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シナリオ詳細

<Irrmord>狂気の血は交じる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 <Abschied Radio>事件の鎮圧に伴い、情報を手に入れることに成功したローレットは、鉄騎種の男『レディオマン』イル・ゲルプなる魔種の存在を導き出した。
 奴の目的は練達中央への一般民衆(或いは貧民)の襲撃に乗じて旅人同士の対立を激化させ……伴って練達に蔓延する価値観の違いを血みどろの抗争へと進展させ、混乱を撒き散らす事であった。
 北西部で発生していた事件のみならず、西側に広く現れていた機械の魔物により、イルの声は大きく広げられていた。

●狂気と機械の共同戦線
 集められたイレギュラーズは、情報屋の男が面倒くさい顔をして溜息をつくのを見つめる。
「練達近郊……というか、中央からは離れているけれど、町中ではあるのか。ともかく、そこの方で魔物と人間が共同戦線をとっているという情報が入った」
 共同戦線?
 訝しがるイレギュラーズをよそに、情報屋は淡々と言葉を続けていく。
「最近の事件を受けた一般民衆の一部が狂化している、と見ていいかな。それが魔物と共同戦線をとっているとかいう、一見首をひねる現象だけど、事件の黒幕が魔種ならさもありなん、な所が何とも言えないな」
 面倒くさい顔を崩さぬまま、バインダーにとじていた紙を一枚めくる。
「この一般民衆の一部については、活動人数が二人組、らしいね。既に命をいくつも奪っているという報告がある。狂化している以上、正気に戻せたとしても罪の意識に苛まれるだろうね。それならいっそ、魔物と一緒に楽にしてあげた方がいいかもしれないな」
 つまり、捕縛ではなく討伐になるという事か。
 イレギュラーズは問う事はせずに、男からもたらされる情報の続きを待つ。
「魔物の方は、機械の魔物との事だけど、不透明な部分が多いな。分かってるのは、中距離型で銃の扱いに長けてる、ぐらいかな。スムーズに移動しているらしいから、自律移動型のようだね」
 スムーズに動けるということなら、町中も整備されているのだろう。もしくは多少凹凸がある地面でも強靭に動けるのか。
「この魔物……仮名として『ノイズドローン』とつけるとしよう。で、こいつはさっきも言ったとおり、銃の扱いに長けた中距離型だ。二人組の一般民衆は近接型なので、魔物と人間の共同戦線は、互いにカバーする形なんだろうね」
「そのノイズドローンっていうやつの数は?」
「確認できただけで五体、かな? どれも同じ姿形をしているから正確な数は不明の可能性が高い。数は五体より多い可能性も頭に入れて動いた方が良さそうだね」
 不測の事態に備えて動いた方が良いのだろう。
 大きく頷いた後、イレギュラーズは装備を整えてすぐに練達へ向かうのだった。

●呪詛を紡ぎ、機械で求めて
 練達内の、ある小さな町中にて。
 二人組の人間と、七体程の自律型ドローンが大通りを歩いていた。
 周りの建物はイレギュラーズの中で分かる者がいれば、他と違い現代的な建物と分かる。
 四階建ての建物が多く、路地裏もそこまで広くはない。
 人の気配は少ない。狂気に満ちた二人の人間もそうだが、他にも狂気に染まった者が居るのだ。好んで出歩きたい者など居ない。
 人間はどちらも男だ。
 一人は体格の良い、鍛えているのが分かる肉体をしていた。腕力に自信のありそうに見える。胸当てやレッグガードを身に着けている。
 もう一人は隣の男に比べると細く見えるが、標準的な体躯だ。手に持つのは日本刀に似た物だ。細長い刀身を鞘から抜かずに帯刀している。こちらも胸当てを使用しているが、隣の男に比べるとそれくらいだ。
 二人の口から溢れるのは呪う言葉。この世を、人を、呪う、恨みの言葉。充血した目が、通常でない様子を見せていた。
 呪詛のように吐き続ける言葉を、後ろに控えた自律型ドローン――ノイズドローン達は黙って傾聴している。
 ノイズドローン達に腕は無い。中央にバットの三分の一程の長さの銃口が取り付けられている。残弾がどれほどあるのかは不明だが、活動できているのだからそれなりにあるのだろう。
 先程、この一行は『休憩』をとっていた。
 『補給』によって回復した彼らは、獲物を探し求めて歩いていく。
 恨みの先をぶつける相手を求めて。
 誰の命を奪おうとも、その渇きを満たす事は無い事に気付かないまま。

