PandoraPartyProject

シナリオ詳細

『いつも通り』をまもるヒト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 目が醒めると、ボロい天井が目に入って。
 今にも崩れそうな家を出ると、ボロい通りがあって。
 道端には蹲った老人や、怪しげな物を売る商人がいる。

 良くも悪くもいつも通りの光景だ。

 だから僕はいつもの場所へ向かう。
 外は寒いけれど、新しい服を買う余裕なんてない。だから薄い布1枚だ。
(今年も生きられるかな)
 死ぬかも、という思考の後には『仕方ない』という諦めがやってくる。
 ゼシュテル鉄帝国はそういう国だ。強者は優遇されて、弱者は冷遇される。弱いヤツが死んだって、上の連中は何も思わないんだろう。

 白い息を吐きながら、ヤバい奴に呼び止められないよう駆け足で。
 広場に子供達で集まって、今日はどうしようかと話すのだ。
 ある時は施しの話を聞いて炊き出しへ向かい。
 ある時は限り少ない雑草を皆で集めに行って。
 またある時は知り合いの老人が死んだから、身ぐるみを剥いで埋めた。
 埋めたと言ってもスラムに転がる遺体がまとめて"処理"される集合墓地だ。皆貧しいから、遺体と共に何か衣類や装飾品が残っていることなんて滅多にない。
 だってそうでもしないと、生きていけないから。

 今日は死んでる誰かも見ずにいつもの広場へたどり着く。太陽の位置からすると、昨日よりは少し遅めだ。
 多分最後だな、なんて思いながら広場へ1歩。そして──僕は目の前の光景に固まった。

 あか。
 赤、赤、赤。
 地面にはたくさんの赤。転がる何か。動いているのは、動物。

 動物がグウルルルル、と威嚇の声を上げる。振り返って僕を見たそいつの牙は、やっぱり赤い。
 心臓の音が耳に痛い。空気が吸えない。
(どうしよう)
 僕は。
(どうしたらいい)
 戦えないんだ。
(死にたくない)
 でも、動けない。
 そいつが飛びかかってくる様は、やけに遅く感じた。胸を強く押される感触、首元に走った熱い衝撃。
 打ったはずの頭は痛くなかった。青い空がそれ以上に僕の意識を引き付けたから。


 目が醒めると、ボロい天井が目に入って。
 今にも崩れそうな家を出ると、ボロい通りがあって。
 道端には蹲った老人や、怪しげな物を売る商人がいる。

 そんないつも通りに、もう僕はいない。



「鉄帝のスラムを助けてあげて欲しいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼書を手にそう告げる。
 ゼシュテル鉄帝国といえば、強者が多くいる印象を受けるだろう。しかし彼らが強者たれるのは弱者がいてこそ。鉄帝ではスラム問題が深刻な問題となっていた。
「スラムの人たちを強制的に立ち退きさせようって動きがあるのです。逆に、スラムの人たちを助けようって動きもあって……トラブルがたくさん起きているのですよ」
 異なる意見を持つもの同士がいれば、ぶつかるのは必然だ。イレギュラーズへ依頼がくるのだから、その解決方法が穏やかで無いことは想像に難く無い。
「これはつい先ほど……本当にすぐのことなのです。スラムにモンスターが迷い込んだのです」
 本当に”紛れ込んだ”のかと言えば、それは否であろう。けれどそう手引きした者は早々に姿をくらませてしまった。
 モンスターは非常に凶暴で好戦的。そして飢えているのか、視界に入ったスラムの住人を次々と襲ったそうだ。
「このままだとどんどん被害が大きくなって……皆、殺されちゃうのです」
 寒気がしたのかふるり、とその身を震わせて。ユリーカはイレギュラーズに懇願の眼差しを向けた。

GMコメント

●成功条件
 スラム街に現れたモンスターの討伐

●情報制度
 このシナリオの情報制度はAです。
 予想外の事態は起こりません。

●エネミー
・イーヴィロルフ×10体
 普通の狼より大きな体躯をもつモンスターの群れ。鉄帝のスラム住民立ち退きを望む者により放たれたようです。尚、モンスターをスラムへ誘導した者は周囲におらず、すでに立ち去っています。
 鋭い牙と素早い動きが特徴です。とても好戦的で飢えており、仲間以外を見れば見境なく飛び掛かってくるでしょう。血の匂いに酔っているのか、今は飢餓より闘争本能が勝るようです。
 各々が好きに獲物を狩っているようですが、攻撃が集中した際は非常に注意が必要です。

