PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<物語の娘>三日月ひとつ、満月ふたつ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●猫のない笑い

「アリスかい?」
 鬱蒼とした森の中、ぐんにゃり折れ曲がった木々の群れ。歩きにくい場所に悪態の一つもつきたくなった頃合いにそんな風に問われれば、誰だってきっと肝を冷やすだろう。
 その声の主を捜して首を回す貴方たちなら、やがて見つけることだろう。やっぱり曲がった木の枝の上に、格子模様の三日月を。
 違和感のある光景だとしても、誰も何にも不思議に思わないかもしれない。だってここは『小麦色の昼下がり(ワンダーランド)』
 葉っぱが緑と誰が決めた?
 時計を持ったウサギが二足歩行してても幻だって言い切れる?
 帽子屋が頭に20個も帽子を重ねていても誰もなーんにも言わない!
「アリスの匂いがするなあ」
 だからここでは、喋る月があっても何にもおかしくない。だけれどワンダーランドに迷い込んだ「おかしな」貴方たちは、やっぱり不思議で声の主を探し求める。
 やがて誰かが叫ぶ。木の上に浮かぶ格子模様の三日月は、くるっと廻って一回転。
「オレが誰だか覚えているかい?」
 逆さまの三日月が半回転。三日月の上に満月が二つ。ふよふよ浮かぶぽてっとしたボディー。縞模様の毛並み。
 誰かがその名を呼んだ、チェシャ猫と。呼ばれたチェシャ猫は、チェシャ猫のように笑う。
「久しぶりだねアリス。いや、つい最近も会ったか? まあいいや、久しぶりだねアリス」
 首がくるん。
「帽子屋もうさぎもキミに会いたがっていた」
 胴体がどろん。
「勿論オレも。歓迎するよ、アリス」
 残っていた生首もどろん。たなびく煙。
「だから遊ぼう、アリス」
 その姿は突如として貴方たちの前に現れる。満月のように目を丸くする貴方たちを前にしても、チェシャ猫は相も変わらずニタニタしている。
「お茶会が始まるまで遊ぼうぜ。もうお茶会は始まってるけどな」
 
●長話は疲れる。聞く方も、聞かされる方も
 少し時間をさかのぼろう。
 境界案内人の要望を受け集まった貴方たちは、彼から渡された絵を見て一様に首を傾げた。
 その絵には、不気味な笑顔を浮かべたストライプ模様の猫が空中をふわふわ漂っていた。
「これはチェシャ猫って言って、神出鬼没の猫だ。首だけ浮いたり姿を消したりできる猫で、これから行く世界――『ワンダーランド』では案内をしたり、トラブルを呼んだりと掴みどころのない性格をしている」
 それが本当なら猫と表現していいのか微妙な存在だが、とにかくそういう生物なんだ、と貴方たちは理解することにした。
「今回の依頼は、そのチェシャ猫と『遊ぶ』ことだ。隠れたり消えたりするチェシャ猫を見つけて捕まえるか、彼、彼女――まあどっちでもいいか、が満足すればそれで終わる」
 なるほどそれなら安心だ、と貴方たちの誰かは安堵した。透明になれる猫を捕まえるまで終わらないとすれば、それはそれで骨が折れる。
「ワンダーランドの住人はみんな独特だから、チェシャ猫はもしかしたらルールをきちんと説明しないかもしれない。だから今のうちに色々説明しておくな」
 そして、長い説明が始まった。

NMコメント

澪です、お疲れ様です。チェシャ猫と遊ぶ依頼です。え? この前も猫の依頼書いてなかったかって? ナンノコトカナー?

