PandoraPartyProject

シナリオ詳細

君に贈った最後の「あい」

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


『昔々ある所に、とても腕のいい人形師の男がいました。
 その男の作る人形は、見ているとなんだかとても優しい気分になる――そんな噂はみるみる広まり、あっという間に人気になりました。
 誕生日の子どもへ、遠くへ旅立つ友人への贈り物として、はたまた気の置けない話し相手として、癒しの元として、たくさん買われていきます。
 男は儲けを考えず、ただ喜んでもらえればいいと安値で人形を売り続けていました。
 その生活はどんどん苦しくなり、ついに病気になってしまいました。
 もう人形は作れない。そんな彼の手元には、彼が唯一売ることを拒み手元に置き続けた、一体の少女型人形がありました。
 やわらかなウェーブがかった長い金髪、伏せられた睫毛、フリルのついた淡いブルーのワンピース。
 男が初めて作り、長年かけて手入れをしていったこの人形は「アリス」と呼ばれていました――』

 木々が外に生い茂り、日の当たらない小屋の中。
「ごめんね、アリス。君も本当は、こんなおじさんが独り言を言うばかりの暗い工房じゃなく、笑い声が溢れて、大事に日に当ててくれる明るい家庭に行かせてあげればよかった」
 簡素なベッドに横たわり、やつれた手を人形の方へと伸ばす。
 いつも男が作業をする机の横、材料と工具が並ぶ棚の最上段。そこが彼女の定位置だった。
 もう起き上がることも出来ない男にとって、二度と触れることのできない人形。
「でも、僕は君を手放したくなかった。君が見守ってくれていると、僕はどこまでも頑張れる気がしたんだ」
 どんなに生活が苦しくても、そんなもの苦ではなく――ああ。
「そうか、僕は」
 気付いてしまった。こんな今際に、どうして。
 ひゅう、と息をする。呼吸が浅い。
 それでも、伝えねばならない。
「僕は君を、愛してるよ」

『男は、そう言うと死んでしまいました。
 もう二度と、目を開けることはありません。
 すると、人形は――ぱちり、と目を開けブルーのまんまるな瞳を見せます。
 そして、こう言いました。

 あいしてる、ってなぁに?』


「『愛』ってなんなのかしらね」
 手元の本に目を落としたまま、いつになく神妙な顔で零す案内人のシーニィ・ズィーニィ。
 淡いブルーのカバーがかかった本を閉じると、イレギュラーズへと向き直る。
「ある世界で有名な人形師が亡くなったの。彼の作る人形はとても精巧で、それだけじゃなく心が安らぐと人気だったみたい。ただ、彼は商売気がなさすぎて――最期は生活に困り、病に倒れたみたい」
 物を作る才能と、物を売る才能。その男は、あまりに前者に傾き過ぎていた。
 例えば彼に後者に秀でた友人がいれば結末はこうならなかっただろうが――それも今となっては、もしもの話にすぎない。
「それでね、彼の元を訪ねた知人が、彼の亡骸と共に不思議な人形を見つけたの」
 残されていた少女型の人形は、元は目を閉じていたはずがブルーの瞳を覗かせ、会話が可能になったのだという。
「その人形――アリス、って子は新しい引き取り手の元で家族の一員として暮らしているらしいのだけど、最近こう聞いてくるそうよ」

 愛ってなぁに、と。
 
「どうやら人形師の男が、アリスに対して言ったことらしくて――その意味を知りたいみたいね。喫茶店に連れてきてくれるそうだから、お茶でも飲みながら彼女にその意味を教えてあげてね」

 さて、あなたの「愛」とはなんでしょう?

NMコメント

・目標
アリスに「愛」の意味を伝えること

・アリス
30センチほどの少女型の人形。
人形師の男が息を引き取った後、自我が芽生えました。
自分で動けるわけではないので、引き取り先の一家が皆さんの元に連れてきました。
大人びた話し方をしますが、知能レベルはそう高くありません。
感情についても「そういうものがある」位なものでしょう。
どうやら朧気ながら、男の記憶はあるようです。

・舞台
レトロな喫茶店の一角で、テーブルを囲んで話をします。
引き取り手の一家は、話が終わった頃迎えに来るため同席しません。
この喫茶店はコーヒーも紅茶も、それに手作りのクッキーも絶品なようです。

・愛について
家族への愛、友人への愛、恋人への愛。
対象は人以外でも可。故郷への愛や食べ物への愛、いっそぱんつ愛でも構いません。
何かを愛するということ、それが自分をどんな気持ちにするか、どう自分が変わったか。
そんな思いを存分に語って頂ければ、きっとアリスにも何かが伝わるでしょう。

関係者や非参加者のPCさんについては直接の登場は出来ませんが、回想やその人を語る形での描写は可能です。
参照シナリオやSS、関係者スレッド等、記載して頂ければ参考にします。

シリアスでもほのぼのでもギャグでも、皆さんの「愛」を語って頂ければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。

  • 君に贈った最後の「あい」完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年11月15日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
桜坂 結乃(p3p004256)
ふんわりラプンツェル
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
虚無堕ち魔法少女

