シナリオ詳細
北の海に冬到来。蟹工船でいく蟹食い放題、日帰り弾丸ツアー!
オープニング
●『北の海に冬到来。蟹工船でいく蟹食い放題、日帰り弾丸ツアー!』
嘘ではない。
現に広い食堂ではカニ鍋の用意がされている。というか、さっきまでされていた。
いまは危険なので火が消され、鍋も(あくまで一時的に)撤去されている。
もちろん、カニを捕らなくては食べられないのだが……。
カニはカニでもイレギュラーズが捕るのは、漁場を時化させている海の魔物、巨大タラバガニである。
あるイレギュラーズは、ぐっしょりと濡れたパンフレットをきつく握りしめた。
鉄玉子め、と罵りながら。
これが魔物退治であることが解ったのは、沖に出たあとの事だったのだ。
●本当はね、カニじゃないんだけどね
時化による高波に襲われる工船体。馬鹿デカイ船が木の葉のように弄ばれる。巨大な暴れ馬ごとく猛り狂った高波が立ち上がるや、工船は高々と押し上げられ、一気に引き下ろされた。練達の遊園地にあるジェットコースターなんて目じゃないぜ。
何度も転覆しかけたが、それでも工船はなんとか漁場にたどりついた。
――ヴォォォォー(hell)!
――ボェェェーッ(hell)!
漁場で飛び出すデスボイス。老いも若きも、兄ちゃん姉ちゃんも、みんな揃ってデスボイス。
――ヴォォォォー(hell)!
――ボェェェーッ(hell)!
「さあ、カニ漁の始まりだ。行け、紳士淑女のみなさまども! ゲロを吐くな、小船を下ろせ!」
荒波を割って監督の怒鳴り声が甲板に響く。
カニを捕るために、次々と小船が降ろされた。工船は水揚げされたカニを加工するための船で、実際にカニを捕るのはいま降ろされた小船だ。小船といっても実際は中型漁船なのだが。
「『ヤツ』を倒し、水槽をカニで満杯にするまで帰ってくるなよ!」
監督のダミ声に送られて、イレギュラーズたちを乗せた小舟も荒海へ降ろされた。
北の海では実にさまざまな怪異と遭遇する。
波しぶきとともに空から魚が降ってくるなんていうのは、怪異でも何でもない。
時に雨空に大きな虹が現れることもある。が、これも違う。
真の怪異とは――。
「来るぞ!!」
海面が山のように盛り上がった次の瞬間、二本のハサミが雷鳴轟く曇天へ突きあがった。波が割れて渦を巻き、巨大タラバガニが姿を現す。
あるイレギュラーズは思った。
これ、食えるのか、と。
- 北の海に冬到来。蟹工船でいく蟹食い放題、日帰り弾丸ツアー!完了
- GM名そうすけ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月29日 23時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
鉄帝の荒海。体に打ちつける風はまるで凍てついた壁のようだ。烈風が所構わず吹き荒れ、氷を溶かしたような海水が容赦なく顔と衣服を濡らす。
しかし、漁場についた蟹工船の甲板は、出漁前の慌ただしさと漁師たちの熱気であふれていた。
「ゴー、ゴー、ゴー、ゴー! 遅れたやつは直接海にブチ込むぞ!」
「ヤツはイレギュラーズたちが獲る。お前たちは蟹を獲ってこい!」
怒声が飛び交う中、イレギュラーズは長い甲板を走り、自分たちにあてがわれた通称『小船』に急いで向かう。
「おい、持っていけ!」
怒鳴り声に『ぷろふぇっしょなる!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が顔をあげると、緑色のヒトデが落ちて来た。避ける間もなくオレンジ色の人影が続けて落ちてくる。
「ふぁ!?」
ヒィロは慌てて受け止めた。
「こ、これは……」
