シナリオ詳細
そう、そのまま飲み込んで。僕を。
オープニング
●倒錯する世界
ぐちゅり、と、水音がする。
ぼこり、と、泡が浮かぶ。
男は水の中にいた。いや、厳密にいえば、それは水ではない。
どろりとした粘性の液体。緑色のその液体は、美しい少女の形を模っている。
人に擬態する、スライム種――その腹の内へ、男は飲み込まれていたのである。
それは、スライム種にとっては捕食の行為だ。食事にありついたスライムはその表情を、恍惚に染める――といったことは特になく、むしろ割とうんざりした様子を隠さずに見せていた。
男の方は苦しげな表情を浮かべて――いることもなく、むしろ恍惚とした様子を見せていた
「はい、お終い」
ぺっ、といった感じで、男がスライムの腹より吐き出される。どちゃと粘液を残したまま、男は床に放り出された。
「えー、サナちゃん、やめちゃうの? もうちょっとだったのにぃ」
男は残念そうな様子を隠そうともせず、そう言った。
周囲をよく見てみれば、此処は薄暗く、広い室内の一角であることがわかる。さらに、薄暗いとはいえ、豪奢なシャンデリアが釣りさがった、金のかかった施設であることもわかるだろう。
あたりには、一般的な人間種『ではない』娘たちが、ホストとして、老若男女問わぬ客たちをもてなす。
ここは、幻想にある、いわゆるキャバクラ的なお店である。その店員のほとんどが、いわゆる人外種の旅人で構成されており、つまり雑な言い方をすれば、此処はモンスター娘による接待を受けられるお店であるのだ!
混沌世界には、幾多の世界により訪れる旅人が存在する。その中には、およそ一般的な人間からはかけ離れた姿を持つ者たちもいて、同時に人間種には、そう言ったもの達への偏愛的な感情を抱くものもいる。ここは、その混沌の混沌たる混沌を混沌と改称してくれるお店だ! ちなみにPPPは全年齢だから健全なお店です。
「もうちょっとって言うかさ、シュウくん、それ以上やると死んじゃうよ」
サナ、と呼ばれたスライム娘はぐにゃり、と腕を変形させて、テーブルのグラスを取った。そのまま中の液体を口に運んで、一息。
「分かってないなぁ、その死にそうなギリギリの所がいいんだよなぁ」
肩をすくめながら言う男――シュウ。想いを馳せるのは、大体一年前。
「あれは良かった……いわゆる魔物のラミアに死ぬ寸前までまかれたときの恍惚とスリル……最高だったよ……」
うっとりとした表情で、シュウは酒を口に含んだ。やべー奴だった。
「やべーやつだ」
サナも若干引いた様子で呟いた。客の否定はマニュアル違反だが、まぁこうなってはしょうがないだろう。
「やっぱり……身体を張らないと、真の快楽は得られないのかもしれないな……」
どこか寂し気に、シュウは笑った。サナは伝票に飲んだお酒の料金を書き込むと、嘆息した。
●現実的なお話
「つまり、君を護衛しながら人間に擬態するスライムの巣に行って、君が満足するまでのみ込まれた後、助け出して無事に連れて帰ってほしい」
「はい! よろしくお願いします!」
【ぷるぷるぼでぃ】レライム・ミライム・スライマル(p3n000069)が呆然と尋ねるのへ、シュウ君は元気よく返事をした――のちに、あ、と一声あげると、
「貴女がやってくれるなら、それはそれで」
「え、ぜったいやだ」
レライムは即答する。
特殊な護衛の依頼がある――募集に応じたイレギュラーズ達の思いは様々だろう。帰りたいと思ったかもしれないし、わかるわかるその気持ち、俺も飲み込まれたいし、と思ったかもしれない。
いずれにしても。
受けてしまった依頼を放棄することは許されないので、依頼主が満足するまで付き合ってやるしかない。
「ふっ……でしょうね。求道者は誰にも理解されない故に孤独って言うか。あ、で、今回行くのは幻想の頭部の方に出ですね、居たんですよ! 人間に擬態する系のスライム! ついでに、なんと毒持ちだそうですよ! 毒持ちスライムに飲み込まれる……どんな感触なんだろう……!」
その瞳は、明日遠足を控える少年のように、期待に満ちた澄んだものであった。レライムはゆっくりとイレギュラーズ達へ視線をやると、
「……がんばってね」
びし、と親指を立てて見せた。
あとは任せた、私は知らん。そう言った表情であった。
- そう、そのまま飲み込んで。僕を。完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月30日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
重い。
重い。
空気が重い!