リプレイ

●あいすること
「今日アリスちゃんに会う場所、喫茶店なんだよね! パフェあるかな~♪」
 愛を教えるのが第一だけど、甘いものだって大事だもんね! と、暖かそうなセーターを着た『白い稲妻』シエラ・バレスティ(p3p000604)は足取り軽く先頭を行く。
「愛について知りたいなんて、変な人形ね」
そんなの簡単じゃないの、と『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)が首を傾げれば、頭のリボンがふわりと揺れた。
「愛……むずかしいお話、ですの」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は空中をふよふよと浮かびながら、手を頬に当てほう、と溜息を一つ。
そんな中、ただ一人何も話さないまま『ふんわりラプンツェル』桜坂 結乃(p3p004256)がふと立ち止まれば、三人は振り返りどうしたの? と問いかけ。
「ううん、ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
 ふるふると頭を振り、結乃が早歩きで追いつけば――辿り着いた喫茶店の窓から、老婆が手招きをしてみせた。

一番奥、窓側の席。そこに先客として座っていた老婆は微笑んで一礼すると、立ち上がって四人に座るよう手先で示す。そのテーブルの隅には、愛らしい金髪の少女型人形――アリスが微笑んでいた。
「こんにちは。ねぇ、君がアリス? 可愛い名前だね。ボクは結乃っていうんだよ」
 ソファーに座り、まずは挨拶から。胸の中にある『ヒト』としての知識で結乃が告げれば、三人も口々に挨拶を。笑顔で手を振るシエラに、ぺこりと頭を下げるノリア。メリーはメニューを開き既に注文モードだ。
「わたしはアリスよ。あなた達がわたしに『愛』を教えてくれるのね!」
アリスが挨拶を返せば、新しい引き取り手だという老婆はアリスに「後で迎えにくるからね」と告げ、店を後にしていった。

●自分への愛
「はーい、じゃあまずはあたしから」
 一番手に、と名乗りをあげたメリー。紅茶にたっぷりとミルクを注ぎ、ティースプーンでゆっくりと掻き混ぜる。
「あたしが語るのはは自分自身への愛、つまり『自己愛』についてね」
じこあい? と聞き返すアリス。メリーはミルクたっぷりの紅茶を一口飲み、カップをソーサーへと軽く音を立て戻すと――。

「あなたを作った人、人形師ね。その人が死んだのは自分への愛が足りなかったせいよ」

 目を丸くした三人が制するも、メリーは何処吹く風。アリスもその言葉の意味を理解せず、気にする様子もなく。
「あなたは自分を愛しているの?」
「そうよ、わたしは人形師と違うわ」
アリスの問いにはっきりと答え、メリーは語る。

――わたしはわたしが幸せであるために。
ママが怒った時、パパがおねだりを聞かない時には痛めつけた。
意地悪してきた男の子も、大人の男も、口うるさい先生だってね。
校長先生や町長さんだって、わたしの方が偉いって認めさせた。
警官の家族も、説教してきた近所のおじいさんの金木犀も、わたしのことをコソコソ嗅ぎまわってた記者や学者もボロボロに――そう、森で遊んでた時に襲ってきた熊も、都会に出かけた時に揉めたヤクザも返り討ちにしてきたわ!

 胸を張るメリーとその他三人の空気の差はさておき――アリスはただ「あなた、すごいのね」と感嘆する。
「自分を愛するっていうのは自分の幸せのために他の誰かを犠牲にできるってことよ――自分以外の誰かを愛する場合も、きっと同じ」
そうメリーが断言すれば、アリスは
「それじゃあ、自分で自分を犠牲にしたあの人は――誰か他の人を、愛していたのね」
 と呟いた。

●恋と愛
 何とも言えない空気の中、ホットココアのカップから手を離しノリアが切り出す。
「わたしには、愛が、こういうものだと言える自信は、ありませんけれど……恋なら、いくらでも、語れますの」
「恋? 愛と恋は、違うものなの?」
 アリスの疑問に、ノリアはええ、と目を細め語りだす。

「わたしにとっての、はじめての地上は、何もかもが、輝いているように、見えましたの」
 海の中で気ままに生きてきたノリアにとって、地上の人々は酷く眩しく、負けないように頑張らなければならない存在で――でも、その輝きの中、たった一つ、違って見える輝くものがあった。
「あの、太くて頼もしい牙、丸くて強靭そうなお腹、大きくて豪快な声……」
ぶははっ、と笑うその声や、強くて逞しくて、でも心地よいお腹の主を思いノリアは顔を赤らめる。けれど、それは彼女にとって幸せなばかりではなく。
「種族も、年齢も、住む場所も違って、釣り合いなんて、取れなくて。なのに、わたしだけを見てほしいと思ってしまう自分が、自分でおそろしくなって――そして、あるとき…わたしは、それが、恋なのだと、理解しましたの」

「……わたしだけを、見てほしい」
(誰かが『よし、素敵に出来上がった』って――嬉しそうな、声で。わたしじゃない、子を)
 まだ目が開かなかった頃、確かそんな声を聴いた気がしたような――そんな記憶を、アリスはふと思い出す。

