シナリオ詳細
穢れた姫と純粋な魔王
オープニング
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一国の姫が魔王にさらわれた。
その言葉は一見、極悪な魔王がヒトの子を困らせるために行った行為に聞こえるかもしれない。少なくともその王国の王と民は、その魔王に憎しみの感情しか抱かないだろう。
だが、もしそれが姫の望んだコトだったとしたら?
もし……姫が愛したのが勇者ではなく、魔王だったら?
「無茶させてしまってごめんなさい」
そのお姫様は、自身を抱えて逃げる魔王に申し訳なさそうに謝った。
追手、本来姫に婿入りする筈の勇者や、王国屈指の多くの手練れはすぐ近くまで迫っているだろう。蹴散らすことは容易いが、戦いを始めれば彼女を無傷で連れていける保証は無い。
「按ずるな、お前をさらうくらい容易いことだ。謝るくらいなら今後やりたいことでも考えよ」
そうは言ったものの、王国が総力を挙げれば決して無力なヒトの子にとどまらない。
姫を奪い返された挙句、手傷を負わされることになる可能性も低くはない状況だ。
「そうね……。もしあなたと一緒に暮らすことができるなら……」
目指すのは魔王の城ではない。遠く、ずっと遠く離れた森の中。
駆け落ちした二人は夢にまで見た生活を求め、王国の外へ飛び出した。
●
「あなた方は、愛の為なら全てを敵に回すことができますか?」
七色の髪に大きな戦斧。まるで傭兵のような姿をした女性が、あなた達に問いかけた。
「愚な質問でしたね。……初めまして、私はイヴ。あなた方の案内をさせて頂く者です」
イヴと名乗る境界人は、イレギュラーズに答えを求めることは無かった。その代わり、彼女は今回の依頼の説明を始める。
「一国の姫が魔王にさらわれました」
それは本当に、全くもってシンプルな説明。
さらわれた姫の救出、魔王の討伐。これ以上でもなく、これ以下でもない簡潔な内容。
「王国は全力で姫の救出に当たっていますが、魔王が相手では相当苦戦するでしょう。多くの犠牲も予想されます。あなた方であれば、一世界の魔王であっても容易い話でしょう」
それ以上の説明は一切なかった。
世界への案内を終えたイヴは、イレギュラーズの知らない場所でため息交じりにこう呟くのだ。
「ええ……これでいいのです。これが、この世界の本来あるべき姿……」
- 穢れた姫と純粋な魔王完了
- NM名牡丹雪
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年11月22日 22時30分
- 参加人数4/4人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
“外の世界を知りたい”
王宮の中だけで暮らしていた私が外の世界に興味を持ったのは、十五の頃でした。
騎士やメイドから聴く王宮の外の話や、繰り返し読んだ数多の冒険譚に夢を見た私は、王宮の外の世界に憧れを抱いておりました。
安穏の日々を過ごしていた私は、あるときとうとう王宮を抜け出してしまいました。どうしても私自身の目で、外の世界を見たくなってしまったからです。
それが全ての始まりでした。
「大丈夫か……?」
「ごめんなさい、少し考え事をしていたの。私なら大丈夫よ?」
追手から逃げる際中、魔王は心配するように姫の顔を覗き込んだ。
「いや、顔色が悪い。我が少し急ぎすぎてしまったかもしれぬ」
魔王よりも、ただの人間である姫の負担の方が大きいのは明らかなことだ。
このまま進み続ければ姫の体力が持たないだろうと判断した魔王は、近くに座ることのできそうな岩場を見つけると、そこまで歩き姫を降ろしてあげる。
「追手は大丈夫かしら……?」
そう呟く姫の消耗はやはり激しかった様で、足取り悪く岩場に腰を掛けた。
「按ずるな、奴らとはかなりの距離が開いている。この暗闇の中で我らに追い付くには時間がかかろう。我は補給できそうなものを探してくる。……一人で待てるか?」
魔王にあまり心配かけまいと、姫は頷き微笑み返す。
二人は本当に愛し合っているのだ。
「……誰だか知らぬが、邪魔をするのなら容赦はせぬぞ」
だからこそ、極力姫を危険な目に合わせる訳にはいかない。
ここまで尾行を続けてきた何者かの気配を察知していた魔王は、一人になりそう呟いた。
「ははぁ、何とも泣けるお話で。魔王ともあるお方が女との関係の為に逃避行とは、情けなくて涙が出るという話です」
魔王の視線の先、暗闇から姿を現した『ラド・バウD級闘士』ヨハン=レーム(p3p001117)は、逃亡劇を続ける彼をまるで嘲笑うかのように笑う。
