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シナリオ詳細

十一月の小さな願い

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鉄帝国東北部にヴィーザル地方と呼ばれる広大な原野がある。
 荒々しく凍てつく峡湾、湿地と険しい岩山ばかりの高原地帯、そして雪深い針葉樹林。
 過酷な自然の中でも、人々は小さな村を点在させて生活を営んでいた。

「こりゃなんとも、いただけないねえ」
 男が大げさな身振りで肩をすくめる。
「どうすんだ、ヴェガルド。これじゃ冬が越せねえぞ」
「このまま攻めるか?」
 話が弾む中、突如ヴェガルドが剣を抜き放った。
「焦るなよ」
 おもむろに宙を払い、甲高い金属音と共にラーチの幹が穿たれる。
「ヒュー!」
「あっぶねえな。狙撃手が居やがる」

 のんびりとした口調で話す男達だが、体躯は屈強そのものだ。いずれも勇ましい鉄兜をかぶり、斧や剣を帯びている。
 戦闘民族ノルダインの戦士達であろう。あるいはヴァイキングとでも呼ぶほうが通りは良いだろうか。
 彼等は鉄帝国に抗いながら、近隣の村から略奪を繰り返している。


 鉄帝国とてただ手をこまねいている訳ではないが、貧しいヴィーザル地方の併呑には旨味がなく、なおざりな面は否めない。
 拡大政策は、あくまで国を富ませる為にあるからだ。
 鉄帝国は『力こそ全て』な指向はあれど、侵略国としては意外にも寛容な国体と言える。
 平等ではないが公平ではあった。そうでなければ斯様な維持発展を続けるは難しかろう。
 さりとて併呑というものは被侵略の当事者からすれば深刻な問題だ。
 故に帝国拡大が北東部へ及ばんとしたこと自体が、地域情勢に影響を与えた。
 少数部族達が短期間の群雄割拠を経て、力ある者を王と定め国家を名乗り始めたのだ。

『凍てつく峡湾を統べる獰猛な戦闘民族ノルダイン』
『雷神の末裔を称する誇り高き高地部族ハイエスタ』
『永久氷樹と共に生きる英知の獣人族シルヴァンス』

 やがて彼等は鉄帝国に対抗せんがため、一つの連合を結ぶに至る。
 その名は『連合王国ノーザン・キングス』。
 鉄帝国の覇に異を唱え、剣を取る者達である。


 ともあれこの地方では、こうした事情で小競り合いが延々と続いているのだ。
 男達の作戦目標は、この国境に佇む小砦を攻略することであった。
「おい。ずらかるぞ」
「あいよ」
 だが幾度か火矢を放っただけで、あっさりと撤退を決めたらしい。
 砦から降る矢を打ち払い、銃弾を弾き、男達は森の奥へと消えてゆく。
 実に乱暴な動きだが、統率自体はとれているようだ。

 このまま、どこへ向かうと言うのだろう。


「ノーザン・キングスって知ってるかい?」
 尋ねた『黒猫の』ショウ(p3n000005)にイレギュラーズは首を横に振る。
「そりゃそうか」

 ショウの説明によれば、鉄帝国の北東方面に住む少数部族達による連合であると言う。
 彼等は徒党を組み『連合王国ノーザン・キングス』を名乗りはじめたらしい。
「国とはね」
 ずいぶんと大きく出たものだ。

 一方。鉄帝国側では様々な思惑が錯綜していた。
 国家としては『併呑しても負担となる』『放置するにも国防の問題となる』痛し痒しな状況と言える。
 更に大方の軍人達は、この地域での戦闘をせいぜい『演習場』としか見なしていなかった。
 彼等の興味は泥臭い戦場よりも、もっと面白い相手である幻想や天義、そうでなくばラド・バウへ向かってしまう。
 業を煮やした領主は遂にローレットへの依頼を決めたのであった。

