の向かう先、空に暗雲のような煙が上がるスラムの方角だった。
「幾らスラムが邪魔だって言っても、火を着けるほどか……!」
 『跳兎』リコシェット(p3p007871)が道の先を、スラムを、そこは火を放った者を睨みつけるように眦を釣り上げる。『月下美人』久住・舞花(p3p005056)も同様だ。
 スラムに生きる者はそこしか居場所がない。焼き出されてしまえば何処へも行けなくなる。焼け死んだらそれこそ終わりだ。
 煙が目に沁みたのか、ゴーグルをつけた『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はバンダナにも手を伸ばす。到着すればすぐにでも危険地域へ赴くのだ。今から準備しても早すぎるということはない。
 本当ならば火事を起こした犯人を追いかけ、斬り伏せてしまいたいところだが──。
「このままスラムを放っておく訳にはいかないわ」
 彼女の言葉に皆が頷く。犯人は今ものうのうと生きているのだ。今すぐ救わねばならない者を優先したい。
 ピリピリとした空気の漂う馬車の後ろをついて行く、ハイパーメカニカル子ロリババアの引く幌馬車には水入りとバケツが大量に積まれている。御者台に座っていた『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)は、濃くなる煙の臭いと聞こえてくる悲鳴に目を眇めた。
(花火ならじぶんちの庭でやれってんだよな)
 わざわざスラムに火を放つあたり趣味が悪い。いや、愉快犯なのかもしれないが。
「ま、火つける奴に何を言っても仕方ねーな」
 仲間の乗った馬車が止まる。その後ろで同じように幌馬車を止め、ひらりと飛び降りたサンディは「やるぜ」と呟いた。


●中央
 スラムの入り口は人でごった返していて、イレギュラーズたちは流れに逆らいながら散らばっていく。あたりには助けを求める声ばかりで、サンディは「奥へ行ってみる!」と駆け出していった。
 残された『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は住民たちへ声を上げる。
「落ち着いて下さい! 我々イレギュラーズが、救助と避難誘導に当たります!」
 『イレギュラーズ』の言葉にスラムの住民たちが反応する。彼らは知っていた。それは魔種を倒した強者たちであり、近頃続いていた事件の解決にもあたっていた者たちであることを。
 寛治の声を聞き、その近くにいた者から落ち着きを取り戻し始める。最も、全ての者へ届かせるには広い場所であったが──周囲を見渡した彼は見たことのある姿に声をかけた。
 このエリアの顔役と、医療の知識を多少なりとも持つ者がそれぞれ数名。まだ知己の者はいるはずだが、姿は見えない。
「避難と治療の指示を出します。住民の皆さんには、貴方達から伝えて下さい」
 彼の言葉に頷いた彼らは指示を受け、動き出す。その姿は周りに比べて一際冷静だ。

 人を纏める才があれど、命を救う知識があれど──力がなければスラムへ落とされる。それが鉄帝という国である。

「助けに来たぜ!」
 アニキカゼを吹かすサンディは倒壊した建物に挟まれた少年の元へ駆けつける。木材を持ち上げて退かし、少年の容態を確認したサンディは傷に障らないよう背負った。広場へと戻れば少しずつ寛治の指示によって人がはけ始めている。
「通してくれ! 怪我人だ!」
 サンディが声を上げると寛治が気づき、人を寄越す。スラム内で清潔なものなど限りに限られているが、それでもどうにか応急手当を受けた少年はスラムを脱出しようという青年に背負われた。
「避難場所で治療を受けさせて下さい!」
 寛治の言葉に頷き、10人ほどでスラムを出ていく住人たち。彼らは寛治の用意した秘密の隠れ家へ向かうのだ。
 火の近くまで舞い戻ったサンディは、バケツの水を被りながら接近する。これ以上の延焼は防がなければならない。
(大黒柱……ってほどのものはなさそうだな)
 サンディは辺りを見渡す。どの家もようやく建っている、というような状態だ。槍を振り回し、小さな竜巻を作るとそれらは簡単に倒壊していった。

