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シナリオ詳細

針嵐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂漠にそびえる針の山
 ラクダに乗った商人が一人、夜の砂漠を歩いていく。ここ最近は砂漠の魔物の活動も大人しく、商人は快適に砂漠を行き来していた。砂漠の荒波を幾度となく抜けてきた商人にとっては、スリルの無い砂漠はいっそ物足りないくらいである。
「どうしちまったんだろうな。暇だな?」
 ラクダの首筋を撫で、ターバンを巻きなおしながら彼は呟く。しかしその時、砂漠の彼方から一陣の風が推し寄せて来た。押し寄せた砂がやたらとチクチクする。彼は顔をしかめて風上の方角へ眼を向ける。
「おいおい……」
 その時、商人は地平線の彼方にこんもりと生えた一つのサボテンが目に留まる。遠すぎてはっきりとは分からないが、ちょっとした城ほどの大きさだ。そんなサボテンは世の中には存在しない。冒険の匂いを感じた彼はラクダを狩って僅かにサボテンへと近づいていく。
「ありゃあ一体どうしてあんなに大きくなったんだ……?」
 彼は自分にもラクダにもゴーグルを掛けて眼を守り、一気に駆け出す。しかし襲い掛かった嵐が針を乗せ、次々に襲い掛かった。
「やべえ、いてっ! いてえって! こいつはマズいな、近づけねえぞ。離れろ!」
 商人は慌ててラクダの腹に拍車を入れる。咄嗟にラクダは頭の向きを変え、砂漠を駆け抜けた。目指すは馴染みのオアシス集落である。砂漠の真ん中に存在する宿場町として栄え、彼自身も何度も世話になってきた土地だ。

 しかし、オアシスに辿り着いた彼が見たのは、すっかりしょぼくれた街の人々の姿であった。商人は慌ててラクダを飛び降り、家の壁にもたれて項垂れている一人の男へと駆け寄っていく。
「おいおい、どうなってんだ? どうした?」
「オアシスの水が急に少なくなっちまってさ……このままじゃ枯れちまいそうな勢いだ……」
 商人は顔を上げる。石のレンガで飾られたオアシスの水位がすっかり下がっている。既に半分ほどまで減っていた。彼は顔をしかめる。
「嘘だろ? このオアシスが?」
「多分あのサボテンのせいだ。あそこは色々なオアシスに繋がってる地下水脈の水源だ。偶々そこに根付いちまったサボテンが急に成長して、こんなことに……」
「あんなに大きく成長してたからなあ。いや、水があるくらいであんなに大きくなるわけないんだが……」
 怪訝そうな顔をする商人。男はぐったりと首を振った。 
「それは分からん。……とにかく、今はローレットに駆除を頼んだ。でもそれも中々金がかかってなぁ……」
「そうか。……元気出せ。その依頼費用は俺が持ってやるから」
 励ますように肩を叩きながら、商人は溜め息を零すのだった。

●針の嵐を抜けて
 かくして依頼を引き受けた君達は、武器を担いで砂漠を目指す。天気は夜を選んだ。多少暗いが、防備を固めるために着込んでも暑くならない。薄着で砂嵐、否、針嵐に突っ込むなどもっての他である。
 銘々身を守り(或いは守る気もないかもしれない)ながら針の舞う砂嵐を進む。その視線の先には、世界樹のように聳え立つ巨大なサボテンの姿があった。地下水を吸い上げ、砂漠の厳しい日差しを浴びて、丸々と太ったサボテンだ。

 君達の接近に気が付いたサボテンは、不意にその一節を腕のように持ち上げる。その姿は、針の鎧に身を包んだ巨人のようであった。

GMコメント

●目標
 化けサボテンの駆除

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 夜。砂漠で戦闘を行います。特に高低差などはありません。
 風が強まり、嵐になっています。砂が舞い上がってかなり視界が悪い状態になっています。
 サボテンのサイズは巨大なため、敵が視認できずに困るという事はありません。

●敵
☆化けサボテン
 あちこちのオアシスに繋がっている地下水を猛烈な勢いで吸い上げ成長している化けサボテン。大量の棘を砂嵐の中に舞わせて身を守る他にも、その巨大な茎でハードパンチャーの如き一撃を叩き込んできます。