 背景はそんな所らしく、なんとなくだが話は分かった。
 それでイレギュラーズは何をすればよいのか。
 まさか国落としではあるまい。

「それでね」
 ノルダインの戦士『氷剣』ヴェガルドの部隊が、村の略奪を行っているらしい。
 彼等なりの事情で越冬に備えているようだが、される側としてはたまったものではなかろう。
「だからこの村で迎え撃って、追い返して欲しいのさ」
 ショウが鉄帝国から来たレポートを配る。
 資料によれば、敵はかなり強力な戦士達らしい。
 生死は不問だが、ヴェガルドという男は剣の腕もさることながら、生き汚い事にも定評があるようだ。

「この。一度砦に来たってのは?」
 村々の略奪を開始する前に、ヴェガルド達は鉄帝国の小さな砦に現れ、小競り合いが発生したようだ。
 理由は不明らしいが、彼等はすぐに撤退したと言う。
「ノーザン・キングス内で何かあるんじゃないかな」
 なにかと言うと。
「たとえば、そうだね。気に入らない命令や依頼を形だけやってやったとか」
 なるほど。
「ノーザン・キングスは国を名乗ってはいるけれど。ヴェガルドって人の王様(あおぐべきもの)は別なんじゃないかな。おそらくだけどね」

 その辺りをどうするか、どの程度関わるかはイレギュラーズ次第。
 興味があればといった所か。
 今後に関わりそうな話ではあるが、依頼内容には含まれない。

「それじゃあ頼んだよ。くれぐれも気をつけてね」


 険しい岩山に囲まれた僅かながらの平地に育つ草木は頼りない。
 北海に面した浜は、もうじき氷に覆われるだろう。

 女達は木樽の中に魚を詰め、天日に干した塩を撒く。繰り返し繰り返し、幾重にも層を作り続ける。冬の保存食だ。
 漁師達はこれを、今年最後の収穫だと決めていた。
 ライ麦の番人は猫に任せたまま、男達は投網の調子を確かめている。文字通りと言うべきか、意味は違えどと言うべきか、ともあれ命綱には違いない。
 こちらの銛は、もう駄目だろう。作り替えねばなるまい。

「ってな。そーんな村なんだとよ」
 船上の予習である。次のターゲットは決めていた。小さな村だ。
「どこも同じじゃねえか」
「ヴェガルドがはじめたぞ」
「クッセエ詩人だねえ」
 ドラゴンシップに乗った男達が笑う。品性など欠片もありはしないが、驚くほど快活であった。
 風は殆ど感じないが波は高い。そんな荒海を手こぎしながら、よくも談笑出来るものだ。

「で。オマエラはどうする?」
「おいおい。どうしちまったんだ、ヴェガルドの旦那」
「いやさ。聞いておきたくてな」
「決まってんだろ」
 奪い、殺す。全てを。
 男達に迷いはない。
「帝国じゃなんだ。ここんとこ流行ってんだろ。なんつったかな。クラース、スナ」
「幻想サンじゃアレだ。イレギュラーズ!」
 何が面白いというのか、男達が笑う。

 櫂をこぐヘイネンには身重の妻が居た。これまで流産死産を重ね、長男は二歳で死んだ。流行病だった。妻の歳を考えればこれが最後のチャンスだろう。
 後ろのエンリコは、先月から母が寝込んでいる。滋養をとらせようと羊を潰したが、一向に良くならない。蓄えでは冬が越せなくなったが潰したものは仕方が無く、ギラついた目で勲功を狙っていた。
 剣を眺める者も居る。風習か伝統か、銘はいずれもウルフバートと刻まれている。なかなかの業物だろう。

「なあに、オレ達ゃ。こうしてりゃそのうち戦乙女が連れてってくれるだろうさ」
「クラーなんたらより、お空の神殿より。ずーっと殴り合ってるほうが、なあ、よっぽどイカしてねえか?」
「違えネエ」

