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シナリオ詳細

第五十二回バルツァーレク杯美食勝負!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●食べたい、という事
 美食。
 それは大なり小なり誰しもが持つ感覚。『美味い食事を求める』という事。
 欲求の三大が一角に数えられる『食欲』を根源とするその道に――終わりはない。
「例えば香辛料がほんの少し違うだけで」
 西の幸か東の幸か。
 夏か冬か春か秋か。
 料理人が誰か――それだけで。
「全く『顔』の異なる料理が完成するように」
 この世界に終わりはなく、だからこそ面白い。
 幻想の貴族『遊楽伯爵』ガブリエル・ロウ・バルツァーレクはそんな美食の世界に傾倒する一人である。彼が主に有名なのは美術・芸術の保護であるが……その一方で美食に関する事にもまた目が無く。

 時折『こう』した美食の集まりを開催するぐらいなのである、それが。

「どうも皆さん。
 この度は私が主催せしバルツァーレク杯美食勝負にご参加頂き、ありがとうございます」
「これは遊楽伯爵。こちらこそ栄えある集いにエントリーさせて頂けました事、光栄に思います」
「……ありがとうございますメェ……」
 第五十二回に及ぶバルツァーレク杯美食勝負である。
 それに参加せしはイレギュラーズの者達。挨拶に回っているガブリエルに対しまずとばかりに新田 寛治 (p3p005073)にムー・シュルフ (p3p006473)の言葉が紡がれて。
「もうルールは確認されているかもしれませんが、念のため。毒物や劇物でなければ何を使用されても構いません。『肉』『魚』『デザート』の三種を作って頂き、それらの『美味』さを堪能――もとい競い合うのが此度の催しの主眼となります」
「――あっちに沢山食材やら香辛料が置かれているけれど、あれは自由に使っても?」
「ええ勿論です」
 と、シエラ・バレスティ (p3p000604)が指差した先にあるのは大量の肉に野菜に……つまり食材の山だ。見た所一種類だけ、と言う訳でもなくかなりの量と種類の食材が集められている様で。
「ただあそこに集めたのは一般的に流通しているモノから、高級品ぐらいまでです。
 所謂かな極端に珍しいモノや、例えば個人で育成しているモノなどは流石に……」
「ぶはははっ! ま、そりゃそうだよなぁ――だけどよ遊楽伯。『持ち込み』はOKなのか?」
 さっきも言ったように毒や劇物でなければとゴリョウ・クートン (p3p002081)は言う。
 日程を確認すると、長く調理時間が必要な料理の事も考えているのか開催時間は夕方までと非常に長い。今はまだ昼。例えば他国にまで足を運ぶような事をしなければ『調達』も可能ではないかと――
「それも構いませんよ。過去には近くの海へ出て、幻と言われた大魚を……大体数時間に及ぶ死闘の末に狩って持ってきた方もいたぐらいで」
「死闘の末ってなんすか? 戦闘能力がある魚だったんすか? 随分豪胆な人もいたもんすね!?」
 ともあれそういう事なら本当に『食べれさえ』すれば問題ないのだろうとジル・チタニイット (p3p000943)はうんうんと頷きながら結論付けて。しかし『肉』に『魚』に『デザート』か……
「……なにを食材にするのか選ばないといけないですメェ……」
「ふぅむ。ちと考える時間が欲しい所だな。俺の推測だが、三種全部どっからか調達するには時間も人手も足り無さそうだぞ。いや当然ここにある『食材』を使うなら調達の時間なんざいらないだろうが……」
 どうしたものかとムーにゴリョウは悩む様子を。
 ここに集まったのは八人だ。作るのは肉・魚・デザートの三種類ともなれば、一つを調達して、一つを作って、また一つを調達して、また一つを作って……などと丁寧にやると時間がかかり過ぎる。平行して行うか、あるいはここにある食材で料理を考えるか――まずはそれを決めねばならぬ、と。
 その時。
「フフフ……ご覧くださいあの尾びれ。とても肉付きが良さそうだ」
「然り。あの身が詰まっていそうな様子……これは今回の勝負も期待できそうですな」
 相談しているイレギュラーズ達の『一部』――というかノリア・ソーリア (p3p000062)とベーク・シー・ドリーム (p3p000209)の方を審査員の貴族達が見据えながら、何やら不穏な事を呟かれている。いやいやいやいやちょっと待って。
「……え、なんかおかしくないですか? もしかして僕達持ち込み食材と勘違いされてません?」
「ま、まさかそんな筈はありませんの! ――ドリームさんの方だけでは!?」
「僕が食べられる可能性も否定してほしかった」
 あのですね審査員の先生たち。そこのですね、そのお魚さん達は持ち込まれた食材じゃ……え、いや魚でしょって言われたら、うんまぁそうですねとしか言いようがないんですが……
 と、そういえば八人の内の最後の一人、リア・クォーツ (p3p004937)さんはどこに?

