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シナリオ詳細

北方ヒャッハー族は種籾まで奪う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヒャッハー!!
 種籾に使われるはずだった麦が、煮え立つ鍋に放り込まれた。
「春に植える麦がっ」
 麦を取り返そうと、この家の主が熱湯の中に手を伸ばす。
 しかし、毛皮の上からでも分かる太い腕によって乱暴に阻まれた。
「これは俺の昼飯だぜェ?」
 逞しい体に肩パッド、そして物理法則に喧嘩を売っていそうなモヒカン。
 北方ヒャッハー族を名乗る男が嫌らしく笑いながら大さじで鍋をかき混ぜる。
「ふ、ふざけるな! お前が、お前等がっ」
 家主が激高する。
 いきなり押し入って来た男達に越冬の為の食べ物どころか種籾まで奪われ、春まで生き延びることも出来なくなった。
 鍋をかき混ぜているモヒカンが噴き出し、鹿肉の燻製を梱包していた部下達がげらげらと笑い出す。
「女に手を出さないって条件で食い物を差し出したのはお前ェだろうが」
「俺達は文明人だァ。約束は守るぜェ?」
「今なら麦一袋で買い取ってやるがなァ?」
 薪が大量に炎の中に入れる。
 火の粉が散って、床に刺さったままの斧の刃を一瞬だけ暖め消える。
「まだ硬ェな」
 ヒャッハーが、大さじを口から出して大げさに顔をしかめた。
「料理は時間がかかるもんですぜェ?」
 この家の家族が晴れの日に食べるはずだった腸詰めを調理もせずに咀嚼しながら、ヒャッハー族一般兵がからかう様に笑う。
「面倒くせェが文明人だからな」
 右手には大さじを、左手1本で釘バットをくるくる回して若奥さんと幼い娘を怯えさせながら、略奪部隊のリーダーが澄まし顔で言う。
 格好はともかく態度は穏やかそうだ。
 だが目を見れば他人を踏みつけることに慣れているのはすぐ分かる。
「おいお前ェ等! サボってないで他の家からも食い物集めて来い。粥はデザート、肉が主食だからなァ?」
「へい! すぐに集めてきまさァ!」
 ここはヴィーザル地方。
 鉄帝国北東部に隣接する、貧しく広大な大森林地帯だ。
 諸部族が連合を組み連合王国ノーザン・キングスを名乗っていはするが、鉄帝との小競り合いだけでなく部族同士の小競り合いまで起こっている難儀な土地だ。
「文明的にやれよォ?」
「へい! 文明的に根こそぎにしまさァ!!」
 彼等は北方ヒャッハー族。
 少しだけ変わった風習を持つ、蛮族である。

●運が良ければ奪還も
「雪注意なのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は真顔だ。
 討伐依頼ではあるが討伐よりもっと重要なことがあると言いたげな態度で、酷く雑な地図をテーブルに広げる。
「載ってる道は多分使えないです」
 ヴィーザル地方の中でも雪が多い地域であり、雪に慣れた現地住民でもこの時期はほとんど出歩かないらしい。
「移動だけでも大変なのです!」
 実際、凄く大変だ。
 場所はヴィーザル地方南西部、鉄帝近くの村。
 明確に鉄帝の領域という訳ではないが、定期的に鉄帝に毛皮を納めているので放置するのも鉄帝の面子にかかわる。
「でも鉄帝では不人気な戦場なのです」
 今は海洋相手の戦いが熱い。
 幻想や天義は手強く遣り甲斐がある。
 それらと比べると、僻地の弱小勢力相手の戦いは遣り甲斐もないし本拠地まで攻め落としても利益が少ない。
「だからローレットに外部委託なのです」
 酷い話かもしれないが、ローレットに払う金はけちっていないので報酬的には問題ない。
「それに……」
 略奪と言っても全てを奪える訳ではない。
 不幸中の幸いで住民は無事な様だし、略奪者も次にも奪うため火付けはしないようだ。
 そして、略奪者は飲み食いや暖をとるために現地に滞在している可能性が高い。急げば略奪品を取り返せる可能性がある。
「話はもとに戻るですが本当に雪注意です」
 通常の視力の持ち主なら20メートル先を見るのがようやくという雪が降っている。
 足が雪に埋まって移動に時間がかかり、体力の消耗だって激しくなる。
「注意一秒怪我一生なのです!」
 北国出身者には釈迦に説法ではあるが、雪にも注意が必要な依頼であった。

