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シナリオ詳細

<第三次グレイス・ヌレ海戦>老兵の矜持

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 波を割る船団が海上にある。
 鉄帝の紋章を描いた旗を帆柱の天辺に取り付けた、正式な国の軍艦だ。
 従来ならば、木の骨組みに樹脂を塗り固めた表層なのだが、その船は大部分を鋼鉄により構成されていた。
「我等が王もまた、無茶を言いなさる」
 その甲板に、老兵が一人居た。
 袖を通さない軍服を、襟紐で首に固定して羽織った男だ。
 潮風にべたつく白髪を撫で上げた男は苦笑いで呟きを続ける。
「無茶苦茶であろうなぁ、此度の侵攻は」
 右手に見える、天義の大地を眺めながら思う。
 イチャモンに近しい理由だと。
「これまでに起きた鉄帝への攻撃に対した抗議……全く、そんなものお互い様であろうに」
 まあ実際、そんな建前が通じる通じないは関係無い。鉄帝軍として、海洋軍との力の差を示す。
 そうすることで、外洋へ出る事を優先した海洋国が、鉄帝の介入を受け入れる流れを作るのだ。
「ふ、政等と慣れないことを」
 老兵はくっくっと笑う。
 自身の仕える王が無理を道理にしようとするのは、国の為だ。
 ならばそれを通すのは下の役目であろう、と。
「それに相手は、名高いローレットであると聞く。年甲斐も無くはしゃいでしまうかも知れんなぁ……」
 あれこれ考えた所で、所詮、彼も鉄帝の人間。
 ただ強い相手と戦う。その為の理由など、戦いたいからでいい。
「全速前進ッ!」
「応──!」
 そしてそれは、その船に乗り込んだ全てに適応される。
「我等、ゼシュテル鉄帝国海軍」
「皇帝の望むまま、力で海すら征してみせよう」
「応!」
「応!」
「応!」
 海を征く船は言葉に響く。
 波を裂き、天義の地を抜け、海洋の諸島が群れを成す海域を目指した。
「王の旗艦に届けよう、我等の勝利を! かの因縁の地にて!」
 男は名を、スティネットと言う。
 かつて海洋領域内、グレイス・ヌレ海域にて、海洋とぶつかりあった事のある古き兵だった。


 幻想国、ローレットの拠点に、『新米情報屋』シズク(p3n000101)は居る。
「改めて説明する必要も無いだろうけれど」
 そんな前置きをした彼女は、イレギュラーズへ世界地図を広げて見せた。
 太い赤線が描くのは、北の鉄帝から天義の沿岸を抜け、海洋が治める領域内への航路図だ。
「海洋国が絶望の青へ挑むのは、周知の事だと思う。その準備として、依頼で近海の海賊達を討伐した人も少なくない筈よ」
 その経験で、船上での戦いに慣れた者も多いだろう。
 元々、海洋国の思惑がそうであったのは間違いない。外洋へ乗り出す為の戦力として当てにされている、と言うことだ。
「で、だ。それを面白く思わない勢力が出てくるのも、まあ、想定内ね」
 その筆頭が海賊だ。
 淘汰された海賊達は生き残りの瀬戸際で、なにかしらの手を打ってくる想像は難くない。
 それから、外洋制圧を快く思わない勢力も居る。
「言ってしまうと鉄帝国の事ね。ご丁寧に船団率いて今、海洋に向かって南下してるって情報が来ているよ」
 考えは分かる。
 もしイレギュラーズという存在が無ければ、今回の大号令。
 鉄帝は戦力と引き換えに、外洋の権利を交渉してきたはずだ。
「利を得たい国と、悲願を成したい国。さて、私達ローレットは、願いを叶える手助けをする、と決めているわけだ」
 つまり、免れない衝突の矢面に、立ちに行く事になる。
「君達には船に乗って、攻め込んでくる鉄帝船団を迎撃してもらいたい。
 相手は、皇帝を含めた名だたる戦力を集めていて、相当にやる気のようだから……完全撃破を狙うより、撤退を狙う方がいいだろう」
 いいかな?
 言葉を繋いだシズクは、世界地図の上に戦艦の絵図を乗せた。
 黒光りを表現した大型船だ。
「鉄帝最新の鋼鉄艦。対砲撃や対衝撃に優れた船だよ。
 撃ち合いで潰すよりは、乗り込んで白兵戦力を削り、継戦能力を削いで退がらせる……これが現実的」
 幸い、相手の船団を有利な海域まで引き込む事は難しくない。
 今までに二度、その場所で海洋国は戦い、凌いでいる実績もある。
「船は小回りの利く、速力が高い物をあてがうよ。それに乗って退けて欲しいのは一隻。
 鉄帝国海軍軍曹、スティネットが指揮する艦だ」
 あまり、知られてない名だ。
 だがそれは、表に出ていないというだけであり、実際、その能力はかなり高い。
「傭兵の中じゃ知られた名だ。可能な限り敵対するな、と、私も言われたことがある」
 一兵卒から戦い抜き、軍曹という階級に留まって前線で戦う猛者。部下の統率力と、臨機応変に戦闘をこなせる経験を持った軍人。
「恐らく船内にいる戦闘員は20人弱。他国へ喧嘩を吹っ掛ける位だから、全員、精強であることは間違いないと思う」
 対してこちらの船は、接近の為に最大で八人のチームだ。
 数が多ければ良いという訳では決してないが、有利か不利かで言えば、間違いなく不利であろう。
「忘れないで。目的は、外洋進出を邪魔させないこと。撃退が第一で、撃沈まで狙うのは余程の事だ、ってね」
 そう言葉を締めたシズクは、海洋へとイレギュラーズを送り出した。

