PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ブラック以下の新職場

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●スラムの就職事情
「就職が決まったんですか!」
 申し訳無さそうに頭を下げる老女に、男は笑顔を浮かべて祝いを述べた。
 彼は奴隷買取業者と呼ばれることすらある仲介業者だ。
 実際は職を斡旋しているだけなのだが、子供にまで重労働職を紹介するため評判は最悪なのだ。
「良かったじゃないですか」
 彼は本心から喜んでいる。
 彼が紹介出来るのは短期間で体を壊しかねない職場ばかりだ。
 それ以外の職につけるなら、その方がずっと良い。
「すみません、すみません……」
 老女が恐縮している。
 男が何度も相談に応じて、過酷でもマシな、そして老女に仕送り出来る仕事を用意したのを知っているからだ。
「いいんですよ。お孫さんにはよろしく伝えてください」
 男は珍しく良い気分で小屋を後にする。
 紹介料は硬貨1枚も手に入らないが、今日は一日良い気分で働けそうだった。
 そう思えたのも、目をつけていた2人目も3人目も消えていたのを知るまでだった。
「きな臭いな」
 消えたのは商品価値の低い子供達だ。
 腕っ節も頭も顔まで平均かそれ以下でスラム育ち。
 真っ当な職はもちろん過酷な職だって見つけるのは困難なはずだ。
 それがこの地区だけで3人消えたとなると、グレーゾーンを越えた真っ黒な何かがあるとしか思えない。
「気付きたくなかった」
 大規模な人狩りをやるなら一旦集める場所が必要だろうな、なんて思ったのが間違いだった。
 俺が使うならここだな、なんて思った廃屋を窓から覗いてしまったのは一生の不覚だ。
「んーっ!」
 子供がいる。
 見覚えのある3人を含んだ10人以上が、ロープで手首足首を縛られさるぐつわを噛まされた上で放置されている。
 糞尿の臭いが男の鼻を刺激し、思わずくしゃみをしそうになった。
「おいガキ共うるせェぞ」
 窓から見えるドアが外側から叩かれる。
 暴力を威嚇に使うのに慣れた、軍人というよりも裏家業の声とやり口だ。
「糞、甘い汁を吸えると聞いて来たのにガキの見張りなんてなァ」
「数が足りねェんだから仕方ねェだろ」
「テメェのせいだろ。楽な仕事があるってガキを誘ってここに連れてくるだけなのに途中で気付かれるかァ?」
 見覚えのある顔に、打撲と涙の跡がある。
 子供は奥歯を噛みしめ耐えている。
 今、奴隷買取業者業者と呼ばれる男が見つかってしまえば助けが来る確率が0になる。
 勇気や理性ではなく生きようとする本能が、必死に沈黙を維持していた。
 閉じられたドアの向こうで、重い足音が離れて行く。
 新しい犠牲者を探しに行ったのだ。
「参ったね」
 生え放題の草の中で縮こまって隠れたまま、口入れ屋を自称する男が苦笑を浮かべる。
 長生きするつもりがあるなら見た見ぬふりをすべきだ。
 けれども、あんな目をする子供を見捨ててしまったら、二度と安眠できる出来る気がしなかった。

●子供救出依頼
「スラムが混乱しているのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、2通の手紙をテーブルの上へ広げた。
 1通は今にも破れそうな紙に書かれた助けを求める内容だ。
「鉄帝軍人っぽい人が給料いい仕事があるって言って子供を集めてるです」
 軍人さんが言うならと喜んで応じ、数日たっても何の連絡もない。
 近くの鉄帝部隊に尋ねても、仕事の紹介などしていないという答えしか返ってこない。
 遠くの部隊が慈善活動を行っている可能性も一応あるが、慈善活動をするなら近所からだろうからまずあり得ない。
「就職しているはずの男の子も女の子も全然帰ってこないです」
 そんな状況で届いたのがもう1通だ。
 差出人の名前は無く、筆跡を誤魔化すためか丸文字だが内容は非常に濃密だ。
 子供が捕らわれた建物、怪しげな動きをする軍人達、悪化する子供達の健康状態まで詳細に記されている。
「罠じゃないと思うです」
 例え罠であったとしてもイレギュラーズなら踏みつぶせる。
 実績に基づいた信頼の視線が向けられていた。
「実行班が軍人なら、ちょっと強いかもですが」
 これは救出依頼だ。
 子供を助けることが出来るなら、敵を倒しても回避しても良い。
「頑張ってくださいなのです!」
 もちろん、犯罪者どもを根こそぎにしても全く問題ない。

