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シナリオ詳細

<第三次グレイス・ヌレ海戦>ポルードイ家の奇縁を拭う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●友好に愛を、敵対に鉾を
 『海洋王国大号令』の発布からこれまで、海洋の活動は拡大の一途を辿っていた。私掠、魔物の討伐、その他諸々。海賊たちにとっては、暗闘していた貴族達ですら独自のルートを模索し、富を我が国へと集中させる姿勢を強くしたことに不満がなかった、といえば嘘になる。
「チッ、お貴族サマまで大号令だ冒険だ、海賊はそこをどけ……かよ。俺達を今までうまいこと使ってた割には都合良いこと言いやがるじゃねえか」
 海賊船内でくだをまく男――『キャプテン・ノリッジ』はとある海洋貴族とそれなりにうまく付き合っていたつもりだった。
 彼は別に、貴族に対して必要以上に強く出たこともなければ無駄な略奪をしたこともない。船員達を食わせていくに足る分、より若干多い程度を稼ぎ、他者のシマを荒らさず、貴族の求めには適切に応じていた筈だった。
 だが、お貴族サマというやつはそんな『分を弁えた』行動ですらも気に入らなかったらしい。
 大号令が発布されるや否や関係性を否定され、当座の間は仕事もなにもありはしない……そんな通達を一方的に受けたのだ。
 あいつらばかり景気がいいのは気に入らない。
 否、景気がいいのは結構だがおこぼれに預かれないのは気に入らない。
「俺は平和的に行きたかったんだぜ? でもそんな三行半を突きつけたんじゃあ、あの坊っちゃんをいいようにさせておくわけにゃあいかねえよなあ……?」
 ノリッジは歯をむき出しにした獰猛な表情で船員達に問いかける。
 彼のフラストレーションが頂点に達するより早く、『あの男』を名乗る不届き者が現れ、海賊達を海洋にけしかけんとしていたのは、果たして偶然なのか。

●絆は海の潮よりも濃く
「『第三次グレイス・ヌレ海戦』。我が国ではこの海域での海戦は三度めとなります。それだけ勝手知ったる場所である、とも言えるでしょう……ですが、だからといって常勝不敗を気取れるほど楽な戦いをしてきたことは、今までもこれからも無い、と思っていただいて結構。その点で、貴殿らの助力を得られた私達は光栄の至りであると断言できましょう」
 イレギュラーズを自らの屋敷に招き入れ、海図を広げた海洋貴族――レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の兄、ファルケ・ファラン・ポルードイは『海戦』と告げた。
 たかだか海賊ひとつで海戦にはなるまい。わざわざイレギュラーズの前で『第三次』とは銘打つまい。
 ……すでにローレットに通達されている話であるが。海洋は、今回の大号令に対して懸念を示す鉄帝と、掃海任務で割を食い出した海賊達の襲撃を受け、彼らをグレイス・ヌレ海域で迎撃することを決断。海洋の歴史における三度目の海戦に挑むに至ったのである。

「私の弟を始めとして、イレギュラーズである貴殿らが優秀であることは疑う余地もありません。私達の支援がどれほど有効かはわからないですが、こちらで保有している船を提供しましょう。その上で、こちらの戦力を直掩に。貴殿らが相手どる『キャプテン・ノリッジ』は打算に満ちた男です。奴は引き際と互いの被害の程度を推し量る知性はありますが、その域に達するまではどこまで残虐に振る舞ってもいい、という価値観を有します。
 そうですね、例えるとすれば鍋と薪ですか。『食い扶持』が鍋の中身、『犠牲』が薪です。彼らは鍋の中身が満ちればそれで手を止めますが、鍋の中身を満たすのに必要以上に薪を伐っても、森をひとつ丸裸にしても悪びれることがありません。それが必要だったからそうした、と臆面もなく言い放つでしょう」
 自称・平和主義が聞いて呆れる。ノリッジの悪辣さは折り紙付きというわけだ。ファルケは敵勢の合計が大凡3隻、20名前後で向かってくるだろうと告げる。基本は帆船であり、優秀な航海士兼操舵手を揃えているとのこと。
「ノリッジ本人は奇妙な形の剣と銃で武装しています。船員は主にブラックジャックで武装しており、少数ですが魔導を修めた者も抱えていると自慢していたのを知っています。総じて海に慣れており、連携が取れるタイプと見ていいでしょう。船体に砲塔のたぐいはないので、早々にこちらの船が沈められることはないでしょうが……可能性はゼロではありません。お気をつけ下さい」
 イレギュラーズに視線を巡らせたファルケの表情は固い。それはこれから始まる海戦への緊張でもあり、イレギュラーズ諸氏に対する信頼の現れでも或る。
 戦いの時は、すぐそこに迫っていた。

