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シナリオ詳細

巨人バドの退屈

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ん、あー……退屈だな。何もする気が起きない……」
 巨人バド。全長約4メートル、筋骨隆々な肉体と禍々しい角を持ち、獣皮の衣服を身に纏う、普段は森の中で暮らしている一種の混沌的怪物の一種である。
 子供が見れば一発で泣き出しそうな凶悪な顔面をしており、常に仏頂面。だが笑ったらそれはそれで恐い。
「狩りでもするか……? いや、食料の備蓄は十分にあるし……腐らせたら獲物に申し訳ない」
 本能に任せて人でも喰ってそうな恐ろしい風体だが、実の所この巨人は人間と変わらぬ高い知性を持つ、かなり温厚な紳士である。獣皮の衣服も彼のお手製である。
 バドが住む森には時々、森を突っ切ってショートカットを狙う無謀な旅人や、近隣の村の子供が迷い込む。
「うーむ……だったら服でも新調するか。この冬で大分ボロボロに……まあ別に裸でも寝られるんだが」
 大抵初めてバドを見た相手は大人だろうが子供だろうが怯え、矢の一発でも浴びせられる事は珍しく無かった。が、彼は一切手出しをせずに敵意が無いことを示して上手く説得し、毎回安全な所まで送り届けていた。
 そんな経緯もあり今ではバドの存在は森の近くのいくつもの村の人々に認知され、しばしばバドが狩りで手に入れた獣の肉と村の農作物を交換したりしつつ、友好関係を築いていた。
 さて。ここまでの話ではこの巨人に関しては一切問題が無い様に思えるが、当のバドには今現在そこそこ深刻な悩みがあった。
「ハア。いや、やめよう……気が乗らない……これが五月病という奴か。三月だけど」
 そう。バドは今、なんだか凄くやる気が起きず非常に退屈なのだ。そしてその原因を、彼は何となく理解していた。
「……やはりこの感じは……心の何処かでは暴れたいと思っているのだろうな、私は。熊やら狼やらが相手では、私の力は存分に発揮できない……フン、所詮私も怪物には変わらんという事か……」
 だが、バドの中の理性が無秩序に暴れる事を拒んでいる。バドは決して、誰かを不当に傷つけたいわけでは無いのだ。
「うーむ。うーむ……しかしどうにかして発散せねば…………あ」
 そしてバドは思い出した。以前村の人達と食料交換をした際に、小耳に挟んだ話を。
 イレギュラーズと呼ばれる結構強いらしい連中の存在を。
 

「えー、そんな訳でね。紳士的巨人であるバドから村のお友達経由で、仕事の依頼が入ってきたよ。『退屈すぎて死にそうだから私と闘って、満足させて欲しい』、ってね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は集められたイレギュラーズ達を前に、説明を始める。
「場所はもちろんバドが住む森の中。といってもかなり外周部に近い場所が指定されているから、現地には問題なく到着できるよ」
 現地に向かい、バドと闘う。非常にシンプルな依頼だが、決して楽な仕事にはならないだろうとショウは言う。
「バドからの手紙にも書いてあったし、僕も一応調査を入れたんだけど……はっきり言ってバドの戦闘能力は滅茶苦茶高い。彼が悪意ある怪物でなくて本当に良かったと思うよ」
 相手はバド1人だが、普通に闘って普通にイレギュラーズが負ける可能性も高い。その程度には強い。
「だけど大事なのはバドが満足する事であって、皆が勝つ事じゃない。全力で相対すれば、負けてもきっとバドは満足してくれるんじゃないかな。……いや、別に絶対勝てない訳じゃないけどさ」
 幸いな事に、バドは非常に紳士的だ。決してイレギュラーズの命を取る事は無いだろうし、殺されたい訳でも無いだろう。
「彼はある程度自身の体力が削れた段階で負けを宣言する。逆に皆が負けを宣言すれば、彼はそれ以上手を出してくる事は無いだろう。彼が満足するかどうかは別の話だけどね」
 そしてショウはバドの具体的な戦闘能力の説明に入る。
「バドはその筋骨隆々な見た目に違わず、非常に高い筋力と体力を持つ。その巨体に引けを取らない巨大な大剣を振るい、結構な威力の攻撃を放ってくるだろう」
 だがバドの力はそれだけに留まらない。彼は頑強な肉体だけではなく、魔術を操る素養も持ち合わせているのだ。
「バドが得意とするのは炎の魔術の様だが、こちらもまた結構な威力だ。遠距離の敵に炎を放つのは勿論……何より強力なのは、大剣に炎を纏わせて放つ必殺の一撃だ。これをまともに喰らえば……まあ、えらい目に合う事は間違いないだろうね。バドもそれ相応の魔力を消費する様ではあるけど」
 そこまでの説明を終え、ショウはイレギュラーズ達を見回した。
「さて、説明はこんな所かな。バドは非常に温厚な紳士だが、その力は相当なものだ。彼が全力を出し満足するには、皆もまた全力で闘う必要があるだろう……という訳で、気をつけて。大怪我しない様にね」
 

