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シナリオ詳細

<黒鉄のエクスギア>モヒカンは生け贄を運ぶ

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●生贄輸送依頼
 鉄帝のスラムに冷たい風が吹く。
 容赦なく体温を奪い、ときには死者を量産する悪魔の風だ。
 住民が粗末な住処で息を潜めるような状況で、薄着で平然と歩き回る男達がいた。
「ヒャッハー、ここまで過ごし易いと脱ぎたくなるぜェ」
 分厚い胸板に自己主張の強いトゲトゲ肩パッド、そして何より長いモヒカンが特徴的な男達だ。
「兄貴ィ、ここに住処を移すのかい?」
「それがなァ」
 巨漢モヒカンが、剃り込みされた己の頭部をぺちぺち叩きながらため息をつく。
「ここまでごみごみしてたら体に悪いだろ。ノーザンキングスに戻った方がマシな気がしてなァ?」
「でもよゥ、義姉さんの体のことを考えたら……あン?」
 蛮族っぽい見た目であり、実際ヴィーザル地方の蛮族であるモヒカンズの顔から甘さが消えた。
 今にも崩れそうな小屋から傭兵の2人組が出てくる。
 涙を我慢している小さな姉妹を囲み、嫌らしい表情を浮かべ下品な冗談を飛ばし、こちらへ気付いた。
「モヒカンだァ?」
 ヒャッハーズに気付いて鼻を鳴らす。
「ハッ、蛮族にはスラムがお似合……ひぃッ」
 剣だこというか斧だこが目立つ手が、傭兵の頭を真上から掴む。
 ヒャッハーズは微笑んではいるが目は冷たい。
「何やってるのかお兄さんに教えてくれるかなァ?」
「おら兄貴が聞いてるんだ答えんかい、あァ?」
 頭蓋が軋んでいる。
 脅し奪うしか出来ないチンピラもどきな傭兵とは根本的に異なる、生きるために殺してきた蛮族の威圧と暴力だ。
「に、兄さん方、これはッ」
「仕事、仕事なんですッ。スラムのガキを連れて行ったら高く……イデェッ」
 腰の剣に手を伸ばせないほど怯え、必死で言い訳を口にする。
 ここはスラム。
 威圧と暴力で食っている傭兵がそれ以上の暴力に晒されても助ける者はいない。
「高く、なんだってェ?」
「ショッケンの旦那が一枚噛んでるんですッ、報酬は確実で……アグゥッ」
「潰すだとォ?」
 巨漢ヒャッハーの眉間に皺が寄る。
 鉄帝に来たばかりなので詳しい事情は知らない。
 しかし、スラムが潰れたなら大勢が行き場を失うのは直感的に分かる。
「す、スラムを潰して建てる街に住めるんです。悪い話じゃないでしょ? 兄さん達もショッケンの旦那の仕事、請けてみませんかッ」
 眉間の皺はますます深くなり、頭蓋にかかる力も大きくなる。
 言葉から誠意が感じられない。
 確実にろくでもない依頼だ。
 誇り高き北ヒャッハー族として、絶対に許せないものだと確信出来る。
「……兄貴ィ」
 弟分ヒャッハーが苦い声で呼びかける。
 兄貴分の頭が冷え、北で待っている病弱な妻を思い出す。
「詳しい話を聞かせろォ」
「へ、へへっ、そうこなくちゃッ」
 生贄輸送を請け負った傭兵が、安堵と侮蔑の混じった笑みを浮かべていた。

