PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゾンビを滅せよ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●落雷注ぐ古戦場
 伝書を携え、一人の使者が早馬を走らせる。昨日、宿屋でうっかり寝過ごした彼は焦っていた。伝書の到達が遅れるようなことがあれば、主家に大目玉は間違いなし、あるいは放逐されてしまうかもしれない。それだけは御免だ。
「こうなったら……」
 使者は馬に拍車を当て、道を左へ取る。嘗て血で血を洗う大きな戦があり、涙雨と呼ばれる雨がいつまでも降り注ぎ、叫喚と呼ばれる雷鳴が轟く。その不穏さを恐れて普段は近づくものもいないが、この古戦場を駆け抜けるのが、主の家に辿り着くには最も早い。
 男はフードを目深に被り、雨の中を駆け抜ける。空で雷鳴が轟いた。馬が落ち着かない調子で唸る。男は馬の首筋を撫でて宥めながら、何とか古い畦道を走り抜けた。
「さあ行け、あと少しだから……」
 しかしその時、近くの沼に雷が墜落した。眩い光に男が眼を眩ませた瞬間、沼の至る所から白骨がずるずると起き上がってくる。沼の泥が纏わりついて肉を作り、錆びた剣を手にしてのろのろと歩き出す。
「マズい……」
 使者は顔をしかめる。更に雷が落ち、沼から這い出した骨が巨大な獣の姿を取り始めた。獣は悲鳴のような叫び声をあげながら、黒々とした闇の塊を口から放つ。沼の真ん中に生えた朽ち木に塊が直撃し、木は跡形もなく吹き飛んだ。
「急げ! お前も死にたくないだろ!」
 男は吼えて拍車を当てる。馬は嘶きを上げると、慌ただしく沼を走り去っていった。

●不浄の者を討て
 数日後、ギルド『ローレット』に君達が集められた。『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は魔物の覚え書きを纏めてコルクボードに貼り付けていく。
「今回の任務は、古戦場に現れたゾンビの群れを討伐する事です。昔の戦で大勢が死んだこの土地は混沌の吹き溜まりのようになっていて、常に雨が降ったり、雷が落ちたり、近くの川が溢れて沼になっていたり……とにかく散々な土地なのです。今日のゾンビもそのせいで生まれたらしいのです」
 ユリーカは君達に地図を手渡す。東に川が流れ、その川に沿うように畑が並び、網目状に畦道が作られている。
「これは昔々の地図なのです。川が溢れて沼となった今は見た目も全く変わっていると思うのですが……それでも、畦道を歩くのと畑を歩くのとでは動きやすさが変わるはずなのです。そこを意識するだけで戦いやすさは変わってくるはずです。よく確認しておいてください」

「今のところは沼にとどまっているようですが、放っておくと周りの農村に被害を及ぼすかもしれないのです。気を付けてくださいね!」

GMコメント

●目標
 古戦場に出現したゾンビを撃破する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 沼地。近頃の長雨によって足場が悪くなっています。
 元は田園地帯であり、元々畦道であった場所は動きやすいが、畑であった場所は簡単に足が埋まる。

●敵
ゾンビ×16
 地中に埋まった人骨が土塊を纏って復活しました。
 動きは鈍重ですが、その歯には毒があり、生命力が高くしぶといです。

・攻撃方法
→噛みつき……噛みつきます。【毒】状態を受けます。
→錆びた剣……錆びた剣で攻撃します。【毒】状態を受けます。
→復活……土を肉にして復活します。生命力を大幅に回復します。

ゾンビキマイラ×8
 地中に埋まった何とも知れない骨が無数に組みあがって動き出しました。
 こちらも動きは鈍重ですが、魔力の塊を吐きかけてきたり、得体の知れない攻撃を駆使します。