「人形師さんの、アリスさんへの想いも、きっと、最初は、恋だったのだと、思いますの」
 でも、とノリアは続ける。
「いつまでも、恋は、していられませんの」
相手を自分だけのものにしたいという気持ち、眩しすぎて、自分ごときが近づいてはいけないという気持ち。この相反する気持ちに、決着をつけなければいけないから。
「きっと、そのための方法が、愛ですの。矛盾を含めて、何もかも、ありのままを肯定して、受け容れて、大切にすること」
 ノリアが愛おしむように、けれど真っ直ぐアリスを見て言えば。
「あなたはその人を愛しているし、その人から愛されているのね」

わたしはまだ、愛よりも、恋のほうがずっと、強いですけれど。
そう答えたノリアの顔は、真っ赤に染まっていた。

●パパの愛
 それじゃあ次は私だね、とスプーンを置いたシエラの前にはすっかり空のパフェの器が二つ。ナプキンで口元を拭えば、はつらつと話し出す。

「アリスちゃんを作った人──アリスちゃんのパパはアリスちゃんへの愛があった」
「そう、その愛がわたしにはわからないの」
 アリスの疑問に、うんうんと頷くシエラは優しく言葉を紡ぐ。
「愛って言うのは思い込み。人が誰かの気持ちを理解出来なくなった時に「好き」っていう気持ちを込めてしまった『思い込みの感情』なんだよ」
 アリスがこんな疑問を持つのは、『不安』な感情があるからだとシエラは言う。ふあん、かんじょう。そう繰り返すアリスは、少しづつ何かを探しているようで。
「アリスちゃんを手放さなかった最初のきっかけは分からない、可愛く作れたからとかその位かもしれない」
でもね、とシエラは続ける。首元の首輪に飾られた、青紫の石が埋め込まれたプレートに触れ――その『愛』を感じながら。
「前のアリスちゃんはパパに気持ちを伝えられなかった。それでも、一緒に過ごすだけでパパは力が沸いた」
それは愛の力――人形師がアリスに、好きという気持ちを込めていったから。
「愛の、力?」
「愛とか、好きっていう気持ちはすっごいんだよ!」
 ぎゅっとプレートを握りしめ、伝わるようにと力を貰う。
「アリスちゃんが愛を知りたくなった時から、パパの愛がアリスちゃんに伝わって完成に近づいた……こんな所かな」

「わたしが、愛を知りたくなったこと――あの人に、伝わったの?」
 アリスがシエラに問えば――きっとそうだよ! と、シエラはにこやかに笑ってみせた。

●人形たちの愛
「それじゃあ、最後はボク」
 それまでじっとアリスを見つめ、口数の少なかった結乃が口を開く。テーブルに置いた両手の、フリルのあしらわれた裾から覗いた手首の球体――それは、結乃が人間ではないことを表していた。
(人形職人の『マスター』の手元に置かれ、いつの間にか芽生えていた『ボク』)
金髪のクラシックドールの男の子。名前はなかったけれど、いつも頭を撫でてもらい、沢山話しかけてもらって――今は人なのか人形なのかわからないけれど、愛してくれたヒトの名前を貰い、その知識を貰って『ボクは今ここにいる』。

(ああ――この子とボクは、おんなじだね)
「ねえ、あなたもわたしと同じね」
「え?」
 聞き返す結乃に、アリスは「でしょう?」と声色を弾ませれば、結乃も笑ってみせ。
「あいって、なんだろうね」
「あら、あなたもわからないの?」
体に残るマスターの知識を漁っても、はっきりとした答えはなく。考えてもわからない。
「愛って誰かに対して抱くものだったり、抱かれたりするもの、らしいよ。例えば、君の目に映る誰か…。映っていた誰か。人じゃなくてもいい。動物や本とかでもいい」
結乃が言えば「私は目を閉じていたから」とアリス。

「それじゃあ、何か、君の心に残るものはある?『気が付かないうちに心の中にある、とても大事で暖かいもの』」
 それなら、とアリスが口を開いて――。

「声が、聞こえるの。アリス、って声が」
「ボクも同じ。マスターの笑顔と、声」
忘れてしまわないように、毎日毎日思い出しては記憶しなおすそれを、愛していたんだと思う。
「たくさん、いろんなものを見て、聞いて、感じればいい。そうしたらきっといつか芽生えてる」

 そう言って、結乃はアリスの手を取り――。

「それが君の愛、だよ。
素敵な愛を見つけてほしい。そしてマスターの事も覚えてあげててほしい。
きっと、マスターも喜ぶよ」

●愛すること
「わたしね、わかったの」
 アリスははっきりと口にする。
「わたしね、あの人を――そう、キャロルのことを愛していたわ」
 自分を呼ぶ声と、手入れをし、髪を梳かす手しか知らないけれど。
「そして、わたしは――すごく、愛されていたのね」

 ――帰り道。
「マスターも……喜ぶ、よね?」
「……パパに愛を生まれさせた物言わぬアリスちゃんこそが『愛』その物だったんだけどね」
 結乃とシエラの小さな声が、風に乗って流れていった。

成否

成功

状態異常

なし

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