シナリオ詳細
<青海のバッカニア>船の上でゆらゆら揺れて
オープニング
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夜。
月明かりが照らす冬の海を一望したレストランのテラスに、男が二人立っていた。
腰高の柵に寄りかかり、グラスに注いだアルコールを酌み交わしながら、片方の男が言う。
「知っているか? 最近、海を荒らして回っている海賊の話だ」
白の装束にマリンキャップを被った、痩身の男だ。
なぁ、と、傾聴をさせる前置きを一言いれて続ける。
「海洋は近々、大きく動くぞ。我等が女王は声を上げ、民達は外洋の水平線、その果てを夢見ている。だからこそ」
「好き勝手暴れる海賊は潰しておきたい、って話な訳だ。なぁ、おい?」
台詞を継いだ男は、寒空に半袖短パン、バンダナを頭に巻いた男だ。
フンッと鼻を鳴らしてグラスを煽った彼は、酒臭のする嘆息をしてから、
「なんせ俺達の国は細腕だ。海に秀でているが、逆に言ゃそこ以外は非力に過ぎるって訳だからなぁ?」
笑えてくる。
「外洋へ行くって時に、管理外の海賊をのさばらせとくってのは、余りに危機感がお粗末。て、そういうことだろ。俺みたいな"お抱え"海賊や、お前みたいな海軍で、先にそういうのを潰しておきたい、ってな具合か?」
「それもある。だが、それだけでもない。我々海の民は、これまでのしくじりを知っている。だが今回は、それをなんとか出来るかもしれない、そういう援軍がいることも、知っているのだ」
名を、ローレットと言う。
大真面目な顔で告げた言葉に、海賊は呆れた様に空を見上げた。
結局は他力本願か、という想いもあるし、ローレットには以前しこたま殴られた記憶もある。
捕縛という手加減のお陰で今、生きていられる訳でもあるのだが。
「今後、海に同行を願うことが更に増えるだろう。ならば今の内に、経験出来る事は経験させておきたい。そういう打算的な狙いもあるのだよ」
いいか?
嫌そうな顔の海賊に言う。夜の海を手振りで指して、再度いいかと伺いの言葉を挟んで、渋々の頷きを確認して説明を始めた。
「今、海を荒らす海賊はやりたい放題だ。空へ打ち上げた術式砲弾は、衝撃波で海鳥を叩き落とす。
船底に取り付けた電気ショックの術式は、魚類を広範囲で気絶させて根こそぎ浚われる。海の環境は滅茶苦茶だ」
「なるほどな。それがほんとなら、討伐は楽じゃねえぞ? 船の上、攻められたら困るのが上と下だ。聞く限り、その術式の装備ってのは、乱獲と迎撃を効率よくこなす為のモンだろ」
単純だが効果的だと、そう思う。
だがそれだけに、対処としては分かりやすい筈だ、とも。
「はっは! なんせそれ、ローレットに依頼するんだろう? あいつらは真正面、ど真ん中からぶつける時が一番ヤベーんだからよぉ!」
敵船にはそれなりの人数が乗っているのだろうが、そんなもの、障害にならないと、海賊は笑う。
くっくっとひとしきり笑った彼は、
「……いいぜ、船を出せってことだろ? そういう単純な話は好きだぜ俺ぁな!」
残ったアルコールで喉を潤し、剥き出した歯を見せて応えた。
●
海洋の近海に現れる海賊の討伐依頼。
ローレットに届けられたその事件を、『新米情報屋』シズク(p3n000101)は説明した。
「ターゲットの船は大きいよ。軍艦、って言うのかしら。左右と正面にそれぞれ砲門を備えていて、特殊な砲弾を撃つんだ」
それは、着弾しない弾だという。
放たれ、任意のタイミングで起爆し、物理的な破壊力を孕んだ衝撃波をぶちこむ物だ。
「空飛ぶ生き物を落とす目的ね。とはいえ、狙いは大型生物じゃないから、直撃しても君達なら耐えられるかもしれないな」
それから、もう一つだ。
指を立てたシズクは続ける。