「王たるあなたの為に戦い、散った命もあるのでしょう? 勿論奪った命も、戦争ですからね。それをまぁ好き勝手に逃げて安穏と暮らそうというのは、はは。失礼ながら呆れますね」
魔王の責務の放棄。それはヨハンの言う通り、決して軽いものではないだろう。
「言いたいことはそれで終わりか? 人の子よ。……実につまらぬ」
しかし、魔王にとってそれはどうでもよい事だった。
何故なら彼は、連れ出した姫と共に逃げる事しか考えていなかったのだから。
●
「っ……!!」
肌で感じる程の殺気がイレギュラーズに降りかかる。
顕現させた大剣を軽々と振り下ろす魔王は、自分の邪魔をするイレギュラーズに余波のある斬撃を飛ばした。
轟音を立てながら進む斬撃は地面を抉り、遠くの巨大な岩を真っ二つに斬り裂く。
「当たったらタダじゃ済まないわね……」
フードに素顔を隠す『黒焔の薔薇』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)は紙一重で斬撃を回避しつつそう呟いた。
初撃でこの存在が『魔王』であることを再認識させられると同時に、反撃の一手を加えようと素早く間合いを詰めていく。
……死。
ゾクッとした感覚にアリシアは思わず魔王から距離を取った。
魔王から感じられる強力なプレッシャー。そのまま一撃を入れれば逆に刈り取られてしまうような、そんな感覚に息を乱し、額に汗を浮かべていた。
「これは、戦うしかなさそうだネ……」
少し離れた場所で深く引いたロングボウを構える『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)は、その矢先を魔王に向けて言う。
彼らを逃がしたい。心のどこかで想っていたそれは遥か彼方へ。
「あゝ……悲しきかな運命ヨ、救いはあらなんだカ」
的確に放たれた矢はまっすぐと魔王の足元へ。
それが致命的な一撃にはならずとも、魔王の動きを少しは止めることが出来るだろう。
彼をもう、ここから逃がさないために……。
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イレギュラーズと魔王が激しく交戦する最中、遠く離れた岩場で姫は魔王が戻ってくることを待ち侘びていた。
その背後から近づく影。
「ここに居たのですね、姫様」
『水天』水瀬 冬佳(p3p006383)は岩陰に腰かける姫の隣に座ると、ただまっすぐ夜空を見上げ、どこか切ない表情を浮かべる彼女に声をかける。
「王国の者ですか? ……申し訳ありませんが、私の事は放っておいてくださいまし」
全く目を合わせようともせず、素っ気ない態度をとる姫に冬佳は、険しい表情を浮かべながら今起こっていることを包み隠さず話した。
姫を連れ戻しに来たということ。そのために今、仲間が魔王と戦っているということ。
それを聞いた姫は悲しげな表情を浮かべながら冬佳を睨むのだ。
「どうして……。どうして私たちの邪魔をするのですか……?」
今すぐその戦いを止めなければ……。そう思った姫は立ち上がり、魔王が行ってしまった方向に走り出そうとする。
だが、冬佳はそんな姫の腕を強く握り引き留めた。
「凡その事情は理解しました。しかし、地の果てまでも追い回されるだろうことは容易に分かります。……理解していらっしゃいますか? 姫、これではただの心中か、或いは破滅の全面戦争の引き金にしかなりません」
一国の姫として生まれ育ち、相応の対応を享受する者がその義務を放棄するなど褒められたものではない。冬佳は言い聞かせるように姫に言う。
それでも姫は、冬佳の手を強く振り払った。
「えぇ、えぇ……全て理解していますわ。ですが、あなたにあの方の何が分かりましょう? 何を理解してそのようなことを言っているのでしょう? 理解していないのはあなたの方です。例え全人類があの方を憎み、敵になったとしても、私は……私だけはあの方の味方なのです!!」
涙目にそう言い駆け出してゆく姫。彼女の決意はもう、説得などで止められるようなものではないのだ。
●
王宮を抜け出した私を待っていたのは、夢にまで見た冒険ではありませんでした。
勇者のような強さも、生き延びる為の知恵もない私は魔物からは逃げ、ボロボロになりながら何もない地をただただ彷徨っていました。
私が突然いなくなった王国は、きっと大騒ぎだったのでしょうね。
でも、彼と出会ったのはそんなときでした。
みすぼらしい姿をしている私を見るなり、彼は優しく手を差し伸べてくれました。
もしかしたら彼の気まぐれだったのかもしれません。
……それでも私は。
「さすが魔王様、しぶといですね」
魔王の強烈な一撃をなんとか受け止めつつ、ヨハンはそう呟いた。
イレギュラーズ三人とほぼ互角、それ以上に渡り合う魔王は競り合うヨハンを軽々と押し込み、同時に間合いを詰めてきたアリシアを拳で牽制する。