・攻撃方法
→噛みつき……ゾンビと同じです。
→魔弾……怨霊の籠った魔力の塊を放ちます。単純に威力が高めです。
→復活……ゾンビと同じです。

●TIPS
 復活を防ぐことが重要です。手立てを考えましょう。



影絵企鵝です。今回の敵はゾンビです。適当に戦うと次から次に起き上がってくるので、気を付けてください。

  • ゾンビを滅せよ完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年12月17日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
リナリナ(p3p006258)
コルウィン・ロンミィ(p3p007390)
靡く白スーツ
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)
夢為天鳴

リプレイ

●戦禍の沼
 空に黒雲が渦巻き、雷鳴が遠くに轟く。しとしと降り注ぐ雨の中、ヒィロ=エヒト(p3p002503)は真っ先に戦場へと飛び込んだ。足元はいつも通り狐火を纏い、泥濘の上を緩やかに滑空した。ゾンビは錆びた剣を振り上げながら、のろのろと彼女へ近づいてくる。間合いを取って様子を見ながら、ヒィロは背後の美咲・マクスウェル(p3p005192)に振り返る。
「こういうの、怨念っていうんだっけ?」
 うっすらと光を放つ眼で、美咲はぐるりと沼を見渡す。土に埋まっていた骨の塊が起き上がろうとしていた。
「うーん……怨念って言い方もあるね。要因はいくつもあるんだろうけど……『ここは悪いことが起きる』って、認識が場に刷り込まれてる感じね」
「むー。よくわかんないけど、それならこいつら倒しただけじゃまた同じ事になりそうだよ?」
「そうね。今回の討伐だけじゃ、一時的な解決にしかならないかも」
 二人が話している間にも、泥田の中から次々と這い出してきたゾンビの群れが呻きながら間合いを詰めてくる。美咲は咄嗟に身を翻し、近づいてきたゾンビ一体に向かって青い衝撃波を放った。直撃を受けたゾンビは田んぼの中にぐらりと倒れ込む。
「っても、来た以上は蹴散らさないと、私らも仲間入りになるわね。しっかり対策して、連携して、ヤな空気ごと吹き飛ばしましょ」
「うん。まずは殲滅しなきゃね!」
 ヒィロは空を蹴ると、群れの前へと軽やかに飛び出す。
「かかってこいッ! キミ達の怒りや無念、ボクに叩き付けてきなよ! いくらでも引き受けてあげる!」
 長い髪や尻尾を波打たせて挑発する。錆びた剣を両手で受け止めると、そのまま腕を掴んで蹴りを叩き込む。
「タダじゃない、けどね!」

 揚々と戦意を高めて戦う仲良し二人組。そんな彼女達の背中を眺めつつ、リゲル=アークライト(p3p000442)は濡れた畦道を踏み固めて体勢を整える。
「ゾンビとは、見た目も臭いも女性には厳しいように思うところだが、ローレットの皆は流石だな。ポテトも平気かい?」
「平気なわけないだろう。あんなのは見ているだけで身体が腐ってしまいそうだ」
 ポテト=アークライト(p3p000294)は顔色を変えて身を震わせる。聖域に生まれ育った樹精にとって、腐っているという事実こそが天敵である。
「……しかし仕事だ。決して得意ではないが、被害を拡大させないためにもここで止めよう。……帰ったら、風呂と洗濯は必須だな」
「そうだな。なら早々に片付けられるように気張らないと」
 リゲルは剣を振り被ると、鋭く袈裟懸けに振り下ろした。ゾンビの群れの背後からずるずると迫る巨大な骨と汚泥の塊へ、火の球の流星群が一気に降り注ぐ。背中の腐肉がボイルトマトのように潰れて吹き飛び、キマイラは歯をガタガタ言わせながらリゲルへ振り向いた。それは怨念の塊を口蓋に溜め込み解き放つ。リゲルはその場で身構え、その一撃を正面から受け止めた。背後には妻がいる。倒れるわけにはいかないのだ。
「頼むよ、精霊たち。少し力を貸してくれ。とにかくこの腐った魚のような臭いを向こうまで追い出してくれ」
 どこからともなく現れた風の精霊達が、突風を吹かせて腐臭を押し返した。