●成功条件
 隠れているチェシャ猫を捕まえるか、チェシャ猫が満足するまでかくれんぼに付き合ってください。

●チェシャ猫について
 皆さんご存知にやにや笑う猫。このシナリオでは理知的でいたずら好き、そしてワンダーランド世界住民の例にもれずどこか「変」です。まあ、「変」なんて主観の尺度次第ですが。
 何を考えているのかはわかりません。だってチェシャ猫だし。
 皆さんのことを「アリス」と呼びます。本物のアリスについて聞いても答えてくれません。
 チェシャ猫に戦闘能力はありませんが、かくれんぼに適した非戦スキルてんこ盛りです。
 一時間程度真剣にチェシャ猫と遊んであげれば満足するでしょう。

・物質透過
 非戦スキルの物質透過と同じです。
・気配消失
 非戦スキルの気配消失と同じですが、チェシャ猫はほぼ絶えず動いています。
・飛行
 非戦スキルの飛行とほぼ同じですが、高くても3メートル程度しか飛べません。
・透明
 チェシャ猫特有スキル。任意で姿を消すことができます。姿を消す際は必ず煙のようなものが出ます。姿が見えなくなるだけで実体はあります。チェシャ猫の場合いたずら好きなので、いきなり首だけ出して驚かせることがあります。
・現実違い
 チェシャ猫特有スキル。首と胴体が離れていても生命活動に影響ありません。

 こちらも捜索に役立ちそうな非戦スキルや道具を活用することで、チェシャ猫を見つける確率が上がるでしょう。

●場所
 アバンギャルドな色彩でおよそ現実味のない森の一角、100メートル四方が範囲です。チェシャ猫がそこから出ることはありません。捜索範囲の外には不思議な霧が発生しており、外に出るのを阻みます。
 時刻は昼、天気は快晴。森は鬱蒼として足場は悪いですが、移動にマイナス補正はつきません。

 皆様とチェシャ猫とのほんわかしつつも熱い戦いをお待ちしております。

  • <物語の娘>三日月ひとつ、満月ふたつ完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
六車・焔珠(p3p002320)
祈祷鬼姫
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵

リプレイ

●始まりは唐突に
 森の中に紫色の煙が立ち上って、そこにいたチェシャ猫の姿が消えてしまう。
「本当にルールの説明をしなかったね……」
『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)はポツリとそう呟いたが、嘆いているわけではなくどこか楽しんでいるような気配さえある。
「かくれんぼかしら、楽しそうね!」
 その隣に立つ『祈祷鬼姫』六車・焔珠(p3p002320)は腕が鳴るわ、と言った風に腕を回す。
「うう……猫は、苦手ですの!」 
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)の尻尾がプルンと震える。街中で猫に襲われた事を思い出したのだろう。
「わわ、消えちゃった!?」
 常識外の行動に慌てる『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)だが、次の瞬間には「ふっふー、負けないもんね!」とやる気十分である。
『いいのかい、アリス達? 今のままだとオレは満足しないぞ。それとも』
「わっひゃ!?」
 ふくよかボディの猫がノリアの尾鰭を撫でる。首がないのがシュールだが、やっていることは立派なセクハラである。
『透明でうまそうなアリスを食べさせてくれたら、満足するかもな?』
「行きますの、皆さん! ご馳走なんて、わたし、いやですの!」
 跳ね上がったやる気と危機感から発せられた悲鳴をきっかけにチェシャ猫はまた姿を消した。その煙が森に消えた頃、四人のイレギュラーズはそれぞれ走り出す。