GMコメント

●目標
 子供達の救出です。
 犯罪者から攻撃されない限り、子供は今回の戦闘中に体調が悪化したりはしません。
 しかし、犯罪者達は子供の命をなんとも思っていないだけでなく、積極的に人質として使ってきますので注意が必要です。


●戦場
 1文字縦横10メートル。現地到着時点の状況。上が北。晴れ。東向きのそよ風。
 abcdefghij
1□□□□□□軍□□□
2□□□□□□□□□□
3□□□■■■□□□□
4□□見□□□□□□□
5□□□■■■■□□□
6□□□□□□□□□□
7□□□□初初初□□□

□:平地。踏み固められて草も生えていません
初:平地。イレギュラーズの初期位置。各人が好きな位置を選択可能。
見:平地。『見張り』が警戒中。
軍:平地。『堕落した鉄帝軍人』が移動中。
■:頑丈ではない廃屋。出入り口はd3とd5の西側のみです。窓あり。出入り口以外は大量の草が生えています。


●敵
『堕落した鉄帝軍人』×4
 長期間まともな訓練をしていないため、多少頑丈なことを除けばただの犯罪者と区別がつきません。
 子供が何に使われるか知らないまま、金の為に今回の犯罪を荷担しました。
 良質な銃【物】【遠】【単】とナイフ【物】【近】【単】を携帯し、軍服の代わりに悪趣味なスーツを着ています。
 子供をさらえなかったため、内輪もめの口論をしながら見張りに向かっています。

『見張り』×5
 仲間に誘われ、非合法な仕事に手を出す様になった鉄帝軍人です。
 最近まで訓練を真面目に受けていたため練度は高く、特に命中と回避は『堕落した鉄帝軍人』とは比べものにならないほど高いです。
 しかし剣も銃も軍服すら携帯しない軽装のため、攻撃手段は白兵攻撃【物】【至】【単】のみで攻撃力も防御技術も低めです。
 リーダー格の1人だけは、技を駆使した攻撃【物】【近】【範】【麻痺】が可能です。

 敵は鉄騎種のみです。
 全員、子供が何に利用される予定なのか知りません。
 1人でも生かして捕獲すれば、子供達を受け取るはずだった、この場にいない軍人が1人逮捕されます。


●他
『子供』×13
 2つの建物に合計13人います。
 イレギュラーズの指示は素直に従います。

『自称口入れ屋』×1
 軍人の目を盗んで、捕らわれた子供達に差し入れを行っていました。
 イレギュラーズが現地に到着する前に付近の住民を避難させ、今は住民が元の場所に戻らないよう宥めています。

『子供の家族』×大勢
 心配はしていますが、生活のため必死に働いています。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ブラック以下の新職場完了
  • GM名馬車猪
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月09日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフト・シフター・シフティング(p3p000418)
白亜の抑圧
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
風巻・威降(p3p004719)
悲劇を断つ冴え
ジェック・アーロン(p3p004755)
お姉チャン
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
ゲーミング
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴
リコシェット(p3p007871)
跳兎