・攻撃方法
→針嵐
 細かい針を砂嵐に混ぜて飛ばします。毒が入っているわけではありませんが、その痛みは着実に体力を蝕んでいくことでしょう。
→アームハンマー
 巨大に発達した瑞々しい茎で殴りつけてきます。こっちも針が付いているので相当痛いです。

●TIPS
☆地の利は基本向こう側にあります。これを何とか出来れば相当マシに戦えるようになるでしょう。

影絵です。今回はサボテンです。サボテンといえばニードルアーム……といえばタイムリーな話題でしょうか。彼は続投できたのでしょうか。

ではよろしくお願いします。

  • 針嵐完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月20日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジル・チタニイット(p3p000943)
薬の魔女の後継者
カレン・クルーツォ(p3p002272)
夜明けの蝶
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ロゼット=テイ(p3p004150)
砂漠に燈る智恵
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
リナリナ(p3p006258)
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い

リプレイ

●サボテンに取り付け
 砂丘の頂上から吹き下ろして来る砂嵐。黄土色のカーテンの向こう側に、巨大なサボテンの影が見える。ラクリマ・イース(p3p004247)は思わず声を弾ませた。
「見てください! でっかい! でっかいサボテンなのです! あんなの見たことないのです! あれ持って帰れませんかね? コレクションしたい!」
「いやいやいや。いくら暑いからって、あれは水の貯め過ぎにも限度があるっすよ! あんなの持って帰ったらお家が大変なことになるっすよ。絶対やめた方がいいっす」
 ジル・チタニイット(p3p000943)は眉を顰めて首を振る。ラクリマは沈痛の面持ちで肩を落とした。
「そうですね。仕事なので倒さねばいけませんよね。く……サボテンさん……」
「普通のサボテンなら食べられるものもあるし、薬になるものもあるっすけど……こうなったら仕方ないっす」
 ジルはカンテラを掲げ、暗視ゴーグルを掛けて砂嵐の中へと踏み込んでいく。
「さっきからずっと風向きが一定してないっす。もうチクチクしてるし……気を付けるっすよ」
 纏わりつく針を払い除けながらジルは進む。ラクリマも魔道具を広げ、仲間達に魔力で加護を与えていく。
「あのサイズだと、随分長期戦になるはずですよ。気を付けてください」
「了解。ボクが先行するわね! みんな、後に続いて!」
 藤野 蛍(p3p003861)はその身に蛍光灯のような光を纏わせ、砂に足を取られないよう、宙に浮き上がって砂嵐の中を突き進む。ゴーグル姿で、手足だけでなくお尻も光って、ついでに宙もふわふわ。やはりこれでは本物の蛍だ。ふと思ったが、彼女はそれをごまかすように声を張り上げる。
「水の枯渇は、砂漠では死活問題よね。オアシスの人達のためにも、依頼主さんの漢気に応えるためにも、全力を尽くすわ! 珠緒さん、よろしく!」
「ええ。砂漠でなくても、水は皆で分け合っていただくもの。独り占めは、叱りませんと」
 桜咲 珠緒(p3p004426)は蛍のすぐ後ろに付き従う。彼女も僅かに宙へと浮き上がり、ゴーグル越しに砂嵐の中を見渡す。砂の中に混じった小さな針が、蛍の光を浴びてきらきらと光っている。
「あのサボテンに近づけば近づくほど、風が強まっているような気がします。あの巨大なサボテンの防衛反応かもしれません」
「おー、この砂嵐、あのサボテンを倒すまで止まないのか?」
 リナリナ(p3p006258)は首を傾げる。普段は獣皮の胸当てに腰巻という簡素もいいところな格好だが、今日はゴーグルをつけて長い丈の獣皮も纏って完全防備の構えである。珠緒は頷いた。
「どうやらそのようです。気を付けて近づかないといけませんね」
「むー、近づいたら砂嵐が出てキケン。でも近づかないとオアシスの水が全部吸われて町が大変! イロイロ限界ギリギリなんだな!」
 リナリナは納得したように頷くと、大剣を担ぎ、背中のジェットパックのブースターを推進器にして走り出す。サボテンの正面に立つ蛍の背中を追い抜いて、サボテンの株を一気に回り込んでいく。
「風上回り込むさくせん開始! るら~!」
 吹き寄せる風の背後に回り込むリナリナ。服に突き刺さる針の嵐が薄れた隙を突いて、リナリナは手にした大剣を力任せに振り抜いた。