「カンジ! ちょっと来てくれ!」
 1人の顔役に呼ばれ、寛治は人の間を縫って進む。そこには困った顔をした者や苛立った者、そして蹲る女性の姿が見えた。
「これは……」
 事態を察する寛治。そこへ女性の金切り声が被さる。
「行かないって言ってんでしょ!? あの子がまだ火の中かもしれないのに、私だけなんて……っ!」
 落ち着け、と声をかけられている女性は聞く気が無いようで、耳を塞いで首を振る。何を言われても拒絶する、という姿勢だった。けれど失礼、と声をかけて寛治が手を握れば、その両手は軽く耳から離されてしまう。相手がイレギュラーズとはいえ鉄帝の人間からすれば『非力』であると思われ、感じるのだろう。
「残された方々も、我々の仲間が必ず救出します。後はお任せ下さい。後から貴女の元へ向かえるように指示をします」
 彼女の子供が火の中か、それとも軍人に囚われたかはわからない。けれど今、この場において、ここで1人のために他の者が動きを取れなくなる事態は避けたいものである。
 何度も説得する寛治に、女性はようやく首を縦に振った。両脇から支えられ、他の住民と共に隠れ家へ向けて外へ向かう姿を見送って、寛治は再びスラムへと視線を向ける。
(まだ避難してくる者は多いでしょうね)
 中央へ押し寄せていた波が引いた程度だ。まだ西からも東からも逃げ場を求めて多くの人間がやってくる。
 スラムの外に存在する隠れ家はまだ余裕があるはずだ。あそこはショッケン派軍人から身を隠すことができ、生活もできる。つまりは──指示を出し向かわせる、ここが踏ん張りどころだった。
「力のあるやつはちょっと手伝ってくれ!」
 戻ってきたサンディが男数名にバケツを持たせ、ついてくるよう指示をする。自分が家を壊して延焼を防ぐ間、更に燃え広がらないよう消火してもらうのだ。
 これはスピード勝負、人手があるに越したことはない。ここで食い止めれば広場──ひいてはこれからやってくる東西の住民たちも多くが助かるだろう。


●西
「あーあー、これは酷い」
 『蒼き深淵』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は空から西エリアを観察する。半分ほどは火の海か。こちらとしては噛みつく動機ができたわけだが、この件による人の恨みは決して小さくないだろう。
「さあ慌ただしくなるぞ、皆も手を貸してね」
 ひらりと手をかざすと、その指にちょんとタッチしたのはこの辺りを漂う精霊。彼らの助言やファミリアーから得られる情報でルーキスは炎の中を進んでいった。
「ん、そこの人。中央ならローレットの仲間もいるよ」
 あっち、と指差せば動揺した住民が言われるままに走っていく。あれだけ動けるならついていかなくても大丈夫だろう。
 障害物を壊し、炎をものともせず進み。倒壊しかけた建物は中を覗きこんで人がいなければ破壊。それを何度か繰り返したルーキスは、蹲って震える子供を見つけた。軍に捕まることなくここへ逃れた様だが、子供のいる建物は今にも崩れ落ちそうだ。
「動ける?」
 ルーキスの言葉に子供はそっと顔を上げて、けれど何も言えないらしい。それほどまでに怯えてしまっては動くこともままならないだろう。
「動かないでね。瓦礫に潰されたくないでしょう?」
 そう注意するとルーキスは魔術書を開く。放たれるは雷──蛇のようにうねる雷撃。子供を除いて周囲を吹き飛ばしたルーキスは、子供の方へ近づいた。
「あら、怪我してるね」
 見下ろせば捻ってしまったのか、折れてしまっているのか。炎にも負けないくらい子供の足が腫れあがっている。ルーキスはアムドゥシアスの上へ子供を乗せると、一旦中央へ引き返すことにした。
「救助の心得ぐらい学んでおくべきだったか」
 今から後悔しても仕方がないが、この後学べば今後には生かせるだろう。だがまずは、出来る限り生き残りを確保せねば。
 他にも行っていないところ、とファミリアーの視界を覗いたルーキスは空飛ぶクイックシルバーを目にする。
「助けに来たぞおらあああー!!!!! もうちょっとだから気合い入れてけ!! 声出せる人は私を呼んで!」
 常でもうるさ……喧しいのに加え、スピーカーボムでさらに声量を上げたハッピーの声が響く。軍人には言いたいこともあるが、ここで声を上げても仕方がない。声を上げてほしいのは助けを求める人だ。
 小さく聞こえた声にハッピーは急降下。幽霊だから炎なんて関係ない。壁だって幽霊だから関係ない!
「呼んだね!! 呼んだでしょ!!! 聞こえたからやってきたぜ!!!!」
 ハッピーが前に現れた男は、なんとも情けなく「ゆ、幽霊……」と震えた声を出す。ハッピーははっと自分の姿を見ろして、ばっと男の方を向いた。
「違うから!!! 幽霊だけど別にお迎えとかじゃないから!!!!」
 ほら行くよ! と扉を開けるハッピー。まだ恐る恐るといった様子の男へふわりくるりと飛んで回ってみせる。
「私は確かに幽霊だよ! でもまだこっちに来るのは早いから! 幽霊がそう言ってんだから間違いないに決まってるでしょ!!」
 その言葉に目を丸くした男は、この状況に強張っていた表情をほんの少し緩ませた。
「……それもそうか」
「そうとも! さあ行くよ!ミ☆」