GMコメント

 ユズキです、今回は短いスパンで出せました、褒めてください。
 というわけで、船上での戦闘です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●依頼達成条件
 鉄帝の艦船を撤退させる。

●現場
 海洋のグレイス・ヌレ海域という場所の、洋上戦闘となります。
 手狭な海域のため、大型船である鉄帝としてはあまり嬉しくない場所と言えます。

●敵戦力
 精鋭約20名。
 指揮官はスティネットと呼ばれる老兵です。
 とはいえ彼らは指揮官の指示が無くとも動ける判断力と、そう判断したのなら大丈夫だ、と思うだけの信頼関係がある兵士達です。
 戦闘手段は鉄帝らしく、物理にしろ神秘にしろ攻撃系に偏っていると思われます。
 レンジにすると至から中が、彼らの最も得意とする間合いでしょう。

●重要な備考 <第三次グレイス・ヌレ海戦>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』を追加カウントします。
 この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。
 『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
 尚、『海洋王国事業貢献値』のシナリオ追加は今回が最後となります。(別途クエスト・海洋名声ボーナスの最終加算があります)

 以上、簡単にはなりますが補足として。
 よろしくお願いいたします。

  • <第三次グレイス・ヌレ海戦>老兵の矜持完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年01月03日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
流麗花月
ライアー=L=フィサリス(p3p005248)
嘘に塗れた花
回言 世界(p3p007315)
貧乏籤
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
エリス(p3p007830)
呪い師

リプレイ


 海を行く船は速い。
 深い海は透き通っていて、小島の散見される海域は、箇所によっては浅瀬の砂底が覗ける。
「手練れの軍人相手とか……しかもこっちの倍いるとかありかよ……ああ、楽して稼ぎたい……」
 そんなクルージングの中、『凡才の付与術師』回言 世界(p3p007315)は気だるげな顔で舳先付近に位置取って呟く。航海の先、目に見えている黒光りする船を見て、だ。
「相手は歴戦の傭兵が率いる部隊、か。なるほど、実にやり甲斐のある敵じゃあないか、なあ?」
 そんな顔の世界に、笑顔でそう言った『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は気安い感じの雰囲気で隣に立つ。
 ええ……本気で言ってる……? と言いたげな目線を向けた世界は息を吸い、深く吐いて。
「ええ……本気で言ってる……? いや、どっちにしても、俺はいつも通り戦うだけだけど」
 ただ、まあ。
「なんか、あれだね……政治って、難しいね」
 色々、複雑だ。各国、それぞれの思惑があって、悲願の成就と自国の存続がぶつかりあっている。
 政治交渉は会談ばかりではなく、こういった、競り合いによるモノもあるのだと、『跳兎』コゼット(p3p002755)はなんとなしの感覚で理解した。
「でもやっぱり、あたしにはちょっとわかんないや」
 もっと、そういう事を起こすことによる変化と予測について、学ばなければならないと、そう思う。
「とはいえ、だ」
 これはダメだ。船の操舵を任された『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、言葉を聞いてスッパリと切って捨てる。
 鉄帝事情は聞き及んでいるし、理解もある。だがそれとこれとは問題として別だ。
「海洋が積み重ねて、引き寄せた好機に割り込んで邪魔するなんて無粋の極みだなァ? 付け加えりゃ、吹っ掛けるイチャモンもこじつけと来てる」
 鑑みて差し引いて、なお有り余る程。
「気に食わねえなァ」
 鼻を鳴らした彼女は、近づく船を睨み付けた。