「船の底の部分。竜骨、って、言うんだっけ? その流面に、電気を通す仕掛けがあるみたい。海中に放電して魚を捕る目的らしいけど、ディープシーに近寄られたく無いって事でもあるのかな」
随分と臆病な事だ。
そのくせやることの規模は大きいのだから、身の丈に合っていない、とも言える。
「頼まれたのは、その海賊を駆逐することだ。敵船までは船を出してくれるから、寄せるにしても、ぶつけて乗り込むにしても、指示は現場の皆が出して」
波の荒れや、砲弾の衝撃で、船は相当揺れるだろう。
その辺り、軽く対策を考えておくといいかもしれない。
そう付け加えたシズクは言葉を締める。
「説明は終わり。後は、じゃあ、任せたからね?」
- <青海のバッカニア>船の上でゆらゆら揺れて完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2019年12月10日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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その日は、快晴だった。
冬季にしては珍しい暖かな陽の下、穏やかな波に船は乗っていく。
快晴だ。
辺りを撫でるように通る風は優しく、緩やかで、張った帆を力強く押していく。
「快晴だなぁ」
見張り台に上った男は、水平線も見ずに上だけ見ている。雲の無い青は、海とは違った澄み渡りの青で、海面からの反射したキラキラが眩しい。
ああ、いい日だ。
そんな、眠気を誘うような、幸せな時間に。
「──!!」
とんでもない衝撃が来るのは、唐突だった。
●
「見えた、ドクロのマークだ!」
少し遡った海の上。海洋から派遣された船に乗った『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は、遠くに見える巨大な船に視線を投げていた。
「オジサン、出来るだけ近くまで寄せてね? 最悪ぶつけていいからさ!」
「おいおい俺の船だぞ、許可を出すのは俺だっての……よっしゃぶつけるか!」
テンションが高い二人だ。いや、乗り込んだイレギュラーズ以外、最低限の船員達全員が、相当にテンションが高まっていた。
今の様なやりとりのノリもいいし、というかホントにぶつける気満々なのであろう事は、顔を見れば直ぐに分かる。
「ところで、オジサン、めちゃ、揺れるけど、どうしたらいい?」
「ははは。慣れだ」
「そっか慣れかぁー」
スティアはうぇっと軽く嘔吐いた。
「はは、いい空気だな」
船室へ続く盛り上がりの扉、その屋根上に座った『銀狐』ギンコ・キュービ(p3p007811)は思う。
心地良い空気感だな、と。
荒くれ者に近しい雰囲気を持つ船員達は、どこか傭兵に似た気配がする。やりとりは分かりやすいし、自身の性格上そういった手前と遠慮しなくていいのは楽だ。
まあ、軽快過ぎるやりとりをするスティアはギフトの効果もあるのだろうが。
「目的、分かりやすいしな」
存分に暴れて良い許可はあるのだ。後は、依頼に沿って確り動くだけでいい。
「相手の扱いは流れで変えて良い……のは、楽なんだけどね」
変わって、どこか微妙そうに微笑む『堕天使ハ舞イ降リタ』ニーニア・リーカー(p3p002058)の言葉は歯切れが悪かった。それは別に、今回の仕事が嫌だとか、波に逆らって前後に揺れる船の上が居づらいだとか、そういう事ではなく。
「人の生き死にを握るのに、随分と慣れちゃったなぁ」
複雑だ。
ギンコの様に、常から非日常に身を置いているわけではない。だが、ローレットの依頼で幾つもの経験を得ている。
率先してさあ命を奪いましょう、とは言わないが、戦闘の最中にそれを躊躇う気持ちは、今は、無い。
「複雑だよね……」
ざっぱんざっぱんと波を打つ音が少しうるさい。
というか、これ、揺れすぎでは?
