PandoraPartyProject

シナリオ詳細

オーパーツを守れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今回のあらすじ
 ゼシュテル鉄帝国で持ち上がったニュータウンの開発計画。スラムに替わる住居を用意し、雇用を生み出し、都市の成長の是正を図る。それこそがこの計画を立ち上げた者達による本来の意志であった。しかし、いつの世も計画が崇高な理想だけではまとまり得ないのが世の中というものである。今回も金に意地汚い奴等がこの計画に眼をつけて、好き放題に利権を食い散らかそうとしていたのである。

●スラムの陰謀
 子供が積み木遊びで作ったような、不格好な城が帝都の中にあった。ある階層は石造り、またある階層はレンガ造り。もう一個違うところに目を向けてみれば鋼鉄造りと、その見た目は木に竹を接いだような有様である。
 ここは鉄帝でも最も歴史あるスラム街の一つであった。この城には鉄帝どころか、あらゆる国から脛に傷持つ者達が集まり住処を求める有様で、頂点の鉄の城に住まうやくざな荒くれ者達が彼らからアガリを求める代わりに、この城に住まう事を許したのである。何事も強きが勝ち弱きが負ける、ある意味ではさっぱりとした鉄帝らしい気風によって生活が営まれ続けていたこのスラム。しかし、そんな空間にも既に綻びが生まれていた。

 城の頂上。鉄で作られた部屋を、一人の年老いた鉄騎種が守っていた。長年このスラムを守り続けてきた『親分』である。彼は煙管を吹かしながら、目の前に立つ軍服姿の男二人を見渡す。
「わざわざ軍人が出向いてくるたあどういう了見だ?」
「知らぬとは言わせんぞ。ニュータウン開発計画を。このスラムはあまりにも汚すぎる。各国からの亡命者や犯罪者、賦役を放棄した奴らまで掻き集めて飲み込んでいる。これから雄飛していく定めの鉄帝には似つかわしくない汚点だ。とく退去せよ。後の事は追って連絡する」
「くどい。紙で言おうが口で言おうが同じ事だ。こういう場所が必要な人間ってのが世の中にはたくさんいるんだ。俺はそいつらの為に、この城を守り続ける」
 鉄の拳を握りしめた老爺は、胸いっぱいに溜め込んだ紫煙を軍人に向かって吐き出す。
「何より、貴様達には弱い奴らを食わせてやるという、強き者が持ち合わせねばならぬ覚悟ってもんを感じない。そんな奴らに、此処で暮らす連中の運命を任すなんて、出来る訳が――」
 その時、天井裏から次々に弾丸が放たれ、老爺の胸に突き刺さった。
「ぐおっ……」
 老爺はぐらりと傾ぎ、椅子から倒れる。天井裏から飛び降りた数人の男は、倒れた老爺をニタニタと下卑た笑みを浮かべて見下ろす。
「アンタみてえな考え方はもう古いんだよ。鉄帝はこれから生まれ変わるんだよ。じゃあな」
 男達は数人がかりで老人を抱え上げると、窓辺から城の外へと彼を放り出した。まんまとクーデターを成功せしめた男は、今まで老人が座っていた椅子にどっかりと腰を下ろす。
「さて、このスラムをぶっ壊すことに協力すりゃあ、此処に立つ新しいビルからアガリ取り放題でいいんだよな?」
「……我々は関知しない」
 軍人達は眼を背けた。手出し無用というわけである。男は笑みを浮かべた。
「じゃあ任せとけ。今からこのスラムから全員追い出してやるよ」

●チンピラを止めろ
 スラムを巡るショッケン将軍の陰謀。これを阻止すべく街を駆けずり回っていた君達の目の前に、いきなり老人が降ってきた。地面に深いクレーターを作るほどの勢いだったが、それでも老人は生きていた。恐るべき生命力である。
「く、くそっ……あの若造どもめ……!」
 胸元から血を流しながら、老人はその場でもがく。しかし立ち上がるだけの力は残っていなかった。君達が慌てて駆け寄ると、彼は鉄の右手を力強く伸ばし、一人の胸倉をつかんで引き寄せた。
「お、おい……ちょっと手ェ貸してくれねえか」
 老人は息も絶え絶えだ。誰かが不安そうな顔で見遣ったが、老人は首を振る。
「気にすんな。俺の心臓は鉄でできてる。このくらいじゃくたばりゃしねえ……だが、このままじゃこの城が奴らにダメにされちまう……」
 何が起きたのか尋ねようとしたが、老人は眉間に皺を寄せて語気を荒らげる。
「時間がねえからとにかく俺の話だけ聞け! この城の地下には発電機が四つある。こいつは照明だけじゃなく、この城全体に燃料を行きわたらせたり、水を汲み上げて浄水するために使ってる。困ったのが、こいつはいつだれが作ったかもわからねえ、ずっと昔から存在する代物だ。壊されたら直せる奴が居ねえんだ。これをダメにされたら、此処じゃ誰も暮らしていけなくなる……!」