 それでもノルディアの大地は、きっと慈悲深いのだろう。
 闘争による間引きは、まだ人の手の内にあるのだから――

GMコメント

 pipiです。
 血と汗と鉄。バチバチの殴り合い。
 とにかくぶん殴ってやっつけましょう。

●目的
『必須目標』
 敵の撃退。生死不問。

『努力目標』
 なんらかの情報収集等。
 その他、したいことがあれば。

●ロケーション
 鉄帝国北東部、海沿いの魚村です。

 砂浜や船の停泊所、小さな家などが点在しています。
 広さや足場は十分です。

 敵は小船で現れ、一気に上陸して強襲してきます。
 いつ襲われるか等は不明です。

●敵
『氷剣』ヴェガルド
 屈強な北海の戦士です。とても強いです。
 至近単体攻撃、近距離列攻撃、中距離攻撃を持ちます。
 保有BSは凍結、氷結、弱点、ショック

『剣戦士』×4
 片手剣と盾の戦士です。
 至近単体攻撃中心で、攻撃能力とHP、防御技術に優れます。
 中距離攻撃も保有。

『斧戦士』×4
 片手斧と盾の戦士です。
 至近攻撃中心で、攻撃能力が非常に高く、HPもあります。
 近距離範囲攻撃も保有。

『弓戦士』×4
 遠距離、超遠距離主体の単体攻撃や貫通攻撃、範囲攻撃等を行います。
 保有BSは足止。

●同行NPC
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 両面型。剣魔双撃、シャドウオブテラー、ディスピリオド、格闘、物質透過を活性化しています。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 十一月の小さな願い完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年11月21日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
アラン・アークライト(p3p000365)
勇者の使命
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
久住・舞花(p3p005056)
月下美人
綺羅々 殺(p3p007786)
あくきつね

リプレイ


「ざっとこんなもんか?」
 張ったロープの調子を確かめながら、『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)が振り返る。
「うん、大丈夫」
 向こう側でロープの張りを確かめていた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が手を振った。
「ロープに砂でもかけとく?」
「見えにくいようにか? いいんじゃねェか」
「こっちは、こうだね」
 杭を打った『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が強度を確認していた。
 イレギュラーズは賊を撃退する準備を、手際よく着々と進めている。

 海の側は小さな入り江だった。
 申し訳程度の浜はあるがすぐに深くなる。船を留めるであろう場所はすぐに目星が付いた。
 進軍経路となりそうな木床の上に、アランはワックスを塗りつけてやる。
 効果の程は――蓋を開けてみなければ分からないが。罠の場所は既に仲間と共有しており、少なくともこちらは抜かりない。
 後はいざという時に、村人に避難してもらう必要があるだろう。やらなければならないことは多い。

 さて。賊共は略奪の為に、この村へ攻めてくるらしい。鉄帝国のこの辺りを治める領主からの依頼である。
 避難指示のため、村人の説得にあたっていた『月下美人』久住・舞花(p3p005056)は遠く海の向こうへ視線を送る。
 舞花の疑問は『鉄帝国からの情報が詳細すぎる』事にあった。
 襲撃場所に敵指揮官ヴェガルドの名――ヴェガルドか、彼らに砦を攻撃させた者辺りが帝国と裏で……というのは考え過ぎであろうか。
 事前情報として舞花達が得ている情報の中で、気になるのはヴェガルドが鉄帝の小砦を攻める素振りを見せたという点だ。
 彼等が越冬のための略奪を目論んでいるのは確かではあろうが、ならば砦へは何のために現れたのであろう。
 ――或いは、間引き目的で捨て駒にされるのを回避したとでも云うのか。
 はてさて。なにはともあれヴェガルドを捕らえることが真相への近道であろう。何とか話を聞き出したいところだ。

「ノーザンキングス……興味は尽きないね」
 難しい表情をしている舞花の隣で、ゼフィラが笑う。
 敵はこれまでこの世界ではお目に掛かったことのない文化を持つ集団である。学術的な意味でも興味があった。
 異世界風に述べればヴァイキングとハイランダーと、あとはサイバーパンクな動物が手を結んだといった所か。
 未知の勢力との接触とは心躍る話だ。
 まあ、今はローレットの一員として、何においてもまずは仕事を片付ける訳だが。