GMコメント

 ヒャッハー共を倒せば問題ない依頼ですヒャッハー!!
 生死不問です。鉄帝やイレギュラーズに対する恐怖を心に刻んでから開放してもOKですし、半分倒して残りを脅しても全く問題ありません。

●敵
『略奪部隊長』×1
 文明人を自称する零細部族、北方ヒャッハー族の略奪部隊の1つを率いる男です。
 種族は人間種。
 盾と大型釘バット、毛皮に鎖帷子というほぼ北方蛮族スタイルですが、兜は被らずモヒカンを外気に晒すのが特徴です。
 なので盾を装備している割に防御技術は低めです。
 投擲用手斧【物】【遠】【単】や、高速の振り回し【物】【近】【範】を使いこなします。
 ただし自身が戦闘するときは目の前の戦闘に夢中になり過ぎ、部下を指揮出来なくなります。
 「文明的な挽肉にしてやらァ! ぐるぐるバットを食らえェ!!」

『北方ヒャッハー族』×14
 略奪部隊の一般兵です。
 まだ、兜を外して戦うことを許されていません。
 なので防御技術は普通です。
 非戦闘員に対する威嚇と略奪した物資の運搬が主任務であり、武装は小さな盾と手斧【物】【近】【単】だけです。
 手斧は投擲【物】【遠】【単】に使用することも可能ですが、携帯する2本を使い尽くすと素手攻撃【物】【至】【単】の弱攻撃しか出来なくなります。
 荷物を運んでいるので機動力は非常に低く、イレギュラーズに気付くと荷物をその場に落としてから戦います。
 「弟を殺りやがったなッ。ヒュー、たまんねェ、俺と戦えェ!」


●戦場
 1文字縦横10メートル。現地到着時点の状況。上が北。雪が降り見通しが悪い。
 abcdefghij
1□□□□□□頭□□□
2□□ヒ■□□■□□荷
3□□□□□□□□□□
4□□■□□■□■□□
5初□□□ヒ□□□□□
6初□□□□□□□□□
7□□□□□□□初初□

□:たくさんの雪。歩行での移動は大変。敵は20メートル先も見えないことがあります。
■:乏しい資材で背一杯頑丈にした家。窓は小さく、出入り口はどれも南側。
ヒ:雪。『北方ヒャッハー族』が、最後の略奪品を運搬中。
頭:雪。『略奪部隊長』が見回りで西へ移動中。
荷:雪。大型のソリが5つあります。人力仕様。ヒャッハー族4人が警備兼積み込み作業。
初:雪。イレギュラーズの初期位置。各人が好きな位置を選択可能。


●他
『現地住民』×そこそこ
 散々脅されたため、家の中のすみっこで怯えています。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 北方ヒャッハー族は種籾まで奪う完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月14日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
特異運命座標
クーア・ミューゼル(p3p003529)
めいど・あ・ふぁいあ
藤野 蛍(p3p003861)
二人でひとつ
桜咲 珠緒(p3p004426)
二人でひとつ
無限乃 愛(p3p004443)
魔法少女インフィニティハートD
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
ゲーミング
桐神 きり(p3p007718)
リコシェット(p3p007871)
跳兎

