シナリオ詳細
些か不適切な図書を売れ
オープニング
●本屋店主の敗北
腕には自信があった。
膝に矢を受けて荒事からは引退したが、今でも鍛え続けているし商売柄威嚇のやり方は現役時代以上だ。
「おいっ」
客が怪しい動きをした。
場所は同人誌売り場だ。
「そこを動くな!」
動きが鈍い足に力を込める。
近くの棚からポスター(無許諾で作成した全身図)を抜き取り、丸め、剣として扱い振り下ろす。
肌も骨も切れはしないが痛みと良い音はする。お仕置きとしては十分な一撃のはずだった。
「くっ」
「えっ?」
防がれた。
マスクの不審者が鞘に入ったままの剣を掲げてポスターソードを見事に受け流す。
以前の同業者並み、いやひょっとしたら騎士並だ。
「店主、お前は一体っ」
マスクの上からでもシリアス顔が分かるが、左腕に抱えた同人誌が全てを台無しにしている。
「あんたこそなんなんだよっ!? 俺は真っ当……まあ真っ当な本屋だよ」
「惚けるかっ」
鞘のまま剣で突こうとして、同人誌を落としそうになって慌てて元の棚に戻す。
何故か恥ずかしがり表紙から必死に目を逸らしていた。
「いずれ決着はつける。それまで首を洗って待っていろ」
身を翻して駆け去る様は実に絵になる。
剣だけでなく服装もアクセサリも良質で、どう考えても騎士か騎士相当の人間だ。
「何が起こってんだ。万引きが騎士じゃなくて騎士が万引き? ひょっとして客なのか?」
俺の勘違いなら次に会あった時に土下座すべきかなぁと、混乱したままぼんやりと考えていた。
●素敵な同人誌
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、厳重に封をされた冊子を机の上に置いた。
即売会が開催されたり秘密工場が狙われたりしているアレである。
「今回の依頼は同人誌に関わる依頼なのです!」
とある本屋の見取図が無造作に広げられる。
「この本屋がいっぱい同人誌を仕入れたらしいのです」
その本屋大丈夫?
路地裏で冷たくなって発見されていない?
という台詞を飲み込んだイレギュラーズが多数いた、かもしれない。
「店主さんは短期間で売り尽くしてしまうつもりだったようなのです、けど」
入荷直後から面倒な客が激増して四苦八苦しているらしい。
「依頼内容は護衛なのです!」
店主と店員が今の在庫を売り尽くすまで、面倒な客を撃退が足止めするという依頼になる。
「それと、元ネタの人は関わっていないのです!」
誰もが避けてきた話題をずばりと口にする。
例のあの方のお心を忖度した者が勝手に動いて騒動を起こしているだけ、らしい。
同人誌を闇から闇に葬ろうとする者。
その過程で店主に警告を与えようとする者。
そして、実物を見て自分で買いたくなってしまった者。
やってることはみみっちいが、実力は決して低くない。
「早く売り尽くすと早く依頼が終わるのです。頑張ってくださいなのです!」
撃退しなくても良いのだ。
最悪でも仕入れ値で売れたら問題ない。
この店には定価などないので、高値で売りつけても良い。
もっと良い同人誌があるのだと売り込んで財布を空にさせても良い。
一騎打ちを挑んで押し売りしたって構わない。
これは、そんな依頼である。
- 些か不適切な図書を売れ完了
- GM名馬車猪
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年12月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●裏通りの店
法的にグレーな商品も扱う店が軒を連ねた裏通り。
そのど真ん中に大きな本屋がある。
「ふーん、これが同人誌かぁ。話には聞いてたけど、実物を見るのは初めて」
上質な紙を1枚1枚素早くめくり、『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)が楽しげにうなずいた。