依頼を受けたイレギュラーズ達の間に漂う、重苦しい「ヤベー依頼を受けちゃったぞ」という空気!
一行はほぼ会話もなく、人型スライムの発見されたという洞窟へと向かっていた。それはもちろん、依頼主の意向のためであり、依頼主を人型スライムに『飲み込ませ』、満足させるためである――なんでこの依頼悪属性依頼じゃないんだろう。
「久々に仕事にありつけたと思ったら、変態の護衛とは……」
『軍医』ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)は、依頼人には聞こえぬように、呟いた。その呟きを聞いたイレギュラーズ達も、内心頷いていたかもしれない。なにせ、実際に変態の護衛がこの仕事なのだ。
「ままならねぇなぁ……人生って……」
なんか悟りそうな雰囲気で、ウィリアムがぼやいた。深く嘆息する。気持ちはわかるよ。
「スライムにくるまれたい……ゼリータイプの薬湯につかる様なものだと思うから、わからないでもないけど……」
『かつての隠者』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は、その前髪に隠された眉をきゅっとひそめた。そこまでは分る。ギリギリ、わかる。
「いや、本当に食べられちゃう……までくると、分からない。解らないわ……どういう……」
相手は本気で、此方を捕食しにかかって来るのだ。そこにどのような快感を抱いているのか、アルメリアにはさっぱりわからない。他のイレギュラーズ達にもわからないだろう。
「業が深いわね……できれば、オープンにせず秘密にしておいて欲しかったわ……」
ゼファー(p3p007625)が眉間に手をやりながら、ぼやいた。依頼主でなかったらコブラツイストをかけてから帰るところだ。
「快楽の形は人それぞれ……でもやっぱり、人に迷惑かけちゃいけないわよね、うん……」
しみじみと、ゼファーが言う。ため息なども出そうになったけれど、飲み込んだ。本番はこれからなのだ。ため息とともに気力を吐き出そうものなら、なんというか、これから起こることに耐えられそうにない。
「これだけ重苦しい空気なんに」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が言った。その目は昏かった。
「依頼主の兄ちゃんは無駄につやっつやしとんなぁ……何がいいのか聞きたい所やけど」
視線を送ってみれば、ご機嫌そうに鼻歌などを歌う依頼主――シュウ君の姿がある。果たして彼は、命の危機が好きなのか、異形の娘が好きなのか――ブーケは判断に迷う所であったが、賢明にも其れを尋ねることはやめることにした。迂闊に聞いたら、一時間は語り続けるだろう。
「……やめとこ」
「賢明な判断です」
かくかくと頷く『吐血の方』桜咲 珠緒(p3p004426)。その目は半分死んでいた。記憶力のいい所が長所だと思っていたが、いまはそれを恨めしく思う。細かい所まで思い出される、過去の依頼。念のため、と読み返してしまった報告書から蘇る、さらなる深いかつての記憶。
「あの時……まるのみ、とか言ってしまったばかりに……っ!」
移動中でなかったら、座り込んで頭を抱えていたかもしれない。ついでに血を吐いていたかもしれない。それほどのダメージが、珠緒の心中を駆け巡る。
「珠緒さん……っ!」
『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)が、そんな珠緒を気遣うように、身体を支えた。思い出すのもはばかられるだろう、そんな思いが、普段以上に、蛍に珠緒を気遣わせていた。珠緒の様子を見るだけでもでも理解できる、かつての依頼の過酷さ。実際にその場にいたならば、正気の値を削られただろうなという想像。
「心中、察するわ……っ!」
様々な思いがないまぜになって、それ以上は言葉にならなかった。
「とにかく、素早く依頼をクリアして素早く帰るっす」