リプレイ

●奇襲
 猛烈な向かい風がメイド服を揺らす。
 しかし裾の乱れは最小限だ。
 『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は日々研鑽する従者の鏡であり、得意技は家事もとい火事である。
 靴先が雪に触れそうなぎりぎりの高度を保ち、よく手入れされた指先で爆発物にしか見えないそれをそっと取り出した。
 安全装置解除。
 見事な投球フォーム……ただし露出は最小限から、お手製手投げ弾が放たれた。
「フホ?」
「何だァ?」
 北方モヒカン族の若者2人が同時に振り向き、雪上で炸裂した爆発を真正面から浴びた。
「敵襲ゥ! 散開しろォ!!」
 叫び、緊張感を取り戻し、味方と合流しようとして足が萎えているのに気付く。
 見上げると、火事特化型メイドがスラスターで高度を上げ禍々しい気配の手榴弾を振りかぶっていた。
「どこ見てるのよっ」
 わずかに雪が付着した眼鏡がきらりと光った。
 白と黒の華やかな戦闘装束から美しくも妖しい光が溢れ、『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)の戦意に導かれて花吹雪と化しヒャッハーズを襲う。
「ッ?」
 痛みは感じない。
 傷も一切増えていない。
 しかしヒャッハーの思考と魂のバランスが崩れ、至近にいるはずのメイドを忘れて蛍にだけ集中し手斧を振りかぶる。
 1人2人ではない。
 合計4人による手斧投擲集中攻撃だ。
 蛍に先導される様にして進む、『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)がわずかに緊張した表情で頷き合図を送る。
「明日の芽吹きを阻む悪を砕く愛の陽光!魔法少女インフィニティハート、ここに見参!」
 華麗かつ可憐な蛍光ピンクが、降りしきる雪を押しのけた。
 それは、極太のハート型魔法ビームであった。
 キメ顔の『魔法少女インフィニティハートD』無限乃 愛(p3p004443)が左手で新たな魔を導くと、極太ビームがイレギュラーズに達する前にイレギュラーズだけを守る小型結界が人数分出現し被害を敵だけに限定する。
「アババッ」
「イデェヨオガアヂャンッ!!」
 阿鼻叫喚である。
 それでも根性で投げられた斧のうち2本が明後日の方向へ飛び、残り2本も空中の雪を透視しているかの様に動く蛍により叩き落とされた。
 蛍は追撃しない。
 珠緒からテレパシーで伝えられた通りに、ヒャッハーズの別働班と輸送班がいる方向を指差し人数を告げる。
「了解! 出し惜しみ無しだ!!」
 元気な声と微かな火薬の臭いが蛮族にまで届く。
 そして届いた時には既に手遅れだ。
「やれ、SADボマー!」
 『跳兎』リコシェット(p3p007871)の号令と同じタイミングで自走爆弾が爆発する。
 左右からの攻撃で翻弄された直後の蛮族ではまともに防ぐことは出来ず、手足や指こそ飛ばないが打撲と裂傷まみれになり血と悲鳴を吐き出した。
 独特な形状の4本足メカ……多分メカを熟練騎手の様に御しながら、『レッドが来たぞ』レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)が戦闘で踏み荒らされた雪原を飛ぶ様に駆ける。
「しぶといっす!」
 血と傷口を見て、感嘆半分の声が自然と口から出た。
 ヒャッハーは未だに雄々しく立っている。
 北方ヒャッハー族の一員としての誇りに支えられ、予備の手斧でレッドを迎撃する構えをとった。
「甘いっす!」
 赤い靴がHMKLB-PMの腹に触れる。
 ぎゅん、という効果音が聞こえそうな急加速で方向転換を繰り返し、くねくねした軌道でヒャッハーの間をすりぬけた。
「ヒャ!?」
「何に襲われてるんだァッ?」
 戦いを恐れはしなくても未知に対する畏れは別だ。
 HMKLB-PM単品ならただのジョークグッズ扱いだったかもしれないが、レッドの操縦技術と戦闘能力が組み合わされると蛮族にとっての悪夢となる。
「襲っているのはお前達っす!」
 両手でようやく持てる大きさの剣を振り上げ、足の代わりにHMKLB-PMを使って刃のベクトルを緻密に操作する。
「ヒャッ!?」
 動きの開始は手斧の方が早く、移動速度はレッドの斬撃の方が明らかに速い。
 肩パッドから胸まで切り下げられ、巨漢が白目を剥いて仰向けに倒れる。
 続いて炸裂した爆弾が、残りの3人を痛めつけ雪の奥へ埋もれさせた。

