シナリオ詳細
<第三次グレイス・ヌレ海戦 >ラインの黄金
オープニング
●Nibelungen
海洋は湧いている。二十二年ぶりの大号令に。
遥かなる外洋『絶望の青』の攻略……ああそれは彼らにとっての大望なのだろう。
海洋の者達の気質として。国家として。夢を見果てるその性の――
「しかし、それを外の我々まで歓迎して座して待つとは限らんよ」
グレイス・ヌレ海域。
それは海洋王国首都リッツパークへと繋がっている海の一つであり、王国の拠点も多い地である。つまり、単刀直入に言うならば海洋王国にとって非常に防衛しやすい場所な訳だ。
そして……今そこで戦端が開かれんとしていた。
一つは防衛側で海洋王国の軍勢。もう一つはそれを突き破らんとする鉄帝国の大海軍。
皇帝親征。旗艦アイゼン・シュテルンを中心とした鉄帝国の遠征軍がそこにいたのだ。
「陛下もやはり、豪快な方であらせられる。海洋王国に対して再びの海戦を挑むとは……」
言うは戦艦『ニーベルング』に座するレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク。
鉄帝国の軍人であり、当然この海戦への参加を命ぜられた一人である。
見据えるは海洋の海。グレイス・ヌレ海域はこれで数えて『三回』大きな戦いが起こっている。一つは天義と海洋。一つは鉄帝と海洋。第三次グレイス・ヌレ海戦は鉄帝と海洋の二回目と言う訳で。
「レオンハルト殿、間もなく海洋との接敵ラインに入ります。戦いは近いかと」
「ご苦労船長。船の操舵は、任せる。存分に振るいたまえ」
そしてその始まりもそう遠くない。
レオンハルトは己に与えられた軍勢……三隻の鉄帝海軍の指揮官だ。これでこの先の一角を制しろと皇帝陛下から御下命である。事、軍助力ならば鉄帝優勢だが海戦・海軍に限ると海洋王国有利であり決して楽な戦いにはならないだろうとレオンハルトは踏んでいる。
しかしだからこそ『滾る』モノもあるのだ。
「不利ばかり、という訳でもないしな――協力感謝するぞ闘士殿?」
今回は鉄帝国海軍だけでの軍事行動ではない。皇帝ヴェルスの出撃と言う皇帝親征は士気を限りなく高め――更にヴェルスは戦力としてラド・バウの闘士達の一部を組み込んだ。最高戦力としてビッツ・ビネガーを筆頭に。
「フンッ……茶化すなレオンハルト。俺も大枠では鉄帝軍人の一人。陛下の命とあれば往くさ」
レオンハルトに協力するは闘士ゲルツ・ゲブラーという男だ。
ライフルを構えた神経質そうな男は闘士でもありながら鉄帝国の軍人でもある。正確には保安部という治安関係を主とする部署に務めている男でレオンハルトにとって知古の一人でもあるのだが。
「それよりも作戦はどうするんだ。お前は、そういうのを考える方だろう」
「ふむ。その通りだが、ね。しかし海でとなると些か話は別だ。
かの海洋王国を相手に戦術的優勢を海で取るなど……至難だよ」
はぁ? という顔をゲルツがする。では真正直に突っ込んで乱戦と行くのかと。
それでは不利ではないかと――しかしレオンハルトはこの戦いの意味を理解している。
この戦いは『ここでだけ』勝てばよいのだ。
鉄帝国の目的は首都リッツパークの制圧ではない。最初で最後の遭遇戦で勝利を得て、それを口実に『協力要請』ないしは『講和要請』を引き出す――つまり、後の海洋王国の大号令に噛む口実が欲しいだけなのだ。
そして『ここで勝つ』だけならば。
「大軍に区々たる用兵など必要ない。我々は勝つ戦いを用意して、その通りに勝てばよいのだ」
同時。見えた敵の軍艦。海洋王国の軍勢は――その数は――
「二隻か。数の上ではこちらが有利だが……分かっていたのか?」
「さて。しかし我々の敵は奴らだけだが、海洋王国の敵は我々だけではないと言う事は知っていた」
聞けば海洋に巣食う海賊達が連合を組んで海洋王国への一大反抗を企んでいるとか。
ならば自然と王国はそちらにも手を裂かねばならなくなる。レオンハルトは知っていたのだ。海洋王国には戦術的優位を必ず取るだけの余裕さが――今は無いのだと。
装備は積んでいる。王国の海軍に対抗するための大砲も、人員もたっぷりとここにある。
レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクは必ずしも海に詳しい訳ではないが。
戦略と戦術を知る彼は――まごう事無く勝つ為に此処に来た。
「装備・人員・戦力……如何に海とはいえ、全て上回っているならば我々が勝つ。当然の事だ」
「成程……だが、一つ良いか?」
「なんだろうか」
「お前の娘はローレットのイレギュラーズだと聞いているぞ。ローレットは今、海洋と契約を結んでいてこっちに引き込めなかったとも聞いている……なら、今回は敵として出てくる可能性もあるんじゃないか?」
鉄帝国が闘志を戦力として引き込んだように。
海洋王国もまた、イレギュラーズを特記戦力として引き込んでいる可能性はある。
ゲルツは問う。イレギュラーズが、レオンハルトの娘が出て来た時はどうするのか。
「――まぁその時はその時だろう」
しかしレオンハルトは動じない。誰が出て来ようと同じ事だ。
鉄帝国軍人として成すべき事を成す。
娘だろうがイレギュラーズだろうが勝利は譲らない。むしろ強敵が紛れるなら望む所だ。
レオンハルトは鉄帝の者としては比較的、理性的だが。
鉄帝の者としての気質は――確かにその体に流れていて。
「さぁ喝采せよ。開戦の号砲を鳴らせ! 王国海軍を粉砕し、皇帝陛下に勝利を捧げるのだ!」
全ては鉄帝国の為に。鉄帝国の民の為に。勝利の為に!