『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943)はそう言った。知識欲はある、と自負するジルではあったが、シュウ君に関しての知識は不必要のようである。しょうがないですね。
それに、これはジル本人は気づかなかっただろうが、いつシュウ君が「鬼っ娘……宝石の鬼っ娘かぁ。いいなぁ、蔑んだ目で踏んでください」と言い出すか怪しい所でもあるし。
「なんか……寒いし。冬だからっすかね。冬だからっすよね?」
それは悪寒かもしれない。
「一体、何をどれだけ拗らせたらそんな性癖を持つにいたるんだ……」
『ハム子』主人=公(p3p000578)が呆然とぼやいた。答えは返ってこない。誰にもわからない。誰も知らない。
「あ、つきましたよ、皆さん!」
イレギュラーズ達を現実へと叩き込んだのは、やったら明るいシュウ君の声だった。まぁ、明るくもなるだろう。目的地に着いてしまったのであるから。
着いちゃったなぁ、という気持ちを隠しもしないイレギュラーズ達に、シュウ君はにこやかに笑いかけた。ぱっと見は好青年であったが、その心中は悍ましい何かで満ちている。
「この中に、人型に擬態するスライムが生息してるんです! で、皆さんには」
「わかってるっす、それ以上言わないで」
ジルが頭を振った。解ってる。依頼内容は、嫌というほど頭に叩き込んだ。叩き込んでしまった。何度も何度も依頼書を、なんかの冗談じゃないかと、読み返したからだ。
「まー、ええけど。さておき、サインを決めとこか」
ブーケが言う。これからシュウ君は、スライムに丸呑みされるわけだ。その際に、此方へと自身の状況を伝えるサイン――満足したか、とか、死にそう助けて、とか――を出してもらいたい、というわけだ。
「死なれたら困るからなぁ……」
しみじみというブーケに、シュウ君は明るく笑った。
「はい! 前も言った気がしますけど、僕は殺す気でかかってきてほしいけど死にたいわけじゃないので!」
「ほんと業が深いわね、こいつ……」
ゼファーの手がわきわきと動いた。依頼人でなかったら締め落してその辺に放置している所だ。
「念のため、状態はボクの方でも確認しておくからね」
蛍は言った。まぁ、当然だろう。様々な手段でシュウ君の状態を確認することは、依頼を成功させるうえで必須の条件だ。
だが、本人申告のサインはもちろん、ギフトにより他者の状況を確認できる蛍のサポートも含めて、万全を期したい。
――そう、それは当たり前に、やる事だ。
だが、シュウの状態を、目視する――それがどういう事なのか、蛍にはこの時、まだわかっていなかったのである……。
●
洞窟内部は暗く、寒い。
外よりも空気が冷え、同時に湿った空気があたりに充満している。
「なるほど。スライムの住処ー、って感じね」
カンテラをかざしながら、アルメリア。なるほど、確かにスライムが好んで生息していそうな環境である。
「情報だと、スライム以外は生息してないって話だが。念のため、気を付けて行こう」
ウィリアムが言う。ただでさえ心労はひどいのに、これ以上余計な相手をしていたくはなかったわけだが、幸い情報通りに、内部に生き物の気配は感じられない。
一行はゆっくりと――断頭台へと登るような気持で、洞窟を行く。まぁ、一人つやっつやしていたが。
ほどなくして、洞窟の最奥へとたどり着く。そこは広めの部屋で、確かに4体の、ぐちゃり、と広がったスライムの姿があった。
「人型――ではなさそうですが」
珠緒が怪訝そうにつぶやく――だが、スライムたちはこちらの気配を察したのだろう。ふるふると動き出すと、途端、上半身を見目麗しい女性の姿へと変質させたのである。
「へぇ、人に反応して、擬態するのか……!」
公が唸った。それはトラップのための性質だろうか。薄暗い洞窟内で出合い頭に遭遇したならば、一瞬は、騙されるかもしれない。