GMコメント

 付き合う相手を選んでも、結局どこかで色々起きるものです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
 『キャプテン・ノリッジ海賊団』の撃退

●キャプテン・ノリッジ
 ボルードイ家と関係のあった海賊団。大号令の発布以来、辛酸を舐めさせられている状況。
 アフリカ投げナイフめいた剣と連発銃で武装しており、通常攻撃に【呪殺】【レンジ3】を伴う。
 加えて剣は【猛毒】、銃は【流血】を伴う。基本的にスキル等を使用することはないが、EXAと回避が高い。
 加速3(EXA・回避)持ち。

●船員×20
 ノリッジを除く麾下船員。3隻の船に分乗している。ノリッジ込で各船舶7名。
 各船舶には魔術師が1人おり、火力こそないが多彩なBS付与を行ってくる。
 通常船員はブラックジャック(近接物理・通常攻撃【ショック】)使用。接舷させての乗り込みも行う。
 8人で3隻バラバラに分かれるのは正直、相当な実力差がなければ自殺行為と留意されたし。

●ポルードイ指揮艦隊
 ファルケが指揮する海洋艦隊。主に援護射撃を行う。
 砲撃は4ターンに1度、海賊にダメージは与えないが、3隻の船体に均等にダメージを与える。
 海賊船は砲撃5~6発程度(イレギュラーズによる船体損傷度で加速)で航行不能となる。

●船上
 グレイス・ヌレ海域西端あたり。
 そこそこ複雑な潮の流れになっています。

●重要な備考
<第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
 尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)

 ともあれ、よろしくおねがいします。

  • <第三次グレイス・ヌレ海戦>ポルードイ家の奇縁を拭う完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月05日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
武器商人(p3p001107)
闇之雲
七鳥・天十里(p3p001668)
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ゼファー(p3p007625)
祝福の風

リプレイ


 海洋王国大号令。その響きを口にして『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)は沸き立った。
 彼の敬愛するイザベラ・パニ・アイス女王陛下の発令。未だ見ぬ遥かなる新天地(ネオ・フロンティア)への夢。少々のおイタをする鉄帝国には手を焼くが、それ以上に特異運命座標の海洋訓練を兼ねた近海掃討に異を唱えることが史之にとっては度し難かった。
「飼い犬が主人の手を噛んじゃいけないんじゃない?」
 ここはイザベラ女王の海だ。その配下――そう称したならばファルケ・ファラン・ポルードイは『配下ではない』と飛行種としての威厳を見せるか――たる貴族に楯突くとは……史之はこれ以上は口にはしまい。
「こんなの飼うなんてレイヴンの兄貴も変なやつだな。まあ、貴族ってのはそんなもんか」
 同じ海洋の飛行種と言えども『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は軍閥の家系である。貴族の政り事絡んだ泥沼は彼にとっては隣人の話なのだろう。
「依頼主と海洋のためだ、引き際を誤ったんだから大人しく沈んでもらうぜ!」
「うんうん。レイヴンさんの家も、やっぱり貴族は色々と大変なんだなって思うし、しっかりお手伝いするよ」
 やる気十分の『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)は花綻ぶように笑った。天十里とカイトの言葉を聞きながら『麗しの君』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は唇に指をあて考え込む様な仕草を見せる。
『キャプテン・ノリッジ』、彼自にはレイヴンとて会った事がある。兄、ファルケの手腕は確かであり荒くれ者を手籠めにしてきたのは確かだ。大号令ともなれば私掠許可を得ぬ海賊たちは近海掃討での対象となる。彼らを庇護に置く事は『海賊を行う上での大義名分』がなければ難しいのだとファルケはノリッジと手を切った。互いに打算だらけの関係ではあるがレイヴンはノリッジが不平不満を述べるのは仕方がないとも考えている。
「牙をむくのであればそれなりの対応をせねばなるまい……いやはや、ある意味身内の恥かな?」
「それも貴族の嗜みでしょう?」
 くすりと笑ったは海洋社交界でレイヴンとダンスした紫苑の君――『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)であった。その様子に弟が手を取って逃避行した天女であるかとファルケは興味深そうに彼女を見遣る。
「貴族の嗜み。貴殿の云う通りですね」
「けれども野犬に吼えられるのはさぞもご不快でしょう?
 ポルードイ卿におかれましては、ご機嫌麗しゅう。特異運命座標が躾けのなっていない野犬の口に輪をかけてまいりましょう」
 実に愉快なものを見る様にファルケは目を細めた。それには「ヒヒヒ」と『闇之雲』武器商人(p3p001107)も笑みを溢す。躾けのなっていない野犬は良く噛むが、案外『躾けられた犬』の方が手痛い事をするものだと冗談めかす。
「さて、蒼風の娘。我(アタシ)と晴嵐の海を大いに風立てて凪ごうじゃないか。幸いにしてクライアントの十分だね」
「グレイス・ヌレ海域、ね。さも知らぬ場所ではあるけれど。
 ……ま、アウトローを雇って汚れ仕事をさせるなんてよくある話ですし、そしてその後始末が必要になるのもまた良くある話ですわ?」
 明日は我が身、明日は我が身と繰り返したゼファー(p3p007625)は凪ぐ晴嵐を見る。
 表の顔と裏の顔。コインの様に代わる代わるのそれを持つのも貴族の嗜み、なのだろうか。