●雪中の乱戦
「真正面から来るとはなァ!」
 ヒャァ! と舌を蠢かせながら手斧をアンダースローで投げる。
 音速で近い速度で地面と水平に飛んで、途中の鋼の拳で迎撃され見事に砕け散る。
 砕けた破片は、いつの間にか展開されていた保護結界により民家を傷つけることも出来ずに雪に突き刺さった。
「足止めのつもりかァ?」
 ヒャッハーリーダーは歯を見せて笑う。
 外気が容赦なく熱を奪うが気にもしない。
「戦争と言うには小粒でありますが何、自分は気分が良い。よしとしておいてやるであります」
 風が収まり視界が晴れる。
 鉄帝のメイドと北のヒャッハーの中間で、殺意と戦意がぶつかり合い空間が歪んだ。
「お前は売ればこの村と同額になりそうだァ」
 体は雪を溶かすほど熱く、けれど目は冷静だ。
「奇遇でありますな」
 一般ヒャッハーと挟み撃ちにされるわけにはいかない。
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はヒャッハーリーダー1人に意識を集中させ、他の全ては仲間に任せる。
 そして、腕部をヒャッハー以上に熱くさせ、蒸気を噴出させながら構えをとった。
「こちらとて略奪だ! むろん貴様からなぁー!」
 ヒャァ! と歓喜の声をあげヒャッハーが応戦する。
 釘バットの速度は音速を突破し、徐々に密度を増す降雪のせいでエッダの目でも追いきれない。
「硬ェな! さすがオールドワン!」
「メイドでありますからなヘル・ヒャッハー。それより部下は放っておいて良いので?」
 腕部装甲に複数の亀裂が生じて火花を散らす。
 モヒカン頭にも酷い腫れが生じている。
 両者平然として、しかしダメージはエッダの方が深い。
 野暮なことを言うなと微笑んで応え、バットの連撃が嵐を巻き起こした。
「敵だァ!」
「積み込み途中のは捨てろォッ」
 脳味噌筋肉で粗忽者揃いのヒャッハーズとはいえ、爆発や大規模術の音や光に気付かないほど間抜けではない。
 食べる途中のハムや燻製をソリから投げ捨てて、物資を部族のもとへ届けるため4人で4つのソリを押す。
 押せないソリ1つは置き去りだ。
 客観的に見て見事な引き際ではあった。
 が、単独での突撃を選んだ桐神 きり(p3p007718)の決断が全てをひっくり返す。
「手加減したら半分は無事だね。なら!」
 きりが柄だけの剣を構える。
 左右で色の異なる瞳が底冷えする光を放ち、どれだけ表に出ても底が見えない力が柄を通して紅く光る刃と化す。
「汚物消毒依頼だからね!」
「逃げッ」
 ソリの上の物資は、捨てるには量があり過ぎ貴重すぎた。
 2つを捨て2つを4人係で押すことに決めたときには、きりのチャージはとっくに完了している。
「焼却……それも一人や二人ではない……全部だ!」
 わずかな余波だけで暴風が生じて雪が舞う。
 しかしきりの瞳は雪を見通している。
「これがっ、文明的なっ、炎の力だぁ!!」
 振り下ろす。
 生じたのは衝撃波というより真紅のビームっぽい何かで、冷たい風も雪も貫きヒャッハー数人を跳ね飛ばしてソリ1つを貫通した。
 木の焼ける臭いと、食い残し肉が炭になった臭いがきりまで届いた。
「何度もは使えないはずだァッ」