●救出依頼
「拙いのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が慌てている。
「鉄帝のスラムで起きた騒動は知ってるです?」
 遺跡を巡っての戦闘や子供の誘拐など、様々な事件が発生してイレギュラーズが解決にあたった。
「あれ、全部1人が主導していたみたいなのです」
 鉄帝将校ショッケン・ハイドリ。
 スラム街モリブデン地下に眠る巨大な古代兵器を手に入れるため、軍内部の根回しから使い捨てのチンピラ集めまで非常に精力的に動き回っている、という噂も聞こえる人物だ。
 噂がどこまで正しいかは分からないが、イレギュラーズに散々邪魔されたショッケンはますます手段を選ばなくなっている。
「遺跡の騒動は古代兵器捜索、誘拐は起動のためのエネルギーの確保が目的かもです」
 生命力に溢れた子供を外道の手段でエネルギーに変換する。
 言語道断のやり口ではあるが、倫理と評判を度外視すれば有効なやり口でもある。
「子供を輸送中の部隊を1つ見つけてるです」
 敵の情報は少ない。
 古代兵器のコアルーム確保を目指す部隊とはまだ合流出来ていないようだが、かなりの実力者が護衛をしている可能性もある。
 それでも、子供を助けるためには戦いに飛び込むしかない。
 救出に失敗すれば、子供だけでなく目覚めた古代兵器によりスラムが物理的に消えかねない。
「すぐに追って助けて欲しいです!」
 かなり、危機的な状況だった。

GMコメント

 子供を助けにヒャッハーと戦う依頼です。
 説得も可能ではありますが、悪い意味でも脳味噌筋肉なので戦って倒した方が早いです。

●敵
『ヒャッハー兄』×1
 北方ヒャッハー族出身の蛮族戦士。
 薄手の毛皮服、頑丈なブーツ、手斧と肩パッドを装備しています。
 手斧【物】【至】【単】の扱いも巧みですが、最も得意なのはトゲトゲ肩パッドを活かした体当たり【物】【中】【貫】【移】です。
 子供(イレギュラーズは除く)を巻き込む状況では、絶対に体当たりは行いません。
 「子供が生贄にされるだとォ? ハッ、敵の言葉を信用するとでも思ってるのかァ!?」
 「俺は北方ヒャッハー族! 多少不利な程度で膝を折るものかッ!」

『ヒャッハー弟』×1
 北方ヒャッハー族出身の蛮族戦士。
 もう1人と比べると小柄ですが十分大柄です。
 装備は『ヒャッハー兄』と似ていますが服は厚め。
 斧より格闘戦を好み、対多数戦に向いたパンチやキックの乱射【物】【近】【範】【乱れ】【飛】【反動】を使えます。
 『悪徳傭兵』より強いですが『ヒャッハー兄』ほど強くはなく、特に命中は低めです。乱射を毎ターン使うだけの体力はありません。
 「兄貴ィ、こいつら強いぜッ、最高だ!」
 「兄貴は死なせねェッ!!」

『悪徳傭兵』×8
 後ろ暗い仕事ばかりを請けてきた傭兵達です。
 ヒャッハー達に危険な戦いを押しつけ甘い汁を吸おうとしています。
 子供達が生贄にされることを、ヒャッハー達に伝えていません。
 生き延びるため防具に金を使っているため防御技術は高めです。
 攻撃は剣を使った通常攻撃【物】【至】【単】しか出来ません。
 「ガキ共、急げッ」
 「このガキ転けやがった。クソ、死ねッ」
 「お、俺は悪くねェ! あのモヒカン共に言われてやったんだッ!」

●他
『子供』×11
 腕を縛られ、気力体力がほとんど尽きた状態で歩かされています。
 『ヒャッハー兄』と『ヒャッハー弟』が何度か食事を差し入れしましたが、危険な状態です。
 機動力は最大でも1。

●戦場
 1文字縦横10メートル。現地到着時点の状況。上が北。無風。遺跡内。
 abcdefghijk
1■■■■初初■■■■■
2■■■■□□■■■□×
3■■■■□□■■■□■
3■■■■□□■■■□■
4■■■■□弟□□□□■
5■■■■■悪■■■■■
6■■■□□兄□□□■■
6■■■□□□□□□■■
7■■初□□□■■■■■

□:遺跡。少し凸凹がありますが移動に支障はありません。天井まで10メートル。
■:遺跡。壁や巨大な歯車があり、歩行での通り抜けは困難。
初:イレギュラーズの初期位置。各人が好きな位置を選択可能。
×:『悪徳傭兵』の目的地へ向かうための扉。戦闘開始時点では開いていますが、通過後、自動的に強固な扉が降りてきます。