リプレイ

●奇襲
 傷だらけの、しかし良く手入れされた装甲が草を押し退けた。
 常人には音は勿論気配も感じられないだろう。
 だが、超能力じみた聴覚を持つ『白亜の抑圧』シフト・シフター・シフティング(p3p000418)にとっては、建物内部で息を潜める子供も外の見張りも大声を出しているようなものだ。
 無言でハンドサイン。
 イレギュラーズ達が足にバネをため、白茶ぶちの子猫がシフトの頭から降りた。
「一度ガキの様子見るかァ」
 見張りの一人が無駄話を止め振り返る。
 怪訝な表情で、酷くゆっくりと瞬きをして、しかしもう一度目を開いた時には『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)が剣を刀振り下ろす途中だった。
 実際には刃は見えていない。
 見張りの本能が、威降の手に恐ろしく危険なものがあると告げている。
 物理的にも精神的にも不意を打たれたため声が出るのが遅れる。
 妖刀に等しい呪いの風が、右の頬を裂き胸に斜めの切れ目を入れて反対側に抜けた。
「敵襲ッ!」
「これで倒れませんか」
 威降が頭を傾け、その直後に残像すら見えない斬撃が来る。
 頬に微かな痛みが。
 賊の見張りとは違い破れていないが、傷口から滲んだ血が赤い線を描いた。
「カオスシード? 違う、ウォーカー、イレギュラーズかッ!」
 頬が破れたせいで声が変だが誰も気にもしない。
 賊は奥歯を噛みしめ呪いの振り払い、出し惜しみせず対部隊の斬撃を繰り出そうとした。
 細い指が引き金に触れる。
 込められた力は文字通りの最小限だ。
 だから銃口は揺れもせず、『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)の狙い通りの位置とタイミングに銃弾を送り込んだ。
「迎げッ」
 鉄騎種の米神の重装甲で火花が散る。
 脳味噌を吹き飛ばされはしないが重い衝撃が頭蓋を貫通し、手足を操る精度が酷く鈍る。
 致命傷には遠いが、これではまともな防御は無理だ。
「装甲を斜めにサレた」
 ジェックが静かに感想を述べてそっと銃口をずらした。
「おい、逃げッ」
「倒さねェと後ろから撃たれて終わりだッ」
 負傷者を庇いイレギュラーズを迎撃する見張り達は、そこだけ見れば休暇中の鉄帝軍人に見える。
「ようやく軍人らしくなったわね」
 炎の気配がした。
 焚火などないのに肌が痛いほどの熱を感じ、見張りは威降を牽制しながら一瞬だけ南に目を向けた。
「人身売買……か」
 『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)は気配だけで状況を把握する。
 建物内の子供は心身共に危険なほど弱り、目の前の男達はそれに気付いているのに全く気にしていない。
「堕ちるところまで堕ちれば外道と変わらないわよ」
 光を反射しないようにも見える、漆黒の大弓を引き絞る。
 矢は魔力で形成された赤紫の大槍で、強烈な黒の雷を発していた。
「対神秘防御ッ」
「正義の味方を気取るつもりはないけど、だからといって見逃す道理もないわよね」
 庇うつもりの見張りも庇われるつもりの隊長格も無視し、戦場を大回してフィーゼを襲撃するつもりだった1人へ矢を放つ。
「ッ」
 気付いて飛び下がる。
 避けきれぬと判断して良質なナイフで迎撃。
 しかし赤紫の槍は全ての守りを無効化し、現役軍人の生命力を大きく削って消えた。
「そんな訳で……」
 魔性の身体を覆うスーツが形を変える。
 弓と術を補助する形から、魔術と格闘用の形に蠢きながら変化してフィーゼの身体を妖艶に演出する。
「二度とふざけた真似が出来ない様に、一人残らず刻み付けてあげる」
 地面を滑るように走り、魔を帯びた腕を鉄騎種の男達に伸ばした。
「集中攻撃ッ」
 見張りが前のめりになる。
 防御を疎かにしてでも、最優先でイレギュラーズの数を減らすことを選択したのだ。
「アタシのこと忘れテル?」
 その威力と比べると酷く小さな銃声が連続する。
 敵味方が入り乱れる空間に銃弾が侵入。
 回避を試みる鉄帝軍人達の動きは読み切られていて、その頑丈な身体に弾丸がめり込み肉を抉る。
「機関銃だと? 味方ごと撃つのかッ」
 軍人が騒いでいるがライフルによる銃撃だ。
 元の世界の相棒を使いこなすジェックの技術があって始めて可能な範囲攻撃である。
「大丈夫、アタシをシンじて」
 安全地帯からじっと見てくる子猫に声だけで答えながら、ジェックは予備の弾倉で相棒の腹を満たす。
「ゼッタイに当てないカラ……ネ」
 もちろん敵には当てる。
 銃声。感じ慣れた衝撃を腕で感じた直後、生身の防御しか無い軍人の肌から血が噴き出した。
「どうするッ」
「人質をッ!?」
 方針を変更し、子供を人質に使おうとしてて建物に向かった男共の前に、3メートル近い巨躯と分厚い装甲が立ち塞がる。
 否。単に彼等が気付けなかっただけで、戦闘開始時点で子供を守る盾はそこにあった。
「本機に於いて『何がした』では無く『何をした』が優先である」
 シフトの無機質な声が淡々と響く。
「しかし……状況から推測するに誰かは使い捨ての道具、或いは将来的に痕跡の残らない消耗品を求めていると考える」
 堕ちた軍人達が連携する。
 左右に分かれ、シフトでも反応し辛い速度と時間差でナイフを繰り出し急所を狙う。
 金属部が多いシフトではあるが無敵ではない。
 間接部にいくつも傷が刻まれ、だが一歩も下がりはしない。
「状況から推測するに誰かは使い捨ての道具、或いは将来的に痕跡の残らない消耗品を求めていると考える」
「ッ」
 真横からの斬撃が盾による一撃で押し潰される。
 喉を狙った刺突も傾けられた装甲で受け流される。
「我々は耐性も有る、そういった用途に向くだろう」
 特にお前達には似合いの職ではないかと視線と気配で語ることで、まだ軍に籍がある男達を激昂させた。
「ただ本機は殺戮で凡てを均し」
 鉄帝軍人の優れた技量は、ただのナイフに名剣じみた威力を与える。
 しかしただの名剣程度ではシフトの装甲を撃ち抜くことなど不可能で、その事実が賊に堕ちた軍人を焦らせる。
 シフトは、どうしてここまで挑発が効いたか内心不審に思いながら、建物の中へ通さないことを最優先に盾を振るう。
 今にも消えてしまいそうな、けれど必死に生にしがみつく視線が10以上、大きな背中に向けられていた。