GMコメント

 練達内での事件が発生しました。
 今回の事について、補足を。

●情報精度
 このシナリオの情報度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●敵情報
 ・人間×二体
 体格のいい男は腕力に自信のある様子です。胸当て、レッグガードなどを装着しています。
 標準の体格の男は、日本刀のような者を所持しています。こちらの防御は胸当てを当てているのみです。
 狂気に染まっている為、一般的な人間よりも攻撃する力は高いようです。
(注*イレギュラーズは、相対するまで彼らの武器などを知りえません)

 ・ノイズドローン×七体
 機械の魔物。大きさは大型犬がおすわりした時の高さ程で、小回りがきくような円柱型。
 円柱のてっぺんにドーム状の黒い物がある。中央が赤く光っているのでセンサーの役割を果たしていると考えられる。
 前面の中央に銃口が取り付けられており、これで攻撃をしている模様。人感センサーにて察知すると即攻撃すると思われる。
(注*イレギュラーズは、相対するまでこの敵の正確な数は不明となります)

●場所
 練達内にある、小さな町中。それなりの高さの建物(現代風)が並んでいる。
 建物の間に隠れる場所は少なく、隠密するにはしづらいだろう。

 また、「●呪詛を紡ぎ、機械で求めて」の章については、PL情報となります。お気をつけください。

  • <Irrmord>狂気の血は交じる完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

銀城 黒羽(p3p000505)
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
秋田 瑞穂(p3p005420)
田の神
リナリナ(p3p006258)
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
リアナ・シンクライ(p3p006831)
ドリルブレイク・ドリル
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アリーヤ(p3p007438)
落陽を望まぬ者

リプレイ

●人を恨み、人を追い、果てに待つのは
 近代的な四階建て建物が数多く並ぶ町がある。
 しかし、建物がある割に、人の姿は少ない。大通りだというのに姿を見かける事が無い。時刻はまだ日中だというのに、である。
 数少ない人の姿の内、二人の男が歩いていた。
 一人は体格のいい、胸当てやレッグガードなどを装備している男。拳闘家タイプだろうか。
 もう一人は、隣の男に比べると痩せがちに見えるが、標準の体格をしている細身の男性だ。こちらの装備は胸当てのみで、左手には鞘に収まったままの、日本刀のようなものを持っている。
 二人の目は充血していて正気が無い。その口からは呪う言葉が吐き出されている。人を、世を、呪う、おぞましい言葉が彼らの口から溢れて空気に溶けゆく。
 彼らが引き連れているのは自律移動型ドローンだ。その数はざっと七体ほど。
 先程『休憩』により補給をしてきた彼らは大通りを闊歩する。次の獲物を探して回る。
 彼らを見た後でなら、人通りに彼ら以外が居ないのはさもありなん、と、納得するだろう。だが、今はそんな事を話している暇は無い。
 地面に影が落ちる。彼らの後ろから、前へ。
 見つけた彼らが視認したのは、虎のような耳と手、尻尾をつけた、金髪の女性――『雷精』ソア(p3p007025)。ふくよかな胸を揺らし、微笑みを浮かべて空中に浮遊する彼女は、呆気に取られている彼らに手招きをしてみせた。
 ついてこい、というような動きで彼らを誘う。
 罠である可能性が高いと認識した自律型ドローン達はついていこうとしない。が、男二人が歩き出した事で、ドローン達もついていく事になった。
 ドローン達は銃口を向けたまま不規則に浮遊するソアを狙う。彼女が誘い込んだのは、路地裏だ。
 路地裏の道幅はそこまで大きな余裕は無い。集団戦をするには少し分が悪い。そんな場所だ。
 ソアの体が更に上空へと上がっていく。
 銃口と視線が彼女を追い、次を感知したのは空からの襲撃だった。
 快晴の青空から降ってくる物が地面を穿つ。白い塊のそれは、雹と呼ばれるものであった。
 『落陽を望まぬ者』アリーヤ(p3p007438)による、破壊のルーン、『H・ハガル』だ。広範囲で降り注がれるそれだが、四階建ての建物が邪魔をして全てが男達とドローン達に当たる事は無かった。
 それでも当たった部分はあり、一部分が氷の塊になった。
 彼らの動きが鈍るのが、目に見えてわかる。
 そこへ、『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)をはじめとした、イレギュラーズが姿を現す。
 苦虫を噛み潰したような顔で、黒羽は独り言ちる。
「まったく、本当に嫌な事件だよ」
 狙いを定め、彼は二人に向かう。ドローンから引き離す為に動く彼を、ドローン達が対処しようとするが、動きの一部が凍結されている為に対処までのタイムラグが生じた。
 その隙を狙い、別の二人が駆け出す。
 『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)と『海賊には眼帯!』リナリナ(p3p006258)だ。
 リュグナーの包帯が解かれ、瞳が現れる。爬虫類のような縦長瞳孔をしたそれは金色に輝き、ドローン達を見つめる。
 地獄の大総統から狂気を借りた瞳の力は、ドローン達に人間とは違うショックをもたらした。自律型ドローンとして活動する彼らに脳というものは無い。機械として動く彼らは、『何か』を感じた事で、その処理を自分達のスペックでは解决出来ないというショックを受けた。
 そういった別の意味でのショックを与える事に成功した訳だが、隙としては十分な時間をイレギュラーズに与えてくれた。
 リナリナが指差し確認をしながらノイズドローンの数を数える。
「ひー、ふー、みー……。おー、全部で七体!」
 「よく出来ました!」と、自分で自分を褒める。
 古ぼけた服を纏い、彼女はハンマードリルを振り回してドローンへと振りかぶる。氷結した部分を砕き、そのままの勢いで円柱の側面部分をドリルで破った。
 最初の一体が壊れるのは、時間の問題のようだ。