 リナリナの接敵に合わせて、紅楼夢・紫月(p3p007611)とロゼット=テイ(p3p004150)も肩を並べてサボテンの群れへと迫っていく。サボテンは近づく彼女達を見下ろし、急に身動ぎした。拳闘士の男のように、四方に伸びた腕を突如天へと突きあげた瞬間、その体が急にムキムキと膨れ上がる。その姿を見上げて、ロゼットは眼をくりくりさせる。
「サボテンだねえ。何で動いてるんだろうね。そもそも、おっきく育ち過ぎではないの?」
「植物にも知能はあると聞くけど、ここまで大きく育つとはねぇ。砂漠の水源であるオアシスが無くなるんは見過ごせへんし……頑張って駆除しようかねぇ」
 紫月は真っ直ぐに、ロゼットは横から回り込むようにサボテンへと踏み込んでいく。刀の鯉口を斬ると、一気に刃を抜き放ってオーラの斬撃を放つ。サボテンの腕が一本伸び、その一撃を受け止めた。更に紫月は跳びあがり、サボテンの腕に袈裟斬りを叩き込む。分厚い皮が裂け、酸っぱい水が辺りに溢れた。
「よし、この者も続くとしようか」
 紫月がサボテンの腕が向かっているうちに、ロゼットはサボテンの根元まで潜り込んで短剣の切っ先を向ける。
「さあ、塵は塵に、サボテンは砂に返るのだよ」
 魔力の塊が二振りの刃から放たれる。月のように輝きを放った瞬間、びっしりと生え揃った棘を次々に薙ぎ払った。カレン・クルーツォ(p3p002272)も魔導書を開き、小さな砂のゴーレムを作って突撃させる。
「砂漠を行く……それがどれほどに険しくとも必要とする人はいるわ。サボテンさんも悪気はないんでしょうけど、ごめんなさいね」
 サボテンがゴーレムを殴りつけた瞬間、それは魔力の爆発を引き起こす。節の一つが弾け、大量の水が溢れる。カレンは蝶を舞わせながらサボテンを真っ直ぐに見据える。
「仕事なら命を奪うのも容易いものよ」
 大きく身を逸らし、パンチの姿勢を取るサボテン。蛍は素早く跳び出すと、その身に纏った桜吹雪の幻影をサボテンに向かって放った。
「さあ、“嵐”同士で勝負よ! かかってきなさい!」