「無理、無理無理無理……や、やっぱり私は帰……」

 会場の影。心臓の高鳴りを抑えながら、リアは顔を手で覆っていた。
 バルツァーレク杯美食勝負――あの御仁の為ならば! と最初は決意と共に訪れた彼女だったが、時間が経つとともに緊張の方が競り勝ってきている様だ。鼓動の音が煩くて何の音も聞こえなくて――
「――おや、リアさんではありませんか。どうされたのですかこんな所で?」
 瞬間、背後から掛けられた声に爆発して。
「皆さんでしたあちらの方で集まられていますよ?」
「あ、の。そ――」
「料理を、楽しみにしておりますので」
 笑顔。何の裏も何の意も無く、ただ純粋なるその言葉と顔にリアは沸騰しかけて――
 さぁとにかくもう逃げられないよ。
 第五十二回バルツァーレク杯美食勝負――開催である!

GMコメント

 リクエストありがとうございます。茶零四です。
 さぁ始まりましたバルツァーレク杯美食勝負――如何なる料理がでてくるのか!
 毒でなければなんでもアリな美食勝負、ファイ!!

■依頼達成条件
 肉・魚・デザートの三種類を作り、美食勝負参加を達成する事。

■美食勝負
 肉・魚・デザート……その方向性であれば具体的に何を作るかは任せられます。
 三種類あれば一品だけでなく一品以上(例えば複数の肉料理を)作っても構いません。
 一般的に用意可能な食材は遊楽伯爵側が用意しております。

 ただし例えば個人的に育成している野菜や肉――
 もしくは特殊な魔物を文字通り『狩って』くる場合は調達班が必要な事でしょう。
 現在の時刻は昼。夕方までになんとか料理が作れればなんでもOKです!

 ドラゴンとかは無理ですが幻想は比較的温暖な気候で、食材になりそうな存在は結構色々います。思いついたら狩りに行ってみるのも面白いでしょう……!!

■審査員+その他
・ガブリエル・ロウ・バルツァーレク
 幻想の三大貴族の一人にして遊楽伯爵とも呼ばれる人物。
 基本的に苦手な食べ物はありません。彼はあらゆる食を愛しています。
 ただし毒物や劇物(に昇華したモノ)だけは勘弁な!!

・その他の貴族(複数人)
 バルツァーレク伯と懇意にしている、またも美食を愛する貴族達。審査員。
 彼らもまた特に苦手なモノやアレルギーの類はない……のだが、なぜか一部(食材適正)のイレギュラーズに興味津々の様である……じゅるっ……おっと涎が……

・観客(一般人勢)
 結構大きい催しですので、お祭り感覚で参加している人たちも結構沢山います。
 大多数は審査員ではありませんが作った量が多ければ彼らが食べる事も……?

  • 第五十二回バルツァーレク杯美食勝負!完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年01月10日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ムー・シュルフ(p3p006473)
味覚の探求者