鉄帝国万歳!
●海の意地
「くっ――なんという事だ。鉄帝の軍艦が三隻とはな……!」
士気の上がる鉄帝側。その様を海洋王国海軍も捉えていた。
その内の一つの船長が舌打ちする。同数ならばなんとかしてみせよう。しかし鋼鉄艦の上に数が多いと簡単にはいかない。そもそも殴り合うだけならばやはり鉄帝国の精強さは異常だ。殴り合う前にたっぷりと砲弾をくれてやり、有利を取ってからでなければ戦いたくもない。
なのにこれでは――むしろ砲撃戦になればこちらが不利かもしれない。
「船長、どうされますか……!? 一旦後退を!?」
「……駄目だ退却はならん! 今更背を見せれば追撃されるぞ!」
やるしかない。幸い、と言っていいか微妙だが、あの船団にはどうやら指揮官の乗る船がある様だ。その船を制圧、もしくは沈める事が出来れば混乱に陥るだろう。海に不得手な鉄帝の軍勢ならばそれだけで退却に追い込める可能性は高い。
「右の提督へ信号旗を! 撤退無しこのまま前進、突っ込むと!!」
「しかし壊滅しますよ!?」
「例え全て轟沈しようと撤退させればこちらの勝ちだ! それに三対二だぞ?」
不利だと思うか? いやその通りだが、分からんか?
「――これで勝ったら最高だ!」
海の男の誉れではないか!
士気を上げろ! 決死と成れ! ここは我等の故郷にして我らの海だと教えてやれ!
鬨の声を挙げる海洋の船。覚悟は決まった。全てを藻屑としてでもここで勝つ!
「ワシはイレギュラーズ殿達と打ち合わせる。すぐに戻る故、ここを頼む!」
接敵まであと少し。時間はない。それでも勝利を信じて船長は往く。
元より鉄帝国との戦いの為、同行してもらっているイレギュラーズ達がいたのだ。向こうにも戦力はあるのだろうが、こちらにもとびっきりの戦力達が。希望の彼らがいてくれる。
さぁ――作戦をどうするか決めて行こうか!
- <第三次グレイス・ヌレ海戦 >ラインの黄金Lv:15以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年01月04日 22時35分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
リプレイ
●
音楽だ。まるで、音楽の様な響きが戦場に鳴り響いていた。
斉射される鉄帝国の砲撃。無秩序にではなく、一定の拍を刻んで。
一隻目が射撃、二隻目が射撃。三隻目が投じればまた一隻目が――と。
「詰めろ詰めろ距離を詰めろ――!! 接近せねば勝てもせぬぞ――!!」
されば渦中を、海洋の船長が檄を飛ばして船を突き進ませる。
砲戦では元より勝てぬのだ。鋼鉄の塊の艦に木造の船では速度で勝れど打ち合えば負ける。
故に事前の取り決め通りに。海洋の希望を奴らの懐へ届ける為――
「さぁ栄えある海洋王国軍人の諸君、王国の荒廃この一戦に有りぞ」
されば更に海洋王国の軍勢を激励するは『麗しの君』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)だ。遠目に見据えるは鉄帝の艦隊。降り注ぐ砲弾の嵐があれど、共にネオ・フロンティアの為に戦う同志を鼓舞すべく。
「このポルードイがイレギュラーズと共に参った! 海の覇者は誰か、敵に思い知らせるのだ!
傲慢なりし鉄の国に、荒れ狂う海を制す我らの力を見せる時である!!」
おおっ! 鬨の声が鳴り響き、士気は更にせり上がるのだ。
イレギュラーズがいて、更に同郷の者がいる。
たったそれだけなれど『そう』であるというのは言い様の知れない一体感を生み出して。
「へっ。あるよな、鉄帝が国の為ってんなら海洋にも護るもんがよ……!」
その熱に当てられたか、同様に蛸髭の息子たる『幸運と勇気』プラック・クラケーン(p3p006804)の目にも強き意思が宿るのだ。
鉄帝国なにするものぞ。海洋に海戦で喧嘩を売る、その漢気には一目置くが。
「負けられねぇよ、なぁ!!」
だからこそ海で負けられるものかと気合を入れて。降り注ぐ砲弾の雨に放つは――己が魔術、大津波。
荒れる海の恐ろしさを知っているか? 知らないのならばこの一戦で教えてみせよう。
ただ砲弾の嵐を耐えるだけに非ず。迎撃の構えを見せて、その被害を軽減せんとするのだ。
「出来るか、出来ないかじゃねえ、やってみせんだ!!」
ここで男を見せずして、どこで見せるというのか。吠える様にプラックは叫んで。
そしてその迎撃の構えは。
「例え国の為なんだとしても……でも、やっぱり戦争なんて見過ごせない!