 また別の方角から、リナリナ(p3p006258)とコルウィン・ロンミィ(p3p007390)が群れへと接近していた。骨が次々に組み上がって完成したゾンビのキマイラが、ずんずんと二人へ向き直ろうとする。
「おー、ゾンビ! ゾンビ! 動く死体!」
 畦道に立ったリナリナは何処からともなく取り出した肉を放り投げる。飛んで行った肉は、キマイラの背中にクリーンヒット、骨に張り付いた腐肉が剥がれ落ちる。しかしすぐに泥がぬるぬると骨の表面を滑って張り付き、その体を修復してしまった。
「コイツら土を肉肉変換して回復するのか! なら土のゾンビ! ツチゾンビ!」
 原始人の少女は今日も直感で全ての状況を把握する。ジェットパックを背負った少女は、泥濘の群れに向かって勢いよく飛び出した。
「トツゲキ! るら~!」
 リナリナは剣を水平に構えて突進する。振り返ったゾンビは顎が外れそうなほど大口を開いて襲い掛かってくる。リナリナは風を切って突撃すると、開いた顎に向かって剣を捻じ込み、そのまま上あごを吹き飛ばした。ゾンビがぐらりと仰け反った隙に、槍を構えたコルウィンが槍を鋭く振り下ろしてゾンビの背骨を真っ二つにかち割る。バラバラに砕けたゾンビは泥の中でしばらく藻掻いていたが、そのまま泥濘の中へと沈んでいった。
「……こういう時こそ、木枯らしの化身であるこの身は有難く感じるものだな」
 風の化身である彼は、普段からほんの僅かに宙に浮いている。それが踏み込みの弱さとして現れることもあるが、泥の上を苦もなく動けるようなこともあるのだ。キマイラの放った怨念の塊もスルーしつつ、彼はキマイラの側面へと回り込んでいく。
「ふむ……『灰は灰に、塵は塵に、土は土に』、というやつだな」
 馬のように長い首をもたげたキマイラ。肉の隙間から覗く首の骨に向かって、彼は槍を突き出した。

 リゲルやヒィロの攻撃に引き寄せられたゾンビ達が、続々と畦道の近くに吸い寄せられてくる。短槍を肩に担いで、ゼファー(p3p007625)はそれが足元までやってくるのを待ち構える。
「古戦場に溢れたゾンビの群れ……まぁ、よくある話よねぇ」
 隣にいたユースティア・ノート・フィアス(p3p007794)をちらりと見遣る。彼女は長剣を胸元で構え、静かに頭を垂れていた。
「朽ち果てようと、尚も闘おうとする者。其処に、かつての想いが残っているのかは、判りませんが……」
「ふうん。何十年も前の争いの尻拭いをさせられてると思うと、ちょーっと癪だわぁ」
 畦道の坂に先頭のゾンビが足をかける。ゼファーは足を踏み出し、槍を突き出して剣を取るゾンビの肩口を砕いた。ユースティアも身を乗り出し、グレイブで突いてゾンビの骨盤を割りにかかる。
「彼らの戦いは終わっていて、続けるべき理由は最早ない。なればこそ、悪夢は此処で断ち切るべきでしょう。彷徨う者達に、安らかな眠りを……」
 死者に祈りを捧げながら戦うユースティア。そんな彼女を横目に、ゼファーは槍を上段に構えた。
「ま、放っておくのもアレなのよね」
 彼女は渾身の突きを繰り出す。澱みのない一撃が、ゾンビの頭をぶち砕いた。