「投げろ投げろ全部投げちまえッ!」
 きりの一撃とは規模も威力も段違いに弱い手斧が飛来する。
 だが数が4倍だ。
 致命傷には遠いが治療無しで過ごすには辛い傷を負い、きりの足下の雪に数滴血が落ちた。
「前に出たね。もう逃げられないよ」
 次の一撃の準備をしながら、きりが勝利を確信して微笑んだ。
「珠緒さん、こっちに村の人達はいないよ!」
「こちらも全員建物の中におられるようです」
 蛍と珠緒の背後で、2人組2組、計4体の少女型ロボットがハイタッチをしてから大急ぎで来た道を戻って退避する。
「何モンだァ?」
「我等北方ヒャッハー族ゥ!」
「北の文明人とは俺達のことよォ!!」
 最初に戦った4人より、たっぷり食っていた分体力がありそうだ。
「文明、とは」
 混沌が肯定してくれた2本の足で立つ力が、一瞬だけ衰えた気がした。
 発言したのも含めた4人が本気で言っているのが分かってしまい、珠緒の思考が一瞬に満たない間空転する。
「戯言ですね」
 だがすぐに復調する。
 雪原には食い残しが散らばっている。
 それだけでも村人が数日食いつなげる量だ。ヒャッハーなどただの賊と断言出来る。
「ひゃっはー族の皆さん、略奪品は返して頂きます」
 飛行術式に異常はない。
 今は自己回復目的で動く呪的血液循環式も万全だ。
 決して簡単では無い術を複数維持しつつ、珠緒はきりの負傷の半分以上を直して見せる。
「ナァッ!?」
「この白い娘を先に……いやこいつ守り堅ッ」
 気付いたときには最後の斧を使ってしまった。
 神秘そのものでもある血が、舞い散る桜の花の様に珠緒を彩り、白い肌にも装備にすら触れさせずに手斧全てを弾き飛ばした。
 蛍の眉が危険な角度になる。
 イレギュラーズとして戦うなら負傷を覚悟するのは当然だ。
 しかし珠緒が傷ついた瞬間、酷い焦りと敵への憎しみが沸き起こって蛍の心を焦がす。
「食料を奪還して村人さん達の希望を取り戻すのよ……必ず!」
 蛍は己の感情が何故怒ったのか無意識に考えない様にして、剣と盾を構えたままヒャッハー4人へ向かって突っ込む。
 素手とはいえ過酷な環境で生まれ育ちここまで戦い抜いて来た強者達だ。
 容赦のない蹴りと拳が蛍を襲い、しかしライオットシールドで受け流されて大きなダメージにならない。
「これで!」
 珠緒の気配を感じるたびに胸が痛み、それでも表情は戦闘用のものを維持して淡紅の桜花を放つ。
「耐えろォ!」
 それが罠であることが分かっているのに抵抗出来ない。
 輸送担当ヒャッハーは逃げるべきだと分かっていたはずなのに、蛍に引き寄せられて効果の薄い攻撃を繰り返す。
 被弾で歪んだ兜が、ずるりと脱げた。
「ヒャッハー、モヒカン、つまり!」
 きりが指を鳴らす。
 地表から2メートル、ヒャッハーズのモヒカンや頭皮がある高度に強烈な熱が集まり、髪を固定していた脂に引火した。
「おまっ、なんて殺し方しやがるッ」
 怒り、涙をにじませながら、仇はとると決意して結局自分のモヒカンも蒸し焼きにされるヒャッハー。
 3人が倒れ、残り1人も戦意を失うのを見てきりは自身の眉間を揉む。
「雪で消火すれば?」
「あッ」
 まだ4人とも息はあるが、反撃の力は残っていなかった。

