シナリオ詳細
ブッシュドノエルを作ろう
オープニング
●悩める乙女の願い事
「……今日も希望者は0なのね……」
白く可愛いケーキ屋さんの厨房で、店長でありパティシエが深いため息をつく。
その手にあるのはクリスマスケーキ作りのイベントチラシ。
場所はここ、パティスリーブラン。
作る物はブッシュドノエル。
材料から道具まで参加費に含まれているので、参加者が用意するのは参加費とエプロンだけ。お値段も相場程度だろう。
なら何故誰も参加してくれないのか?
それはパティシエにも良くわかっていた。だけどどうしようもないのだ。
パティシエは身だしなみ確認のために用意した鏡を見る。そこに映っているのは一人の男。
鍛えられた筋肉に、しっかり手入れされた髪。パティシエなので爪を伸ばしたりはしていない、一見清潔感のあるマッチョイケメンだ。だたし。
「なんでアタシのお菓子教室には来てくれないのよぉ!」
彼はオネェと呼ばれる存在だった。
嘆くパティシエを見て、販売担当のアルバイトは深くため息をついた。
自室の中でチラシを手に悩む乙女が居た。
年のころは十代後半。
「行きたいなぁ……」
持っているチラシはパティスリーブランのお菓子教室のチラシ。
ブランのパティシエに学校の帰りに良くない人たちにちょっかいかけられていたところを助けて貰ったのは先月のこと。
お礼をしたいと伝えたら、良かったら参加して欲しいと渡されたチラシ。
お菓子作りの経験はないけど、一から教えてくれるから初心者歓迎と書いてある。
学校の友達を誘ってみたが、「あそこ、味は良いけどパティシエってマッチョオネェでしょ? ちょっと参加する勇気はないわー」と断られてしまった。
パティシエと一対一で参加するのは勇気がない。でも参加したい。
12月のある夜、いくつかの深いため息が重なった。
●恋の手伝い? それとも美味しいお菓子作り?
12月。それは様々世界で特別な月。
ある世界は一年の終わりを告げる月。
ある世界ではある聖人が死んだとされる月。
色んな理由はあるけれど、12月はどの世界にとっても特別な月だ。
「この世界では、24日にクリスマスって言うのを祝うんだって」
混沌におけるシャイネンナハトだね。と笑うと、あるページを見せる。
そこにはクリスマスに向けてお菓子教室を開くが誰も参加してくれないことを嘆く青年と、彼に仄かな思いを寄せる乙女の姿。
「別に、彼女の背中を押して欲しいわけじゃなくて、ただ一緒にお菓子教室に参加してあげて欲しいの」
参加者がいなければパティシエは沈んだ気持ちで新年を迎えることになりそうだし、乙女も参加出来なかったことを後悔し続けるに違いない。
「自分たちで作ったブッシュドノエルは持ち帰りが出来て、片付けの後はパティシエが作ったブッシュドノエルを試食させてもらえるよ」
作って美味しいケーキも食べられるってすごいよねぇ。と笑うフェリーチェだった。
- ブッシュドノエルを作ろう完了
- NM名ゆーき
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年12月13日 22時20分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●思いを込めてケーキを作ろう
「君もブッシュドノエルを作りに来たのか? 私はゲオルグ。今日は宜しく頼む」
当然だけど、初対面の人ばかりで戸惑うエリカに気付いたのは『天穹を翔ける銀狼』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)。
「は、はい! エリカです。宜しくお願いします……」
女性ばかりと思っていたエリカは、ゲオルグを見て腰が引けている。
「どうかしたのか?」
「い、いえ。ゲオルグさんのような方も参加するのだと思って……」
「元々私は甘い物が好きなんだ。それに、マッチョでオネェなパティシエというだけで参加希望者が集まらないというのは寂しいからな」
「俺たちにとってはパティシエがマッチョなオネェでも関係ないですからね」
さらりと会話に入る『未来偏差』アベル(p3p003719)の視線の先には『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)と『司令官』桜咲 珠緒(p3p004426)。二人は楽しそうに話している。
「クリスマスにブッシュドノエル。ボクのいた世界でも、同じように言ってたんだ。懐かしいわね……」
元居た世界のことを思い出して懐かしさに目を細める蛍。そんな蛍の手をそっと珠緒が握る。
「珠緒は今日作るお菓子の謂れはとんと存じ上げませんが、皆で楽しんで作るお菓子が、美味しくないはずはないのです。頑張りましょう」