●フィールド
 スラム街です。あばら家が立ち並び、いつ倒壊してもおかしくないような状態です。
 障害物としての利用は可能ですが、簡単に壊されるでしょう。
 尚、OP上で死んだ子供たちの遺体はまだ辺りに転がっています。周囲に人気はありません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 誰かの『いつも通り』を守るために、凶悪なモンスターを倒しましょう。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 『いつも通り』をまもるヒト完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
桐神 きり(p3p007718)

リプレイ


 イレギュラーズが到着した時点で、すでにスラムは悲鳴と混乱の中にあった。
 誰もが逃げまどい、誰もが我が身を大事に動く。血と死の香りが濃くその場に充満していた。
(やる事は普通の魔物退治ですが……どうやら、既に事が起こった後のようですねー)
 桐神 きり(p3p007718)は見た目にそぐわぬ冷静さで周囲の状況を把握する。なんてことはない、普段と同様に効率よく、完璧な依頼遂行を目指すだけだ。
 しかし誰もが彼女のように、冷静で鋭い思考を持てるわけではない。この惨状を見れば、特に。
「……惨い」
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)は飛び散り黒く変色し始めた血と、そこへ横たわる骸を見てそう思わざるを得なかった。
 鉄帝は自らの出身国だ。だからこそ強者が正義であることは身を以て知っている。けれど──。
(彼等がここまでされる謂れはありません)
 強者こそ正義であれど、弱者をないがしろにするのは別の話だ。
 オリーブの呟きに『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)がああ、と頷く。
「こんな酷い扱いをするような国ではない、と思っていたんだけどね」
 弱者には厳しい国だと言うことは知っている。メートヒェンもまた鉄帝の出であり、そしてスラム出身でもあった。だからこそ、今の状況には引っかかるものを感じてしまう。
(本当にただスラムの再開発が目的なのかな)
 考え込みかけたメートヒェンは、首を振って気持ちを切り替える。今はそれを考察している場合ではない。一刻も早くスラムの日常を取り戻さなくてはならないのだ。

「緊急なのです。無私稼働すること、ご容赦ください」
 『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)がふわりと浮き上がり、スラムを俯瞰する。此度の彼女は司令塔だ。
「それでは参ります──状況最適化、開始」
 まずは敵を見つけ、スラムの住人や骸から引き離さなくてはならない。イレギュラーズが散開し、捜索を始める。
 『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)は建物の倒壊を防ぐべく保護結界を張った。少しでも逃げる人々を建物の倒壊から守り、生活の場を残せるように。同時に『無敵鉄板暴牛』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が大きな、とても大きな声で住民たちへ呼びかける。
『モンスターがいます! 屋外に出ないで!』
 姿を見せなければ、襲われる確率は減るだろう。それにこうして声を出すことで敵には『自分たちがここにいるぞ』と示すことにもなる。
 同じように声をあげるのは蛍だ。声量はリュカシスに及ばないが、透視で隠れている住人たちを見つけ的確に声を届けていく。途中、逃げ惑う住民が視界に入るが──そこへ向かったのは桜咲の放った少女型ロボット。その避難誘導に束の間ほっと安堵の色を浮かべた蛍は、しかしすぐに表情を改めて駆け出す。
 鋭い視力で辺りを見回していたきりは、視界によぎった影を思わず視線で追いかけた。けれどその影が──影の持つ熱が人の形をしていると認識するや、別の影を探し始める。モンスターは狼のような姿と聞いたから、人の形をしているなら人間以外にあり得ない。
「これ以上、ここでの犠牲は出させるもんか……!」
 『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は全身で助けを求める声を探す。人助けセンサーが知らせる沢山の声は逃げ惑う人々のものだろう。不意にその中の1つが、消えた。
 咄嗟に顔を上げたシャルレィス。珠緒のハイテレパスでその旨を伝えると、彼女を介して皆へその情報が広がる。
 次いでちらほらと消えていく反応をシャルレィスが伝えると、桜咲は空中を移動しながら視認した仲間へ。伝達された情報にイレギュラーズが動き、モンスターたちを見つけていく。
「隠れてる人は出てこないで!」
『ボクたちはここだよ! 出てこい!』
 蛍が鋭く声を上げる。次いでどこか別の場所で、リュカシスの大きな声がモンスターを呼んだ。近づかんとする敵の気配に 『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)がぐっと拳を握った。
 この惨状に哀しみを覚えないわけがない。けれど、タントの瞳に宿る光は哀しみのそれではない。かつて経験したこともないほどに、タントは『怒り』を感じていた。
 その怒りをぶつける先は──目の前に現れた、獣。
「誰が許しても、お天道様が許しませんわ!!」