「焼き払いたいがために焼き払う。成程当たり前のことなのです」
 それこそ炎に魅せられる『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)にとっては至極当然の事だった。
 尾を揺らしてその瞳には爛々とした輝き灯す。さあ、眼前に見えるはキャプテン・ノリッジがご一考だ。
「……こんな海のど真ん中で、焼き払ってもいい船に出会えるとは、私もなかなか幸運なのです!
 あなた方が望んだ僥倖を、即ち焔色に染まる末路をお届けするのです!」
 死の間際に見たあの赤々たる華美なその炎(ひかり)に焦がれる様にクーアは笑った。
「対艦戦闘用意用意……ってね? 諸君、派手にいこうか。まずは右側の船からで!」
 レイヴンが堂々と言えばポルードイ指揮艦隊に搭乗するファルケは弟の指示に従う様にと各員へと通達する。
「さて、勝機はあるのですか?」
「勿論。これだけ火力の出る陣営で下手に作戦を組み上げるよりも集中的に打撃した方が効率がいいでしょう」
 兄に応えた彼は傍らを見遣る。紫苑の君と社交界で呼ばれた天女は華々しくもその黒衣を揺らす。
「神がそれを望まれる」――と、口にした言葉と共に黒きパラソルを畳んだリップハンターは指先で煙草を摘まみ上げた。
「なんで猫かぶったって、売り込みに決まってるじゃない」
「悪くはないさ。商売にも商機が存在するように人だって売り込み方が大事になるさ」
 イーリンに小さく笑った武器商人は界(さかい)より水面を走る美しき水棲馬を呼び出した。
 それを見遣りながら大きな翼を広げたカイトが風を読む。航海術を駆使し、『使い古された海洋海瀕船征誌』を見遣った彼は深く考えた。向こうの立場であったならばどうすか――カイトは考える。
 帆船で、航海士兼操舵士。ならば、砲弾を避けたとしてもルートは決定的である。
「さ、いこうぜ。帆船なんだろ?じゃあ炎狩で焼き払ってやらあ!」
 大空に広げた緋の翼。羽が舞い落ち、それに鼓舞された様に『焼き払う』の言葉にクーアが嬉しそうに目を輝かせる。
「最初の船は潰す! 沈める! そしてビビらせる!
 後はひるんだ相手をそのままの勢いで倒しちゃおう――作戦は単純明快!」
 にい、と唇を釣り上げた天十里。特注品である 夕暮れを手にして目、耳、鼻を活かして自然の中でもその身を躍らせる。
「サクっと一隻沈めてビビらせてやりましょう」
 ゼファーに頷いたクーアが炎に魅入られた様にその瞳を丸くした。そして、大号令の体現者こと史之は堂々と女王陛下の海を回るべくその胸を張る。
(この美しき海は、女王陛下の御心のように広い――! その心に塵をも残してはいけないんだ!)
 堂々と史之は「クーアさん、燃やしましょう!」と言ってのける。余りの剣幕にゼファーはちら、と其方を見てから手綱というのは凄いものなのだと改めて認識した。
「ンだァ!?」
 集中砲火で帆船に打撃を与えられ、優秀な航海士兼操舵手と言えども『ポルードイ家の艦隊』支援もあって僅かに傾ぐ。一度で鎮められるほどではないが先手を打って居表を付けたのは確かだろう。
「司書ちゃんカッコイイ!」
「あら、ありがとう?」
 ドレスを揺らして笑った『呪い除け』のその名で呼ばれるイーリンに天十里は射撃戦は醍醐味だと言う様にその手を緩めることはない。黒髪を揺らして、素早く精密な六連射を躊躇う事無く帆船へと打ち込んだ。