GMコメント

 のらむです。力を持て余し退屈している巨人と全力で闘ってきて下さい。

●成功条件
 巨人バドが満足する闘いを行う事。

●失敗条件
 成功条件の未達成、あるいは巨人バドの殺害

●戦闘場所
 巨人バドが暮らす森の一角。草木や花に大きな被害が及ばないよう開けた空間が指定されており、邪魔そうな岩などは事前にバドが片づけてある。

●巨人バド
 紳士。森の中で拾った巨大な大剣と、炎の魔術で戦闘を行う。
 4メートル近い巨体を持ち、マーク・ブロックによる移動妨害が不可能。
 HP、物理攻撃力、神秘攻撃力が非常に高い。攻撃スキルは以下の通り。

・大剣ぶん回し(物近列)+窒息
・大暴れ(物近域)+泥沼
・巨人の蹴り(物近単)+怒り
・炎雨(神遠範)+炎獄
・炎斬(神近単)+炎獄+防無+必殺

 以上です。皆様のプレイング、お待ちしております。

  • 巨人バドの退屈完了
  • GM名のらむ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月22日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
アイリス・ゴールド(p3p001102)
愛と正義の小悪魔
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ガーグムド(p3p001606)
爆走爆炎爆砕流
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
Briga=Crocuta(p3p002861)
戦好きのハイエナ
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

リプレイ


 穏やかな日差しが差し込む森の中。イレギュラーズと巨人バドは相対していた。
「バドさんはじめまして、オイラはローレットから来たチャロロっていうんだ。正々堂々全力でいかせてもらうよ!」
 まずは元気に挨拶する『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)。
「あらあらまあまあ~、お話には聞いていたけれど随分大きいのねぇ~。ローレットからやってきた、イレギュラーズよ。ご依頼感謝するわ~」
 バドの巨体を見上げながら手を小さく振り、笑顔を向ける『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)。
「初めまして、イレギュラーズ。こちらこそ、私の我儘の為にわざわざ足を運んでくれてありがとう。今日はよろしくお願いするよ……もちろん私も、全力でいかせてもらうよ」
 バドもまた厳つい顔面で可能な限りの笑みを浮かべ、イレギュラーズ達を迎え入れた。
「ああ、よろしく頼むぜ! 一緒に楽しもうぜ? なァ!」
 やったらめったら上機嫌な 『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)。今日は文字通り死ぬ気で楽しむ気である。
「命が掛かってると思って、全力で挑ませていただきます。よろしくお願いします!」
 Brigaとは方向性すら違えど、『かむりゆき』ノースポール(p3p004381)もまた死ぬ気で挑む所存であった。
「話を聞いた時点では似たような者かと思ったが微妙に違うような……まあいい、我が名はガーグムドである! 宜しく頼もう!
 バドの立ち振る舞いをしばし眺めていた『爆走爆炎爆砕流』ガーグムド(p3p001606)。一口に巨人と言ってもこの混沌においては本当に様々なのだろう。
「さて、それじゃあ……そろそろやろうか?」
 地面に突き立てていた大剣を取り、ゆるりと構えを取るバド。
「胸を借りるつもりで、強敵との戦い方を学ばせてもらいます!」
 バドに合わせ、『猫メイド』ヨハン=レーム(p3p001117)もまた大盾と剣を構える。
「まんどらごらぁさんも準備万端……混沌的武器ありハンデキャッププロレスを始めようか」
 セクシー根菜型戦闘用パペットまんどらごらぁ(ルチャ風)にファイティングポーズを取らせる『愛と正義の小悪魔』アイリス・ゴールド(p3p001102)。
「皆様準備は整った様でございますね……それではイッツ・ショータイムでございます。開始の合図は僭越ながらわたくしが」
 粛々と言った『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は何処からかほら貝を取り出した。
 何故ほら貝なのか。なんでそんなもの買ったのか。様々な疑問を持ったものもいなくは無かったが、それら全てを掻き消すような高らかな音が森に鳴り響いた。
「行くよ」
 バドが呟き、そして闘いが始まった。