リプレイ


 会場の幾つかの視線を確かに『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は感じ取っていた。
 気のせいではない間違いなく見られている。
 参加者としてではなく『食材』の一つとして――!
「な、なんですの、皆様のその目は……! こんな、こんな捕食者だらけの部屋になんて、とても、いられませんの! わたしは、海に戻って、深海で、旬の魚を、獲ってきますの!」
「おぅ、ノリア! 一緒に近くの海行って魚獲ってこようぜ!」
 死亡フラグ、もとい捕食フラグを盛大にブチ立てながら『和食料理長』ゴリョウ・クートン(p3p002081)と共にノリアは会場を後にする。まずは愛するゴリョウの為、美味なる魚を獲るが優先である! ところで魚と言うとですね。
「違いますって。僕はほら登録したベークで……いやだから食材置き場に連れて行こうとしないでもらっていいですか? はい、食材ではないんですよ僕。今から変化しますから……いやホント話を聞いてほしいんですが」
 会場のスタッフに連行されかけている『砂竜すら魅了するモノ』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)さんも魚の一種ですね。ええ。
「よく考えたらベークさんって最初から完成してるじゃん。調理の必要ないよね?」
「いや、そ……うーん。でも匂いがこっちにまで来てるっすからね……うーんまぁ確かに……」
 もうアレ直に出してもちゃんとカウントされるのでは? と『魔法刀士』シエラ・バレスティ(p3p000604)は疑問を呈し『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)もまたその発言を強く否定することが出来ないでいる。これはベーク選手絶体絶命ですね。
 まぁ二割ぐらいの冗談はともかく各々力を尽くすべく調理・調達を行っていた。
「フッ……勝負とあらば手段は問いますまい?
 私は私なりのやり方でこの美食勝負に――勝たせて頂きましょう」
 しかしと、純粋に料理をするだけが美食勝負ではなかろうと『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は呟いて。光を反射する眼鏡の輝きが今日は一段と強い気がする。
 そんな彼が向かう先は……外だ。食材を運んできている周辺の農家さんや漁師さんの所に……おいホントに何をする気だジャーマネ! おいッ!

「はー、はー……よし、落ち着け。これは、いつかあたしの料理を振舞うって約束したし、それを果たすだけ……そう『いつか』が来ただけの話……私は、大丈夫……!」

 しかし『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)はそんな寛治の様子に気付ける余裕すらない状況だった。過呼吸になりそうな程の心臓の鼓動は胸を突き破らんとする程で。
 食材を握る手が震える。ロリババアの肉がこんなに重かっただろうか。
 それでも、心を込めて作るのだ。それこそが『美食』の神髄なればこそ。
「……そうですメェ……美食勝負というのは高級食材を使えば良い、訳ではないですメェ……」
 美食勝負――その単語に懐かしさを覚えるのは『味覚の探求者』ムー・シュルフ(p3p006473)だった。遥か過去。今の所属せし『Bar Phantom』でカクテルを振る日々を過ごす前は自身もコックとして幅広い料理を取り扱っていたもので……紆余曲折の果てに今はバーテンダーの身であるが。
「……とても懐かしいですメェ……これも何かの巡り合わせでしょうかメェ……」
 過去を想起し、瞼の裏にかつてが映り。されど目を開いて、ただ前を見据えれば。
 作ろう、美食を。誰も彼もの舌を満足させる事を目指す――己が技量を今ここに。