 スティネット。戦艦の指揮官として搭乗した彼は、背後から接近する船が一隻あると、報告を受けていた。
 それも、かなり速い。浅瀬を避け、座礁しないように気を使った遅々の自分達とは大違いの速度だと。
「海洋、いやギルドか」
 正解であろう推測に笑った老人は、膝に手を付いて立ち上がる。
「じゃあ、構えておけ」
 指示を飛ばし、船室から外に出て、後方を見た。報告通りの船が来ていて。
「砲門の無い側を攻めるか。まあ、定石よなぁ」
 くく、と。スティネットは笑い、
「周りは浅瀬だな? 今の内に錨を下ろせ。引き付けたら、ま、殺すつもりで好きにするがいい。定石なら、想定通りにな」
 戦う態勢を整えた。


「ほいさっと!」
 目標距離、30m手前。『ムスティおじーちゃん』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は、砲撃形態へと変形した武器をギフトで浮かせ、船へ届きそうな攻撃を相殺していた。
「流石の腕前、ですわね?」
 進行の横合いを、消え去りそうな魔弾が通っていく。それをチラリと見送った『嘘に塗れた花』ライアー=L=フィサリス(p3p005248)は、感嘆の言葉を呟いた。
 頼もしい限りですね、と。
「うんまあほら、得意な間合いはもうちょっと狭いらしいから、油断出来ないけどね!」
 えへ、と無邪気な笑みを白髭の内側で作り、しかし、ムスティスラーフの視線は鋭い。
「備え付けの大砲は無さそうだけど、当然、迎撃は来るよね」
 段々と迫る黒船は、詰めていくとその大きさが解る。
 乗船した小船からだと、甲板は遥か上空、といえる高さだ。必然的に、こちらからの攻撃は届きにくく、相手からの迎撃は当たりやすい。
「戦う前からかーなり厳しいですよねこれ!」
 左舷の海上に、銃弾の雨が降る。弾けた海水を腕で防ぎつつ、『虹を齧って歩こう』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)は潮の強い匂いに鼻を鳴らした。
 見上げる。
 腰壁の手すりを盾に、断続的な迎撃が行われていた。
 とはいえ、その頻度は高くない。狙いも乱雑で、ムスティスラーフが防御するよりも、左右に着弾する無駄弾の方が多いくらいだ。
「厄介な相手……とは思っていましたけれど、近づくのは容易そうですね……?」
 物陰に身を潜めた『はらぺこフレンズ』エリス(p3p007830)は、覗かせた視界で大きくなる敵船を見据える。
 退かせるのは難しそう、と構えていた分、航行の易さは緊張を少しだけ和らげてくれた。
 だから、ふぅ、と一息を吐いて。
「甲板の奴等が下がり出した。加速させるぞ、みんな──俺の操船テクに見惚れて機会を逃すなよ?」
「はい!」
「張り切るのはいいけど、気負い過ぎない程度にな」
 海鳥の俯瞰視点と同期したレイチェルの言葉に力強く頷き、強化術式を広げた世界の言葉に拳を握った。
 目標距離。あと、10m。

 ──違和があった。
 敵の戦力は総勢で20名。停船させた割に迎撃は軽く、狙いは逸れている。
 おかしい。
 イレギュラーズ達は、その違和を表す言葉に辿り着けないまま黒船に接近し、顔を見合わせ、同時に翔んだ。
 そうして。
「──!」
 答えを知る閃光を見た。