「此処の連中はもうここにしか居場所がねえような奴等ばかりだ。頼む。てめえの事しか考えてねえような連中から、此処に暮らしてるやつらを守ってくれ……!」

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 立体スラムで戦闘を行います。
 全体としては団地やマンションのような構造になっていますが、階段や廊下が入り組んでおり、案内なしに進むと迷子になってしまう可能性があります。
 地下室の四か所に発電機がそれぞれ設置されています。各地に設置された変圧器から無造作に電線が伸びているような状態ですが、これを辿れば発電機には辿り着けるでしょう。
 チンピラ達は上から適当に狙いをつけて歩いています。人数に若干のブレはありますが、最終的には全ての発電機に辿り着くでしょう。

●敵
☆チンピラ×16
 ニュータウン計画にかこつけて一山当てようとしているクズです。悪だくみを巡らせて、彼らを支配する親分を追い払ってしまいました。こざかしく物陰に隠れたりしながら攻撃しようとしてきます。大した強さではありませんが、油断すると発電機を破壊されてしまうかもしれません。

・攻撃方法
→鉄砲、ナイフ
→爆弾
 発電機を破壊するために用意した爆弾です。何としても防ぎましょう。

●NPC
☆オヤブン
 オールドスラムを保護していた、仁義の心に溢れた老人。しかしそれゆえに部下に疎んじられ、遂に軍部の手引きによってクーデターを受けてしまった。

☆スラムの住人
 脛に傷持つ人々。流れてきた理由は人によって様々である。いずれにせよスラムの地理には精通しており、取引材料を用意すれば確実にスラムを案内してくれることだろう。

●TIPS
 電線を切られると照明が落ちてしまいます。


 影絵です。鉄帝シナリオ二つ目です。今回もよろしくお願いします。

  • オーパーツを守れ完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月27日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
七鳥・天十里(p3p001668)
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
日車・迅(p3p007500)
疾風迅狼

リプレイ

●古代の装置を探せ
 粗末な鉄の床を踏む足音が、狭い廊下にガンガンと響き渡る。スラムに場違いな甘い匂いを外套から漂わせつつ、ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は小さなバックラーを片手に走る。
「これが鉄帝のスラムですか。なるほど……」
「気に入らないか? でもここが僕達の最後の砦なんだよ」
 電線に等間隔に作られた節を数えながら、貴族崩れという男がぽつんと呟く。ベークは首を傾げた。
「さあ。僕にはここの良し悪しなどわかりかねますが、少なくとも、僕のような弱者が虐げられているというのはあまりいい気分ではない」
 ベークは淡々と応えた。鯛の白身のような淡白さである。
「まあ、鉄帝としてはそれが正しい在り方なのかもしれないですけどね。これだから超実力主義国家は……」
 しかし、鯛焼きの餡子のように、ほんのりと熱い心も持ち合わせていたりするのだ。七鳥・天十里(p3p001668)は両手に拳銃を握り、先行する彼の後を追いかける。
「まずは発電機まで行かないとね。先に辿り着かれちゃったら意味が――」
 その時、頭上から荒々しく足音が響く。階段を一足飛びに飛び降りてきた一団と出くわし、ベークと天十里は咄嗟に飛び退く。男も足を止めていきなり怒鳴る。
「危ねえだろうが、てめぇ! 気を付けろ……ん?」
 しかし、二人の身なりはスラムの景色から明らかに浮いている。一人の男がはっとして叫んだ。
「てめえら、ローレットの連中か!」
「ふうん? 察しが良いね! その通り!」
 咄嗟に天十里は天井近くまで跳びあがり、一人の男の足下を狙って銃弾を叩き込む。不意打ちで突き刺さった銃弾。その傷口には不意に紫色のルーンが浮かび上がり、男は不意にもだえ苦しみその場で転げ回った。彼らは咄嗟に身構える。
「はーチンピラ、とってもチンピラ。こういう輩には容赦しなくていいもんね。悪者に鉛玉ぶち込むのは得意だよ?」
 銃口の煙を吹いて、天十里は不敵に笑みを浮かべる。男は顔を顰め、壁際に張り巡らされた鉄パイプの先に口を押し当て叫んだ。
「侵入者だ! 急げ!」