「さぁ、躾のなってない駄犬達は私が調教してあげるよ、かかっておいで!」
 声を上げてメートヒェンがモンスターを誘導する。向かう先はあらかじめファミリアーに見つけてもらった、人気のない広場だ。
 桜咲のサポートにより、モンスターを引きつけた仲間たちが徐々にそこへと向かい始める。その途中、響いた悲鳴に蛍が駆け出した。住民とモンスターを視界へ収め、射程に入ると同時に力を溜め始める。
 蛍の技を放つのが先か。
 住民が殺されるのが先か。
「──もう誰も死なせない!」
 高速詠唱により、桜の花弁が視界を埋め尽くす──そんな幻影がモンスターを包み込む。その視線が蛍へ向いたことを感じるや否や、蛍は桜咲を仰ぎながら踵を返した。
『蛍さん、そこを真っ直ぐ、進んでください』
 言われるがままに進む蛍。脇道から仲間が合流し、その後ろからモンスターが追いかけてくる。
 すでにこの道はモンスターが通り抜けた後なのだろう──転がる骸を尻目に、イレギュラーズたちは広場へ抜けた。
『戦況優位確保。殲滅加速』
 桜咲の言葉に蛍が高速詠唱で桜の幻影を作り出す。その視界に映るのは仲間たちと、モンスターと──広場の端に転がった子供たちの遺体。この時間だ、何か子供同士で集まって遊ぼうとでもしていたのかもしれないし、或いは皆で生きるために足掻いていたのかもしれない。なのに──こんな理不尽なことがあっていいのか。
 直後、すぐさま動いたのは四つ足のモンスターたちだ。桜に惑わされたモノは蛍へ、それ以外はここまで自らを連れてきたイレギュラーズへ。桜咲とタントが天使の福音を響かせ、仲間の傷をすぐさま癒しにかかる。
「もう誰も殺させないよ! 私が相手だ!」
 メートヒェンの声に複数の眼がそちらを向く。うち1体へシャルレィスの斬撃が振り下ろされた。息をつかせぬ的確な刺突と斬りつけがやんだかと思えば、そこへオリーブが長剣を手に格闘戦をしかけていく。
「ガンガン攻撃していきますよ!」
 心を落ち着かせ、きりの左目が一瞬だけ眩い赤を帯びる。次いで紅の衝撃波がモンスターたちを襲った。その毛皮を焼き焦がされながらも唸りを上げるモンスターへ、リュカシスの拳が降りぬかれる。
「殺戮の道具にされて哀れだけれど……慈悲はありません。全て刈り落としマス」
 その瞳は真っすぐで、冷静だ。しかしそれは脳裏に思い浮かぶ光景があればこそ。
(……もう少し早くこの場に来たかったデス)
 あと少し、それだけでもどれだけの命が助けられただろう。ここに来るまでに転がっていた骸は、どれだけが息をしていることができただろう。
(せめて、今はこれ以上の被害を出さないように)
 それがイレギュラーズたちに、自分たちに今できることだ。

 引き付け役がモンスターを集め、仲間たちが敵を叩く。数を減らしていく間にも、凶悪なほどに鋭い爪や牙がイレギュラーズを傷つけていた。
「今度は私が相手だよ!」
 シャルレィスが声をあげ、メートヒェンからモンスターたちを引きはがしていく。小さく息をついた彼女を桜咲が癒した。これでまだ頑張れる、とメートヒェンはバックハンドブロウで攻撃を仕掛けていく。
(こんな風になる前に、助けたかった)
 モンスターの攻撃を受け止めながら、シャルレィスは眉根を寄せた。浮かぶのはモンスターを捜索する間に見つけた、いくつもの骸。
 誰かを守れる剣になる──そんな目標の前に、現実は非情だった。世界に溢れる悲劇はあまりにも多かった。
(私の剣で守れるものなんて、あまりに少ない。……だけど、それでも)
 傷を負いながら、血を流しながら、思う。
 剣を振るうことでほんの少しでも誰かを、何かを守れる可能性があるのなら──きっと、無駄じゃない。
「……負けない。守るんだ!」
 シャルレィスは強き光を瞳にたたえ、敵から目を離さない。
 一方、蛍は一向に衰えぬ戦意を宿して数学の教科書”だったモノ”を開いた。ページがバラバラにふん解されていき、それらが蛍を中心に乱れ舞う。
 異形の頁が敵へ魅せたのは、何だったのか。それは敵自身にしかわからぬことではあるが、再び蛍へと引き付けられたモンスターたちが群がっていく。何体かは周りにつられて向かっていったようだが、その数はシャルレィスの引き付けるそれより多い。それに気付いて真っ先に動いたのはタントだ。
「お待ちなさい! 相手をするのは蛍様だけではありませんわよ!
 このわたくし──