 別の疑念もある、『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は綺麗に磨かれた木板に腰掛けた。
 物置であったが、ここならば木の間から砂浜と海が見渡せる。ヘイゼル達が借り受けた『見張り組』の仕事場所だ。
「ここであれば一望できますね」
「ちょうど良さげなのです」
 評した『砂竜すら魅了するモノ』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)に、ヘイゼルが相づちを打つ。
 改めて海の方を観察すれば、草木の背は低くあちこちで岩肌が見えている。見るからに貧しい土地である。
 自然が過酷故に奪い合いが起る。それそのものはごく当たり前の光景だ。
 そうした人々がわざわざ纏まり、国まで作るとは。
 一体何が動き出そうとしているのだろうか。
 風の噂では鉄帝国首都スチールグラードで、大がかりな都市開発計画が立ち上がっているとも云う。
 いずれにせよ――事が起きれば今回のようにベークやヘイゼル達へオファーが来るのであろう。
 その時に興が乗ったならば、付き合う事になるのだろうか。

「あぁ、海……海洋、中々来れませんからね……いえここ鉄帝ですけど……」
 セルフで突っ込むベークであったが、なにせ海。やる気は十分だ。

「聞き届けていただけました」
 兜の打からくぐもった声で、『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)が促す。
「村長、どうぞこちらへ」
「すまんのう。イレギュラーズの皆様、どうかよろしくお願いしますじゃ」
 村長を引き連れたオリーブと舞花が戻ってきた。
「これは……なんですかな?」
 ヘイゼルやアラン達の手引きで提供された小屋は、なんというか、どえらいことになっている。
「これぞ様式は異世界で言う和風じゃ、これは譲れんかった」
 村人からはハンモックが提供されていたが、それでは鉄騎種以外には相当堪える。
 そこで『九尾の狐』綺羅々 殺(p3p007786)は、なんやかんやで快適そうな居住空間を準備していた。
「あー。そっちもいい感じだな」
 なんか、こう。あれ。神社っぽいというか茶室っぽいというか、そんな感じになっている。
「団子もあるぞ」
「おいしそう!」
 アルテナが反応した。
「どれ、茶を点ててやろう」
 どのみち殺達が『囮』となるのだ。ならば華やかで快適な空間にしても良いだろう。

 役目を終えたイレギュラーズ達が戻ってくる。
「首尾はどうじゃ」
「いい感じだ」
 問うた殺にアランが応える。
「大丈夫そうね」
 舞花は楔とロープの様子を確認して頷く。
 仮に罠や待ち伏せに勘づかれたとしても、それならそれで敵の動きも変わるだろう。
 どちらにしても迎撃はしやすくなる筈だ。

 それにしても――ベークは思う。ヴェガルドとは、ノーザンキングスとはいかほどのものであろうか。
 尋ねたベークに村長が応じた。
 話によるとヴェガルドは、ノルディアに近いこの辺りでは名の知れた戦士の一人らしい。
 村人達は襲撃を受けると聞いても、あっけらかんとしたものだった。お国柄であろうか。
 男衆はヴェガルドの名を聞き、銛を手に立ち上がったり怯えたり。ひとしきり互いに囃し立て合っていた。
 幾人かはイレギュラーズと共闘したいと申し出たのだが、屈強なだけが取り柄の村人達では職業戦士の集団には手も足も出まい。
 口に出した訳ではないが、足手まといは困る。

 ベークはいくらかの疑問を解消したかった。
「鉄帝国でなら、身を立てられるのでは?」
 素朴な疑問だ。賊に身を窶すような連中が、それほど腕が立つとは思えないのだ。
 それにしても国とは――名乗る以上、相手方にも余程の自信でもあるのだろうか。
「……望まんのでしょうな。呑まれるのは」
「と言いますと?」
「ヴェガルド程の剣士であれば良いでしょう。しかし強さが全てという我が国で、誰もが生きていけるとは限りますまい。私共も然り」
 ヴェガルドはおそらく、ノルディアで小さな村を背負っている人物なのであろう。彼一人が身を立てたところで、残された村人はただ腕利きの一人を失うことになるだけだと村長は言った。
 なるほど、それが相手方の事情という訳か。
「事情は分かるつもりですわ」
 鉄帝人の貴と貧を己が身で体験している『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、この田舎においてもある程度を察することが出来る。
「司祭様は……その十字はクラースナヤ・ズヴェズダーでいらっしゃいますな」
「ええ、ええ!」
 ヴァレーリヤの顔がほころぶ。
「さぞ、ご苦労されておるのでしょうな……このような国では」
 老人の声はどこか乾いて。
「さてでは、ワシはこれで」
「私達が絶対に守り抜きますわ!」
 敵方にも事情はあれど、
 村長はまるで、なにか眩しいもの――太陽でも見るかのように顔をくしゃくしゃに歪めた。
 無事に終えたなら、説法も悪くない。