スライムたちは、無機質な瞳でこちらを見つめる――出方を見ているのか。とはいえ、放っておけば、此方に襲い掛かって来るだろう。相手は人型をしていても、対話のできぬ魔物であるのだから。
「おお、良いですねいいですね! いいですよ!」
めっちゃ一人テンションをあげるシュウ君。
「ステイ、ステイ! まだよ!」
アルメリアが声をあげた。こほん、と咳ばらいを一つ。
「一応聞くけど、好みの子っている? 本命を一人、キープを一人決めて」
「……難しいですね。左の子、ショートカットの子ですが、スライム娘といった感じの無表情感がたまりません。真ん中のボブカットの子、この子もいいですね、無機質な中に感じる意志の強さ。右の子もまたいいですねー、ロングですか。無感情ながら誘っているような感じがこれまた最高ですねぇ。ベリショの子もいいですねー、無感動にしてしかしこちらに向ける敵意。うーん、なやむなぁ」
「時間がないから、サクッと決めて欲しいな」
ブーケが声をあげる。シュウ君はえー、と不満げに声をあげるが数秒、考え込んで頷くと、
「やはり、ショートカットの子ですね。まずは基本的な所から味わいたい。次点でロングの子ですかねー。やっぱり誘われて食べられたいですよね?」
「同意を求められても」
珠緒の目がまた少し死んだ。
「まぁ、ええね。標的は決まったきに」
ブーケの言葉を合図に、イレギュラーズ達は気を取り直した。先ほどまでの重苦しい空気を吹き飛ばし、一気に戦闘態勢へと入る。そこの切り替えは、流石百戦錬磨の強者である。このシナリオで褒められてもうれしくはないかもしれないが。
真っ先に飛び出したのは、ブーケだ。繰り出される、赤の蹴撃! ボブカットに突き刺さる一撃が、ぐちゃり、と飛沫を散らせる。ボブカットのぼんやりとした瞳が、ブーケを見た。
「反応が薄いのは、攻撃がきいちょるか分らんね」
ぼやくブーケ。確かに悲鳴を上げるようなタイプの敵ではないが、ダメージは蓄積しているだろう。
「なんだか、魔物に申し訳ない気もするけど……!」
蛍が放つのは、桜の幻影だ。それは、終焉と死の象徴としての桜。舞い散る花弁は一つ一つが命が潰えることを想起させ、幻影により、敵たちは一歩一歩、死に近づく。
蛍自身が発光していることも合わせ、桜は美しくライトアップされた様にも見える。幻想的な光景であるが、それは間違いなく、死を誘うものだ。
「ゲームでは、雑魚敵の代名詞だけれど」
公は武器に魔力と気力を注ぎ込む。強化された武器を、一気にボブカットへと叩きつけた。ばしゃり、と身体が飛び散り、公の頬にこびりつく。飛び散った破片は、少しずつうねうねとうごめき、また本体へと戻っていく。
「こうやって遭遇してみると、厄介な相手だね……!」
ボブカットはその手を触手のように震わせ、公へと叩きつけた。鋭い鞭のように叩きつけられる一撃は、公に傷を負わせ、そこから身体を構成する毒を注ぎ込む。
「気を付けてくださいっす! 毒持ちっすよ!」
ジルは叫び、公を治療する。こんな依頼で、仲間を傷つかせるわけにはいくまい。
「レライムさん、シュウさんの見張りは頼むっすよ!」
「任されたよ」
同行していたレライムが、シュウの首根っこを掴んだ。ちょっと嫌そう。
「ステイよ! 飛び出すのはダメ!」
シュウの後方で、同様にアルメリアが叫んだ。ほぼ犬扱いだが、まぁ犬みたいなものである。
「悪いけど、あなたには先に退場してもらうわ!」
ボブカットに叩き込まれる、痛烈なる一撃! ボブカットが爆散し、周囲に体液をぶちまける。流石にここまでダメージを受けては、再生とまで行かないだろう。
攻撃の隙をついて、ゼファーへとロングヘア―が覆いかぶさった。途端、一気に体内へと飲み込まれる!
「が……ふっ!?」
たまらず息を止めた。吸い込んだらそのまま溺れ時にしかねない!
「大丈夫か!?」
ウィリアムが慌てて救出にかかった。ロングヘアーは身体を震わせながら、ゼファーを吐き出す。
「げほっ……げほっ……!」
ゼファーはたまらず、せき込んでから、
「絶対気持ちよくないわよ、これ!」
叫んだ!