●あなたが呪うなら、私は祝おう。そして全ては破壊する
 そんな二人の活動を横目に見つつ、黒羽は改めて男二人へ向き直る。
 充血し、正気を失っている様子の彼らの口から溢れる呪詛の言葉が耳に届いて、黒羽は顔をしかめる。耳を塞ぎたくなるような呪いの言葉だが、あえて彼は正面からその言葉を聞いた。
 二人の足止めを狙う彼は、二人の注意が他のイレギュラーズに向かう事が無いよう、口にする言葉を選ぶ。
 あちらが世を呪うのなら、こちらは世を祝福するような言葉を口にすれば良い。
「この世界は、案外悪くないぜ。今だって、計り切れねぇ程の愛情に満ち溢れてるんだからよ」
 愛情。
 その単語に反応したような手の動きがあった。
 男二人が黒羽に近づいていく。手のひらを上にして、指を手前に動かす手招きをしてみせる。
「ブロックとして動くのであれば、日本刀の錆にならないようにしてください」
 武器として携帯している『橘さん』が、音声合成機能によって声を発した。主を黒羽と認めているはずだが、口は悪い。サポートしてくれるAIの筈なのだが。
「わかってる、よ!」
 息を吐きながら、動き始める。体格の良い男が、巨躯に似合わぬ速度で距離を詰めてきた事で、それへの対応に転じたからだ。
 絶対に引かぬという強い意志を秘めて、黒羽は彼らと相対するのだった。

 少し離れた場所で物陰に隠れながら手元の設計図とノイズドローン達を見比べる者が一人。
 『壺焼きにすると美味そう』矢都花 リリー(p3p006541)だ。彼女が連れいていたお供のメカ子ロリババア(姿形はロバである)は、ある命令によりドローン達へ向かわせている。
 さておき、人間形態な右手で設計図を持ち、左手のヤドカリな手で軽く摘んだ彼女は、隅から隅まで設計図を眺めた。
 この町に着いた時、男二人とノイズドローン達を恐れて早々に無人となった工場から収奪してきた物だ。他にも武器になりそうな物もあるが、今は割愛。
 ドローンと聞き、彼女は最初、どこにでも量産されている物だろうと推測していた。実際、侵入した工場もドローン生産工場であった。
 しかし、手に入れた設計図と実際のノイズドローンを見比べると、どうも形態が違う。通常のドローンから派生した別のドローンのようだと判明し、肩を落とす。
「……でも、大体のパーツはわかった」
 気を取り直し、自身の持つ工業技術に関する知識を総動員して、敵ドローンの構造について当たりをつける。
 自爆機能などまでは不明だが、他にセンサーなどを搭載していないだろうか。
 そう思っていた彼女だが、連れていたメカ子ロリババアを敵ドローン達の中に突っ込んでいた事を思い出して観察する。
 そうすると、一つの点に気づいた。
 イレギュラーズへの対応よりも、メカ子ロリババアへの対応が一歩遅れて動いている事に。
 機械への反応よりも生物への反応が早い。
 生物と機械の違いに思い至り、リリーは推測を口にする。
「もしかして、人感センサーを搭載しているのかな……?」
 そうならば、メカ子ロリババアに持たせた物の作戦は成功するかもしれない。
 その前に、仲間達に、人感センサーを搭載している事を伝えなければ。
 物陰から出つつ、中衛としての活動を始めていくリリー。
「ドローン達、人感センサー、あるから」
 イレギュラーズと合流した時に告げた言葉に対し、返ってきたのは了解の意の言葉だった。