 海。そこに住まう生命のなんと多い事か。
 深き点にノリアはいた。魚を狙うだけならば浅い所でも十分なのだが、彼女自身は『獲る』に向かず。
「なら、誘き寄せて、みせますの……! この辺りにいる、魚達なら、きっと……!」
 自らの隙に誘き寄せられるだろう、と。
 深海なれば暗くなるが、事前に夜目が効きやすくなる目薬は付けておいた。
 目論んでいれば早速にも現れるキンメダイやアンコウ――さすれば一目散に逃走だ。浅き点にまで引き込めばゴリョウと合流出来る。そこまで行ければ、あ、痛い! 噛まれている!
「う、うぅ……! ですけど、この程度、会場でナイフに、狙われるよりは……!」
 まだかすり傷みたいなモノであると。人の食欲と鋭利な刃物より遥かにマシだと。
 ――往く。光届かぬ深海から天へ。煌めく水面の果てへと飛び出し。
「おぉ出て来たなノリア! 後は俺に任せとけッ!!」
 さすれば船に乗っていたゴリョウが網を取り出す。ノリアに釣られて海面を跳び出した魚達をソレにて捕え、仕掛けていた竿の針に食いついたモノもいれば。
「よっしゃああッ! 一気に忙しくなってきやがったな! ある程度釣れたら会場に戻りてぇ所だが――ってノリア。どうした、なんか予想以上に傷塗れじゃねぇか?」
「うッ、うっ……ここの魚達はちょっと食い意地が張っていたみたいですの……」
 竿を引くゴリョウ。そのまま視線を船に上ってきたノリアに向ければ――彼女はもう上がったというのに未だ頭と体の数か所に噛みついたままの魚がいた。小さい牙を突き立てていてノリアが必死に剥がさんとしている。
「やれやれ今日はあっちもこっちも腹を空かせた連中が多かったのかね――そらっ!」
 ならばと与えし自らの調和の魔力。さすればノリアの傷が瞬時に塞がり。
 後はしばらく互いにゆっくりと、だ。ゴリョウの招惹誘導……声にも寄せられた魚達がおりもう暫く収穫は期待出来そうだから。日も高く――急ぐ必要はそこまでないだろうと。
 一方で会場の方では既に調理に入っている者もいた。その一人がジルで。
「えーとっ、胃を強くしてくれるものと消化を促進してくるものと……それから香り付けと華やかさも加えられる花弁も、よしこれっすね。食材自身の旨さもそうっすけど――やっぱり採れ立てフレッシュが一番っすね」
 自らの研究室より持ち込んだ数々の植物、と何やら『角』なる意が掛かれた瓶を煮だしている。
 これらは全て己の研究室で栽培している数々だ。いや『角』だけは過去に余裕のある時に――から採取したモノなのだが――ともかく。念のため言っておくと危険なモノではない。
 そう煮出し、濾して粗熱を取った結果やたらなんか凄い緑色になったとしても。
「おおこれは良い色っす。うーん次は野菜と果物を切ってそれを……」
 作っているジルが『良い』としているのだ問題ない……!
 次いでバナナにパプリカ、マンゴーにホウレンソウに小松菜をやたら滅多切りして。まだまだ切って、まだ切って、ま……ど、どこまで切る気だ!
「うーん適量までは遠いっす……! しかしこれも美味の為……!!」
 包丁が果物や野菜を切る音は終わらない。
 一方でリアもクッキングの真っ最中だった。ジャガイモとニンジンを切っている最中で。
「ふん、ふっふーん……♪ は、くしゃくーん……♪」
 当初は緊張が見られていたリアだったが――目の前の作業に一度集中すれば話は別なようだった。代わりに、知れずとして伯爵への想いを綴った鼻歌が零れている辺り、これまた後で悶絶しそうだが。
 乱切りに。更にロリババアを捌いて一口大の大きさを保つ。
 タマネギに手を懸ければ涙を堪え、形が崩れないように――よし、上手くできた!
「ふんふふんふーん♪」
 段々と鼻歌もリズムに乗ってきた。
 今日のあたしは出来る子と思えばポジティブ思考になるものだ。
 行ける。行けるぞ。これを伯爵へ、ふふふ伯爵へ。他にも審査員はいるのだがもはや頭の中にない。
「ふふ……どうやら私の方が早かったみたいだね!」
 と、その時。シエラが完成させる。
 審査員の所へと木箱へ包んで持ち込んだそれは湯気を発しており――
「わたしの料理はこちら! 『角牛入り濃厚とんこつラーメン』です!!」
 どんっ! という効果音と共にラーメンが机へ。おおっという歓声が審査員から沸いて。
「麺は硬めに仕上げ、のりと半熟卵と葱と彩り豊かなカマボコをそれぞれ添えているよ。更にお肉はある所から契約して持ち込んだ物で――バレスティ流・製肉術で鋭い切り口と絶妙な部位分けとなっております!」
「バレスティ流・製肉術!? それは一体!?」
「そうそれはついさっき誕生したばかりの歴史と伝統を持つ――
 私が今作った新しい派生流派なので私が創始者の特殊調理工程製肉術です!!」
 どどんっ! つまりオリジナル手料理と言う訳である、どやぁ!
 ちなみに牛肉は深緑ミルク工房からの特別出荷である。リアが使ったのがかのロリババアならこっちは深緑の真っ当な牛だ。摩訶不思議な肉には負けないぜ! さぁ庶民の味を思い知れ――ッ!
「……なんと向こうも牛なのですメェー……とはいえ、こちらもまた別の牛……」
 一足先に完成させたシエラをムーは視線に入れながら、彼が手掛けるは牛タンだ。
 いや正確には仕上げているのは特製牛タンカレーである。ムーがいつも契約している農家の所へと赴き仕入れた。最高の味とも名高きタンタン平原のタン牛の牛タンである……!
 これを煮込む。ホロホロと崩れる程度、完全に崩れない程度の調整を加え。
 自家製の香味野菜とスパイスをも共に。
「……お好みの味があれば……幾らか辛味やコクを調整しますメェー……」
 そして出す前に個別にそれぞれの好みを尋ねるのだ。
 彼自身のギフト――味覚のテレパスを用いて。さすれば更に至高へと近付こう。
 と、ついにスタッフを振り切ったベークが着手するは『たい焼き』の製造である。
 分かりましたベークさん。お皿を用意しますね、さぁこちらへどうぞ。
「違うんですよ。僕じゃなくて僕がたい焼きを作るんです。ほら、こう別に特殊なモノは必要ないんですよ。用意するのは小豆や小麦、砂糖……つまり一般的な和菓子の材料さえあれば作れるたい焼きです。いや僕でなく」
 そのバカでかいお皿下げてください。ともあれ拘るのはやはり香りだ。
 どうにも不思議な話だがベーク自身と同じ匂いのするたい焼きがどうも一番美味しいらしい。故に目指すは自身の香りだ。鉄板を用意してもらい、人型に変じた身で焼き加減を観察する。一つ一つ、丁寧に……