フィーゼはこの世界に漂流して来る前は転生を繰り返していた。つまり経験豊富だ。
同人誌の出来映えに感心することはあっても慌てたりはしない。
あくまで商品に対する態度と手つきで、空の陳列棚へ同人誌を補充していく。
「失礼するよ」
入り口のドアが開くと同時に、鐘がからころと鳴る。
「ここに来りゃ割のいい仕事があるって聞いたんだが」
愛嬌のある笑みを浮かべ、『軍医』ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)がドアを閉じた。
店内のアングラ風な雰囲気に、着崩された軍服に無精髭という要素が似合いすぎている。
ウィリアムは棚を見て、参加した面々を見て、えっという顔になる。
「まさかこの依頼、本当に同人誌の販売? よし、待て待て。時に落ち着け。これはローレットの仕事だ。そうだよな」
「依頼の場所はここで間違いありません」
『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)は整いすぎて冷たくすらある美貌に苦悩を浮かべている。
「ああ、最近ローレットで流行してる艶本のアレですか」
『流転騎士』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)が見本を手に取りそう言うと、ラクリマの苦悩が深くなりウィリアムの苦笑が濃くなる。
「で、元ネタに? 護衛が必要なほど? なんです? 貴族の艶本でも勝手に書いたのですか?」
店主を振り返ると、目をきらきらさせた『へっちなアイドル目指します!』ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)が飛びつく所だった。
「わーい! ジェーンちゃんの同人誌とアニマルビデオも置いてくれてるんだね☆ 嬉しい! これからも応援よろしくね!」
「いやぁ」
店主がだらしない笑みを浮かべる。
「あのお嬢様の同人誌を堂々と売るなんて店主さんはガッツがある人だよね★」
「店主さんも無茶なことするねぃ。あのお嬢様の本なんて表で売るのは危険すぎるだわさ」
自殺志願者かよおめー、という視線を『クリムゾンペイン』リルカ・レイペカ・トワ(p3p007214)が向けている。
店主は一度咳払いをして真面目な顔になり、欲の皮が突っ張っているだけですと答えた。
危ない橋を渡っている自覚があるので、ローレットに土下座する勢いで頼み込んだのだ。
今回失敗すれば、普通に死ねるといいねという末路が確定する。
「マジかよおい。ま、来ちまったからには仕方ねえ。精々頑張るとしますかね」
ウィリアムは飄々として、しかし目には戦場にいるときのような色を浮かべて店内の地形確認を始めるのだった。
●青年達の堕落
「また来てしまった」
「覚悟を決めろよ」
「上司代えたい……」
体格、挙措、武威の全てが騎士に相応しい青年が3人、ドアベルを鳴らして入って来た。
一般女性に黄色い悲鳴を上げさせる要素ばかりだが、異様に格好悪い仮面で台無しだ。
「ちょっとそこのお兄ちゃんたち、こっちに来てくれないかねぃ?」
リルカが元気に手を振った。
見た目は十代半ば、艶やかな黒髪の可愛らしい顔立ちだが、生気に溢れた蒼い瞳が最も目立つ。
「いいもの見られるかもしれないのよさ」
露出は少ないが肌は健康的で声も甘い。
だが一部の傾斜が平坦なので、急勾配大好きな青年達が近所の妹分を見る目を向けてくる。
「お嬢さん、こういう店に関わるのは……」
「今の我々は怪しいけど、普通の職場を紹介出来るよ。ホントだよ?」
時折胸に向く、労るような視線が非常に鬱陶しい。
だからリルカは強烈な人材をけしかけることにした。
「ハァーイ♪ そこのナイスな仮面を付けてるお兄さん達、ちょっといいかな?」
豊満なのに腰も手首も足首も細く、態度が柔らかで錯覚ではあるが隙も感じる。
ジェーンは、女に慣れぬ青年騎士達にとって、存在自体が毒のような存在であった。