「我(アタシ)の指揮で船へ向かうよ。
 力を貸しておくれ、マーマデューク。そう、あの船だ。攻撃は我(アタシ)が視てるからキミ達はそれに合わせて優雅に回避してくれればいいというわけさ」
 武器商人の言葉と共にレイヴンがノリッジを目指す。ポルードイ家の者という事は顔を合わせた事のあるレイヴンもキャプテン・ノリッジには知られていた。ならば、彼の守りを固めなくてはならないと天十里は護衛の様に彼の傍らへと付いた。
「どこかの要人になったかのようだよ」
 冗談めかしながらもレイヴンはキャプテン・ノリッジを見遣る。その視線を追い掛けたカイトもまた護衛の様にレイヴンへと付き添った。
(あれがキャプテン・ノリッジ……説得に応じるかは難しそうだけど、海洋での頑張りが報われるかもしれない……)
 海洋王国ではその名を轟かす特異運命座標も多い。特に、自身の父が海洋軍人である誉より海洋で意欲的に活動してきたカイトの事を海洋王国では知る者も多いだろう――例えば、ソルベやイザベラは彼をしっかりと認識しているし、その部下に当たる面々も彼をよく知っている。

 ――その一方、迎撃行う魔術師たちに優雅な笑みを浮かべたイーリンがドレスの裾を摘まみ上げ淑女の礼を見せた。
「俺は秋宮史之! イザベラ女王陛下へ忠節を誓う者にして、大号令の体現者!
 楽園の平和とは無縁な走狗よ、せめてこの美しい海を墓標にしろ!」
 堂々たるその言葉。圧倒的な眼力で帆船を睨みつけた史之に合わせて、ぐるんとゼファーが宙を踊る。
「ハロゥハロゥ、まだまだお楽しみはこれからですわ?」
 形の良い唇に乗せた笑みの儘、Remembranceを振り上げたゼファーの長い髪が揺れている。その背後より空を呼んでいたクーアが顔を出す。
 琥珀――そう、それはつまりは人間史上最強兵器SAKE! ねこですが、ひとなので嗜むのですと尾を揺らす。
「よく燃えそうな船なのです。危険物の取扱いはメイドの基礎にして十八番なのです!」
 よいしょと言わんばかりに投げ込まれた『危険物』。仲間を巻き込まぬようにと注意した其れが史之が探した魔術師を焙りだす。
 容赦せずに叩き潰して背を見せてくれるならば儲けもの。そうでないなら戦うのみだとゼファーは槍の穂先をぴたりと海賊の喉元付ける。
「さあさ。来る者は決して帰しませんが、去る者は追いませんわ? 一時の恥を忍んで逃げ帰っては如何?」
 美しい女の囁きに背筋に伝う何かを感じて海賊が低く唸れば、黒いドレスを揺らした女がふわりと跳躍した。美しく揺れる戦旗。背後より支援の弾丸が降り注ぐ。
 揺らぐ足元を気にする素振りなくイーリンは大きく旗を振ってから海賊の男を覗き込んだ。
「さて、さっきお仲間が沈没した理由はおわかりかしら。商売道具が沈む前に帰るほうが賢明ではなくって?」