 暴風の如き勢いでバドの大剣が薙ぎ払われた。放たれた斬撃はイレギュラーズ達の身に降りかかる。
「……ッ! 初っ端から結構なご挨拶だな……!! こりゃあこっちからもしっかりお返ししなくちゃなァ!!」
 前線にてその斬撃をまともに喰らったBriga。しかし痛がるどころか逆に笑みを深めると、仲間たちの攻撃に合わせ斧の一撃を抉りこませる。
「やるね。だけどこれはどうかな?」
 強力な一撃を受けバドもまた小さく笑みを浮かべる。そして全身の力を込め大剣を振り上げる。
「……! 来ます! 皆さん構えて下さい!」
 強力な攻撃が放たれる事を察知したヨハンが仲間たちに呼びかけ、自らも大盾を構え仲間達を庇う体勢を整えた。
 次の瞬間、バドは自らの周囲に滅茶苦茶で強烈な斬撃と衝撃を幾重にも撒き散らした。ヨハンは大盾を駆使して仲間たちを庇い攻撃を受け止める。
「盾で受けてるのにここまでの衝撃……! ですが、僕もそう易々と倒れたりはしませんよ!」
 仲間を庇い攻撃を凌いだヨハンは、大盾を構えたまま跳躍。バドの眼前まで跳びあがると、大盾を勢いよく振りかぶった。
「あなただけじゃなく、こっちも思うがまま暴れさせてもらいます!」
 バドの顔面に大盾が直撃する。その衝撃に思わずバドはよろめき、鼻を抑えながら数歩後ずさった。
 そしてバドは魔力を纏わせた片手を突き上げた。すると空から炎の雨が降り注ぎ、イレギュラーズ達に降り注いだ。
「これは流石に一時退避でございます。わたくしは燃えるゴミではございませんので。むしろ最期は萌える粗大ゴミでありたい!」
 イカした機械人形ジョークをかましつつも、しっかり炎を避けるエリザベス。魔力銃による援護射撃も合わせ、仲間達を援護していく。
 エリザベスの援護射撃に合わせ、ガーグムドが大斧を構えバドに肉薄する。赤く染まった巨体を、バドは大剣を構え待ち受ける。
「全力で来てくれ」
「無論だ! 我が渾身の一撃、その身で受け止めるが良い!!」
 強化した筋力を最大限に活かした斧の一撃。それは防御姿勢を取るバドの大剣を弾き返し、その巨体に深々と突き刺さった。
「……! まさか正面突破されるとは……」
 僅かな動揺を見せたバド。しかしそのまま踏みとどまると、眼前のガーグムド目掛け蹴りを放つ。
「グゥ……!! 全身が砕けそうだ……だが、我はまだ倒れてはいないぞ!!」
 ガーグムドはあえて避けず、自らの肉体で蹴りを受け止めた。激痛に襲われながらも、ガーグムドはバドを見据えしっかりと立ち続けていた。
「この隙を逃す訳にはいかない。さあ行けまんどらごらぁ、頭から突っ込んでやれ」
 バドの攻撃の直後、アイリスの操るまんどらごらぁはものすごい勢いで跳躍。そのまま頭からバドの腹に激突した。
「……い、イレギュラーズというのは随分面妖な技を使う様だね……」
 人形から放たれたとは思えない突撃の威力に、バドは思わず面食らう。
「んふふ~、ローレットには色んな子が居るのよ。少しは楽しんで貰えているかしら?」
「……ああ、そうだね。久しぶりの感覚だ……!!」
 レストがバドに微笑みかけると、バドはやはりぎこちなく、しかし楽し気な笑みを浮かべた。
「それは良かったわ~。少しでもバドちゃんが満足出来たなら、おばさん達も来た甲斐があったってものよ~」
 レストは小さく魔術を詠唱し、自らの魔力を込めた杖を軽く振るう。
「バドちゃんと皆がもっと戦えるように、痛いのないないしましょうね~」
 するとイレギュラーズ達の足元に魔法陣が浮かび上がり、放たれた優しい光がその傷を癒していった。
「これでまだ戦える……! オイラの本気、もっとぶつけてみせる!!」
 赤と銀の重装甲に身を包んだチャロロ。受けた傷は浅くないが、バドの真正面から全力で斬りかかった。
「…………ハッ!!」
 チャロロの斬撃を身に受けたバドは、返す刀で大剣を薙ぎ払う。現状イレギュラーズ達は誰も倒れてはいなかったが、重なる斬撃にイレギュラーズ達はかなりの傷を負っていた。
「…………」
 だが。ノースポールは微かに感じ取っていた。バドは強烈な攻撃をイレギュラーズ達に放っており、実際自分たちは追い詰められているものの、それでも尚バドはまだ全力を出しきってはいないと。
 それが意識的にしろ無意識的にしろ、それでは駄目だ。ノースポールは、傷だらけの身体を抑えバドに告げた。
「……わたし達はバドさんと戦うために来ました。だから、遠慮なんていりません。今は紳士じゃなくていいんです……バドさんの全力を叩き込んでください!」
「……」
 バドは黙ってノースポールの言葉を聞いていた。だがその言葉に何かを感じ取ったのだろう。静かに大剣を構えなおすと、その刀身に赤い炎を纏わせた。
「後悔しないでくれよ」
 そして一刀。灼熱の斬撃がノースポールに放たれた。力を失ったノースポールの身体がゆらりと倒れ――。
「な……!!」
 バドは思わず目を見開き驚愕した。自らの必殺の一撃、確かに手応えもあった。それを確かに喰らった筈のノースポールの身体は倒れる事無く踏みとどまり、こちらを見据えていたからだ。
「ほらね……強いでしょう?」
 ノースポールのパンドラが、強い光を放っていた。