 鉄パイプを伝った男の声は、スラム中にごうごうと響き渡った。酒を惜しみなく飲み干しながら、ラサの傭兵崩れという男がへらへらと笑う。
「へっへっ、どうやら仲間が見つかっちまったらしいなぁ」
「チンピラをしばくと決めた以上、遅かれ早かれ見つかるもんだ。道すがらで出くわしたらその場でぶちのめす。発電機に辿り着けたらそこでぶちのめす。やることは変わりゃしねえよ」
 亘理 義弘(p3p000398)はさらりと応えると、ニーニア・リーカー(p3p002058)をちらりと見遣った。
「どうだ、調子は」
「今やってるよ! でも、もう建て増しの増し増しでごちゃごちゃになってるんだよね……」
 ニーニアは今も手元に広げた何枚もの羊皮紙につらつら地図を書き起こしている。入り口でも簡単にこなしたが、スラムを飛び回る小鳥が次々に新しい情報を伝えてくるのだ。必死になっている彼女を見遣り、酔っぱらいは肩を竦めた。
「俺達を助けたって、大した金にならねえだろ」
「大事なのはお金じゃないよ。お金も欲しいけどね!」
「あんたのとこの親分、中々イカしてるじゃねえか。それが任侠で生きてきた俺には響いたってだけだ」
 そういって笑う二人のイレギュラーズ。狐につままれたような顔をしていたが、傭兵は呆れたように笑って酒を呷った。
「ま、この酒で俺も今一度雇われの身になったわけだ。最短距離で地下まで案内してやるよ」

 マルク・シリング(p3p001309)は地下へと続く薄暗い螺旋階段を駆け下りる。先の戦いで傷ついた身がチクリと傷むが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。
「ここでしか暮らしていけない人達から、生きる場所を取り上げる……それは実質的に『死ね』と言っているようなもの、だよね」
 彼は“貧しい”とはどういうことかを知っていた。貧しさはそれだけで村一つを地図から無くすほどなのだ。そして鉄帝の厳しさもわかっていた。食糧が行き渡らず、暖を取る燃料も満足にない国だ。
「まあ……追い出されたら、それはそれで、なるようになるさ。スラムは別に此処だけじゃねえ。もちろん、此処よりは生きにくくなるんだろうがな」
 当人はこんな調子だが。生まれも育ちも生粋のスラムだと、身に迫った危機というものはいっそわが身の外のように感じられるらしい。日車・迅(p3p007500)は溜め息を吐いた。
「ちょっとちょっと、貴方自身の問題でもあるんですよ」
「んなこと言われても、実際よくわかんねえからなあ……」
「とにかく、今ここが無くなっちゃったら、みんな困るんです。貴方も! 案内料はとにかく弾みますから、お願いしますよ!」
 迅は懐から更に金を差し出す。男は首を傾げた。
「まあ、別にどうってことないから案内くらいするけどさ……ほら、この通路を奥まで走ったら辿り着くよ」
「ありがとうございます。急ぎましょう!」
 マルクと迅は得体のしれない鉄の箱が放り出された広い廊下を走る。廊下の奥には分厚い鉄の扉が控えていた。
「あれですね!」
 刹那、不意に廊下の光が失われ、暗闇に包まれた。咄嗟に二人が暗視の準備をした時、不意に銃弾が廊下の彼方から襲い掛かった。