悪:『悪徳傭兵』が『子供』を連れて移動中です。
兄:イレギュラーズに気付いて死守の構えです。
弟:イレギュラーズに気付き、とんでもない悪事に荷担してしまったのではと気付きましたが強敵との戦いを喜んでいます。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <黒鉄のエクスギア>モヒカンは生け贄を運ぶ完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
善性のタンドレス
シフト・シフター・シフティング(p3p000418)
白亜の抑圧
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
銀城 黒羽(p3p000505)
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ヨシト・エイツ(p3p006813)
救い手

リプレイ

●開戦の狼煙
「あぁ、なんか文句あるんのかァ!?」
「文句しかねぇよこのモヒカンがぁ!」
 『救い手』ヨシト・エイツ(p3p006813)も巨漢のモヒカンも、殺意に限りなく近い気配を放ってにらみ合う。
「てめェ何遊んでやがる。裏切るつもりかッ」
 モヒカンの背後で叫ぶ傭兵が酷く小物に見える。
 だが、その子供に囲まれる形で無力な幼子がいるのが大問題だ。
「せっかくのモヒカンが泣いてるぜ」
 奇妙な非戦状態を、『死を許さぬ』銀城 黒羽(p3p000505)が巧みに活かす。
「あんな屑共に使われるだけなんて……情けねぇじゃねぇか」
 賊と見分けのつかない傭兵を一瞥する。
 モヒカンの顔に苦い表情が浮かび、ヨシトからわずかに視線を逸らしてしまった。
 ヨシトの勝ちだ。
「馬鹿にしやがって。おい、1人や2人殺しても買わねェだろ、やれよ」
「報酬を渋られたらお前が責任とれるのかよッ」
 傭兵達が揉め始め、すぐに1人が怒りを露わにして剣を振り上げ、ヨシトが怒りを露わにする。
「行ってこい妖精! ガキを傷つけるんじゃねぇぞ!」
 らじゃ、と敬礼っぽい仕草をして妖精が飛び出した。
 巨漢の腕が筋肉量に相応しい速度で迎撃しようとする。
 が、妖精の行き先に気付いて動揺し妖精をと取り逃がす。
「いづゥ」
 傭兵が腕を押さえてうずくまる。
 斬られる寸前だった子供はへたり込んだまま無表情に遺跡の天井を眺めている。
 モヒカンの奥歯が鳴る音が、ヨシトの耳にまで届いた。
「あぁ、畜生」
 舌打ちしていてもヨシトの善人オーラは隠せない。
 子供達を生贄にする軍人が鉄帝にいることに、強い苛立ちと怒りを抱いているのが容易に分かる。
「敵対している相手の言葉は信用できなくても」
 北方ヒャッハーは海に縁が無い。その気配を漂わせる少女がもう1人のモヒカンを見る。
「子供たちが何をさせられるかはもう分かったのじゃないですか? 弟さんも」
 『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は情に訴えずに事実と事実から当然導かれる推測だけを口にする。
 巨漢は口を開こうとして、大きく首を左右に振って大きな息を吐く。
「俺が勝ったら問い詰める」
 両手を胸の前で構える。
 ただそれだけ絶望的な厚さの防御と異様なほどの攻撃力が感じられる。
 けれど、己の正しさを信じることの出来なくなったヒャッハーは、酷く脆く見えた。