お兄ちゃんだって、きっとそう思った筈だから……!」
『青の十六夜』メルナ(p3p002292)もまた同様に、だ。
着弾の勢いを見せる砲弾に狙いを絞り、纏うは光刃。振るうは閃光。
――両断する。空で弾ける爆風が己の頬を撫ぜて。脳裏に抱くは『兄』の背中。
「悪いけど、止めさせてもらうよ! ――ここは通さない!」
決意を示し戦場へ。このような争いは一刻も早く終わらせねばと。
凌ぐ凌ぐ。砲弾の影響を少しでもと、迎撃が可能である様な技能を持つイレギュラーズは極力、身を晒してでも迎撃を優先した。船の中に隠れても被害は出よう。ならばむしろ危険を冒してでも『成した』方がマシであり。
「やれやれ。鉄帝の名に恥じぬ鋼鉄船……
旗艦を焼き落とす目がなさそうなのはざんねんなのですが」
と『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は目標の旗艦『ニーベルング』を眺めながら残念そうに呟く。旗艦以外の二隻は半分木造なのでまだ焼くのも可能そうだが、アレは駄目だ。とても見込めない。
あれほど巨大なモノを焔色に染め上げる事が出来れば――と。しかし無念は無念。仕方ないので。
「ま、ここは逆に考えるのです。あれだけ頑丈そうと言う事なら……」
つまり。
「あそこでどんなに暴れても、そうそう沈まないのですよね?」
――言うなり彼女が向かうは宙だ。彼女もまた砲弾への対処を。
放火の如き業炎を――当てる事が出来れば良かったのだが、高速で移動する砲弾に至近距離での対処は中々難しい。故に距離を取って当てる事の出来る『こちら』の方だ。
撒き散らす手榴弾。クーアお手製の品が、ピンを抜いて投じられる。
さすれば一手置いて起爆。ああ――これをあの艦の上で盛大に放るのが楽しみだ。
「いやはやなんともお仲間のお父上と戦う事になりますとは……
これも戦国の世の常と言う事で、一つ。頑張りましょうか」
しかし誰しもが迎撃の手に出向いている訳ではない。迎撃を行えば砲弾の影響を少なくすることは出来るが……しかしまた気力や魔力の面での疲弊はあろう。船が近付くまでは防御に専念する『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)もおり。
「とはいえなんともなんともまずはこの砲撃を切り抜けねば成らないようですががが!」
「やれ、あちら様方も容赦のない砲撃です。ま、戦となれば当然ではありましょうが……」
あるいは『閻桜』鬼桜 雪之丞(p3p002312)の様に『盾』として動く者もいる。
それは迎撃に、火力を投じる事に専念している者達を、だ。例えばクーアの様な――と言っても飛行すると庇える範囲から些かズレてしまう事もあるが――とにかく。『攻』の要になる者達の体力の疲弊を和らげる為に。
「今暫くの辛抱で御座いましょう。ご安心を。此処より先、一切合切、通しません」
刀を抜いて、撃に備えて。
急速に接近する海洋の船。イレギュラーズの援護により多少の損壊は避けているが、それでも後の事は考えていない。ここでの勝利が全てであり、海の男たちの誇りがある。
イレギュラーズの多くもその意思に同調し、前のめりに鉄帝へと挑まんとしている……が。
「……この戦闘は抗戦であり、ともすればこれは利敵行為に値するのではないだろうか……?」
たった一人。『悩める魔法少女』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)だけは頭を抱えていた。なぜならば向かう先にいるのは己が父であり、故郷たる鉄帝であり、所属せし鉄帝軍なのだから。
いや、いや。イレギュラーズとしてローレットに属している以上『こうなる場合』も勿論想定された事態である。仕方のない事だと割り切り、今回は軍服を脱いでただ一人のハイデマリーとして行動すべきだろう。だが、だがね?
「マリー! 向こうの人達の大砲がまだまだ来るよ……一緒に、払おう!」
軍服を脱いだのなら――親友たる『魔法騎士』セララ(p3p000273)と同一の、魔法少女となってしまう……! いや、それに不満がある訳ではない、が! このまま鋼鉄艦に乗り込んだら父上についにバレて……!
「――いや今は目前の事に集中すべきか……!」
爆風と爆炎に強制的に思考を打ち切られれば、放つのは狙撃手としての技術。
飛んでくる砲弾を狙い定めて引き金を絞り上げる。絞り上げる。絞り上げ続ける!
父ならばどのように指示するか、戦術は、タイミングは。
幾重にも襲来せし全てを払うべく。雑念をもついでに払うべく思考を止めず!
同時、漏れた砲弾を着弾前に斬り払うのがセララだ。剣から放つ斬撃が空を裂き、砲弾を割り砕く。さすれば見えてくる目前に。最早接触まで幾分もないほどに――鋼鉄艦が。
「行くぞぉぉ――ッ! 接舷しろォ――!!」
船長の声が飛ぶと同時――ほぼ衝突するかのような形で、鋼鉄艦と接舷した。
凄まじい衝撃。襲えどしかし備えていれば左程の影響はなく。
「見事な仕事だったね船長……さて、君たちは今後『絶望の青』に挑むときにも必要な人材だろう。まずはこれから、生き残ることを考えてくれたまえ」
ニーベルングに乗り込む戦闘担当者達。往く前に、船に残るメンバーへ声を掛けたのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)で。
「この鉄の塊の船は我々がどうにかするさ――確約は出来ないがね」
「おう任せたぜ嬢ちゃん! なぁに海の調子に『確実』なんて言葉はねぇ! 気にせず行ってきな!」
気軽い挨拶を交わして、それだけで――死地へと飛び込む。
硬い床。木で造られていた海洋の船とは建造技術も文化も違う音が鳴り響いて。
「――ようこそ英雄諸君。待ちわびたぞ」
されば出迎えるは鉄帝の海兵部隊。声を掛けたのは金の長髪を携えた――
「私が指揮官のレオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクだ。歓迎しよう」
レオンハルトその人だった。全てが既に臨戦態勢。
一直線に近付いてくる様子を見て既にこちらの狙いを察していたのだろう。乗り込んでの、決戦と。
「そう。わざわざ待っていたとは――実に光栄な事ね」
されば反応したのは『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)だ。
ほんの少し飛行して船の揺れの影響を失くしている彼女は鉄帝側から放たれる戦意にも気圧されず。
往く。前へ出て、鉄帝の布陣へと名乗りを上げて吠え上げて!