●幹をもげ
 砂嵐がさらに強さを増していく。サボテンの棘は嵐の中に紛れて縦横無尽に飛び回る。ロゼットは両手の短剣をくるくると弄びながら、サボテンの周りをぐるりと走る。
「砂嵐がますます強くなっているね。確かにサボテンの危機に反応しているのかもしれない。巨大化した植物が周囲の環境に影響を及ぼすほどの魔力を持つのは、まあ少なからずある事だし」
 ロゼットは風を読みながら、砂嵐の風上へと回り込む。針は相変わらず飛んでいるが、風下で針の嵐に煽られるよりは遥かにマシだ。彼女は二振りの刃を互いに擦り合わせて火花を起こし、思い切り息を吐き出す。火花は巨大な火の球に変わり、サボテンの根元を焦がしていく。
「さあ、お互いを見失わないようにしようじゃないか。この戦い、迷子になったら一巻の終わりだよ」
「了解っす。この嵐ですもんね。気を付けるっすよ!」
 ジルは叫びながら辺りを見渡す。常に激しい針の嵐に包まれるこの環境、生命力が低いほど危険だ。ジルはカレンに宝石の光を分け与える。その光に反応したのか、サボテンは急に腕の一本を大きく振り上げた。
「来たっすよ! 皆下がるっす!」
 一斉に砂の丘を駆け下りる。サボテンの巨大な腕が砂を打ち据え、再び砂塵が巻き上げられる。その隙にジルは砂を蹴って宙へ跳びあがり、その手を目の前に翳して結晶の翅とも見える毒の結晶を作り出した。
「毒々しいサボテンになっちゃえっす!」
 指の間に毒の結晶を挟み込み、ダーツのように鋭く擲つ。放たれた毒の翅はサボテンの肉に突き刺さり、一気にその節を萎びさせた。それを見たラクリマは、思わずあっと叫んでしまう。
「さ、サボテンさんの腕がっ!」
 萎びた節の根元が千切れ、ゴロゴロと砂丘を転がり落ちていく。その先からは既に新しい節が生えようとしていた。ちょっとホッとしかけたラクリマだったが、今は命をかけた戦いの最中だ。サボテンの無事を喜んでいる場合ではない。
「……じゃなくて、追撃しますよ!」
 魔術具を広げて魔法陣を展開、その中から血に染まった鞭を抜き放つ。ラクリマは鞭の棘で己の掌を引っかき、鞭を再び血へ染めていく。頭上へ大きく振り被ると、未だ真新しいサボテンの傷口へその鞭を叩きつけた。
「サボテンの身はほぼ水分です。それが凍り付いてしまえば、殆ど動けないのではないですか?」
 果たしてラクリマの目論見通り、凍り付いたサボテンの腕は一気に動きが鈍り、ぎこちなくなる。
「よし、上出来だ。私も続くとしようかねぇ」
 紫月は妖刀を鞘へ納めると、彼女は翼を広げて砂嵐の中を飛び立つ。銃を引き抜いて一発凍った腕の根元に撃ち込むと、再び彼女はサボテンの懐へと飛び込んでいく。
「さあ踊ろうよ、月の明かりの夜の下でさ。赤い火を囲んで、東の空が白むまで踊り明かそう」
 砂漠に伝わる民謡を口ずさみながら、紫月は渾身の居合斬りをサボテンの凍った節に叩き込んだ。楔のように撃ち込まれた銃弾が食い込み、凍った節に亀裂が走る。紫月は身を翻すと、目にも止まらぬ速さの斬撃を立て続けに浴びせていく。
「これが磨き上げた技の冴え。サボテン風情にもわかるかしらねぇ?」

 紫月の一閃が、サボテンの腕を一本斬り飛ばした。傷ついた繊維から大量の水が溢れ出す。しかしそれに激昂したのか、サボテンは再びその節をブクブクと膨れ上がらせた。蛍は思わずあっと声を上げる。
「またパンプアップした!」
「これは最早、神話に出てくる巨人のよう……いくらなんでもムキムキが過ぎます……」
 珠緒が息を呑んでいるうちに、筋骨隆々の外見へ変化したサボテン。腕を振り上げ、目にも止まらぬ速さで周囲を薙ぎ払いにかかる。蛍は咄嗟に珠緒の前へ身を投げ出した。
「珠緒さんには、指一本触れさせない!」
 節の重さと棘の鋭さは、騎馬突撃のような衝撃と痛みを蛍へ叩き込んだ。意識を肉体から引き剥がされそうになり、蛍は力なく砂の上に投げ出される。
「蛍さん!」
 珠緒は青くなり、慌てて彼女の下へ駆け寄る。痣だらけで横たわっていた蛍だったが、やがてペンダントを握りしめ、混沌の力で傷を打ち消していく。
「……痛い、けど。こんなものじゃボクは怯まない。ボクには仲間がいる。いつも元気をくれる珠緒さんが、そばにいてくれる限り……!」
 蛍は何とかその身を起こす。そばに駆け寄った珠緒は、未だ残る蛍の傷にタクトを向けると、棘を抜き去りその傷を痕一つ残さず癒していく。
「でも無理は禁物ですよ。すぐに回復しますから」
「うん……」
 カレンはそんな二人の様子をちらりと見遣る。空を舞うハゲタカの眼を借りて、巨大化するサボテンの姿を俯瞰的に捉え直す。
「……これなら、何とか行けるかしら」
 頭の中で状況を組み立てたカレンは、魔術書を開いて前線へ立つ。魔法陣を展開しつつ、ジルやラクリマの回復を受けながら敵の攻撃を何とか凌ぐ。
「早く戻ってきてね蛍さん! あんまり長くはもたせられないもの!」
 風に乗って襲い掛かってくる針の嵐を魔法陣で受け止め、カレンはサボテンをじっと見上げる。その顔には諦観に満ちた笑みを浮かべている。
「サボテンさんったら、お水を独り占めしてしまって……別に悪い事ではないけれど、こうして『こわいひと』がやってきちゃうのよ」
 魔法陣のバリアに少しずつ罅が入っていく。カレンは咄嗟に飛び退き、繰り出されたサボテンの拳を躱した。
「私はあなたの言葉は分からないし、あなたも私の言葉は分からないけれど。でも、これだけは伝えておくわ」
 回復を終えた蛍が盾を構えて戻ってくる。カレンはその手を正面に翳すと、黒く蠢く瘴気でサボテンの身体を包み込み、節の先を萎びさせていく。
「さようなら、綺麗な夜ね?」