●踊るモヒカン
 鋭い呼気と共に放たれる拳が、とても速くて重い。
 特殊な技術は一切使われていなくても、後ろで騒ぐ傭兵なら一撃で絶命しかねない必殺パンチだ。
「ちィッ」
 手応えが軽い。
 『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の機敏な回避行動に惑わされ、術式が織り成す聖域の最も堅い場所を殴ってしまった。
 威力が半減しても華奢な幻想種1人を倒すのには十分なはずなのに、衝撃のほとんどが受け流されて届いていない。
「傭兵達の行動を横目で見ておいて欲しいかな。そしたらどちらが悪いのかわかるからね」
 覚悟を決めて戦い表情のまま、冷静な口調で弟モヒカンに語りかけている。
 妖精に邪魔され無意味に当たり散らす傭兵とは全くが違う。
「言葉ではなんとでも言えるけど行動は真実を示すでしょ?」
「はッ、てめェが悪党でも善人でも口からひり出す言葉は同じだろうよッ」
 とても柄が悪い。
 子供が近くにいるのに何言ってるのあなた、という非難の視線をスティアが向けた。
「騙されねェぞッ!」
 わざわざ口に出すところが、とても若い。
 実年齢ではなく精神と人生経験がだ。
「あなたがどう思っていても、幼い子供達を生贄なんてさせるわけにはいかない。そして悪者に味方するならお仕置きだー!」
「やれるモンならやってみやがれッ!!」
 高度な術使いと凄腕の拳法使いが牽制と読みあいを繰り返す。
 1対1の戦い単体では拳法使い有利。
 しかし、イレギュラーズ対生贄輸送隊の戦いという意味では正反対だった。
 らららと柔らかくも儚い声が響く。
 言葉になっていない状態でも観賞に堪えると同時に、言葉になってしまえば理解してはいけないものを理解してしまう確信出来る誘いの声だ。
「戦場を遊び場と勘違いして……何ィ!?」
 弟モヒカン四肢の動きが乱れる。
 力任せに殴るだけなら問題ないが、精緻な動きが必要な技は一切使えなくなった。
 弟が輸送隊を背に庇う形で後退する。
 誰からの攻撃だったか目まぐるしく首と目を動かして探り、ココロに気付いて愕然とする。
「何がどうなってやがるッ」
 水着だ。
 かなりまな板な身体はバランスが見事で、煌めく金髪との組み合わせが実に素晴らしい。
 だがここは戦場だ。
 なのに異様に似合っている。
 海も海種も知らぬモヒカンは、その正体を知らないままその脅威を身体で気付かされた。
 銃声が連続する。
 輸送隊最後尾に1弾倉分の銃弾が襲いかかり、回避も防御も許さず薄い鎧を食い破る。
 子供には銃弾を掠らせすらしない完璧な1連射。
 零れた血が乾いた誇りに吸い込まれ、遺跡の通路に赤黒い泥を生み出した。
「輸送業者に対してお届け物ですってなぁ!!」
 『Jaeger Maid』シルヴィア・テスタメント(p3p000058)が獰猛に笑い、隊列の後ろ半分を食い荒らされた賊が動揺する。
 もっとも、シルヴィアの内心は冷静なままだ。
「あのヒャッハー、伊達や酔狂でやってる訳でもなさそうだね」
 そのままでは傭兵と守れぬと判断した弟モヒカンが、他のイレギュラーズを全て無視してシルヴィア目がけて突進する。
 重い一撃を食らわされても止まりはしない。
 気合いを入れて封印をはね除け、最後の踏み込みから連打を始めるため全力を振り絞る。
 腕が2対4本以上に見えた。
 シルヴィアも戦闘用メイド服で身を固めているが、2連打を浴びれば死ぬかもしれない猛攻だ。
 そして、スティアがからかうように笑って迎撃。聖域を盾として扱い拳を受け流す。
「戦闘中髪が動くなんて器用ね。触ってみても良い?」
「触れるものならなァ!!」
 怒りに震えるモヒカンから、拳法に必要な技の冴えが消えていた。