「来なさい。私達ローレットの決死の覚悟――見せてあげるわ!」
火蓋は切って落とされる。
鉄帝と海洋。そしてローレットを加えた激戦の火蓋は――今ここに!
●
イレギュラーズ側の目的はただ一つ、レオンハルトの撃破だ。
鋼鉄で防御の高いニーベルングを沈めるよりも目の前にいる指揮官を確実に。
その為に海洋の者達には双方の船共にこのまま敵の増援を防ぐ為に動いてもらう。突撃した船も航行に問題ないとされる半数を船に残して一旦離脱し、他の鉄帝の船へ――
「ニーベルング。放て」
しかし近付いて一旦停止までしたその船を鉄帝は見逃さない。
離脱の前に更なる一撃を。斉射の掛け声をレオンハルトが指示し船を打ち砕かんとして。
轟く。再び海洋の船が、衝撃に襲われて。
「――むっ? 砲の数が些か足りないようだが」
「……一方的に砲撃されっぱなしというのも癪だったのでね?」
「鋼鉄艦だからと言って全てが強靭と言う訳でもないだろう。付け入る隙はある」
されど砕かれない。先程接近した折、砲弾の迎撃から艦や大砲そのものに狙いを変えたレイヴんの魔砲の一撃と、ゼフィラの魔術の刃が放たれていたのだ。僅か一度のみの出来事であり、ピンポイントな射撃である故そう多くの大砲を破壊出来た訳ではなかった、が。
海洋の船は未だ健在。撃沈されず、辛うじて航行を続けられていて。
「成程。しかし放てた射撃も存在する。あれでは多少沈むまでの時間が伸びた程度だろう」
「その前に貴方を倒すから――問題ない、よッ!」
「行くぜ……! 海洋流……いや、蛸髭流の戦いってのを見せてやるぜぇ!」
往くはメルナとプラックだ。
広きニーベルングの甲板上で繰り広げられる戦いの中、メルナが放つは先の迎撃にも用いた走る斬撃。プラックも同様に、先の大津波の魔術を展開し多くの敵兵を呑み込まんとする。敵も味方も区別を付けぬ一撃である故、乱戦が本格化すれば中々に使用は難しいだろうが始まったばかりのタイミングであるならばまだ話は別。
薙ぐ。味方を巻き込まぬ様に位置取りを注意し、鉄帝の兵だけを狙う様に。
「まったく。このような巨大な艦を、ね……随分と大物取りとなった」
更に続く形でレイヴンもまた魔術を練り上げて。
「うっかりと、こちらが獲物にならないように立ち回らねばならんな……
最も巨大な魚を仕留めるは海洋たれば誉の一つ。やりがいもあるというモノだが」
放つルーン。不可避の雹が敵の後方を特に狙って。
砕く。砕く。初手の勢いこそが大事だ。流れを掴むは商売にても戦闘にても要であろう。
彼もまた船の揺れを受けない程度の抵抗飛行をしながら次々と魔術を繰り出して。
戦力としては鉄帝が17。海洋側がイレギュラーズを含め20。
数の上ではイレギュラーズ側が有利な形であった。尤も、武威に優れる鉄帝国の兵なれば油断は出来ず。後々周囲の海の戦いが一段落してしまい敵の増援が至れば数のバランスはいとも容易く逆転する。決して優勢とは断定できぬ戦況だ。
「でもね。海の藻屑になっても……なんて覚悟を見せられて。気が湧かない程無感情じゃないのよ」
だからこそ優勢にしてみせようとアンナは跳んで。
先の名乗りに引き寄せられた鉄帝の兵達を相手取る。彼女の防御の構えはそう容易く打ち崩せぬ性能があり、引き寄せた上でも十分に戦っていける。刃を布で弾き、されば懐に飛び込んで。打ち放つは巧みな足捌き。
「背後を見せないように戦って! 前の敵だけに集中できるように――立ち回りましょう!」
同時。共に往く海兵達へ統率の指示を飛ばしてその動きをより良くせんとする。
士気と共に圧そう。殴り合いで分が悪くとも、心で負ければ差は詰められるから。
「――総員、落ち着け。戦うべき敵を見据え攻撃を集中させよ」
しかしレオンハルトがその性質を理解した声を飛ばし――超分析の檄を飛ばす。
指揮官としての動きか。解除されてしまうのであれば、もう一度と言う訳にもいかない。なまじそれなりに実力のある鉄帝の者達がレオンハルトの指揮によって更に動きも良くなっていれば尚更に。
「ちっ……と言っても、戦いに引きずり込めれば指示を飛ばしている暇もないでしょうけれど」
舌打つアンナ。狙うのならば、レオンハルトを前に引っ張り出してからだ。
流石に参戦すれば指揮はともかく分析する声を出す暇はあるまい。
よしんば分析の声を出すならば攻撃の暇が無くなる。それはそれで良しと出来る故。
「……まさか絶望の青へと挑む前にこれとはな」
瞬間。言うはゼフィラだ。ニーベルングに乗り込んで、完全武装の彼らを前に紡ぐ思いは『理解』
鉄帝軍人諸君も国益のために職務を果たそうとしている。それは国家の利益であり、立場を背負う者達故の行動であり。国家とは無関係な根無し草にそれを批判する資格は無いかな――と。
「ああ、心底そう思うよ」
だから。聞いてほしい。
君達の行動は理解出来るんだ。ああ、理解出来る、だからこそ。
これはあくまでただの一人の馬鹿な女の胸の内なのだが――
「――邪魔をするなよ」
殺すぞ。
強者を気圧す程の威圧。
多くの者達が希望を抱いて、祭りが如く沸き立っている中に冷や水を掛けるなと。
彼らは未知に挑もうとしているのだ。難解なる道に、夢の果てに。それを邪魔するな。
放つは雷撃。うねり、甲板上の敵を薙がんとする勢いで蛇の如くのたうち回る。
潰すに遠慮はしない。わざわざここまで来たのならば覚悟もあろう?