「もしかして同人誌買うのは初めてカナ? だったらジェーンちゃん達が色々と教えてあげるゾ☆」
触れあう寸前の距離だ。
微かな体温と匂いが、禁欲的な生き方の男3人を堕落へ導く。
「だから……ちょっとこっちに来てほしいナ★」
2人の腕をとり触れあわせて外へ誘導する。
マスクの上からでも分かるほど顔が赤く、手足は棒のようにぎこちなく、そして鼻息が荒かった。
「ああいう誘いは苦手?」
辛うじて耐えた騎士に新たな魔の手が。
1人残った青年の腕をフィーゼの腕が絡め取る。
反抗した瞬間関節技が決まる体勢だが、柔らかな肌に気をとられた青年騎士は気付けない。
ジェーンも魔性の色気の持ち主だったが、フィーゼの色気は文字通りの魔性だ。
「顔を隠されてるということは、もしかして初めての方ですか?」
猫撫で声で耳元に囁き、それでいて必要最小限しか触れあわず近づかない。
相手を利用し尽くすための色仕掛けを、意図して仕掛けていた。
「でも、下手に隠されると逆に目立ちますよ」
声を聞くだけでも気持ちがいい。
心も体も決して弱くはないはずの騎士が、異界の魔人に惑わされて酔ったような顔になる。
「こうした書物を買われる際は、顔を隠さずに堂々として買われた方が目立たないで済みますからね」
反対側の手を伸ばされたタイミングで一歩下がり、心配する表情を作って上目遣いに語りかける。
騎士の瞳に情欲と好意の色が浮かぶのを見て、フィーゼは勝利を確信した。
「何でしたら、私が代わりに買ってきましょうか? えぇ、では一緒に……」
夢は、ドアから出た瞬間に覚めた。
暖かなベッドの中から冷水の中に放り込まれたかのように、3人の意識がはっきりする。
「立場は分かっていますね」
アリーシャが静かに立っている。
経歴を聞かなくても、青年達より騎士として長く密度の高い時間を過ごしてきたことが分かる。
「そんなものをぶら下げて」
騎士として拝領した剣が剣帯で揺れている。
「そんな怪しい覆面でこんなところに来て」
表通りからこの格好だったので実際通報されかかった。
「しかも窃盗まで。恥を知りなさい」
アリーシャが激して怒っていれば、任務だからと内心言い訳して抗弁することも出来ただろう。
しかし、穏やかに諭されると心が痛くて言葉が出なくなる。
「買わないの? お嬢様本もいいけどジェーンちゃんの本とAVも全年齢なのに限りなくへっちでお勧めダゾ♪」
ジェーンが体温が移った冊子を取り出す。
「もし買ってくれたのなら…ジェーンちゃんサービスしちゃうゾ☆」
色気が、体の曲線が出過ぎた同人誌が、騎士としての精神を取り戻したはずの青年を惑わす。
「残念です。行動を改めるつもりはないようですね」
アリーシャは剣も戦闘装束も呼び寄せない。
悲しげな目で3人を見て、かかってこいと拳闘の構えをとった。
「っ」
「詫びはいずれ。今は任務を」
ここで剣を使えば二度と騎士を名乗れない。
3人はポスターを丸めて武器として、1人ずつ戦うつもりで騎士の先達に向かい合う。
「っ」
鋭い呼気を吐き一瞬で加速する。
筒先……剣先は素晴らしい高速で、運が悪ければ手足の骨を砕く。
「戦うならば」
一房の前髪が横に揺れる。
半歩踏み出すことでポスターの剣の打点をずらし、手の甲で弾いてから拳を顎下に滑らせる。
「勝つつもりでやりなさい」
騎士は脳を揺らされ、前のめりに倒れてポスターを自重で潰した。
「ふーっ★」
同僚の敗北で動揺した騎士に、色の道へと誘う魔性の吐息が吹き込まれる。
朦朧となった彼は、もう普通の騎士ではいられないかもしれない。
残り1人。
足掻くのが正しいのかどうか迷いながら腰の剣に手を伸ばす。
そこにフィーゼの手が優しく触れる。
温かさが弱った心に深くまで染みこむ。
騎士の中からこの場で戦うための気力が失われる。彼の目には、同人誌を大量に売り込むつもりのフィーゼが救いの女神に見えていた。
●中年騎士の憤激
諜報や防諜の戦いでなら、負ける可能性はあった。