 ――その時だ。にわかに会場の一角が騒がしくなった。

 何事かと皆が思う中、会場に舞い戻る一つの影は。
 スーツ姿の男であった。


 ゴリョウとノリアが会場へと帰還した時、なにやらざわついた様子を感じた。
 周囲の言をうっすらと聞いてみれば……どうにも食材の搬入がストップしているようで。
 おかしいだろう――そんな事があるのか――ざわめく場の渦中へと
「いやー残念ですねェ。まさか食材がもう届かないだなんて……」
 現れたのは寛治だ。会場にてなにやら不穏な動きをしていた寛治が仰々しく。
 貴様何をした――料理人の一人が寛治へと掴みかかる、のだが。

「この辺りの名産食材・高級食材は! 全て! 私が買い占めさせていただきました!
 ――もうこの辺りで貴方達へ食材を売ってくれる方は一人もいませんよッ!」

 もう遅いとばかりに勝利宣言を。
 あらゆるコネクションに物を言わせ、白紙の小切手に金額を。
 今日一日だけ搬入計画を変更で――『一社』だけ止まろうと会場に影響はありませんよ――
 そんな事を『全て』の会社に彼は言っていて。
「皆さんはせいぜい頑張って食材を調達してください。
 まだ調達できるものや……時間が残っているなら、ね」
 慌て始める多くの参加者達。既に時は半分ほど過ぎており、今から果たして間に合うか否か。
 寛治自身はまた調理の点にもぬかりない。
 自身だけが仕入れた選りすぐりの食材を、金とコネで手配した一流所の料理人へ。三大珍味を当然として、ワタリガニとズワイガニをソースに使ったパスタ。キンメダイをも贅沢に。更にメインの肉料理としてタリアータにバルサミコ酢のソースを。
 完璧だ。食材、料理人、おっとデザートに旬の美柑を使ったタルトでも用意しようか。
 美食とは己が作れなくてもなんの問題もないのだと。
「さあ、これが私のプロデュース力です。
 自身が料理できなくとも、最高の料理を提供する事は出来るのですよ。
 そう――金とコネがあればね!」
 そ、それでいいのか眼鏡ェッ! 完全にこれ料理漫画の敵役の動きですよ!
「ぶははははッ! 相手は最高の食材に最高の技術って訳か!
 だがそれならそれで俺の今の実力を測るには丁度いい催しってわけだ。腕が鳴るねぇ!」
 しかしそんな仲間……なか、ま? の所業すらゴリョウは丁度良しと奮い立つ。
 まな板の上に新鮮極まる魚を置いて。今回作るのは『旬の海鮮炊き込みご飯』!
 ゴリョウ専用の調理用具の上で踊る食材。捌き、骨を取り、血合を削ぎ。
 骨やアラは纏めて――アラ出汁とする。高級天然海塩で揉んで煮れば臭いも抜けて。
「『最高』ってだけが料理の全てじゃねぇさ……重要なのは『特別』って事。なぁノリア!」
「――はい、ですの! ゴリョウさん!」
 同時。そんなゴリョウを手伝ってキンメを甘く煮付けるノリア。
 それだけではない。ほのかに香る磯の風味――高級天然海塩もまた別に用意して。
 好みによって楽しめる一品をも用意する。気遣いをも料理の一つなれば。
「僕の方も出来たっす! さぁどうぞ――ここでだけの特製スムージっすよ!」
 そして同時、ジルのスムージーも完成したようだ。
 凄まじい緑色は健在。その上で薬草効果で胃腸も整え滋養強壮にも効果が見込め。
「野菜と果物もバランスよく入ってるっすからね! とても美味し……え、苦そう? そんな事はないっすよ! 飲んだらまったりとした甘さで後を引かないっす!」
 ホントォ? という懐疑の視線。薬草故にかどう見ても青汁のソレで。
 しかし健康には良さそうだ。観客の皆さんも一口如何っすか――と振舞って。
「では僕も。こちら普通のたい焼きでございます……いえ、僕ではなく。だから何度も言ってるじゃないですか僕の一部でも無いですって。こっちみないでいただけます?」
 そして匂い抜群。味も絶品たるベークのたい焼きもまた完成した。
 ……なぜか皆ベーク自身に視線を注いでいるが。え、人型なんですけど今?
「……如何ですかメェ……遊楽伯……? 高名な方の口に……合うといいのですがメェ……」
「――ええ無論、これは実に美味な事です。皆さんの真心が伝わります」
 ムーの一言にガブリエルは返答を。
 シエラのラーメン。ムーの特製牛タンカレー。ゴリョウとノリアの魚を使った料理の数々。ジルのスムージーにベークのたい焼き。それぞれが、それぞれの素晴らしさを発揮している。寛治さん? いや彼のはちょっと……
 そんな馬鹿な! という表情を会場の隅で見せる寛治だが――こういうのは真心が籠った料理に負けるのが当然である。しかもそれが。
「あ、あの伯爵……ええと、その。お手隙であれば……こちらを……ッ!」
 美少女であれば尚更に。
 丹念に、丹念に作り上げたリアの――肉じゃが。
 幾つも夢見て修道院の子供達に囃し立てられながら幾度も練習したソレが、ついに。
 彼の、口へ。
「……ええ。リアさん。これはとても、とても――美味しいですね」
 微笑む遊楽伯。今はこうして、機会が無ければ差し出す事も出来ないだろうが。
 いつか。
 いつかは――毎日、あたしが作ってあげたりする未来が――