――と、その時。海洋の兵を撃ち抜く銃弾が敵の後方から飛んだ。
肩を穿つ。鋭き狙いと威力を放つは闘士、ゲルツ・ゲブラー。
「お初にお目にかかります、ゲルツ殿」
レオンハルト以外で強敵と目されるその存在に狙いを絞るは――雪之丞だ。
放つ斬撃は飛翔せし不可視の一撃。距離があろうと届かせる、その一撃は確かに届き。
「チッ、お前は噂のイレギュラーズか……!」
「左様です。恨みも怒りも特にありませんが――些か、海洋の方々の熱に当てられました故」
構える刀身。騒ぐは己が血、己が魂。
「――拙と手合わせして頂ければ嬉しゅうございます」
「ええい、こっちも忙しいんだよ……!!」
始まる射撃。レオンハルトの分析の声の間隙を縫い、怒りの付与を狙い接近を促し。
たった一瞬でもこちらに引き寄せる事が出来れば儲けものだ。
抜き差し穿つ致命の呪い。見えざる傷が貴殿を蝕もう。
……二度目の邂逅たるレオンハルトにも決着を付けたい所だったが、この人物の押えも成さねばならない。長い射程を持つであろうこの人物を自由にすれば誰もが撃たれる。誰もがその弾道を警戒する必要がある。
やらねばならない。己を懸けて、己の役目をここに。喰らいついでも縛る。
「ゲルツ。あまり前に出過ぎるなよ――まぁ偶には貴殿も熱に染まるも悪い事ではないが」
その状況すら眺めながらレオンハルトは笑みを浮かべる。
戦況は一進一退。まだどちらに傾くともいえぬ状況であればこそ『甲斐』もあるというモノだ。
己も前に出るべきか。或いは今少し指揮官として全体を見据えるべきか、悩ましい――その時。
「こんにちわ! マリーのパパさん!」
鉄帝兵の壁を、回転する勢いでこじ開けて声を掛けてくる存在があった。
それはセララだ。彼女はにこやかなる表情と声色で、なんの気兼ねもなく――
「ボクの名前はセララ! マリーの親友で、魔法少女仲間です!」
魔法少女と名乗って。魔法少女『仲間』と名乗って。
「そうか。娘の――んっ、いや待ちたまえ。今なんと?」
聞き慣れぬ単語を聞いたレオンハルト。己が耳の不調を疑ったが。
「はい! 魔法少女仲間です! 素直じゃ無いけれど、努力家で優しい……マリーの友達です!」
瞬間。上の方で何か凄い物音がした。
ふと視線を向けてみれば、セララのドーピングドーナッツをもぐもぐして飛行能力を得たハイデマリーであった。帆や柱など上の立地を確保し、狙撃を敢行していたのだがついぞセララの言葉に我慢が出来なくなって。
「セ、セララ……!!」
「ボクはそんなマリーが好きです!」
「軽々しく、好きとか臆面もなく言うなぁっ! セーラーラ――!!」
友達として、という言葉を付けずに発言して。ハイデマリーの顔は真っ赤で常なる時の表情はどこへ行ったか。セララを止めたいのだが、今さら天に位置したこの布陣を崩す訳にも行かず。あああいつもと違う魔法少女姿なら気付かれないのワンチャンかもしれないと思ったのに!
「だから――彼女を勝たせるために、全力で行きます! パパさんだからって容赦はしません!」
儚い希望は完全に打ち砕かれた。
というかちょっと待て。なんでワタシが父上に勝つみたいな事を言ってるの?
口を開いてしかし、言葉にならない抗議をセララに。さすれば――
「ハッハッハッハッハ!!」
レオンハルトの高笑いが響き渡って。
「良いではないか面白い。来たまえ全力で。私はここにいるぞ逃げも隠れもせん!
妻への良い土産話も貰った事だ。勝利の凱旋が楽しみだとも!!」
うわあああッ!! 思考の中で悶えるマリー。自決した方が色々早いんじゃないだろうかこれ。
「ハイデマリー殿の精神状態がちと心配ですが……もうこれ後はなる様になれですね!」
宇宙警察忍者武器の一つであるマシンガンを携えながら、ルル家は敵後方列へと斉射する。
蜂の様な射撃を。とにもかくにも相手の数を削るべく。
遂に暴露されたハイデマリーの事情に思わず精神状態を心配するが、まぁ多分いつか遅かれ早かれだったのだ。ついにその時が来た、と言う事で何卒一つ!
「しかし……そうですか、奥様がいらっしゃるのですか……」
「ああ――それが何か?」
「いえ。拙者……流石にお仲間のお父上に婚活する気はありませんという次第で……!」
ルル家さんブレませんね。それ皇帝とかソルベ卿にも言ってませんか?