 ドローン達の動きは先の氷結による鈍さもあり、イレギュラーズにとって多少やりやすくなったと言える。
 まあ、それでも、『ドリルブレイク・ドリル』リアナ・シンクライ(p3p006831)にとっては、特に何という訳ではないのだが。
「オーッホッホッホッホ!」
 金髪縦ロールな髪型もドリル、左右の両手もドリル、という機会な出で立ちの彼女は愉快悪役令嬢型ドリル怪人、とは本人の弁。
 彼女はドリルを振り回し、運良く銃身が凍らされているドローンのボディを思いっきり貫いた。後衛に居る仲間達を狙おうとする不届き者ドローンを大技にて破壊した事に対し、満足気に頷くリアナ。
 その様子を見て、何かを得心がいったという風に頷いたのはアリーヤ。
「要は壊せればいいのよね」
 間違ってはいない。
「それなら得意よ」
 言うが早いか、彼女は息吹をドローンに向けて放つ。今でこそ人間の姿だが、元々はドラゴンの一匹として別世界に君臨していた彼女。
 人間形態になってもなお、その息吹は変わらず。
 損傷の激しいドローンの一体に向けて放った吐息は、その姿形を灰燼と化した。
 それを上空から見ていたソアが「うわぁ……」と思わず零したのも無理らしからぬことだろう。
「……っ!」
 ノイズドローンが放つ銃弾。
 それを受けたソアは、痛みに耐えながらも反撃として雷撃をドローンに落とす。
 一瞬の火花の後、爆散するドローン。大きい爆発ではないが、細かい機械の粒が周囲に飛び散った。
 命中したのを見て胸を撫で下ろした彼女は、イレギュラーズから離れすぎないように気をつけて浮遊を続ける。
 メカ子ロリババアの姿が見えた。
 何かを投げようとしている様子で、リリーが「少し離れて」とイレギュラーズに指示しているのが見えた。
 そして、投擲されたそれは、ドローン達の近くに着弾すると音を発した。例えるなら、風船を割ったような音で、しかもその音量が風船の時の倍以上ある、となると、反応がどういうものになるかは察しが付くだろう。
 突然の音に敵味方問わず、一瞬動きが止まる。
 すぐに攻撃に転じようとしたのは、イレギュラーズが先だ。
 リナリナが音に負けじと声を張り上げる。
「るら~!  ドローン暴れる禁止!!」
 しかし、ドローンの動きが止まる様子は無い。銃身を向ける行動を取り続ける。
 その様子を見ていたリリーが、不審げに呟く。
「上書きされない……?」
 ということは、呪詛を命令として動いているという訳ではないのか。
 ノイズドローンのシステムについて頭を悩ませる事になったリリーだが、今はとにかく速くドローンを殲滅して黒羽の援護に回らなければ。
 現在も黒羽は二人の足止め役として引きつけてくれている。深い怪我になった時は瑞穂のミリアドハーモニクスが癒やしてくれているが、使用回数には限りがある。
 工場からくすねてきたバールのようなものを思いっきり投げる。それは、足が凍って動けないドローンの頭部に命中し、火花が散った。
 メカ子ロリババアがリリーの下に戻ってくる。銃撃を一回か二回は受けたようだが、とりあえずは無事のようだ。
 少しずつ行動不能(あるいは破壊)になっていくノイズドローン達。
 ソアの雷を受けて、最後の一体が小規模な爆発を起こし、その身を散らす。
 これで、残りは男二人となる。
 改めて狂化人間に視線を移した時、黒羽の膝が崩れた。