「ははは慣れだぁ」
慣れかぁー無理だなぁー。
そんな事を思いつつ、他の人達はどう対処しているのだろうかと、ニーニアが辺りを見回す。
スティアは、まあ大丈夫そうだ。ギンコも、近付いてくる敵の船をジッと見ているだけで問題ない。
「どうしたの?」
キョロキョロと動かす顔の前に、赤紫の髪が覗き込んでくる。
ふわりと、膝を曲げて浮く『雷雀』ティスル ティル(p3p006151)だ。
髪色と同じカラーの翼を緩く広げた彼女は、ん? と小首を傾げて続ける。
「大丈夫?」
「あ、うん……? あ、そっか、飛んでればいいんだ」
足場の揺れ、それも上下左右の不規則に対して、不安定にならない程度の浮遊で対処する。
改めて周りを見れば、『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)は浮かせた箒へ横向きに腰掛けているし、『黒焔纏いし朱煌剣』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)と『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は小さな光翼を広げた靴で空中に在った。
「ああ、うん、そう。見える範囲で、体感と違う揺れ方してる船を見るのは違和感すごいし、飛んでる間は前へ進むの自力だから疲れるけどね」
都度、タイミングを選んで休める分、ただ乗っているよりマシだろう、と、そう思う。
船は加速し、揺れ幅は少しずつ大きくなっていって、徐々に向かう船の様子が見えてくる。
「安穏としているな?」
感想としては、それだった。
気付かれていないというよりは、全く警戒心が見えないと、そういう印象が『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)にある。
相手の船に対して、横から斜めの角度を付けて近付く動きは急なものだが。
「今の時間は、海洋海軍が普段動かねぇタイミングだ。随分余裕ぶっこいていやがるがまあ、都合いいだろ?」
船長の言に、彼女は頷いた。
気を付けるべき砲門の並びは上向きで、砲手等は見えない事を確認。
ふ、と息を吐くように笑ったゼフィラは、銀の両腕を前に突き出した。
「ああ、いいね……それじゃあ、ぶちこんでくれ」
そうして、言葉と同時。
「──!!」
船の衝角が激突し、大砲の列が破壊された。
●
アリシアは、船体が上方向へ跳ねるのを待った。
衝突の勢いは、一度、お互いに下がって沈み、後に反発する動きで一気に跳ねる。
その慣性に従い、斜め後方へ吹っ飛んだ彼女は、眼下になった敵船甲板上を見る。
「居ますね」
慌てふためく海賊達だ。
船室から湧き出してくる群れが大半で、操舵輪を支えにした者や、衝撃に転がった者など、始めから外に居た者の姿も見える。
「それでこちらは」
対してぶつけたこちらは、相手より小さい船だ。反動の勢いは強く、イレギュラーズはともかく船員達の吹き飛びは大きくて、
「──心配ない」
構えていたポテトの手が、外海への落下を防いでいた。
心配は必要ない。それが解れば後は、行くだけだ。
だから。
「行きます」
翼の靴で宙を蹴り、前に加速したアリシアは、引き抜いた細剣と共に甲板へ飛んだ。
「そしてそして、私が一番乗りだー!」
そこに、スティアは既に仁王立ちしている。
舳先の根本だ。
笑顔でふんっ、と力強い鼻息を鳴らし、下から持ち上げる様にして広げた両腕は、彼女の足元に不可思議な魔方陣を広げていく。
術式を起動して、両手を前に開いて出し、ニィ、と濃くした笑みで、
「良いもの出ること祈っといて、ね!」
光の顕現を行う。
形成は一瞬で、生まれたのは剣の形をした魔力塊だ。
光り、輝き、目映いそれはもしかしたら彼女の思うカリスマ性の具現だろうか。
「それいけ!」
スティアはその具現を殴り発射した。