「ようこそ強者達」
 しゃがれた声だ。
「出迎えは、どうだったね、ええ?」
 並ぶ戦士達の奥に、白髪をオールバックにした老人が居る。それがスティネットであることは想像に易く、そしてそれらを含めた敵は一人残らず強い。
「かはっ」
 背中から甲板に墜ちたコゼットを横目に、汰磨羇はその確信を得た。
「始めからそういう狙い、だったんだな」
 歯噛みする。
 情報から得た印象と、実際の迎撃戦闘の差違から、気付けて良かった戦略だったはずだ、と、そういう至らなさに憤りすらある。
「狙いが左右に振れたのではなく、接近のコースを限定させたな? 飛び移りのタイミングを解りやすくして、まんまと乗り込む隙をついて集中砲火を浴びせ、確実に一人を潰す」
 戦略だ。
 同時に飛び乗ってくる複数人に対して、一番速かった者、あるいは向かって右端の相手。そういう条件を共有して、狙いを合わせて攻撃する。
 それがたまたまコゼットだった。それだけのことで。
「しかし、潰せなんだ。タフだなお嬢ちゃん」
「はっ……弱すぎ、なんじゃ、ないの……?」
 嘘だ。
 パンドラの強制力が無ければ、とても立っていられないダメージを、彼女は負っている。
「そうだな? それじゃあ、強めに行くとしようか」
 そして唐突に、鉄帝の兵は動き出す。対応するようにイレギュラーズ達も動き、戦闘が開始された。
「無理はするなよ」
 手始めにコゼットが狙われる。そう予測し、事実、押し寄せた敵を前にして、世界はコゼットの消耗した体力を回復させた。
 だが心許ない。
 一斉に打ちのめされれば、再起不能に陥るのは避けられないだろう。
「Sturm und Drang」
 だがそこに、紅が迸る。
 血が滴る指先で宙を撫で、陣を描いたレイチェルからの光だ。
「おい、一人で遊ぶなよ。俺達だっているんだぜ?」
 トン、トン、と陣を叩いて一息。
「咲けよ、焔華」
 放たれた燃え盛りは敵を包み込む。熱は一瞬で囲うように配置され、内側に逆巻く動きで焼き焦がす。
「そうそう、無視されちゃうと僕……ハッスルしちゃうなぁ!」
 足を止めた敵に向き直るのはムスティスラーフだ。
 小瓶をふわりと投げてから、ムンッ、と力を入れて大きく胸を張る様に息を吸い込む。
 そして。
「ゲロビ……!」
 緑色の極太光が一直線に放たれた。
「汚ぇ爺は若ぇ奴等に嫌われるぜ、じいさんよ?」
「身体は老いても、心まで老いたつもりはないよ!」
「ははぁ、お前さん、若者には負けんとかいうタチかよ」
 駆け抜ける動きがある。
 焔を逃れた戦士による詰め寄りの動きだ。
 紅を越え、緑をやり過ごし、
「行かせません」
 白い少女が立ちはだかった。
 ライアーだ。
 全員は相手に出来ない。だが、一人を減らす事は出来る。だから走る相手に横合いからのスライディングを仕掛けて動きを阻害し、相対する形を取らせた。
「止めます」
 敵は、ブレード持ちだ。リーチとしてはライアーのレイピアが勝っている。
 水平に切っ先を構え、浅い踏み込みで一突きを放つ。
「っ!」
 それを、掻い潜りで相手は踏み込んだ。深く、地に伏せる様な姿勢だ。大きく引いた刃はそのまま、振り上げの軌跡を描くだろう。
「ならば」
 浅い踏み締めを強くする。甲板を蹴り、上へ跳ぶ為に。