 照明が失われたのはマルクや迅のところばかりではなかった。ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は松明に火を灯しながら辺りを見渡す。
「あらあら、すっかり暗くなってしまいましたわねー……どうしたのでしょう?」
「バカどもが電線を切ったんだろ。ここの電線網は古いからな、一か所切るといろんなところに過電圧が掛かって連鎖的にダメになるんだよ」
 隻眼の飛行種は唸る。そのまま翼を広げ、螺旋階段の上まで飛び上がった。
「俺にとっちゃこの先は危なそうだから帰るぜ。なあ、オヤブンにちゃんと口利きしてくれるんだろうな?」
「もちろん。発電機の前まできっちり道案内してくれたって、話しておくさ!」
 イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は親指を立てる。鳥は頷いた。
「頼むぜ。アイツらに代わって、俺がオヤブンを支えるんだ」
 飛び去る背中を見送ると、イグナートは早速手近なジャンクを引きずって適当なバリケードを築き上げる。ユゥリアリアは槍の石突で鉄の床を打ち鳴らし、じっと耳を澄ます。廊下の彼方で反響が若干澱んでいる。何者かが動き回っているサインだ。
「来たようですわねー。準備はよろしくて?」
「もちろん。ここでゼンブ押さえこまないとね!」
 そこへチンピラ達がやってくる。乱暴に積み上げられたバリケードを前に、思わずチンピラは足を止める。
「くそっ……」
「さあ、開戦ですわー」
 ユゥリアリアは目の前に魔法陣を描き、その中心に向かって悍ましいほどに透き通った声を吹き込み始める。その声に秘められた魔力に敵が怯んだ隙に、イグナートは一気に飛び込みチンピラの群れのど真ん中でその拳を突き上げた。
「オレはこの国のスッキリした性格が好きだからさ、そういうイヤらしいやり口は気に入らないんだよね!」
 彼が身を翻した瞬間、撥ね飛ばされたチンピラの群れは一斉に暗闇の壁に叩きつけられた。

●身を挺しても、守れ!
 酒飲み傭兵の手引きで発電機に先回りしたニーニアと義弘。ニーニアは物陰に隠れるチンピラ達を睨みつけると、氷の詰まった袋を素早く振り回す。
「多くの人が住んでいる場所を、個人の欲望の為の道具になんてさせないよ!」
 ニーニアが氷袋を放り投げた瞬間、強烈な冷気が地下室の中を満たした。男達が寒さに震え上がった隙を突いて、義弘は一気に間合いを詰めていく。咄嗟に男は銃を向けるが、手元が震えて銃弾は明後日の方へ飛んでいく。
「鉄砲? ドス? 今更怖いもんじゃあねえなぁ」
 義弘は拳を固めると、素早く身を翻した。彼の身体を中心に暴風が巻き起こり、二人の男を巻き込み暗がりの中に叩き付ける。何とか嵐を免れた一人は、歯を剥き出しにしてニーニアへと襲い掛かる。
「どけ、ガキが!」
「ガキだなんて!」
 ニーニアは何処からともなく取り出したポストを一気に振り抜く。角が鳩尾に直撃し、男は息を詰まらせその場に倒れ込んだ。
「くそっ、なめやがって!」
 それを見た男が、やぶれかぶれで懐の爆弾を投げつける。義弘は咄嗟に爆弾をその手で受け止めると、そのまま爆弾の上に覆いかぶさり、その爆風を抑え込んだ。普通の人間なら死ぬところだが、彼はパンドラの力でそれを耐え切る。起き上がった彼の鬼気迫る表情に、男達は思わず震え上がる。
「な、なんだよこいつ……」
「てめえらこそ、ヤクザなめるんじゃねえぜ、ガキ共」
 義弘の凄みに、思わず男達は震え上がる。そのまま、ろくな抵抗も出来ずに殴り倒された。

 ベークと天十里は廊下での攻防を続けていた。魔法で作り出したバックラーを構え、チンピラの群れが放つ銃弾を正面で受け止め、突き出して来るナイフを盾の反りで受け流す。
「くそっ! どけよ!」
「……その程度では落ちてあげられませんよ」
 ベークは静かに答えると、術式を展開して更に結界を広げていく。
「よろしくお願いします、天十里さん」
「おっけー、任された!」
 天十里は壁を蹴りつけながらチンピラの頭上を跳び越えると、宙返りしながらその背中に狙いを定める。銃身が赤熱し、強烈な弾速の弾丸がチンピラの背中に突き刺さった。背中の装甲版が砕け、男は悲鳴を上げた。
「さっさと降参しちゃったらどう?」
「ちくしょう、余所者どもが、俺達の邪魔するんじゃねえよ!」
「確かに余所者かもしれませんが、僕達は依頼を引き受けた身なので」
「そうそう。親分さんに約束しちゃったからね! お前達は全員ぶっ飛ばしちゃうってね!」
 男の放った銃弾を紙一重で躱し、天十里は代わりにその眉間や胸元へ銃弾を撃ち込んでいく。断末魔の叫びと共に、彼らは次々に倒れていった。
「お、終わった……?」
 全員が沈黙した頃、案内役の青年が廊下の角からこわごわと顔を覗かせる。
「戦いに巻き込んじゃってごめんね! これは、ちょっとしたお詫びかな……」
 そんな彼に、天十里はおにぎりの入った包みを差し出す。受け取った青年は眼を瞬かせた。
「あ、ありがとうございます」
「行きましょう。他の人たちはまだ戦っているかもしれませんし」
「うん!」
 スラムの中を走り出す二人。その背中を見送って、青年は小さく溜め息を吐いた。
「強いなぁ……僕にもそれくらい力があったら……」