ともあれ口調は些か愉快な形だが――誰しも戦闘に一切の手は抜かぬ。
死場の最中に軽口は強者と狂人の特権だ。それはこの船上にも存在して。
「うーむやはり想定通り、些か無茶気味に焔を試しても問題なさそうですね」
さて。ではクーアはどちらなのか。それは本人のみぞ知る事であろうが、彼女が放つは紅蓮の焔。
――放火の構えである。彼女の好奇心はどこにでも存在する。
戦場であろうと燃えやすい所であろうとも。
「我が焔の探求が為にも、胸を借りるつもりで全力で行くのです」
炸裂する。場が混沌とせし程に煙を上げて――しかし鋼鉄のニーベルングに揺らぐ様子はなく。
この海を制する戦いはより激しさを増していく。
●
レオンハルトに刃を届かせること自体は、実はそこまで難しい事ではない。
海洋の海兵達――彼らに協力してもらえれば数の上での有利は取れるからだ。
逆に彼らの力を上手く使えねば至難であろう。多くの敵・味方が存在するこの船上では、流石のイレギュラーズ達と言えど独力でこの場の戦いを制するのは難しい。尤も……
「私に勝つと言ったな」
レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクは。
「さぁやってみるがいい――諸君らの闘争を受けよう!」
刃が届けど――容易く制する事が出来る人物ではない。
「いや勝つと言った覚えは……ええい、もう、ええーい!!」
半ば顔が沸騰気味のハイデマリーだが、もうやるしかない。
構えた銃口。冷静に、冷徹に――出来るかは分からないが。魔法の如き正確性を伴った一撃を。
放つ。ヴァイス・ヘクセンナハト。ハイデマリーの奥の手の一つがここに。
「いっくよ相棒……! マリーとの連携だ!」
続く形でセララもまた聖剣ラグナロクを構えて跳躍する。
見せるは全力。十字に刻む剣技をここに。レオンハルトへ天と地から襲い掛かり。
ならばとレオンハルトが相手取るのはセララだ。レオンハルトは流石に遠方への一撃を持たず。
十字の刻みを皮一枚で躱し、繰り出す拳はまた高速に。されどセララも予測していたのか回避する。拳が頬を掠めれば『持って行かれそうな』圧を感じるが、マリーの父親ならこれぐらいやるかと。
「雷神、インストール……!」
故に全霊は続く。剣に纏わす雷神の力。
晴天故にカードを用いて――天雷が如き一撃を放って。
戦いが続けば鉄帝の兵も減りつつあった。同様に海洋の兵も戦闘不能になり始める者が出ているが、とにかく向こう側の兵が減ればレオンハルトには届く。そうなればここからが勝負であり。
「暇がない事は百も承知! 故に容赦は致しますまい! 御覚悟ッ――!!」
ルル家もまたその機を狙ってレオンハルトに吶喊する。
放つは閃光。遥かなる爆発。宇宙の始まりが如きを予感させる一端の爆発がここに。
――超新星爆発。己こそが勝利の女神とする精神性が生み出す魔力が炸裂した。
「ふふふどうですかここぞの時の為に取っておいた一撃は――! あ、惚れないでくださいね! 先程も申し上げましたが仲間の父上に婚活は諦めておりますので……!」
「チッ――レオンハルト、くそ……!」
ゲルツは天より狙撃するハイデマリーに狙いを絞るが、レオンハルトの娘だと即座に理解すれば、同胞へ射撃を行う事に躊躇いを見せて。さればその一瞬を。
「拙が前におりながら他所へ視線を寄こすなど、些か油断召されておりますか?」
雪之丞が詰める。斬りつける銃身、されば狙いが逸れて撃ち損となれば。
「ええいしつこい奴だな……! 消えろッ!」
放つは掌底。ショウ・ザ・インパクトの衝撃が雪之丞の身を襲う。
喉を胃液がせり上がる感覚――同時、身が後方へ吹き飛ばされる。これ自体にダメージは無い、が。
「ぬっ……!」
直後に投じられし射撃が雪之丞の足を穿つ。激痛――されど、これで倒れる程柔ではなく。
「お流石。闘士でもあれば近接に苦手と言う訳でもありませんか……」
奮い立つ。止まれば次なる射撃が止めを刺そう。
動く。ひたすらに動き、狙いを定めんとする。動く度に足に痛みは走るが、そんなモノは運命の加護でねじ伏せる。拙は動ける。まだ動ける。心の内に灯る熱は冷めず、今なお己が身の内を焦がしていて。
銃撃の視線を捉える。宙を穿つ弾道をその目がハッキリと視るのだ。
意識ではなく本能の領域て、時を合わせて刀身を振れば――砕く。己を穿たんとした鉄の塊を。
「な、なにッ……!?」
「――修羅、道。狂わば……」
驚愕せし声が耳を通り抜けて。
三途の川は遊び場なれば。死地に恐怖は抱かず、今こそ彼女の集中は神域に到達せん――
「特と、御覧じろ!!」
抜刀一閃。魔と武を織り交ぜた一撃をここに。
「おおおおおッ――! 雪之丞さん、躱してくれよッ――!!」
と、同時。プラックの大津波が再び甲板上を。
狙うのはゲルツだ。レオンハルトの分析の声が飛ばなくなれば再度怒りを付与して効果を見込む目も出よう。雪之丞を巻き込まぬ様に声を掛けて、ゲルツの後方側に――津波の一撃を顕現する。
「急ごうぜ、多分だが海洋の船がそろそろ持たなくなる筈だ……!」
「ならばこの艦の援護を更に削るとしよう」
プラックの目には『外』の戦況も映っている。敵の増援もそう遠くはないかもしれないと。
故にレイヴンが目を付けたのはニーベルングの砲台だ。甲板上に存在する、それに狙いを定めて。
「流石に火薬に引火すれば無傷とはいくまい……!」
放つは魔砲。薙ぎ払う様に爆発させて。
とはいえ消費の大きい技だ。幾度も幾度もと無秩序に使う訳にもいかない。時として彼はカーバンクル――によく似た魔獣を呼び出し気力の回復と共に光線を放たせ間をおいて。継戦の事も視野に入れながら戦闘を運ぶ。
「私達はここに運んでくれた海洋軍人達の思いも背負っている。
――退く気がないなら、刺し違えてでも貴方を仕留めるわ」
「良い闘志。良い眼だな。しかし私に退く気などないぞ……!」
「ざんねんむねん。ならば最大火力で焼き尽くすとしましょう!」
アンナとクーアだ。アンナもまたついにレオンハルトの身へとその攻撃を届かせて。
点す全開。飛躍的に向上せし身体能力から繰り出される一撃を彼へと見まう。更にそれに続く形でクーアの火力も叩き込まれる。一手準備に掛ける必要はある、が。その威力は中々に甚大であり。
段々とレオンハルトへの攻撃を集中させる事が出来つつある形だ――
されど。
「全く、タフな男だ……中々崩れる様子が見えないね……!」
ゼフィラが砲台を粉砕した不可視の一撃を放ちながらレオンハルトの様子を伺う。
セララ、ハイデマリー、アンナ……それぞれの攻撃を受けながらも彼は未だ健在、どころか。むしろその様子に喜々としている様子が――どことなく伺える。
「ハッキリと感じ取れる訳ではないが……ッ」
彼もまた闘争に日々を費やす鉄帝の者と言う訳か。
追い詰めれば追い詰める程にその本質が垣間見えてくる。反面、他者への指示や先の分析の声が明らかに減っており、強くなっているというよりはリソースを自らだけに集中させている、というのが正確か?