●断たれる退路
「ガキは2、3匹いればぎりぎり契約違反にならんッ」
「あァ、五月蠅くて聞こえねェッ」
 騒ぎ逃げる傭兵の頭上で、鉄と鉄がぶつかりひしゃげる異様な音が響いている。
 その中心は『白亜の抑圧』シフト・シフター・シフティング(p3p000418)だ。
 遺跡天井部分を暗視で見通し最も障害の少ないルートを押し通る。
 そこまでしてもダメージは大きい。
 飛行移動を考慮しない天井は、老朽化で壊れていない箇所もかなり危険だ。
「標的の追い抜きを完了」
 重厚な腕装甲を盾として扱い鋭利な歯車を砕く。
「稼働中の自動扉を視認。私単独で封鎖は可能と判断する」
 抉れた装甲から、赤い血が滲んでいた。
「ありがとう。遊撃は卵丸に任せて」
 飛行中は先導するシフトに守っていてもらった『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)が、ジェットパックを止めて数メートルを危なげなく着地する。
 全神経を耳に集中させ、敵勢を探ると同時に周囲の地形を確認した。
「通じてるのはここだけだね」
 飽きっぱなしの扉のずっと向こうに気配を感じる。
 近づけば近づくほど弱い命から食われていくような、異様な禍々しさだ。
「卵丸は蒼蘭海賊団団長、湖宝卵丸、子供達を置いていけ、でなければこの先は一歩も通さないんだからなっ!!」
 堂々とした口上で、少数の子供と大勢の賊達に己の存在を知らしめる。
 その時点で賊の背後から炎による斬撃が飛来し、子供を連れていない賊をまとめて貫いた。
「もう帰るのか? ……もう少し、ゆっくりしていっては如何かね?」
 うめき声と血の臭いに満ちた通路を『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)が歩いてくる。
 スーツには皺一つなく埃もついていない。
 前にも後ろにも賊がいるのに、シグだけはそのまま社交場でも通用しそうだ。
「どこから来やがったッ」
「どうでもいい、殺せェ!!」
 銃撃で負傷した傭兵には全く余裕が無く、見た目は優男のシグを甘く見て複数方向から剣で斬りかかる。
 引き締まった身体が敏捷さと威力を兼ね備えた筋肉に覆われていることも、瞳には危険を理解した上で危険の大小を計算する冷静さがあることにも、賊は誰としてs一人気付けない。
「元気だな。少々、足元が疎かだが」
 先程の巨大斬撃を警戒する賊達に対し、手元の空気を変容させることで対応する。
 モヒカン兄弟なら気配で気付けたろうが他のイレギュラーズと戦闘中でここにはいない。
 生じた風は強く、刃の鋭さはなくても吹き飛ばす力はあり、シグに斬りかかった傭兵達を数メートル吹き飛ばして通路の壁に打ち付ける。
 荒れた遺跡から飛び出た建材が賊を傷つけ、しかし死は許可しない。
 残りの傭兵は、逃げた。
「あっちには2人だけッ」
 薄暗い通路を走り、コアルームはあるはずの方向へひたすら走る。
 やせ細った子供がついて行けずに転ぶ。
 傭兵は子供のことなど気にもせず、全く速度を落とさず全力で踏み潰そうとした。
 みしりと地面が鳴る。
 3メートル近い鋼の塊が一歩踏み込み傭兵の前に立ち塞がる。
 幼子を救うための無理矢理な加速で足が痛み上体が揺れる。
 通常なら部隊規模の攻撃でも耐える守りが今だけは脆い。
「ここは通行止めである」
 シフトは気にしない。
 自分にしか手が届かない場所に抵抗する術を持たぬ幼子がいるのだ。
 放置するなどあり得ない。
 右の手首と左腕の中程に食い込んだ剣をそのままに、剣ごと腕を押し込み叩き付ける。
 捕まれた重犯罪者確定の傭兵が、白目を剥いて悲鳴も漏らせずその場に崩れ落ちた。
「へへッ、これで逃げ」
 仲間を捨てて、シフトがいなくなった自動開閉扉へ向かう傭兵。
 だが、シフトの巨躯は少し前のめりになった程度で通れるようなサイズではない。
 賊が乗り越えようとして果たせず、視界の端に七色の光が見えたときには、既に手遅れだった。
「必殺、蒼・海・斬!」
 卵丸にもあまり余裕はない。
 子供と賊が混在する閉所で貫通型中距離攻撃を使うのは大変だ。
 使用のタイミングを誤れば細く小さな手足が切断されて宙に舞うことになる。
 傭兵の鈍った剣の腕ではまともに防御出来ず、耳障りな悲鳴と血を撒き散らして床へと倒れる。
 感情が擦り切れた子供がびくりと震えたのが、どうしようもなく悲しい。
 守って塞ぐシフトと遊撃で打ち倒す卵丸を交互に見た傭兵が、別の逃げ道を見つけられないことに気付いて顔面を蒼白にした。
「待ってて、今卵丸達が助けてあげるから」
 卵丸はまだ保護出来ていない子供に笑いかけ、先程よりさらに子供に近い賊へパイルバンカーを構えて突っ込む。
 とにかく速く、賊が人質をとろうとしても実行に移すより早く杭を打ち込み、引き戻す動作で再装填して真横の賊にぶち当て引き金を引く。
「これが零距離銛打ち術だ!!」
 戦場の喧噪の中でも、卵丸の声は良く響いた。