 チンピラ二人がイグナートを挟み撃ちにしようとする。突き出されたナイフを紙一重で躱し、その腕を掴んでイグナートは力任せに背後へ投げ出す。チンピラは味方ともみくちゃになって壁へと叩きつけられた。
「甘い、甘い! そんなんじゃ鉄帝でのし上がっていくなんてフカノウだよね!」
 イグナートに弄ばれる仲間達をしかめっ面で見遣ると、ガラクタの陰に身を預けた残りのチンピラ二人はユゥリアリアへ拳銃を向けた。
「邪魔すんじゃねえよ!」
「あらあら、乱暴なことをおっしゃいますわねー」
 彼女はバリケードの陰にひょいひょいと屈み込んで銃弾を躱す。焦れた敵は懐から爆弾を取り出した。松明の光に目をぎらつかせて、男は叫ぶ。
「てめえも纏めてぶっ飛ばしてやる!」
 爆弾を振りかぶった男だったが、ユゥリアリアは既に氷の槍を突き出していた。放たれた氷の鎖は男の腕に巻き付き、固く縛り上げた。手が霜付きながら硬直し、男はうっかり爆弾を取り落としてしまう。
「あっ……」
 爆弾が床に転がる。地下に響き渡る甲高い音に、男は思わず息を詰まらせた。
「やれやれ。バクダンなんかブッソウなものを使うから……」
 イグナートは咄嗟に駆け寄ると、爆弾を拾い上げて廊下の彼方へ放り投げた。橙色の炎が弾け、階段もガラクタも纏めて吹き飛んだ。鉄の破片が辺りにばらばらと飛んでくる。男は茫然とイグナートの顔を見つめる。
「何で……」
「キミ達に死んでもらったら困るってだけだよ。後ろで糸を引いてるヤツのこと、調べなきゃね!」
 彼は言い放つと、素早く男の顎を蹴り抜き気絶させた。

 四人のチンピラに囲まれながらも、暗闇の中で迅は風のように跳び回る。背負った練達のブースターが青白い光を放ち、迅の繰り出した拳は一人の鳩尾へと吸い込まれていく。男は息を詰まらせその場に倒れ込んだ。彼の軽やかな立ち回りに押され、チンピラ達は既に防戦一方である。
「チクショウ!」
 ナイフを振り回して迅を切りつけるが、背後についたマルクが魔法ですぐさま癒してしまう。迅は再び音速の拳を繰り出し、男の顔面を鋭く打ち抜いた。倒れた男は白目を向いたままぴくりとも動かない。
「くそっ、こうなったらてめえらもろとも……!」
 次々と倒される男を見て、やけを起こした一人が爆弾をいきなり投げつけた。迅は咄嗟に身体を差し込み爆弾を弾き飛ばす。その瞬間に爆弾は弾け、爆弾を投げた男もろとも迅を吹き飛ばした。濛々と煙が立ち込める中、倒れる迅に慌ててマルクは駆け寄る。
「迅さん! 大丈夫ですか」
「ええ……こんなの、どうってことないですよ」
 起き上がった迅を見つめて、マルクはほっと胸を撫で下ろした。魔導書のページを捲り、治癒の光を迅へと当てる。
「良かった。他の皆さんはどのような状況でしょうか……」
 その時、ニーニアの手紙を携えた小鳥が彼らのところへ飛んでくる。足には発電機を守り抜いた事を知らせる手紙が巻き付けられていた。それを読んだ彼らは、ほっと胸を撫で下ろすのだった。