●ヒャッハー!
「やるじぁねぇか猫の娘っ子ォ!」
「そッちのバ」
 キン、と甲高い音が生じて蛍光ピンクの光が雪原を染め上げる。
 愛に飛び掛かろうとしたヒャッハーも、その真後ろで手斧を振りかぶってたヒャッハーも、前の2人が倒れてもキツイ一撃を繰り出そうとしていたヒャッハーもまとめて焼かれて雪の上に倒れた。
 殺すことが目的では無いので全員まだ息はある。
 そして、全員見た目より若く張りのある肌をしていた。具体的には10代後半くらい。
「ふふふこれで全員かしら」
 愛のマジカルサイズは逆境でも陰りをみせない正義の輝きを保ってる。
 美麗な愛との組合せは実に絵になる。
 ただし、愛が背負った悲しみ1割怒気9割のオーラを加えると、悪魔とか魔王とかのジャンルになりそうだ。
「隊長はどこだァ!」
「奴等も俺等も消耗しているッ。死ぬまでヤるか仕切り直すか今しか決めれねェぞッ」
 生き残りの古参ヒャッハーが3人前へ跳び、愛目がけて渾身の投擲を繰り出そうとした。
 爆発。
 雪が粉となり広がり、悲鳴と流血を冷たい白で覆い隠す。
「雪が降ってようと、姿が見えるなら私の射程だ! さぁ、奪った物は全部返してもらうぞ!」
 リコシェットが軽量の魔道自動小銃で止めを刺す。
 実に良い造りであり軽いのに安定している。
 毛皮も分厚い筋肉も貫き、重傷を負って倒れる者が増える。
「ハッ、やれるものならッ?」
 どピンクな魔砲が飛んでくる。
 ピンクが過ぎ去った後、ほんのり焦げたヒャッハーがうつぶせに倒れた。
「まだ生きてる。頑丈だわ。人間種なのに鉄騎種並?」
 冷静さを取り戻した愛が、魔力の残量を確認して少し渋い表情になった。
「ヒャッハァッ!!」
「くっ」
 ボスモヒカンが歓声をあげエッダがよろめく。
「リーダァ!!」
「逃げるぞッ。一度下がって本隊と合流して身代金交渉だッ! 俺達文明人だからなァッ!!」
 エッダも倒れた仲間をそのままに東へ走り出す。
 運ぼうとしたらイレギュラーズに追いつかれるとはいえ、かなり思い切った決断だ。
 イレギュラーズが無体を働かないと確信している、というより勢いだけで突っ走っている気もする。
「文明人って言っても自由と暴力と女しか興味ないただの盗賊と変わりないんじゃないっすか?」
 HMKLB-PMが軽快に雪上を走りるだけでなくくねくね踊る様にヒャッハーパンチを避ける。
 モヒカンリーダーなら当てられそうだが、そのヒャッハーな巨漢はソリの残骸に気付いて動揺していた。
「あなたの種族は文明的と自称しているみたいですね」
 一般ヒャッハーを仕留めたクーアがリーダーの背後から迫る。
「未来の糧食を断っておいて文明的とは、笑わせる俗者共なのです」
 髪の先端から猫耳に至るまで、確かな技術で手入れされて美術品の様に艶やかだ。
 それでいて武威も一般ヒャッハーとは次元が違う。
 雪と風に熱を奪われているはずなのに、リーダーは肌を火に直接炙られている様に感じていた。
「文明の規範を見せましょう」
 左右で色合いの異なる瞳がリーダーを射竦める。
 彼女の背後に業火を幻視し、ヒャッハーは畏れとそれ以上の喜びに満たされた。
「似非文明人は消毒なのです!!!」
 爆発。
 巨漢か浮き上がる寸前になり、剥き出しのモヒカンが激しく揺れる。
「お前を倒して文明人を証明してやるぜェ!!」
 嵐の如き釘バットが爆風を押し潰してクーアに迫る。
 呪いじみた術の効果を受けているのに凄まじい根性だ。
 だがそれでは足りない。
「身包み全部置いていけば見逃してやるっすよ……ヒャッハー!」
 雪に隠れていたレッドが容赦のない斬撃で太い足を削る。
 モヒカンは呆れるほどの体力と頑丈さで耐える。
 しかしイレギュラーズの攻撃はまだ始まったばかりだ。
「残りはそいつだけ。射程に注意して!」
 バットの届かない距離から、人の心を奪う紅紫の桜花を撒く蛍。
 物理的な傷を与えないのがヒャッハーにとっては逆に危険だった。衝撃に耐えるつもりで根性の使い方を誤り抵抗し損ね物理的な守りが甘くなる。
 そこにきりの紅の斬撃が突き刺さる。
 咄嗟に防御した太い腕から激しく血が噴き出す。
「ヒャッハー族だかヒッキー族だか知らないけど、頼まれた以上、食料は全て奪還する! 全部だ!!」
 鎖爪かんじきを使ってリコシェットが駆ける。
 止まり、狙い、引き金を引き。
 バットが振るわれるより早く駆け出しまた止まる。
「生き残るのは俺達北ヒャッハーだァ!!」
 モヒカンが逆立ち筋肉が膨れあがる。
 火事場の馬鹿力を完璧にバットへと集中。斬撃の風がリコシェットを中心に吹き荒れた。
 リコシェットの上体が揺れる。
 釘は避けたが随伴する衝撃が身体を突き抜ける。
 が、足に力を込めて耐え、叫ぶ。
「北方で生きるためとはいっても、略奪は許さない! 絶対だっ!!」
 普段使わない回路が繋がった気がした。
 指が、腕が、全てがリコシェットの意のままに動いて普段の倍の速度で弾を撃ち込み巨漢に血だらけにする。
「ぬゥッ」
 傷ついた肉体がヒャッハーを裏切った。
 片足が膝をついてしまい動かない。
 遠方できらりと輝いたピンクに気付いてバットを防御に回すが、手加減抜きの魔砲によって手首から肩までが軋む。
「まだだァ!」
 大量の血を流しているのにバットの構えはますます堂に入り、さらなる死闘を予感させる。
「モヒカン、燃やしますよ?」
 きりの一言で時が止まった。
 最後のヒャッハーが震える手で得物を地面に置き、命はともかくこれだけはという態度でモヒカンを庇うのであった。