 闘いが始まってからどの程度の時間が経っただろう。交差する様に放たれるバドとイレギュラーズの攻撃の応酬。互いが受けた傷も浅くは無い。
「……ハァァアアアアア!!」
 バドの様子も明らかに最初とは異なっていた。理性を保ち続けているのは確かだろうが、その上で何か吹っ切れた様に、猛々しく大剣を振るい続けていた。
「どうやら調子が出てきたようだな! 我も同じだ! 見よ、我が炎が真っ赤に燃えている!」
 多くの傷を受け最早倒れる寸前。だがガーグムドは強気な態度を崩さずバドに喰らいつく。舞い散る火の粉はその激しさを増していた。
 イレギュラーズ達の前衛はほぼ崩壊寸前。恐らくそう長くは持たないだろう。
「喰らえ!!」
「これ以上受けたらやばいな。何がやばいってまんどらごらぁさんにちゃんとした見せ場を作れずやられるのが超やばい。そういう訳でやれ、まんどらごらぁ」
 そして再び巨大な斬撃が放たれた。だが大剣がアイリスに触れる直前、そこに割り込んだセクシー根菜パペットまんどらごらぁが斬撃を受け止め、勢いよく吹き飛んだ。
「さぁ、舞えまんどらごらぁ、ルチャの華麗なる空中殺法を魅せるのだ」
 斬撃を受け錐もみ回転しながら吹き飛んだまんどらごらぁだったが、バドの頭上まで吹き飛んだ所でピタッと制止。そのまま腕的な物を大きく掲げ、バドを目掛けて急降下する。
「そっちこそ喰らえ、誇り高きマッソォな一撃を」
 そしてまんどらごらぁの膝らしき部位がバドの脳天に直撃。ファンシーでダイナミックで思ったより強烈な一撃がバドの脳を揺らす。
「……!!」
 僅かに歪む視界の中、バドは強烈な蹴りを放つ。それは自らに最も多くの傷を与えてきたBrigaに向けられるが――。
「ッこ、ここまでみたいですね……! 僕は僕の役目を、しっかり果たせたでしょうか……」
 寸での所でバドの前に躍り出たヨハンに蹴りが直撃。ここまで幾度となく仲間を庇い続け、攻撃の為の防御に徹してきたヨハンが、ついに倒れ、気を失った。
「そろそろ本気で厳しい状況になって参りましたね。わたくしの精神力もかなり限界……ですが退屈と評される事は、人に仕える存在として何よりの屈辱でございます。このまま終わるわけには参りません」
 レストと共に仲間の回復役を担ってきたエリザベス。しかい長きに渡る戦いに多くの者が傷ついたこの段で、満を持してほら貝を取り出した。
「――さあ、一世一代の大技『魔砲』のお時間でございます」
 再び森にほら貝の高らかな音色が響き渡り、エリザベスは構え直した魔力銃に自身の魔力を際限なく込めていく。
「このエリザベス、最後に一花咲かせて御覧に入れましょう――フルチャージで参ります。バド様に届け、この思いーーー!!」
 全ての音を塗りつぶすような轟音と共に、銃口から眩い魔力の塊が撃ち放たれた。バドは凄まじい速度のそれを目に捉える事も出来ず、胸に着弾。そして爆発。その衝撃にバドは思わずドシンと膝を付いた。
「……まだ、ここまでの力が残っているとはな……!!」
 ここに来て明らかに苦し気な表情を浮かべるバド。善戦を続けるイレギュラーズとバドの闘いの勝敗は、全く分からなくなってきていた。
「とにかく、攻め続ける……! バドさんも全力を出してくれているんです、わたし達もそれに負けない様な、全力を……!!」
 ノースポールは倒れる寸前の身体とは思えない軽やかな動きで跳躍。バドの身体に勢いよく槍を突き立てた。
「……認めざるを得ないな。君たちは、本当に強い……だが、負けはしない!!」
 バドは至近距離まで接近したノースポールを捉え、勢いよく大剣を薙ぎ払う。ここまで粘り強く立ち続けていたノースポールの身体に直撃し、ついに意識を失った。
「…………ッ!!」