●消える猫との追いかけっこ
「わあ、可愛いなぁ! よしよし♪」
 ノースポールはファミリアを活用して自分と同じく白くてもふもふの犬を呼び出した……まではよかったのだが、既視感のあるその姿に一時我を忘れてもふもふタイムを堪能し始めていた。犬も犬で主人の命令を拒否するわけもなく、結果たまたま通りかかったシャルロッテに「おい」と呼びかけられるまで、彼女の幸福な時間が続く。
「ごめんなさい……」
 気を取り直して探索再開。五感を共有し、当てにならない視界の代わりに嗅覚と聴覚を頼りに探し当てようとする。人より遥かに優れた嗅覚は、先程現れた際のチェシャ猫の臭いをしっかりと把握し、覚えていた。
 森は目印らしいものもなく、ぐにゃぐにゃに曲がって生える枯れ木の根と、薄紅色の草が生い茂る。嗅覚を頼りに先に進むノースポールだが、やがて共有する視界が同じような景色になる。見ると、足元には自らの使い魔――シロが控えていた。どうやら同じ臭いを辿ってここまで来たようだ。
「チェシャ猫はもうすぐだね!」
 そう確信した彼女は意気軒昂に歩みを進める……が、どこまで行っても臭いが強くならない。まるで、近すぎず離れすぎない位置をぴったりキープされているような……。
「ねえ、ノースポール」
 いい加減奇妙さを覚えた頃、六車が離れたところから声をあげた。ノースポールと同じくファミリアで鳥を使役し、俯瞰する形で全体を眺めていた彼女だからこそ気付いたことがある。
「さっきから同じところぐるぐると何してるの?」
「え?」
 その言葉の真意が理解できずに呆けた声を上げたところにいきなり。
『アリス』
「ひゃあ!?」
 目の前にチェシャ猫が現れた。先程と異なり首と胴体が繋がっている。
『真白なアリスとそっちは……小さなバンダースナッチ』
 ニヤニヤ笑いを崩さないその表情は随分と余裕そうで、隙だらけに見えた。シロが遠吠えし、仲間に知らせるその間に、ノースポールはその小さな手を猛然とチェシャ猫に向けて伸ばしていた。
「つーかまーえた……あれ?」
 その手がチェシャ猫を掴むその直前、チェシャ猫は首と胴体を切り離して逃れた。空を掴んだノースポールはだが、まだ自信ありげな表情を崩していない。
「おっと」
 何かに気付いたチェシャ猫の首と胴体が煙になる。その背後から飛び出して来たのは六車。鳥で上空から見下ろしていた彼女にとっては、今までのノースポールとのやり取りは筒抜けに等しく、故に追撃の手を打つことも容易だった。
「みーつけた! 覚悟ーっ!」
 その手が勢いよく煙へと伸び――そして空を切った。もう少しのところで取り逃がしてしまったらしい。六車は温度視覚を駆使してすぐさま後を追いかける。使い魔の視界が正しいとすれば、その先にはノリアがいるはずだ。
「悪いけど、シャルロッテにさっき起きたことを伝えておいてくれる?」
「わ、わかりました!」
 そう言って二人は仲間の元に駆け出した。

●全ては探偵の掌の上
「ふむ……なるほど」
 ノースポールからの報告を聞いたシャルロッテは小さくそう言って――薄く笑った。その真意が測りかねたノースポールに向けて、彼女は「さ、てと」と宣った。
「恐らくチェシャ猫は、ノースポール君の少し前を一定の距離を保って進んでいたのだろう。同じところをぐるぐる回っていると悟られないように少し大きめの円を描いていたとすれば、六車君の見た光景とも矛盾しないね」
「ぐぬぬ……」
 ノースポールの悔しそうな表情を余所に、シャルロッテは車椅子に腰掛け、次の一手を思考する。
(これは、思ったより賢いね)
 臭いを活用した手は通用しないだろう、そうすると次の手を打たなければならない。
 シャルロッテは用心深く周囲を見渡した。チェシャ猫は絶えず空中に浮かんでいるのか足跡は見つからないが、彼のものと思しき毛が何本か見つかった。見遣った先には六車とノリアの姿が見える。
「……ふむ、ではこうしようか」
 何かを思いついたシャルロッテはノースポールへ指示を送る。