にっこりと笑う珠緒に蛍のやる気もぐっと上がる。
「えぇ! 珠緒さん、ちょっと気合入れて作っちゃうわよ!」
「あらぁ、やる気満々な子がいて嬉しいわぁ。ちょっと時間より早いけど、全員揃っているし、始めましょうか?」
そんな蛍を微笑ましく見守りながらやって来たマッチョオネェなパティシエの言葉に、助手役のアルバイトが冷蔵庫から材料を取り出し始めた。
「まずはスポンジ作りよ」
材料は小麦粉、ココアパウダー、卵、砂糖、牛乳、無塩バター。
「まずはアタシが実際に作って見せるわ。みんなはそれを見た後、同じ所まで作って頂戴」
まずは型の用意。今回作るのはスクエア型のスポンジを巻いたものなので、使うのはスクエア型の鉄板。クッキングペーパーを乗せ、切り込みを入れて型に沿わせれば準備完了。
次はスポンジ作り。小麦粉とココアパウダーを合わせ篩に掛ける。牛乳とバターは一緒に湯煎にかけ、バターを溶かしておく。
卵を大きめのボールに入れたら、砂糖を入れて混ぜ合わせて行く。
リズミカルに泡だて器を振るパティシエ。それを見て、ゲオルグ以外が無言になる。
「大丈夫です。皆さんにはハンドミキサー使っていただきますから」
アルバイトの言葉にほっと胸を押さえる。
流石に、泡だて器でいい感じになるまで混ぜて行くのは女性の腕では厳しい。アベルも、時間をかければ行けるかもしれないがあのペースは難しいだろう。
「あの筋肉は伊達じゃないんですね……」
自分の腕を見るアベル。彼を見る女性陣の目は優しい。
「卵と砂糖がしっかり混ざって、のの字が書けるようになったら振るった粉を混ぜて行くの。ここからは空気を潰さないように混ぜて行くのよ」
粉をボールに入れたら、さっくりと混ぜて行く。ふわふわとした淡い黄色だった卵が、粉と混ざって茶色くなっていく。
「大体混ざったらここでバターと牛乳を入れてね。それからまたしっかり混ぜるの」
今度はバターと牛乳が混ざってしっとり艶やかな生地になって行く。
「しっかり混ざったら用意した型に入れて、2、3回少し高いところから落として生地の中の大きな空気を抜くの」
型ごと10㎝程の高さから落とすと、生地の中からぽこぽこと空気が抜けて行く。
「さ、次はみんなの番よ」
にっこり笑うパティシエの言葉に、全員がクッキングペーパーに手を伸ばした。
スポンジはふんわりとした食感が大事だが、見た目は多少凸凹があってもデコレーションの際に誤魔化せるので全員特に拘ることもなく作り終えた。
しいて言うなら、ゲオルグのにゃんたまエプロンに女性陣とパティシエが食いついたり、珠緒が慣れないハンドミキサーに振り回されそうになったりしたぐらいか。
オーブンに入れたら、一度使った物を洗って今度はデコレーションの準備。
「ここからはみんなの個性が光る所ね!」
うふ! と楽しそうに笑うと、パティシエは基本のクリームの作り方を見せる。
「と言っても、少量の生クリームとチョコレートを湯煎して、チョコレートが溶けたら残りの生クリームと砂糖を入れて、今度は氷水で冷やしながら泡立てて行くだけよ。
作りたいものに合わせて入れるチョコレートや砂糖の量は調整して頂戴。分からない時はさっきみたいに気軽に聞いてね」
「はい! ボク表面を樹皮っぽくしたいんだけど、どうしたら良いですか?」
「だったら最後にココアパウターを振ればいいのよ」
勢いの良い蛍の質問に答えると、蛍は成程と頷いてチョコレートを選びに行く。当然のように珠緒も一緒に行き、二人で違う甘さにしようか。なんて相談している。
ゲオルグは迷うことなくビターを選んだ。砂糖も控え目に、大人な甘さにするのだろう。
アベルは妹分のためにということで、ミルクチョコを選択。砂糖はどうしようかと思って、少し甘めに。彼も妹分も、甘い物が好きだから。
エリカはホワイトチョコを手に取っていた。
洗い物をしている間にスポンジは焼きあがったので、チョコクリームが出来たらデコレーションだ。
まずはゲオルグ。
ふんわりとした生地に甘さ控えめのクリームを塗り、巻こうとするとパティシエストップ。何事かと思えば砕いたナッツを差し出される。
「大人な味にするんでしょう? ナッツの食感が良いアクセントになると思うの」
ウインクと共に差し出されたそれを有難く頂くと、クリームの上に散らしてから巻いて行く。
周りにもクリームを塗って、フォークで樹皮っぽさを出す。それからホワイトチョコを削ってふんわり乗せて行く。その様子はまるで丸太の上に積もった雪のようだ。
最後の仕上げは乗せるチョコプレート。普通ならクリスマスを祝う言葉が入るが、ゲオルグが選んだのはにゃんたまだった。
「あのやわらかまんまるフォルムで、わがままふわもこもっちりマシュマロボディな可愛さを出来る限り表現しなければ……!!」