●粉骨砕身
 畦道から槍や剣で小突き回して、群がるゾンビを次々に捌いていくイレギュラーズ。群れるゾンビの頭上を蹴って低空の飛行姿勢を維持しつつ、リナリナはキマイラの周囲で大剣を振り回す。肩口から伸びる巨大な頭の横っ面を、遠くから放った飛ぶ斬撃でぶち砕く。
「コイツもホネホネが本体だゾ! 腐った肉を幾ら剥ぎ取ってもどんどん復活するゾ! 注意!」
 リナリナは叫ぶ。彼女の隣を擦れ違うように跳び抜け、ヒィロは不敵に笑みを浮かべた。
「アハハッ! つまり、二度と立ち上がれないくらいぐっちゃぐちゃのズタボロの粉々にしちゃえばいいんじゃないかな! ね? 美咲さん!」
 ヒィロの弾ける闘志に引き寄せられたゾンビの群れ。ヒィロはそんなゾンビの頭に飛びつき、その頭蓋骨に両拳を叩きつけて無理矢理砕く。それでもヒィロへ手を伸ばそうとするゾンビの肩に、美咲の放った魔力の茨が絡みつく。
「そうね。少し手間がかかるけど、何度も復活されるよりはマシね」
 ゾンビの肩を固く締め付けた茨は、やがてその関節をぼろぼろに砕いた。美咲が鋭く身を翻すと、砕かれた方が剥がれて泥の中へと沈む。取り巻きを片付けながらも、彼女達は着実に巨大な骨の化け物の群れへと間合いを詰めていた。
 木枯らしが吹くように泥濘の上を駆け抜けながら、コルウィンは構えた槍を化け物の脇腹へと突き立てる。ぶよぶよした腐肉を掻き分けながら、その奥に埋もれた肋骨を突いて砕こうとした。キマイラは反射的に長い首を振り抜く。コルウィンは咄嗟に飛び退くが、鋭い牙が僅かに彼の腕を切り裂いた。
「ふん。お前の毒は通用しないさ」
 コルウィンは剥き出しになった肋骨に槍を突き入れ、今度こそその骨を砕く。キマイラは口蓋を広げると、腐臭の漂うブレスをコルウィンに吐きつけた。毒は防げても、その身を脅かす怨念までは防ぎきれない。咄嗟にコルウィンは飛び退き、全身に魔力を満たして敵の呪いを中和していく。
「ふむ……無茶は禁物、だな」
「さぁ、こっちに来なさいよ!」
 コルウィンが退くのと入れ替わるように、ゼファーが素早くキマイラの正面へと飛び出す。キマイラの頭上すれすれを跳び回る彼女は、肉の間から飛び出した背骨の出っ張りを踏みつけつつ、槍を力強く振り上げた。
「こういうのはどう?」
 ゼファーは槍を振り上げると、突き出た骨に突き立てる。骨に刻まれた亀裂に槍の切っ先を捻じ込み、そのまま叩き割る。その衝撃は化物の巨体全てに伝わり、骨に纏わりつく泥の肉がずるずると滑り落ちていく。
「今よ。やっちゃって」
「ああ、分かった」
 リゲルは剣を中段に構え直すと、早口で呪文を唱える。刹那、靴から光の翼が伸び、リゲルは上空へと舞い上がる。キマイラの放った怨念に正面から突っ込んで霧散させながら、その刃に超新星の輝きを纏わせる。
「これでトドメだ!」
 切っ先をキマイラの頭蓋骨に突き立てる。迷いのない一撃は、その頭蓋骨を真っ二つに断ち割り、キマイラはその瞬間ぼろぼろと崩れてただの骨山と化した。敵を今まさに討ち果たした業物を掲げて、リゲルは叫ぶ。
「冷静に対応すれば大した脅威じゃない! 殲滅まであと少しだ!」
 勇敢に周囲を鼓舞する彼に、キマイラの群れが次々と腐った吐息を浴びせようとする。ポテトはそんな彼へ素早くタクトを振り抜き、治癒の光を浴びせた。
「その通りだ。だからこそ、リゲルも倒れてくれるなよ」
 リゲルとポテトは頷き合う。
「さあ、危なくなったら私の方へと撤退するんだ。まとめて回復させてやろう。誰一人倒れさせはしないぞ!」
 ポテトはタクトを空へ掲げ、天使の歌を響かせる。雷鳴響く黒雲が僅かに切れ、空に一筋光の梯が差し込んだ。舞台のように輝く畦道に向かって、生き残ったゾンビの群れがまとめて押し寄せてくる。ユースティアはポテトを庇うように立つと、左手に持ったグレイブを鋭く突き出した。
「ここは通しません!」
 肋骨の隙間に剣戟の刃を突き立てた彼女は、柄を力任せに引いてゾンビを引き寄せる。ゾンビが振り回した爪が彼女の袖を切り裂き、柔肌を傷つける。熱した鉄を押し付けられたような痛みが襲い掛かるが、彼女は耐えて踏ん張り、右手の剣に冷気を纏わせる。
「旧き怨念は、此処で断ち切ります……!」
 彼女は鋭く剣を振り抜く。悪夢を断つ六花の煌き。首の骨を一つ真っ二つに切欠き、零れ落ちた首は泥濘に沈む。その瞬間、そのゾンビは骨だけになって崩れ落ちるが、その背後から変わりが次々に押し寄せてくる。
「うわ――」
 その勢いに押し込まれて仰け反ったユースティア。しかし、咄嗟に間に割り込んだコルウィンが槍の切っ先でゾンビの腕を叩き落とし、そのまま腰を突いて上半身と下半身を真っ二つにする。足元に倒れ込んだゾンビの頭を踏みつけ、その頭蓋も砕いてしまう。
「ふむ……ちょいと力技だが、これで成仏できるか?」
「すみません、助かりました」
 コルウィンがゾンビの波を受け止めている間に態勢を立て直し、ユースティアも剣に槍を振るって前線へ舞い戻る。コルウィンは僅かに肩を竦めた。
「いいってことよ」