 同じくその斬撃を受けていたチャロロ。全身を奔る痛みに意識を失いかけるが、宝剣を地面に突き立てて踏み止まり、カッと目を見開いた。
「…………オイラはまだやれる! 満足いくまで、とことんつきあうよ!!」
 そして立ち上がり握りしめた宝剣に、チャロロの闘志を表したかの様な赤く激しい炎が纏う。
「バドさんには及ばないけど、オイラも大剣と炎を使えるんだ……行くよ!!」
「来い!!」
 チャロロにならって、バドもまた大剣に炎を纏わせ構えを取った。直後、チャロロが放った炎の刃がバドの身体を一閃し、交差する様に放たれたバドの斬撃がチャロロを斬った。
「何度でも立ち上がる……!! 全力を出し尽くして戦うと決めたんだ!!」
 傷だらけの身体に、バドが放つ必殺の斬撃が叩き込まれた。しかしチャロロは倒れなかった。自らのパンドラを引き換えにして、闘い続ける事を選んだのだ。
「まさかこの技を二度も耐え凌がれるとは……重ね重ね驚かされる……!!」
 イレギュラーズ達は粘り強くバドに喰らいついていた。ドドメを刺すつもりで放った攻撃の多くが誰かに庇われ、あるいは耐え凌がれ、予想以上にバドは時間を取られていた。
「もう皆ボロボロねぇ~。だけどそろそろ、決着が付きそうかしら? おばさんも最期まで頑張らなくちゃね」
 他のイレギュラーズ程の大傷を負っていないものの、魔力が尽き掛けているレスト。大気に漂う魔力を癒しの力に変換し、しつこい位立ち続けているチャロロの傷を癒した。
「最初は唯の暇つぶしのつもりだったんだがな。いざここまで来てみると、不思議な事に勝ちたいという意地の様な物が湧いてくる……!!」
 そう呟くバドは何を取り繕うでもない、純粋で獰猛な笑みを浮かべていた。そして滅茶苦茶に放たれた斬撃と打撃の嵐がイレギュラーズ達を襲う。
「グオオ……我もここまでか! だが奴も相当傷を負っている筈! このまま押し切ってしまえ!!」
 身を斬られたバーグムドはそう叫び、バタリと仰向きに倒れ意識を失った。残るイレギュラーズは5人。
「あァ……痛ェな苦しいなァ……ほんっと最高だたまンねェよ……!!」
 だがBrigaは笑っていた。バドに勝るとも劣らない位獰猛な笑みを。斬られ殴られ蹴られ、どれだけの痛みを感じようとも。この戦場で最も戦いを愉しんでいるのは、もしかしたらBrigaかもしれない。
 イレギュラーズの中でも秀でた火力を持つBriga。当然ながらバドに目を付けられており、何度も狙われていたが、仲間たちの援護と本人の底知れぬ図太さのおかげで、未だ立ち続ける事が出来ていた。
「終わらせるには惜しい闘いだなァおい……アンタもそう思うだろォ!?」
「ハハ……全くだ……!! だが君はもう休んでも良いぞ……これ以上好きにされたら私の身が保たないからな……!!」
 Brigaの言葉にそう応え、バドは大剣に炎を纏わせる。対するBrigaは不敵な笑みを浮かべ、戦斧を両手で構えなおす。
「終わりだ!!」
 素早い踏み込みでBrigaに接近したバド。灼熱の刃をBrigaに向け振りぬいた。しかし、手応えが無い。Briga咄嗟に姿勢を低くし刃を避け、バドの足元に潜り込んだのだ。
「……オラァアアアアアア!!」
 そして至近距離から斧を振り下ろす。体重を乗せた重い一撃がバドの身体に突き刺さる。
「グ……まさか……!!」
 傷を抑えながらヨロヨロと数歩後ずさるバド。しかし力を失ったように手から大剣が滑り落ち、その巨体が地面に倒れた。
「……見事だ、イレギュラーズ…………私の、負けだ」
 バドの口から零れた敗北宣言。一気に緊張の糸が切れたイレギュラーズ達が、次々とその場に座り込む。
「世の中には勝利よりも誇るべき敗北がある……だが勝てたら勝てたでそれもあり」
 誰に言うでもなく、アイリスが静かに呟いた。