 正面から蛍やカレンがサボテンの腕を抑え込んでいる間に、リナリナは四方をジェットパックで走り回りながら砂嵐の風上を取り続ける。大剣を宙で振り抜き、サボテンの根元に斬撃を当て続ける。
「オアシスを枯らし、砂嵐にトゲを載せて飛ばして来るでっかいさぼてん! さぼてんアウト! 無駄な抵抗は止めて大人しく駆除される!」
 サボテンがその身をくねらせ、片腕をリナリナへぶつけようとする。しかしリナリナはジェットパックを噴かせて素早く跳び上がり、その一撃を紙一重で躱した。
「デカイ! トゲトゲ! でもさぼてん固くない! 胴体へし折ればきっと大勝利! るらー!」
 大剣を水平に構えると、リナリナは一直線にサボテンへと突っ込む。
「これでおしまいだゾッ!」
 サボテンの根元に入った亀裂に向かって、彼女は鋭く剣を振り抜く。ぷちぷちと腸詰の割れるような音がしたかと思うと、サボテンの根元から大量の水が溢れた。
 サボテンはなおも腕を乱暴に振るい続けていたが、やがて根元の亀裂がサボテンの自重に耐え切れずに裂けていく。ぐらりと傾いだサボテンを見上げ、ロゼットは脱兎のごとくサボテンから逃げ出す。
「おおお、来るぞ。皆離れたまえ」
「退避! 退避っすよ!」
「うわわわ……ッ」
 風下に陣取っていたジルや蛍も蜘蛛の子を散らすように走り出す。その背後で、獣の遠吠えにも似た断末魔が響き渡り、砂塵が一際激しく襲い掛かってきた。

 やがて、ひどかった砂嵐がぱたりと止み、美しい月明かりが砂海を白く染め上げる。砂漠は平穏を取り戻したのだ。纏わりつく砂や針を纏めて払い落とし、紫月は溜め息を吐いた。
「酷いものねえ。羽根も髪も傷んでしまうじゃない……」
 振り返ると、根元からぽっきり折れたサボテンがもぞもぞともがいていた。蛍はそんなサボテンへ静かに歩み寄ると、掌に浮かべた桜の花びらをそっと吹く。
「これで最後よ。おやすみ」
 桜の花びらが嵐のように吹き荒れ、サボテンの身体を包み込む。もがいていたサボテンもやがて萎え、ぴくりとも動かなくなるのだった。