●捕虜の行方
 斧による裂傷が、最初からなかったかの様に癒えていく。
 隙を伺う気持ちもあったヒャッハーズも、珠緒の治癒術を目にした瞬間完全に負けを認めて力を抜いた。
 長期戦になれば絶対に勝ち目が無いからだ。
「こんな顔で死ねる蛮族とは、2度と関わりたくないです」
 遺体を隠す布を元に戻し、優れた猟師でもある村長がぞっとしたした顔で呟く。
 歯を剥き出しにした、全力を出し切り爽やかですらある死に顔は一生夢に見そうだ。
「大丈夫?」
 奪還した物資の目録を渡し、支援が必要かと蛍が尋ねる。
「鉄帝に縋るとしても蛮族の方が近いので……」
 この場のヒャッハーの首を斬るのは簡単だが、その後復讐に来たヒャッハーから鉄帝が守ってくれるかどうかも分からない。
「拠点はどこっすか? 答えられないなら一人ずつ処分するっす」
「ヘッ」
「いくら探しても無駄さァ!」
「覚えてるのが死にやがったからなァ」
 本心からの言動なのが、非常に質が悪い。
 最終的に鉄帝が引き取たものの、捕虜は鉄帝でも持て余されているらしい。

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
二人でひとつ

状態異常

なし

あとがき

 ヒャッハー族はへこたれない!!

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