 闘いを終え。バドとイレギュラーズ達は先程までの激しい闘いが嘘の様に和やかに語り合っていた。
 立体アートを試したらどうだと、どう見ても立体アートとは縁薄そうなガーグムドが提案してみたり、ローレットで活動してみてはどうだとノースポールが提案してみたり。
 流石にイレギュラーズでないバドがローレットで活動する事は無いだろうが、みんな色々本気で考えてくれてありがとうと、バドは笑い礼を言った。
 血の気の多い魑魅魍魎共が集う鉄帝国に遊びに行ってみるのはどうだと提案したのはレストだ。その時の護衛・案内役には是非ギルドローレットへ、と。しっかり宣伝も忘れない。
 意識を取り戻したヨハンは自分たちが勝利した事に驚きつつも、素直に喜んでいた。見た目に反しとてもタフだったと、バドはヨハンの健闘を讃えた。
 闘いに関して言えばバドはやはりアイリスの戦い方に驚いていた。こんな小さな人形がどうしてあんな強烈な蹴りが放てるのかと。アイリスはまだまだキミの知らない世界があるのだよとか、なんかやたら偉そうに言っていた。
 エリザベスは改めてバドに、今回の闘いはどうだったかと尋ねた。バドは勿論大満足だと感謝の意を述べた。ほら貝に関しての話題は特に出なかった。
 Brigaはバドと酒を呑み交わしながら、また再選したいと告げた。今度は一対一でも戦えるように、もっと強くなると。バドはいつでも歓迎だと言って酒をあおった。
 闘いではなく、普通にゆっくり話をしに来てもいいかとチャロロが尋ねる。バドは勿論そっちも大歓迎だと言って笑みを浮かべた。
「……今日は本当にありがとう。久しぶりに、心が燃え滾るような感覚を味わえた……また、会おう」
 そしてイレギュラーズ達はバドに見送られ、森を後にするのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 これにて依頼完了です。まさか勝っちゃうとは驚きです。これも皆様の凄まじいガッツの賜物といった所でしょうか。大成功です。
 バドも今回の闘いには心底満足している模様です。しばらくは退屈を感じる日々を過ごす事は無いでしょう。
 それではまたのご参加、お待ちしております。

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