 獣のゾンビ達は次々に首をもたげ、リナリナに向かって次々魔力の塊を吐き出した。リナリナは側にいたゾンビの背中を蹴りつけ、一気に方向を転換する。
「土ゾンビ獣のビーム、チョーキケン! 見た目もマズそう! うまみナシ!」
 リナリナは叫ぶと、大剣を振るって勢いをつけ、宙で剣を鋭く振り下ろす。キマイラがそんなリナリナへ向けて首を伸ばそうとした瞬間、彼女の放った斬撃がクリーンヒットする。頭蓋骨が真っ二つに砕け、キマイラが縮こまる。その隙に首の付け根へ飛びついたリナリナは、剣を突き立て骨を砕き、念入りにキマイラを沈黙させた。バラバラに積み重なる骨の山を踏み越えて、ヒィロと美咲は別のキマイラへと一直線に突っ込んでいく。
「さあ! 今日も決めるよ美咲さん!」
「ええ。起点はヒィロに任せるわね」
「オッケー!」
 ヒィロは四肢の先に狐火を纏わせ、一気に全身を振るう。放たれた炎が、キマイラの前で輝いた。
「かかってきなよ! ボクがバラバラにしてあげる!」
 彼女が叫んだ瞬間、キマイラの肩から二つ三つと次々に頭が生えてきた。ずるずると首を伸ばしながら、ヒィロへ噛みつこうとする。
「よし……そこね!」
 美咲はその眼を見開く。虹彩が光さえ呑み込むブラックホールのように黒く染まり、キマイラの腐った眼を見据える。その瞬間、キマイラの身体はバラバラに弾けとんだ。骨と肉が辺りに飛び散り、再びずるずると集まり一つになろうとする。ヒィロは頭蓋骨へと飛びつき、そのまま拳で砕いた。骨は一つに纏まろうとしていたが、やがて力を失いぼろぼろと崩れる。
「よし、あと少しだ!」
 崩れるキマイラを見届けたリゲルは、浮かぶ骨の山を飛び移りながら、キマイラの脇腹に刃を突き立て、その腐肉を凍り付かせる。動きが鈍った隙を突いて踏み込んだゼファーが、更に槍で切りかかり、凍った関節を砕いて泥へと沈める。
「……これで名無しの死体さん達も、今度こそ眠れるかしらねぇ。縁もゆかりもありゃあしないけど、骸になっちゃえば皆一緒」
 敵が復活しないよう、丁寧に背骨を潰しながら彼女は溜め息を吐く。
「静かに眠る事すら許されないんじゃ、不憫よね」