●膝を折る
 骨を砕く音を全身で感じた。
 肩パッドのトゲトゲには血がこびりついている。
「ッ」
 自身の血は一滴も流れていないのに、巨漢モヒカンは今にも倒れそうな顔色だ。
「痛いじゃないか」
 黒羽がゆらりと立ち上がる。
 もう3度目だ。
 モヒカンの常識なら既に死んでいないとおかしいのに、特に何も欠けた様子もなく3度立ち上がり彼の前に立ち塞がる。
「イカした筋肉とモヒカンが泣いてるぜ」
 北方ヒャッハー族にとって、モヒカンは誇りで筋肉は生き様だ。
 獲得も維持も覚悟が必要なのだ。
「止めても誰も責めないぞ」
 黒羽は客観的な事実を告げているだけだ。
 なお、黒羽にとってもモヒカンにとっても傭兵がどう思うかなどどうでもいい。
「俺が許さんッ」
 北に残した妻を思うだけで、やる気と焦燥感が心身を満たす。
「子ども達にあんな風に接する奴の言うことを全部信じられるのか?」
「言うな!」
 黒羽は攻撃しない。
 モヒカンヒャッハーを足止めして、倒され、何度でも立ち上がる。
「おォおッ」
 弟の鍛え抜いた拳がオーラを纏って銃弾を迎撃する。
 直前の攻撃では有効だったはずの防御が機能しない。
 弾頭が砕け、特殊抗体な拳に付着し、ヒャッハーの能力を阻害している。
「やるじゃないか」
 一方的な射撃をしているように見えるシルヴィアも無傷ではない。
 出身世界の物資を再現するため、決して小さくない代償を支払っている。
「で、誇り高き北モヒカン?」
「ヒャッハーだッ!」
「そのヒャッハー族とやらは死ぬまで殺り合うのをお望みかい?」
 ライフルを強く掴んで手の震えを隠す。
 弟モヒカンは息の乱れが激しくなるばかりだ。
「正直アタシとしちゃあ、クズに手を貸そうがどうでもいいが」
 メイドとモヒカンの瞳の中間で、静かな火花が散った。
「アンタらそれでも後悔しないタイプか?」
「クズはどうでもいィ」
 彼にとって家族と誇りだけが重要だ。
 兄の気配が健在なのに動かないことに気付き、闘志は衰えないまま誰と戦うかの判断に迷う。
「止めやしないけどね。このままだとあんた好みの死に方は出来なくなるよ」
 ココロが腕を前方に突き出しつつ軽く突進して、ぺちぺちパンチを浴びせ、冗談のような勢いで逃げてきた傭兵を吹き飛ばしている。
 傭兵は戦闘不能レベルの状態異常なのに、新たな傷が全くないのが恐ろしい。
 モヒカン的には名誉ある負けではない。
「……ふむ」
 シグが戦場を見渡し、傭兵に逃げ場が無いのを確認してからヒャッハー弟に歩み寄る。
 弟は奥義を使おうとして、消耗が激しく足が萎えてふらついた。
「お前さんは兄に、『正直に』何が起こっているか話したかね?」
「悪いなら俺だッ。兄貴は」
「彼はお前さんを信頼しているだろう。その信頼が裏切られたとしたら――」
 死を恐れぬ男が、この戦いで始めて恐怖した。
 シグは言葉による攻撃を止める。
 後は熟した果実が落ちるのを待つだけだ。
 子供が通路に伏せている。
 傭兵のわずかな生き残りが今更命乞いを始める。
 何度も子供を人質にしようとした賊には最低限の信用も存在せず、誰も交渉に応じない。
「これで終わりだっ……喰らえ音速の一撃!」
 至近からの卵丸の斬撃が、回復不能の傷を賊へと負わせた。
「おっさん舐めんてのか!」