 北の大地の日は早々に沈み、一行は赤々と揺れる火を囲んで暖かなシチューを頬張った。
 こうして――どこかキャンプめいた初日の張り込みが開始されたのである。


 イレギュラーズは二班に分かれている。
 各々は罠の調子を整え、食事をとり、休息し、見張りを継続していた。
 かれこれ三日目の夜だった。

 一班はヘイゼル、舞花、殺、アラン、アルテナ。
 こちらのチームは舞花と殺の超視力と暗視、ハイセンスが頼りになる。
 また寝ずの張り込みに滅法強いのは秘宝種の殺であった。
 休息すら不要であるが楽しむことは出来るというもの。あるいは不要こそ嗜好性の本質かもしれないが。
 さておき、殺による急ごしらえの茶室は退屈な任務にあたるイレギュラーズや、時に村人にとってもにとってなかなかの娯楽となっていた。
 無為に神経をすり減らしても致し方がないものだ。これはこれで良かろうもの。

 もう一班はベーク、ヴァレーリヤ、ゼフィラ、オリーブ――休息知らずの殺は今も元気に仲間の世話を焼いているが。
 こちらもヴァレーリヤの暗視の他、ゼフィラはファミリアーに命じて空からの偵察も請け負っており――
「見えた。船だよ」
 ゼフィラがファミリアーの視界から一隻のドラゴンシップを捕らえる。
「やっと来たのかの」
「こちらからはまだ見えませんわね。どの辺りにおりますの?」
「数分てところかな」
「すぐに知らせましょう」
 オリーブが休息班を起こす。

「来やがったか」
 顔に帽子を乗せていたアランが村人達に伝え。
「やっとですか」
「やれやれじゃな」
「参りましょう」
 オリーブに促されたヘイゼルと舞花が見張り小屋(和風!)へと駆ける。

 ――程なく。時は来たる。

「行きますわよ! 主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を――」
 突進するヴァレーリヤ、その鋼の拳が振り上げたメイスが赤々と燃え上がる。
「な、なんだぁ!?」
「――どうか我らを憐れみ給え……どっせええぇぇいッ!!」
 灼熱の濁流が敵陣を貫き、一気に燃え上がる。
「景気いいじゃねえか! 女坊主!」
「ぼ、坊主……ですけども!」

「こいつらぶっ殺して、さっさとやんぞ!」
 いきり立つ敵へ、アランが剣を抜き放つ。
「弱者から奪い、弱者を殺す……そんなこと、俺達が許すわけねェだろうが!」
「んだ小僧、てめえもやる気か!?」
「返り討ちだ。ぶちのめす!」
 燃えさかる敵陣へ飛び込んだアランが、構えた禍々しい大剣で地を抉り――刃の暴風が吹き荒れた。
 敵戦士の二名が血を吹き出す。
「さァ来いよ! 死にてェ奴から掛かって来い!」
「おもしれえ! やってやんよ!」
 アランの挑発に戦闘民族とも呼ばれるノルディアの戦士がいきり立ち、雄叫びをあげた。
 数名の戦士達が、先陣を切ったアランとヴァレーリヤに殺意を漲らせるが。