そんなゲオルグにパティシエも手を貸し、完成したにゃんたまチョコプレートはにゃんたまの可愛さを余すことなく出し切った物だった。
蛍と珠代は一緒に並んでデコレーション。
後で珠緒さんにも食べてほしいから変なモノ作れない。と慎重に作る蛍の横で、珠緒がぎこちない手つきでクリームを塗って行く。
「そう言えば、どうしてブッシュドノエルなのでしょうか……?」
「なんでってクリスマスの――えーっと、あっち風に言うと、「シャイネンナハトの木」のケーキなのかっていうとね? ボクの世界で言われてたのは、神聖な人の誕生を祝うために一日中燃やされた薪の様子、だったかな」
蛍はロールケーキの端を斜めに切り、切った部分を本体に乗せてから、クリームを塗って行く。
「あのね、珠緒さん」
「はい?」
「もし珠緒さんが混沌に召喚されたことを「新生」って思っていいなら、改めてこの薪でそれをお祝いしたいな……。今ここに生きてくれてる、珠緒さんを祝って」
恥ずかしくて照れくさくて、だけど大切な人の笑顔が見たくて、蛍は言葉を紡ぐ。そんな蛍を見て、珠緒は嬉しそうに穏やかな微笑みを浮かべた。
「断る理由が見当たりません。有難うございます」
その笑顔を見て、とびっきりのブッシュドノエルに仕上げると意気込む蛍。
(そう、これは食べて欲しい方への想いを燃やす薪なのでしょう。気づかせてもらえた以上、もはや極上の完成がみえ……)
嬉しそうに微笑む珠緒。だがそんな彼女は虚弱体質。
喜びのあまり、がはっ。と人から見えない向きで吐血するのだった。
そんなハプニングもあったが、二人の手元には苺が二つ並んだブッシュドノエルと、マジパンのサンタが乗ったブッシュドノエル。
「帰ったら、二人で食べましょ。もちろん、珠緒さんのも一緒に味わいたいわ」
「はい。どちらも半分こですよ?」
仲が良くて何よりです。
「クリスマス、聖夜の呼び方は違えど皆思いは同じのようですね?」
そんな様子を見ながらアベルは小さく笑う。
「普段は簡単な食事を作る程度しか料理をしないのですが、こういうお菓子作りをしてみるのは悪くないですね」
聖夜を共に過ごす予定の妹分。アベルが作ったブッシュドノエルを見てどんな表情をするのだろう。アベルにお菓子が作れたのかとびっくりするかもしれない。
なにせイレギュラーズにならなければ、昔のように暮らしていれば、こんな菓子作りに興じることもなかったのだから。
それに孤児院にいた頃には甘い菓子は貴重で、小さく小さく刻んでゆっくりと隠れて食べていたぐらいで、それを誰かに分け与える日が来るとは思ってもみなかった。
「変わってしまうという事を認める事も愛ってやつですかね?」
軽く呟くアベルの手の中には、シンプルな、だけど心の籠ったブッシュドノエルがあった。
●美味しい試食の後に
全員が作り終えたら後はお楽しみの試食タイム。
パティシエはチョコやアザラン等も使ってメルヘンで可愛らしく仕上げている。この辺りが女子としては一緒に料理をしたくないと言われる所以なのかもしれない。
しかも味は流石プロ。ふんわり柔らかくてクリームも甘すぎず、サラリと口の中で溶けていく。
「これを食べられただけでも来た甲斐ありましたね」
気が付けば全員の皿は空っぽ。
「こっちこそ参加してくれて有難うね。誰も来てくれないかと思ってたから嬉しいわぁ」
にこにこと笑うパティシエに、エリカが思い切って声をかける。
恋と言うには未熟な想い。だけど少しでも彼に近づきたい。
差し出したブッシュドノエルは、未来を示すように真っ白だった。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
12月です。シャイネンナハトです!
この世界ではクリスマスですけど。
12月ならではの催しをお楽しみください!
●目標
・ブッシュドノエルを作る。
お菓子教室に参加して、ブッシュドノエルを作るだけです!
え、恋の手伝い? 参加する時点で任務達成です!
●登場人物
・パティシエ
二十代半ばの一見清潔イケメン。ただし中身は可愛い物をこよなく愛するオネェ。
今回自分が原因で誰も参加してくれないことを嘆いている。
ただし彼が作るお菓子は可愛くて美味しいと人気。
でも一緒にお菓子を作るとなると、女性陣に取っては色んな意味でハードルが高い模様。
・乙女
十代後半のパティシエに淡い思いを抱く少女。名前はエリカ。
お菓子作りは経験なし。
お菓子教室に参加したいけど、他の参加者はないと聞いて尻込みしている。
●その他
フェリーチェも同行します。
お菓子作りと試食が楽しみ。
リプレイはお菓子教室以降の描写になります。
参加申し込み? うきうきフェリーチェが済ませておきます!
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