「……こっちは不必要に戦いたい訳じゃない。退いてくれるならそれでいいの」
歯噛みしながらメルナもまた、斬撃を重ねる。
戦いが楽しいのか。何故、どうして。戦いなんて避けられればそれに越した事はない筈なのに。
「お願いだから、早く退いてよ……!」
「それは出来んな。こちらも国家・国民の為にここにいる故に!」
「そう、それなら……!!」
レオンハルトの返答に、メルナは思考する。
負けられない、と。
勇猛には勇猛をもって。不屈には不屈を持って対処する。諦めないのならばこちらも屈しない!
「『私』も『私』の想いがある――ッ! 貴方達には、ここで絶対に負けてもらうッ!!」
私とは果たしてメルナの事か。それともメルナが追う兄の事か。
太陽の如き輝き。その様に在らんとした月の呪縛は、しかして彼女の力となり。
蒼炎が剣に纏う。その衝撃は敵を薙ぎ払い――浄化せんとして。
一閃。
「――成程」
その攻勢に、レオンハルトも遂にその歩を後ろへ。
例えば一対一で倒すのは難しけれど、複数の者達で集中的に攻撃を重ねれば話は別。
それをされても尚余裕を保てるのは――例えば皇帝ヴェルスなどの領域だ。
彼はヴェルスではない。強者ではあるが、それでもまだ『叶う』範囲であり……
「滾ってきたぞ……私もな」
「……ッ!」
ハイデマリーは感じていた。父が本気になると。
抜くは剣だ。父は、いつも本気になる時――剣技を用いる。
口端が吊り上がる。戦いを喜々として感じている。それはつまり追い詰めているとも言えて――
激突。見えぬ程の高速の一閃が振るわれる。
ほぼ反射的にメルナは剣を割り込ませて、しかし腕力でそのまま押し切ろうとしてくる。
跳ぶ。押されるぐらいならば後ろに跳んで衝撃を流して。
逃さず追撃――が。次いではアンナが間に割り込んで。
「させないわよ……!」
三閃。その全てを不滅の布と水晶の刃が捉えて、直撃を避ける。
瞬きは出来ぬ。見逃せば致命を受けるやもしれぬ。研ぎ澄まされた感覚が死線を潜るのだ。
「本命が来たか……! しかし、それを待っていた……!」
「凄まじい勢いだが、だからこそこちらも踏ん張り所か!」
ならばと援護に放つレイヴンの魔砲。強力なりし戦場を穿つ砲弾がレオンハルトを捉えて。更に続けざまゼフィラの一撃がレオンハルトの腹を穿つ。
まだだ、行ける。剣を用いたからと二倍も三倍も強くなるわけではない。
彼が100%になっただけだ。攻撃を重ねろ、致命傷を受けるな、生死の狭間で勝利を掴め!
あともう一歩――ッ!
「ヴァイセンブルク卿――お待たせしました!!」
しかし、その時現れたのは鉄帝国の援軍だ。
先の突入までに大きな被害を受けていた艦がついに撃沈されてしまったのだろう。妨害を受ける事が無くなった鉄帝国の船はニーベルングに接近し、そちらの船にいた戦力が旗艦へと乗り込んでくる。
無念だが、ここまでだ。これらの戦力をまた仮に撃退したとしても――いずれは三隻目がある。
そこまで至れば物量差で負ける。レオンハルトを倒すよりも先に、包囲されるだろう。
範囲攻撃に優れし者が多かった故、突入した船にいた戦力を全てニーベルングに投入するのも手だったかもしれない。さすれば援軍がすぐに来ても32対30でほぼ互角だ。そこからまた勝てるかは地力と作戦次第だったので一概には言えないだろうが――
「チッ――いずれにしてもこれまで、かよ!」
プラックは旗艦に乗り込んでくる戦力を見て、視線を巡らせた。
ここは海の上。容易く逃走ルートはないが……船であるならば……!