   \きらめけ!/

   \ぼくらの!/

 \\\タント様!///

 ──が! 相手して差し上げますわ!!」
 きりりと眦を吊り上げ、いつもの笑みはどこへやら。そう、タント様は怒っているのである。とても怒っているのである!!
 その怒りに反応してか、その圧倒的存在感故か──蛍へ引き付けられていたわけではないモンスターが数体、タントの方へと向いた。その殺伐とした視線を向けられてもきらめくお嬢様はひるまない。
「わたくしはちょっとやそっとでは沈みませんわよ!」
 かかってらっしゃい、というように構えたタント。その瞳はちらり、と仲間たちの方へ向けられたが桜咲が動いたのを見て視線を戻す。
 一瞬視線が向いた先ではきりが紅閃を撃ち続けていた。広場とはいえ、遠くの建物に当たるとも限らない。保護結界を張っているとは聞いているが、念のため当たらないような立ち回りできりは動く。そこへかかる桜咲の声援が味方の気力を押し上げた。それに押されるようにリュカシスが弾幕攻撃を食らわせ、オリーブ長剣を旋回させて暴風域を作り出す。
 度重なるモンスターの攻撃に蛍が膝を折りかけるが、頑と譲らぬ意思がその足に力を入れさせる。
(理不尽に殺された子供たちの体や、心の痛みは……きっとこんなものじゃなかったはずだもの!)
 だから自分はこんなところで倒れられない。そして多少の無理や痛みを『何でもない』と思えるのは──桜咲を始めとした、力強い仲間たちと共にいるから。
 倒れるはずだった一撃を回避し、追ってタントと桜咲が回復する。
「力が全てだからって、弱者を、命をないがしろにしていいはずなんてないわ……!」
 少しでも救える命を救うのだ。この命をかけてでも。
「今度はボクが相手になりマス!」
 リュカシスがすかさず蛍から注意を引きはがす。タントのミリアドハーモニクスが蛍を癒し、仲間たちがあと一押しと武器をモンスターへ向けて。蛍は渾身の力を込めて桜の結界へモンスターを閉じ込めた。
 満開の桜が散り、囚われたモンスターの命を削る。桃色の花弁がすべて散り、結界が解けた様を見て静かに珠緒が口を開いた。
「──状況、終了」