●トゲだらけの肉
 紫月とリナリナが剣を振り上げ、巨大なサボテンの株を切り分けていく。巨大化した棘は槍の穂先のように鋭く、外側の皮は革鎧のように固いが、中身はゼリーのようにぷるぷるで瑞々しい。リナリナはその断面を見て首を傾げる。
「おー、ぷるぷる。マンモの太ももの骨の中、こんな感じのぷるぷるでいっぱい! もしかしてウマいのか?」
 リナリナは一瞬首を傾げたかと思うと、いきなりサボテンの肉に噛り付いた。水をたっぷり吸った繊維が弾ける。味も食感もただの水である。
「むー、美味しくない……」
「むしろどうして食べてみようと思ったんやら……」
 舌をちろりと出しているリナリナを横目に、紫月はサボテンの占めていた砂丘をぐるりと見渡す。持ち帰るために切り分けたサボテンの身は、どれも水が詰まってパンパンだ。切り分けた時に流れ出した水だけでも、足下の砂が泥のようにじっとりとしている。
「やれやれ。これだけの水があちこちから吸い上げられたとなったら、オアシスの側で細々とやっていた畑などはもう大変なことになっているのだろうなぁ。後で様子を見に行くとしようか……」
 紫月は刀を納めて溜め息を吐く。蛍は水の詰まったサボテンの肉を軽くつつきながら首を傾げた。
「でも、これだけサボテンに貯水があるなら、これを何とかしてオアシスの街まで持って帰れば何かの足しにならないかしら? このままでも保水が利いてるみたいだし」
「ふむ。……とりあえずロープでも巻いてみようか」
 ロゼットはポシェットの中から細いロープをするする手品のように取り出す。サボテンの棘に引っ掛かるようにロープを回し、ソリを引くような姿勢を作る。
「……ウーン。このまま引っ張っても砂で擦れて大惨事になりそうだ」
「それでしたら、人形達に頼んでみるとしましょうか」
 珠緒が言うなり、蛍と彼女が使役する5体のロボットがどこからともなく姿を現す。サボテンの棘を次々折り取り、人形はサボテンを抱え上げた。そんなロボット達の様子を見守りながら、蛍はちらりと珠緒の横顔を窺う。
「ね、珠緒さん。こっちに来てすぐのボクは、全てが怖くて、周りから自分を守るのに必死だった。このサボテンみたいに周囲に棘を向けて……」
 暗い顔で吐露する蛍に、珠緒は頬を緩めてみせる。
「珠緒は、蛍さんに刺々しさを感じたことはないのですよ?」
「そうかな? とにかく、また笑えるようになれたのは、貴女と出会えたおかげ。だから……ありがとう」
「こちらも。笑顔で手を取ってくれた蛍さんが居なければ、この身も長くなかったやもです。こちらこそ、ありがとうございます」
 二人は共に手を重ねると、小さく微笑み合った。

 ジルは盾看板を構えると、その切っ先を何度も何度も砂の中へと突き立てる。土の中に残ったサボテンの根を念入りに叩き潰すのだ。
「細切れにしておけば、他の動物達の餌にもならないっすかね?」
 ぐりぐりと盾を捻じ込んで根を真っ二つにしながら、ジルはラクリマに尋ねる。
「えっと、そうかもしれませんね」
 しかし、ラクリマは何処か上の空だ。魔力を細切れの根に流して念入りに潰しながら、彼は左目に小さく涙を浮かべる。
「ああサボテンさん。こんな形で貴方と出会いたくなかった。もしまたどこかで会えたら……次は、次こそはきっと貴方と一緒に……!」
 相も変わらず持って帰ることを諦めていないラクリマ。思わずジルは苦笑した。
「えーと、その時はくれぐれも気を付けてくださいっす……」
 彼らのそんなやり取りを横目に、ふとカレンはその指の先に青い翅の蝶を一匹止まらせる。蝶が翅をふわりと動かした瞬間、カレンに一つの光景を見せる。
 天を衝く巨大なサボテンの周りは水に満たされ、砂漠の中に巨大な農地が出来上がっている。家も集まり、砂漠とは思えない豊かな集落が完成していた。
「なるほどね。そんな未来もあったら良かったのにね……」
 しかし、目の前に広がるのは枯れ果てた砂漠だけである。蝶を月光の中へ返して、彼女はこっそりと嘆息するのであった。



 おわり

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お世話になっております。影絵企鵝です。
この度はご参加ありがとうございました。
ちなみにサボテンは水と栄養のバランスが悪いととんでもない勢いでにょきにょき伸びたりするみたいですね。世話する時はご注意を。

では、また機会がありましたら。

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