 感情を落としたオリーブはさながら戦闘兵器が如く、兜の向こうから覗く眼光は鋭い。
「……――ッ!」
 唸りを上げた長剣は敵陣に更なる痛打を強いた。
「ちィッ、こいつらタダ者じゃあねえ」
 並の相手ならこれで終わりだろう。だがノルディアの戦士達は立ち上がる。
「ほう……やはり強いね。私も戦闘は専門外とは言え、荒事には慣れてるのだが」
 戦場の中央にゼフィラが陣取る。そのの手に輝く禍々しい闇の月から、うねる瘴気が蛇のように敵陣を食い破った。
「おもしれえじゃねえか!」

(やだなぁ、賊ってお腹減らしてるんだろうな……)
 どこからか甘い香りが漂い。
「おい旨そうな匂いがしねえか?」
 小麦と餡と、これはたい焼き――ベークだ。
「アイツ、なんか持ってやがんのか?」
 数名がベークに殺到し、斧や剣を振り上げた。
「……此処は通しませんよ。ええ、僕は倒れません」

 かくして残る数名。
「俺達ゃお宝をいただくとしようぜ!」
 我先に飛び出し、数名が盛大に転ぶ。
「間抜けが! っと、なんだ姉ちゃん!?」
「北方の戦士は敵を前にして略奪に現を抜かすような間抜けでも腰抜けでもない……と思っていたけれど。違ったかしら?」
「言うねえ! 面白くなってきた!」
 舞花は僅かに腰を落とし、揺らめくように舞う切っ先がぴたりと制止する。
「気をつけろ。この姉ちゃん、強えェぞ」
 なるほど、力量は読めると見える。相手も戦士ということか。だが――好きにはさせない。

 そうして飛び出した最後の一人へ。
「愉快に強奪とは分かりやすくて痛快な奴らじゃの」
 嘯く殺のシニカルな冷笑。
「奪われる方は溜まった物ではないがの」
 殺は情報と敵の動作から、自信の攻撃を的確に当て続けるのは厳しいと分析していた。
 故に――
「チッ!」
 敵の斧使いが舌打ちする。
「こんの小娘」
「おおかた『殴り合ってる間に自分だけは奪おう』とでも考えておったのではないかえ? 先年早いのじゃ」
 自身にも余計な因子の排除は可能だ。
 殺は軽やかに身を翻し、斧使いの大ぶりの一撃は空を切る。

「おいおい、ひょっとしてオメエ等。ローレットのイレギュラーズか?」
 そんな戦場の向こうから、肩に剣を担いだ偉丈夫がゆっくりと歩み出た。
「氷剣ヴェガルドとは俺の事よ。サアやろうゼ!」

「……そんな大層な名前あんなら」
 アランが凶剣を下段に構え咆哮する。
「もっとマシな力の使い方しろやクソがァ!!」


 幾ばくかの時が流れ、しかし交戦は続いていた。

「負けてられないね!」
「こっちじゃよ」
 ゼフィラが放つ衝撃が戦士を吹き飛ばし、殺の妖刀が剣と火花を散らす。

 戦闘民族と称されるノルディアの戦士達はいずれも屈強で、歴戦のイレギュラーズとて押されるな場面もいくらかあった。
 とりわけヴェガルドの剣捌きは鋭く、大気に氷塵を散らせ輝く一撃は危険極まるものである。

 イレギュラーズは次々に傷を負い――しかし調和の煌めきが血に濡れたオリーブを包み込んだ。
「そろそろ後がないのですよ」
 泰然と言い放ったヘイゼルの言葉は、そんなイレギュラーズではなく敵へ向けたもの。
 次々に膝をつき、徐々に戦力を減らしていたのはヴェガルド達であったから。

 敵は罠と奇襲を全く予期しておらず、イレギュラーズは初撃のアドバンテージを奪うことに成功した。
 更に敵はイレギュラーズの戦力を見誤っており、合わせて僅か二十秒は殆ど一方的な奇襲と言っても差し支えない状況を生み出していた。
 おまけに彼等は略奪が目的で、死に物狂いでもない。深手を負えば後退する。
 強敵との戦いを好む習性、個の判断に頼った独特の統率。その全てが徒となっている格好だ。
 その一方でイレギュラーズは個の戦力もさるもので、ヘイゼルとヴァレーリヤが有する桁違いの回復力が戦線を維持し続けていた。
 そして舞花とヘイゼルに至っては未だかすり傷しか負っていない。こうなれば決着は最早時間の問題と言える。