 戦闘が終わっても、しなければならないことはある。より正確に言えば『しなければならない』わけではないが、『しておきたいこと』だろう。
(荒らした戦場の片づけはもちろん、犠牲の人の弔いもですね)
 必要なことを頭の中でリストアップしながら、きりはつと目を細める。
 これは決して正義感に突き動かされているわけではない。心が痛むというわけでも、決して。言うなれば──そう、点数稼ぎ。
(ぶっちゃけキャラじゃないですし、そういう事にしときましょう)
 うん、と自らを納得させるきり。さあ今のうちに点数沢山稼ぐぞと言わんばかりに、彼女は血の流れ終わった戦場へ駆け出していく。
(敵の骸、そのままにしておきましょうか)
 動かぬモンスターを見下ろしたリュカシスはそう判断した。スラムでは利用できるものがあれば何でも利用する。この鋭い爪も、丈夫な毛皮も必要だと思えば活用されることだろう。
 ひと足先に蛍と珠緒は遺体の回収を行っていた。どれだけ無残でも目を背けることなく、1人ずつ骸を丁寧に埋葬する準備を整える。
「珠緒さん、大丈夫?」
 自らの陰に隠れる珠緒へ声をかけると、彼女は頷いたもののよりしっかりと蛍の陰へ隠れてしまった。
「珠緒は、住民の方々へは、姿を見せるべきではないでしょう」
 先ほどまでの戦いで、珠緒は機械的に敵を狩り立てた。その姿はきっと獣と何ら変わりないだろう。
 けれどだからと言って何もしないわけではない。珠緒は蛍と共に骸を運んだり、飛んで行ってしまった骸の一部分を探したりと働く。
 並べた遺体は決して少なくなく、蛍は歯噛みした。
「力ある者が上に立つ国なら、その力の使い方もしっかり制御しなさいよ……!」
 弱者は強者に勝てない。当然のことだ。だからこそ強者が力の使い方を誤れば悲惨な結果が待っている。力の制御など、強者の務めだろうに。
 遺体のそばではオリーブがそっと遺体の顔へ手を当てる。その手を外してやれば──もう、骸が空虚に青い空を見上げていることもない。血の跡を見なければ、ただ眠っているようにも見えるだろう。
(自分に出来る事はこれぐらいです)
 その命を守ることはできず。そしてこの事件の大本を掴めたわけでもない。まだ終わったとは言い難いだろう。
「──急ぎ、次へ」
 淡々とくぐもった呟きが零れ落ちた。

 とさり、と地面に置かれた骸は驚くほど軽かった。
(やはり共同墓地に埋葬するしか……ないのですかしらね)
 タントは目を伏せる。弔うにしてもスラムの住人にきちんとした墓が与えられるのは相応の理由あってだろう。ほとんどの場合はこの場、共同墓地へと埋葬される。
 いや、埋葬されるなら良い方なのかもしれない。
 放置された骸はどれも裸に剥かれ、どれだけ置いておかれたのか白骨化が進んでいる骸もあった。定期的に埋めているわけではないのだろう。
 せめてとイレギュラーズたちは穴を掘り、運んできた骸をそこへ収める。シャルレィスが穴へ骸を下ろしながら、そっと声をかけた。
「恐ろしいモンスターは、もういないからね」
 応える声は当然、ない。小さく唇を引き結んで、シャルレィスは骸から手を放し、穴から上がる。
(どうかせめて、静かに眠って)
 そっと目を閉じて祈る──今はそれしかできないから。敵を、モンスターを倒したからって人間が生き返るわけではない。
 彼女の隣でリュカシスもまた胸に手を当て黙祷を捧げていた。一体何人が亡くなったのかと運ぶまでに見た、骸たちの顔。リュカシスは誰1人として名前を知らない。けれど──忘れることなど、ありはしない。
 ここで犠牲になった者たちを、忘れてはいけない。
(どうか安寧と共におやすみくださいませ)
 柔らかく土がかけられ、彼らの顔が見えなくなっていく。こんもりと小さな丘を築くものの──きっとここへ花を供えても誰かが持って行ってしまうだろうと思われた。
「せめて、お天道様の光を」
 両手を組んで祈るタントが温かく光を発する。地面の下の骸まで──空へ昇る魂まで、届いているだろうか。
「……スラムのこと、このままでいい筈ありません」
 ぽつりと呟いたのは黙祷を終えたリュカシスだ。その瞳には強き光が宿っている。ああ、と頷いたのはメートヒェンだ。
 まだ大本は叩いていない。まだ根本的な解決には至っていない。必ずや犯人を見つけ出し、2度とこんなことができないようにしなくてはならない。
 自分たちの──イレギュラーズたちの力で解決させるのだ。
「それをもって、必ずや餞けといたしましょう」
 きっとそんなはなむけが無ければ、彼らも安心して逝けないだろうから。イレギュラーズたちは魂の残滓でも探すかのように上を見た。
 彼らの頭上に広がっているのは、先ほどまでの凄惨な事件を思わせることのない澄んだ青空。


 誰かがいなくなったって。
 誰かが死んだって。
 世界は色づき、時間は巡っていく。何も変わりはしない。

 けれど変わりない日々を迎えられる人々がいるのは他でもない、この場へ赴いたイレギュラーズによる結果だった。

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 この事件の大本が解決されるよう、頑張りましょうね。

 委員長の貴女へ。強く真っすぐなその想いに、今回のMVPをお贈りします。
 御天道のあなたへ。その祈りが導とならんことを。称号をお贈りしています。ご確認ください。

 それではまたのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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