だが、的確に射抜いてくるジュルナットの援護射撃が魔王の腕や足、部位という部位に少しずつ傷をつけ、蓄積したダメージにより魔王は遂に膝をついた。
「我は、こんなところで倒れる訳には……」
「いいや、ここで終わりだ」
戦闘が激化していた為、誰もその接近に気付くことが出来なかったのだろう。
ずっと魔王を追いかけ続けていた、人類最強と言われる男。
「……面倒なことになったわね」
「ヤレヤレ、少し時間をかけすぎたカ……」
アリシアとジュルナットは苦い表情を浮かべながら声の方を振り返る。
できれば……、できれば彼がここに来てしまう前に片を付けてしまいたかったと。
「誰だかわからないけど、君達が足止めをしていてくれて助かったよ」
——勇者降臨。
聖剣に選ばれ、人類の希望が遂に魔王に追い付いたのだ。
「さて、決着をつけようか。姫は返してもらうよ」
再び立ち上がった魔王と対峙する勇者は、光り輝く聖剣をその鞘から抜くと、全てをその一撃に込めるべく力を溜めた。
だが、魔王も甘くはない。その隙を見逃す筈も……。
「……!」
「残念。チェックメイトです、魔王様」
勇者の攻撃を阻止しようと動いた魔王を、ヨハンは渾身の一振りで受け止めつつ呟いた。
やがて勇者の放つ渾身の一撃が魔王に迫る。
“ねえ、今度はあそこに行ってみましょうよ”
過去の記憶が蘇る。束の間の休息、見知らぬ娘との旅。
幸せな時間だった。魔王ということを忘れることが出来たから。
“ねえ、私と一緒に……”
彼女と過ごした時間は、夢のようなひと時だった。
これは、その報いなのだろう……。
「…………っ?!」
一同は何が起きたのか理解できなかった。まるで一瞬だけ時が止まったような、そんな静けさが辺りを包み込む。
「ええ……。きっと、これは報いなのでしょうね……」
想定しうる最悪の光景を、誰も受け入れることが出来なかったのだろう。
流れ落ちる真っ赤な鮮血、同時に崩れ落ちる姫の胸は、無惨にも勇者の剣で貫かれていた。
「姫様……? そんな、何故」
勇者もまた、目の前でおきた出来事を信じることができなかった。
姫様が魔王を庇い、そして自分がこの手で姫様を……。
「ぁ……ぁ…ぁ……」
だが、この状況を一番飲み込むことが出来なかったのは、崩れ落ちた姫を抱き上げた魔王だった。
彼は涙を流しながら姫を抱きしめる。
「ごめんなさい、こんなことに、なってしまって……」
姫はそんな魔王の頬を優しく触れながら微笑むと、最後の力を振り絞り、深い口づけを交わすのだった。
そして、姫の腕は力なくだらんと垂れると、魔王に抱かれたまま動かなくなる。
「……………………もう、良い。全て、消えてなくなってしまえば良い」
傍らで目を閉じた姫を優しく抱えながら、魔王は爆発させた怒りで大地を大きく震わせる。
なにもかも……全て、全て滅びてしまえば良い。
その生命を引き換えに、魔王は最大の禁忌を犯すのだ。
「……お前が居ない世界など、存在する価値すらない。もう、終わりだ……」
全てを終わらせる破滅の光が世界を包み込む。
もう、誰も魔王を止めることは出来ない。
成否
成功
NMコメント
初めましての人は初めまして、青銅の勇者と申します。
魔王と勇者のいる世界二作目、是非楽しんでいってくれたら幸いです。
●目標(?)
さらわれた姫を救出し、魔王を滅ぼす
●世界観
ゲームや物語度々に出てくる、勇者と魔王が存在する世界です。
この世界の人間と魔王も対立し、戦争していました。
●現在の状況
姫が暮らしていた大きな王国の外、広い街道を逸れた道なき荒野を魔王は逃亡中です。
また、勇者を含めた多数の騎士が馬を走らせ魔王を追っています。
●戦闘の可能性
このシナリオは、場合によっては戦闘になる可能性があります。
戦闘になる場合の敵情報は以下の通りです
・魔王
その世界最強の存在です。戦闘力は高水準で、本来イレギュラーズでもそこそこ苦戦する相手です。
しかし、彼は姫を傷つけることを相当嫌がっており、本気で戦闘することができません。
・勇者率いる王国騎士
この世界で特別な力を与えられた勇者と、王国所属の精鋭です。
勇者を除いた各個体の強さは低水準ですが、皆馬に乗っており機動力が高めです。
また、勇者の戦闘力は魔王程ではありませんが、攻撃魔法、補助魔法、移動系魔法と厄介な魔法を使います。
●その他伝達事項
境界人であるイヴは冒頭の説明を一切していませんが、それらの情報も事前に知っている前提で動いて構いません。
シナリオの詳しい情報は以上になります。
それでは異世界の冒険をお楽しみください。
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