「ノースポール君には森の端を見てもらうように伝えた。すまないが六車君も別のエリアを見に行って欲しい」
「わかったわ!」
「ノリア君は引き続きそちらを見ていて欲しい。ボクも引き続きこっちを見ているね」
「わかりましたの!」
 これまでバラバラだった動きがシャルロッテの指示下に入るのを、チェシャ猫は彼女のすぐ傍で聞いていた。チェシャ猫の視界から白いアリスと角の生えたアリスが消え、透明なアリスと動く椅子に乗ったアリスがそれぞれ自分を探している。
 さて、次はどちらに近づこうか。チェシャ猫は姿の見える二人を交互に見た。椅子に乗るアリスも勿論興味深い。だが魚のアリスはそれ以上に好奇心をそそられる。
 それが猫由来かはこの際置いておくとして、チェシャ猫の両目はノリアへと向けられた。透明なずんぐりむっくりの体がシャルロッテの横を離れ、音らしい音も立てずにノリアへと向かっていく。
 そのノリアは、空中をふわふわと漂いながらチェシャ猫を探していた。しかしその後ろ姿はどうにも隙が見えるし、何よりおいしそうである。
「ひゃあ!」
 その彼女に、チェシャ猫は前脚で触れた。予想通りの反応が返ってくる。触れた感触を頼りに彼を探すノリアだが、物質透過を活用して木の幹を介して触れているので、手を引っ込めただけでノリアは手が出せない。
「うう……やっぱり苦手ですの……ひゃっ!」
 二度目のタッチは、先程と反対側にした。ゼラチン質の尻尾が跳ね上がる。
 自分の近くにいると分かっているが見つけられず、そのせいでノリアは先程より明らかに不安げな表情を浮かべている。周りには相変わらず誰もいない。チェシャ猫はもう一度悪戯をしようとして、
「捕まえたわっ!」
 その胴体部分が誰かの手でむんずと掴まれた。何が起きたか理解する前に今後は首を柔らかいものに包まれる。
「こっちもです! チェシャ猫、捕まえましたー!」
 それがノースポールの胸元に抱えられたことが原因とチェシャ猫が理解するのに少し時間がかかった。胴体を捕えているのは、角の生えたアリス、つまり六車だ。彼女もまた離れた所にいたはずだ。
 声を聞きつけて、ノリアとシャルロッテが近付いてきた。チェシャ猫も観念したのか透明化を解除する。
「やりましたですの!」
「ああ、大成功だね」
 二人がそう言うのを聞いて、チェシャ猫は首を半回転させる。
「アリス達、オレを罠にハメたな?」
「ご名答。君は賢いね」
 シャルロッテはにこやかに応じてから、「さて」と呟いた。全員の意識が彼女に注がれる。
「チェシャ猫君が聴覚や嗅覚を使ってボク達を撹乱することをノースポール君から聞いたボクは、それを逆手にとって捕まえる算段をつけた。そのために六車君とノースポール君に嘘の指示を出して一度視界から外れてもらい、ノリア君に狙いが定まるように仕向けた」
「わたしは、隙だらけだし、こんな姿だから、きっと気になると思いましたの。さっきも、わたしに興味ありそう、だったので」
 ノリアがえへんと胸を張る。
「私とノースポールは、シャルロッテの嘘の指示で一度遠くへ行ったふりをしてすぐに戻ってきたって訳ね。そしてノリアにちょっかいを出しているのに夢中になっている間に」
「それぞれで確保した、ってことです!」
 リベンジを果たした六車とノースポールの顔はこれ以上ないほどのどや顔である。
 全てを知ったチェシャ猫は、ニヤニヤ笑いを浮かべたまま、満月のような眼を細めて四人を褒め称えた。
「オレの負けだ。流石アリス、楽しかったぜ。あと、角の生えたアリスはオレの肉球をあまり触らないでくれないか? 結構くすぐったいんだ」
「あら、ごめんあそばせ?」
 ノースポールと六車がチェシャ猫を解放すると、再び首と胴体がくっついた。ふよふよと宙に浮かび、そして煙となって消える。
「あら、どこに行くの?」
 六車が問うと、チェシャ猫は飄々と答えた。
「変人と、変人と、変人が待つ場所さ。ああ、そうさ。ここは普通の人はいない。いるのはみんな変人ばかり、だって変なのが『普通』だからさ!」
 声だけが聞こえる。そして次の声は聞こえない。何処かへ行ってしまったようだ。

 唐突に始まり唐突に終わった遊び。その終わりを一拍遅れて理解した四人は、「疲れましたね!」「怖かったですの……」と各々の感想を述べながら森を行く。
 
 

成否

成功

状態異常

なし

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