しかし店舗での警備、しかも相手が万引きならば『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が負ける確率は0に等しい。
「いらっしゃいませ。お買い上げですか?」
寛治が隠密を解除し少年達に微笑む。
材質とテーラーの腕の良さがはっきり分かるスーツ、そして何より寛治の慣れた着こなしが、商売人としての格の高さを否応なく感じさせる。
「え」
同人誌をリュックに入れようとしていた少年が、逃げるか誤魔化すか迷って貴重な時間を浪費した。
「お二人とも実にお目が高い。そちらは、先日のPants Panty Projectにて頒布されたばかりの新刊です」
威圧感を与えずに取引の場に引きずり込む。
「ところで……こちらの本にも興味はございますか? 非売品なのですが」
「リっ」
引き締まった筋肉の少年が慌てて口を閉じる。
あの方の、あり得ない、でも魅力的過ぎる体勢と表情が目に焼き付いて離れない。
「こちらの方も……」
「はわっ」
肌色率が高いだけなら耐える自信があった。
けれど、本人と比較しても全く違和感がない体格と肌色とアクセントにしかなっていない三角の布地が、あまり魅力的で刺激が強過ぎた。
「実はお二人にお仕事のご相談があるのですよ」
寛治は商売人に徹している。
だから訓練途中とはいえ特殊な技術者である2人が全く手も足も出ない。
「報酬は、こちらの同人誌」
自然と喉が鳴った。
「依頼はシンプルです。これらの本が好きなお知り合いの方を、この店舗に連れてきてほしいのです」
コネを有効活用して在庫は倉庫に積み上げた。
「大勢連れてきていただけたなら、この本を差し上げましょう」
「はいっ」
「やらせてください!」
食い気味の返事を聞いて、寛治は静かに勝利を確信するのだった。
「何が、いや貴殿、何しているのだねっ」
実力的にも地位的にも高い位置にある騎士が、趣味の悪いピンクマスクのまま素の声で問いかける。
「おっさん。どこ中だよ。ツラ貸せよ」
イチャモンをつけるチンピラのふりをしても……そもそもふりすら出来ていないラクリマが膝カックンを試みる。
異様に柔らかで強靱な関節が耐え、そこでようやく中年騎士が我に返る。
「どんな事情があるか知らぬが」
ラクリマと味方として共闘するとしても、今回のように敵として対するとしても、ラクリマとはもっとシリアスな事件で会いたかったと正直思う。
「私はいくらなんでも正義に反し過ぎたものを処分しに来た。止めようとするなら覚悟して貰おう」
騎士の気配が濃くなる。
剣に触れてもいないのに、ラクリマが真顔になる強さだ。
「うーん……」
反射的に剣を抜いてしまいそうな気配に晒されているのに、『気まぐれドクター』松庭 黄瀬(p3p004236)は平静だ。
「ぼくは根っからの医者だから同人誌云々はよくわからないけど……」
一般客の避難が終わっているのを目で確かめてから、猛る中年騎士の目を真正面から見返す。
「回収と称して無断で持ち出すのは頂けないよね。どんな理由であれ。うん」
「限度があるだろうっ!」
色っぽすぎる例のあの方の似姿を指差し吼える。
「でも、問答無用ってのはさすがにどうかと思うよ、人間として」
「っ、平行線だな」
息を吐いて、鞘から抜かずに大きな剣を構える。
棚や商品に触れもしない、極めて高度な技術が見えた。
「そこまでにしようや。あんたが本気になったら裏にいる店員が気配でどうにかなっちまう」
ウィリアムがにやりと笑う。
首謀者の店主は分かった上でやっているが店員は巻き込まれただけだ。
「だから、同じ幻想に仕える者として、お前さんに決闘を申し込む!」
本気だ。
信念を賭けた、戦いの申し込みだ。
「俺は腕っぷしにそんなに自信がねェからちょいと人数多めだが、受けてくれるよな?」
断ることなど、あり得なかった。
「このロープを張ってくれるかな? 客が入って来たら危ないからね」
黄瀬が少年達を使って店内と店外を遮断し。