●スラムの行く末
 イレギュラーズの攻勢を何とか生き延びたチンピラ数名。彼らは纏めて縛り上げられ、冷たい鉄帝の道路に放り出された。イグナートは笑みの向こうで瞳を爛々とさせ、静かにチンピラの肩を掴み上げる。
「さあ、キミタチに今回のコトを引き起こすように仕向けたのはドコのダレなんだい?」
「ぐ、軍隊の連中だ。アイツらが、俺達のこれからの活動を黙認するから協力しろって……」
 半ば居直って叫ぶ男を、イグナートは呆れた顔で突き倒す。
「ショッケン将軍が絡んでることは知ってるよ。最初から……」

 ユゥリアリアは柱に身を預ける老人の側に跪き、傷の手当てを再開していた。しかし、脈々と溢れていた血は既に止まりかけている。
「あらぁ? さっきのは応急処置程度だったのに、もう傷が塞がりかけてるんですねー」
「たりめえよ。俺は丈夫なのが取り柄なんだ」
 老人は鼻をふんと鳴らす。その目の前では、天十里が揚々とガンプレイを繰り広げていた。
「どう? 依頼通りにちゃんと発電機を守り抜いてきたよ! これで当面は安全だよね!」
「ああ。感謝するぜ。電線が切られる分には修理すりゃそれで済むが、発電機がやられたら、もう何もかもが終わっちまうからな」
「そんなにあの発電機って修理が難しいものなんですか? 見た感じだと単なる発電機と変わらないように見えましたが」
 ベークは首を傾げる。老人は険しい顔で頷いた。
「ああ。あれは昔からずっと動き続けてる。燃料の付け足しも無しにずっとだ。どこからエネルギーを引き出してるのかもわからねえ」
「ふむ……そんな発電機をスラムで遊ばせたままにはしたくないでしょうね」
「まあ、出力自体は大したことねえがな。ここを再開発すりゃ、結構な利益が帝国には入るだろう」
「国を富ませるために、そこに住む民を犠牲にする……こんな貧しい土地では、どうしても切羽詰まる場面というものはあります。でも、その選択が正しいとは僕には思えませんよ」
 マルクは眉を顰めた。
「俺もそう思いてえが……ちったあ反省しねえとな。行き場のない連中を守ってやってるって矜持がいつか慢心になって、やり方が色々手緩くなってたのかもしれねえ。だからああいう奴等を野放しにしちまった」
 包帯を巻かれた老人は深々と溜め息を吐く。義弘を見上げると、老人は出し抜けに尋ねた。
「おい、若いの。お前……ここの連中の面倒を見る気はねえか。お前の眼を見てると、上手い事やってくれんじゃねえかって気がするんだよ」
 義弘は目の前にそびえる城をじっと見つめる。窓の外からは、種々様々な人間達が顔を出し、老人の様子をじっと窺っていた。それを見た義弘は肩を竦める。
「……やめておくぜ。ここの連中を纏めんのは、これからもあんたの仕事だ」
「そうか。じゃあ、俺自身が色々変わっていくしかねえらしいなぁ」
「変わる、ですか?」
 迅は老人の顔をまじまじと見た。白く固い髭を撫でつけながら、老人はおもむろに立ち上がる。
「ああ。ただこの古い城に噛り付くんじゃ、いつか限界が来る。この土地の利権を貪ろうとするやつがいるなら、貪られる前に、もっとマシな奴と手を組むのさ」
「なるほど……確かに、元々この計画も、スラムの人にまともな家と職をって事で立てられたんですもんね」
「そうさ。何とかここの奴らを堂々と食わせられねえか、もう少し無い知恵絞って考えねえとな」
「僕は応援するよ。何か書類を届ける必要があったら、ぜひ僕に頼んでね。ショッケン将軍の手の奴らに奪われないように、ちゃんと届けてみせるからね」
 ニーニアは肩から下げた郵便鞄をポンと叩く。老人は僅かに鉄の歯を覗かせると、静かに彼女の肩を叩いた。
「頼むぜ、イレギュラーズ」



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵企鵝です。この度は皆さんご参加ありがとうございました。皆さんの活躍を見て、此処のスラムの主は少し考え方を変えることにしたようです。

新しい鉄帝のシナリオも出ているようなので、ぜひご参加ください。

ではでは。

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