 イレギュラーズは手分けして敵の骨を砕き続ける。とにかく長い時間が必要だったが、最後には何とか制圧できたのであった。

●争いを生まぬため
 ポテトは空に向かってタクトを振る。水の精霊達が降り注がせたにわか雨が、イレギュラーズに纏わりつく腐った泥を洗い流していった。
「ありがとう。これでとりあえず家に帰るまでは耐えられそうだな」
「酷い臭いだ。……これが、この地にずっと吹きだまっていた怨念なのだろうな」
 リゲルは隣で十字を切り、静かに頭を垂れる。ヒィロも隣で彼の真似をして頭を下げる。
「なむなむ……ってボク達だけが頭を下げるんじゃなくて、みんなで鎮魂祭とかしたら、こーいうの収まったりしないかなー。美咲さん?」
 ちらりと美咲を見上げる。腕組みをしたまま、美咲は小さく溜め息を吐いた。
「鎮魂も必要だろうけど、まずは治水が必要なんじゃないかなぁ。田園地帯が沼地になんて、放置した為政者の怠慢だと思うよ?」
「うんうん。昔みたいに畑に出来たらいーのにね!」
 ヒィロも腰に手を当て深々と頷く。隣で聞いていたリナリナは首を傾げる。
「そもそも、誰も住んでないなんておかしいゾ? 街や村からもそんなに遠くないのに?」
 取り出したマンモの肉を齧る。しかし彼女は顔を青くし、すぐにぺっと吐き出した。
「うええ、腐った臭いが移ってるゾ……」
「だからこそってところもあるんじゃないかしら? この辺りの領主達って今でもどこまでが自分の領地かって話で揉め続けてるもの。この辺の土地改善を始めたら、またすったもんだが始まるわ」
 ゼファーは肩を竦める。コルウィンは眉を顰めた。
「ふむ……つまり、此処は周りを治めてる奴らの緩衝地帯って事か。難儀なもんだな」
「じゃあ、誰も面倒がって手を付けてないんじゃなくて、みんなわかってて放置してるって事? ……なんだか余計に良くない気がするけど……」
 美咲は顔を顰めた。リゲルは顔を上げ、葦や蒲ばかりが生え揃う沼をじっと見渡した。
「これ以上不毛な争いでこの土地をまた地に染めるよりはマシ、ってところか……」
「いつの時代も、偉い人達の盤戯に付き合わされる人達は堪ったものじゃないですね……」
 ユースティアは肩を落とす。領主達の意地によって作り上げられた古戦場には、重々しい風が吹きつける。ポテトはしばらく黙って沼や仲間達の横顔を見渡していたが、やがて一歩踏み出し、風の精霊に小さな袋を手渡す。
「頼んだよ」
 精霊は頷くと、辺りを跳び回って小さな種を辺りに撒き始めた。ポテトが両手を組んで祈った瞬間、野辺に次々花が咲いていく。マリーゴールドやペチュニア、パンジー。空が泣き続ける不毛な黒い土地に、ほんの僅かな彩を与えた。
「せめて、これでここに眠る魂が安らかに眠ってくれると良いな……」



 かくしてイレギュラーズとゾンビ達の戦いは幕を下ろした。領主達のにらみ合いの只中に置かれて放置された黒い湖沼の中には、一人の樹精が残した花々がいまでも揺れているという。

 おわり

成否

成功

MVP

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵

状態異常

なし

あとがき

影絵企我です。この度はご参加ありがとうございました。

本当は泥まみれでゾンビとわちゃわちゃやって貰うつもりでしたが、割とスムーズに解決されてしまった次第。飛行手段割と豊富なんすねぇ……

次回はもっと練っていきたいところです。またご縁がありましたら。

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