「まぁ、そうだろうな」
ウィリアムが答える。
「治療します、此方へ!」
珠緒がゼファーに治療術式を施した。光が傷を癒し、毒素を中和していく。
さて、イレギュラーズ達の奮闘により、ボブカットは戦闘不能に陥り、残るはショートカットとロングヘアーのスライムのみ。
つまり、準備は整った。
整ってしまったのである。
「……えーと」
公が呟いた。さて、なんと言ったらいいものか。悩む公だったが、結局簡単な言葉で伝える事にした。
「良いですよ、どうぞ」
「行ってきまーす!」
めっちゃいい笑顔で、シュウ君は答えた。
シュウ君が飲み込まれる。良い笑顔で。それはやがて、恍惚としたものへと変わり始めた。
「――」
蛍は、それを見ていた。役目であったからだ。ジルも、そうだ。依頼主を殺さず、見守るのが役目――それを今は、死ぬほど後悔していた。
つまり、青年が、恍惚とした表情で満足するのを、見つめ続けなければならないのである! それは何というか、それこそ特殊な性質をお持ちでもない限り、拷問に近いものである。現に、ほとんどの仲間は目をそらしていた。見たくないからね。
「蛍さん……頑張って……」
珠緒が辛そうに声をあげた。蛍にその言葉は、果たして届いただろうか。解らない。
蛍は何度も何度も、目をそらそうとした。というか実際、数回そらした。でも、すぐにしっかりと見つめなおした――責任感の強い子だったのだ。そしてその責任感が今、蛍を追い詰めていた。
「……気持ちいいのかな、アレ……」
「気をしっかり持つっすよ……」
ジルがたまらず口元を抑えた。宝石の輝く瞳が少しずつ濁っていた。
「え、えいっ」
アルメリアが、ポールを利用して、シュウを救出する。シュウはうるんだ瞳で、一同を見つめていた。
「すごく、苦しくて……胸が高鳴るんです。体温が上がって……これが、愛という感情なんですかね……?」
「医者の俺から言わせてもらえば、それは毒を食らって朦朧としているだけだ」
ウィリアムが冷たく言い放った。
「で、満足したのか?」
ウィリアムの言葉に、シュウは首を振った。
「まだまだいけます」
頼むから行かないでくれ。イレギュラーズ達の悲痛な思いは言葉にはならなかった。
「……あー、クソ! もう好きにしやがれ、何があっても治療してやるよ!」
ウィリアムは叫んだ。
やけっぱちだった。
シュウ君は立ち上がると、スライムへと突撃していく。
飲まれる。
救出される。
治療される。
また飲まれる。
何度繰り返されただろうか。
何度繰り返しただろうか。
永遠に続くと思われた拷問。
それが不意に――。
「満足、しました……」
いい笑顔と共に、終わりを告げた。
「アレって、そんなに気持ちいいのかしら……?」
焦点の定まらない目で、蛍が言った。
正気を失った眼であった。
「ああっ! 蛍さんが! 蛍さんが!」
ジルがたまらず叫ぶ! 自身も狂気に片足を突っ込みかけていたが、より深い狂気に陥ったモノの凶行を見て、何とか正気を取り戻したのである!