「ただ……先の鼻歌は些か気恥ずかしいものがありますね」

 ふぇ。
 顔が爆発。紅く染まりて思考も吹き飛び。
 混乱が彼女の脳内を満たす――だが、ともあれこれで美食大会への目的は果たせた訳だ。
「……ふぅ。こうして、お料理を完成させてしまえば、もう、わたし自身が食べられる心配は」
 ない。と、そうノリアは思考して。
 油断した。完全に警戒の糸を解いて、隙だらけとなってしまい。
「……!? きゃ――っ! ナ、ナイ! ナイフが――!!」
 貴族からの刺客がノリアを襲う!
 つるんとしたゼラチン質のしっぽがどこまで行っても美味に見えたのだろう!
「待て待て! うちの嫁さんに手ぇ出すなッ! おら米を食え米を!!」
 さればゴリョウだ。彼女を庇う様に前に立って、こっちの米で耐えろとばかりに。
 ええい貴族共め我慢できなくなったのか! さればシエラも仲間の危機に動いて。
「ダメ! その子は食べ物じゃないよ! やめて――!」
 深緑ミルク工房の宣伝を、ある人物の牛さんコスパンフを配っていた彼女は乱闘参戦。
「やめてくださいやめてくださいどうして止めるんですか!! なんで避けるの――!!」
「ひぃ、シエラさん怖い。あ、でもだめだ僕も助けて下さい。囲まれて……!」
 しかし騒ぎが大きくなるほどに狙われる食材適正イレギュラーズ達。美味なるスムージーの原材料にジルの角も使われていると知られればなんだかジルにも視線を向けられて……
「ええ、こわ、怖くないっすか! 美食ってここまで求められるんすか!?」
「えーい! 食欲が悪いたぁ言わねぇが無理やりは駄目だろオイ!
 ――おら! さぁ皆一緒に米を喰おうじゃねぇか! 皆どうだどうだ!!」
 混沌とする状況の中、紡ぐはゴリョウの言葉と米の香り。
 蕩ける旨さは少数の人間で独占されるモノではない。皆で楽しむべきモノであれば。

 最後は誰しも満腹の笑顔が一番なのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストシナリオでした。ご依頼誠にありがとうございました!!

なぜか狙われるイレギュラーズ……食材適正ってホント凄い非戦スキルだ……

お楽しみいただけたなら幸いです。ありがとうございました!!

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