●交戦
 外国から輸入された良質の生地。
 それを大量に使ったスーツの胸元には、勲章を思わせる金のアクセサリーが飾られている。
 だが絶対に軍人には見えない。
 かつては力と速度をもたらしていた筋肉は半ばまで贅肉に変わり、敵を見逃さなかった瞳は欲と酒に濁って最早回復の手段はない。
「そこまでだ!」
 タンッ、と凄まじい速度を感じさせる足音が響く。
「悪党ども、これ以上の悪事は卵丸が許さないんだぞっ!」
 『蒼蘭海賊団団長』湖宝 卵丸(p3p006737)は華奢だ。
 肉体も魂も腐り果てた男達と並べると、整った顔立ちと可愛らしい反応もあり獲物にすら見える。
 だが速度の次元が違う。
 刃仕込みとはいえマントでしかない布地が速度と技によって鋼の強度を持ち、ホルスターに伸ばされた腕を巻き込み捻り上げる。
「にしても、悪趣味なスーツなんだぞ」
 地味でも緻密に仕事をこなす事務員の服とも、凄まじい額の金と責任を背負って経済の世界で戦う実業家の服装とも違う。
 汚い金で自己顕示欲を満たすためだけに仕立てられた、素材が勿体ないスーツばかりだ。
「何モンだテメェ!」
 弛んだ腕が高価なナイフを引き抜き滅茶苦茶に振るう。
 隣のお仲間を掠めても気にもせず、残虐な性を顔に剥き出しにして卵丸へ迫る。
「卵丸は海の男だ!」
 落ちた技量ではあっても油断はできない。
 卵丸は何度もナイフで軽い傷をつけられても、勇気を抱いて深く踏み込み回転するドリルを叩き込む。
「こいつッ」
 1対4で有利なはずの軍人達が後ずさる。
 もう、戦士としての勇気すら失われていた。
 アップリケで補修されたジャケットが揺れる。
 ポケットから取り出された爆薬が自走式の素体に組み込まれ、明らかに危険な色のカウントダウンが始まる。
「さぁ、覚悟しろ悪党ども! 盛大にぶっ飛ばしてやる!」
 腐った軍人達が『跳兎』リコシェット(p3p007871)の声に気付く。
 ちらりと見ると、そこにいたのは活発な少女と危険な爆弾ではなく、危険な爆弾を凄くいい笑顔で振りかぶる、爆弾よりもっと危険なリコシェットだった。
「おらぁっ!!」
 自律自走式爆弾、SADボマーが弧を描いて腐敗軍人総勢4人に迫る。
 彼等は、卵丸が逃げないことからボマーの威力と効果範囲を誤認してしまった。
 宙で身体を捻ってボマーが向きを微修正。
 軍人共の真ん中に着地するように地面に突き刺さり、カウントが0になった爆弾を起動させる。
 どうなるか、など考えるまでもない。
 様々な戦場で起きた悲劇がここでも起きて、軍服よりずっと脆いスーツが皮膚や肉と一緒に抉られ飛び散った。
「テメェッ」
 痛みで涙を流しながら憎悪の目を向けてくる軍人達。
 リコシェットは真正面からにらみ返し、建物を庇うように立ち大声を張り上げる。
「大丈夫。悪党どもは私たちがすぐにぶっ飛ばすから!」
 だから死なないでと祈り様な思いを込めて叫び、散開しようとする賊達に魔道自動小銃による銃撃を浴びせる。
「私の弾も避けれないのか。その銃はお飾りか?」
 鉄騎種の頑強な身体は、爆風と銃弾を浴びても現世の苦痛から解放してくれななかった。
 汗と、涙と、糞尿が入り交じった異様な臭いが形の良い鼻を刺激する。
 無意識に柄を強く握りしめてしまう己を自覚しながら、『夢幻の迷い子』ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)が爆発直後の戦場へ静かに踏み入った。
「奴等と合流をッ……ハーモニア?」
 凄まじい速度の自称海賊とも爆弾娘とも違う、物腰柔らかな幻想種……彼等にとっては餌でしかない少女に見えた。
 右手に魔剣を、左手に聖剣を、ただ持って歩くだけでも大変なはずの武器を同時に構えているのに上体が殆ど揺れない。
「子供の連れられる先は、何処か。想像に難くないですが」
 腐敗軍人の目から心を覗き込むように見て、少し疲れたような息を吐く。
「子を攫うあなた達にも、相応の理由は有るでしょう」
「殺せッ!」
 曇った目でも制御されない欲でもなく、本能が訴える警告に従いユースティアに斬りかかる。
 上体は激しく揺れて不安定。隣の仲間との連携も皆無。
 星の色彩を湛える衣が左の斬撃からユースティアを逃がし、青白い光を纏う聖剣が雑な刃を退ける。
「けれど其れは、他者を踏み躙る大義には為り得ない」
 軍人に成れの果てを理解した上で否定して、東に回り込みつつ雷を思わせる刺突を繰り出す。
 衰えてもなお頑丈な鉄騎種の身体から、不健康な色と気配の血が吹き出て地面を汚す。
「クソッ、やってられるかッ」
「お前、逃げッ」
 最も腐った男が1人、手のナイフを捨てかつては命を預け合った者を見捨てて逃げ出した。
 鈍った身体が痛みを訴える。
 自業自得の痛みなのに理不尽に怒りながら、利用するため悪事に巻き込んだ軍人の元へと走る。
「メイ……ド?」
 無意識に足を止めていた。
 全速力からの無理矢理な静止で足が痛むが気付けない、
「なんで、楽しそうに笑ってンだ」
 震える手で銃を構える。
 新兵の頃支給された物より2桁は高価な銃なのに、今は故障した銃より頼りなく感じる。
「ははは、楽しそうに見えるでありますか?」
 金細工を思わせる編んだ髪、皺一つない装束、そしてほんの微かに吊り上がった口元。
 愛想の良い侍女にも見えるが怒りで凍り付いた目が全ての印象を反転させる。
 腐敗軍人が呼吸を乱して逃げ出そうとする。
 助っ人との合流を諦めスラムへ向かい、たった2歩進んだ『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)により進路を塞がれる。
「まったく不愉快だ」
 進路を遮った結果触れあう距離になった賊へ、鋼の拳を静かに触れさせる。
 絶妙な身体操作で以て全身の力が拳へ集中。
 薄く張られた装甲が爆ぜ割れ、賊の内臓が衝撃で揺れ動く。
「そして私は不思議だ」
 逃げる。
 逃げようとする。
 エッダという脅威が至近にいるのに無防備な背を向けただ逃げる。
 怒りの気配がさらに濃くなり、けれどエッダの無表情は崩れない。
「子供は襲い、良心の呵責なく、規律もなく」
 震脚を伴う直進で追い抜き、美しい半円の回り込みで立ち塞がる。
 腐敗軍人の絶望の表情を見据え、防ごうとした腕ごとその腹にめり込ませ。
「さりとて己の力に自負があるでもない」
 半円を描いたときのスカートの揺れがおさまる。
 男の震える爪先を踏みつけ、ただ静かに問いかける。
「鉄騎でありながら強くあろうとせず、さりとてヒトとして善良であろうともしない貴様らの生きる価値はどこにあると言うのだ」
「おッ、俺が悪かったッ。なんでも話すからッ」
 必死に下げようとした頭へ掌が触れる。
「不愉快だ。せめて木偶として死ね」
 万が一でも逃がす可能性を許容出来ない。
 頭部が勢いよく押され、頸骨が回復不能なまで破壊された。