「あった。緊急脱出用のボートがある、あれを切り離して脱出しようぜ……!」
「やむを得ません、か。援護しますのでお急ぎをー残存火力を投入します」
戦略眼で見据えた脱出ルート。さすればクーアが残った手榴弾を投じて炎を撒き散らして。ここに残っていても捕虜になるぐらいだ。ならば後は急ぐしかなく、連れていける海洋の兵も担いで。
「――っ、あ!」
その時。前衛としてレオンハルトの相手をしていたセララの剣が弾き飛ばされた。
増援の鉄帝兵も現れて防御の対処が遅れてしまったのだろう。
その首筋に突き付けられるは、レオンハルトの剣で。
「セララ!!」
そこへ、空から狙撃を行っていたハイデマリーが割り込んだ。
それに打算は無い。父だから娘だから剣をなどという考えはなく、ただセララが。
――友達が危なかったから。
「ふむ、諸君らはよくやったが……一手足りなかったな」
見れば海洋の最後の船も撃沈されようとしている。あれも完全に沈黙すればここの戦いは終わりだろう。
「ヴァイセンブルク卿! 複数のボートで脱出する者達が……!」
「よい、放っておけ。無理に追撃するほど、我々も彼らに怒りも恨みがある訳ではない」
求めたのは勝利であり殺戮ではない。退くなれば、それを邪魔する道理もないのだ。
仮に海洋が勝利していたとしてもそうだっただろう。
この戦いは――国家の思惑はあれど私怨によって引き起こされた訳ではないのだから。
「それよりも……マリー。帰還までの間に聞いておくべき事がある」
ハッ! と咄嗟に返答してしまうハイデマリー。軍人としての性か。
ボートへの脱出には一歩遅れ……こうなってしまったからには投降が正、だ。いや彼女の本来の所属を考えるとこれは只の軍への帰還かもしれないが、とにかく。
何を言われるのか。敵対した事を責められるか? いや父もローレット、引いてはイレギュラーズと言う存在には理解があるし、責められるならもっと早く何か言われていた筈だ。となると一体何を……
固唾を呑む、親友を背に。父の口が開くのを待てば。
「――で? 魔法少女とは一体如何なる事なのか。どういう経緯だったのか?
ここは海の上。逃げられんぞ――全て包み隠さず一から十までゆっくりと話すといい」
今からでも海に飛び込もうかと、本気で思った瞬間だった。
成否
失敗
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでした。
非常に惜しかったと思われます。戦闘自体は非常に良く進んでおりました。
さて他の戦場の結果にもよりますがこれらの結果を経て何が起こるか……
それはもう暫くだけお待ちいただければと存じます。
MVPはレオンハルトさん以外で強力な戦力であるゲルツを抑え続けた貴女へ。
とても素晴らしい形だったと存じます。
ご参加真にありがとうございました。
GMコメント
■依頼達成条件
1:レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルクの撃破or撃退
2:戦艦『ニーベルング』の撃沈
どちらかを達成してください。
海洋王国の船が沈む事は一切成否に関係ありません。
依頼は砲戦が届くぐらいの距離から始まります。時刻は昼。
海洋王国が決死で突撃しますのでニーベルングに取り付く所までは成功します。
ただしその間砲撃が直撃したりすればHPに影響などがあるかもしれません。
小型船などの類を使用しても構いませんが、鉄帝側が見過ごす可能性は低めです。
■レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
鉄帝の軍人。骨格が機械で形成されている鉄騎種。
鉄帝人らしい気質を奥底に持ちますが、基本的には冷静な人物です。
通常時は軍式格闘術による戦闘。本気の際は剣を用いての戦闘に移行します。
周囲の味方陣営の戦闘能力を向上させる指揮能力を有します。
戦闘が始まった当初は全体の指揮官として後方に位置しますが、戦闘が始まって以降の推移次第で前へ出てくる可能性はあります。ただやはり推移次第なのでどう動くか正確には不明です。
非常に強力な戦力です。全体的に隙の無い能力で、接近戦型。
最も好むのは1対1の対決。ただし1対1で戦うと勝つのは非常に至難です。
■ゲルツ・ゲブラー
鉄帝の軍人にして闘士でもある人物。鉄騎種。
ライフルを携えている遠距離型。にして『ショウ・ザ・インパクト』も持つ。
命中が高く、反面反応はそこそこ程度で先手を取るのには向いていない。
やや神経質。鉄帝国軍人としての責務を果たす熱もある一方で、鉄帝出身の同胞が敵にいる場合些か撃つのには躊躇する面も。
■鉄帝海兵×15(一隻につき)
皇帝親征による影響で士気が高い。
基本的には近接型が多いが、回復役などの遠距離型も存在する模様。
■戦艦『ニーベルング』
鋼鉄で包まれた鉄帝国の軍艦。かなり硬い。
三隻の中で最も大きい船なので見間違える事はない。
大量の大砲を装備しており真っ向から打ち合うのは通常の王国軍艦では厳しい。
■鉄帝国軍艦×2
ガレオン船らしき形状の軍艦。
鋼鉄艦ではないようだが所々鋼鉄で補強されている。半分鋼鉄艦と言うべき船。
その為通常の船よりも防御力が高い事が想定される。
同様に大砲を装備しているが、ニーベルングよりは控えめ。
基本的にニーベルングの援護に来ようとするでしょう。
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■海洋戦力
以下が味方戦力です。
イレギュラーズの皆さんには非常に協力的です。
余程妙な内容でも無ければ皆さんの指示に従ってくれます。
■海洋王国軍人×20(一隻につき)
海のプロ達。遠近のバランスは良い。
しかし純粋な殴り合いだと鉄帝国の者達には劣る。
■海洋王国軍艦×2
大砲を搭載している。速度は上だが、鋼鉄艦相手に砲戦は不利な模様。
基本としてはニーベルングに向かって一隻が突っ込んで、もう一隻は邪魔が入らないように立ち回ったり妨害するような動きを見せる事でしょう。何か別の動作をさせたい場合指示してみてください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●優先参加について
鉄帝国主力シナリオにはそれぞれ二枠の優先参加権が付与されています。
選出基準は『海洋王国事業貢献値』上位より、高難易度に付与する、となっています。
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