投げ落とされたのは漁衣だった。緑色のヒトデは分厚いゴム手袋。オレンジ色の人影の正体は、やはり分厚いゴムで作られた雨カッパだ。長靴も後から落とされた。
「波をかぶってずぶ濡れになる。体が冷えちまったら動けなくなるぞ」
強風や荒波にさらされる過酷な環境で漁を行うのは、まさに命懸けだ。波にさらわれて海に落ちればもちろんの事、船上でも波をかぶって体が濡れれば低体温症にかかる。
――が、こと運命の女神から祝福を受けたイレギュラーズに限ってはほぼ問題なし。寒いのは寒いが、まあ、せいぜい風邪をひく程度で死にはしないだろう。たぶん。
そうは言ってもせっかくの好意だ。
「ありがとう」
素直に礼を言って受け取った。八人分ともなればかなりの重さがある。
「手伝います」
『さまようこひつじ』メイメイ・ルー(p3p004460)が、床に落ちた漁衣の半分を持ってくれた。
ヒィロとメイメイは、それぞれ漁衣を抱きかかえながら、全長十八メートル、幅六メートルの『小船』に乗り込む。
がらんとした甲板に運び入れた漁衣を、油圧クレーンの下に積んだ。
「カッパを貸してもらったよー」
「全員分あります、取にきてください」
先に小船に乗り込んでいた『他造宝石』ジル・チタニイット(p3p000943) が、二人の呼び声を聞いて船室から出てきた。
ジルは『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)とともに船の装備を調べ、すべて使えるように用意を整えていた。
一悟は操舵室で機器の点検をしている。
「漁具は全部撤去されているっすけど、浮き輪とか救助器具は残っていたっすよ。どれもきちんと手入れされていたっす」
イレギュラーズたちが獲るのはタラバガニではない。タラバガニが巨大化した魔物だ。蟹を獲るためのゲージなどは邪魔になるだけなので降ろされていた。
もっとも、他の小船の甲板にも蟹ゲージはない。これから海底に沈んでいるゲージを引き上げにいくのだ。
「ぼくたちが寝ている間に夜通し仕掛けていたらしいっすよ。終ったのが朝なのに、今から引き上げって……流石、鉄帝の漁師さん達、ホントハードっす」
今回はタラバガニを獲ることよりも漁の邪魔をする魔物の退治がメインであるため、短時間で引き上げるらしい。
船を出した以上は少しでもカニを獲りたいのだろう。漁場と陸の往復燃料費もバカにならない。
『見敵必殺』美咲・マクスウェル(p3p005192)たちが小船に乗り込んできた。
「遅くなってごめん。準備に手間取っちゃった」
美咲はカニ尽くし宴会の調理担当責任者だ。メイメイも手伝うが、美咲が料理長として采配を振るう。
「リクエストされた料理の他にもいろいろ作るつもりでいるんだ。食材を余らせないようにね」
「わー、楽しみ。このツアーに美咲さん誘って正解だったなー」とヒィロ。
食いしん坊のジルは、早くもお腹を鳴らしている。
「拙は、砂漠に出た巨大蟹以来となりますが、鉄帝でも、巨大蟹が普通なのでしょうか」
『玲瓏の壁』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は海鳥が止まる甲板の縁に身を乗り出し、荒ぶる波を見下しながら言った。
ゼファー(p3p007625)が積み上げられた漁衣の中から一つを選んでひっぱり出す。
「普通ではないから私たちに、『退治して欲しい』と依頼がきたのだと思います」
「そうですね。それにしても、この船……カニ漁船にしては小さすぎやしませんか?」
雪之丞は縁を離れると、やや不安げな顔で甲板を見まわした。
この大きさだ。大波をまともにかぶれば転覆しかねない。
「大丈夫ですよ。現役で使われている船の様ですから、船長の腕が確かであれば――」