●抵抗
「駄目だ、逃げろッ」
 最後の義理を果たすつもりで一声叫び、初戦で手傷を負った軍人が1人で逃げ出す。
「ハァ!? 後少」
 分厚い胸板に小さな穴が開き、反対側から心臓の欠片と血が噴き出す。
「キョリさえ保ってイレば、敵の攻撃はアタシにはアタラない」
 ガスマスク越しの冷たい瞳が死体を眺め、新たな獲物を求めて銃口が動く。
 ヒトリくらいは生かしておかナイと、などと考えることはあっても一瞬だけだ。
 ジェックは淡々と銃弾を送り込むことで、子供を人質にとる可能性もある犯罪者を確実に仕留めていった。
「せめてもの情けよ、苦しまない様に確実に終わらせてあげる」
 建物内の弱い気配を感じる度に、フィーゼの中にある慈悲に似た感情が消えていく。
 痛みを感じるより早く頭蓋を槍で貫き、一人逃げた賊へ憐れみに近い視線を向ける。
「どけェ!」
 練り上げられた殺意が大剣を思わせる刃を形成する。
 進路を阻む全てを切り裂こうとして、エッダの拳によって砕かれる。
 賊が呆然としたのは一瞬だけだ。
 しかしイレギュラーズにとっては十分過ぎる隙だった。
 爆弾が大きな弧を描く。
 賊の頭上2メートルで爆発。
 見事な体術で躱せはしたが少し爆風に巻き込まれただけでも無視出来ないダメージを負う。
「後はあなた1人です」
 倒れていくスーツの男から魔剣を引き抜きユースティアが息を整える。
 賊の中でこの男だけが、総合的な力がこの場のイレギュラーズを匹敵するか上回っている。
 だがそれは戦いを避ける理由にはならない。
 ユースティアは限界まで気を研ぎ澄ませ、確実に殺すつもりで突きを放つ。
 片手間の回避など不可能な、魂の籠もった一撃だった。
「このッ」
「ようやく崩れたな」
 威降は建物の出入り口を常に背にしながら至近の間合いを強要する。
 予備動作らしい予備動作も無く、呼吸で動きを読もうとしても無意味な、しかも超高速の突きが最後の賊を襲う。
 ユースティアの一撃を避けるため酷使した足が鈍い。
 普段着同然の服に穴が開き、皮膚と肉が裂かれ刃が骨まで届いた。
「逃がす気なしかよッ」
「当たり前だっ! まだ死なせはしないんだからなっ!」
 卵丸がジェトパックを噴かして空から蹴りを繰り出す。
 非常に死に難い蹴り方だが慈悲ではない。
 子供に手を出した者にかける慈悲など存在しない。鉄帝からの取り調べは凄まじく過酷なものになるはずだ。
「こんな所でッ」
 強引に身体を捻って直撃だけは避ける。
 脇腹に受けた衝撃が身体の芯まで通って内臓全てが悲鳴をあげ、もうどこが痛いかも分からない。
「恨むな、とは言わないよ」
 重さを感じさせない足取りで威降が近付く。
 この体調では勝ち目がないと確信した賊は、1人殺してもう1人殺すと脅すつもりでナイフを投げる。
 カツン、と。
 鉄が鉄に弾かれるだけの音が響いた。
 シフトが、入り口に陣取ったまま温度のない目を賊へと向ける。
 伸ばした腕に刻まれた極小の擦り傷が、賊が最後に振るった暴力の結果だった。
 後は作業だ。
 死なない程度に丹念に痛めつけられた後、卵丸の蹴りによって地獄の生が確定した。