 ふわりと浮いた身体は、前方へ向かう力が掛かっている。故に、ブレードに追われる形で、相手の背を飛び越える動きになった。
 縦に体を回して、着地し、振り返って反撃の一撃を、
「──って」
 打ち込もうとした時には既に、敵は一直線にコゼットへ向かっていた。
「徹頭徹尾ですね……!」
 確実に。一人ずつ。潰す。
 先手を取られた今、こちらは防戦の流れだ。それをここで変えなければと、追跡に加速しようとライアーは前へ行くが、その時。
「動かないで」
 その声に、足を止めた。
 見たのは、コゼットへ向かう戦士達の上空。丸く広がった魔方陣を、エリスが発現させた姿だ。
「纏めて、破壊します!」
 そうして降り落ちる雹の雨は、数の暴力となって強かに戦士達を打ちのめす。
 ……これでも止まりませんか!
 だが進行は留まらない。愚直とも言える前進で、ターゲットに定めた相手へ詰め寄っていく。
「だい、じょうぶ」
 そして、当のコゼットは、ふらりと揺れながら立っている状態だった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」
 伏せた顔を徐に上げ、迫った敵を見つめたら。
「が、は……!?」
 左下。倒れ込む様に姿勢を下げて一歩進み、流し目で追い越した敵の背中を見る。
 そして、振り払う軽さで後ろを蹴り、衝撃を生み出す術式を発動させた。
 ──吹き飛ばす。
 腰壁の手すりへと、制御の効かない吹き飛びだ。
 目的としては海に落とす事だが、障害物があってはそれもままならない。
「だったら追い討ち、ですよね!」
 アンダースローの一撃を、ウィズィは放つ。
 振り子にした投擲は床を擦り、鋭角に斜め上へと発射されたナイフは光を溜めて、着弾と共に弾けて飛んだ。
「早く助けないと、沈んじゃうかもよ」
 ふぅ。
 一息を入れたコゼットはしっかりと立つ。
 今の流れで、スティネット率いる戦士で継戦可能な数は15人に減っていた。
「そうかもな。けれど、そうならないかも知れない」
 否定は、スティネットから起きる。
 その言葉に、ああ、と得心したのは世界だ。
 弛んだ瞳を奥にした眼鏡を押し上げながら、彼は引き継ぐ様に言葉を続ける。
「ここらへん、浅瀬が多いな? 船が通れる位の深さはあっても、運が良ければ陸地に流れ着く」
 なんとも適当な事だと思う。
「だがそうならないかもしれない。いや、助からない可能性の方が高いぞ」
 いいのか? と、疑問した汰磨羇は言う。
「私達はこれから、御主らを叩き落とす。戦闘を放棄し逃げ帰るまでな」
 いいか。と、再度の前置きを入れて。
「お互い、どちらか全滅するまでが目的ではあるまい。ならば、大人しく退くという選択も、あるのではないか?」
「それは無いな。いいか? 根本的に前提が違う」
 撤退勧告を、老兵は笑って否定した。
 彼の前に、並び立つ戦士達はそれぞれ武器を構え、
「我等は王を護る者」
「意志を貫く者」
「王に届きうる牙を持つ者を、決して逃がさない者」
 一息。
「全滅しようとしまいと、退くならお前達を帰してからだな、ええ、おい」
 踏み出したスティネットの動きを合図に、鉄帝の兵は再度の突撃を行った。