ゼファーは指で長い髪を耳にかけながら操舵室を見上げた。
「一悟を信じましょう」
『背を護りたい者』レイリ―=シュタイン(p3p007270)がうめく。
「一悟殿はたしか、操舵術を覚えたばかりといっていたな……不安だ」
「まあまあ、ただ魔物に向かっていくだけの自動操縦よりは、一悟さまが操縦してくださるほうが絶対いいですよ」
苦笑いしながらメイメイがフォローを入れる。
「そうだろうか? うん、まあ、そうだな……と、船が降ろされ始めたな。さっさと着るか」
レイリ―は受け取った漁衣のジッパーをおろした。とたん、腕をまっすぐ突っ張って、漁衣から顔をそむける。
漁衣に、海の男の体臭がたっぷり染みついていたのだ。とくに両脇部分が強烈な臭いを放っている。
ジルは涙目になっていた。
「ヴォエぅっふおっふぉおっふぉ?! あ、あやうくデスボイスになりかかったっす」
「臭いもそうですが……そもそもサイズが合いませんね」
雪之丞は漁衣のジッパーをあげると丁重に畳んだ。長靴のほうは試す気にもならない。
「……無理に着なくてもいいわよね」
ゼファーや他の者たちも無言で漁衣を折りたたむ。
体が冷えて身動きが取れなくな心配よりも、サイズの合わない服を着て動きに制限が出る方がまずい。魔物と戦っていれば自然と体が温まるはずだ。
「これは、とりあえず中に仕舞っておくわ」
次々と他の小船が海に降ろされていく。
イレギュラーズたちを乗せた小船も着水した。
「カニが私を待っている! 今行くぞ!」
レイリ―の号令と同時に、小船は蟹工船を離れた。
●
波の高さは約六メートル。この海域ではまだまだ穏やかなほうだ。
船の舳に高波が当って砕ける。
「ひゅー! 今の波の形、リアル北斎かよ! すっげー」
船を操縦しながら、ひとり一悟は興奮していた。魔物の位置はすでにソナーでつきとめているので余裕があった。
ここまでほぼ自動操縦と変わらない。一悟がやったことといえば、波間に浮かぶ色とりどりのブイ(この下にタラバガニが入ったゲージが沈んでいる)を船にひっかけて動かさないように避けたぐらいだ。
ちなみにブイの重さは約六十キロ。これをひとつひとつ海に投げ入れるカニ漁師は逞しい。
蟹工船から三十分ほど離れたところで、一悟はマイクを手に取った。
「オッケー、ガイ……ガールズ。もうすぐカニのバケモノが出てくるぞ。海が割れる、つかまれ!」
一方、甲板ではメイメイが悲鳴をあげていた。
「め゛ぇぇぇぇぇ……!」
羊さんの鳴き声が海鳥の鳴き声と重なり、波音と響きあう。
予め船体に結びつけておいたロープの端をしっかり手に持ち、傾いた甲板の上を滑らないようにふんばった。
「めぇ……働かざるもの、食うべからず……ですよ、ね……」
「そのとおり……でございます。がんばりましょう」
雪之丞も傾きに合わせて体重を移しながら耐える。
「がんばり、ます……。わたし、カニ、食べたい」
「カニ食べたーい!」
油圧クレーンの影からヒィロが声をあげる。
うねる海面がぐんぐんと盛り上がり、『小船』は大波にのりあげた。船体が大きく傾く。
「みんな、しっかり掴まって!」
体を軽く浮きあがらせていた美咲でさえ、慌てて両手で縁を掴んだ。
次の瞬間、小船は乱暴に空に投げ出されたかと思えば、海底をえぐるような動きで引かれた。
その激しい落差にレイリ―も思わず声を出す。
「うわー!」
体がぶらぶらと空中で揺れる。
船体と結ばれたロープをしっかり両手で握りながら、空中に吊り下げられた形だ。
『小船』はまるでとてつもなく深い洞窟の穴にでも落下したかと思うほど、したたかに海面に叩きつけられた。
ジルも甲板に投げ出され、叩きつけられる。
「いたた……って、でたーっす!!」