「ぐわーっ!」
真正面、ど真ん中を貫通する剣は、船室から出てきた数人の悲鳴を重ねさせて吹き飛ばす。
「くそ、なんだあの頭がおかしい輩は!」
「誰のこと?」
「あぁ!? そんなのあいつに、決まって……あ?」
とん。
と、怒れる海賊達の中に降り立ったティスルは、びっくりして仰け反るそれらにまあまあと手で制する。
それから、んー、と口に指を当て、うん、と頷くと微笑む。
「ローレットが来たからには、年貢の納め時、ってやつだよ!」
「あの悪名高いギルドの連中か……!」
どんな名だろうか。聞いてみたい気もする。
だか多分、彼らの悪事に比べたらそこまで、の、はずだと思いたい。
「っと」
余分な思考は切り替える。周りは殺気だらけの集団だ。構えられた得物は曲刀のサーベルで、それらが一斉に自分へと迫ってきている。
翼を体にくっつけて畳み、横手からの袈裟を仰け反ってやり過ごす。次いで逆からの横振りにしゃがみ、正面の縦閃には横飛びに回転して回避。
「えいっ」
着地して、足を後ろへ跳ね上げた。背後から剣を振り下ろしていた腕を蹴り飛ばし、足を戻しながら体を回す。
「うわ眩し──」
その時、光が舞った。
「ぉ……!」
薊色の翼が輝き回り、勢いで広がる羽根が空間に踊る。
幻想的だ、と。誰かが言う。
そういう、見惚れの間に光へ包まれた彼らは、その鋭い光に切り裂かれていった。
「くっそぅ……! おいテメェら! もうこれ以上乗せんじゃねぇ!」
怒号が響く。
上からだ。
一本通った柱の上。横へ伸びたマストに居る、見張り台から降りてきた男だ。そいつは眼下を指差して、まだ船に残った戦力を示して言う。
「潰せ……!」
足を潰せ。逃げられないように、乗り込ませないように、攻めの基点となる船を潰せ。
「オゥッ!」
答える声は大量だ。
既に乗り込んでしまった敵性を数人ずつがばらけて囲み、残った者達で一斉にダッシュする。
咄嗟の指示でこれだけ動けるのだから、粗暴さの目立つ表向きと違い、相当に慣れているのだろう。
「と、思うけれど」
駆けて、船のヘリに足を乗せた海賊達は、しかしそこから飛び立つことは出来ない。
「なん、だ……!」
太い幅の踏み桟にしたそこは、真っ白な霜を噴いている。一瞬で、乗せた足から脚にまで伸びた霜は、固定するように凍り付く。
「瞬間冷凍、だよ」
ニーニアの術式が発動した結果だ。元々、保冷用だった筈のものだが。
「……まあ、想定外が重なった結果だよねぇ」
配達で使うには過剰だと思うが、こうして敵対した相手に使うなら遠慮もしなくていいし使い勝手はいいとも思う。
「郵便屋さんとしては、配達は予定通り、滞りなくしなきゃ、ね?」
伸ばした手が制御する冷却機能は、継続して標的周囲の熱を奪い続ける。
「なら跳べ、上なら凍り付かねぇだろうがよ!」
「おっと、その手段を僕はオススメしないかな」
固まった仲間の背を踏み台に、海の男は飛翔する。
高く、遠く、水平線を望むほどに上へ。
それを、ニーニアは見上げ、あらら、と苦笑いを漏らして少し後ろへ跳んだ。
「自分は……助かる……」
飛んだ野郎達の更に上から、降り注ぐ氷塊があるからだ。
撃ち落とす目的ではないそれらは、しかし、結果として弾き返す流弾となって敵を甲板に帰還させた。
征斗の技だ。
次いで、指で宙に五芒を刻んだ彼は、固まった群れと撃ち落とした群れを巻き込むように指して、
「さあ、舞え……凍てつく華よ」
渦を描いた風が、降らせた氷を巻き上げた。
「弾けて、刺され……!」
つぶての様に身体を叩き、華同士がぶつかりあって跳ねた花弁が切り裂いていく。
上昇する風に踊らされた敵は散り散りに海へ落ちて、
「よし……!」
逆に、上へ行く姿もあった。
「いくぜ」
ギンコだ。破損して飛んだ、平らの構造材をボード代わりに風へ乗った彼女は、くるりくるりと渦の流れに巻き込まれながら行く。
狙うのは、マストに乗った男の所だ。