「利を得たい。悲願を為し遂げたい。人と欲は、切っても切れない性と言うもの」
 ライアーは、迫る戦士二人を相手取りながら、微かに笑う。
 今自分は、追い込まれている。一度のやりとりで、範囲攻撃を警戒した敵は二人一組に別れ、分断と距離を空ける様な戦法を取った。
 そこには当然スティネットも居て、
「欲を説くつもりかい?」
「いいえ。しかし、見ているだけならば面白いものだと、そう思うだけですわ」
 鋭い拳がぶちこまれる。鳩尾をピンポイントに狙った一撃だ。
 腕を挟み込んで防御とするが、骨がひしゃげそうな衝撃に苦悶が浮かぶ。
「っ、あ!」
 そこを逃さず、戦士からの追撃が入る。ロングソードを両手に握り、上段からの振り下ろしだ。
 膝が折れ、片腕が動かないライアーは、細腕一本でレイピアを構えるしかなく、結果、受けきれない一撃に吹き飛んで甲板の中央に転がった。
 飛んだ意識を無理矢理引き戻し、床に着いた手で体を起こして。
「終わりか、お嬢ちゃん」
 首元に刃が添えられた。
「そうですね」
 それにやはり、ライアーはふ、と笑って、
「やることはやりましたわ」
 地に伏せる。
 その上を、絶命に至る吹き飛ばしを受けた戦士が通過した。
「……なるほど」
 得心しながら、直撃するそれを片手で受け止めて転がす。
 その視線の先には、青の残滓に姿を霞ませたエリスがいる。
 今、指揮官である彼は、中央に居た。散らばった戦闘域はそれらを取り囲む様にあり、
「そら、気を付けるがいいぞ?」
 戦闘中に関わらず、ドーナツを頬張りながらの汰磨羇が言う。
 纏う様に霧を払い、両肩に二つの刃を受ける。ガクンと落ちた姿勢を無理矢理に踏み止めさせ、左右の掌に力を集わせる。
「っ……ドーナツを食べた私は、無敵だからな」
 そうして、その力を敵へ叩き込み、爆発するような衝撃を発生させて船縁へと吹き飛ばした。
 踏み出す。
 スティネットに向かって進む。
 浅く呼吸を繰り返して気を整え、間合いに捉えて捕らえ、
「──ッ」
 打ち出す拳が肉を叩いた。だがそれは、狙ったスティネットではない。彼の足元に転がっていた、ただの遺体だ。
「盾に……!」
 さらに、その肉を貫いて老兵の刃が汰磨羇に届く。肩から内側に突き刺さり、引き抜かれて鮮血が散る。
「このまま兵を無駄遣いする気か……!」
 ナイフを握る力が増す。ぎゅ、とした感触を得ながら、囲いを抜けてウィズィはスティネットへと迫った。
「行かせると……!」
「──行か、せる!」
 その邪魔をするのは、もちろん抜かれた者達だ。だがそれを通させるのが、コゼットの動きだった。
 自分の前に居る相手の腹に爪先を打ち込み、踏む様に下方へ力を込めて跳ぶ。乗り越え、体を縮こませながらの着地と同時に反発。
「行って!」
「はい!」
 ウィズィの後ろから迫る一人をドロップキックで転ばせる。片足で床に着き、振り返る動きの回し蹴りでもう一人を──。
「痛ぅ……!」
 顔面にぶちこむより速く、銃弾がウィズィの背を抉った。一歩、二歩とよろめいた彼女は、三歩目で前へ加速する。
「突き進むよ」
 ナイフが閃いた。
 横に振られる一撃を老兵は後ろにズレて躱し、すかさず剣を反撃に薙いだ。
「!?」
 しかしウィズィは、更に距離を詰める事でその攻撃を無効とした。近すぎる距離で、剣の刃を当てるのは無理だからだ。
「さっきより元気じゃないのお嬢ちゃん……だがよ!」
 突き出されたナイフを、腕に差し込ませて固定する。次いで剣を捨て、それを握る手首を掴む事でウィズィをその場に繋ぎ止め、
「こっちの剣はまだあるんだぜ?」
 側に控えた戦士のブレードが、逃れられない体に突き立った。
「それなら」
「こっちには癒しがあるよ!」
 だが同時に、白光と蒼光が少女の体を包み込む。
「全く、誰も彼も無茶をする」
 世界とムスティスラーフの治癒だ。深いため息を吐き出した世界は、妨害してくる二人をやり過ごしながら続ける。
「手練れと言いつつ泥臭い。軍人というより敗残兵のそれだな」
 解りやすい挑発だと、自分で思う。だがそれで、多少でも注意を引ければ、とも。何せ今、どちらに転んでも可笑しくない極限の状況で、些細な隙が致命的になる。
 だから。
「いただきました」
 視線が世界に向いた刹那を、エリスは狙った。発現させたのは黒いキューブ。それで、スティネットの側の戦士を包んで閉じ込め、
「ようやくだ」
 レイチェルの瞳が、敵を見た。
 右腕をそちらに向け、精神力で作り出した弾丸を浮かせる。満ちていた生命力を捧げて魔力を充填し、緋色を纏った一発を瞬く間に精製。
「ぶち抜く」
 それを、スティネットの体にぶちこんだ。
「──!」
 同時、甲板に設置されていた錨の制御盤を、彼はホルスターから抜いた拳銃で撃った。固定された鎖が外れ、重りを無くした黒船は潮の流れに強く揺れる。
「はは……死ぬまで戦い、漂流でもするかい」
「コイツ……!」
 退くか、続けるか。その選択を前にイレギュラーズ達は。


「少なくとも」
 ゆっくりと揺れる小船に、彼等は居る。
「継続戦闘は出来はしない。私達も、鉄帝も」
 結果だけを見れば痛み分けだ。だが、目的を果たしたという意味では、イレギュラーズの勝利と言えるだろう。
 とはいえ。
「帰れるんだろうか」
 遠く、水平線に見える黒い船は小さい。ただ潮の流れに乗っただけの船は、何処へ辿り着くのだろうか。
 海洋への帰路の上で、イレギュラーズは束の間の休みを得た。

成否

成功

MVP

コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ

状態異常

なし

あとがき

 参加ありがとうございました。
 冒険の一助となっていれば幸いです。
 またよろしくお願いいたします。

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