巨大なツメが二つ、にょき、きょきっと突き出し、曇天をはさんでいた。幾重にも波を起こしながら、巨大な体が半分、海面上にせり出してくる。
とたん、ヒィロが目を輝かす。
「で、このでーっかいタラバガニを獲って食べ放題? なんて贅沢!」
「デカいのは食いでがありそうでいいことですけども……」と、ゼファー。
濡れた髪を一つにまとめ、シニヨンに結える。
「それにしたって、ちょっと限度ってもんがあるでしょうが。……って言うか、本当にこいつ食えるの? 大丈夫?」
「大丈夫だよ。私とメイメイさんで美味しく食べられるように調理するから。ね、メイメイさん」
「え……、あ、はい、美咲さま! がんばります」
『小船』を操縦する一悟を除いた七人は、波をかぶりつつ攻撃フォーメーションを組む。
レイリ―が片手をロープからはなし、巨大タラバガニをびしっと指さした。
「さて、漁の邪魔をする巨大蟹よ! 私の糧となるが良い!」
さあ、漁の開始だ。
「トップバッターは『蟹退治のぷろふぇっしょなる!』のボクにお任せ!」
濡れ滑る甲板の数センチ上で、足に鬼火を纏わせたヒィロが仁王立ちになる。小さな体から、熱く燃える闘気が迸った。相対する魔物に傲然と咆哮をあげる。
「さぁかかってきなよ、ボクのお昼ご飯でおやつで晩御飯!」
なにを、とばかりに魔物はハサミを大きく開くと、ぐいっと腕を後ろへ引いた。
空を舞う海鳥が鋭い鳴き声でメイメイに危険を知らせる。
「そちらがチョキならわたしはグーをだします」
メイメイが星官僚のタクトを振ると、小船と魔物の間の空間が歪み、巨大な岩が現れた。
繰り出された巨大な左のハサミが巨石を挟みこんでヒビ割れる。
「うふふ。わたしの勝ちですね」
自慢のハサミをダメにされて驚いた魔物は、波の下へ逃げ込もうとした。
船の下にもぐり込まれでもしたら厄介だ。
「私の名はゼファー。自然の理を外れ、殺戮に走る魔を屠る槍……。さあさ、かかってらっしゃいな! 鍋にされるのが怖くって来られないならこっちから行っても構いませんけどー!」
ゼファーの売り言葉に、魔物が反応した。再び体を海面上に持ち上げる。
一悟は魔物の出現で派生した大波を、巧みな操縦で回避、船の大揺れを押さえた。
魔物が右のハサミをぶん回し、甲板に立つイレギュラーズたちをなぎ倒す。
かろうじてハサミの攻撃を逃れたジルは、仲間が受けたダメージを把握するため、素早く辺りを見回した。
前列にいた美咲とヒィロ、ゼファーの三人が甲板に倒れていた。
レイリ―は体を城壁のごとく固めて攻撃を弾き、後ろにいたジルとメイメイを守った。雪之丞は魔物の攻撃を見切って海側に逃れたため難を逃れている。
ジルは知識をフルに漁って倒れている三人を順に診た。倒れている内で、端にいた美咲のダメージが一番深そうだ。
「なんてこった、シェーーーーフっ! 大変っす。シェフが倒れたら誰がカニを料理するんすか? 痛いの飛んでけーっす! 立ちあがるっすよ、アイアンシェフっ!!」
カリカリと頭に生えた角を看板の角で削り、カニの餌の鱈のすり身に魔力と一緒に混ぜてニギニギする。
「ア、アイアンって……私、ウォーカーだから。オールドワンじゃないから」
「いいから。これを食べるっすよ!」
鱈のすり身握りを口に突っ込まれた美咲の様子はあえてカットさせていただく。 ただ、しばしの間、美咲の発言にピー音が被りまくったことだけはお伝えしておこう。
治療(?)の時間を稼ぐため、雪之丞は海の上で穢れを落とすかしわ手を打ち、魔物を怒らせた。
「鬼さんこちら、手のなるほうへ――と、鬼は拙でございましたね」
怒った巨大タラバガニが体を回して雪之丞を追う。
渦まく波に巻き込まれないよう、一悟はスロットを全開にして、『小船』を逃がした。巧みに魔物の体を回り込んで雪之丞との間に割って入り、船体の横が正面に来るように動かす。