「狙って壊そうとしたら壊れるからねぃ」
リルカが保護のための結界を張り決闘の場を整えた。
「いざ」
「応」
ウィリアムが足止めを試みる。
騎士は足止めを受け入れ剣を振り下ろす。
ウィリアムの高度な防御技術を騎士の剣技が上回りその肩を抉る。これでウィリアムは攻撃よりも回復を優先するしかない。
黄瀬が離れた位置から術式を飛ばす。
術は分厚い剣の表面で砕けて何のダメージも与えられない。
が、騎士の瞳には苦渋に近い色が滲む。黄瀬に対応した分それ以外への備えが甘くなる。
「貴方正義は自己満足とまではいえない」
ラクリマが自身の血を捧げ血色の鞭を現実化する。
「ですがやり過ぎだ。ここで止める」
冷え冷えとした声に導かれ、鞭が毒蛇如く幻想の騎士を狙う。
「むっ」
剣の腹で受け、浸透してきた痺れを根性で耐える。
腕に痺れはないが、衝撃を受けた腕の骨の痛みが消えない。
「見事。だが乱れがある。何を迷っている」
敵に対する敬意を以て、過酷な道を歩む男に問うた。
「……たい」
「む?」
「もう仕事終わらせてこんな変な本売ってる所から帰りたいのです! えっちなのよくない!!」
ピュアな30代の、魂の叫びであった。
「気持ちは分かるが貴殿がそれを言うかねっ!?」
視認するより早く後ろへ跳ぶ。
先程を上回る速度の鞭が額に傷をつける。
人体の構造状向き直れない方向から、おそらくメスが一番似合う指が伸ばされ騎士の服に触れた。
内出血させた上で痛みを喚起する指先ツンツンアタックだ。
致命傷には遠く、しかし痛みを意識して我慢する必要がある程には痛い。
「ぼくは医者だもの、治すのはもちろん『壊す』のも得意さ」
「一度事情聴取を受けないか」
非常に怪しい医者に対し、予備動作無しの斬撃。
黄瀬が状態を逸らして躱すが、胸元の服と皮膚を切られ鮮血が垂れた。
「それは遠慮するよ」
「ははっ、そろそろヤベェな」
騎士の狙いが黄瀬に向いて、一息ついたウィリアムがぼやく。
予想以上に強い。
だが、騎士の視線の向きと速度からどの同人誌をどのように見ていたか考えれば、打つ手は自然に見えてくる。
寛治が持ち込んだ、複数の意味で豪華版な同人誌を開いて人質のように抱える。
例のお方が、ウィリアムの腕から潤んだ瞳で騎士を見た、気がした。
「っ」
「どうだ! これなら近付けまい! お前さんが本気の一撃を見舞ったが最後、お前の愛しのお嬢様は木っ端微塵になるぞ!!」
げはははと、悪役を通り越して悪党にしか思えない顔で笑うウィリアム。
「私はそれを処分に来たんだぞっ」
騎士は激しく動揺している。
視線が控えめな膨らみに向いては慌てて外されるというのが何度も繰り返される。
「ふーん、騎士のおじさんのお好みはちっぱい?」
中年の肩が跳ね上がる。
リルカが上着を脱いで、足の細さと肩から腰までの曲線の美しさを見つけながら近づく。
剣が震え、呼吸が不自然に乱れ、黄瀬とラクリマから強烈な一撃を貰ってしまう。
「今ここはそういう本がよりどりみどりだわさ。もちろん……ちゃんとお金は払ってもらうのよさ」
リルカの口元に勝利の笑みが浮かぶ。
性癖を見抜かれた中年が、精神的に力尽きて両膝をついた。
「あたしの出演作はないけど、続きは同人誌でねぃ!」
黄瀬が歩み寄り、攻撃のためではなく純粋に治療のための薬を取り出す。
「敗北を認めるかい?」
剣を持つ手に力が籠もり、深い息と共に力が抜けた。
「認める。私のことは好きにするがいい」
ポーションが使われ、速やかに応急処置が行われた。
●完売
戦いは終わった。
営業時間終了後にそれぞれが帰路につき、新しい日が始まる。
「隊長、このような場所に何故……見回りですか?」
驚く部下に非番と答え、中年騎士は昨日も見た道を今度は素顔で歩く。
常人に見せかけてはいるが優れた技術と身体能力を持つ男女が、冊子が入った包みを大事そうに運んでいる場面を何度も見かけた。
「はい、ありがとうございます」
レジ打ちに使うには人材の無駄遣いにしか見えない美形がレジを担当している。