「まずは頭を叩く、定石だろ!」
十分な高度を得て、板を蹴り、標的へとギンコは加速する。握った拳を振りかぶり、そうして敵を見据え、気付いた。
「……笑ってッ!」
してやったりの笑みを浮かべたその意味を、理解すると同時に、下から狙い撃ちの魔法攻撃に飲まれた。
●
定石通りだった。
目立つように指揮を取って見せれば、狙われるのはそいつだろうと、戦い慣れした海賊は思う。
だからそうして、結果、相手は自らを潰しに来たのだ。
ならば後は、そこを不意の場所から攻撃してしまえばいい。そうすれば相手は、瞬間的な思考に囚われ、動きは鈍り、うまくいけば戦闘不能に追い込める筈だ。
「なのに」
それなのに、今、魔法の影響で生まれた爆煙を突き抜けて、ギンコが彼の目の前にいる。
無傷ではない。
身体中に傷を付けられ、肌の焼けも見える。
「いや……違う」
それらは急速に治癒されている。血は止まり、傷は塞がって、火傷は外周からきれいな肌へと戻っていった。
「考えすぎなんだよ、アンタ」
ただ静かにギンコが言い、拳を顔面にぶちこむ。勢いにマストから落ちる二人は、海賊を下にギンコが押さえ込む形で行く。
「ま、なんだ。大人しく寝てな」
そのまま甲板にめり込ませ、立ち上がった彼女は、今度は自分を狙ってきた魔術師に向かって猛然と迫っていった。
「……なんとかなったか」
その背中を、ポテトは見送った。
ギンコが攻撃を受けながらも耐えたのは、単に彼女によるものが大きい。
辺りを見回せば、征斗に続いたニーニアを最後に、イレギュラーズ全員が乗り込んだ事になる。
「本当は、攻撃に晒され無い方が良かったのだけどな」
ふ、と、ポテトは笑う。
「まだまだ、私では上手く守れないよ」
師事を受けている所だ。色々な事を学ぶ最中、海洋を荒らし回って問題を起こされるのは後々困るだろう。
故に。
「皆が戦える様に、サポートを続けるよ」
今は優勢だが、無傷ではない仲間の元へと活力を届けていく。
指した手のひらは暖かく光り、敵陣で舞うティスルの怪我を癒す。
「余計な事してんじゃあねぇぞ……!」
だがその行為は、海賊達からすると目立つ。
何せ削ったと思った敵が端から元気になっていくのだ。不利を覆すには数の有利を活かすしかない。
故に。
「まずはお前だァ!」
振り上げた剣は鋭く降りる。
「失礼」
が、それがポテトに届く事は無い。そもそも彼女は、自分を狙う敵に見向きもしなかった。
なぜならそこは、既に仲間の射程圏内で、
「討たせていただきましょう」
アリシアの突き出す細剣が先に来るからだ。
半身にした構えから一歩、踏み込んだ動きで魔力を灯した先端をぶちこむ。
「ぐお……!」
腹だ。押し当て、くの字に曲げた相手への追撃に、剣の柄へ掌底を打ち込んで吹き飛ばす。
「てんめ、よくも……!」
海賊は、まだ生きていた。とんでもない衝撃に内臓はイカれてしまったが、意識は残り、怒りとアドレナリンでアリシアを睨み付ける。
既に彼女が、自分を見ていないとしても。
「ぶっ殺してや──」
だから気付かなかった。自分の後ろから迫る灯りに。
静かな殺意の闇を。
「穏やかでは無いな、キミ、ヤな事でもあったのかい?」
その声は、上から聞こえた。
船室に続く小屋型の入り口。その屋根に立ったゼフィラの声だ。
からかうようでいて、心配するようでもあり、しかしどこか薄ら寒さを感じる声音に、彼は振り返って、そして見る。
「なんだよ、そりゃあ」
暗い。彼女の周囲だけが闇へ変じている。
日溜まりの中にあって異質な、闇色の輝きとも言える現象であり、それに呑まれた海賊達はピクリともせず落ちていた。
「理解出来ない? ならば結構、しなくていい。ただ私が海洋事業に携わる為の、足掛かりとなってくれたまえよ、海賊君?」
頷きも、声も、応えを待たないその闇へ、彼は静かに溶けて行った。
「ここから、フォローするよ!」