「ふん……鉄帝の海に巣食う魔物ともあろうものが、なんと柔い攻撃をするか。このレイリ―=シュタイン、傷一つ負っていないぞ。いますぐ魔物の冠を返上しろ。貴様はただデカイだけのカニだ!」
激昂した魔物が、足を突きだして船ごと立ちあがった美咲を蹴ろうとした。
レイリ―が前に出て足を受け止め、弾く。
「ずいぶんと足くせの悪いカニだ」
美咲の黒い目が、虹色のきらめきを放った。海にかかった虹の狭間に闇が生まれ、甲殻と甲殻の間の薄い節を食い破り、魔物の体内に忍び込む。
差し込んだ闇を変化させ、堅い殻に守られた肉体を内側から破壊する。
一悟は自動操縦に切り替えると、船長席を立った。外に出て、苦し紛れに暴れだした魔物にブイ爆弾を飛ばす。
「観念しておとなししくオレたちに食われやがれ!」
爆発の風圧で魔物の全身にヒビが走った。
「ヒィロ! ラスト、動き抑えて!」
「任せて、美咲さん!」
美咲とヒィロの流れるような連携攻撃が綺麗に決まる。
アワを吹きだした魔物は、腹ペコイレギュラーズの総攻撃を受けて海に倒れた。
「美味しくヤれましたー!」
●
「うぉ? 甲羅も棘だらけじゃねえか。……棘の中にも身が入っているのかな? とまれ。早く船に引きあげないと沈んでしまう」
ヒィロ、美咲、一悟、雪之丞の四人は、空を飛びながら巨大タラバガニの足にロープを括りつけた。
レイリ―はひび割れた甲羅の上に飛び乗り、ロディオの要領でバランスを取りながら、投げ渡されたロープを甲羅にかけていく。ヒビが広がって身がバラバラにならないようにするためだ。
「これでよし。いいぞ。引っ張り上げてくれ」
メイメイがロープを滑車に通してロープを巻き上げた。
ジルとゼファーが巨大タラバガニの足に手をかけ、『小船』の上に引き上げる。
「……いや、尋常じゃなく重いわ!」
なんとか引き上げると、小さな甲板がいっぱいになった。重みで船体が沈み込む。
「このまま、解体してしまいましょうか」
雪之丞が太い足を指でつんつん突きながらいう。
「体が冷えてきたっす。風邪をひかないうちに、戻ったほうがいいっすよ。解体は蟹工船でやるっす」
ジルが持ってきた鎖で巨大タラバガニの体を固定する。
「よし、じゃあ蟹工船に戻るぜ」
一悟は船首を南へ向けた。
イレギュラーズの凱旋を、蟹漁師たちが総出になって祝福してくれた。
万雷の拍手とやんややんやの称賛が、甲板から巨大タラバガニを引き上げるイレギュラーズたちに降り注がれる。
「さすが、イレギュラーズ!」
「まったくだ。すごいぜ!」
「このままカニ漁師になってくれよ。お前たちならやれるぜ」
いや、さすがにそれは……。苦笑いで誘いを交わしながら、急いで蟹工船に上がった。
冷え切った体を熱いシャワーで温めて、乾いた服に着替える。
「さて……ここからがある意味本番。メイメイさん、よろしくね」
「はい。どんどん作っていきましょう」
「レイリ―さんも、ありがとう。洗いもとか片づけとか助かるわ」
「必要な調味料とか食器とか、あったら遠慮なくいってくれ。すぐに用意するから」
美咲とメイメイは厨房で解体された、それでも一つの塊がとても大きなカニ肉と格闘を始めた。
「メイメイさん、野菜を切り終えたら薬味とタレの用意をお願いしてもいい? 私は混沌米を研ぐから」
「はい、シェフ」とメイメイが笑顔で応える。
全部で八人分。野菜も米も大量だ。切るのも大変だが、研ぐのも大変。ヒィロのリクエスト、カニ飯の分もあるから、美咲は二度米をといだ。
あ、そうだ。ゼファーがリクエストした蟹雑炊もあるから、白ご飯用の米をもう少し増やそう。
出来上がった料理は片っ端から、一悟とヒィロが食堂へ運んだ。