「久しぶりだなノリッジ。損得計算のできる奴と思っていたが、牙を向けるとは誰かに焚きつけられたか?」
 そう、堂々とした調子で言ったレイヴンに「ポルードイのお坊ちゃんか」とキャプテン・ノリッジは呻いた。当初の作戦よりも大番狂わせと言う様に帆船ひとつを落とされては海賊も慎重になるというものか。狡猾であるのは昔見知った男の態度とそう変わりないのだとレイヴンは確かめる様に彼を見遣った。
「まぁ不満に思うのは最もだろう。が、もう少し賢い稼ぎ方もあったのでは? 例えば鉄帝とかな」
「譬え、俺達が鉄帝との策戦に参加しようとも私掠許可を持たない海賊は無法者には違いねえ。
 そちらさんが『私掠許可を与えて』合法的な存在として扱うってんなら話は違うが、そうはいかねぇだろ? なあ、ポルードイ」
 私掠許可。国家より海賊と認められた者たちとはノリッジは少し違った。そうした認可を持たぬ無法者たちはノリッジが言う様に『裏の仕事』に携わる事だってある――だからこそ、切れ者であるファルケ・ファラン・ポルードイは彼らを飼っていたのだろう。
「お前のバックは誰だ?
 素直に服従しなおすなら今後を少しは考えてやらんでもないが? 時間をかければ……」
 レイヴンが手を空へと翳す。降り注いだ弾丸と共に、蒼いカンテラを揺らした武器商人と視線を合わせる海賊たちが頭を抱え込む。その身の内より沸き立ったのは破滅の聲。存在してはならない何かが脳内で語り掛けてくるのだ。
「はあ……実力行使をしようってンのか。穏やかなフリして喋っててもよ、あっちの船じゃドンパチしてんじゃねぇか」
 吐き捨てたノリッジに天十里は「だって、キャプテン・ノリッジを生かしてこの戦場より撤退させろっていうオーダーは貰ってないよ?」と首を傾ぐ。丸い瞳は只純粋に、護るべきレイヴンを庇う様に見ているだけだ。
「……云うじゃねぇか」
 カイトは振り返る。ポルードイ家の艦隊はグレイス・ヌレ海域の中で周辺を警戒しながら特異運命座標を見ていた。身から出た錆と言えばそうではあるのだが、時間が経過することでこの海域が混線状況になることは彼も心配していた。
「大仰にシャルラハ家の小僧迄連れ出してんだ。降伏する他ねぇって脅してるのと何が違う?」
「脅してるわけじゃないよ。ちゃんと説得しに来たんだから」
 にんまりと笑った天十里。それに視線を送ってからキャプテン・ノリッジは溜息をついた。
「一度こちらと事を構えた立場だ。間者としても価値も無くはない。命と、この船は助けてやらんでもないが」
 従うのならば首輪を付けて猟犬として買うのもアリだ。従わねば討つしかないかと見遣ったレイヴンに「分かった」と嘆息交じりにひらひらとノリッジが手を振った。
「ならば、交渉は――」
「――海賊って狡いね?」
 これにて交渉成立だと言い掛けたレイヴンの横面目掛けてナイフが飛び込んだ。受け止めたカイトに天十里が囁く。
「海っていうのは何が潜んでるか分からないからな!」
「うん、確かに。もう少し『分からせてあげないと』駄目みたい」
 天十里が勢いよく引き抜き放った連射を追い掛けて、武器商人が魔を宿す。それに合わせる様に降り注ぐ弾丸を追い掛けて戦旗が舞い踊った。
「あら、教育をするのね?」
「司書ちゃん!」
 黒いドレスを揺らした天女が小さく笑う。イーリンのその声音に釣られるようにその身を一気呵成、投じたゼファーの槍が勢いよく海賊へと突き刺さる。
「やれやれ、ねこづかいが荒いのです」
 嘆息するクーアの周りで焔がともる。それを見ながら史之は「クーアさん、やっちゃってー!」と囃し立てた。
 景気よく燃え上がる炎にその瞳にも光を宿したクーアの尾がゆらりと揺れた。
「おー、燃える燃える、景気がいいねー」
「放火魔の特権なのです」
 ふふん、と鼻を鳴らすクーア。特異運命座標がすべてそろったことによりノリッジは「クソ」と毒づいた。
「さて、どうするのかそろそろ考えを聞かせて貰おうか」
 レイヴンの言葉にイーリンは「勝ち馬に乗るのが海賊ではなくって? それとも『海賊なら勝ち馬と思ってしまう』人でも居たのかしら」とカマをかける。
「……『ブラッドオーシャン』も動いてる以上はこちとら黙ってりゃいられないだろ」
「ふうん? 海賊連合旗艦だったかしら」
 振り返ったイーリンにカイトは頷いた。近海掃討でも大部分が被害を蒙っていた筈である海のならず者たちだ。
 観念したのだろう、武器を落として投降の意思を見せたキャプテン・ノリッジに油断ならぬと武器商人と天十里は捕縛準備を整える。
(けど、『ブラットオーシャン』もまだ誰かに動かされた気もするわね――?)
 イーリンの疑問はまだ温い潮風のなかでは晴らされない。
「おつかれさま、交渉どうだった? うまく行っても行かなくても、結果は同じかな女王陛下の益になればそれでOK」
 すべてはイザベラ・パニ・アイス上陛下の為だという史之。ゼファーはポルードイ家の艦隊の方へと移動してからファルケににこりと笑った。
「それはそれとして、猟犬の席も空いたことでしょうし……用要りの時は是非にお呼びいただきたいものですわ? 率直に言って、コネは多ければ多いほど嬉しいものですので!」
 その言葉にファルケはローレットとは兵ぞろいだと小さく笑う。
 考えて置くさ、と交えた言葉はグレイス・ヌレに吹いた温い潮風に攫われた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。シナリオの代筆を担当させていただきました夏です。
 この度は弊社クリエイター都合によりお客様には執筆担当変更のご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。

 これも一つの貴族の嗜みですね。
 また、ご縁がありましたら。よろしくお願いいたします!
 

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