●呪詛をほぐし、死の祝福を
 瑞穂の何度目かのミリアドハーモニクスが黒羽の体を癒やす。
 拳闘家らしき男が力を溜める様子を見せた。その動きに対し、先に動きを見せたのはリュグナー。
 彼女はその場を動かず、ただ己の影から無数の赤黒い蛇を放った。その軟体は男の巨躯を這い上がり、絡め取り、そして締め付けた。
 呪詛を吐き続けていた男の口から、初めて呪詛の声が途切れる。低い呻き声が男の口から零れ出て、更には動きを止められた。
 近くに立つ日本刀の男が彼を助ける素振りは無い。黒羽の後ろからやってくる女性達の姿を見て、標的を定めた様子を見せた。
 黒羽と入れ替わるようにして前に立ちふさがったのは、リナリナ。ハンマードリルを突き出し、彼の日本刀と勝負をしてみせるが、結果は火を見るよりも明らかだ。
 半分になった刀身が地面に乾いた音を立てる。充血した目が見開いたのは一瞬。そして構わずに残った刀身で斬りつけようとしてきた。
 戦闘から遠ざけるため、ソアが壁として奮闘した黒羽の体を後方へと引きずっていく。
 他にも負傷していた者達を癒やす為、瑞穂による広範囲の回復の力が働く。
 ある程度の負傷を癒やしたのを確認し、瑞穂はアリーヤに頼み事をする。
「すまんのじゃが、次に深い傷を負った者が出た場合、主に任せたいのだが、良いかのう?」
「ええ、いいわ」
「ありがとう。よろしく頼むのじゃ」
 安堵した笑顔を向けられても、アリーヤの表情が特に変わるということはない。
 回復担当の二人をよそに、前線に立つ女性達は変わらず奮闘中だ。
 瑞穂達から付かず離れずの位置を取るリリーは、男達の様子を観察している。いざとなればまだ手に持っている工具を投げるつもりだ。
 身動きの取れぬ拳闘家の男に向けて、リアナがドリルを高速で回して向かっていく。
 胸当ての破壊を経て、その肉体を貫いた。男の口からは声の代わりに赤い色が流れ出る。
 そして肢体に巻き付いた赤黒い蛇は消える。役目を終えたとでも言うように。
「オーホッホッホ!」
 赤い色の水溜りを作って倒れた肢体を見下ろしながら高笑いをするリアナ。
「貴方はもしかしたら善良でただの被害者だったかもしれませんわね……。ですが、他者の命を奪った時点で私達と同じ穴の狢。無残に散りゆく覚悟を決めなさいな」
 高速回転にて弾いた為に血がほとんどついていないドリルを胸に掲げ、誇らしげに言う。
「そのかわりこのドリルで散る栄誉を与えてあげますわ!」
 だから、安らかにお眠りなさい。
 言外に告げたその意味を、男は知る事が出来ただろうか。それは本人のみぞしる。
 残る日本刀の男へと視線を移す。
 そこには、先の拳闘家らしき男と同じように、リュグナーの赤黒い蛇に巻き付かれ、リナリナのハンマードリルによって胸当てごと肢体を貫かれた姿があった。

 致命傷を負った男達は、まもなく命を灯火を消す事だろう。
 助けられないのかと思うソアだが、彼女に医療知識はない。ましてや、この傷では治療するのも厳しいだろう。
 仮に回復させたとして、彼らが正気に戻るかどうかも怪しい。
 事前に情報屋も言っていたではないか。「狂化している以上、正気に戻せたとしても罪の意識に苛まれるだろうね。それならいっそ、魔物と一緒に楽にしてあげた方がいいかもしれないな」と。
 人を、世を、呪った男達の最期を見届けようとするイレギュラーズ達の中で、黒羽が彼らへ進み出る。
 擦り傷だらけの手を体に触れる。彼が持つギフトが、二人の体から苦しみを取り除いた。
 代わりに、彼が負う。肉体と精神の両方の苦痛を。
 その身に負った彼を支えようと、瑞穂が横に並ぶ。
「大丈夫かの?」
 気遣う言葉を受けて、黒羽は痛みなどに耐えながらやっとの事で頷く。
 アリーヤが、率直な疑問を彼にぶつける。
「何故、そんな事を?」
 その問いに、黒羽は二人を見下ろしたまま、息も絶え絶えに返す。
「……せめて、……最期くらいは、苦しまずに……逝かせてやりたい、じゃねぇか。…………これくらいしか、俺にはしてやれねぇんだから……」
 黒羽の言葉を受けて、リュグナーは空を見上げた。
 彼のした行ないは、彼らにとって救いになったかはわからないが、思うことは一つあった。
(――ああ、安心せよ。貴様らに狂気を振りまいたこの一連の事件の黒幕には……我々が貴様らのかわりに拳を叩き込んでおいてやろう)
 冥福を祈り、目を閉じた。
 隣ではリアナとリリーが憐憫とも言えぬ目で男達を見下ろしていた。何も声をかけることないが、リリーは横に立つメカ子ロリババアのボディを撫でる。
「さ、戻って報告しなくちゃだね!」
 重い空気を払拭しようと、リナリナの声が響く。
 空元気でも、今はただ動いていこう。
 少しでも気の重さを払う為に。

 重い空気と裏腹に、空は綺麗すぎるほどに晴れ渡っていた。

成否

成功

MVP

銀城 黒羽(p3p000505)

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 件の男二人を気にかけてくださった方々もありがとうございます。
 それだけでも、少しは救われたのではないかな、と思います。

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