「帰ってきてください!! 桜咲が蛍さんを止めますから、皆さんはスライムをー!」
珠緒が蛍を羽交い絞めにして、叫んだ。
「よし来た、さっさと終わらせるんや!」
ブーケが叫び、
「了解よ!」
ゼファーが頷く。
一同は大慌てで残るスライムへと攻撃を仕掛けると、ほどなくして全滅させたのであった――。
●
「いやー、スライムって、ほんとにいいものですね!」
つやっつやの表情で、シュウ君は言った。先ほどまで酸欠と毒で死にかけていた奴とは思えないが、まぁ、それが性癖なのでしょうがない。
スライムを全滅させたイレギュラーズ達は、洞窟から脱出して外の光に当たっていた。
なんというか、死地から生還したような気持だった。
「珠緒さん……ボク、ボク、もうちょっとで……うえええええん……」
蛍は泣いた。深淵にのぞかれ、深淵に足を踏み入れようとしてしまった、その狂気が恐ろしかった。
「蛍さん……っ!」
珠緒は蛍を抱きしめた。守る様に、温めるように――ただ、ただ抱きしめた。
「僕には理解できないっ、出来ないっす……」
ジルもまた、ぼんやりと呟いた。その宝石の瞳が輝きを取り戻すのは、どれほど時間がかかるだろうか。深い傷を、心に負ってしまったのだ……。
「で、満足したんだよな?」
ウィリアムが言うのへ、シュウ君は力強く頷き、
「ええ、そりゃあもう!」
いい笑顔で言うので、一同は目を曇らせた。
「もう、次は勘弁してよね……?」
「実際危ない橋やからな」
アルメリア、そしてブーケが言う。関わり合いになりたくないのが第一だが。その言葉は胸にしまい込んだ。
「この依頼……いったい何だったんだろう……」
公がぼやいた。一体何だったのか。それは誰にもわからない。
「あー、早く帰ってお風呂入りたい……」
そう呟いて、ゼファーは、あ、と声をあげた。
「これで依頼は終わりよね?」
そう尋ねるのへ、シュウは頷いた。
「つまり、もう私とあなたは、雇われと雇い主の関係じゃないのよね?」
「はい、まぁ、そうですね!」
シュウは頷いた。
ゼファーは、にっこりと笑った。
そのままシュウが泣きながらギブアップするまで、ゼファーはシュウにコブラツイストを極め続けた。
皆疲れていたので、止める者はいなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
「護衛ありがとうございました!!! また依頼料が払える位に貯金がたまったら、よろしくお願いしますね!!!!!」
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
これは余談ですが、最近流行りのスライム、これを大量に用意すれば、スライムに飲み込まれる感触を味わえるのではないだろうか、でもああいうスライムってなんか感触違いそうだよなぁ、実際どうなんだろう、とひそかに考えて
●成功条件
シュウくんを満足させる
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●状況
幻想東部にある、人間に擬態するスライムが生息する洞窟が舞台です。
この洞窟に、依頼主であるシュウくんと共に侵入し、戦闘。
シュウくんを『飲み込み』させ、満足させた後に救出、離脱してください。
洞窟には光源などはなく、またほかの魔物などは存在しないものとします。
なお、スライムの生死は依頼の成否に関係しません。
●エネミーデータ
スライム ×4
特徴
人間に擬態するスライム。この洞窟に生息する個体は、人間の女性に擬態している。
近距離~中距離をカバーする物理攻撃を使用。攻撃には、主に毒が付与される。
また、以下の特殊スキルを持つ。
『飲み込み』
至近・単体・物理攻撃。
対象のキャラ一体を身体に飲み込んで、拘束する。ダメージあり。
拘束状態のキャラは、『窒息』『毒』を付与され、『のがれる』『待機』以外の行動が出来なくなる。
『のがれる』を使用した場合、そのキャラの最も高い攻撃力で判定を行う。成功した場合、拘束状態を解除され、飲み込みによって付与された『窒息』が直ちに解除される。
飲み込みを使用した個体は、のがれるを使用されない限り、次のターンも同じ対象に飲み込みを継続する。
『飲み込み』状態で誰かからの攻撃を受けた場合、スライムは飲み込み状態を解除し、拘束していた対象は直ちに解放される。
●NPCデータ
シュウ
特徴
一般人。男性。
生命力などは一般人並。スライムからの攻撃や毒には、そう多くは耐えられないだろう。
『飲み込み』を受けた場合、待機を選択し続ける。自力で『のがれる』ことはできない。また、自力での毒の治療もできない。『飲み込み』を受けてから数ターンが経過すると、死亡する恐れがある。
飲み込まれてぇなぁ、と思っている。
特殊パラメータ、満足度を持つ。内容は、以下の通り。
満足度
シュウの満足度。『飲み込み』をうけるごとに上昇していく。
毎ターンの最後に、ダイスにより満足度判定を行う。
この判定に成功した場合、シュウは満足した事になる。
レライム・ミライム・スライマル
特徴
物理耐久よりのバランスファイター。一応イレギュラーズです。
攻撃、回復一通り行えますが、すべて皆さんよりは一回り弱くなっています。
特にご指示等なければ、頑張って戦い、特に描写などもされません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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