 そうしている間にも炎は勢いを上げていく。
(子供達を生贄に捧げるだけでなくスラムに火まで放つなんて、どれだけ命を軽く見ているの……っ!!)
 怒りの色をにじませたアルテミアは人助けセンサーの示すままに炎の通りをかけていく。幸いにして、多少の無茶はきく体だ。瓦礫に塞がれた道を咄嗟に迂回し、元の経路へ戻っていく。ゴーグルとバンダナをしているから大した支障はないが、炎だけでなく煙も充満しているようだ。
「いた、……っ!?」
 倒れた生存者を発見するも束の間、その上へ燃える建物の残骸が崩れ落ちていく。ぽかん、と生存者はそれを見上げていて。
「──させない!!」
 アルテミアは間一髪で滑り込み、崩れ落ちてきた残骸をその背で受ける。歯を食いしばった彼女が薄目を開けると、目をまん丸にした少女が映った。
「……おねーさん、今、」
「大丈夫、お姉ちゃんは強いからこの程度どうって事ないわ」
 ゴーグルとバンダナをずらし、背中の痛みなど感じさせない笑顔で告げる。この子にとっては救いの手でなければ。不安にさせてはいけない。この手が届く限りは必ず助けるという強い意志が、彼女を支えていた。
「さ、今から安全な場所へ向かうから、しっかり掴まっていてね?」
 抱きかかえた少女は驚くほどに軽い。落とさないようにと腕の力を強め、アルテミアは中央広場へと踵を返した。