●救出
「これで良し」
 フィーゼが思い切りロープを引っ張ると、完全に拘束された賊達が情けない悲鳴をあげた。
「もう大丈夫だよ」
 威降がしゃがみ込んで視線をあわせる。
 子供達がおそるおそる手を伸ばし、依頼主が用意した重湯を口にした。
 威降は微笑み、無用な刺激を与えない様注意しながら、子供の体調急変を警戒して神経を尖らせ見守る。
 大丈夫だと確信できたのは、数分経って子供がうつらうつらとし始めた時だ。
「直接話ても大丈夫だと思いますよ」
 同じく差し入れの毛布を掛けてやりながら、出入り口で警戒を続けるシフトに声をかける。
 シフトは何も答えない。
 その大きく頼もしい背中を、子供達が夢見心地のまま見つめている。
「もう大丈夫だ。さぁ、一緒に帰ろう! アンタも手伝え!!」
 リコシェットが痩せた子供を毛布でくるむ。
 問答無用で威降達に運ばせ、特にシフトには3人もまとめて運ばせる。
「次もよ」
 絶対に助ける。
 困難であるのは分かっているが、絶対に諦めなどしない。

成否

成功

MVP

シフト・シフター・シフティング(p3p000418)
白亜の抑圧

状態異常

なし

あとがき

子供達は、イレギュラーズに感謝しながら頑張って生きていきます。

PAGETOPPAGEBOTTOM