 オリーブの長剣がヴェガルドの胸、鎖帷子を切り裂き赤い染みが広がる。
「やるねえ!」
 飛び退いたヴェガルドの背をアランが蹴りつけ。
「死ねやァ!」
 ヴェガルドは裂帛の一撃を転げるようにして、だが避けきれなかった。急所を狙う一撃が屈強な肩に深く食い込む。
「ッぶねっって!」
 更に踏み込んだ舞花の刃、その切っ先はヴェガルドの首に一筋の赤い線を残した。
「あいつら、っベエぞ。ヴェガルドが押されてやがる」
 尻餅をついた男の言葉で空気が変わった。

「兵を退きなさい、貴方の敵は鉄帝国でしょう!」
 ヴァレーリヤが叫ぶ。この状況ならば交渉の余地も生まれるだろう。
「こんな小さな村に戦略的な意味はないはず…どうしてこの村を襲いますの!?
 もうすぐ冬ですのよ。略奪なんてされたら…この村の人達、冬を越せなくなってしまいますわ!」
「そうは言ってもなあ、司祭のねーちゃん。それじゃ俺達が参っちまうんだわ」
 とうとう座り込んだヴェガルドが声を張り上げる。
「ならば、それを持って行きなさい」
「気持ちは、そのなんだ。ありがてえがな司祭の姉ちゃん。二十七人が一ヶ月半だ」
「承知しておりますわ、ですからクラースナヤ・ズヴェズダーの教会で待ちます」
「説教たれんのか?」
「配給ですわ。説法は付きますけれど。家族を失う悲しみなんて避けられる方が良いに決まっていますものね」
「……ほう」
 広がる動揺は、徐々に複雑な色を見せ始めた。

「ふむ、君たちの暮らしに興味があるね。よければ聞かせてくれないか?」
「暮らしって、なんだ藪から棒に」
「学術的な話だよ。報酬は払うぞ?」
「センセーかよ」
「報酬だってよ」
 ゼフィラの言葉に響めきが加速する。
「ふふっ、君たちが受け継いだ文化、伝承……それらに興味があるのさ」

 戦士達は毒気を抜かれたような顔でへたり込んでいた。
「でえ後は何が聞きてんだ」
「王の名は」
 オリーブが尋ねる。
 居場所、そこに至るまでの道、所有設備。聞きたいことは山ほどある。
「さすがにそりゃなあ……おい」
 兜の向こうで眼光を光らせたオリーブの隣にヘイゼルが歩み出た。
「この先のこの辺りの争いは鉄帝ではなくローレットがケツを持つ事になるでしょうから」
「ほう、そりゃそりゃ」
 ヴェガルドが姿勢を正した。
「話してしまった方が祭りが盛大になって良いのですよ?」
 一瞬の間。
「なあるほどね! いいぜ。ノルディアの……つうかノーザンキングスの大将は『いまんとこ』シグバルドだ。あいつは強えぞー」

「襲撃場所に指揮官の名前。帝国からの情報が詳細過ぎる。どう考えるのかしら」
 舞花が問う。
「あんたも腕っ節だけじゃねえな、姉ちゃんよ。わーったよ。テメェらを信用しよう」
「ヴェガルド!」
「そうするしかネェだろ」

 ヴェガルドはため息一つ。
「帝国と連んでるヤツが居るのさ。俺も詳しいところまでは分からねえさ。ハメられてる側だからよ」
 ひとしきり笑い、ヴェガルドは帝都スチールグラードで何かが始まろうとしていると続ける。
「気をつけな。軍人だぜ。たぶんだがな」

 掴んだ情報を、一行は――

成否

成功

MVP

久住・舞花(p3p005056)
月下美人

状態異常

なし

あとがき

依頼お疲れ様でした。

MVPは、なにやら不穏気な情報を引き出した方へ。

それでは、皆さんのまたのご参加を心待ちにしております。pipiでした。

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