 ヨシトの打撲の腫れが消え健康な肌に戻る。
 黒羽以外を攻撃しても、ヨシトの治癒術が続く限り長期戦が可能だ。
「膝は折らなくていいから心は折れてください。うっかり騙されたことを認めてください」
 ココロの語調は穏やかでも込められた感情は苛烈だ。
「子供たちの中には体力が尽きている子もいます。あなた方が背負って病院まで運んじゃわないと危ないですよ」
 戦うなら戦う、諦めるなら諦めるでとっとと決めろ。
 死にかけの子供をお前の意地に付き合わせるつもりかと、シグとは別方向から巨漢の心を追い詰める。
「もう終わりにしない?」
 子供に直接害を与えていた賊は倒れ、法的には賊かもしれないが決して子供に手を上げなかったモヒカンだけが残っている。
「それに子供達の事を考えるなら早く終わらせてゆっくり食事させてあげた方が良いと思うよ」
 スティアが穏やかに語りかける。
 黒羽は倒れても絶対に立ち上がり立ち塞がり続ける。
 きっと、後退して撤退するならイレギュラーズでも追い切れない。
 が、既に兄のモヒカンの心は、外道に荷担したことでくじけてしまった。
「俺はもう行く」
 黒羽がモヒカンに背を向ける子供の様子を見に行く。
 今突撃すれば殺せる可能性はあるが、そんなことが出来る男なら弟はここまでついてきていない。
「子供が無理すんな。よし、今治してやっからな」
 ヨシトが治療を開始しているが反応は鈍い。
 傷を癒やすのは最優先で必要だった。
 が、傷が癒えると空腹をより強く感じてしまうのだ。
「口の中で溶けるのを待ってね。今飲み込むと喉に詰まっちゃうから」
 スティアは子供達の精神を癒やすため、同情を胸に押し込めて優しく穏やかに接する。
「子供は11人」
 黒羽は、子供を安全地帯まで連れて行くために必要な人手を計算する。
 ここが町中ならイレギュラーズだけで十分だ。
 だが獣やショッケン一派に遭遇する可能性は0ではなく、安全を考えると護衛と輸送に別れて何度かに分けて運ぶ必要が有る。つまり時間がかかり過ぎる。
「そこの2人、子供を家まで護衛しろ」
 縄も打たれず放置されていたモヒカン兄弟に強く言う。
「俺達ぁ犯罪者だろ?」
「出頭したいなら勝手にしろよ。ああ畜生今外出たら多分すげぇ混乱してるぞ。ガキ共は一刻を争うけどクラースナヤ・ズヴェズダーだって即座に対応出来るかどうか……」
 ヨシトは鉄帝の出身なので混乱が容易かつ正確に予想出来た。
「依頼の報酬はお前達の自由だ。お前等にとっては鉄帝に罰せられるより重い罰になるだろうが受けてもらうぞ」
「……兄貴」
 巨漢が天井を見上げ、己の敗北を受け入れた。
「分かった。親に渡せるまで面倒を見る」
 引き取り手がいないなら独り立ち出来るまで面倒を見ると、自身のモヒカンに誓う。
「そうか。あぁ、傭兵共は鉄帝軍行きだ。今のうちに覚悟を決めておけ」
 黒羽が傭兵の希望を断つ。
 鉄帝軍に引き渡された者達は、長くは生きられなかった。

成否

成功

MVP

シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り

状態異常

なし

あとがき

 ヒャッハー兄弟は反省している!

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