敵がバラけ始めた。状況を把握したニーニアは、ドローンと呼ばれる小型機を複数発進させる。
「うわ、なんだこいァばびッ」
それらは敵の体にくっつきひっつき、内蔵された発電した電流で対象をビリビリにした。
「畳み掛けます」
「付き合うぜ?」
総崩れとなった海賊達に、アリシアとギンコが行く。
苦し紛れの一撃を、一歩下がって避けたアリシアは、細剣の届かない間合いと気付き、刃に紫電を乗せて横薙ぎに放つ。
痺れ、挙動の止まった懐にギンコが飛び込むと、打ち上げる様に鉄爪をぶちこんで浮かせ、頭から落とす動きで投げ飛ばした。
「ば、化物だぁ……!」
死の気配が、海に生きた男の心を砕く。
その場にうずくまる者や自棄になる者もいて、そして海へと逃げようと駆ける者には、
「逃がさないよ……?」
征斗がそれを許さない。
放つ術は、不可視の刃。まずそれが足の腱を切って転ばせ、返る一撃が胸を裂く。
「生死を問わない船上……穏やかじゃないけど、まあ……後々、遺恨や憂いを残すのは、良くないから」
そして、上から刃を落として首を斬った。
「やば……!」
戦いが長引いた。というよりは、使い過ぎたと、ティスルは反省していた。
霧散する光りの翼は、力の枯渇を意味している。反撃の好機を得られる狙い目を、海賊が逃すはずも無い。
だから四方から彼らは迫り、
「そうはさせないよ!」
スティアの一撃が一方を貫いた。
それは指向された衝撃波の打撃。背中からぶちこんだそれは、ティスルへと一直線に飛んで行く。
「──うわぁ!」
真横から来る敵に、咄嗟に前へ避けたティスルを通過した身体は向かいの海賊を巻き込んで倒れる。
「結果オーライ……!」
前へ、加速する。踏み込む度に速度を上げ、正面から向かってくる相手に突撃した。
「ぶち、ぬく……!」
そうして床へ一蹴、最大の加速で低空跳躍したティスルは、思い切り振り抜いた脚で敵を蹴り倒した。
「あまり、無理をしないようにな」
着地した背に、ポテトが触れる。
吹き込むのは活力だ。あと一押しで海賊の掃討は完了する。だから、もう一度吹き込んで。
「ちゃんと帰るまでが、依頼だからな」
「うん!」
●
「……容赦ねーなぁ」
静かな水面へ沈んでいく船へと、船長は敬礼した。
波を割る舳先は少し砕けていて、捕まえた数人の海賊を乗せた船底は来たときより深く落ちている。
「まあ、なんだ……お疲れさん」
その労いに、思い思いに過ごすイレギュラーズは笑みで応えていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
参加していただき、ありがとうございました。
皆様の冒険の一助となれましたら幸いです。
また、よろしくお願い致します。
GMコメント
ユズキです。
色々シチュエーションはありますが、端的に言うと単純な上に敵はそこまで強くないので、イージーです。
海洋が苦手だなーって人が慣れる為のステップだと思ってくだされば幸いです。
●達成条件
海賊を壊滅させる。
なお生死は不問とする。
●海賊達
船には大砲と電撃の装備があります。
船員は大体30人弱です。
基礎的な攻撃や基本的な武器を用いて、近~遠の攻撃をしてきます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●重要な備考
<青海のバッカニア>ではイレギュラーズ個人毎に特別な『海洋王国事業貢献値』をカウントします。
この貢献値は参加関連シナリオの結果、キャラクターの活躍等により変動し、高い数字を持つキャラクターは外洋進出時に役割を受ける場合がある、優先シナリオが設定される可能性がある等、特別な結果を受ける可能性があります。『海洋王国事業貢献値』の状況は特設ページで公開されます。
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