●東
(ここら辺、あたしの住んでたとこだ)
 家は無事かな、と『トリコロール』ステラ(p3p005106)は頭の片隅で考える。育ててくれた老爺が亡くなり、1人になって。誰にも何も言わず、その家を出ていった。持ち主不明の住居などとっくに別の誰かが使っているかもしれない。
「聞いて! 火の手の上がった西側は、仲間が対応してる! 延焼を食い止めてるからこっちはまず燃えない」
 逃げようとする者、状況を把握しようとする者、家族とはぐれた者。混乱のただなかにいる彼らの悲鳴や怒号に紛れて、なかなかステラの言葉は届かない。それでも声を上げるのは──。
「あたしはここに住んでた!! 仕事の依頼を抜きにしたって、ここを救う理由があるの!!」
 ここにほんの少しでも、愛着があるからだ。
 スラムと呼ばれる場所だ。人並みの生活など望めはしない。餓死するかもしれないし、凍死するかもしれない。誰かの喧嘩に巻き込まれれば最悪打ちどころが悪くて死ぬ。死がいつもそばにいる場所だ。
 けれど皆アテがないからここにいる。ここにいることしかできない。そんな場所を──いいや、たとえ誰1人として住まなくなったとしても、ステラはこの場所を救いたいと思う。
「だから……同じ思いなら力を貸して! 家屋が倒壊して、人が巻き込まれているところがあるの!」
 ステラの叫びに、ようやく1人2人と反応を示す。こっち、と誘導したステラは透視で人がいることを確認すると、皆の力を合わせて家屋を持ち上げた。
 それを空から1羽の鳥が見下ろす。その視界を借りているのはリコシェットだ。
(あっちは大丈夫そうだな。それなら、)
 リコシェットはステラがいる場所とは違う位置へのルートを割り出し、オフロード車で向かう。悪路に強いとはいえ四輪駆動だ、幅を取る。大回りした方が早いのはまさにこういう時であった。
「助けに来たぞ! いたら返事してくれ!」
 声を上げるとどこからかうめき声にも似た小さな声。ファミリアーで正確な位置を捜し、近くを通った住民に協力を頼む。瓦礫が崩れてさらなる被害を起こさないよう、注意を払いながらリコシェットは閉じ込められていた青年を救出した。
「もう大丈夫だ! 助けに来たからな!」
 車まで運び、衝撃を与えぬよう乗せる。ぐったりとした様子を見ると命に別状はなさそうだが、安全運転した方がよさそうだ。
 協力してもらった住民も乗せ、定員になった車を中央広場へ走らせる。何度も往復したリコシェットはファミリアーを空へ飛ばした。
(仮にも鉄帝国の一軍が、よりにもよって自国の首都で、組織立って自国の民を手に掛けようとする。所詮は領主単位クラスの規模でしかない幻想と比べてもこれは……ひどいものね)
 言葉も無い、と舞花はゆるく頭を振りながら、未だ人でごった返す場所へ向かう。向かうは火の放たれた外周だが、もし燃え広がった際に人々が混乱したままでは多大な被害が出てしまうだろう。
「落ち着いて! ――中央広場は無事です! 中央広場よりスラムの外へ避難が可能です。そちらへ!」
 声をかけながら、それを受けて誘導をしようとした男を捕まえる。彼へ避難呼びかけの協力を頼むと1も2もなく頷かれた。
「危なくならないうちに離脱してくださいね」
 そう一言おいて外周へと駆けていく舞花。話に聞いていた通り、まだ炎は燃え広がっていないようだ。しかし問題なのはそれによって人々が勢いよく逃げ始め、家屋が倒れてしまっていること。
 舞花はまだいる住民へ話しかけ、情報を集めながら救助活動を始める。すでに助けに入っている者がいれば助太刀に行き、自分が第1発見者なら協力者を募って住民を助け出す。どうしても動かせない瓦礫は閃雷の太刀によって砕かれた。
「……多いですね」
 瞳を眇め、もう何人目になろうかという救助者から視線を外す舞花。まだそこかしこに倒壊した家屋はあり、呻く声も小さく聞こえている。
 炎の広がりが悪いのはこちらにとって都合がよいが──それ以上に、要救助者は多くいた。


●静寂
(昔住んでいた家は……もっと奥側か)
 この辺りも燃えちゃってたんだ、と呟きながらステラは進んでいく。あの突き当りは見覚えがある。右に曲がれば、背の低いあばら家があるはずだ。
(どんな人が住んでいるのかな)
 なんとなしにその突き当りを曲がったステラ。そこには奇跡的とも言うべきか、ボロボロの家屋が残っていた。そのことに少しばかり安堵の気持ちがよぎる。
 潰れていてもいなくても関係はないが、やはり愛着のある街、愛着のある家だったのだ。
(住んでる人は……避難したかな。ま、誰が住んでいてもいいや)
 戻ろう、とステラは踵を返す。今頃は中央広場で、イレギュラーズの同士たちが集まって遺体の供養をしているはずだ。

 多くの者は中央広場へと逃げおおせ、更にスラム外の隠れ家へ身を寄せることができた。中央の延焼は防ぐことができ、避難した人数を見ればこの依頼は成功だといって良いだろう。
 けれども──全員を救えたわけではなかった。
 イレギュラーズたちが見つけたのは生存者だけではない。煙を吸い、炎に焼かれ、命を落とした亡骸も少なくなかった。そういった者たちも親族や知己の者が捜しているかもしれないから、と安全な場所まで運んできたのである。
「大丈夫……大丈夫……死後も悪いばかりじゃない。貴女の眠りが幸せでありますように……」
 ハッピーが静かに祈ると、さらりと金髪が流れて彼女の表情を隠す。内1人を連れてきたリコシェットは同じように祈った。
 通れない道がなくとも、どこへだって駆け付けられても、全てが思い通りにいくわけではない。世界にはいつだって理不尽が我が物顔で居座っている。
 だから──それに押しつぶされてしまった人が、安らかであれるよう祈る。

「まだ暫くは荒れそうだね。ともあれお疲れ様」
 ルーキスは空を見上げて呟く。目を閉じれば──先ほどまでのことが嘘だったかのように、酷く静かだった。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 避難誘導、人命救助、お見事でした。

 青き戦士の貴女へ。意志の強さと体を張る姿に、MVPをお贈り致します。

 それではまたのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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