ジルが御茶碗にご飯をよそい、タレをとんすいに入れていく。
タレはモミジおろしを入れたポン酢だ。ユズや力ポスを切ったものも、ちゃんと用意されている。
混沌にポン酢があるのか、だって? こまけーことはいいんだよ。
雪之丞とゼファーはそわそわしながら宴会の準備が整うのを席で待つ。
「すべて終われば、食べるだけですね。残さず、頂きましょう」
「大きかろうが小さかろうが、カニはカニ。美味しく食べられれば文句はありませんとも、ええ」
その頃、厨房ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
メイメイが「カニの甲羅をお皿にして、グラタンもいいですね」といったところ、「甲羅……あ、蟹ミソ。忘れてた。和え物も作りたかったんだ。レイリ―さん、蟹ミソを持って来て」、というやり取りのあと、困惑した顔でレイリ―が蟹ミソの紛失を告げたのだ。
「へんね。ちゃんと取り分けておいたのに……」
バケツに入れておいたので、誰かが間違って捨ててしまったのかもしれない。
「しかたありませんね。漁師さんたちが獲ったカニを少し分けてもらいましょう」
その後、イレギュラーズたちは、丸一晩かけて巨大タラバガニ料理の数々を、美味しく食しましたとさ。
魔物の蟹ミソは捨てられていなかった。加工され、缶詰の中に――。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
成功です。
みごと魔物、巨大タラバガニを倒し、その肉を残さず食べきりました。
港についたとき、みんなのお腹はパンパンに……でも顔は満足しきって幸せそうでした。
MVPはアイアンシェフに。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●依頼条件
・小船を壊される前に巨大タラバガニを倒し、蟹工船に水揚げする。
・巨大タラバガニを食い尽くす。
●日時
・北の海(鉄帝領海内)
・昼、時化ています(波の高さ6メートル・曇天)。
●魔物・巨大タラバガニ……1体
まんま、デカくなりすぎたタラバガニです。
混沌でも鱈の漁場と重なっているので、タラバガニと呼ばれています。
これが出るせいで、漁が解禁されたにもかかわらず、今年はまだ港にカニが揚がっていません。
【歩脚/近単】…4対ありますが、第5歩脚は小さすぎて攻撃には使われません。
【鋏脚・左/近単/出血】…巨大なハサミでチョッキン!
【鋏脚・右/近列】…巨大なハサミをぶん回したり、振り下したりて敵を叩きます。
●蟹工船
水揚げした蟹を即加工できる設備をもった、巨船です。
タラバガニを取るための小船(中型漁船)を4隻、左右に取りつけています。
イレギュラーズはうち1隻に乗り込み、魔物と戦います。
なお、操舵士はいません。
海に降ろされた時点では、自動操船の状態になっています。
工船から真っ直ぐ、魔物に突っ込んでいきます。
細かい動きはしません、できません。
※全員、監督から操船の仕方を『めっちゃ簡単』にレクチャーされています。
※工船、小船ともに鉄帝製です。無骨な見かけ通り、やたら頑丈です。魔物の攻撃をモロに受けても5回ぐらいまでなら沈みません。たぶん……。
※他の小船は工船の回りでタラバガニを捕っています。魔物退治には加わりません。
●その他
魔物を倒せば時化が嘘のように収まり、海は穏やかになります。
帰路はカニづくしの宴会をお楽しみください。
鱈など、北海で取れる魚もオマケで楽しめます。
ただし、魔物に負けると……
冷たい海を泳いで陸に戻るはめになりますので悪しからず。
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