一瞬騎士と目が合うが会話は交わさない。
昨日の出来事は表向きなかったことになった。
だから、ここにいるのはただの店員と客だ。
「袋、つけましょうか」
「お願いする」
積み重ねて立方体に近くなった同人誌が、目立たぬ色の紙で包装される。
ラクリマは、心を無にして店員として活動していた。
「そこのお客さん、かわいい男の子がお好き? ならこれはいかがかねぃ?」
「ほぅ……3冊買っても?」
片方は魅力に溢れた声で、もう片方はイラッとくる気取った声。
後者に聞き覚えがある気がして騎士が振り返ると、少なくとも昨日の朝までは好青年だった部下と目があった。
観賞、保存、その他用で3冊重ねられた冊子の表には、あられもない格好の少年が映っていた。
「完売です、ありがとうございます!」
店主が笑顔で鐘を鳴らす。
従業員に大量の退職金を渡してから高飛びする、1日前の姿であった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
圧倒的でした。
GMコメント
コメディ依頼です。
荒っぽい手段を使った場合でも、全体的にふわっと良い感じになって登場人物の怪我もたんこぶが上限かもです。
●目標
在庫同人誌を全て売り払う。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
広くて立派な本屋です。平家建て。
●在庫
いわゆる不適切な図書を中心に、同人誌が複数種類があります。
参加した特異運命座標が携帯している同人誌と同じ同人誌も在庫があります。
通常の本や雑誌の割合は全体の1割未満。これは売らなくてもOKです。
●今回の収益
近隣の店や住民にたいするごめんなさい等に使われるので、報酬は通常分のみです。
●客
全員同時期に入店します
『立派な騎士っぽい中年』×1人
今回の客の中で最大の財力を持ち、同人誌に最も無理解です。
一騎打ちには必ず応じます。1対3までの戦いにも高確率で応じます。
装備は、高性能な剣、立派な服、顔を隠すマスク。
戦闘方法は以下の2つ。
・通常攻撃:物近単にダメージ。鞘に入ったままの剣攻撃。
・水平斬り:物近範囲にダメージ。識別有り。同人誌や店舗のダメージを与えない様気をつけているので、命中も威力も本来より半減。
『動揺している騎士っぽい青年3人組』×1組
上司から、同人誌回収を命令されて混乱しながらやって来ました。
今回の客の中で1番、誘惑に対する抵抗力が低いです。
装備は、剣、服、顔を隠す雑なマスク。
戦闘方法は以下の2つ。
・通常攻撃:物至単にダメージ。購入して丸めたポスターによる剣技。技術は高度でも威力は極小。
・本気攻撃:物近単にダメージ。中年騎士に何度も命じられたときのみ使う、鞘に入ったままの剣での攻撃。狙いが少し甘く店舗等を巻き込む可能性あり。
『特殊な職業の気配を隠し切れていない少年』×2人
隠密技術に優れています。
気付かれるまでは金を払わず同人誌を外へ運びだそうとして、気付かれた後は普通にお金を払おうとします。
装備は、上等な服、お嬢様LOVEと墨書された鉢巻き。体格は、細マッチョと庇護欲を誘う小柄です。
一応戦闘力もありますがイレギュラーズ相手に負ける自覚が有り実際2人がかりでも1人負ける確率大なので、徹底的に戦いを避けようとします。
『客』×宣伝次第
普通のお客です。
普通に買って立ち去ります。
彼等を戦闘や流れ弾に巻き込んでしまうと依頼失敗です。
●他
『店主&店員』
特異運命座標からの指示に可能な範囲で従います。
指示がない場合はバックヤード担当です。
・ポスター
同人誌の表紙をポスターサイズに拡大した物。売ってOK。
・同人誌
※参考:https://rev1.reversion.jp/guild/1/shop
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